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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【2】
●オープニング【0】
「何でこう色々と事件が起きるんだろうね」
 新学期も始まり20日ほどが過ぎたある日、鏡綾女がぼそりとつぶやいた。いつもの『情報研究会』部室でのことである。
 冬美原には相変わらず噂が流れ続けている。それに加え先月には嫌な事件も起こっていた。いや、嫌なのは天川高校に通う者だけかもしれない。何せ生徒が、麗安寺で自殺未遂を起こしたのだから。
「ねえ、また調べてきてくれないかなあ? 前のように、調べる内容は任せるから」
 綾女が手を合わせ、こちらにそう頼んできた。それがお願いのポーズをとってはいるが、ある意味強制なのは明白だった。別にどうだっていいことでもあるが。
 気になることがあるのは、こちらも同様なのだから。

●偵察【2B】
「居る居る……どこに隠れてたんか知らんけど」
 麗安寺へと繋がる石段より少し離れた場所に、物陰に隠れていた1人の少女の姿があった。高校生ギャンブラー・南宮寺天音である。
 天音の視線の先は石段の前に向けられていた。そこには数人ほどの少女の姿があり、全員が石段を上ってゆく青年と少女の姿をじっと見上げていた。若干の敵意を含むような視線で。ちなみに青年と少女は、先月の肝試しの夜に麗安寺に居た倉実鈴波と志神みかねの2人である。
(あれが噂のファンクラブの連中なんやろな)
 何故に天音が物陰に隠れて様子を窺っているのか。それは麗安寺の住職・麗安寺宗全のファンクラブの出方を探るためであった。
 肝試しから1ヶ月が経った間に、冬美原では宗全が『秘密組織のエージェント』であるといった噂が流れていた。まあ世に流れるほとんどの噂は噂に過ぎなく、冬美原の住人のほとんどもその噂を聞き流していたのだが、ファンクラブの反応は違っていた。『嘘を流すな!』と激怒したのである。
 そういう話を耳にしていたので、宗全に用事のあった天音は様子を窺うことにしたのだが……それで正解だったようだ。こうしてファンクラブが警戒していることが分かったのだから。
「厄介やな。放っておいたら、話の最中に介入されんとも限らんし」
 思案顔の天音。先月みたいに、話の最中に邪魔をされることは何としても避けたかった。
(……夜に出直しやな)
 天音はここは一旦引くことを決めた。駅前でしばらく時間を潰しながら、ファンクラブをどうにかする方法を考えるために。

●毒には毒を!【6B】
 夕刻の冬美原駅前。天音はファンクラブの排除方法を考えつつ、時間を潰していた。しかしいい案が浮かんでこない。そのうちに夜になり、再度麗安寺へ向かおうとしているのに、だ。
「何とかせんとあかんのやけどなあ……」
 まあ自らの強運を使えば、ファンクラブに邪魔されることなく麗安寺に入れるだろう。が、揺り戻しで会話の邪魔をされては何の意味もない。
 何気なくノートを開く天音。そこには『上6回、左4回、右3回』等という書き込みもあったが、別に排除するためのアイデアが書かれている訳でもなかった。
 が、そんな天音の前に幸運が訪れた。いや、悪運かもしれないが。駅前に養老南の姿があったのだ。久々に見る南の姿である。
「……毒には毒を、か。ええかもしれんな」
 天音はすぐさま南の元へ向かった。

●利害の一致【6C】
「天音ちゃんニョ〜、久し振りニャ〜」
 可愛らしく手を振る南。天音は笑顔を浮かべ、南のそばへやってきた。
「ぶしつけで何やけど、ちょっと手伝ってほしいことがあるんよ」
 余計な挨拶を省き、天音は即座に本題を切り出した。
「手伝いニャ?」
「せや。あんなぁ……ずっと向こうの方に、麗安寺ってあるやろ。そこの住職にファンクラブがあってな……ちょおっと邪魔なんや」
「ウン、ウン、邪魔ニャ?」
「……何とかしてくれへん?」
 にっこり微笑んで言う天音。南は目をぱちくりとさせたが、すぐに唇をぺろりと舐めて言った。
「何とかすればいいニョ?」
「方法は任せる。仕事終わったら、甘いもん食べさせてもええで」
「分かったニャ。よく分からないけど、やっちゃうニャ。やってしまうのニャ、ニヘヘヘ」
 交渉成立の瞬間であった。

●対峙【8A】
 夜になり、天音は再び麗安寺へとやってきていた。石段の前、そこにはもうファンクラブの少女たちの姿は見当たらなくなっていた。
「んー、やってみるもんやなあ」
 天音は満足げに頷くと、薄暗い石段を上っていった。ファンクラブの警戒は解けたとはいえ、行動は迅速にやらねばならなかった。
 石段を上り、門をくぐる天音。そのまま本堂の方へと向かった。
「こんばんはー」
 よく聞こえるよう、大きな声で挨拶をする天音。ややあって、宗全が姿を現す。
「おや……あなたは。どうしましたか、また何かお話でもあるというのですか」
 宗全は静かに語りかけてきた。天音はじっと宗全を見つめたまま、口を開いた。
「前回の話の続きでやってきたんや。この間は、とんだ邪魔が入ったしな」
 一瞬の沈黙。
「お入りなさい」
 宗全が短く答えた。

●天音の仮説【9A】
 前回と同じく、宗全の部屋に通された天音は出されたお茶に口をつけるのもそこそこに、話を切り出していった。
「少し前のことや。うちは城址公園で1人の少女に出会った。うちと同じくらいの年頃の、鮮やかな色の着物に身を包んだ姫君や」
 そこまで話し、天音は宗全の反応を窺った。宗全は眉を僅かにピクッと動かしただけだった。
「ほう……それで?」
「それでその直後や。冬美原を地震が襲ったのは」
「ああ、ありましたね。そういうことも」
 他人事のように答える宗全。上手く話を運ばないと、はぐらかされてしまいそうだ。
「……うちの推理聞いてもらえるやろか」
「伺いましょう」
 にこり微笑み宗全が言った。
「たぶんうちが会ったんは、桜花姫やないかと思う。その桜花姫は、この冬美原を鎮護する何物かに触れてしもて、それを目覚めさせてしまったんやないやろか。そしてその物の力は強く、2つの神社を焼失させてしまうものであり、桜花姫は人柱として捧げられたんとちゃうんやろか? それやったら、名前が抹殺されたのも頷けるんや」
 一気に推理を話す天音。それを宗全は黙って聞いていた。
「うちはそれがどんなに残酷な物であっても真実を知りたいんや。手遅れにならないうちにな」
 天音は睨み付けるように宗全を見た。宗全が何も話そうとしなければ最終手段に出るつもりで。
「なるほど……大変面白い推理でした」
 宗全は静かに言った。
「ですが、その推理は間違っていますね」
「……何やて?」
 天音が眉をひそめた。いったいどこがどう間違っているというのか。
「それやったら、間違ってる所を指摘してんか」
「その推理が正しいのでしたら、名前を抹殺するどころか、きちんと名前を残す必要があったでしょう。目覚めさせてしまったことはあれだとしても、冬美原のために犠牲となったのですからね」
 宗全の言い分も、ある意味間違ってはいなかった。
「その推理を真実にしたい所ですが、真実は異なりますよ。……後悔しませんか?」
「くどい」
 きっぱりと言い切る天音。宗全は小さく息を吐くと、意を決したかのように話し出した。
「そもそも肝心要な部分が間違っているんです、あなたの推理は。何故ならば、2つの神社を焼失させたのは、桜花姫その方自身なのですから――」

●語られた真実【9B】
「なっ……!」
 天音が絶句した。さすがに桜花姫自らが焼失させたとは思わなかったのかもしれない。
「病弱だった桜花姫は……心に異常をきたして、城を抜け出して東西の神薙神社を焼き払ってしまったのですよ。こんな歴史を表に出せると、あなたは思いますか?」
「せやから名前が抹消されて……そうや、最初からなかったことにしたんやな!」
「そういうことでしょう」
「けど……何でそこまで宗全さんが知っとるんや。代々の申し送り事項なんか? それとも……あんた、いったい何者なんや?」
 疑うような天音の眼差し。考えてみれば、この宗全自身にも謎は多いのだ。
「ただの住職ですよ。冬美原の平和を願う……ね」
 笑みを浮かべる宗全。その表情からは何を考えているのか、残念ながら天音は読み取ることが出来なかった。
「何かあればいつでもおいでなさい。私の知る限りのことは、お話しいたしましょう。ですが……これであなたは爆弾を抱えたようなものですよ。いつ爆発してもおかしくはない、取り扱いに注意を要する爆弾を」

【噂を追って【2】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 12、3? / 高校生/男娼 】
【 1045 / 鴻鴎院・静夜(こうおういん・せいや)
              / 女 / 20代? / 古本屋の店主 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全37場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。やはり今回も多方面に広がる展開になったなと感じました。ですので、人によってお話の傾向がまるで異なっていますね。
・今回のお話では、情報封鎖の対象となっている情報がいくつかありますので、取り扱いにはご注意ください。中には洒落にならない情報もありますので……。
・今月の12日から14日にかけて行われる東イベ9に、高原は全日参加いたします。冬美原に関する質問等がありましたら、どうぞその場で遠慮なくぶつけてみてください。答えられる範囲内でお答えしたいと思います。また、会場のみで参加可能な依頼もありますので、東イベに参加される方はどうぞお楽しみに。
・南宮寺天音さん、11度目のご参加ありがとうございます。おめでとうございます、天音さんは冬美原に隠された秘密の1つを握る人間となりました。それにしても、大胆な仮説でしたね。なお、【9A】と【9B】での情報は情報封鎖の対象となっています。現時点では天音さんが噂として流さない限り、冬美原に情報としては決して流れることはありませんので。流すかどうかはご自身の判断にお任せします。ちなみに特定の個人にだけ知らせることは可能です。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。