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安らぎを・・・
0.依頼
ある日の午後、その人はやって来た。
「あの・・・ここって心霊探偵さんの事務所ですよね?」
「私は公言してないつもりなんですけどね。」
苦笑いを浮かべて、草間はその人に席を勧めた。
「それで、どうしました?」
真っ当な依頼を期待して居ただけに、ちょっと気乗りはしないが
それでもこうしてお客が来たのは喜ぶべきだと草間は自分に言い聞かせながら
努めて笑顔で話しかける。
「実は・・・最近良く夢を見るんです」
「夢ですか・・・?しかし、私は精神科医ではないので・・・」
「その夢は、とても現実的で・・・とても夢とは思えないんです」
「いや・・・ですから・・・私は探偵でして・・・」
正直、この手の相談も何回か有るが、こうまで突飛なのも意外だ。
だが、次の言葉に草間は真剣にならざるをえなくなる。
「私が死ぬ夢なんです・・・それと、彼も・・・現に、身の回りで
おかしな事が頻繁に起こります・・・何もない所から火が出たり・・・
その所為で・・・」
そう言って、袖を捲り上げたその人の腕には真新しい火傷の跡・・・
「アパートは、私の部屋だけ全焼してしまいました・・・私の部屋だけです
他の部屋には何の影響もないんです・・・警察にも話しましたし、あなたの言うように
精神科の先生にも診て頂きました・・・不本意ですけどね・・・」
「そっそれは失礼・・・で、彼の方はまだ何もないのですか?」
「彼の方でも、おかしな事があったそうです・・・車を運転中、信号待ちをしていた時
突然車が動きだし危うく大事故になる所だったそうです・・・」
「ミスとかではなく・・・本当に突然に・・・?」
「信号待ちですよ?何をミスするんです?」
「いや・・・確認の為です。何か思い当たる事とかありませんか?」
その言葉に、彼女はゆっくり首を横に振る。
「さっぱり分かりません。ただ、だんだん夢と同じ事が現実になってきているようです。
火事の夢も見ましたし、彼が事故にあう夢も見ました・・・最近は怖くて眠れないんです
・・・お願いします・・・どうか、助けてください」
本当に辛そうに涙を流す彼女を見て、草間は分かりましたとだけ伝えた。
「こいつは厄介だな・・・手を借りるか・・・」
そう呟くと、草間はおもむろに受話器に手をかけた。
1.草間興信所
電話を受けて、シュライン・エマは草間興信所へと急いでいた。草間から電話がある事は
珍しい事ではない。しかし、電話口で渋る草間はそう多くない。それ程、大きな事件なの
か?表情から察する事は出来ないが、エマの内心は心躍っていた。
通い慣れたドアをくぐり興信所の中に入るエマ。そこに、草間は居た。
「よお、来てくれたか。」
「ええ、来たわよ。早速だけど、どんな話しなの?丁度、ネタに困っていた所なの。」
期待満面で見詰めるエマの視線が、草間には痛く感じるのは気のせいだろうか?いや、多
分気の所為ではないだろう。草間は気を取り直して、おもむろに依頼の内容を話した。
「で・・・?その調査な訳?」
聞き終わったエマの一言目はこれだった。怪訝そうな顔をして居る所を見ると今一ピンと
来ないのだろう。その表情に草間は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「そう言うなよ。彼女だって必死なんだ、実際怪我とかもしてる訳だし。放っては置けん
だろう?こっちでも色々調べるつもりだが、エマは彼女にコンタクトを取ってもっと詳し
い内容を聞き出して欲しい。」
「はぁ・・・分ったわ。彼女の住所と連絡先を教えて欲しいんだけど?」
その言葉に、草間は一枚のコピーをエマに手渡した。
「そうそう、草間さんに一つだけ調べて置いて欲しい事があるの、頼める?」
軽く手を上げて、同意を見せる草間にエマは微笑みそっと耳打ちした。
2.沢村 沙奈
大人しそうな、物静かな子・・・それが、エマの依頼人「沢村 沙奈」に対する印象だっ
た。弱弱しく、華奢で可憐と言う言葉が良く似合うだろう。しかし、その目には今や不安
の色しか灯っては居ない。落ち窪んだ目の下には、良く睡眠が取れていないのだろう、は
っきり分る程のクマが出来ている。軽く自己紹介を終えたエマに、沙奈はおずおずと問い
かけて来た。
「それで、何を聞きたいんですか?事の事情なら、草間さんに話して居ますけど・・・?」
「そんなに警戒しないで下さい。調査するに当たって、多少なりとも情報は必要になりま
す。草間が質問した事の他に、何点か御聞きしたいだけですから。」
沙奈の質問に、エマは努めて穏やかに理由を説明する。
「早速ですけど、沢村さんはこの事情を他の方にお話しましたか?」
「ええ・・・彼と親しい友人と両親、精神科の先生にはお話しました。」
「なるほど。夢を見始めたのは何時位からですか?」
「はっきりと覚えてませんけど・・・一月半前位からです。」
「全部が全部、あなたや彼が亡くなる夢?」
「ええ・・・一番最初は溺れている夢でした。」
「その夢は、現実に起きたんですか?」
「はい・・・彼と海に行った時なんです。突然体が動かなくなって・・・」
「そのまま、溺れてしまったと・・・?」
「はい・・・彼が助けてくれましたけど・・・もうちょっと遅かったら・・・」
記憶に鮮明に残っている光景が、彼女の体を震えさせている。エマは、沙奈の隣に移動し
その肩に優しく手を乗せ笑顔で語りかける。
「落ち着いて、今は何も怖い事は有りませんから。」
「すいません。思い出してしまうと、どうしても・・・」
その笑顔に多少落ち着いたのか、沙奈はゆっくりと呼吸を落ち着かせる様に深呼吸をした。
「質問・・・宜しいかしら?」
「はい・・・どうぞ。」
多少酷かも知れないが、彼女の為だと言い聞かせエマは次の質問に移った。
「夢を見る頻度はどの位なんですか?」
その質問に多少眉根を寄せて考えてから沙奈は答える。
「一週間に2〜3位です。何度も同じ夢を見ると、必ず起こるんです。溺れた時は、4回
目を見た日に・・・火事の時は、5回目でした。」
「一月半前に引っ越したとか旅行に行ったとか、普段と違う事をした覚えはあります?」
「いえ・・・特には・・・その頃は何もしてません。」
エマは少し考えて、答えを手帳に書き込む。
「夢を見る視点はどんな感じなんですか?例えば、上から見てるとか・・・」
「視点は何時も同じです。私の視点ですから。彼が事故を起こしそうに成った時の夢もそ
うでした・・・私はその時居ませんでしたけど・・・」
その時、沙奈の携帯の音が部屋に響く。ディスプレイを確認して、今まで見た事無い笑顔
で電話を取る。
「はい。うん、どうしたの?・・・えっ!?今日も・・・うん・・・うん・・・」
期待から落胆。その表情は、傍から見てもすぐ分る。エマは、何となく居心地が悪くなっ
たかの様な感覚に捕らわれた。その悲しそうな表情がとても痛々しく見えた。だが、それ
と同時に気に成る事があった。『音』だ。何の音かは分からないが、彼女が悲しそうな顔
をした時、一瞬だけ奇妙な音が彼女のすぐ傍からしたのだ。常人には恐らく聞こえない位
の微かな音を、エマの優れた聴覚は捉えていた。
「・・・分った・・・うん・・・じゃあ・・・すいません、シュラインさん。」
電話を切り、無理に笑顔を作った彼女の顔がとても儚げに見えたのはエマの気のせいか。
静かに手帳を閉じて、エマは優しく彼女に話しかける。
「いえ、貴重なお時間を使わせてしまってこちらこそすいません。もし良かったら、お詫
びに夕食ご一緒しませんか?少し気晴らしも兼ねてですけど、如何でしょう?」
「えっ!?でも・・・良いんですか?」
「ええ、勿論です。今日の夜7時頃、こちらに迎えに来ます。構いませんか?」
「はい、大丈夫です。有難う御座います、シュラインさん。」
その言葉に、エマはにこやかに頷いたのだった。
3.草間の報告
口に含んだカプチーノの味を味わいながら、エマは先ほど購入して来た本を喫茶店の窓際
に座り読んでいる。『夢』に関する本を読む事により、多少なりとも情報を集め様と思っ
たからだ。時刻は午後6時を回ったばかりで、店内には左程客の姿は無かった。
沙奈の元を出てから、エマは沙奈と接触した人物に対して調査を行ったが、めぼしい情報
はなく結局こうして本を読む羽目になっている。当初、何らかの事象と重なり沙奈の身に
何かが起きている可能性を考えていたエマにとって、沙奈の話を聞く限りではその可能性
を断たれた形になる。もう一つの可能性は、草間が調べている為、その情報を待つしかな
かった。
夢に関する造詣は左程無いとは言え、購入した本に書いてある内容くらいは何度か耳にし
た事が有る為、エマは退屈そうに眺めていた。何度目かの欠伸をかみ殺した時、携帯が着
信を告げる。ディスプレイに表示される文字は草間。
「はい、シュラインです。何か分かった?」
退屈だった為か、エマはいきなり調査結果を尋ねていた。
「おいおい、いきなりかい。まあ、良いけど。そっちはどうなんだい?」
「殆ど収穫無いから聞いてるの!でっ、どうなのよ。何か分かったの?」
話をはぐらかす草間に多少噛み付き、エマは話を促す。
「まあ、こっちも大した事はわかっちゃ居ないが・・・取り敢えず、彼は白だな。」
「何故?理由は?」
そう、エマが草間に頼んだのは沙奈の彼の調査だったのだ。彼女に問題が無いとすれば、
残る可能性は彼の交友関係に他ならないからだ。
「確かに、彼には依頼人と出会う前に彼女が居た。だが、それは半年前の話で、しかも、
彼は彼女に振られたらしい。」
「それは確か?何で振られたの?」
「確かな情報だ。彼の同僚と話もしたし、その彼女とも会って来た。理由は、双方の時間
のずれだな。聞く話によると、彼は会社の一大プロジェクトの一員らしくてな、兎に角多
忙なんだそうだ。待つ身の辛さかどうかは分からんが、御互いに共通の時間が持てない事
に彼女は嫌気が差したらしいな。それで、振られたそうだ。」
「そう・・・それで?依頼人とはどうやって出会ったの?」
「おいおい、それはそっちでも聞けただろう?まあ良いが・・・依頼人とは彼女と別れて
3ヶ月位経った頃、ずっと想って居た依頼人が告白したんだそうだ。息抜きで行った、合
コンだったらしい。それから付き合い始めて、結婚まで考えてるそうだ。ただ、依頼人に
はまだ内緒にしているらしいな。」
「なるほどね。それじゃあ、白と思わざるを得ないわ。その別れた、彼女は彼を恨んでる
様な感じは無かった?」
「無いな。彼の話をする時は、寂しそうなそれで居てあきれた口調だった。御互いに合わ
なかっただけ・・・とも言っていたしな。」
草間の話を聞いて、エマは背もたれに背中を預けて深い溜め息を吐いた。これで調査とし
ては暗礁に乗り上げた形になる。エマは、気になっていた有る事を草間に聞いてみた。
「ねぇ、依頼人と話してる時変な音しなかったかしら?」
「う〜ん・・・特に無かったと思うが・・・」
草間は唸ってその時の事を思い出していたが、やはり思い当たらないらしかった。
「そう。じゃあ、良いわ。あっ、これから依頼人と一緒に食事なの。また何か分かったら
連絡するわ。」
「そうか。俺の方でも多少動いておく。余り期待は出来んだろうが、何か分かり次第連絡
する。すまないが、頼む。」
「ええ、分かったわ。」
通話を終え、エマは手早く荷物をまとめると沙奈の待つマンションへと向かった。
4.夢音
食事から帰りのタクシーの中、エマの隣で沙奈は静かに寝息を立てていた。普段の睡眠不
足も有るのだろうが、喋り疲れたのかも知れない、そうエマは思った。
食事の最中、彼女は彼との事を良く話してくれた。初めて出会ったのは、自分がバイトす
るコンビニだった事、一目惚れで当時眼鏡をかけていたのをコンタクトに変えた事、たま
たま行った合コンでまさか会えるとは思ってなかった事等、表情豊かに話してくれた。だ
が、この所彼が忙しいらしく殆ど会話をしていないと寂しそうに語ったのも彼女だ。
そして、その一瞬にあの『音』が有った事を、エマは聞き逃さなかった。その音について
エマは沙奈にそれとなく聞いてみたが、返って来た答えは・・・
『音・・・ですか・・・?特には、聞いてませんが・・・』
と言う物であった。彼女の傍から聞こえて来る『音』に、彼女が気づいてないのは少々意
外だったが、分からない事を問い続けても意味をなさないと判断しその話しはそれっきり
だった。
車内には、ラジオの音が響いて居たが興味の無いエマは、ふと視線を外に投げ静かに眺め
ていた。そんなエマの耳に突然別の音が割り込んで来る。そう、あの『音』だった。
・・・ィィィィィィィ・・・ィィィィィィィ・・・
か細く、それで居て耳に残る高周波の様な音に沙奈を見やると、苦しそうにうめいて居る。
額には汗がびっしりと滲み、息遣いも荒い。エマは、沙奈の肩を揺さぶり起こそうとする
が一向に起きる気配は無い。その間にも、音はだんだん大きくなっていく。
「沙奈さん!沙奈さん!大丈夫!?運転手さん、ちょっと止めてくれますか?」
「どうかなさったんですか?」
「良いから止めて下さい!」
「はっはい!」
エマの剣幕に押されてか、運転手はブレーキを踏んだ。だが、ブレーキが掛からない。運
転手はもう一度強くブレーキを踏むが、やはりブレーキが掛からない。
「あっあれ!?ブレーキが効かない!?」
「どうしたんですか!?早く止めて!」
今度はエマが問い掛けていた。普通なら、もう止まっても良い筈なのに一向に止まらない
からだ。
「ブレーキが効かないんです!!」
「何ですって!?サイドは駄目なの!?」
「急停車なんてしたら後続の車が突っ込んで来ますよ!?そんな事出来る訳無いでしょう!!」
リィィィィィィィィィィィィィィィ……!!!
音が激しくなっていくにつれ、沙奈の呼吸が荒く激しくなっていく。その間もエマは、沙
奈に対して呼び掛け続けていたが沙奈は固く目を閉ざし苦しそうに喘ぐだけだ。
「いや・・・いや・・・!!」
「沙奈さん!?起きて!?夢なの!?」
その時、運転手が騒ぎ始める。
「はっハンドルが動かない!?そんな馬鹿な!?」
「今度は何なの!?」
「ハンドルが動かないんだよ!!こんな事1回も無かったのに!!」
「何ですって!?もう良いから、サイド引きなさい!!止まるしか方法は無いでしょ!!」
カーブを示す標識が車窓の外に見える。このままでは、衝突は免れない。運転手は、意を
決したのかサイドを引く。だが、車は止まらない。
「こんな馬鹿な!!!こんな事有り得ない!!」
エマにしてもこんな経験は初めてだ。多くの心霊的な事件は見て来たが、そのどれにも当
てはまらない。何らかの力が働いているのは確かだが、その原因がまるで見えないのだ。
その時、一際大きな声で沙奈が叫ぶ。
「いや−−−−−−−−−−−−−−−!!!」
次の瞬間、荒い息の下沙奈は目を覚ました。そして、音が消え始める。エマは衝突に備え
て沙奈を抱き抱え目を閉じた。
キィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!
タイヤが激しくロックされた音が辺りに木霊する。衝突のショックを覚悟してか、エマの
体には無意識の内に力が入っていたが、ショックが訪れる事は無かった。すんでの所でハ
ンドルが動いたのか運転手が上手く切り抜けた様だ。当の運転手も蒼白な顔で息を荒げて
いる。幸いと言うか、後続車は十分な車間が有った為切り抜けてくれた様である。呆然と
した時間に恐怖が襲ってくるのに時間は必要無い。運転手もエマもその恐怖を感じていた。
そんな中、沙奈はエマの胸に顔を埋めて泣いていた。
「もう・・・嫌だよ・・・また同じ・・・また夢の通り・・・孝也・・・助けてよ・・・」
「・・・沙奈さん・・・」
泣きじゃくる沙奈を抱き、エマは何かを理解した。その確信に満ちた瞳で今日購入した本
を見詰めていた。
5.安らぎを・・・
「大丈夫なのか?本当にこれで?」
「ええ、間違い無いと思うわ。」
草間の車により掛かり、エマはそう答える。草間は、車の天井に手を置き煙草を咥えてと
ある方向に視線を投げていた。エマも、答えながら視線は草間と同じ先を見ていた。
視線の先には、夜景をバックに一組のカップルが楽しそうに話している姿があった。沢村
沙奈と新見孝也である。
あの後、エマは沙奈を送ると草間に電話した。伝える事はただ一つ。『明日、必ず彼を連
れて来て欲しい』それだけだった。
「しっかし、あいつ連れてくるのかなり骨が折れたんだぞ。そろそろ、お前が出した答え
ってのを教えてくれよ。」
頭をガリガリ掻きながら、草間はエマの答えを待った。
「不安・・・そうね・・・言ってしまえばそれだけ・・・」
そう、寂しげにエマは答える。
「不安?不安が夢を現実に引き起こすのか?」
「違うわ。不安が夢を見させる。この本に書いてあるから、後で貸して上げるわ。ただ、
現実に引き起こすのは彼女の力ね。多分、彼女は『夢を現実に起させる』力があると思う
の。本人は気付いて無いんでしょうけどね。」
視線の先の二人は、今まで会えなかった時を埋めるかの様に話し続けて居る。そんな二人
を、微笑みながらエマは見ていた。
「どうやってそう思うのか聞きたいんだが?」
「昨日言ったでしょ?『音』よ『音』。幽霊が鳴らす音をラップ音と言うわ。それとは違
うけど、彼女が極度の不安に苛まれると必ず音がするの。ほんの微かな物だけどね。けれ
ど、眠りに就く事によって不安を抑える力が失われ夢を見る。夢の中でも苦しみ不安に駆
られて、無意識に力が解放されて・・・現実に起こる・・・そう考えているわ。実際昨日
タクシーの中で彼女が眠った時、音は凄まじい物になったわ。音は現実に起こる前触れで
あり、解放された力に比例して大きく鳴るんじゃないかって思うわ。」
「なるほどな・・・だが、彼女の不安って何なんだ?夢を見る事じゃないのか?」
草間は心底分らないと言った風な口ぶりだ。エマは溜息を吐き、草間の方を向き答える。
「彼の事が心配で不安だったのよ。仕事はちゃんと出来てるのか?食事はしてるのか?ち
ゃんと寝れてるだろうか?会って一目見れば分る事よ。でも、忙しくて会えない。連絡手
段は電話だけ。しかも、忙しい彼を気遣って頻繁には掛けられない。これで、どうして不
安になら無いの?その不安が夢を見させる。それが現実になれば、尚の事不安になる。そ
の繰り返しよ。だから、こうして彼と会わせて上げたのよ。ほんの少しでも、不安が無く
なれば夢を見ても何も無いと思うから。」
「だが、一つだけ気になるんだが・・・何で死ぬ夢なんだ?」
「自分の視点での夢は、自分に気付いて欲しいと言う願望だそうよ。自分視点で死ぬ夢は、
寂しい気持ちに気付いて欲しいと言う欲求ね。ただ、現実にならなくて良かったと思うわ。
無意識で見る夢と現実が望むものは違うから・・・夢の通りだったら、彼女のあんな笑顔
見られなかったもの。」
視線を移したその先に、沙奈の笑顔があった。その笑顔は、今までで一番可愛い顔だと二
人は思った。あの笑顔がまた曇る時、同じ事が起きるだろうがそうならない為にエマは、
一つだけ沙奈に言うつもりで居る。それは、『もう少し、彼に甘えなさい』と言う事だ。
彼はきっと応えてくれるだろう。彼女のその思いに・・・
「所で・・・俺達は何時まで待てばいいんだ?」
草間は暇そうにまた煙草を咥えて火を点けようとする。その煙草を、にこやかに奪ってエ
マは答えた。
「二人の気が済むまでよ。」
エピローグ
沢村沙奈から手紙が届いたのは、あの夜から二週間ほど過ぎた頃だった。手紙には、お礼
の言葉とエマの言い付けを守って、甘えていると言う内容の他に婚約をしたと書いてあっ
た。エマは、微笑みながらその手紙を読み終え草間に渡す。
「ほ〜結婚するのか。そりゃ良かったな。」
「ええ、夢も今ではあまり見て無いって書いてあるし、良かったわ。」
紅茶の注がれたカップを口に当て、香りを楽しんだ後ゆっくりと口に含む。仄かな香りが
口中に広がりエマは至福の溜息を吐いた。
「まっ何にせよめでたいな。どうだ?今日辺り彼女誘って食事でも。」
草間の提案に、エマはにこやかに頷き電話を手に取る。
「そうね!草間さんが奢ってくれるなんて滅多に無いものね。電話してみるわ。」
「ちょっ!?ちょっと待て!?俺の奢り!?マジで!?」
そんな非難をエマは聞いておらず、嬉しそうに電話をする。
「あっシュラインですけど。お久し振りね。今日、夜空いてる?一緒に食事でもどうかと
思って。うん、うん。そう!良かったわ!じゃあ、今日夜7時にね!」
電話を切ると、エマは軽やかに戸口まで行き振り返り様に草間に一言告げる。
「ご馳走になります。」
パタンと戸が閉まり、エマの遠ざかる足音に草間は一言呟くのだった。
「ラーメンじゃ・・・駄目・・・?」
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家
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■ ライター通信 ■
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初めまして、凪 蒼真です。
依頼受けて頂いて有難う御座います。
かなり時間が掛かってしまった事、お詫び申し上げます。
本来ですと、三人ぐらいでの依頼なのですが、集まりませんでしたので
シュラインさんだけでのプレイングとなりました。
心霊的な事が多そうな東京怪談なだけに、今回のようなケースは余り予
想され難い形でした。情報も少なく、なかなかプレイングが掛け難かっ
たかもと正直反省しております(苦笑)
今後また、書かせて頂ける機会がありましたら、まだまだですが何卒宜
しくお願いします。
それでは、今回は本当に有難う御座いました!(礼)
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