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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


栗拾い大作戦

●プロローグ
 ぱらぱらと、雑誌のグラビアページをめくっていた雫が、ふいに大きな溜息をついた。
「秋の味覚……栗に梨に、ブドウにマツタケ……ああ、どれもおいしそう……」
低く呟く口の端は、今にもよだれが垂れそうだ。彼女が見ていた、雑誌のグラビアには、今彼女が口にしたものの写真が並ぶ。「秋の味覚特集」だそうだ。
 雫は、しばらく美味しい食べ物の妄想にひたっていたが、
「そうだ!」
何事か思いついたように、雑誌を閉じて、勢いよく立ち上がった。
 パソコンに向かい、「ゴーストネット」の掲示板に書き込みを始める。
「秋の味覚を堪能したい人、大募集! 雫と一緒に、栗拾いに行きませんか? ご一緒してくれる人は、この書き込みにレス下さい。場所は、山梨の岩瀬山です。栗が、一杯成ってて、勝手に採ってもOKな場所があるんだって。日時は、人数が集まってから、決定します。じゃ、たくさんの応募待ってます!」
 送信を終えて、雫は、満足げな笑みを浮かべる。場所は、さっきまで見ていた雑誌にあったものだ。紹介されていた中では、一番近かった。
「どれぐらい拾えるかなあ、栗。たくさん、拾えたら、栗ごはんとか……手作りのモンブランっていうのもいいよねえ……」
雫は、パソコンの前で、再び楽しい妄想に浸り始める。もちろん、栗拾いそのものも楽しみな彼女だった。

●出発前
 雫の書き込みにレスをしたのは、結局、四人だった。
 人数が決まったところで、雫は、日時を翌週の日曜日と決定、朝8時にネットカフェに集合ということになった。
 当日は、まさに秋晴れのいい天気だった。
 美貴神マリヱは、朝早くから起きて、せっせと弁当作りにいそしんだ。
 モデルという仕事柄、海外で過ごすことの多い彼女にとっては、日本の四季を堪能できる機会は少ない。ましてや、同行するのは、仕事とは何の関係もない人たちなので、いつもほど気を遣う必要がないのもうれしい。
 そんなわけで、弁当作りにも力が入るというものだ。
 もっとも、彼女が作り上げた弁当は、なかなか外観・味ともに独創的なものだった。
 メニューは、弁当の定番ともいえる三角おにぎりと、小さめに成形したハンバーグに付け合せの野菜サラダ、それにジャガイモ・インゲン・高野豆腐などの煮物だった。が、おにぎりは、力を込めすぎたせいで、三角というより多角形になっていたし、手の平につける塩の分量がまちまちだったせいで、ひどく辛いものと、ほとんど味のついていないものとがある。ハンバーグはかなり焦げていたし、サラダの野菜は大きさがバラバラで、煮物に至っては、落とし蓋をちゃんとしなかったせいで、煮えすぎた所と煮えていない所があった。
 だが、当人はその独創的な外観にも味にもまったく頓着していない。一応、同行するメンバー全員が食べられるように、かなりの分量を用意し、それをリュックに詰めると、着替えて待ち合わせの場所へと向かう。
 服装の方も、いろいろ迷ったあげく、下はミニスカートとスパッツ、上は長袖のTシャツとボレロ風のGジャンというものにした。動き易さ優先だ。
 彼女がネットカフェに着いた時には、すでに、雫と今回の同行者の一人、真名神慶悟が来ていた。雫は、Gパンと長袖のTシャツ、Gジャンという栗拾いらしいかっこうをしていたが、慶悟の方は、スーツ姿に手にしているのはクーラーバックだけという、なんだか場違いなスタイルだ。
(栗拾いよ? 山に登るのよ? 何か、勘違いしてない?)
思わず胸に呟いたものの、ほどなく到着した石和夏菜の姿に、彼女は破顔する。
 小柄な少女の夏菜は、高校生だ。長い黒髪をポニーテールにして、Gパンに長袖のTシャツとジャケットというなりで、そのまま登山が出来そうな底の厚い靴を履き、背中にはリュックを背負っていた。更に、その頭の上には、体長10センチほどの、マスコット人形のようなものが乗っていた。が、むろん人形ではない。今回の同行者の一人、露樹八重だ。背中に黒い二対の翼を持ち、ファンタジーに登場する魔道師のような黒いローブに身を包んだ彼女は、これでも時計屋の主人兼マスコットなのだ。その胸元には、大きな金の懐中時計が下がっている。
 彼らを見渡して、雫が言った。
「みんな集まったようだし、じゃ、行こっか」
こうして、この日の栗拾いは始まったのだった。

●岩瀬山ハイキングコース
 山梨の岩瀬山は、東京から電車で1時間と少しかかる。駅を出て、そこから登山道を幾つかのコースに分かれて登れるようになっていた。マリヱたちが選んだのはむろん、ハイキングコースである。
 それなりに歩き易いように整備された道の傍にも、何本も栗の木が立っており、草の影には固いイガに包まれた栗の実が落ちているのも見える。彼らと同じく栗拾いが目的らしい家族連れやカップルも見受けられ、あちこちではしゃいだ声が上がっている。
「わあっ! 一杯あるの!」
「本当でーす。来た甲斐があるでーす」
夏菜と八重が、はしゃいだ声を上げた。
「この上の方に、お弁当とか食べられる広場みたいなとこがあるらしいんだけど、どうする? 先にそこまで行って、荷物置いてから栗拾いする方が、身軽でいいんじゃないかな」
雫が、その二人の声を聞きながら、提案する。他の者はともかく、マリヱの異様に大きいリュックを気にしたのだろう。
「賛成! でも、荷物置きっぱなしで、大丈夫なの?」
夏菜が賛同したが、すぐに気づいて問うた。
「俺が式神に見張らせておこうか。それなら、大丈夫だろ」
「あ、それいいね。じゃ、決まり。ともかく、上まで行こう」
雫がうなずき、五人は栗拾いに興じる人々を尻目に、歩き始めた。
 30分ほど登ると、なるほど雫の言葉通り、山の斜面の大きく開けた場所に出た。そこにもすでに、ビニールシートを広げて、お菓子類をほうばっている子供たちやら、写真を取っている人々など、けっこう人がいた。
 マリヱたちも適当な場所にビニールシートを敷き、背中のリュックを降ろしてそのシートの上に、一塊になるよう置いた。慶悟がその周囲に結界を敷き、式神を一人、見張りにつけた。もちろん、これらは普通の人間の目には見えないが、彼ら五人以外の者が結界内に入ろうとすれば、反応し、絶対に近づけないようにしてくれるらしい。
 その広場からは、まだ上に向かって道が続いており、そちらにも栗はありそうだった。
「あたし、上の方に行ってみるわ。誰か、一緒に来る?」
マリヱが他のメンバーを見やって訊いた。
「じゃあ、一緒に行く!」
雫が言って、二人は他の三人と別れ、上への道を登り始めた。

●光るキノコ
 登り始めてしばらく行くと、道は途中でトレッキングをする人たちのためのコースにつながっており、その旨を示す看板が立てられていた。それと共に、栗の木も数が少なくなって行くようだ。
 そこで二人は、道を逸れて木々の間に分け入り、栗を拾おうということになった。
 ハイキングコースを選んだ人たちは、ここまでは上がって来ないのか、二人の他にほとんど人影もなく、おかげで地面に落ちた栗の実も拾われないままに放置されている。
「よくぞ秋にある国に生まれけり……って感じね♪」
マリヱは、嬉々として呟き、さっそくそれらを拾い始めた。
「栗のイガはね、こうやって、足で踏むと手を傷付けずに簡単に中身を取り出せるんだって」
雫が、意外と博識なところを見せて、実際に栗のイガの片側を足で踏んで栗を取り出してみせる。
「雫ちゃん、よく知ってるのね」
感心しながら、自分も真似てやってみる。たしかに、簡単に栗がイガから出て来た。用意して来たビニール袋にそれを入れ、更にあたりを見回す。
 視界に入る分の栗を拾い終えると、マリヱは更に意識を集中して体内に飼っている「蟲」の知らせに頼りつつ、更に栗を物色した。
 そうやって拾い続けるうちに、マリヱと雫は、いつの間にかハイキングコースの道をかなり逸れ、森の奥深くに入り込んでしまっていたようだ。栗拾いに夢中になっていたマリヱは、ふと顔を上げた。体内の「蟲」が、この先に危険があることを知らせている。視線を巡らせると、雫がずいぶん前の方を歩いているのが見えた。
「雫ちゃん、そろそろ引き返そうよ! あたし、下の道の方へも行ってみたい」
これ以上先へ行かない方がいいと判断して、そう声をかける。だが、雫は引き返そうとはしなかった。
「もうちょっと拾って行こうよ。向こうの方に、大きい栗の木が見えてるんだ。きっと、一杯実が成ってるよ」
「下にだって、一杯あるわよ」
「でも……」
何か返しかけた雫の姿が、ふいにマリヱの視界から消えた。
「雫ちゃん?!」
驚いて、マリヱはそちらへ走った。
 だが、「蟲」の激しい危険信号の知らせに、彼女は慌てて足を止めた。見れば、草むらの中、足元にぽっかりと大きな穴が開いている。彼女は、その場にひざまずくと、穴の中を覗き込んだ。
「雫ちゃん! いるの?! いるなら返事して!」
雫はここに落ちたに違いないと、彼女は声を張り上げる。
「いるよ! ここ、穴の中!」
すぐに、中から雫の声が返った。ホッとして、彼女は更に叫ぶ。
「大丈夫なの? 怪我とかしてない?」
「うん、平気。それよりね、ここ、すっごい綺麗なの。マリヱも降りて来てみなよ」
答える雫の声には、どこかはしゃぐ気配さえあった。それに気付いて、彼女は眉をひそめる。「蟲」の警告はまだ続いていた。つまり、「足元に穴があるから気をつけろ」ということではなく、穴の中そのものが危険だということだ。
「だめよ。何があるかわからないのに。この穴、深いの? 自力で登るのは無理?」
マリヱは、すぐさまかぶりをふって、問うた。ここから見た限りでは、穴の底は見えない。もし雫が自力で登るのが無理なら、下へ行って他の者を呼んで来た方がいいかもしれないとも考えた。
 だが、雫の方はまったく危険を感じていないらしい。
「自力で登れなくはないと思うけど……それより、ほんとに綺麗だから、マリヱも来てみてってば」
相変わらず、はしゃいだ声が返って来る。マリヱは、どうしようかと迷い、小さく溜息をついた。雫のことだ。たとえ誰かを呼んで来たところで、自分が納得しなければ、動こうとはしないだろう。
「わかったわ。あたしも降りるから」
しかたなく言って、そろそろと穴の縁に手をかけると、中へと降り始めた。
 降りて見ると、穴はさほど深くはなかった。底が見えなかったのは、穴が真っ直ぐではなく、途中で折れ曲がっているせいだったのだ。そして、そのせいでいきなり落ちたにも関わらず、雫も怪我がなかったのだろう。
 だが、そのことよりも穴の底に着いた途端、マリヱは目を見張り、声もなく周囲を見回した。
 穴の底にはかなりの広さの洞窟が広がっており、その壁といわず地面といわず、所々がぼんやりと青白く発光しているのだ。それが、洞窟内を淡い光で照らし出し、ひどく幻想的だった。
 しばし絶句した後、マリヱは身を屈め、足元で光っているものを見やった。それは、キノコだった。クラゲを思わせるカサの部分が、淡く発光しているのだ。だが、彼女がそれに触れようとすると、体内の「蟲」は危険信号を発した。どうやらこれは、毒キノコか何かのようだ。
「ね、綺麗でしょ?」
気づくと、雫が傍に来て、彼女を見下ろしていた。
「そうね。でも、たぶんこれ、毒キノコよ」
「え? そうなの?」
雫は、驚いたように問い返す。
「ええ。だから、触らない方がいいと思うわ。……そろそろ、戻ろう」
彼女はうなずいて言ったが、雫はどうにもそこから出たくないらしい。
 彼女が溜息をついた時、上から声が降って来た。
「おーい! 誰かいるかー!」
聞き覚えのない、男の声だ。だが、マリヱはとっさに答えていた。
「はい、います! こんな所に穴があるなんて知らなくて、落ちてしまったんです!」
「待ってろ、今、助けてやるからな!」
声と共に、ロープが垂らされた。二人とも、どこも怪我がないので、これで楽に上に戻れるだろう。
 マリヱは、雫をふり返って促した。しかたなく、彼女もうなずく。
 やがて二人は、垂らされたロープを手がかりに穴を登り、上へ出た。
 その二人を迎えてくれたのは、地元の人らしい50がらみの男だった。なんでも、このすぐ近くにある自分の山へ、椎茸採りに来て、彼女たちの姿を見かけ、穴のことを知っていたので、注意しようと追いかけて来たのだと言う。
 雫が、あの発光していたキノコのことを訊くと、男は笑い出した。
「あれは、毒キノコだ。食べると幻覚を起こす作用がある。見た目は綺麗だけどなあ」
言って、男は二人にキノコがほしいならと、持っていたカゴの中から採ったばかりの椎茸を少しずつだが分けてくれた。
「いいんですか? いただいても」
「ああ、たくさん採れたからな」
驚いて問うマリヱに、男は笑ってうなずく。
「ありがとうございます!」
雫は、遠慮するそぶりも見せずに受け取って、元気に礼を言った。マリヱも、ためらいがちに受け取る。
 男は、そんな二人に気をつけろと言い残して、立ち去って行った。
 二人は男を見送り、思わず顔を見合わせる。
「そろそろ、戻ろうか。なんか、お腹すいちゃった」
雫が言い出した。マリヱの方は、さして空腹でもなかったが、そろそろ荷物を置いた場所に戻った方がいいとは思っていたので、うなずく。
 二人は、そのまま来た道を戻り始めた。

●山の散策
 マリヱと雫が荷物の所に戻ってみると、他の三人の姿はまだなかった。だが、周囲では、そろそろ弁当を広げている姿も目立つ。そこでとりあえず二人は、自分たちが持って来た弁当だけでも広げてしまうことにした。
 マリヱが、リュックの中から弁当を取り出すと、雫はその多さに目を丸くした。
「リュックが大きかったのって、お弁当をたくさん入れてたからなんだ」
「そうよ。みんな、あたしの手作りよ」
「そうなんだ。どんなお弁当かな。楽しみだね。……そういえば、真名神さん、お弁当持って来てないって言ってたから、たくさんあったら、きっと喜ぶよ」
少しだけ自慢げに胸を張るマリヱに、雫が目を輝かせて言う。
 そこへ、慶悟と夏菜、八重の三人も戻って来た。夏菜も自分の弁当をリュックから出して広げる。こちらも、一人分にしては、やや多めだ。どうやら、八重の分も含まれているらしい。
 それを見やってマリヱは、自分の作った分も好きに食べてくれていいからと声をかけ、そこを離れて、山の散策に向かった。
 さほど空腹感は覚えていなかったし、せっかく来たのだから、栗を拾う以外にも山の中を見てみたかったのだ。
 彼女たちが通って来たハイキングコースは、斜面の東側に位置していたが、西側にも尾瀬へと降りて行く細い道があった。こちらは、整備されておらず、おそらく地元の人たちや、本格的な登山をする人たちだけしか使わない道なのだろう。
 彼女は、その道を降り始めた。途中、「蟲」の知らせで見つけた兎の後を追いかけてみたりもする。高く青々と澄み切った空の下を渡る風は、さわやかで心地良く、どこか秋の香りを漂わせていた。
 しばらく兎を追いかけて走った後、再び道に戻った彼女は、そのまま下の尾瀬まで降りた。重い靴を脱ぎ、小さな流れに入ってみる。水は冷たく、気持ちよかった。時おり、澄んだ水の中を、銀色の魚の影がよぎる。自然と、唇に笑みがこぼれた。小さい子供のように、わざと水の中で足を大きく動かし、しぶきが跳ねるのを楽しむ。
 そんなことをして、しばらく遊んでいたが、ふと風が出て来たのを感じて、彼女は空をふり仰いだ。
(そろそろ、みんなのところへ戻らなくちゃ)
あまり遅くなると心配させてしまうだろう。彼女は水から出て、足が乾くのを待つと、靴を履き、道を戻り始めた。だが、戻りながらも、彼女は久しぶりの開放感を味わっていた。

●帰りの列車にて
 マリヱが雫たちのいる場所に戻ると、彼らはすでに弁当を食べ終えていた。
 彼女が作ったものは、ほとんど残っていた。マリヱは、不思議に思ったものの、夏菜も多めに作って来ていたし、それであまったのだろうと考え、おにぎりとハンバーグを少しだけつまんで、後はかたずけてしまった。
 弁当を食べた後も、もうしばらく栗拾いを続け、やがて、3時ごろには五人は山を降りた。電車を待つ間に、慶悟が公衆でどこかへ電話しているのを見て、マリヱは首をかしげる。何かあったのかと夏菜に問うと、彼女は午前中の栗拾いの時に、手負いの熊と密猟者に出会ったのだと教えてくれた。慶悟は、それを警察に知らせているのだという。
 栗は、かなりの大漁だった。「蟲」の知らせに頼ったおかげだろうか。
 帰りの列車の中では、栗を使った料理の話になった。
「私は、やっぱり栗ご飯と……モンブラン、作ってみようかなあって思ってるんだ」
「それいいでーす。あたしも食べたいでーす」
雫の言葉に、八重が声を張り上げる。彼女は、今は夏菜の膝の上にちょこんと腰を降ろしていた。
「じゃあ、食べに来る?」
「え? いいんでーすか?」
「ねえねえ、それより、雫ちゃん、モンブランの作り方知ってるなら、教えてよ」
マリヱは思いついて言った。
「それ、私も教えてほしいの」
夏菜も声を上げた。
「じゃあ、明日、みんなで一緒に作るっていうのはどう?」
雫が提案した。むろん、彼女たちに否やはない。
 女性陣が賛同したところで、雫は慶悟をふり返った。
「真名神さんは、どうする?」
「俺はいいよ。……今度、レシピだけ教えてくれるかな」
問われて、彼は笑顔で答えた。その笑いが、少しひきつっていたような気がして、マリヱは首をかしげる。だが、雫は気づかなかったようだ。うなずいて、再びおしゃべりに戻る。
話題は更に、他の栗料理へと移って行った。それに興じながら、マリヱは小さく満足の溜息をつく。明日も雫たちとお菓子作りをするのなら、ほとんど一日がつぶれてしまうかもしれない。それでも、こんな風にたわいないおしゃべりや、お菓子作りを楽しめるのは、女だけに与えられた特権だと彼女は思う。もちろん、仕事の上では、それがわずらわしく感じることもあったけれども。
それでも、こんな休暇の過ごし方は、悪くない。休暇の残り日数を数え、彼女は小さく微笑んだ。
(短い休暇だけど、日本に戻って来てよかった。パリやロンドンで、ショッピングを楽しむのも悪くないけど……こういうのって、格別、よね)
小さく胸に呟き、彼女は車窓から見える景色をふり仰いだ。
 おしゃべりに興じる彼らを乗せて、列車はただ、東京めざして走り続けていた。

●後日談
 日本での休暇の最後の一日を、マリヱは栗と格闘して過ごした。
 栗拾いの翌日、雫の家に集まって、彼女たちと共に作ったモンブランを、もう一度作ってみようと考えたのだ。レシピはしっかり頭の中に入っている。
 そうやって出来上がったモンブランは、形は少々いびつになってしまったものの、味はまあまあだった。そこで、更にもう少し多めに作って、明日の朝、空港へ見送りに来てくれるはずの、モデル事務所のスタッフに渡して事務所のみんなにも食べてもらおうと思いつく。だが、彼女は後から作ったモンブランが、砂糖と塩を取り違えて入れたために、激烈に塩辛いものになっているとは、まったく気づいていなかった――。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0389/真名神慶悟/男性/20歳/陰陽師】
【0442/美貴神マリヱ/女性/23歳/モデル】
【1009/露樹八重/女性/910歳/時計屋主人兼マスコット】
【0921/石和夏菜/女性/17歳/高校生】

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■         ライター通信          ■
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依頼に参加していただいて、ありがとうございます。
ちょぴりハプニング付きの栗拾いでしたが、楽しんでいただければ幸いです。
また、蛇足になるかな、とも思いましたが、拾った栗をどうしたかについて
書いて下さっていた方が多かったので、後日談をつけてみました。
いかがだったでしょうか?

美貴神マリヱさま、はじめまして。
マリヱさまのみ、趣向を変えて、他メンバーと別行動という形にさせていただきましたが、
いかがだったでしょうか?
またの機会がありましたら、その時には、よろしくお願いします。