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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【2】
●オープニング【0】
「何でこう色々と事件が起きるんだろうね」
 新学期も始まり20日ほどが過ぎたある日、鏡綾女がぼそりとつぶやいた。いつもの『情報研究会』部室でのことである。
 冬美原には相変わらず噂が流れ続けている。それに加え先月には嫌な事件も起こっていた。いや、嫌なのは天川高校に通う者だけかもしれない。何せ生徒が、麗安寺で自殺未遂を起こしたのだから。
「ねえ、また調べてきてくれないかなあ? 前のように、調べる内容は任せるから」
 綾女が手を合わせ、こちらにそう頼んできた。それがお願いのポーズをとってはいるが、ある意味強制なのは明白だった。別にどうだっていいことでもあるが。
 気になることがあるのは、こちらも同様なのだから。

●いざ海岸へ【3G】
 冬美原駅――改札を抜けてくる乗客の波の中に、長く緩いウェーブのかかった髪を後ろで束ねている青年の姿があった。バー『ケイオス・シーカー』経営者にしてバーテンダーの九尾桐伯である。
 桐伯は約1ヶ月振りにここ、冬美原を訪れていた。麗安寺での肝試し以来である。もっともその肝試しは、最後にとある少年による自殺未遂事件が起こってしまったために、複雑な締めくくり方になってしまったのだが。ただ、桐伯がその場に居なければ、自殺未遂から未遂の2文字が取れてしまっていたかもしれない。
「さて、鈴浦海岸行きのバスは……」
 駅構内の案内標識を見上げる桐伯。バスターミナルは東口と西口のどちらにもあったが、鈴浦海岸行きのバスが出ているのは西口の方であった。さっそく西口へと向かう桐伯。
 夏も過ぎ秋に入った今、どうして桐伯は鈴浦海岸へ行こうというのか。それには理由があった。
 先月訪れた際に桐伯は、とある噂を耳にしていたのである。その噂とは、鈴浦海岸に昔咲いていたという奇妙な白い花のことだった。
(どう奇妙なのか、興味がありますね)
 一口に奇妙といっても、それは様々である。噂では奇妙なのは形だそうだが、丸いのか四角いのか、それともねじ曲がっているのか。こればかりは実物を見てみないと分からない。
「とりあえず、噂の発信源らしき老人を探してみましょうか」
 噂というのは発信源が特定出来ないことも多いのだが、運のいいことにこの噂に関してはある程度特定されていた。分かっているのは2つ。老人であることと、海岸に居たということ。それもあって桐伯は鈴浦海岸へ向かおうとしていたのである。
 西口を出て、桐伯はバスターミナルの鈴浦海岸行きのバスが出る乗り場へ向かった。そこにはバスが来るのを待っている女性、巳主神冴那の姿があった。手には籠を抱えていた。
「おや、奇遇ですね」
「……あなたも不思議なお花、探しに来たのかしら?」
 会釈し、冴那が桐伯に話しかけた。
「目的は同じですか」
 苦笑する桐伯。行き先が同じようなのだから、目的もそうなるだろう。かくして2人は、5分ほどしてやってきたバスに乗って鈴浦海岸へと向かった。

●白い花を探して【4D】
 バスにしばらく揺られ、桐伯と冴那は終点の鈴浦海岸前バス停に到着した。終点まで乗っていたのは、桐伯と冴那の2人だけであった。
 バスを降りると、すぐに海岸が見渡せた。
「先月とまるで違うわね……」
 感想を漏らす冴那。先月ここを訪れた時はシーズン真っ直中ということもあり、海岸は人で埋め尽くされていた。しかし今はオフシーズンに入ったためか、人影はまるで見られなかった。
「サーフィンをしているような方も居られないようですか」
 桐伯は沖の方にも目をやってつぶやいた。確かにサーフィンをしているような者の姿はない。この海岸の波が、サーフィンには適していないのかもしれない。見た目には穏やかそうな海面であった。
 2人は海岸へと降り立ち、周囲を見回してみた。やはり人影は見られない。
「人が居ないと老人を見つけるのは早いでしょうが、聞き込みはさっぱりですね」
 そう言って笑う桐伯。ある意味これは笑いたくなる状況である。
「秘する花……探すにはもってこいの舞台……見付けられたら幸運よね……?」
 冴那は抱えていた籠を砂の上に降ろし、留め金を外して蓋を開いた。籠の中から、数匹の蛇たちが姿を現した。
「……白い花、探していらっしゃい……」
 冴那は蛇たちに探索を命じ、海岸へと放った。
「では、私たちは老人を探しましょうか。真偽を確かめることも必要でしょうし」
 桐伯の提案に冴那も頷いた。そして砂浜を歩き出す2人。人気がないからだろうか、2人とも歩みはのんびりとしたものだった。
「光る砂……も何か関係あるのかしら?」
 砂浜を見つめ、不意に冴那がつぶやいた。
「そういう噂もありましたね。面白くない答えを返すならば、砂金という可能性もあるのでしょうが」
「なら、面白い答えは何かしら……?」
「砂のごとき酒でしたら、1度お目にかかってみたいものです。美味であれば、なお言うことはありませんけれど」
 桐伯はさらりと答えた。さすがはバーテンダーと言うべきか。
 さらに砂浜を歩いてゆく2人。だが老人はおろか、人影すら一向に見当たらない。
「月下にしか咲かない花……彼岸に咲く花……巡りし時、場所を選ぶ花はあるけれど……絶えて久しい花……果たして出会うことはできるのかしら……」
 ぼそぼそっと冴那がつぶやく。しかしそのつぶやきには焦りの色は皆無で、余裕すら感じられた。それは桐伯の方も同様であった。
「うん?」
 桐伯が突然歩みを止めた。視線はすでに閉じられた海の家の方を向いていた。
「どうかしたの……?」
「いえ、今向こうで何か……」
 そう言って桐伯が海の家の方へ歩き出した。冴那もその後を追いかけていった。

●撃退【4E】
「おら、ジジイ! いい加減に話せよ!」
「知ってんだろ? 花の咲いてる場所をよぉ……もっと俺らに痛めつけられたいってのか、ああっ?」
 海の家の裏手、そこでは怪し気な風体をした4人組の男が、寄ってたかって1人の老人に殴る蹴るの暴行を加えている所であった。
「は……話さんぞいっ! お前らみたいな奴らに、話すつもりは毛頭ないわいっ!!」
「兄貴、どうします?」
「へっ、もっと痛めつけてやりゃ、その考えも変わるだろうさ」
 兄貴と呼ばれたリーダー格らしき男が、他の3人の男に言った。4人の男が下衆な笑みを浮かべる。
「ジジイ、その強がりがどこまで通用するかなっ!」
 そして1人の男が拳を振り上げた時だった。どこからともなく糸が放たれて、その男の腕に絡み付いたのだ。
「な、何だ!?」
「老人への乱暴を、見過ごす訳にはゆきませんね」
 物陰から桐伯が姿を現した。手には男の腕に絡み付いている糸の一方が握られていた。
「てめえ……邪魔すんじゃねえ! とっとと解きやがれ!!」
「そうですか。そうまで言うのなら、解いて差し上げましょう」
 桐伯は男たちに冷たい笑みを見せて――糸を発火させた。可燃性の糸だったためにたちまちに燃え上がり、男にも火が燃え移ろうとしていた。
「あーっちゃちゃちゃちゃちゃあっ!!!」
 逃げ惑う男。一目散に海へと向かっていった。
「このっ……ただじゃおかねえっ!!」
 そして他の3人が桐伯へ襲いかかろうとした時だ。3人は同時に足に痛みを感じた。
「な……んだあっ!?」
「兄貴! へ……蛇だっ!!」
 そう、いつの間にやら、3人の男たちの足に蛇たちが絡み付き、噛み付いていたのである。そこに反対側から冴那が姿を見せた。
「蛇の毒……一度体内に入れば、血流に乗って瞬く間に全身を巡ってゆく……」
 静かに語る冴那。男たちの顔が強張った。
「……生命を奪い去るまでさほど時を要しない毒もあれば、そうでない毒もある……ふふ、この子たちはどちらなのかしら……」
「あ……兄貴ぃ……」
「びょ、病院だ! 病院行くぞ!!」
 蛇たちに噛み付かれたことが効いたのだろう。男たちは蜘蛛の子を散らすように、その場から逃げ出していった。
「運がいいわ……今日は毒を持っていない子たちしか連れてきていなかったのだから……」
 男たちが去った後、冴那は蛇たちを抱え上げ、優しく頭部を撫でてあげた。
「大丈夫ですか?」
 桐伯はハンカチを取り出して、老人へと差し出した。唇の端等に血が滲んでいたからだ。
「ああ、ありがとうな……助かったわい。何と礼を申していいか分からんよ……」
 老人はハンカチで血を拭いながら言った。
「いえ、礼はいりませんよ。ところで、花がどうとかと……?」
「あいつらはな、光妖花の噂を聞き付けて、わしに咲いている場所を教えろと迫ってきたんじゃよ。それを断ったらこのざまだわい……おお、そうだ!」
 突然、老人が叫んだ。
「礼といっては何じゃが、あんたらにその光妖花を見せてやろう! ちょうど今夜は見所なんじゃ!」
 顔を見合わせる桐伯と冴那。果たして光妖花(こうようか)とはいったい?

●光妖花の舞【8C】
 夜になるまで老人の家で一服していた桐伯と冴那は、老人に連れられて再び鈴浦海岸へやってきた。ちなみに徒歩5分である。
「ここじゃよ、ここ」
 そう言って老人が連れてきたのは、鈴浦海岸の端にある岩場であった。そして老人はおもむろに岩の1つをゆっくりと動かした。その下から空洞があるのが見えた。
「ほれ、見てみるがいい」
 桐伯と冴那は言われるままに、空洞を覗き込んでみた。
「あっ……」
「これが光妖花……?」
 驚きの声を上げる2人。空洞の中には、淡く光る白い花が1輪だけ咲いていた。しかしそれを花と言ってもいいものだろうか。何故ならばその花は、まるで妖精のような形状をしていたのだから。いいや、妖精そのものであった。なるほど、確かに奇妙である。
「今からが見所じゃよ」
 老人がそう言って少しすると、妖精のような花が……もとい、花のような妖精がふわりと浮き上がって空洞から出てきた。妖精はしばらく3人の上空を旋回した後、砂浜の上を飛んでいった。光る粉のような物を蒔き散らしながら。
「この粉は何ですか?」
「光妖花が仲間を増やすために蒔いとるんじゃよ。しかし、咲くのは数本といったところじゃわい。貴重なもんじゃ」
 桐伯の問いかけに、老人がしみじみと答えた。
「光る砂……」
 冴那がぽつりつぶやいた。
「昼間のような輩に、光妖花を独占させる訳にはいかんわい。光妖花は冬美原に住む皆のもんじゃ……そうは思わんか、あんたらも?」
 老人が2人に問いかけた。桐伯も冴那も、無言でこくりと頷いた。
 光妖花は光る粉をしばらく砂浜の上に蒔き散らしていたかと思うと、やがて星の海へと舞い上がっていった――。

【噂を追って【2】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 12、3? / 高校生/男娼 】
【 1045 / 鴻鴎院・静夜(こうおういん・せいや)
              / 女 / 20代? / 古本屋の店主 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全37場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。やはり今回も多方面に広がる展開になったなと感じました。ですので、人によってお話の傾向がまるで異なっていますね。
・今回のお話では、情報封鎖の対象となっている情報がいくつかありますので、取り扱いにはご注意ください。中には洒落にならない情報もありますので……。
・今月の12日から14日にかけて行われる東イベ9に、高原は全日参加いたします。冬美原に関する質問等がありましたら、どうぞその場で遠慮なくぶつけてみてください。答えられる範囲内でお答えしたいと思います。また、会場のみで参加可能な依頼もありますので、東イベに参加される方はどうぞお楽しみに。
・九尾桐伯さん、13度目のご参加ありがとうございます。なかなか珍しい花を見ることが出来たのではないかと思います。探すという行為は少なくなってしまいましたけれども。あの花は、当然のことながら図鑑には載っていません。ちなみに、これでまた当分は見られなくなると思います、あの花は。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。