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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


当日の手紙【前編】
●オープニング【0】
 アイドル歌手・片平レイ(かたひら・れい)がビルの屋上より飛び降りて自殺した。そのニュースが流れたのは、つい3日前のことだった。享年17歳。
 アイドルといっても、レイは人気がそうあるという訳でもなかった。ゆえに新聞での扱いは顔写真付きの小さな記事。写真でのレイは、ウェーブのかかった肩までの髪の、細見な少女に見えた。
 多くの者にとってそのまま流されようという事件、それを一部の者たちの記憶に留めさせたのはゴーストネットの掲示板に投稿された、レイの親友の物と思しき書き込みが原因だった。
『彼女が自殺するはずがないんです!
 今日彼女から届いた手紙には、オフには金沢に帰ってくるから遊ぼうって書いてあったのに……。
 それに手紙が書かれて投函された日付、どっちも自殺当日なんですよ?
 これから自殺する人間が、そんな手紙書いて投函するんですかっ?
 警察に話しても取り合ってくれないし……あたし、どうしたらいいんだろう』
 確かに妙な気はする。手紙の件が事実であるなら、自殺当日のレイの行動は奇妙だ。もっとも手紙を書いた時は自殺など考えてなくて、発作的に自殺した可能性もあるのだが。
 さて、どうしたものか――。

●ネットカフェで朝食を【1D】
「返事は……と」
 都内某所のインターネットカフェ。技術の発達とはたいした物で、このカフェには無線LANが引かれていた。ゆえに、機材さえ整っていれば、店内のどこに居ようがインターネットを利用出来るという訳だ。
 宮小路皇騎も愛用のノートパソコンで、朝の珈琲を片手にメールのチェックを行っている所であった。
(届いているな)
 メーラーの受信ボックスに、受信したメールの件名がいくつか表示された。自動的にフォルダを振り分けるよう設定しているので、ここに表示されている分はその分類から漏れた分であった。
 その中の1通に『お尋ねのことですが』という件名のメールが含まれていた。これこそが皇騎の待っていたメールであった。
 皇騎は件の書き込みを昨日見た直後、記されていたメールアドレスに詳細を尋ねるメールを送っていた。その返事が今朝になって届いたのである。
 さっそくそのメールを確認する皇騎。尋ねた事柄について、全てきちんと返事が記されていた。
 まずレイの人柄についてだが、よく言えば向上心のある、悪く言えば少し野心的な少女だったらしい。芸能界向きと言えないこともないだろう。
 それからレイは、親友である自分――つまりメールを返してきた少女、七尾美波(ななお・みなみ)のことだが――や他の親友に相談をしてきたり、悩みを打ち明けるということもなかったという。スカウトされて芸能界入りする時も、レイ1人でほぼ決めたのだそうだ。これもよく言えば自立している、悪く言えば秘密主義と言えるだろう。
 けれど、悪い人間だとか不良少女という訳ではなく、美波を含めレイと仲はよかったというから不思議だ。
 美波の元に送られてきた手紙も、文面に特に変わった所は見られなかったそうだ。文字もレイ自身の物で、変に字が震えていたりもせず普通だったということだ。
(別人が書いたという線は消えた、か)
 よくレイの文字を見ているはずの美波が言うことであるので、恐らくその通りなのだろう。また字が震えもせず普通であったことから、誰かに強制されて書いていたという線も薄い。人間、よほど肝が据わっていなければ、多少なりとも字が震えるだろうと考えられるからだ。
 ただ――変わった所というのかは分からないが、『近いうちに大きな仕事が入るかも』という一文があったそうである。それを見て美波は、レイの仕事が順調のようだと思っていたらしいのだが……結果はあの通りだ。
 最後に消印のことだが、場所は東京某所で、日付と時刻は事件当日の18時から24時に受付されたことを示していたということだった。ちなみにレイが飛び降りたのは、新聞等によると同日の23時40分頃らしい。
『どうか彼女が自殺したんじゃない証拠をつかんでください、お願いします』
 美波からのメールの最後は、そう締めくくられていた。その言葉を皇騎はしっかと胸に刻み込んだ。

●寝耳に水【2E】
 皇騎はメールを確認した後に、レイの所属していた芸能事務所『エル・プランニング』を訪れた。近頃のレイの様子を尋ねるために、である。
「片平レイのマネージャーをしておりました平田と申します」
 応接室に通された皇騎は、恰幅のいい男性に応対されていた。実家のコネを使って予め連絡しておいたせいだろう、事はスムーズに運んでいた。恐らくいきなり訪れていたなら、門前払いされていたかもしれない。
「本日はどのようなご用件なのでしょうか」
 やや緊張した面持ちの平田。こちらが何を尋ねてくるのか、探っているようにも見える。
「単刀直入にお伺いしますが、ここ最近のレイさんの様子はどうだったんでしょうか」
 皇騎は静かに口を開いた。
「いや……特に不審な様子も見られませんでしたが。自殺するような素振りもです、ええ。我々が気付かなかっただけかもしれませんがね」
 平田が自嘲気味に言った。しかし気付けなかったうんぬんを抜きにして、平田の言葉が事実ならばレイが自殺するようには思えない。
「そういえば、彼女が『近いうちに大きな仕事が入るかも』と親友に手紙で知らせていたようですが……」
 皇騎は美波から聞いたことを、平田にぶつけて反応を見た。だがその反応は意外な物だった。
「いえ? そんな予定ありませんよ? 何かの間違いではないでしょうか」
 さて、これはいったいどういうことなのだろうか――。

●パソコンの謎【2F】
 事務所を辞した皇騎はその足でレイの自宅マンションへ向かった。部屋に入らせてもらい、霊的に気になる痕跡がないか調べるためである。
 普通なら入ることは出来ないが、警察関係に手配したことと、事務所でも話を通したことによって、合鍵を手に入れて部屋に入ることに成功していた。
「質素だな……」
 室内は1LDKで、比較的シンプルな部屋であった。必要最低限の物しか置いていないというべきだろうか。
 室内に霊的に気になる部位は見当たらなかったが、別の意味で気になったのはパソコンだった。プリンタも接続されている。
(そういえば、遺書はワープロ書きだったはずだ)
 皇騎はふと飛び降りたビルの屋上に残されていたという遺書のことを思い出した。ひょっとするとこのパソコンで記したのかもしれない。皇騎は電源を入れ、レイに少し申し訳ないと思いながら、中身を調べてみることにした。
 コンピュータに精通した皇騎にしてみれば、中身を調べることなど容易いことである。ものの10分程度で全てのファイルを調べることが出来た。けれども自殺に結び付くようなファイルは見当たらず、暗号化されたりパスワードのかかったファイルも見当たらなかった。
 そして一番不思議なことなのだが、遺書の文面はパソコンの中には残されていなかった。まあプリンタに出力した後で削除したとも考えられるのだが……皇騎には何か腑に落ちなかった。

●狙われたのは【3C】
「どういうことだ……?」
 真名神慶悟は首を傾げながら、『第3深見ビル』の中より出てきた。
(あまりにも手がかりがなさ過ぎる。霊の存在は見られない、片平女史の痕跡も見当たらない。ないない尽くしだ……)
 それは異常とも思える状況であった。まるで意図的に消されているようでもあって。
(何者かが妨害しているのか?)
 慶悟は思わずそう疑ってしまった。
「どういうことだ……?」
 同じ頃、慶悟と同様の言葉をつぶやいていた者が近くに居た。宮小路皇騎である。
 皇騎はまずはビルの周辺で聞き込みを行っていた。レイの姿が目撃されていたり、不審な目撃がされていないか調べるためである。周辺での聞き込みを終えた後に、今度はビルの中で聞き込みを行うつもりであった。
 けれども結果は芳しくなく、レイの姿を目撃した者は見付からず、辛うじて分かったのは事件当夜に『何だか黒っぽい車が居たような気がする』ということくらいだった。しかし本人が自信なさげでうろ覚えだったこともあり、信憑性に疑問が残る情報であった。
 そしてやはり同じ頃、『第3深見ビル』目指して2人の女性が歩いていた。シュライン・エマとレイベル・ラブである。事件現場へ行く途中にばったり出くわして、そのまま一緒にやってきたという訳である。
 そしてシュラインとレイベルがビルのある通りへ出てきた時だ。2人の目の前を、黒い自動車が猛スピードで走り抜けた。
 自動車はビルへ向かう皇騎の横を通って、速度を落とすことなく走っていった。今まさに横断歩道を渡ろうとしていた思案中の慶悟目掛けて――。
「危ない!」
 思わず叫ぶシュライン。慶悟はぎりぎりの所で横っ跳びで自動車をかわした。速度を落とす素振りの見えない自動車は、たちまち小さくなってゆく。皇騎はポケットの中に入っていたデジタルカメラで咄嗟に自動車を写した後に、慶悟に駆け寄っていった。それに続き、シュラインとレイベルも慶悟に駆け寄る。
 被害はといえば、慶悟のスーツが少し汚れた程度で怪我等は全くなかった。だが、慶悟は怪我よりも酷い被害を受けたのかもしれない。
「狙われたのか?」
 レイベルがぼそっとつぶやいた。その可能性は、決して否定出来なかった……。

【当日の手紙【前編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0445 / 水無瀬・龍凰(みなせ・りゅうおう)
                    / 男 / 15 / 無職 】
【 0446 / 崗・鞠(おか・まり)
                    / 女 / 16 / 無職 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0606 / レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)
           / 女 / 20代? / ストリートドクター 】
【 0921 / 石和・夏菜(いさわ・かな)
                   / 女 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全21場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、あるアイドルの自殺事件にまつわるお話をお届けします。現時点で話は大きく3つに分かれていると思います。うち1つは金沢です。もう少し集約するかなと思ってたんですが、意外と範囲が広がりましたね。
・今回のお話ですが、あちこちにヒントをちりばめています。この依頼の成功条件を挙げるなら、レイの事件が自殺・他殺・事故の内の何であるかを確定させることです。ヒントを上手く活用して、証明させてみてください。
・ちなみに推理は苦手という方も大丈夫です。力技で解決させる方法もありますので。それはそれで成功条件となりますよ。
・時間の関係が分からなくなっているかもしれませんので、ここで整理しておきましょう。この前編本文を基準として、オープニングは本文の前日となります。事件が報道されたのは本文の4日前、そして事件が起きたのは本文の5日前となります。
・なお、後編は前編の翌日から開始することとなります。
・宮小路皇騎さん、12度目のご参加ありがとうございます。よく考えれば、通常の調査依頼ではこれが初めましてになりますね。コネを活用したのは正解でしょう。事務所に関しては、何かしらの手段を持っていなければ門前払いするつもりでしたので。いい所を突いてきていたので、比較的多くヒントが出ているかもしれませんね。レイの身辺は特に何もありませんでした。写真が上手く撮れたかどうかは、後編に判定持ち越しです。噂は本文の後で流しています。その結果、危険度が上がっていますのでご注意を。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。