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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【2】
●オープニング【0】
「何でこう色々と事件が起きるんだろうね」
 新学期も始まり20日ほどが過ぎたある日、鏡綾女がぼそりとつぶやいた。いつもの『情報研究会』部室でのことである。
 冬美原には相変わらず噂が流れ続けている。それに加え先月には嫌な事件も起こっていた。いや、嫌なのは天川高校に通う者だけかもしれない。何せ生徒が、麗安寺で自殺未遂を起こしたのだから。
「ねえ、また調べてきてくれないかなあ? 前のように、調べる内容は任せるから」
 綾女が手を合わせ、こちらにそう頼んできた。それがお願いのポーズをとってはいるが、ある意味強制なのは明白だった。別にどうだっていいことでもあるが。
 気になることがあるのは、こちらも同様なのだから。

●居た理由【3D】
 冬美原駅より西方にしばらく歩き、最初にぶつかる大きな幹線道路を越えた所に、冬美原総合病院がある。昔は旧市街にあったのだが、患者が増えて手狭になってきたのと設備の刷新のために、5年前にこちらの新市街へ引っ越してきたのである。それゆえに規模は大きめで、医療水準も高いとの評判であった。
 その冬美原総合病院を目指して歩く、金髪でスーツ姿の青年の姿があった。陰陽師・真名神慶悟である。別に治療を受けに行く訳ではない。慶悟には、とある目的があったのだ。
(あの時、自殺を図ったあの高校生が、何故麗安寺に居たか、だな)
 先月の肝試しの夜、慶悟の目の前に飛び出してきて、左肩を出刃包丁で突き刺して自殺を図ろうとした少年が居た。その少年が入院しているのが、今慶悟の向かっている冬美原総合病院なのである。
(行方不明だった高校生が潜伏するには不自然だ。時期柄、墓参りもあっただろう。ましてや、あの住職が気付かない訳もあるまい……あの時、あの場所に居た理由……)
 思案顔で歩き続ける慶悟。頭の中に疑問が渦巻いていた。何故麗安寺だったのか、それが慶悟には気になっているようである。
(肝試しの時間にだけ居たのか。あの時他の連中を襲った理由は何だ? ただの自棄か?)
 少年の行動には不可解な点が多すぎる。しかし、1人で考え続けても答えは出てこない。ここはやはり、少年自身の口から理由を聞かねばならないだろう。
「確か名前は……」
 慶悟は先程調べたばかりの、少年の名前を口にした。少年の名は、古畑正平(ふるはた・しょうへい)といった――。

●病院にて【4A】
 冬美原総合病院。その1階にある受付では、見舞い客が病室を尋ねる光景がよく目にされていた。そして今もまた、病室を尋ねようとする見舞い客が受付にやってきていた。1人は花束を抱えた金髪で着物姿の女性、もう1人は金髪でスーツ姿の青年である。
「申し訳ありません。先月こちらへ入院されました古畑正平様の病室は……」
「すまないが、先月ここに入院した古畑という少年の病室を……」
 ほぼ同時にそんな言葉が発せられ、受付に居た女性と青年は驚いたように相手の顔を見ようとした。
「あら……」
「……奇遇と言うべきか、陰陽の導きと言うべきか」
 女性の方は草壁さくら、青年の方は真名神慶悟。先月の肝試しの夜に、正平の自殺未遂の瞬間を目の前で見ていた者のうちの2人である。
 2人が驚いている間に、受付の女性から答えが返ってきた。
「古畑さんの病室でしたら7階の731号室ですけれど、面会は出来ませんよ」
「どういうことだ?」
 尋ね返す慶悟。受付の女性は、表情も変えずに言葉を続けた。
「面会謝絶ですから」
「面会謝絶……」
 さくらが受付の女性の言葉を口の中で繰り返した。
「お見舞いの品があるようでしたら、ナースステーションにお預けください」
 受付の女性の言葉を聞いた後、2人は受付を離れエレベーターホールへと歩いていった。
「容態は思わしくないのでしょうか」
 神妙な表情のさくら。だが慶悟はそれを否定した。
「いや。俺たちが目の前で見ていた限りでは、外傷は左肩だけだったはずだ。それだけで面会謝絶とは到底思えん。何か他にあるのか……?」
「失礼だが」
 と、そこに通りがかった、細身で腰まである黒髪長髪の青年――いや、男装をした女性が2人に話しかけてきた。
「ひょっとして、先月の自殺未遂事件を目撃した者なのだろうか?」
「……そうだが?」
 慶悟が怪訝な表情を浮かべ答えた。さくらも言葉こそ発していないが、警戒しているようである。
「実は……」
 その女性、鴻鴎院静夜は訳あって自殺未遂事件について調べていることを慶悟とさくらに話し、よければその時の状況について教えてほしいと申し出てきた。
「確かあの時は、突然物陰から飛び出てこられて……持っていた出刃包丁で自らの左肩を刺されたんです」
 さくらが当日の状況を思い出しながら静夜に説明する。慶悟は時折それを補足していた。
「……なるほど。それで今は面会謝絶か。申し訳ない、役に立つ話だった」
 静夜は表情を変えぬまま2人に頭を下げると、足早に正面玄関の方へと戻っていった。
「不思議な方でしたが……」
 さくらが静夜の後姿を見ながらつぶやいた。
「ただ者ではなさそうだ」
 小さく頷く慶悟。
(ただ者じゃない……)
 同様のことは、正面玄関へ戻る静夜も感じていた。

●面会謝絶【4B】
 7階へ上がった2人はナースステーションの前を通って、731号室へ向かった。そこには正平の名前だけが書かれていたが、扉には『面会謝絶』と書かれた札が下げられていた。
「これではいつお会い出来るかも分かりませんね……」
 正平が自殺を図った理由を話してくれるまで根気よく病院へ通うつもりのさくらだったが、面会謝絶ではそれもままならない。会えないことには話にならないのだから。
「会えぬなら、探ってみよう、ホトトギス……か」
 慶悟は懐から呪符を取り出すと、その場にしゃがみ込み、扉の下の僅かな隙間からその呪符を病室の中へ投げ入れた。
「? 何をされたんですか?」
「式神を送り込んだ。少なくとも様子を窺うことは出来る……うわ言でも聞ければいいんだが」
 それからさくらはナースステーションに花束を預け、2人はエレベーターに乗って1階ロビーへと戻っていった。

●病室の様子【4C】
 1階ロビーに戻った2人は、そのまま長椅子に座っていた。式神の見聞きした事柄は慶悟にも伝わってくる。それを待っているのだ。
「……何だ、これは?」
 急に慶悟が眉をひそめた。式神の見た物が伝わってきたのだろう。
「どうして腕がベッドに紐で括りつけられているんだ?」
「はい?」
 さくらは慶悟の言葉に耳を疑った。慶悟が説明するには、正平の右腕が紐でベッドに括りつけられているのだという。そして正平の身体の方だが、先月の肝試しの時よりもやや頬がこけたように見え、目も虚ろだということだった。
「何かつぶやいてるか……『あれを……俺にあれを……あれがないと……俺の……あれが欲しい……あれを……』」
 慶悟が正平のつぶやきを、そのまま口に出した。さくらはそれに耳を傾ける。
「……眠ったようだ」
 そう言って小さく息を吐く慶悟。
「『あれ』とは何なのでしょう」
 首を傾げるさくら。今の言葉の中で『あれ』は5回も出てきている。素直に考えれば、正平にとって『あれ』とは重要な物なのかもしれない。が、肝心な固有名詞が出てきていないのだから質が悪い。
「分からない。しかしうわ言で言うくらいだからな」
「……恐らくはその『あれ』が、彼を自殺へ追い詰めた原因になっているのかもしれませんね」
 さくらが口元をぎゅっと結んだ。
「ただ、霊的に何かあるとは感じられない。それ以外の何かだろう」
「そうですか……」
 慶悟の言葉を聞き、さくらは少し安堵したようだった。何かに憑かれてはいないというのは、不幸中の幸いと言えようか。
 それから2人は冬美原総合病院を出ると、冬美原駅まで戻っていった。そこでさくらは駅前の『ROSY−8』にてお土産を買いに行き、慶悟はそのまま旧市街へと消えていった――。

●麗安寺へ【9C】
 夜――慶悟は麗安寺を1人で訪れていた。もう1度境内や墓地を見ておこうと思ったからだ。ちなみに周辺はすでに見終わっていた。
「アナザー冬美原の入り方……麗安寺の存在しないはずの道の噂……行方不明という単語……。常ならざる場所への神隠しの伝承は古来からある……異形に攫われ気が触れた者の話も聞く……」
 明かりもなく墓地を歩く慶悟。鋭い視線で周囲の様子を窺っていた。
「行方不明の彼は出てきた訳だが……麗安寺で発見したことといい、同寺の存在しないはずの道の話といい、ここには何かあるのか……?」
 やはり慶悟にはこの麗安寺が気になるようだった。それは先程、ここの門をくぐった時により強くなっていた。
「それに、だ」
 立ち止まり、周囲をくるりと見回す慶悟。門をくぐった時、慶悟は微妙な違和感を感じていた。それは肝試しの夜には感じられなかった感覚――ある種の結界にも似た感覚で。

【噂を追って【2】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 12、3? / 高校生/男娼 】
【 1045 / 鴻鴎院・静夜(こうおういん・せいや)
              / 女 / 20代? / 古本屋の店主 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全37場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。やはり今回も多方面に広がる展開になったなと感じました。ですので、人によってお話の傾向がまるで異なっていますね。
・今回のお話では、情報封鎖の対象となっている情報がいくつかありますので、取り扱いにはご注意ください。中には洒落にならない情報もありますので……。
・今月の12日から14日にかけて行われる東イベ9に、高原は全日参加いたします。冬美原に関する質問等がありましたら、どうぞその場で遠慮なくぶつけてみてください。答えられる範囲内でお答えしたいと思います。また、会場のみで参加可能な依頼もありますので、東イベに参加される方はどうぞお楽しみに。
・真名神慶悟さん、22度目のご参加ありがとうございます。麗安寺が気になりますか? 面会出来ない場合を想定していたのはよかったと思います。なお、【4C】での情報は情報封鎖の対象となっています。現時点では慶悟さんか、さくらさんが噂として流さない限り、冬美原に情報としては決して流れることはありませんので。流すかどうかはご自身の判断にお任せします。ちなみに特定の個人にだけ知らせることは可能です。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。