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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


当日の手紙【前編】
●オープニング【0】
 アイドル歌手・片平レイ(かたひら・れい)がビルの屋上より飛び降りて自殺した。そのニュースが流れたのは、つい3日前のことだった。享年17歳。
 アイドルといっても、レイは人気がそうあるという訳でもなかった。ゆえに新聞での扱いは顔写真付きの小さな記事。写真でのレイは、ウェーブのかかった肩までの髪の、細見な少女に見えた。
 多くの者にとってそのまま流されようという事件、それを一部の者たちの記憶に留めさせたのはゴーストネットの掲示板に投稿された、レイの親友の物と思しき書き込みが原因だった。
『彼女が自殺するはずがないんです!
 今日彼女から届いた手紙には、オフには金沢に帰ってくるから遊ぼうって書いてあったのに……。
 それに手紙が書かれて投函された日付、どっちも自殺当日なんですよ?
 これから自殺する人間が、そんな手紙書いて投函するんですかっ?
 警察に話しても取り合ってくれないし……あたし、どうしたらいいんだろう』
 確かに妙な気はする。手紙の件が事実であるなら、自殺当日のレイの行動は奇妙だ。もっとも手紙を書いた時は自殺など考えてなくて、発作的に自殺した可能性もあるのだが。
 さて、どうしたものか――。

●密かな指令【3B】
「うんとね……夏菜、おかしいと思うの」
 小柄で快活そうな黒髪ポニーテールの少女、石和夏菜はクリームソーダのクリームを食べながら何の脈絡もなしにそう言い放った。
「……はい?」
 そう言われて怪訝な表情を浮かべたのは、夏菜の目の前に居た茶髪の少年、守崎北斗だった。ちなみにこの2人、幼馴染みである。
 夏菜と北斗が居るのは喫茶『スノーミスト』。北斗が夏菜に誘い出されてきてみたら、唐突にそう言われたのだった。
「北ちゃん、あのね……」
 事情を説明する夏菜。とある掲示板にかくかくしかじかという書き込みがあったこと、それを書き込んだのが5日前に飛び下り自殺したアイドルの親友であったこと、エトセトラエトセトラ。北斗はいちいち頷きながら、その説明に耳を傾けていた。
「死ぬ人は遊びのお約束、しないよね?」
「そりゃあまあな」
「だから、女の子に手紙を見せてもらうの」
「……ちょっと待て」
 じとーっと夏菜を見つめる北斗。夏菜は北斗の視線の意味が分からず、きょとんとしていた。
「金沢へ行く気かよ?」
「え? ううん、そうじゃなくって。消印を見たいの」
 ようやく北斗の視線の意味が分かり、夏菜が先程の言葉に補足をした。
「消印を見ると、投函時間分かるよね。どの程度自殺するまでに時間かかってたか、確かめたいの。少なくとも、ポストから収集された時間が分かるよね? そうしたらお手紙書いた時間が、ある程度割り出せるの」
 なるほど、夏菜もそれなりに考えてはいるようである。もし投函された時間と、死亡した時間に矛盾が生じていれば、事件を最初から調べ直す必要が出てくるだろう。
「で、どうやって調べるんだよ」
「大丈夫なの! メールを送ってみれば、万事解決なの♪」
 夏菜は北斗の質問に答えると、携帯電話を取り出して一心不乱にメールを打ち出した。件の書き込みをしたレイの親友、七尾美波(ななお・みなみ)にメールを送っているのだろう。北斗はその様子を無言で見つめていた。
「送ったの。後は返事が来るのを待つだけなの」
 夏菜がにこっと屈託のない笑顔を北斗に向けた。
「そっか。返事、来るといいな」
 北斗は素っ気無く答えると、少し冷めた珈琲に口をつけた。
「メールを送ったら、後はレイちゃんが出てた番組のことを調査なの」
「……何て番組だよ」
「『M・Q』って音楽バラエティ番組だよ。ちょうど今日、その公開収録があるの。先着順だから、もうすぐ行かないと……あ、北ちゃんも一緒に行く?」
「俺、パス」
 さらっと答える北斗。夏菜が少し頬を膨らませた。
「……いいもん、1人で番組内の雰囲気とか見てくるもん」
「そりゃいいけど、何でそのアイドル……レイっていったっけ? レイがその番組に出てたって分かるんだよ」
 北斗が疑問を口にした。
「1ヶ月前に、たまたまテレビで見たの。レイちゃんの他に後2人アイドルが出てて、それからもう1人……ユウちゃんが出てたと思うの。レギュラーなのかな?」
「ユウちゃん? まさか『21世紀の歌姫』なんて言われてる、葛西ユウのことか?」
 北斗が尋ね返すと、夏菜はこくんと頷いた。葛西ユウ(かさい・ゆう)――『21世紀の歌姫』と呼ばれる、今一番売れている歌手である。
「おい、だとすりゃ、早く行った方がいいんじゃねえ。そんなのがレギュラーだと、競争率激しいぞ」
「あっ! そうだよね、行ってくるね!」
 北斗にそう指摘され、夏菜は即座に席を立つと荷物を手に店を出ていった。北斗はその後姿を見送った後に、小さく溜息を吐いた。
「俺も行かなきゃな……夏菜のボディーガードをやんなきゃなんねえからな」
 実は――夏菜が『M・Q』を見に行こうとしていることは、北斗は夏菜の兄である水城司から昨夜のうちに聞いていた。そこで北斗は司より夏菜のボディーガードを頼まれたのであった。
(出来なきゃ説教が待ってるしよ)
 再び溜息を吐く北斗。これから北斗は、先回りしてテレビ局へ向かわなければならなかった……。

●裏方さんいらっしゃい【4C】
 さてテレビ局に先回りした北斗は、『M・Q』のスタジオ内に居た。といっても観客としてではない。バイトのADとしてだ。昨夜のうちに可能な限りの伝手を頼って、北斗は何とかバイトとして潜り込むことに成功していた。
(やれやれ。一時はどうなるかと思ったぜ)
 北斗は額の汗を拭った。夏菜と会っても簡単にはばれないよう、帽子を深めに被っていたのだ。スタジオ内は照明もあるために、正直暑かった。
 スタジオにはまだ観客は入っていない。リハーサルの最中だからだ。
 『M・Q』の司会は中堅男性タレントで、レギュラーゲストとしてユウが、それとは別に3人の歌手をゲストとして迎えるという物だった。
 番組内容はトーク中心で、ゲストの選ぶベストソングを歌ったり、ゲストの新曲を歌ったりといった物だ。リハーサルの内容は当然ながら歌中心となる。
 リハーサルも終わり若干の休憩となった時、北斗は目をつけていた他のADの青年に話しかけることにした。それというのも、一番喋るのが好きそうなタイプだったからだ。情報を得るには、このようなタイプから聞くのが早い。
「なあ、こないだ自殺したってアイドル、この番組に出てたって聞いたけど本当かよ?」
 自然に話しかけてみる北斗。すると青年は即座に食い付いてきた。
「ああ、1ヶ月半ほど前の収録に出てたぜ。これが1ヶ月後の収録だったら、お蔵入りかテロップ流して放送だったろうな」
 苦笑する青年。どうやら収録と放送までに半月ほどの時差が存在しているようだ。
「ひょっとして、自殺の原因って同期の奴らに苛められたとか言うんじゃねえの?」
「あはは、ないない。こないだの収録、他のゲストもほぼ同期だったけど、待ち時間は和気藹々と喋ってたぜ?」
 意外な言葉が返ってきた。そこで北斗はもう少し突っ込んで話を聞こうとしたのだが……。
「おっと、プロデューサーが見てる。さーて、仕事だ、仕事」
 そう言って青年はそそくさとその場を離れていった。後ろを振り返ると、サングラスをかけて白い上着を羽織った、カマキリのような細身の男性が立っていた。これがプロデューサーのようだ。北斗も仕事へと戻った。
 やがて観客が入り本番が始まる。夏菜の姿は雛壇となっていた客席の一番上にあった。仕事をしながら北斗は夏菜を注意深く見守っていたが、番組中盤より何故か夏菜は憮然とした表情を浮かべていた。
 そうこうしているうちに本番が終わり、北斗は夏菜の姿を追った。すると何ということか、夏菜は退出させられる観客の群れからそっと抜け出したではないか。
(何やってんだ?)
 北斗は気付かれぬよう、パタパタと走り回る夏菜の後を追いかけた。そして狭い通路に出た時、夏菜に声をかける者が居た。『M・Q』のプロデューサーである。

●魔の手【5】
「君、こんな所で何してるんだい」
 そう言って夏菜に近付いてくるプロデューサー。夏菜が臆することなく笑顔で答えた。
「あっ、体操選手時代にスカウトされて、今見学中なんですーっ☆」
「ふーん、そうなんだ」
 プロデューサーはじろじろと夏菜を見つめていた。気のせいか、視線が嫌らしく感じる。
「そうか体操選手だったんだ……」
 なおも夏菜に近付き、プロデューサーはそっと夏菜の手に触れた。さっと手を引っ込める夏菜。
「あのぉ……?」
 夏菜の笑顔が引きつっていた。このプロデューサー、何をしようというのか。
「スカウトされたんなら、色々と番組に出て売れたいよねぇ? どうかな、場所を変えて僕とじっくり話さないかな……?」
 顔を近付けてくるプロデューサー。夏菜は壁際まで後ずさった。もし誘いに乗ったなら、どう考えてもただでは済みそうもない。
 夏菜が困惑していたその時、通路の端で大きく物がぶつかる音が聞こえてきた。振り向くと、大量の荷物を運ぼうとしていたスタッフが通路に置かれていたロッカーにぶつかってしまったらしい。
「すんませーん、そこ通るんでー」
 それを聞いたプロデューサーは小さく舌打ちをし、夏菜に『またね』と言い残して去っていってしまった。どっと力が抜ける夏菜。今そこにあった危機から無事に脱出出来たのだ。
 夏菜のそばを荷物を抱えたスタッフが擦り抜けて通ろうとした。その拍子にスタッフの顔がちらりと見える。
「!」
 夏菜はそのスタッフの顔を見て驚いた。それは何と、幼馴染みの北斗だったのだから――。

●素直に感謝【6】
 夕方――北斗と夏菜は並んで家路についていた。夏菜がやや見上げるように北斗に視線を向けた。
「ありがとうなの……北ちゃん」
 静かに礼を言う夏菜。プロデューサーの魔の手から、機転を利かせて救ってくれた礼であった。
「礼なんかいらねえよ」
 苦笑いを浮かべる北斗。何はとなく気恥ずかしかった。
「でも北ちゃん、どうしてあそこに居たの?」
「あ? いやー……バイトだな、バイト。急に頼まれたんだ」
「ふーん……?」
 首を傾げながら、夏菜は携帯電話を取り出した。見ると新着メールが1件ある。美波からのメールだった。
「わっ、返事が来てるの!」
 さっそくメールを読む夏菜。その返事によると、消印の場所は東京某所で、日付と時刻は事件当日の18時から24時に受付されたことを示していたということだった。
 ちなみにレイが飛び降りたのは、新聞等によると同日の23時40分頃。投函したポストによっては19時や20時の回収もあるため、18時頃までに手紙を書き終えたと見積もるなら、死亡したのはそれから約5時間半となる。
「……5時間半で人って死にたくなるの?」
 夏菜が北斗に尋ねる。残念ながら、北斗はそれに答えることは出来なかった。

【当日の手紙【前編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0445 / 水無瀬・龍凰(みなせ・りゅうおう)
                    / 男 / 15 / 無職 】
【 0446 / 崗・鞠(おか・まり)
                    / 女 / 16 / 無職 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0606 / レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)
           / 女 / 20代? / ストリートドクター 】
【 0921 / 石和・夏菜(いさわ・かな)
                   / 女 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全21場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、あるアイドルの自殺事件にまつわるお話をお届けします。現時点で話は大きく3つに分かれていると思います。うち1つは金沢です。もう少し集約するかなと思ってたんですが、意外と範囲が広がりましたね。
・今回のお話ですが、あちこちにヒントをちりばめています。この依頼の成功条件を挙げるなら、レイの事件が自殺・他殺・事故の内の何であるかを確定させることです。ヒントを上手く活用して、証明させてみてください。
・ちなみに推理は苦手という方も大丈夫です。力技で解決させる方法もありますので。それはそれで成功条件となりますよ。
・時間の関係が分からなくなっているかもしれませんので、ここで整理しておきましょう。この前編本文を基準として、オープニングは本文の前日となります。事件が報道されたのは本文の4日前、そして事件が起きたのは本文の5日前となります。
・なお、後編は前編の翌日から開始することとなります。
・守崎北斗さん、ボディーガードお疲れさまでした。ここで出てきた情報が重要なのかどうか、いずれ分かるんじゃないかと思います。あと、OMCイラストを参考にさせていただきました。果たしてイメージ通りに描けたかどうか、心配ではありますが。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。