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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


迷い魂・前編
●雨の中の迷子
雨の振る中、草間に頼まれてタバコを買いに出かけた草間 零は、不意に何ものかに呼び止められて立ち止まった。

「ママ・・・ママどこ・・・?」
振り返ると小さな幼い子供が零のスカートの裾を掴んで泣いている。
「子供・・・」
零はその頭をなでようと手をのばしたが、手のひらは子供の頭を撫でることなく空振りした。
「人じゃない。」
子供は涙でぐしゃぐしゃになった顔で零を見上げている。
「ママに会いたいよ・・・ママ・・・」
泣きやむ気配のない様子に零はしばし考え込む。
どうやらこの泣いている子供はママが居なくて困っているらしい。
日頃、困っている人には親切にしろといわれている零は子供は困っていると判断した。
「ママを探す?」
問い掛けると子供はこくんとうなずいた。
「では草間さんのところへ行きましょう。草間さんは探し物をするのが仕事。」
そう言うと手をひいて歩き出そうとしたが・・・またもや手は空振りしてしまう。
「・・・ついて来て下さい。」
零はそう言って子供に手招きをすると事務所に向かって歩き出した。

「・・・ここは託児所じゃないぞ?零?」
草間は零の後ろで涙ぐんでいる子供を見て溜息をついた。
子供はどう見ても幽霊で、零はその子供のママを探せという。
「子供はママを探して欲しい。草間は探すのが仕事。草間は困ってる人は助けろと言っていた。だから・・・」
零は草間に言われたことを守っただけなのだ。
草間はもう一度溜息をつくと、子供に目線を合わせるためにしゃがみ込んで聞いた。
「ボク、ママはどこに居るのかわかるかな?」
「お家に居る・・・」
「お家はどこかな?どこから来たんだい?」
草間の言葉に子供はすっと草間の背後を指差すと言った。
「僕のお家はあそこ・・・」
子供の指差す方を振り返ると、そこには一枚のポスターが貼られている。
「なんだって・・・?」
草間はそのポスターを見て愕然とした。
そこに描かれていたのは大きな満月・・・月のポスターだったのだ。
「俺の手にはおえないな。誰かに手伝ってもらうか・・・」
草間は溜息交じりにそう呟いた。

●夢の月旅行?
「これからは月の時代だと思うんだよね♪草間クン♪」
「月・・・か・・・?」
自分のデスクの向かいにデンッと座ってそう言う水野 想司を見つめながら、草間は呟いた。
こうして想司と話をするのは何度目だろうか?
毎度の事ながら、不吉な予感が過ぎる。
ニコニコしながら話し掛けてくる想司を草間は訝しげな顔でしげしげと眺める。
「月から愛のメッセージを萌える中学生たちに放ち、萌えの探求者へと導く、サテライトウェ〜ブ発信基地計画☆この素晴らしさを今こそ活かす時だと思うんだ♪」
「・・・活かすって・・・何にだ?」
「ふふふ、嫌だなぁ。もちろん月での迷子探しにさ♪」
一見少女のような可憐な笑みで想司は微笑む。
「月への片道切符なんか、僕の手にかかれば3秒チャージで12時間キープさっっ♪」
「ちょっと待て。想司。」
草間は機嫌よく話を続ける想司の言葉を遮った。
「その、サテライトなんちゃら計画で月に行くって言うのか?誰が?それに、その片道切符って言うのは何だ?」
「もっちろん、君に決まってるじゃないか♪く・さ・ま・た・け・ひ・こクン☆」
想司はそう言うと立ち上がり、事務所のドアの外からなにやら大荷物を事務所に引きずり込んできた。
「これぞ、ギルド驚異のメカニズムで開発された、月への最終兵器さっ☆」
自信満々で言い放つ想司に、草間はなんと突っ込みを入れてイイのかすらわからない。
それは・・・巨大なロケット花火だった。
「萌えの力をエネルギーに変換し、クリーンでエコロジーな環境保護団体も大絶賛な月ロケット「サターン☆ばーにんぐ」さっ♪」
説明を聞いて草間は、サターンは土星だろうっ!と突っ込みたいのを堪えつつ、もう少し重要なところに突っ込みを入れることにした。
「そのロケットはどうやって使うつもりだ?」
「背中に縛りつけるだけでOK♪」
「空気もない宇宙空間を飛ぶんだが、その辺はどうなっているんだ?」
「萌え気合♪」
「月までどのくらいの距離があるのか知ってるか?」
「およそ38万キロってところかなっ♪」
「・・・本気か?」
「もちろんっ♪」
草間は眉間を指で抑えたまま机にうつぶせる。
そんな草間の気持ちを知ってか知らずか、想司は不意に真剣な顔になって言った。
「でも、この装置には重大な問題があるんだ。」
「問題?」
草間はうつぶせたままで言う。
これ以上何の問題があるというのだ?
「この「サターン☆ばーにんぐ」号は制御が不能なんだよねっ☆」
てへっと笑う想司に、草間は側にあった書類を投げつけてやろうかという気持ちになったが、ぐっと堪えた。
「制御不能じゃ月へは行けないじゃないか。」
その草間の言葉に、想司はクスクス笑いを漏らす。
「でも、その心配も今日で解決さっ☆」
想司はおもむろにノートPCと携帯電話を取り出すと、何処かへアクセスを始めた。
「何だ?」
ニコニコしながら液晶画面を覗いている想司。草間も気になってその画面を覗き込む。
「OMC納品・・・?何だこれは?」
「ふっふっふ♪この日の為に、より萌えエネルギーを高めるための極秘アイテムを発注しておいたのさ♪」
そう言うと、想司は不敵な笑みを浮かべたのだった。

●愛の物語
「想司クン・・・」
アリスは立ち去ろうとする想司を呼び止めた。
しかし、それ以上の言葉が続かない。
行かないで・・・その一言がどうしても言えない。
「アリス・・・僕は行かなくちゃならないんだ。」
想司は振り返り、アリスと向かい合うと、まっすぐにアリスを見つめて言った。
「僕には使命がある。・・・いや、それだけじゃない。僕はキミとキミが住む世界を守りたいんだ。アリス・・・大好きだよ。」
「想司クン・・・」
アリスは潤んだ瞳で想司を見上げた。
いつもは強気な少女が、なんと儚く見えることか。
「アリス・・・」
想司はアリスの細い肩に触れると、ぎゅうっと抱きしめた。

「・・・これは・・・?」
モニターに表示された文章を読みながら草間は眉をひそめた。
「僕とアリスの甘くてラブラブキュートな萌え小説をオリジナルノベルで発注しておいたのさ♪これさえ世界に発信すれば、萌え者たちの萌えのエネルギーは頂点へ達するから、そのエネルギーを利用して「サターン☆ばーにんぐ」をコントロールするのさっ♪」
想司の説明に眩暈を堪えながら草間は再び眉間を抑えた。
そして、一言言ってやろうと口を開きかけた瞬間。
もう一つの悩みの種がやってきたのだった。

「そんなもの、ネットに流させるわけないでしょっ!!!」
高い声を張り上げながら、天井から飛び降りてきたのはアリスだった。
「また何かするんじゃないかと思って監視しておいて良かったわ。そのデータをよこしなさい!」
アリスは草間のデスクの上に仁王立ちになると、想司に向って手を突き出した。
「・・・どうしてキミたちはいつも天井から来るんだ?」
「此処の天井は異世界に通じていますからね。窓を開くのにはちょうどいいんです。ほら、あの未来からきたネコ型ロボットが机の引き出しにタイムマシーンを接続したのと同じですよ。」
草間の隣りに、ニコニコ顔の青年が飛び降りてくる。
「そ、それは本当なのか・・・?」
青年・・・スリープウォーカーの説明に顔色を青くして草間が問う。
「うちの事務所の天井と言っても、上の階には別のテナントが入っているし・・・」
「嘘です。」
「!?」
「くすっ。草間さんって可愛いですね。」
「☆×●△■Φ♂ρ煤~◎△□!!!!!」
真赤になって何か叫ぶ草間を他所に、スリープウォーカーは想司とアリスの方へと歩いていった。
想司とアリスの二人は不思議な喧嘩の真っ最中だ。
「会いにきてくれたんだね!アリアリ♪僕とキミは運命の赤いワイヤーロープで結ばれているんだ♪」
「馬鹿なこと言わないでよ!そんな小説流されたら変な噂になるでしょ!それを止めさせようときたのよ!」
「照れなくてもいいんだよ、アリアリ☆僕らの仲を妬む者が現れても、僕が君を守ってあげるよ♪」
「照れてないわよっ!」
「可愛いなぁ☆アリアリってば♪」
「☆×●△■Φ♂ρ煤~◎△□!!!!!」
真赤になって何か叫ぶアリスを落ち着かせるように、ぽんぽんと肩を叩くと、スリープウォーカーは想司に提案を持ちかけた。
「ねぇ、想司クン。萌えのエネルギーを集めるなら、もう少し違った方法がいいと思うんだ。」
「違った方法?」
「うん、アリスとキミの物語じゃ、男の萌えエネルギーだけしか集められないだろう?最近は、腐女子と呼ばれる女性の方が萌えのエネルギーを多く持っていると思うんだ。」
スリープウォーカーの言葉に、想司は一瞬躊躇う。
「うーん、それは萌えにはちょっと邪道な気がするけど・・・」
「邪道でも、エネルギーの大きさはバカに出来ないと思うんだよ。」
想司は悩んだが、スリープウォーカーの言うことも最もな気がする。
「やはり此処は、腐女子仕様の萌え小説も用意するべきだよ。」
「腐女子仕様・・・」
「そう、それに腐女子仕様ならビジュアルも大事だよね。此処には良い被写体もいることだし、それを利用したらいいと思うんだ。」
そう言って、スリープウォーカーはちらりと草間のほうを見る。
「ふーん、草間クンなら女の子にも人気があるしちょうどいいかな?でも、相手はどうするつもり?ボーイズラブもカップリングが重要だよ☆」
想司はもっともな意見を出してきた。
「それは考えてあるよ。彼なんかどうかと思ってね。」
そう言うと、スリープウォーカーはパチンと指を鳴らした。
「わーーーっ!!」
指の音と同時に、天井から悲鳴をあげながら男が降ってきた。
「なんだなんだ?あ、メガネがない!メガネ!」
男は落下した時にメガネを落としてしまったのか、わたわたと床の上に這いつくばっている。
「あれ?アトラス編集部の・・・」
「どうだい?彼なら知名度もあるしいいと思うんだけど・・・」
スリープウォーカーはにやりと笑った。
想司もそれにうなずく。
「ちょっと待てーーっ!」
今ごろ己の身の危険を感じた草間が二人の会話に突っ込みを入れる。
「本人の許可なく勝手なことをするなっ!大体なんで俺が・・・!」
「くすくす☆人間諦めが肝心だよ☆」
想司はそう言うとニコニコしながら、スリープウォーカーと新しい萌え小説の発注内容を相談し始めた。

こうして、想司の萌えエネルギーで月に行こう大作戦は、すでに軌道を外れつつ暴走の一途を辿ろうとしているのであった。

To be continued...
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
本編からは関係ないところになってしまいましたが、如何でしたでしょうか?
想司クンは草間を無事月に送り届けることができるのかどうかは、神のみぞ知る・・・といった感じですが、どうしましょう?次回は本編の子供に関わってゆくのも、このまま萌えの探求に突っ走るのもどちらもOKです!ギャグ編も一応後編へ続く予定です。
それでは、これからの活躍も期待しております。
また次回お会いしましょう。
お疲れ様でした。