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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


桃源郷
◆美女の誘惑
「こんにちは〜♪」
機嫌よくアトラス編集部の扉をくぐってやってきたのは、アトラスの誌上広告を扱っている広告代理店の社員、篠原 恵美だった。
「あれ?今日は編集長は取材ででてますよ?」
対応にでた三下は首をかしげる。
広告の担当は編集長の碇が扱っていた。話がわかるだろう営業の人間も今はいない。
「お約束してるの忘れちゃったんですかねぇ?編集長・・・」
連絡してみますね。と、電話にのばそうとした三下の手を、篠原はそっと止めた。
「今日は、三下サンにお会いしに来たんですよぅ。」
そういって、うふふと笑うと三下の手をぎゅっと握り締めた。
「し、篠原さん!?」
三下は頬を赤らめ、どぎまぎしながら篠原を見つめる。
「私の知人が温泉宿に勤めてるんですけど、そこでちょっと困ったことが起きちゃってて・・・」
篠原は三下を応接セットのところまで引っ張っていくと、パンフレットをカバンから取り出し広げてみせる。
パンフレットには静かな山奥の宿・・・とあるように閑静な山奥の宿が、写真と共に紹介されている。
豪華な食事や風光明媚な露天風呂の写真が魅力的だ。
「へぇ、素敵なところですねぇ・・・でも、困ったことって?」
最近、少し学びつつある三下は、最初に言った篠原の言葉を忘れてはいない。
「温泉が温泉でなくなっちゃうんですよぅ。」
「へ?温泉が温泉で無くなる?」
篠原の説明はこうだった。
宿の売りでもある露天風呂のお湯が、浸かっていると急激に水になってしまうと言うのだ。
客が慌てて水になった温泉から飛び出し、宿の人間が駆けつけたときには元のお湯に戻っている。
最初は悪戯かと思ったが、あまりにも頻繁に起こるので露天風呂を閉鎖してしまったのだという。
「これからの紅葉のシーズンに露天風呂がつかえないのは困っちゃうのよねぇ・・・」
そして、篠原は再び三下の手を握り締めると言った。
「三下サンと「お友達」の皆さんで、この旅館に行って原因を調べてくださらないかしら?もちろん、宿泊もお食事もつけますよぅ。」
「し、篠原さん・・・」
「ね?お・ね・が・い。」

美味い話には裏があり、綺麗な花には刺があることを学べていない三下は、結局、二つ返事で引き受けてしまったのであった。

◆いざ行かん!そこは桃源郷。
「へぇ、結構いい旅館だなぁ・・・」
旅館に到着した大塚 忍は、高級そうな和風の門構えの旅館を見ると感嘆の声を漏らした。
旅館は小高い山の中腹に立てられ、風光明媚をうたうパンフレットに偽りはない。
三下からの誘いという事で、かなり疑心暗鬼だったが、そんな気持ちも吹っ飛んでしまいそうだ。
「まだ油断はできないぞ・・・旅館の中が見た目どおりとは限らないし、それに同行者も・・・な。」
大塚の隣りに立った御崎 月斗が真面目な顔で言った。
碇に言われて三下の監視役?としてやって来た御崎は、三下の恐ろしさをよく知っている。
どんなに素敵な高級旅館でも、三下が一歩踏み込んだ途端ビックリハウスになってしまうことはよくある事なのだ。
しかも、同行者が・・・。
「ふふふふふふ・・・」
背中いっぱいに怪しい空気を背負いつつ、何故かこぶしを握り締めて怪しく笑っているのは海塚 要だ。
「今度こそは我が宿敵・水野 想司を倒すため、露天風呂で萌えとダンスを極めるのだっ!!」
何故、温泉で萌えとダンスなのかは極めて謎だ。
その隣りで、宿敵と呼ばれた水野 想司はまったく海塚を相手にしている様子は無い。
「うーん、温泉ってシチュエーションはいいよね♪温泉旅情、浴衣姿ほんのり桜色「いいお湯だったね、お兄ちゃん・・・」これはイイ萌えになるなっ♪クスクスっ☆」
想司は旅館を見上げ、とても一泊の旅行に持つとは思えないほどの大荷物を背に背負ってクスクス笑っていた。
「・・・な。問題ありそうだろ?」
御崎の言葉に大塚はがくっと項垂れる。確かに問題ありそうだ。

「と、ところで三下君は?」
大塚は気を取り直して、あたりを見回すと、肝心の三下の姿が無い。
「旅館で待ち合わせってことなんだが・・・なにやってるんだ?あのおっさんは・・・」
御崎もキョロキョロとあたりを見回すと、道の向うから人影がやってくるのが見えた。
「あ、もうみんな着てますよ、三下サン!」
湖影 龍之介は三下の分も荷物を抱え、三下の隣りにぴったりと寄り添いこちらにやってくる。
三下の方は旅館までの山道でへばり気味なのか、ぜーぜーと息荒く言葉も無い。
「三下サン、俺がおんぶしてあげるって言ってるのに、無理するからっすよ。」
「いや・・・大丈夫・・・ほら、もう・・・ついたし・・・」
三下はちっとも平気じゃない様子で言った。
「お待たせー・・・あー、やっとついた・・・」
「もしかして・・・歩きできたのか?」
息も絶え絶えな三下を見て、御崎が苦い顔で言う。
ここまでの山道はかなり急で、車でもないと少々きつい物だった。
大塚は自前の4WDワゴン、御崎は旅館の送迎バスで来た。海塚と想司は・・・気がついたら到着していたのだ。
「車なんか乗ったら、三下サンとのデートの時間・・・じゃなくて調査の時間が減るじゃないっすか!俺たちここまでじーっくり辺りを調査してきたっすよ!」
「な、なるほどね・・・」
デートの・・・と聞こえたことはとりあえず考えないようにして、大塚と御崎はうなずいた。

「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました。」
玄関に入ると、薄紅色の仕立ての良い着物を来た美女が一同を出迎えた。
「私は当旅館「華耀」の女将、篠原 美和子と申します。今回はご面倒をお願いいたしまして・・・よろしくお願いいたしますね。」
「え?じゃあ、篠原さんの知人って・・・」
女将の名前を聞いて、三下が目を丸くする。
「はい、私、恵美の母でございます。」
やや狐顔の美人はおっとりと微笑んだ。
(なるほど・・・この美人親子に引っかかったわけか・・・)
(まったく、このおっさんは・・・)
女将に微笑まれて、真赤になってもじもじしている三下を見ながら、大塚と御崎は苦笑いした。
「ささ、皆様もどうぞ、お上がりください。お部屋の方をご用意しておりますわ。」
そんな大塚達の苦笑いには気がつかず、女将は機嫌よく笑うと一同を部屋へと案内した。

「うわー・・・」
女将に連れられて通された部屋に入ると、一同は感嘆の声を漏らしたまま呆然と立ち尽くした。
通された部屋はTVで紹介されているような高級旅館そのままの和室で、木と畳の良い匂いがした。窓の外には絶景が広がり、静かな中にせせらぎが聞こえてくる。
室内は20畳ほどの和室と12畳ほどの和室2間の3部屋に分かれ、それれぞれに品良く花が生けられている。
女将が窓を開けると、なんとも心地よい風が入ってきた。
「「華耀」でも自慢のお部屋なんですよ。どうぞ、寛いで下さいね。」
女将はニコニコ愛想よくそう言うが、今までの今までがいろいろあっただけに、この状況を素直に受け入れられない一同だった。

◆露天風呂の怪
「あ、えー・・・その、確か、ここの露天風呂で何かトラブルが起こってるって聞いてきたんだけど・・・」
何となく落ち着かず、座っても周りを用心深く見ていた大塚が話を切り出した。
その話を聞いて、女将は少し表情を翳らせると、こくんとうなずいた。
「ええ・・・何からお話したらいいかしら・・・最初に異変が起こったのは今年の夏ごろのことなんです・・・」
女将の話だと、その異変はいきなり始まったという。
元々ここの源泉はボイラーで沸かしなおすことも無いくらい温度の高い温泉だった。
しかし、最近になって客から少しぬるくなったという話が聞かれるようになって、女将も気にしていたら、いきなり事件は起こったのだ。
「異変が起こったのはこのお部屋にある専用露天風呂なんです。お客様がお湯に浸かっていたところ、いきなり水になってしまったそうで・・・」
「それは冷めたとかそう言うことじゃなくて?」
「ええ、入っていたら一瞬で水風呂になってしまったそうなんです。」
「一瞬で・・・」
大塚は話を聞いてしばし考え込む。
一瞬で水に変わるというのが、やはりおかしい。何ものかが水を混ぜたとか、源泉を止めたとか言うレベルの話ではないのだ。
やはり、怪異の仕業なのか・・・?
「人間の仕業とは考えづらいな。」
御崎は女将の入れた茶をすすりながら言う。
小学生とは思えないほど、そんな仕草が板についている。
「やはり、何かの祟りとかなんでしょうか・・・」
女将は心細げな声で言った。
「いや、ここに居てもそんなに邪悪な気は感じないから、詳しく調べなくてはわからないが、そこまで悪質なものではないと思う。」
「確かに・・・邪悪な気は感じないな・・・」
そう言って大塚も部屋の中を見回すが・・・あるものが目に入って、ゴホンと咳払いをする。
「・・・一部極めて邪悪って言うか邪なのが居るけど、特に問題はなさそうだな。」
同じモノを目の端に感じていた御崎も、あえてそちらに目をやらないようにして、女将に言った。
「とりあえず、事件のあった露天風呂とこの周囲を調査するんで、人払いを頼む。」
「はい、かしこまりました。今夜は皆さんだけの貸切ですから、ほかにお客様もいらっしゃいませんが、仲居の方にもよく言っておきますわ。」
女将はそう言うと、深々と頭を下げて部屋を出て行った。

「うーん、これと言って何も手がかりになるようなものはなさそうだなぁ・・・」
部屋専用といわれた露天風呂とその周りの庭をぐるっと回ってきた大塚は、部屋に上がると呟くようにそう言った。
大塚は水の妖しの類ではないのかと疑っていたのだが、肝心の温泉にはその気配がまったくない。どんなに意識を集中しても、山々に住んでいるのだろう獣たちの気配しかないのだ。
それ以外は本当に静かな温泉なのだった。
「式の方はどうだい?何かわかったか?」
部屋の中央で方陣を組んで式を放っている御崎に問うと、御崎は極めて苦い顔をして言った。
「・・・」
「え?」
「・・・らん。」
「え?」
「この部屋は邪気が多すぎてわからんっ!!」
御崎はそう言うと、「あーっ!バカらしいっ!」と怒鳴り散らしながら、方陣を崩した。
「お、落ち着け、御崎クン・・・」
「これが落ち着いていられるかっ!なんなんだこの部屋はっ!」
御崎はガバッと続きになっているもう一つの部屋のほうを指差す。
「こらぁーーっ!そこっ!子供の前でいちゃつくんじゃねぇっ!!!」
御崎が指差した先には、仲良く寄り添うように座っている湖影と三下が、女将に出されたお菓子とお茶を楽しんでいる・・・ように見える。
湖影の手がしっかりと三下の手を握り締めているのを除けば。
「う・・・」
それを目撃した大塚も眩暈を感じるが、気を取り直して、話を戻した。
「や、やっぱりこれは温泉に入ってみないとダメなのかもな。」
「うむ。まあ・・・現場を見たほうが良さそうだな。ここにいるよりも。」
御崎が何とか心落ち着けてそう言うと、後ろから元気良く声がかかった。
「お風呂!僕も行くよっ☆」
やる気満々というか・・・すでに入浴準備万端の想司が立っている。
浴衣姿に手桶を持って、タオルとアヒルまでは何となくわかる。しかし、何故か背中にはパンパンに膨れたナップザックが背負われている。
「想司クン・・・露天風呂はすぐそこだからそんなに荷物はいらないぞ。」
「え?そうなの?じゃあ、少し置いて行こうかな。」
そう言って片付けようとしたのは手桶とタオルだった。
「ちょっと、待て。それは要る。要らないのは背中のナップザック。それを置け。」
大塚は眉間を押さえながら、何とか穏やかに言うと、想司はぶーぶー言いながらナップザックを下に下ろした。
「やはり、旅行は身軽なのが基本!」
勝ち誇ったような声に振り向くと浴衣姿に手ぬぐい一本の海塚がふんぞり返って立っている。
「私の荷物はシンプルイズベスト!男はやはりこうでなくてはな!」
「・・・後ろのカエルは風呂に入れるなよ。」
海塚の後ろに控えているケロッピ親衛隊を眺めながら、更に苦い顔で大塚は言った。
幾ら高級旅館でも、この集まったメンバー事態がすでに罠だったのかもしれない。
今更ながらにそう思うと、罠にはまった自分を恨まずにいられない大塚なのであった。

◆ほわ〜んヽ(´▽`)ノ♪
「三下サン・・・お、俺たちも露天風呂イキマセンカ?」
皆が風呂へと向かった後、妙に声をうわづらせた湖影が三下に言った。
「そうだね、やっぱり温泉の状態は気になるしね。」
そう言って立ち上がる三下の腕を、湖影はがしっと引き止める。
「ああああ、あの、実は露天風呂はもう一つあるっス。お、俺はそっちの方がアヤシイかなーっと・・・」
「え?そうなの?」
手のひらいっぱいに汗を書いて何故か緊張している湖影を怪しいとも思わず、三下は罪作りな笑顔を湖影に振り撒く。
「じゃあ、僕たちはそっちの露天風呂のほうへ行ってみようか?」
ずきゅーーーんっ!と音を立ててその笑顔と言葉は湖影を貫く。
「そそそそそ、そうデスネッ!行きましょう!三下サン!」
妙に力んだ返事を返すと、湖影は心の中でガッツポーズを決めたのだった。

「うわ〜、こっちもりっぱなお風呂だねぇ!」
岩風呂風の露天風呂に三下は感嘆の声を上げる。
「ホント素敵っス・・・」
風呂に入る前から湖影は真赤になって俯いている。
「とりあえず、周りとか見て回った方がいいのかなぁ?何か怪しいところとか・・・」
三下はあたりをきょろきょろ見回しながら、お風呂の奥へとはいってゆく。
ここは湖影が女将に交渉して借りた家族用の露天風呂だった。他の人に邪魔されないように、なんと内側から鍵がかかる。
(今日こそはっ!)
湖影は三下に気づかれないように、もう一度ガッツポーズで気合を入れると、この日の為に用意しておいた「三下用タオル」「三下用ボディーソープ」を取り出すと三下に言った。
「三下サーン!見て回るより湯船に使ったほうがわかりやすいかも知れないっすよ。」
「あ、そうか。異変が起こるのはお風呂だもんね。」
そう言うとそのまま湯船に入ろうとする三下をがしっと湖影は捕まえた。
「三下サン!お風呂に入るときは、先ず体流してから!お、俺が背中流します!」
「そう?悪いねぇ、湖影クン。」
危険を察知する能力が根底から欠如しているらしい三下は、湖影の申し出をにこやかに受け入れた。
今、湖影の前には「愛しい」三下の「無防備」な背中がある。
(神様!ありがとうぅぅっ!)
普段はあまり神様など信じない湖影だが、今日ばかりは力の限り感謝する。
湖影はタオルを良く泡立てると、ゆっくりと三下の背中をこすり始めた。
「ど、どこか痒いところはないっすか?」
「あははは、それじゃなんだか床屋みたいだよ、湖影クン。
「そ、そうっすか?」
「うん。痒いのは大丈夫だよ。あっ・・・」
「ど、どうかしたっすか!?」
「いや、眼鏡かけてたら曇っちゃったよ。」
そう言って三下は眼鏡を外して振り返るとにこっと笑う。
湯煙にほんのり肌を桜色に染めた三下が、湖影に向かって天使のような笑みを・・・
「み、み、み、三下サンッ!!」
何かの限界値を超えたらしい湖影が、辛抱たまらず三下に抱きつこうとした時・・・

異変はやってきたのだ。

◆露天風呂パニック
「わーいっ☆露天風呂だっ♪」
両手いっぱいに玩具を持った想司が我先にと風呂場に飛び込んでゆく。
部屋付の露天風呂ということで狭い物を想像していたが、ここは相当に広い。
「コラ待て!風呂に入る前は体を流せっ!」
腰にタオルを巻いた御崎が、駄々っこの弟にたしなめるように想司を呼び止める。
「子供じゃないんだからな!ちゃんと洗えよっ!」
「そうだぞ!萌える男には美しい肉体が必要なのだっ!」
横から海塚が調子よく口をはさむ。
しかし、マント姿に黒いビキニ海パン姿の海塚に、御崎の容赦ない喝が飛ぶ。
「お前もそんなマント着てないで、ちゃんと服脱いで風呂に入れ!」
怒鳴られすごすごと洗い場に座る海塚を確認してから、御崎も手桶で湯をかぶる。
「まったく、最近の若い連中はなってないぞっ!」
そう言う御崎が一番若いのだが、それに突っ込みを入れられるものはなかった。
「む、そう言えば大塚はどうしたのだ?大塚は?」
部下のケロッピたちを取り上げられてしまったので、自分で体を洗っていた海塚がふと気がついた。
「皆とコミュニケーションが取れんようではイカンぞ!大塚!」
沿う海塚が叫んだ瞬間に、仕切りの向うから手桶が飛んできた。
カポーンっ!といい音を立てて海塚にヒットするが、海塚はケロリとしている。さすが魔王・海塚。
「どーして俺がキミたちと風呂に入らなきゃならないんだっ!」
「男なら堂々と入ってこんか!」
「俺は男じゃねぇっ!」
「・・・洗濯板・・・」
「洗濯板って言うなぁって!想司っ!」
「なんと、体を気にしているのか!それはいかん、萌える男は体が資本だぞ!」
「だから、男じゃないって言ってるだろうっ!!」
「私を見習うがいい!大塚よ!この肉体美はすべての萌えを極めた男の証!」
「だから男じゃないっツーのっ!!!人の話を聞け!海塚っ!」
御崎はギャーギャーと繰り広げられる大塚と海塚の愉快劇場に耳をふさいで黙々と体を流している。
そんな隣りで想司はいきなり思いついたように立ち上がった。
「あ!僕はいきなり素晴らしいことを思いついたよっ!」
「いきなりだな。」
「僕の頭脳はいきなり冴えるのさっ☆」
そう言うなり、湯船に浮かべていたあひるの玩具を引っつかむ。
「入っている内に水になっちゃって困るなら、最初から水にしちゃえばいいのさっ☆」
「・・・それは・・・本末転倒というものではないか?」
「ん〜、月斗クンってば、頭が固いんだからっ♪僕の秘密兵器を見たらそんな気持ちは吹っ飛んじゃうよっ☆」
「いや、待て!」
「これがギルド秘伝の魔法のアイテム!長き封印を破って今ここにっ!!」
実は倉庫に放置されていただけのシロモノなのだが、想司は自信満々で高々と掲げる。
「ギルドの秘宝!「雪の雫」!!」
「・・・あひるじゃないか・・・」
想司が握り締めているあひるは、良くおもちゃ屋さんで売っているような、普通のあひる人形だった。
「ふっふっふ。威力を見てから言って欲しいなっ☆」
想司はそう言うとあひるをぶんぶんと振り回した!
あひるの口からは銀色のキラキラとした粉があたりに降り注ぐ・・・
「うわっ!何だこれっ!」
その粉が降り注いだところから、濡れた床が凍りつき始める・・・そして見る間に湯船に溢れたお湯までも凍りついてしまった!
「お湯が水になって困っちゃうなら、最初から冷やしておけば問題なーしっ☆」
ひんやりと冷え切った洗い場で、想司はエッヘンとふんぞり返った。
「問題無しじゃないだろうっ!元に戻せっ!」
「え〜、折角冷やしたのに!」
「折角じゃないっ!これじゃ温泉じゃないじゃないかっ!」
「冷泉☆」
「冷えてちゃ入れないだろうっ!」
「だって、ほっといても冷めちゃうじゃないっ☆」
「だから、その原因を確かめに来たんだろうっ!」
「冷えたのは、ギルドの秘宝「雪の雫」の力さっ♪」
今度は、想司と御崎が面白劇場状態に突入する。
このまま泥沼に突入かと思いきや、もみ合うように言い合っていた想司の手からあひるの人形が弾き飛ばされる。
飛ばされたあひるは海塚の頭にヒットするが、またもや海塚はけろっとしたものだ。
しかし、そのあひるから銀色の粉がこぼれると、海塚の体が足元から凍り始めてしまったではないか!
「むおぉぉぉぉっ!超おおぉぉぉぉクールゥゥゥッ!!!」
「うわっ!クールじゃないだろうっ!」
ポーズを決めて潔く凍り始める海塚に駆け寄ろうとした御崎が、足元に落ちたあひるをついうっかり蹴飛ばしてしまう。
「あっ!」
「おお〜、あひるが飛んでいくっ!」
想司は暢気に垣根の向うに飛んでゆくあひるを見送ったのだった。

◆恐怖の冷凍あひる!
「あれ?なんだろう・・・」
湖影が三下に飛び掛らんと身構えた時、三下は急に立ち上がり湯船の方を指差した。
湖影は空振りした腕をもてあまし気味にモキモキしながら、三下の指差した方を見ると、湯船に黄色い何かが浮いている。
「あひる・・・みたいっすね。」
何処からいつの間に飛んできたのか、湯船には小さなあひるの玩具がぷかぷかと浮いている。
「前に入った人が忘れちゃったのかなぁ?」
三下はざーっと泡を流すと、湯船へと入っていった。
湖影も慌ててそれに続く。
あひるの側まで来てしゃがみ込み、三下は肩まで浸かった。
「なんだか、懐かしい玩具だね。湖影クン。」
「み、三下サン・・・」
にこっと微笑む三下の笑顔に、湖影の謎のボルテージはまたもや急上昇だ。
「三下さーーーんっ!!」
「うわっ!どうしたの湖影クンっ!いきなり立ち上がっちゃダメだよっ!わっ!」
いきなり狼モードに突入した湖影が三下に飛び掛らんと立ち上がると、それまで水面に浮かんでいたあひるがグラッと揺れた。
「うわっ!こ、これって・・・!」
「三下サン!え?あ?う、動かないっ!?」
水面と一緒にあひるが揺れると、その口から銀色の粉がこぼれた。
そして、その粉がお湯に溶けた途端に、温泉のお湯が凍りつき始めたのだ!
湖影と三下は2人でもみ合うようにしたまま、下半身が凍り付いてしまった。
「うわーーーーっ!何だよこれーーーっ!!!」
「つ、冷たい!でも、ちょっと幸せ・・・(´▽`)」
男2人、なす術もなく人気のない露天風呂でもみ合ったまま凍り付いてしまったのであった。

◆計画失敗!
「まったく何やってるんだよっ!」
異変に気がつき、仕切りの向うから飛び込んできた大塚に発見されて、一同が救出されたのはそれからしばらくたってのことだった。
「どうして俺が男湯で氷掻きなんかしなきゃならないんだよっ!」
真赤になって全裸の男5人を救出した大塚は、沸き立つお湯の中に5人を放り込んだのだった。
「うう、しかし、酷い目にあった。」
お湯から上がってやっと人心地ついた御崎は毛布に包まったまま言った。
「冷たくなかったら極楽だったっス。」
氷から上げられたのに何故かホワンとのぼせ気味の湖影は、三下と同じ毛布に包まって何故かご満悦顔なのだった。
想司と海塚は凍らせた温泉の後始末をするために、露天風呂へと行っている。
「しかし・・・これでは、元の事件の原因が突き止められないままではないか。」
「でも、もう今日はお風呂はつかえなくなってしまったから、これ以上原因を探るのは無理だね。」
御崎の言葉に、大塚が溜息混じりに言う。
「やっぱり、三下のおっさんと来るとろくな目にあわずに終わるって事か・・・」
御崎も湖影の腕の中で気絶している三下をじろりと睨むと、大きな溜息をついたのだった。

こうして、一行は手がかりを得る事もなく旅館を後にしたのだった。
しかし・・・

「何やっておったのじゃ!失敗したではないか!」
一行を見送った女将が、後ろに並んだ中居たちを怒鳴りつける。
「あなた達それでも狐かのっ?人も化かせないでは、一人前の妖弧にはなれんぞっ!」
女将がそう怒鳴りつけると、中居たちはくるんと次々に狐の姿に戻ってゆく。
「でも、葛葉様〜。あの人たちは普通の人じゃないです〜。」
「なんだかおかしかったですぅ〜。」
狐たちはもじもじしながらも、口々に言った。
「あぁ、もう情けないわねっ!」
葛葉様と呼ばれた女将もまた狐の姿に戻る。
「こんな事では、いつまでたっても立派な妖弧になるなぞ、夢のまた夢よっ!情けなや!お主らはまた山に戻って修行のやり直しじゃ!そして、いつかあの人間たちを騙すまで、妖弧の位はおあずけじゃっ!」
「そんなぁ〜、葛葉様〜・・・」
ぷんぷん怒りながら山の上へと飛び去る葛葉の後を、狐たちが追いかけてゆく。
そして、後に残された旅館は、静かにもとのあばら家へと姿を戻したのであった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0218 / 湖影・龍之介 / 男 / 17 / 高校生
0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター
0759 / 海塚・要 / 男 / 999 / 魔王
0778 / 御崎・月斗 / 男 / 12 / 陰陽師
0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
今回は大変遅くなってしまいまして、申し訳ありませんでした。これからこんなことがないように気をつけます。本当にゴメンナサイ。

しかも、今回は長編になってしまいました。
いつもならもう少し分割して行くのですが・・・みんなでわいわいやってる所をお伝えしたかったので、あえて分割しませんでした。
露天風呂珍道中をご堪能いただけたら幸いです。

御崎くん、とんだ珍道中に巻き込まれてしまいましたが・・・如何でしたでしょうか?
これに懲りずに、またよろしくお願いいたします。

では、またどこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。