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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


恨み坂

オープニング 

一通の手紙に書いてある内容に眉をひそめた編集員はその手紙を
編集長である碇麗香の元に持って行った。
「編集長これなんですけど・・・ちょっと気になる事がありまして・・・」
「何?見せて御覧なさい」
そう言って、彼から手紙を受け取った麗香は素早く内容に目を通す。
「恨み坂ってご存知でしょうか?地元では結構有名で、肝試しのスポット
なのですが。何でも、昔この坂で多くの旅人が野盗に襲われて死んだ場所だとか
言うのです。事の真偽は分かりませんが、今でも多くの人が興味本位で訪れてい
る見たいです。俺の友人もその一人で、何人かと行ったのですが・・・
数日後、事故死しました。その時一緒に行った他の人達も死んだりしています。
死にはしなかった物の、大怪我で入院中の友人に話を聞いたのですが・・・
思い出したくないと話してくれません。この前にも、色んな噂はありましたが
今回のような事は有りませんでした。一体何が起こったのか分からないままです
が今でもこの場所は存在していますし、訪れる人も多く居るのは確かです」
その内容に、思わず眉をひそめた麗香。おずおずと編集員は疑問を口にする。
「調査してくれって・・・事ですよね・・・?」
「当然そう見るべきね。しかし、これはまた突飛ね・・・まあ、いいわ。
ちょっと君。これこのまま調べに行って頂戴。」
「えぇぇぇ!?俺ですか!?嫌ですよ、死にたくないですよ!」
「ごちゃごちゃ言わない!いいからさっさと行く!」
こうして、彼「長田 仁」は泣く泣くこの調査をする事になった。

1.長田君の憂鬱

東京駅午前9時五分前。長田仁は冴えない顔でタバコを吸っていた。取り立て
て、彼がいつも冴えている顔をして居るかと言えばそうでは無いが、今日は特に
冴えない。理由は単純明快。長田が、一番嫌だった調査を任されたのだ。
「はぁ・・・嫌だ・・・何でこんな事に・・・俺まだ死にたくないよ・・・」
愚痴っては居る物の、やはりクビには成りたくないのだろう、ちゃんと編集長指
定の場所に時間通り来ている。
「一人じゃないからマシだけど・・・この人ちゃんと役に立つのかな・・・?」
手に握られた、写真と資料。自分より幾分若いが、何処か落ち着いた雰囲気の青
年の写真を見て一人溜息をつく。
「お待たせしました。長田さんですね?初めまして、俺、灰野輝史と言います。
よろしくお願いします。」
突然の声に思わず振り向く。その視線の先には、写真と寸分違わぬ笑顔があった。

今回調査場所は、東京より車で一時間半の埼玉県の深那賀町に存在している。
車内で自己紹介をしていなかった事を思い出し、長田はハンドルを握りながら簡単
に自己紹介をする。
「自己紹介が遅れたね。俺は長田 仁。アトラスで編集員をしてる。」
「ええ。存じて居ます。アトラスの編集長である碇さんからの依頼ですから。
何でも、死者が出た心霊スポットを調査しに行くとか。本当にいつも聡明な方で
すね。碇編集長は。」
「そうだね・・・聡明だね・・・」
ややげんなりしながら、ぶっきら棒に答える長田。やりたくも無い仕事を押し付け
られて調査に行く長田にとって、碇は悪魔でしかない。
そんな様子を知ってか知らずか、灰野は続ける。
「長田さん一人では大変だろうと思われて、こうして俺を呼んだ訳ですから、部下
思いの優しい方なんですね。一度お会いしたいな〜」
『止めた方が良いと思うよ・・・君の将来の為にも・・・』
心の中で一人突っ込みを入れ、長田はアクセルを踏み込んだ。

2.深那賀町
埼玉県深那賀町はさほど大きな町ではない。取り立てて有名な物も無く、極有り触
れた町並みに二人はさして思う事も無かった。だが、「恨み坂」に関しては違った。
「あ〜あそこか〜。あんたら行くんかい?」
「ええ。ちょっと記事にしようと思いまして・・・場所、ご存知ですよね?」
深那賀町に着いてから、調査を開始した長田と灰野は「恨み坂」に関する情報を求め
て聞き込みをしていた。期待以上に反応がある為、簡単そうかと思えたがそうは行か
ない。理由は簡単、正確な場所を聞き出せずに居たのだ。多少の事は話しはしても、
場所に関しては誰もが口を閉ざした。余程の事があるのだろう・・・長田は不安にな
った。対する灰野は、あれこれと質問していたが、期待した程の答えを貰えずに居
た。何人目かの住人への質問、これも無駄に終わるかと思えたが・・・
「場所?知ってるよ。教えてやるけど、死んでも恨むなよ?俺は関係ないんだから。
恨むんなら、自分達の浅はかさを恨みなよ。」
返って来た答えに、思わず顔を見合わせる二人。不安一杯な顔の長田と、期待満面の
灰野。不思議そうな顔をして住人は二人を見詰めた。
「で?場所は、何処になるんですか?」
「こっから、三キロ位行ったとこにある「過賀深坂」ってのがそうだ。今じゃ隣町に
行くのに使ってる旧道だ。道幅が狭いし、滅多な事じゃ使わないけどな。夜は特に薄
気味悪くてな・・・まっ用心しな。」
それだけ言うと、住人は去っていく。
「どう思います、長田さん?」
「どうって・・・早く帰りたいね。住人は口を揃えて危険だと言うし、触らぬ神に祟
りなしとも言うしね。それが俺の感想。」
「いや・・・そうではなくてですね。何が原因と思います?」
問われた質問に眉根を潜めて長田は灰野を見詰めた。質問の意味が分からない・・・
そう顔が物語っている。
「ですから、「恨み坂」ですよ。だって、最近まで死人は出て無い訳でしょう?なの
に、住人の反応は皆死ぬ事を恐れてる。まるで前から死人が出てたみたいだ。最近な
らばと思って、工事とか再開発が行われたか聞いてみましたけど、そんな事も無いよ
うですし・・・俺の推測ですけど、以前からもうそう言う話だったんじゃないでしょ
うか?」
灰野の考えに唸る長田。当初、聞いて居た話とは確かに食い違いが出て来て居る。
「じゃあ、こうしよう。俺はこの手紙を出した人に会って来るよ。灰野君は、図書館
か何処かで郷土史を見て来てくれないか?きっと何かあると思う。」
長田の言葉に、灰野は静かに頷いた。

3.過去の記述
灰野は一人、町の図書館に居た。
「郷土資料・・・郷土資料・・・有った・・・ここか・・・」
町の図書館と言えど、書籍の量はかなり有る。しかし、管理が行き届いているのか以
外と簡単に郷土資料の棚は見つかった。それらしい物を何冊か抜き取り、閲覧場所に
持って行き中を見てみる。何処にでもある郷土の紹介や由来等を退屈しながら見て行
く灰野。「過賀深坂」についての記述も無い訳ではないのだが、如何せん内容が乏し
い。所詮は、何の変哲も無い坂の事なのだ、詳しく書いてある事が珍しいのかもしれ
ない・・・そうは思って見るものの、やはり気になるのか灰野は何冊も何冊も記述を
確かめて居た。
「ふぅ・・・15冊目終了。これにも大した事は載ってないな。」
些か疲れたのか、溜息混じりに愚痴が漏れる。元有った場所に本を戻しに行った時、
灰野の目に何かが止まった。郷土資料の棚に有る、昔話の本だった。ただ資料を漁る
のに疲れた事もあってか、灰野は何気なしに本を手に取り読みながら席へと戻る。
「恨み坂・・・恨み坂・・・!?あった!?」
目次の項目にその文字を発見し、灰野は被り付く様に本のページを開く。内容は、手
紙に書いてあったのとほぼ同じだが、大きく違う点が存在していた。
「殺されたのは・・・庄屋の娘・・・?しかも、農民の一揆の際の見せしめ?」
本の記述にあったのは、年貢の取立ての厳しい庄屋に対して、農民達が一揆を起こし
その際、娘をあの坂で見せしめとして殺害。それ以降、あの坂には娘の怨霊が出る、
と言った内容だった。手紙の内容と大きく違った話を見て、灰野は一人考え込む。
「この話が本当として、何故手紙にはその内容が書いてない?まるで事実が違う。」
本を元の位置に戻し、灰野は新聞を見に掛かる。先程の疑念は晴れた訳ではないが、
今考えても情報が少なすぎる、そう考えて更なる情報を求めての行動だった。
一月前の新聞から見始めていた灰野だが、すぐそれらしい記事を見つける事が出来た。
三面の極僅かな記事。事故の報道だったが、気になる一文がある。
『息を引き取る直前まで、運転して居た青年は赤い着物とぼやいて居た。』
「間違いない・・・昔話の方が本当だ。だけど何で?」
その時、携帯が静かに着信を促す振動をもたらした。

4.恨み坂
「全く・・・とんだ情報提供者だよ。引っ越して来て一ヶ月だって?冗談じゃないよ
こっちは真剣に相手してやってるって言うのに。」
「でもこれで謎は解けました。恐らく、怪異を引き起こしてるのはその庄屋の娘の霊
でしょう。ここ最近動きが活発になったのは、封印か供養塔等が壊れた所為でしょう
ね。」
灰野と長田は、合流して情報の交換をしながら急ぎ恨み坂に向かって居た。長田が接
触した情報提供者は、この町に越して来てまだ一ヶ月足らず、月刊アトラスの購読者
で「恨み坂」に関する情報は皆無だったのだ。たまたま来た町に心霊スポットがあり
、それをネタに取り上げて貰えないかと考えたらしい。
少し薄暗くなり始めた道路を一路、「過賀深坂」に向けて長田はアクセルを踏み込ん
だ。

鬱葱と茂った木々が不気味な威圧感をもたらして来る。「過賀深坂」は、住人が言う
より更に不気味さを感じさせた。
「郷土資料の写真によると、この辺に有るんですけど・・・」
灰野が指差す先は、茫々と茂った草叢だった。車のライトに照らされて居ようが居ま
いが、その封印らしき物は見当たらない。長田が、その草叢に近づき掛けたその時、
突然車のライトが消える。
「えっ!?俺何もして無いのに!?」
突然の事にあたふたしながら、車に戻る長田、その姿は見えてないのだろう。だが、
灰野の目にはしっかりとその姿が見て取れた。赤い着物と乱れた黒髪、口元から流れ
る赤い線は恐らく血の赤。目は恨みに燃え、爛々と輝いている。
「長田さん!車の中に居て下さい!急いで!」
「えっ!?わっわかった!」
灰野の声を受け、すぐさま車に潜り込む長田。それを見届けると、車に結界を掛け手
出し出来ない様にする。
「さて・・・貴女の御無念、俺には分りかねます。けれど、これ以上人を傷付けない
で頂きたいのですが、どうでしょう?」
緊張した面持ちのまま、赤い着物の霊を見詰め灰野は問い掛けて見る。しかし、霊は
聞いていないのか、聞く耳持たないのか灰野に向かって襲い掛かって来る。
「仕方ない。やはりやるしかありませんか。」
初撃をかわし、魔剣を生み出し次の攻撃に備える。凄まじい形相で迫り来る霊を、灰
野は魔剣の一薙ぎで牽制する。その牽制が効いたのか、相手を並の人間では無いと察
知したのだろう、霊は大きな動きをせず素早く灰野に攻撃を続けた。その素早い攻撃
に対応はする物の、僅かながら押されて行く灰野。
「くっ・・・このままだとまずいですね。何とかしないと・・・」
内心、浄化を専門とする者が居てくれる事を願っていた灰野にとって、この戦いは望
んだ物ではない。しかし、クライアントの命が掛かって居る以上、今負ける訳には行
かなかった。
一方の長田は、車の中でただ見ていた。霊の姿は見えないが、灰野が何かと戦ってい
るのは容易に想像できる。何故なら、時折灰野の体に傷が生まれて行くからである。
「まずいな〜だから嫌だって言ったのに〜。このままじゃ、灰野君やられちゃうよ。」
長田は無い知恵を絞って考えて居た。
「確か、あの辺りに何かあったんだよな?それさえ戻せば・・・」
ふと移した視線の先は草叢。長田は思い切って行動に移した。
霊の動きに翻弄されながら、必死に抵抗して居る灰野は長田の行動を見ている余裕は
無かった。だが、一瞬だけ霊の動きが変化したのを見逃す程灰野は未熟ではない。草
叢に移動しようとして居る長田を見て灰野は思わず叫んだ。
「長田さん!!逃げて!!」
一瞬の躊躇が、判断を鈍らせた。霊は一直線に、長田の元に向かって居る。急ぎ駆け
て長田の元に行こうとする灰野。だが、間に合わない!
「長田さん!!」
次の瞬間、長田の姿は消えた。背筋が凍る思いがした。クライアントを守れず死亡さ
せてしまったなどあっては成らないのだ。すかさず霊の方を見る。だが、そこにも長
田の姿は無い。
「長田さん!!大丈夫ですか!?」
灰野の問い掛けに、数瞬遅れて声が応える。
「大丈夫大丈夫〜いたた・・・へっへ〜見つけたよ、灰野君」
立ち上がり、嬉しそうに顔を出す長田。その顔に安堵の溜息を着き急ぎ長田の元に駆
ける。
「車の中に居て下さいって言ったじゃないですか!?何やってるんです!?」
「これを探したくてね。」
長田が指差す足元には、確かに大きな石碑が転がっていた。そして、その隅の一角が
何かにぶつけられたのか破損している。
「そうか・・・自分の為に立てられた鎮魂碑を、車がぶつかって倒したままだったの
か。それで、怒って出て来たと言う事ですね?」
霊の方を見やると、気付いた人間が居たのが初めてなのか、攻撃をやめ静かに見詰め
て居る。さっきまでの、恨みに満ちた目ではなく何処か寂しげな目だった。
「多分ね。興味本位の心霊マニアとかが来た時に、誤って倒したんじゃないかな?推
測の域を抜けないけど、十中八九そうだと思うよ。」
「じゃあ、これを戻せば大人しくなるでしょう?早速戻しましょう。」
意気込む灰野に、長田は静かに首を振る。
「破損が結構酷いんだ。亀裂が中ぐらいまで来てるみたい。ちゃんと新しいの建てて
供養し直して上げた方が良いね。」
「しかし、石だとまたかなり費用とか掛かるんじゃないですか?」
「別に石じゃなくても良いんじゃないかな?木とかでも、ちゃんと供養してあげれば
問題ないでしょ?こう言うのは形ではなくて気持ちでしょ?」
その言葉に、灰野は笑顔で頷く。見守って居た霊も、長田の言葉が聞こえたのだろう
静かに深く礼をすると消えて行った。
「長田さん・・・聞こえましたか?」
「えっ何が?」
「彼女・・・有難うって言ってましたよ。」
灰野は笑顔で、長田に霊からの言葉を告げた。

5.編集後記
月刊アトラス発売日、長田と灰野は、日差しの暖かな午後喫茶店にて落ち合った。
「読みましたよ。良く書けてるじゃないですか。俺の活躍が余り書いてないのがあれ
でしたけど。」
笑顔で冗談交じりに言う灰野の言葉に、少し照れながら長田は答える。
「有難う。苦労した甲斐があったよ。編集長に何回書き直し命令された事か。原稿が
出来たのだって入稿の1時間前で、ギリギリだったんだ。」
「それは大変でしたね。でも、結局謎のままなのは住人が必要以上に怖がって居た事
ですよね?」
釈然としないという風な感じで、灰野は疑問を口にする。長田とてそれは思っていた
が、敢えて口に出さずに居たのだ。
「多分あれじゃないかな?子供に怖い話し聞かせて、行かせない様にするってあれ。
その影響じゃないの?俺はそういう風に考えるようにしてるけど。」
「そうですかね・・・そうですね、多分そうなんでしょう。」
灰野もそう考えるようにしたのか、笑顔でコーヒーに口をつける。
「まっ、この前行って来たんだけど、ちゃんと供養塔も立ってたしお供え物もしてあ
ったし、彼女もこれで安心して眠れるんじゃないかな?」
そんな灰野の様子を見て、長田はゆっくりとコーヒーを掻き混ぜる。
「それにしても、長田さん。結構、この手の仕事合いますね。嫌がってた割りに、最
後は締めましたし。どうです?俺と一緒に組みます?」
その言葉に、口に含んで居たコーヒーを思いっきり噴出す長田。
「げほ!?ごほ!?何言ってるの!?俺はごめんだよ!?まだ死にたくないからね!」
慌てた長田の様子が面白いらしく、灰野はクスクスと笑っている。その時、長田の携
帯電話が鳴る。
「はい。あっ編集長。えっ!?またですか!?嫌ですよ!!だから、死にたくないで
すってば!?ちょっもしもし!?」
その様子に、灰野は静かに席を立ち足音が出ないよう出口に移動しようとした。だが、
その服を捕まえる者が居た。言わずと知れた、長田である。
「灰野君・・・助けて・・・」
「はぁ〜・・・分りました。分りましたから、取り敢えず手を離してください。」
まだまだ、長田の不運は続きそうである。

Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0996 /灰野・輝史 / 男 / 23 / 霊能ボディガード

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■         ライター通信          ■
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初めまして、凪 蒼真と申します。
この度は、初シナリオである「恨み坂」参加して頂いて
誠に有難う御座います。
初めてのシナリオという事で、人数が集まらず灰野さん
だけの参加に成っております。
人数が集まれば、もっと戦闘を増やそうかと思って居り
ましたが、流石に一人では厳しいのでこういう形に落ち
着かせました。
上手く表現出来ていれば良いのですが・・・(苦笑)
今後は、鋭意的に活動しようと思って居ります。
また見かけた際には、よろしくお願いします。
それでは、本当に有難う御座いました!