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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


当日の手紙【前編】
●オープニング【0】
 アイドル歌手・片平レイ(かたひら・れい)がビルの屋上より飛び降りて自殺した。そのニュースが流れたのは、つい3日前のことだった。享年17歳。
 アイドルといっても、レイは人気がそうあるという訳でもなかった。ゆえに新聞での扱いは顔写真付きの小さな記事。写真でのレイは、ウェーブのかかった肩までの髪の、細見な少女に見えた。
 多くの者にとってそのまま流されようという事件、それを一部の者たちの記憶に留めさせたのはゴーストネットの掲示板に投稿された、レイの親友の物と思しき書き込みが原因だった。
『彼女が自殺するはずがないんです!
 今日彼女から届いた手紙には、オフには金沢に帰ってくるから遊ぼうって書いてあったのに……。
 それに手紙が書かれて投函された日付、どっちも自殺当日なんですよ?
 これから自殺する人間が、そんな手紙書いて投函するんですかっ?
 警察に話しても取り合ってくれないし……あたし、どうしたらいいんだろう』
 確かに妙な気はする。手紙の件が事実であるなら、自殺当日のレイの行動は奇妙だ。もっとも手紙を書いた時は自殺など考えてなくて、発作的に自殺した可能性もあるのだが。
 さて、どうしたものか――。

●放っておけない【2A】
 金沢――現在放送中の大河ドラマの舞台としても有名な、東西の文化が交わる場所である。駅前東口側は北陸新幹線の建設もあり、駅舎等の工事が行われている真っ最中だ。
 その工事が行われている部分のすぐ隣にはバスターミナルがある。ここでは数多くのバスが発着していた。西口側にあるバスターミナルと合わせると、1日に発着するバスの数はかなりになるだろう。
 そのバスターミナルに、小松空港からやってきた1台の空港連絡バスが滑り込んできた。時刻は間もなく正午だった。
 旅行荷物を抱えた人々が降りた後、1組の少年少女がバスの中より姿を現した。1人は背の高いゴチック調の衣服に身を包んだ黒髪長髪の少女。もう1人は少女よりは若干背丈の低い、上下ともに革の衣服に身を包んだ燃えるように紅い髪の少年だ。
「だりーな」
 少年――水無瀬龍凰の開口一番の言葉がこれであった。道中よほど退屈だったのだろうか、両手を組んで大きく背伸びをしていた。
「飛行機よりも、バス乗ってる時間の方が長ェのはどーゆーこったよ」
 ぶつぶつと文句を言う龍凰。ちなみに、通常であれば羽田空港〜小松空港間の飛行機は約1時間、小松空港〜金沢駅間の空港連絡バスは約40分である。が、途中事故か何かで渋滞していたために、何と1時間半もかかってしまったのだった。龍凰が文句を言うのも当然だった。
「約束の時間には間に合ったのですから、別にいいでしょう」
 そう言って少女――崗鞠は龍凰に向かって薄い微笑みを浮かべた。
「だいたいなァ、金沢まで来る必要あったのかよ? 電話でも済む話じゃねーのか?」
「昨日連絡を取った所、直接お会いしてくださるというのですから。それに……放っておけません」
 そう言ってじっと龍凰を見つめる鞠。その瞳がやや憂いを帯びていたのは気のせいだったろうか。
「わーった、わーったよ。一緒に行くって!」
 鞠相手に言い争っても仕方ない、そう判断したのだろう。龍凰は大きな声で答えた。
(たく……放っておけねーのはお前だよ。何もねートコですぐコケるし)
 鞠に無言の視線を向け、龍凰は小さく溜息を吐いた。
 鞠と龍凰の2人は、朝一番で事件現場を訪れた後に羽田に向かい金沢へやってきた。というのも、先程鞠が言ったように件の書き込みを行ったレイの親友――七尾美波(ななお・みなみ)に連絡を取った所、直接会ってくれるというのでこうしてわざわざやってきたという訳だ。
 機内で鞠は事件のことが出た当日の各新聞に目を通していた。それによると、亡くなったのは今日から5日前の23時40分頃であり、屋上に脱ぎ揃えられた靴の下には、ワープロによる遺書があったということだ。警察はそれゆえに自殺と判断したのだろう。
「てか、俺たちが『檻』の外に出た理由、お前忘れてんじゃねーだろな……」
 じろりと鋭い目付きで鞠を見る龍凰。それに対し、鞠が静かに言葉をつぶやく。憂いを帯びた瞳で。
「……忘れていませんよ」
「アイツ探すのも忘れんなよ?」
 龍凰がそう鞠に釘を刺すと、鞠は小さく頷いた。
「で、これからどこ行くんだ」
「約束では香林坊にある喫茶店でということでしたけれど……」
 鞠がきょろきょろと周囲を見回した。香林坊を経由するバスは、頻繁に発車している。一番近いバスへ向かおうとする鞠だったが、何もない場所で見事に転んでいた……。

●物証【3D】
 金沢の中心部・香林坊。渋谷にあるのと同名のファッションビルの裏手に路地があり、その路地に面して喫茶店が1軒ある。そこが美波との待ち合わせ場所であった。
 鞠と龍凰がほぼ時間通りに店に入ると、中には1人しか客が居なかった。店の奥に、黒髪短髪の小柄な少女が座っている。恐らくは彼女が美波なのだろう。
「美波さん……?」
 鞠は確かめるように美波の名前をつぶやくと、小首を傾げて薄い笑みを浮かべた。
「あっ……そう、です……けど。お約束の方……ですか?」
「合ってるみてェだなァ」
 龍凰はちらりと鞠を見た。こくんと頷く鞠。間違いはないらしい。
 2人は美波と向かい合うように椅子に座った。
「本当に来てくれたんですね」
「約束でしたから……。親友を想う気持ち……私にもよく分かります。きっと、さぞかし心を痛めておられることでしょう。私でよろしければ何かお力になれればと思います」
 鞠はじっと美波の瞳を見つめ、静かに言った。
「ありがとうございます……」
 深々と頭を下げる美波。その目尻に、キラリと光る物が見られた。それから2人の飲み物を注文し、いよいよ本題に入ることとなった。
「……俺、あんましゲーノー界とか知らねーけど、周りの評判ってどうだったんだよ」
 不意に龍凰が口を開いた。
「普通の人間より特殊な立場にいる分、恨むだとかイジメだとかそう言うモンが多そうじゃねェ? 積もり積もって発作的にキレたとかじゃねーの?」
 龍凰は疑問を素直に口にしただけだったが、人によっては挑発的に聞こえたかもしれない。美波にはその挑発的に聞こえたようで、きっと龍凰を睨み付けた。
「そんなことありません! 周りの評判は分かりませんけど……積もり積もったからといって、自殺するような彼女じゃありません!」
 きっぱりと言い放つ美波。
「見てください、彼女の手紙を!」
 そう言って美波は鞄の中から封筒を2通取り出した。1通は件の手紙、もう1通はそれより以前に届いたレイからの手紙であるという。
 消印を見ると場所は東京某所で、日付と時刻は事件当日の18時から24時に受付されたことを示していた。死亡時刻と照らし合わせても、特に矛盾は見られない。
 手紙の本文を見せてもらったが、内容はまさしく親友に宛てた直筆の手紙であった。『近いうちに大きな仕事が入るかも』という一文が鞠には少し気にはなったけれど。
「ソレってホントにそいつ本人が書いたモンなのか?」
 口を挟む龍凰。美波は無言でもう1通の封筒から手紙を取り出した。そして件の手紙と並べて見せる。
「同じ文字でしょうね」
 文字を照らし合わせ、即座に鞠が言った。レイ本人が書いたのはほぼ間違いないと思われる。しかし――鞠には何かが引っかかっていた。

●襲撃未遂【4A】
 小1時間程度美波と言葉を交わした後、2人は美波と喫茶店の前で別れた。そして大通りへと向かおうとしたが、突然鞠が向きを変えて美波を追いかけた。その後を慌てて龍凰も追う。
「あの」
 路地の角を曲がり、別の路地へ入っていた美波を捕まえ、鞠はあることを確認しようとしていた。
「何ですか?」
「レイさんは……手紙はいつも直筆でしたのでしょうか。ワープロを使うようなことは……」
「いいえ。あたしに届いた手紙は、全部彼女の直筆でしたけど。パソコンは持っているはずですけど、手紙はやっぱり手書きがいいって彼女が」
(そんなレイさんが、遺書をワープロで書くのでしょうか……)
 手紙を見せてもらってから、鞠が引っかかっていたのはこのことであった。ただあまりにも微妙な事柄だったので、店を出るまでは上手くまとまらなかったのだ。
 鞠と美波がそんなやり取りをしている間に、ふと龍凰の姿が消えていた。それに気付いた刹那――路地の奥の方より、男性の悲鳴が聞こえてきた。
 鞠と美波がすぐに駆け付けると、そこには龍凰によって這いつくばわされている人相の悪い男の姿があった。そばには高熱で刀身が半分溶けたナイフが転がっていた。
「何で俺らを狙ってたか、きっちり話してもらおーかァ? シラ切るんならよー、その頭焼き尽くしてやってもいいぜェ?」
 目を大きく見開き、ニヤリと笑みを浮かべる龍凰。冗談で言っているのではない、本気である。
「わ、分かった! 話す、話すから止めてくれ!」
 龍凰の力を間近で見せられていた男は、慌てて自分の知っていることを話し始めた。
「そこの娘を、ちょいと脅かせって頼まれたんだよ……知らない男だ! 10万をポンッとくれたからよぉ……本当に脅かすだけのつもりだったんだ!」
(何者かが手を回したんでしょうか……)
 鞠は泣き叫ぶ男を、ただ冷ややかな表情で見下ろしていた。

【当日の手紙【前編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0445 / 水無瀬・龍凰(みなせ・りゅうおう)
                    / 男 / 15 / 無職 】
【 0446 / 崗・鞠(おか・まり)
                    / 女 / 16 / 無職 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0606 / レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)
           / 女 / 20代? / ストリートドクター 】
【 0921 / 石和・夏菜(いさわ・かな)
                   / 女 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全21場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、あるアイドルの自殺事件にまつわるお話をお届けします。現時点で話は大きく3つに分かれていると思います。うち1つは金沢です。もう少し集約するかなと思ってたんですが、意外と範囲が広がりましたね。
・今回のお話ですが、あちこちにヒントをちりばめています。この依頼の成功条件を挙げるなら、レイの事件が自殺・他殺・事故の内の何であるかを確定させることです。ヒントを上手く活用して、証明させてみてください。
・ちなみに推理は苦手という方も大丈夫です。力技で解決させる方法もありますので。それはそれで成功条件となりますよ。
・時間の関係が分からなくなっているかもしれませんので、ここで整理しておきましょう。この前編本文を基準として、オープニングは本文の前日となります。事件が報道されたのは本文の4日前、そして事件が起きたのは本文の5日前となります。
・なお、後編は前編の翌日から開始することとなります。
・水無瀬龍凰さん、上手く要所を突いてきたなという感がありました。手紙を疑うのはもっともですね。OMCイラストを参考にさせていただきました。イメージ通りに描けたかどうか、心配ではありますが。あと、東京へ戻るか金沢に居残るか、その判断はお任せします。事態は東京の方で動きつつあるようですが……?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。