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声失いし星(スター)・<解決編>
☆ オープニング
声を失ったスター、平賀真理。
彼女の所属する、プロダクションの社長、平川静穂から依頼があったのは朝。
草間興信所へとやってきて、彼女の持ってきた依頼は。
『真理が声を失った理由、それを調べて欲しいのです』
草間武彦は、シュライン・エマとプリンキア・アルフヘイムの二人に調査を依頼。
幽霊の司・幽屍も人知れず、彼女が声を失った原因の調査を開始した。
そして、夕方。武彦の元へと電話が鳴る。
「原因が分かったわ。どうも昔歌手だったトモミと言う霊が、真理さんの霊感の強さに引かれたのが原因でしょう」
プリンキアの残した精霊が持ってきた情報、昔ここでトモミという歌手が、上から落ちて着たステージバトンの下敷きになって死んだ事。
そして、現在の真理の声と、トモミの声が似ていた事。
全ての状況が、トモミが原因というのを結びつけるのに十分な状態を帯びている。
「今から、スタジオに行って、真理と霊を話し合わせてみる。でも二人じゃ不安だから、誰かに手伝って欲しい」
そう言うと、電話が切れた。
☆ トモミの記憶
「ねぇ、真理さん。 トモミという名前に、覚えは無い?」
シュラインは、真理が落ち着いてから、始めに切り出した言葉はこれだった。
(きっと……真理さんはトモミさんについて何かを知っているはず。そして、トモミさんがそのスタジオで死んだことも、知っているはず……)
そして、シュラインの予想は当たっていた。真理はシュラインの言葉を聴くと共に、その場に更なる沈黙が漂う。
「……知っているのね? 真理さん」
努めて優しく、真理の顔を見て話しかける。
シュラインの、その優しい雰囲気に、真理は紙とペンを取り、書き連ねる。
『トモミさんの事は、よく知っています。 お姉さんみたいな人で、私がここに入りたての頃に色々と教えてくれた人、だから……死んだなんて、思いたくなくて……』
更に真理は思いをどんどんと書き連ねていく。そこには、真理の、トモミに対する尊敬の念や、好きだった点……事細かく書かれていった。
そして、それを見て、シュラインはにっこりと微笑んで。
「貴方にとっての、お姉さんのような存在だったのね、トモミさんは……?」
真理は、嬉しそうに頷く。 彼女にとって、トモミとは先輩と後輩以上の感情が産まれていたのだろう、とシュラインは確信する。
そして、立ち上がって。
「真理さん、私達は今からスタジオに行くわ。トモミさんの霊に逢いに行くために。 真理さんも、一緒に来る?」
その言葉に、真理は強く頷いた。
☆ 大好きな面影
「真理さん、大丈夫?」
シュラインは、真理を連れてスタジオへと向かっていた。もちろん真理は一応変装をしている。
『……』
真理は、優しく笑う。どうやら大丈夫のようだ。
「そう……もし、何かあったら教えてね?」
と、シュラインは微笑み返した。
(プリンの話では、こんな心霊などの話に進んで行くような人じゃないって言ってたのに……本当に、トモミさんと逢いたいのね)
と思う。そして、沈黙を切り裂くように、真理に話しかける。
「真理さん……貴方には、トモミに何か言わなければならない事でもあるのかしら?」
そう話しかけると、真理は少し戸惑った後に、首を縦に振った。
「そう……聞かないけど、スタジオに行けば、きっとトモミさんと逢うことになるわ。 今度は、声だけではなく、命も奪われるかもしれないわよ。もちろん私が、全力で守るけど……覚悟は出来てる?」
その言葉に、真理は迷わず、首を強く縦に振る。
シュラインはそれに頷いた。
真理は、大好きな先輩のトモミの為……謝りたいことがあったから、真理は絶対にトモミに逢いたかったのだ。
タクシーは走り、スタジオへとどんどんと近づいていく。
突然、シュラインの電話が鳴る。発信元は草間興信所。
『シュラインか? 草間だが……』
興信所で他の仲間への協力を電話していた武彦だった。しかし、その声のトーンはとても低い。すぐに良くない知らせだと分かる。
「武彦さん。 誰か来れる事になったの?」
『いや……あいにく、皆今忙しいらしくてな。 仕方ないが、俺が今から向かおうと思うが……今、何処に居る?』
シュラインは、少し考えてから。
「……武彦さんは、来なくていいわ。危険だから……。 それよりも、平川さんに、トモミという名の歌手の事について聞いてほしいの。彼女の歌うはずだった新曲とか、ね」
『そうか……分かった……絶対に、無理をするなよ』
「ええ……草間さんもね」
電話が切れる。
「大丈夫よ……さぁ、着くわ」
真理に告げて、タクシーを降りた。
★ Studio・1〜射す影
時刻は既に真夜中。静まり返り、そしてとても寒い空気の流れるスタジオは、とても不気味な状況。
さすがに、真理は怖いようで、隣にいるシュラインにぴったりとくっついている。
「大丈夫。私がいるから……」
そう言いながら、先に進む。すると……目前に人影が見える。
シュラインは、真理を後ろに隠し、声を荒げる。
「貴方は誰! 姿を現しなさい!」
刹那、無言の状況になる。静かにその影は声を出す。
「私は、貴方の敵ではありません。 真理さんの声を取り戻す為に貴方達を影から見ていた者です」
その影は、司・幽屍。
和服の出で立ちの司に対し、シュラインは警戒を解かないまま話を聞く。
彼女がトモミという霊に呪われている旨、そして自分は呪いを解く者と言う。
始めは信じられなかったが、トモミという名前を出した時点で変わった。
「どうして……トモミという名前を知っているの?」
現在、トモミと真理が関連があると知るのは、今の所武彦と、プリンキアしか居ないはず。しかしその事をしっている彼。
司はシュライン達が入る前に起こった、彼女の状態を話す。勿論真理は怖がるが、司はフォローを入れながら話す。
そして、全て話し終えた時。
「……分かったわ、一緒にスタジオに行きましょう。 今は一人でも、手伝ってくれる人が必要だわ」
といって、シュラインは司と共に、トモミの眠るスタジオへと歩を進めていった。
★ Studio・2〜霊波動
スタジオ。
彼等が来ると共に、再び司達を強い力が吹きすさぶ。先程の力と全く同じだ
風ではない、何かの力がその場に居る者達を包む。霊が作り出す、霊波動だろう。司ははっきりと感じた。
強い力に、シュラインと真理は吹き飛ばされそうになる。咄嗟に司は二人の前に立ち塞がる。
「く、っ……皆、私の、後ろに下がって!」
司は大声で叫んだ。
霊波動は長時間続いた、が、次第にその力は弱まり始めていく。
「……今しかありません、早くスタジオへ入りましょう!」
司たちは、急いでスタジオへとながれ込む。
スタジオには、ステージ衣装を着た、寂しげな少女がぽつりと立っていた。
「トモミさん、ですか?」
司がその少女に話しかける。その刹那。
司に向けて、鋭い空気の刃が彼の頬を掠める。彼の頬に一筋の傷痕が出来る。
「落ち着いて……私達は、貴方を殺しに着たのではありません……っ!」
二度、三度と、鋭い空気の刃が司の服を裂き。次々と空気の刃が真理を狙う。
「危ない、っ!!」
シュラインが、真理を後ろにして抱きしめる。首から掛けた眼鏡が、空気の刃によって落ちる。
次々と放たれる空気の刃には、二人ただ防御をするしかなかった。
『……や……め……て……』
誰が、予測しただろうか。
『お願い……お願いだから、止めてっ!!』
スタジオに、真理の声が大きく響いた。
★ Studio・3〜説得
突如響いた、真理の声。
その場に居る誰もが、動きを止める。声を失っているはずの真理が、声を出したのだから。
『トモミ先輩……先輩、もう、もう……止めて……私、私……先輩に憧れて、この世界に入ったのに……なのに……こんな先輩、私が大好きな先輩じゃ…無いよぉ……』
声を出して、真理はその場に泣き崩れる。トモミの攻撃は止んでいた。
シュラインがトモミの霊に対して語りかける。
「トモミさん……良く聞いて。 真理さんは、貴方との思い出を私に教えてくれる時、本当に嬉しそうだったわ。きっと貴方の事、大好きなのよ。そして、彼女は貴方が死んだと言う事を、信じたくなくて……貴方に言いたい事があって、ここに来ることを選んだのよ」
トモミの霊は、黙ったままだった。続けて司が。
「……貴方は、この世の中に、心残りの事があるのでしょう? 心残りが拭えないから、このスタジオから離れられない。強く願えば願う程、更に離れられないのですから」
「トモミさん、何が心残りなの? ……私達に出来る事なら、実現に向けて努力するわよ?」
二人の言葉。トモミは、静かに語りかける。
『……私ノ、歌……死ンダカラ……誰ニモ……キイテモラエナイ……ソンナノ、嫌……』
(……やっぱり、発売中止になったトモミさんのCDだったのね……)
『……アノ、歌……イッパイ……伝エタカッタ……ナノニ……死ンダカラッテ……』
その後も、ぽろぽろとトモミから話される、発売中止になった歌についての思い。
彼女が歌に込めた思い。それが、どれほど大きいものであったか、を示していた。
そして、話し終わると共に。シュラインが口を開く。
「……伝えたかった事があるのね……貴方の、発売中止になった歌に。 でも……トモミさん、真理の声を奪えば、彼女だって、貴方と同じような事になってしまうのよ? 貴方は、それを望んだの?」
トモミは答えない。いや、答えられなかった。
彼女だって、真理が自分のことを慕っているのは気付いていた。そんな自分を慕ってくれた彼女を、自分自身が苦しめたのだと気付いて。
「……トモミさん。 貴方が望むなら、真理さんの歌と共に、貴方の歌を入れて貰えるように、静穂さんに頼んであげる。 貴方の声は、CDとなって、ずっと残るわ。真理さんと一緒に、ね」
『……ホン……トウニ?』
トモミの言葉に、真理は頷く。
『絶対に……先輩の歌を、入れるようにお願いしますから……だって……先輩は、私の心の中でずっとずっと生きていますから……」
真理が言うのを聞き。トモミは今までの声と違う声で。
『……分かった、わ……真理が言うのなら……信じる。 貴方……嘘はつけなかったものね。付いても、すぐ眼に出る……今は、それが出てないから……本気なのね』
くすりと笑ったような気がする。そして……。
『……真理への、呪いは止める。 ……彼女の事、私は遠くから、ずっと見守っているから……。真理、私は、いつも貴方と一緒よ』
そう言い残し、トモミの霊はその場より消え去った。
★ 終章・トモミの歌を……!
次の日、シュライン達は真理と共に平川の元へ向かった。
もちろん、目的はただ一つ。 昨夜のトモミとの霊との約束。
【トモミが出すはずだった歌を、真理の歌と共に出してもらう事】
それだけだった。
それで、彼女は浮かばれるのだから。それで、彼女は満足するのだから。
『私の先輩、トモミ先輩の歌のマスターテープ、持っているのでしょう? それを私の歌と共に、CDにして発売してほしいの……静穂社長、お願い……それで、どんな事になっても、私は構わないから! だから、だから……お願い」
真理は、静穂に向けて真摯に訴える。彼女にとって、これを実現する事は、大好きだった先輩への、たった唯一の恩返しと信じて。
「私からもお願いするわ。トモミさんは、歌った歌に自分の気持ちを全て込めて歌った。だけどそれが、お蔵入りになったものだから、怒って真理さんの声を奪ったのよ。彼女は、聞いてほしかったのよ、歌を、大好きなファンの皆に。そして、、きっと……真理さんの為にも、ね」
「トモミさんは、心優しい方です。決して誰かを巻き込もうなんて考えていない……歌を出すことで、他の人が呪われたりすることは絶対にありません。私が保証します」
真理、シュライン、司の言葉を聞き、最初は渋っていた静穂。
暫く考えた後……。
『……分かったわ。 マスターテープも残っているから、彼女の声そのままをCDに入れるわ。トモミ……いや、柳・朋見の、最後のシングルとしてね」
そして、後日。
真理のCDに、トモミの歌がカップリングになって販売された。
トモミの最後の曲が入った、そのCDの売れ行きは上々。初めて彼女達のシングルはトップになった。
真理は二人と別れる際に、こう言った。
『本当に、ありがとうございました。 私……私の中に、トモミさんも一緒に居ると思って、これから頑張ります。 なんだか、そんな気がするんです……先輩の暖かさ、そして先輩の優しさが、私の中で息づいていると……』
テレビの歌番組。
『では、続いての歌は、CDランキング1位になった、MARIAさんの【Become a dreamer】です、どうぞっ!』
テレビの中で、生き生きとしていた真理の姿がそこにはあった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【 0086 / シュライン・エマ / 女 /26歳 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0790 / 司・幽屍 / 男 / 50歳 / 幽霊 】
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■ ライター通信 ■
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どうも、今回で最後、新人ライターの燕です。
お待たせいたしました、声失いし星(スター)完結編をお届けいたします。
結果は、成功ですね、純粋に攻撃するだけ、という方が居たら失敗に終わらせる事も考えていましたが、
参加していただいた両名共に、その方向では無かったので私も助かりました。(汗)
主軸の題材は1つ、トリビュートソングでした。最近そういう歌が増えてきていると思いましたので、題材に、と。
真理の今後については、誰も居ない街のシナリオに登場する予定です。
(もしかしたら、草間興信所で再び出てくるかもしれませんが……)
尚、このシナリオに参加した方は、私の執筆するリプレイにおいては真理とすぐ連絡をつけることが出来る事とします。
今回、少し悲しめの話でしたが、皆様の目にはどう映りましたでしょうか?
ご感想等、聞かせてくれると幸いと思います。
では、またいつか、どこかでお逢いしましょう……。
>シュライン様
続けて参加していただき、どうもありがとうございます。
今回は、あまり武彦さんが出ていないのは、申し訳ありません。
隣の部屋なのに、今まで影響が出なかったのは、トモミの霊がその土地に縛られている、土着霊であったからです。
基本的にある一定の場所に縛り付けられた土着霊は、その場所より動くことが出来ない為、不思議な状況と見えたのかもしれませんね。
予測に関しては、ほぼ正解です。トモミの出す予定だった歌を、真理が歌うことになり、それを恨んだトモミが真理の声を奪うことで、歌を取り上げようとしたという設定がありました。
歌には、歌手それぞれののメッセージがある、私も、そう思います。
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