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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【2】
●オープニング【0】
「何でこう色々と事件が起きるんだろうね」
 新学期も始まり20日ほどが過ぎたある日、鏡綾女がぼそりとつぶやいた。いつもの『情報研究会』部室でのことである。
 冬美原には相変わらず噂が流れ続けている。それに加え先月には嫌な事件も起こっていた。いや、嫌なのは天川高校に通う者だけかもしれない。何せ生徒が、麗安寺で自殺未遂を起こしたのだから。
「ねえ、また調べてきてくれないかなあ? 前のように、調べる内容は任せるから」
 綾女が手を合わせ、こちらにそう頼んできた。それがお願いのポーズをとってはいるが、ある意味強制なのは明白だった。別にどうだっていいことでもあるが。
 気になることがあるのは、こちらも同様なのだから。

●復活の少年【6A】
 夕刻の冬美原駅――その東口から、細身で小麦色の肌を持つ銀髪の少年が姿を現した。高校生――夜の顔は高級男娼――の養老南であった。
「ニヘヘヘヘ、久々の冬美原ニャ、復活の時ニョ〜」
 妖し気な眼差しで周囲を見回し、南は舌舐めずりをした。南にとって、美味しそうな獲物があちこちに居たからだ。
(生きのいい子は居ないいかニャ〜。空間と時空の狭間で消滅してから復活したから、お腹が空いているんだニョ)
 ここで何故に南がしばらく冬美原を訪れなかったのか説明しておこう。実は南、頭を吹き飛ばされていたのである。パソコンに例えるならば、ハードディスクがクラッシュしたと言うのが一番近いだろうか。
 まあ普通の人間だったら頭を吹き飛ばされたら死んでいるのだが、南の場合は違っていた。何故ならば南は悪魔だったのだから。もっとも人間であればそもそも頭を吹き飛ばされはしていないはずだが。
 それというのも、引っかけた相手が悪かったのだ。何とエクソシスト、悪魔払いである。最後の最後で相手に我に返られてしまい、南が油断していたこともあって、頭を吹き飛ばされるという憂き目に遭ってしまった訳だ。
 生命まで完全に失うということはなかったものの、頭を吹き飛ばされた代償は思ったより大きかった。空間と時空の狭間で一時消滅してしまったのだから。
 元の身体へと戻るために南は多大なエネルギーを要し、沈黙を保ち続ける必要があった。そうしてようやく元の身体を取り戻し――いや、元の身体以上にパワーアップして、こうして戻ってきたという訳である。
(さ、今まで沈黙を保ってきたボクの華麗にして、淫靡な幕開けニョ。時代は回っているのさね、二へへへへへ。ウン、ウン、よいことニャ)
 華麗にして淫靡な幕開けがどういう物かはよく分からないが、ますます快楽を追求しようという姿勢だけは感じられた。
「だ・れ・に・し・よ・う・か・ニャ・地・の……ニョ?」
 行き交う人々を指差して目標を定めようとしていた南の指がふと止まった。目の前から、南宮寺天音がやってきたのだ。

●利害の一致【6C】
「天音ちゃんニョ〜、久し振りニャ〜」
 可愛らしく手を振る南。天音は笑顔を浮かべ、南のそばへやってきた。
「ぶしつけで何やけど、ちょっと手伝ってほしいことがあるんよ」
 余計な挨拶を省き、天音は即座に本題を切り出した。
「手伝いニャ?」
「せや。あんなぁ……ずっと向こうの方に、麗安寺ってあるやろ。そこの住職にファンクラブがあってな……ちょおっと邪魔なんや」
「ウン、ウン、邪魔ニャ?」
「……何とかしてくれへん?」
 にっこり微笑んで言う天音。南は目をぱちくりとさせたが、すぐに唇をぺろりと舐めて言った。
「何とかすればいいニョ?」
「方法は任せる。仕事終わったら、甘いもん食べさせてもええで」
「分かったニャ。よく分からないけど、やっちゃうニャ。やってしまうのニャ、ニヘヘヘ」
 交渉成立の瞬間であった。

●落としてみよう【7A】
 時間は夕刻から夜へと変わろうとしていた頃。麗安寺の前には、数人の少女たちの姿たあった。
「怪しい女は居ないっ?」
「うん、大丈夫、居ないわ」
「見回ってきましたけど、居なかったです!」
「宗全さまには指1本触れさせません!」
 口々に言い合う少女たち。よく観察してみると、リーダー格の少女が2人居るようだ。
「いいっ? 宗全さまのファンクラブの一員として、私たちは宗全さまに悪い虫がつかないようにする義務があるのよっ!」
「おーっ!」
「そうでーす!」
「異議なーし!」
 盛り上がる少女たち。これがいわゆる麗安寺宗全ファンクラブに属する少女たちであった。ちなみにファンクラブには、悪い虫がつかないようにする義務はありません、念のため。
 そんな少女たちの前に、ふらりと姿を現した少年が居た。南である。少女たちは南が現れたのに気付き、一斉に視線を向けてきた。
(ニヘヘ、女の子がいっぱいニャ。全員同時にでも構わないけど、楽しみは多い方がいいニャ。コースの組み立て方考えるボクって、パワーアップしてるニョ〜。ニュータイプだニョ〜)
 心の中で自画自賛する南。なお、どの辺りがニュータイプかと言うと、それは脱いでみれば分かることであった。
(とりあえず、最初はリーダーっぽい2人を同時にいってみるニョ、ニヘ)
 南はリーダー格の2人の少女に向かって、パチンとウィンクを1発放ってみた。単純な相手であればこの1発だけで落ちるのだが……。
(ニヘヘ、効果ありニャ)
 リーダー格の少女2人は、たちまちに顔を赤らめた。十分すぎるほどに効果があったようである。
「さ……ボクと遊ぶのニャ、ニヘヘヘ」
 自らの中指をペロリと舐め、そんなことをつぶやきながら、南は少女たちへ近付いていった。
「あっ、怪しい奴だわっ!」
 不意にリーダー格の少女の1人が言い放った。
「そっ、そうよ、怪しい奴ねっ!」
 もう1人のリーダー格の少女も同意し、2人はすぐさま南を挟み込むように移動してきた。
「わっ……私たちは向こうでこの彼を調べてくるから、あなたたちはここを守っていてね!」
「おっ、お願いよっ!」
 顔を赤らめたまま他の少女たちに命令する2人。他の少女たちは顔を見合わせたが、結局はその命令に従うことにした。
「いっ……行きましょ!」
「行くのよっ!」
 2人は南を両脇から挟み、麗安寺を離れて暗闇の方へと歩いていった――。

●秋の夜長を何して過ごす?【7B】
 麗安寺より少し離れた場所にある小さな公園――その茂みの中。そこには密着している3人の姿があった。南と、先程南を連れていったリーダー格の少女2人である。
 南は連れていかれた時と同様に、2人の間に挟まれていた。しかしその顔は至近距離にあった。舌先を伸ばせば、すぐにでも触れられるほどに。
「なめなめしちゃうニャ、コネコネしちゃうニャ……ニヘヘ」
 右側の少女の左耳に、ふぅっと息を吹きかける南。右側の少女がビクンと身体を震わせた。そして身体に回した右手で、右側の少女の右耳を巧みにいじくってゆく。
「あは……ンっ……」
 いやいやをするように身をよじる右側の少女。しかし南は指の動きを止めようとはしない。
 一方左側の少女はというと、愛おしそうに南の左手の指を舐めていた。
「ん……んんっ……」
 念入りに、一生懸命舐め上げていたのだろう。南の左手の指は、唾液でべとべとであった。
「ニヘヘ……これからもっと気持ちよくしてあげるニャ……」
 妖し気な笑みを浮かべる南。秋の夜はまだまだ長かった――。

●より食べたくて【8B】
 夜遅く、冬美原駅前。南は1人ぽつんと駅前に居た。
「遅いニョ、天音ちゃん……」
 甘い物を食べさせてくれるという約束があったからこうして待っていたのだが、一向に天音がやってくる気配がなかった。
「けど、久々にお腹いっぱいニャ……ニヘヘ」
 結局――あの後、めろめろにしたリーダー格の少女2人から聞き出した情報を元に、南は残りの少女たちを各個撃破していったのである。1人1人、相手が好きな年齢容姿に変身して誘いかけたのだ。何ともご苦労なことである。
 さて、そんな南だったが、ふと妙な視線に気が付いた。先程からちらちらと1人の青年がこちらを見ているのである。
(ニヘ、今日は大漁ニャ。海の男ニャ、備蓄するニョ、たくわえくんニョ〜)
 南はてくてくとその青年のそばへ歩いてゆくと、少し言葉を交わした。それから青年の手が南の肩へと回された。
 2人は並んで歩いてゆき、冬美原の夜の闇の中へと消えていった……。

【噂を追って【2】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 12、3? / 高校生/男娼 】
【 1045 / 鴻鴎院・静夜(こうおういん・せいや)
              / 女 / 20代? / 古本屋の店主 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全37場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。やはり今回も多方面に広がる展開になったなと感じました。ですので、人によってお話の傾向がまるで異なっていますね。
・今回のお話では、情報封鎖の対象となっている情報がいくつかありますので、取り扱いにはご注意ください。中には洒落にならない情報もありますので……。
・今月の12日から14日にかけて行われる東イベ9に、高原は全日参加いたします。冬美原に関する質問等がありましたら、どうぞその場で遠慮なくぶつけてみてください。答えられる範囲内でお答えしたいと思います。また、会場のみで参加可能な依頼もありますので、東イベに参加される方はどうぞお楽しみに。
・養老南さん、6度目のご参加ありがとうございます。久々の冬美原でしたが、相変わらず南さんらしいプレイングですね。なおプレイングにあった文章を、それらしくアレンジさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。