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開かずの扉
**オープニング**
都市伝説や怪談を扱う、あるHP。
掲示板には意味不明な依頼分が多数書き込まれ、時折「了」の文字が追加される。
そして今日もまた、一つの書き込みがあった。
山間部にある、鄙びた温泉旅館。
その旅館の奥にある、古びた扉。
この数年、開いた所を見た者はいない。
おそらくは単なる物置、別に開ける必要はない。
そこで夜な夜な、すすり泣く声がしなければ。
泣き声が聞かれるのは、ここ最近の事。
手がかりは何もない。開かない扉以外には。
実害がないとはいえ、客商売。
放っておいては、何かと差し障りもある。
報酬は、温泉と山の幸。
物見遊山気分でで訪れるもよし、好奇心を満たしたいだけでも。
扉の向こうに、何が待つのかを知りたいのなら。
無人駅の改札を抜ける、デュナン・ウィレムソン。
「のどかな場所なら、お化けものんきかな」
腰まで伸びた銀髪を撫でつけ、人を捜してる様子の若い男性へ話しかける。
「初めまして。デュナン・ウィレムソンと申します」
「こ、こちらこそ、初めまして」
戸惑いと共に頬を赤らめる男性。
そういう事には慣れているデュナンは、一礼して彼が指し示した車へ乗り込んだ。
「中には、何が入ってるんですか」
「さ、さあ。何しろ、何年も開けてないので」
「性質の悪い悪霊でもいたら、どうします」
「え」
滑る後輪。
男性は慌ててハンドルを切り返し、ガードレールを飛び越え川に落ちる事を防いだ。
「す、済みません」
「いえ。向こうにも事情があるんでしょうし、俺に出来る事があれば何とかしてみます。ただ日本のお化けに、通じるかどうかは別ですが」
おそらくは冗談。
男性もそれは分かってるのか、ぎこちなく笑って運転へ集中する素振りを見せた。
女性と見まごうばかりの可愛い少年。
しかしどこまでも落ち着き払った、老成した雰囲気すら漂わせる少年から意識を逸らすようにして。
廊下の奥にある、突き当たり。
金属製の扉は汚れた様子もなく、さりとて異様な雰囲気を放っている訳でもない。
ごく普通な取っ手と、その上にある鍵穴。
外観だけなら、単なる物置にしか見えない。
「やっぱり、駄目ですね」
鍵を引き抜き、首を振る女性。
招かれた者達も一通り試すが、やはり開く気配はない。
「無理矢理開ければ。トンカチでもハンマーでも使って」
「北斗さん。あなたは、その補修費を支払えるんですか」
薄い笑みを浮かべる九尾。
北斗はうっと唸り、扉の寸前で拳を止めた。
「無理矢理入るとか」
「え?」
「ここから。……冗談ですよ」
扉の脇にある、紙一枚くらいの隙間に触れながら笑う天宮。
九尾は薄い笑顔のまま、きびすを返した。
「この辺りの古老にでも、こういった話が無いか聞いてきます」
「やっぱり、幽霊がいるんですか?」
口元を抑え、身を引く女性。
しかし答えたのは、振り返った九尾ではない。
「ご心配なく。物置に閉じこめらられるのは、悪い事をした子供に決まってます」
あくまでも能天気な答え。
天宮は女性に会釈をして、すでにこの場から立ち去った九尾を追っていった。
「で、どう」
「さあ。おっさんふたりは、悠長に調べる気らしいけど」
行き交うピンポン球。
弾む息。
上がる歓声。
ポニーテールをなびかせた夏菜はガッツポーズを見せ、自販機を指差した。
「遊んでないで、早く開けろよ」
「その前に、ジュース買いなさいよ」
「へいへい。……あ、間違えた」
自販機から出てきたのは、生ビール。
それも、よく冷えた。
「参ったな」
「わざとらしい。ちょっと」
「いいだろ。ビールくらい」
「まだ、ご飯前でしょう」
訳の分からないたしなめ方。
浴衣姿でビール缶を奪い合う二人。
「扉って、どこにあるんでしょう」
たなびく銀髪。
涼しげな微笑み。
デュナンははだけている浴衣の襟元を直し、小首を傾げた。
「あんたも、鍵屋?」
「そんな所です」
「キミ、男の子?」
「風呂が楽しみになってきた」
フルスイングで北斗の頭をはたく夏菜。
「私もまだ見てないの。北ちゃん」
「はいはい。ただいまご案内致します」
扉の前に立つ3人。
「開きませんね、やはり」
鍵を引き抜いた若い男性は、ため息混じりに首を振った。
若い女性の弟であり、旅館内で迷った北斗をそれとなく案内してもくれた。
「他に、入り口はないんですか。屋根裏とか、秘密扉とか」
「そういう、大袈裟な場所ではないので」
「……今は泣いてないわね」
扉に耳を押し当て、安堵の表情を浮かべる夏菜。
北斗は鼻で笑い、やはり同じ仕草をした。
「泣いてるんじゃなくて、鳴き声だったら嫌だな。ぐわーって」
「馬鹿じゃない」
「全く否定するのも、どうかと思いますけど」
しなやかな仕草で、鍵穴に指を添えるデュナン。
わずかにその顎が引かれ、男性に向き直る。
「ここは、開くような気がします。そうですよね」
「え、ええ」
気まずそうに認める男性。
顔を見合わせる、夏菜と北斗。
「でも、今は開かなかったぞ」
「古い鍵だから、多少コツがいるんでしょう」
「良く分かるのね。すごいわ」
大袈裟に拍手する夏菜。
北斗は鼻で笑い、わざとらしく顎を鍵穴へ向けた。
「じゃあ、開けろよ。ほら」
「俺は、そのコツを知らないので。急ぐ旅でも無し、ゆっくりとやりましょう」
早足で去っていく男性。
その背中が見えなくなったのを確かめ、夏菜は二人を振り返った。
「どうして開かないって言ったのかな」
「開けたくない理由があるんだろ。中にいるんだよ。ぎゃっ、ぎゃって鳴く何かが」
「馬鹿。デュナン君は、どう思う?」
「扉の中は覗けるけど、人の心まではね」
「きゃー、格好いいー」
嬌声を上げてしがみつく北斗。
夏菜はやはりその頭をはたき、ため息を付いた。
「で、お兄さん達は何してるの」
「俺達以外に、誰かいるんですか」
「ああ。人の良さそうなのと、人の悪そうなのとが」
あくまでもそれは、北斗の主観である。
旅館から少し登った峠。
小さな祠に収まる、こじんまりとした道祖神。
つまりはお地蔵様を背にして、峠から山々を眺める二人。
近隣の古老にそれとなく話は聞いたが、全国のどこにでもある民話の類しか収穫はなかった。
「やっぱり、お化けがいた方がいいですか」
「いた方が面白い」
「結構、私がそうだったりして」
木々の間に消える、明るい笑い声。
九尾は笑いもせず、彼の首筋へ向けた手の中に火を点した。
「というか、いるんですか」
「信じない派?」
「何が怖いって、一番怖いのは人間だって思う派です」
人の良い、何一つとして曇りのない表情。
彼の笑い声は木霊となって、峠を抜けていく。
「天宮さん。我々も戻りましょう。ここにても……。天宮さん?」
祠の前に腰を屈める天宮。
一度拝んだ彼は、茶色のハンカチを広げてお地蔵様の頭に被せた。
自分の着ていたジャケットは、その肩へ。
「寒いかと思いまして」
「笠地蔵ですか。知りませんよ、夜に訪ねてきても」
「ああ、そうか。私の家まで来るとなると、お地蔵様も大変ですね」
やはり、質問の意図とはずれた答え。
しかし九尾は小さく頷き、彼を促した。
「早く戻って、温泉にでも入りましょう。あなたが、風邪を引く前に」
「馬鹿は引かないって言いますけど」
「それはお互い様でしょう」
ジャケットを脱ぎ、祠の上へ掛ける九尾。
意味のあるなしではなく。
気持として。
それを理解する、お互いへ向けられた微笑み……。
大きな湯船に浮かぶ、檜の桶。
中には徳利と、小さなショットグラスが入っている。
「彼女、ですか」
静かに尋ねる九尾。
「いいですね、青春っていうのは。私も、そんな時があったのかなー」
詠嘆する天宮。
北斗は別段照れる様子もなく、濡れそぼった前髪をかき上げた。
「ただの幼なじみだよ。向こうは、気になってる相手もいる」
「近過ぎると、却って距離感が掴めないか。天宮さんは、どう思います?」
「少し酸っぱいかな」
「……それは、温泉水です」
彼の手からショットグラスを取り上げる九尾。
酸性の泉質らしい。
「それより、あの扉。開くらしいぜ」
「その奥は」
「え、知ってたの」
「へぇ。奥にもあるんですか」
三者三様の反応。
だがそれは、すぐに沈黙へと変わる。
長い銀髪。
華奢な手足。
胸元に添えられたタオル。
しなやかな物腰で、白いもやの中から現れるデュナン。
「男性、ですよね」
「ええ」
甘い、思わず誤解しそうな微笑み。
北斗は突然立ち上がり、頬を抑えながら湯船を出た。
「二人きりだったら、ちょっとやばかったな」
脱衣所の前にある休憩用のスペース。
瓶の牛乳を、腰に手を当て一気に飲み干す。
「私、フルーツ牛乳」
「自分で買えよな」
そう言いつつ、自販機から瓶を取り出す北斗。
夏菜はやはり腰に手を添え、一気に飲み干した。
湯上がりで赤らんだ頬が、幼さと妖艶さの微妙なバランスを作り出す。
「どうかした?」
「いつもと違うなと思って」
素直な台詞。
しかし夏菜は寂しげに微笑み、彼へ背を向けた。
「変わらないわよ。これは」
背中をなぞる指先。
彼女が背負った、大きな傷の跡を。
「……傷でもあるんですか」
「デュナン君」
「失礼かと思いましたが」
「ううん、そんな事無い」
伏せられる視線。
小さく漏れるため息。
濡れた前髪を横へ流したデュナンは、壁へと目を向けた。
それを通り越すような、遠い目で。
「生きているから、傷になる。死んでいたら、気にもされません」
「難しい事言うのね。……慰めてくれてるの?」
「さあ」
軽い足取りで去っていくデュナン。
あくまでも優雅に、涼やかに。
「格好いい野郎だな。見た目も、性格も」
鼻で笑う北斗。
夏菜は黙って、幼なじみの横顔を見つめた。
「北ちゃんは、何も言わないんだね」
「何が」
「いいけどね。言わなくても、分かってるから」
「何がだよ」
戻らない返事。
静かに流れる時。
お互いへの信頼と、思いやりを込めた。
男湯から響く、馬鹿笑い越しの……。
フロントの奥にある事務所。
そこに並ぶ、若い姉弟。
お互いの間には、距離がある。
身体的に、またおそらくは精神的にも。
「あの扉自体は開くんですよね」
「ええ」
不承不承といった感じで頷く女性。
九尾はその姿を見つめ、旅館の見取り図を指差した。
「これを見て分かる通り、あそこは物置。それも旅館のというよりは、ここの所有者。つまり、あなた方の」
「私は別に、好きで女将をやってる訳ではありません。母親の体調が悪いから、仕方なく」
「俺だって、別に。この年で支配人なんて」
険悪な顔で睨み合う二人。
それに構わず、九尾は見取り図をもう一度指差した。
「いつまでも旅館を休業させていたら、いくらあなた達でもお困りでしょう。幸い、あの子供達はなかなか優秀です。今日中にでも、開けてみます」
「それは、是非」
「お願いします」
言葉とは裏腹な、気のない態度。
「昨日から私達は、誰も泣き声を聞いてないんですが、お二人は」
首を振る二人。
九尾は頷いて、フロントの方を指差した。
「彼等がもう向かってますので、私達も急ぎましょう。いつまでも、遊んでいる訳にも行きませんし」
扉の前。
鍵穴に指を添えるデュナン。
夏菜と北斗はその左右に立ち、取っ手に手を添えている。
「どうするんです」
「夜中に細工をされたらしいので、無理矢理開けます。俺が合図をしたら、取っ手を回して下さい」
親指を立てる、夏菜と北斗。
デュナンは小さく口元を動かし、光を帯びた指先を強く鍵穴へ押し当てた。
「どうぞ」
大きく一度右へ。
次いで左、再度右。
微妙なタイミングと力の加減。
二人はそれを軽くこなし、お互いの手を握ったまま取っ手を引いた。
「案外あっさりと開きましたね。でも、どうして二人にやってもらったんです」
「お互いの動きが、印を結ぶのと同じ作用をしたんです。俺一人では無理ですが、お二人にやってもらえば大丈夫だと思いまして」
「友情の勝利ですか」
間の抜けた事を言って、いきなり中へ入る天宮。
途端に、間の抜けた声が聞かれる。
「おい」
「転んだだけです」
「仕方ないな。サーチライトって」
「天宮さん動かないで。首の所に、先の折れた椅子の脚がありますから」
静かに声を掛ける九尾。
彼の位置から扉の中は、全くの暗闇。
だが備え持つ空間把握能力で、内部の様子は手に取るに分かるのだろう。
「デュナンさん。お手柄と言いたいがですが、ここから先は慎重に。万が一、魔力に反応する何かがあるかも知れません」
「済みません。軽率でした」
「年寄りの愚痴と聞き流して下さい。北斗さん。天宮さんを」
「へいへい。どうせ俺は、雑用ですよ」
天宮同様、躊躇無く入る北斗。
彼の場合忍者の訓練として鍛えられた夜目のお陰で、やはり内部の状況は分かっているのだろう。
サーチライトで照らされる室内。
彼等の推測通り、中にあるのは廃材や不要品ばかり。
ただその奥に、かなり錆び付いた小さい扉がある。
入り口となっていたのとは違う、壁の中央に位置した。
「あの兄ちゃんに開けて貰おう」
「それには及ばないでしょう。鍵がありますから」
ポケットから鍵を取り出す九尾。
「これは、あそこの扉の鍵では?」
「共通なんですよ。ただしこちらの場合は、少し事情が違うようですね。思った通りに」
鍵穴に差し入れられる鍵。
一本、そしてもう一本。
姉と、弟の両方が。
「あ、なるほど。二つ揃わないと開かないから」
「でも開かない理由は分かったけど。何が泣いてたんだ」
「泣きたい事でもあったのでしょう。……開けて、よろしいですか」
振り向く九尾。
姉弟はそれとなく視線を交わしあい、頷くような素振りを見せた。
「北斗さん、夏菜さん。私の左右に。万が一という事もありますので」
「あ、はい」
「デュナンさんは、お二人をお願いします」
躊躇なく回される、二つの鍵。
ゆっくりと取っ手を引く九尾。
錆び付いた音がして、薄い金属製の扉が手前に引かれる。
「わっ」
飛び出てくる黒い影。
咄嗟に足を振り上げる夏菜。
「あれ」
スニーカーの上にしがみつく、小さな黒猫。
彼女が足を床へ向けると、黒猫はさっさとその場から逃げ去った。
「まさか、泣いてるのがあれってオチじゃ」
「風を感じますから、通風口でもあるんでしょう。どう見ても、化け猫には見えませんからね。北斗さん」
「別に、何もないけど。ぼろい箱くらいしか」
中から取り出される、表面の破れた紙製の箱。
フロント前のロビーに運ばれる箱。
そのふたに手を掛ける九尾。
「デュナンさん」
「特に、悪い雰囲気は感じられません」
やはり躊躇なく、ふたが開けられる。
入っていたのは、古さを感じさせる原稿用紙やわら半紙。
子供の字で書かれた作文と、テストの答案のようだ。
それの束と。
「絵?」
一番上に乗っていた画用紙を手に取る夏菜。
稚拙で、でも一生懸命さが伝わってくる。
「それは……」
「そんな……」
同時に呟く姉弟。
明らかに、この絵の持つ意味を分かっている顔で。
「お互いへの気持は、分かりかねます。夜に一人、涙するくらいの気持は」
「え」
「昔、あそこへ二人で閉じこめられたんじゃないですか。こういう関係になる前に。暗闇の中で、手を取り合って。仲良くお互いを励まし合いながら。無論、単なる推測ですけどね」
静かに話を終える九尾。
姉弟はお互いを見つめ合い、どちらからともなく手を取り合った。
テーブルに置かれた、幼い絵の情景そのままに……。
「兄弟愛、ですか。これ程麗しいものはありませんね」
のんきに呟く天宮。
だがそれに突っ込む者は、誰もいない。
優しく微笑む者達しか。
「結局、お互いがお互いの泣き声に怖がってたって事か?」
「じゃないの。でも、すぐに気付くようにも思うけど」
肩をすくめる、北斗と夏菜。
デュナンは口元で小さく呟き、扉の奥に光を放った。
「相手が別な場所にいる時、泣き声を聞いたのかも知れません」
「今ので分かったのか?」
「そういう気がしただけです。この中は、暖かいですから」
「お前の言う事は、難しくて俺には分からん」
北斗の足元にまとわりついてくる、黒い子猫。
デュナンはそれを抱え、そっと頭を撫でた。
「彼等のお母さんが、この子を可愛がっていたそうです」
「仲の悪い姉弟を心配して、お母さんの代わりに猫が泣いたって言いたいの?」
「いいじゃないですか。今は、誰も泣いてないんですから」
やや強引に。
しかし、誰もが納得する言葉でまとめる天宮。
「泣き声はともかく。鍵が二ついる事くらい、初めから分かってたんだろ。なのに、どうして俺達を呼んだんだ?」
「何かのきっかけがないと、人は行動しない時もあります。例えば今回のように、誰に背を押されないと」
九尾は扉を閉め、静かに歩き出した。
「後は彼等の問題だし、私は帰ります。それでは」
薄い微笑みを残し去っていく九尾。
地酒の詰まったバッグを担いで。
「私も帰りましょうかね。あまり遊んでると、クビになりますから」
「オーナーじゃないんですか」
「世の中、理屈じゃないんですよ」
情けなく呟き、深く一礼して歩いていく天宮。
デュナンも長い髪を抑え、その後を追い始めた。
「俺も、これで」
小さく動く口元。
指が何かの文字を描き、淡い光が辺りに散る。
「何だ、それ」
「簡単なおまじないです。相手への幸せを祈る」
「念仏でも唱えてろよ」
「馬鹿。色々ありがとう」
北斗の頭を抑え、一緒に頭を下げる夏菜。
デュナンはそれを見届け、二人の前から姿を消した。
「姉弟、ね」
「何よ」
「いや。仲が良いのは結構だなと思っただけ」
「北ちゃんは、駄目な弟みたいなものだけどね」
明るい笑顔と笑い声。
ロビーで姉弟に別れを告げる二人。
フロントの後ろ。
額に飾られた、一枚の絵。
稚拙な、しかし一生懸命描かれた。
異なるタッチの重なった……。
停車した列車へ乗り込むデュナン。
遠くから聞こえる笑い声。
女性ばかりの旅行グループのようだ。
「寂しい、のかな」
先程までとは違い、一人の自分。
話す相手も、思いを共有する者もいない。
しかし彼は、そんな今の自分を分析するような表情を浮かべて窓を開けた。
「日本の秋、か」
紅葉する山々。
爽やかだが、冷たい風。
冬の訪れを、少しずつ知らせるための。
「戻るだけのお金もないし。第一、戻ったって」
続かない言葉。
誰もいない、とは。
「お彼岸に、お墓にでも行こうかな」
少しの微笑み。
秋の日射しに包まれた。
古の技を継ぐ者の顔ではなく。
幼さを残す、子供らしい……。
了
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0568/守崎 北斗/(もりさき・ほくと)/男/17/高校生
0921/石和 夏菜/(いさわ・かな)/女/17/高校生
0862/デュナン・ウィレムソン/男/16/高校生
0332/九尾 桐伯(きゅうび・とうはく)/男/27/バーテンダー
0841/天宮 輝(あまみや あきら)/男/23/喫茶店経営者
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■ ライター通信 ■
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ご依頼頂き、ありがとうございました。
年齢が近い事もあり、守崎様・石和様との接点を多くしました。
OPとエピローグは、それぞれの方オリジナルとなっています。
またの機会がありましたら、よろしくお願いします。
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