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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


水際への問い

+オープニング+

『愛』ってなんですか?

問い掛ける幽霊が居る。
もし、この問いに答えられる者が居るのであれば
答えてあげてください。


そう、ゴーストネットへの掲示板に短く書き込まれた
書き込み……果たして本当に問い掛ける幽霊は
出てくるのだろうか?


+何故、と言う言葉+

何故ですか?
何故ですか?

こう書いて読む二つの言葉がある。
ひとつは「なぜですか」
問いかける、言葉……答えを求める言葉?
そして、もうひとつは。
「なにゆえですか」
結果からの回答を。
天に問いかける言葉の様な、その響き。

問いを許してもらえるのであれば、神様。

今一度だけ、問わせて欲しいのです。

「愛」とは、さて………『いずこから、生まれ出でる物なのですか?』

愛、という言葉には幅がありすぎる。
限定できかねる言葉よ。
一つで縛りかねる、言葉よ。

出来るのならば、今一度。
この問いに答える者の出現を。

神よ。
もし、貴方が居るのであれば御業をこの掌の上に。


+夜―6時半のニュースにて―+

「…あら、まただわ」
「え?」
「…ほら、最近多いでしょう殺人事件が……また一人女子高生の子が殺されたんですって」

夕飯の時刻。
ニュースを見て、呟いてしまう言葉。
多くなった、とは言うけれど呟く人たちはきっとそれが自分の身に降りかからないことだと
信じている―――と言うより、そう思っている。
だが、そう思っていても突如として均衡は破られてしまう物でもある。

鈴代・ゆゆは、家の人たちが「可哀相に」と呟くそのニュースを
ただ痛ましい思いで聞いていた。

後日――自分が、この死んだ人物に関わる事など夢にも思わずに。


+数日後―ネットの書き込み―+

「…問う幽霊かあ」

ゆゆは、花屋の娘である人物の横で一緒にネットを見ていた。
どうやら、問う幽霊と言うのが出ているらしい。
姿は様々で、少年であったり女性であったり、高校生くらいの姿であったりと
実に様々なのだけれどゆゆ達が見つけたのは、その中の一つ。
「女子高生の問いかけ」である。
十字架を持っている制服姿の少女が悲しげな表情で問うのだという。

曰く。
「愛とは何か?」と。

答えられない者が居ると、哀しげな表情は更に哀しげな顔へと変わり
言葉も無く立ち去っていくだけではあるのだけれど……その少女の姿は
とにかく幽霊とは思えないものほど可憐な姿で、それが更に噂の真相を
追及する人たちを駆り立てているらしい。

(……そういう追及したがるだけの人に、この幽霊さんの問いに答えて
欲しくないなあ……よし☆)

それなら、いっそのこと自分が探して答えを言ってみよう♪

哀しげな顔をずっとしていて欲しくないしと、ゆゆは問う幽霊探しをこっそりと開始した。

(ねえ、笑って?)

答えを求めて彷徨うだけなんて、哀しすぎるよ。


+時間は逆には回らない+

殺されてしまう、なんて。
そんなのテレビの中や雑誌の中の事だと思っていた。
自分には関係ないこと。
そう信じていたあの頃が懐かしくまた遠い。

時間は逆戻りにはならない。

それは痛いほど、もう解っている。

けれど、あまりにこの仕打ちは酷い物だと思ってはいけないだろうか。
やりたいことも。
行きたいところも。
思い描いていた未来さえ、手の内にあると思っていたのに。

神よ。
貴方が差し出す「愛」と私が今まで信じていた、あると望んでいた「愛」は同義だろうか?

少女は時間の無い、空間の中ただ問い続ける。
夢の中の言葉の様に。
言葉が彷徨う現の様に、ただ迷う。


+目を開けて+

『愛…私も勉強中だなぁ…』と笑いつつ、ゆゆは少女を探した。
幽霊が出るのは夜だけとは限らない。
結構昼にも出たりするものなのだ。

そして。

漸く、ゆゆは少女を見つけた。
教会の前にぼんやりと立っている俯いた姿は今にも本当に空気に溶けそうなほど弱い。

「こんにちは☆教会に入りたいの?」
『……ううん』

少女は弱く首を振る。
ゆゆは、困ったように首をかしげた。
さらさらと、淡い茶色の髪が音をたてて揺れた。

「じゃあなんで、ここに立っているの?」
『問うているのよ、神様に。愛ってなんですかって』

ふふ。
微笑う少女の声に悲しみは無い―――様に思えた。
けれど表情はその明るい声と裏腹なほど。

「愛かあ……神様でも言葉にするのは難しいかも…私も気になる人がいるけれど…
その人の事を考えた時に【会いたいな】とか【今何してるのかな】って思ったりして…
赤面してみたりとか…」

そう言いながら頬を赤らめるゆゆに少女は笑いかける。
なんだろう。
不思議なほど奇妙な感覚がある。
だが、ゆゆは言葉を一生懸命に伝えたくてこの先を続けた。

俯かないで。
今、私を見ているように前を見て、と言いたくて。

「愛っていうのも色々あって…恋愛だけじゃなくて友愛とか、親子愛とか…もっと大きくして博愛とか、
慈愛とか…。気持ちを向ける対象は違うけれど、どれも共通しているのは、どんな時でも、
どんなに遠くにいても、相手を大切に思うこと…思われていること…なんだと思うよ」
『そうね、私もそう信じていたの』
「今は?」
『今は…解らないわ。だって私、殺されてしまったんだもの。相手は見知らぬ人。
だけど、その人は刃を私に向けて―――刺したのよ躊躇い無く。いつも主は教えてくれたわ。
汝の隣人を愛せ、と。左の頬を打たれたら右の頬も差し出せと。でも……解らない……これでも
私は愛について信じる事が出来るのかしら…ううん、信じられるのかしら……?』

ゆゆは声を詰まらせた。
思う、以上に哀しい人。
愛とはなんだったかを知っていて問わなくては安らげなかった彼女に早く光を見せたい。
悩まなくてもいいの、不安だって信じきれなくたっておかしくない。
自分がそういう目にあってまで、信じきろうと足掻く事も無いの。
ねえ。
「愛」と「信」は少し、似ているんだよ?
ほら、どちらも傍目には解らないでしょう?
人の人を信じる心も、それに寄せる愛情も。
でも…だからこそ。

「私だって家の人達に大事にしてもらえなかったら、きっとすぐ枯れちゃう。
今はこうやって自分でうろうろしているけど…やっぱり帰るのはあのお家にだし…
そこに本物?の私がいて、大事にしてもらえているから今の私がここにいる。
こうやってあなたとお話ができたのだって、そのおかげ…だから今、とっても嬉しいの。
お友達にも会えたし」

「ね?」とゆゆは少女に微笑んだ。
少女は少しだけ戸惑いがちにどう言ったものかしら…と言う感じになりながら
『友達って私のこと?』と聞き返してきた。
「勿論☆」と、答えるゆゆに、一遍の嘘も迷いも無い。
少女はそれによって一つの事に気付く。

迷わずに、それを信じていた事が確かに自分にもあった事。
そして愛されていると解っていた事。

『…ありがとう…ねえ、そう言えば私貴方の名前まだ聞いてなかったわ……。
差し支えなければ教えてくれる?』
「うん、いいよ♪ゆゆ、だよ。鈴城・ゆゆ。お姉さんは?」
『私? 私の名前は……来生・智実。智の実って書いて「さとみ」と言うの。
…けど、忘れていい名前なのだから覚えていなくていいわ、ゆゆちゃん』
「え、でも覚えてるよ絶対に。だってお友達の名前だもの☆」
『…ありがとう』
「ううん♪ね、智実お姉さんにこれをあげる」
そう言ってゆゆは一輪の鈴蘭を差し出す。
何処にあっても幸福で居て欲しい。
ううん、沢山の幸福がやってきて欲しいと思うから。
『…鈴蘭?』
「そう。沢山の幸せがこれからのお姉さんにありますように」
『ふふ』

瞬間。
本当に鮮やかに智実は微笑むと、まるで其処に居たのは初めからゆゆだけだったかのように
空気の中へと―――溶けた。

差し出した鈴蘭だけが、風に乗って―――ふわりふわりと揺れる。
まるで天女の羽衣が空へと還るかの様に。


 
―End―

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10 / 鈴蘭の精】
【0332 / 九尾・桐伯 / 男 / 27 / バーテンダー】
【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】
【0818 / プリンキア・アルフヘイム / 女 / 35 / メイクアップアーティスト】
【0743 / 来生・千万来 / 男 / 18 / 高校生】
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、ライターの秋月です。
今回は「水際の問い」に参加して頂いて有難うございました!
今回、問う幽霊と言う事で特に1人に限定せず複数の幽霊が
出ています、よって今回も個別の文章となっておりますが
少しでも楽しんで頂けたら幸いです(^^)

鈴城さん、今回も参加有難うございました!
可愛くて、彼女の一生懸命な回答に私もぐっと力が入ったりして……。
鈴城さんが一生懸命だったからこそ少女の幽霊も最後は安心して
天へ行けたのだと思います。本当に有難うございます♪

では、また何処かで会えることを祈って。
*お返事等は、かなり遅くなりますけれど宜しければテラコン等からの
メールお待ちしております。