コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【2】
●オープニング【0】
「何でこう色々と事件が起きるんだろうね」
 新学期も始まり20日ほどが過ぎたある日、鏡綾女がぼそりとつぶやいた。いつもの『情報研究会』部室でのことである。
 冬美原には相変わらず噂が流れ続けている。それに加え先月には嫌な事件も起こっていた。いや、嫌なのは天川高校に通う者だけかもしれない。何せ生徒が、麗安寺で自殺未遂を起こしたのだから。
「ねえ、また調べてきてくれないかなあ? 前のように、調べる内容は任せるから」
 綾女が手を合わせ、こちらにそう頼んできた。それがお願いのポーズをとってはいるが、ある意味強制なのは明白だった。別にどうだっていいことでもあるが。
 気になることがあるのは、こちらも同様なのだから。

●ただ今、調査中【3F】
 冬美原・新市街――冬美原図書館。そこのテーブルの1つに、冬美原の歴史や風土に関する本を山積みにし、1冊ずつ速読している者が居た。いや、その速さは速読を越えて、瞬読に近いかもしれなかった。
 腰までの黒髪長髪で、衣服だけを見ると細身の男性のようにも思えないことはなかったが、それは男装をしている外見20代の女性であった。
「ふむ……」
 女性――古本屋の店主・鴻鴎院静夜はパタンと読んでいた本を閉じ、少し思案した。といっても表情は本を読んでいた時と変わってはいないのだが。
(まるで判を押したような感じだな)
 静夜のその印象は、旧城主の榊原氏の家系図に対する物だった。静夜は冬美原図書館へ来る前に鈴丘新聞社の資料室や、冬美原情報大学の図書館でも榊原氏の家系図について調べていたのだが、そのどこの資料でも家系図は同一、同じ形であった。まあ逆に言えば、調べ尽くされていて完璧な形になっていると言えるのかもしれないが。
(……情報のない花に比べればましだけれども)
 静夜は榊原氏の家系図の調査と並行して、噂になっていた謎の花についての調査も行っていた。しかし本にはそれらしき花の記録は見当たらず、冬美原図書館へ来る前に鈴浦海岸で行った聞き込み調査でも情報は得られなかったのである。ちなみにオフシーズンに入った鈴浦海岸に、人影はほとんど見られなかった。
(怪し気な風体の4人組が居たが……あれは違うだろう)
 という訳で、空振りになってしまった花の調査と比べれば、榊原氏の家系図の調査は実があると言えよう。
 ところで何故に静夜が榊原氏の家系図や謎の花について調べているかといえば――そのどちらか、もしくは両方が冬美原で起こっているいくつかの事件と関係しているのではないかと考えていたからだった。けれども現時点では繋がりらしき物は見えてはこなかった。
「確か、自殺未遂をしたという少年の入院している病院は、ここからそう遠くなかったはず……」
 静夜はふと思い出したように言った。自殺未遂の事件も静夜が引っかかってた事柄だったからだ。ちなみにその少年の名は、古畑正平(ふるはた・しょうへい)といった。
(状況を聞いてみよう)
 すくっと椅子から立ち上がると、静夜は山のような本を抱えて返却テーブルへと運んでいった。

●病院にて【4A】
 冬美原総合病院。その1階にある受付では、見舞い客が病室を尋ねる光景がよく目にされていた。そして今もまた、病室を尋ねようとする見舞い客が受付にやってきていた。1人は花束を抱えた金髪で着物姿の女性、もう1人は金髪でスーツ姿の青年である。
「申し訳ありません。先月こちらへ入院されました古畑正平様の病室は……」
「すまないが、先月ここに入院した古畑という少年の病室を……」
 ほぼ同時にそんな言葉が発せられ、受付に居た女性と青年は驚いたように相手の顔を見ようとした。
「あら……」
「……奇遇と言うべきか、陰陽の導きと言うべきか」
 女性の方は草壁さくら、青年の方は真名神慶悟。先月の肝試しの夜に、正平の自殺未遂の瞬間を目の前で見ていた者のうちの2人である。
 2人が驚いている間に、受付の女性から答えが返ってきた。
「古畑さんの病室でしたら7階の731号室ですけれど、面会は出来ませんよ」
「どういうことだ?」
 尋ね返す慶悟。受付の女性は、表情も変えずに言葉を続けた。
「面会謝絶ですから」
「面会謝絶……」
 さくらが受付の女性の言葉を口の中で繰り返した。
「お見舞いの品があるようでしたら、ナースステーションにお預けください」
 受付の女性の言葉を聞いた後、2人は受付を離れエレベーターホールへと歩いていった。
「容態は思わしくないのでしょうか」
 神妙な表情のさくら。だが慶悟はそれを否定した。
「いや。俺たちが目の前で見ていた限りでは、外傷は左肩だけだったはずだ。それだけで面会謝絶とは到底思えん。何か他にあるのか……?」
「失礼だが」
 と、そこに通りがかった、細身で腰まである黒髪長髪の青年――いや、男装をした女性が2人に話しかけてきた。
「ひょっとして、先月の自殺未遂事件を目撃した者なのだろうか?」
「……そうだが?」
 慶悟が怪訝な表情を浮かべ答えた。さくらも言葉こそ発していないが、警戒しているようである。
「実は……」
 その女性、鴻鴎院静夜は訳あって自殺未遂事件について調べていることを慶悟とさくらに話し、よければその時の状況について教えてほしいと申し出てきた。
「確かあの時は、突然物陰から飛び出てこられて……持っていた出刃包丁で自らの左肩を刺されたんです」
 さくらが当日の状況を思い出しながら静夜に説明する。慶悟は時折それを補足していた。
「……なるほど。それで今は面会謝絶か。申し訳ない、役に立つ話だった」
 静夜は表情を変えぬまま2人に頭を下げると、足早に正面玄関の方へと戻っていった。
「不思議な方でしたが……」
 さくらが静夜の後姿を見ながらつぶやいた。
「ただ者ではなさそうだ」
 小さく頷く慶悟。
(ただ者じゃない……)
 同様のことは、正面玄関へ戻る静夜も感じていた。

●姫君との出会い【6D】
 夕刻――静夜は冬美原城址公園を訪れていた。無論、榊原氏の家系図の調査の一環である。
 では何故ここに来ることが調査の一環になるのか。それはここ冬美原城址公園に、姫君の幽霊が出るという噂があるからだった。本当に出てくるのであれば、これほど有力な情報源はない。
 静夜は城址公園内をゆっくりと注意深く歩いていた。城址公園内にある霊力を感じ取るために。
 そのうち、不意に静夜を取り巻く空気が変わった。急激に気温が下がったのだ。時間が時間なので気温が下がるのは当たり前のことだが、それでも時期を考えたらおかしな空気の冷たさであった。これは何かある、そう考えるのが自然だろう。
(居る……のか?)
 目の前には誰も居ない。そこで静夜は静かに後ろを振り返った。
「……くすくすくす……」
 そこに居たのは――鮮やかな色の着物に身を包んだ姫君だった。年頃は10代後半といった感じか。こちらを妖し気な瞳で見つめ、妖艶とも思えるような笑みを浮かべている。
「姫君の幽霊……」
 特に驚く訳でもなく、静夜は目前の姫君に視線を投げかけていた。噂は真実だったのである。
「幽霊? この間の女の子と同じこと言ってる……私は私だよ?」
 そう言ってくすくすと笑う姫君。静夜はこの姫君と霊交信を行おうとした。もちろん榊原氏の一族について尋ねるためだ。だがその刹那、姫君の目が紅く妖しく光った。
(危ない!)
 危険を察知した静夜は、即座に自らの心身ともに対して霊的な結界を張った。ただ霊交信を行おうとしていた矢先だったので、一瞬のタイムラグがあった。静夜の心の中に、何やら映像が流れ込んできたのだ――。

●邪悪なる記憶【6E】
 それは紅く綺麗な花であった。いいや、花なんかではない。木だ。春に乱舞する桜のごとく、紅い花びらが舞い踊っていた。
 けれどよく見れば、それが木なんかではないことが分かる。花吹雪の中から人が飛び出してきたのだ。人間の物とは思えない悲鳴を上げながら。
 恐らくそれは男のようであった。何故ならば判別がつきにくくなっていたからだ。紅く踊り狂う火に包まれて。
 その後ろでは、何やら立派な建物がすっかり火に包まれていた。木に見えたのはこれだったのだ。
 これは……神社だろうか。その前では先程飛び出てきた男と同様に、巫女装束の少女たちが紅く踊り狂う火に包まれ、地面を転げ回っていた。
「くすくすくす……真っ赤なお花……とっても綺麗なお花……」
 聞き覚えのある笑い声が聞こえてくる。笑い声は次第に大きくなり――暗転。

●30秒【6F】
「あっ……」
 驚きと疑問の混じったつぶやきが、表情変えぬ静夜の口から漏れた。目の前には何も変わらぬ城址公園が広がっている。しかしもう姫君の姿は見当たらない。空気の冷たさも消え去っていた。
(今の映像は……姫君の?)
 静夜は時計を見て時間を確かめた。それは僅か30秒程度の出来事であった。

【噂を追って【2】 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 12、3? / 高校生/男娼 】
【 1045 / 鴻鴎院・静夜(こうおういん・せいや)
              / 女 / 20代? / 古本屋の店主 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全37場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。やはり今回も多方面に広がる展開になったなと感じました。ですので、人によってお話の傾向がまるで異なっていますね。
・今回のお話では、情報封鎖の対象となっている情報がいくつかありますので、取り扱いにはご注意ください。中には洒落にならない情報もありますので……。
・今月の12日から14日にかけて行われる東イベ9に、高原は全日参加いたします。冬美原に関する質問等がありましたら、どうぞその場で遠慮なくぶつけてみてください。答えられる範囲内でお答えしたいと思います。また、会場のみで参加可能な依頼もありますので、東イベに参加される方はどうぞお楽しみに。
・鴻鴎院静夜さん、いくつかの事件が関連してるんじゃないかと考えたのはよかったと思いますよ。内容も悪くないと思います。ただ、高原の個人的意見となりますが、行動においてあれもこれもというのは難しいかもしれません。ある程度行動をしぼってみた方が、より深い結果を得られる可能性も高まると思いますので。なお、【6E】での情報は情報封鎖の対象となっています。現時点では静夜さんが噂として流さない限り、冬美原に情報としては決して流れることはありませんので。流すかどうかはご自身の判断にお任せします。ちなみに特定の個人にだけ知らせることは可能です。それはそうと、高原はイメージ通りに静夜さんを描けましたでしょうか。少々不安な部分もあるのですが……。
・次のアイテムをお送りします。次回以降冬美原でプレイングをかけられる際、臨機応変にアイテムをご使用ください。
【14:旧城主・榊原氏の家系図写し(書籍より)】
・効果時間:所持中永続
・外見説明:メモに写された家系図
・詳細説明:榊原氏の家系図を冬美原の歴史について触れてある書籍より写した物。

・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。