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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


当日の手紙【後編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『当日の手紙』――。
 アイドル歌手・片平レイ(かたひら・れい)がビルの屋上より飛び降りて自殺した。しかし事件の報道から3日後、ゴーストネットの掲示板にはレイの親友で金沢に住む、七尾美波(ななお・みなみ)によるレイの自殺を否定する書き込みが投稿されていた。
 その根拠は事件当日に投函されたと思しき手紙が美波に届いていたからであった。しかも文面には、オフには金沢に帰るので遊ぼうとあったという。これから自殺しようという人間が、果たしてそんな約束をするのだろうか?
 それを受け、数名の男女が事件を調べ始めた。
 ある者は当日のレイの足取りを追い、ある者は現場の検証に向かった。解剖所見を調べ直した者も居れば、レイの部屋を調べた者も居る。レイの出ていた番組を調べに出かけた者たちが居れば、美波に会うために金沢まで出かけた者たちも居る。各人思い思いの方法で、事件を調べていたのだ。
 そんな最中、東京では事件を調べていた者が狙われ、金沢では何者かに命令された男が美波を脅そうとしていた。いずれの事件も未遂に終わったが、裏に何かがあるという疑いは強まっていた。
 果たしてこの事件の真相やいかに?

●車の正体【1A】
 レイが亡くなって6日が経過した朝のことだ。4人の人間が喫茶『ライラック』に集まっていた。
「調べてみた所、この車には盗難届が出されていましたね」
 宮小路皇騎はにこりともせず言うと、指先でトンッとテーブルの上に並べられた写真を指差した。同じテーブルには、真名神慶悟とレイベル・ラブも同席している。そしてもう1人、シュライン・エマはテーブルから少し離れて、誰かと携帯電話で会話をしている所であった。
「盗難届だって?」
 写真を1枚取り上げ、目を細める慶悟。写真に写っている車は、慶悟に向かって襲ってきた車である。もっとも間一髪で避けることが出来たために、こうしてここに居られる訳だが……。
「幸いナンバーが分かったので、朝一番に陸運局で持ち主を調べ、念のために警察に問い合わせてもらったんですよ。そうすると、1週間前に盗まれていたことが分かりました。持ち主も彼女とは接点ないようですね。何せ持ち主は千葉で農業営んでるそうですから」
 皇騎は調べてきたことを一気に話すと、珈琲カップを口元へ運んだ。
「1週間前とはまたタイミングのいいことだな。レイが死亡する前日ではないか」
 ゆで卵をもぐもぐと食べながら、レイベルが言った。少し塩気が足りなかったのか、食塩を2度ほど振りかけていた。
「確かに。偶然ではなく、意図的な物を感じるな」
 慶悟が大きく頷いた。そしてもう1枚の写真を手に取った。先程の写真よりもクリアな画像だ。何しろ、車を運転している男の顔までくっきりと写っていたのだから。
「……ナンバーだけでなく、顔も分かった以上は調べることも容易いか」
「ノイズを除去し、補正を重ねましたから……苦労しました」
 苦笑する皇騎。昨日デジタルカメラで撮影した画像を、専用機材をも繰り出して1晩中ひたすら解析していたのだ。その成果が慶悟が今手にしている写真である。そこに電話を終えたシュラインが戻ってくる。
「ただいま」
 シュラインは席に戻るなり、コップの水をこくこくと飲み干した。話していて喉が乾いてしまったのだろう。
「芸能界ってあれねえ……嫌な部分もあるわね」
 小さく頭を振るシュライン。顔には『何だかなあ』と書かれていた。
「どうした?」
「仕事を与える代わりに、関係を迫る人が居るって話」
 レイベルの問いかけに、シュラインはそう答え、先程の電話の内容を語った。簡潔に言えば、先日レイが出演した番組のプロデューサーが、そういうタイプの人間であったということだ。
「『大きな仕事』ですか」
「レイの性格からして……可能性はあるかも」
 皇騎のつぶやきに、シュラインがこくんと頷いた。
「何しろ、何としても芸能界に残ろうって娘だったみたいだから」
「結果、この世界からも去るはめになってしまったか。皮肉な物だ」
 ゆで卵をすっかり食べ切ったレイベルが言った。
「……大丈夫? 狙われてるんでしょう?」
「いや、襲われることは好都合だ。そこを捕らえれば、大本を辿ることが出来る」
 心配そうなシュラインに、笑って答える慶悟。理屈としてはそうだが、それでも心配は心配である。
「ともかく、ガードマンか管理事務所の方に共犯者ありね。鍵のことや、調べ回ってる人が多数居るのに真名神くんだけ狙ってるし……」
 シュラインが疑問を口にする。言われてみれば、何故慶悟だったのか、それが不思議である。とすれば、慶悟が接触した人物の中に共犯者が居ると考えた方が自然である。
「私はこれからもう1度、死亡時の状況を調べてくるとしよう。ビルが中身の要らない高さだけのタダの積み木だった可能性もあるからな」
 そう言って、オレンジジュースを飲み干すレイベル。
「え? それってどういう……」
 シュラインがレイベルに尋ね返そうとしたその時だ。
「ちょっと失礼」
 皇騎が上着のポケットから携帯電話を取り出し、液晶画面をチェックした。着信音が聞こえなかったことからすると、マナーモードにしていたようだ。
「……運転手の所在が分かりましたよ。某暴力団の人間のようです」
 静かに口を開く皇騎。ひょっとしてと思い、コネのある警察関係者に調べてもらった所、運よく引っかかってくれたらしい。
「それ、詳しく教えてもらえる? 向こうに電話かけ直すから……向こうでそれについては、調べてもらえるかもしれないし」
 シュラインが、皇騎に分かったことを尋ねた。その最中に、慶悟がふとつぶやいた。
「……いっそ攻めてみるのも手かもな」
 他の3人の視線が慶悟に集中した。慶悟はシュラインに向き直るとこう言った。
「伝えてほしい。『案内役を1人つける』と」

●隠された事実【2B】
 皇騎とレイベルは、警察に寄った後にレイの自宅マンションを訪れていた。警察に寄ったのは、レイベルが知り合いの検死官の男性に会って確認したいことがあったからである。
 レイの部屋に入ると、皇騎はすぐさまパソコンに向かった。昨日も調べてみたが、さらに見落としがないか調べるためだ。その間、レイベルは知り合いの検死官から受け取った資料を見直していた。
「胃の内容物はなし。しかし買い物の食パン等は……」
 台所へ行き、冷蔵庫を開いてみるレイベル。だがそこにあるのは調味料程度で、気持ちのいいくらいに空っぽであった。
「買ったはずの物はなし。食べた形跡もない……となると、食べることの出来なかった状況だった……か?」
 レイベルがぶつぶつとつぶやきながら台所から戻ってくる。そして他の資料にも目を通してみる。
「……地面はレイと激しい逢瀬を経験していたか。タダの積み木ではなかったのだな」
 素っ気無くつぶやくレイベル。飛び下りを偽装したのではないかと考えていたのだが、解剖所見をより深く見直してみるとそうではなかったようだ。つまりレイがビルから落ちたことはほぼ確定ということだ。
「だがしかし、空白の時間が生じている。睡眠薬を飲んだ形跡もなく、足取りも途切れている……胃が空……」
 レイベルがぐるぐると室内を歩き回る。その間も皇騎は一心不乱にパソコンを操作していた。ハードディスクがガリガリと音を立てている。
「待て」
 ピタリと足を止めるレイベル。
(殴り付け昏倒させたならば、両方が成立する)
 レイベルは再び解剖所見に目を通し、しばらくぶつぶつとつぶやいていた。そして、ある結論に達した。
「木の葉を隠すなら森の中……か。頭部を殴り付け昏倒させたなら、後で落とした時にその傷は隠せるということだ。墜落により大いなる傷でな」
 苦々しい表情のレイベル。
「人身を食い物にし、弄ぶ者たちの犠牲となったのだろう。ここまで考えてくるような奴らなのだからな」
 そしてレイベルは皇騎の方を見た。皇騎はキーボードから手を離し、頬杖を突いている所であった。
「ハードディスクに残っているデータも復活させてみましたけど、ダメですね。該当データなしです」
 実は皇騎、削除されたデータを復活させて読み取ろうとしていたのである。ファイルの削除というのは基本的にはファイルデータそのものが消え去るのではなく、対象ファイルの管理情報が消される訳である。つまりデータ自体はハードディスク上に残っていることもある訳だ。そこで皇騎はそういったデータをも復活させてみたのだが……その中にも関係のありそうなデータは見当たらなかった。
「……プリンタの診療もしてみるか?」
 レイベルが傍らのプリンタを指差した。何かデータを出力してみろということなのだろう。皇騎はプリンタの電源を入れ、適当なテキストファイルをプリンタに出力した。
「一応、遺書の写しも貰ってきたが……まだここの機械とは照合させてないようだ」
 出力を待つ間、遺書の写しを見ながらレイベルがつぶやいた。遺書の写しには『もう疲れました』とだけ書かれており、かすれもなく黒々とした文字であった。
 少ししてプリンタから用紙が排出された。だが――。
「かすれているぞ」
「おや?」
 顔を見合わせるレイベルと皇騎。そこで皇騎はプリンタのインク残量を調べてみることにした。その結果、黒インクがほとんど残っていないことが分かったのである。
「これは……」
 神妙な表情で、皇騎はプリンタのプリントヘッドのクリーニングを行った。そしてもう1度出力し直してみる。けれども結果は同じ、かすれたままだ。
「約1週間のラグはあっても、あまりにも違い過ぎる……」
 遺書の写しと今出力した物とを見比べながら、皇騎が言った。どう考えても、このプリンタから出力されたとは思えなかった。
 きっと警察はプリンタがあるのを確かめたことで、それで出力された物だと思い込んでしまったのであろう。明らかに他殺であったならまた違っていたのだろうが、自殺に見える状況ではそう思い込んでしまうのも無理はなかった。
「杜撰だな」
 レイベルが吐き捨てるように言った。

●あの時刻、あの場所で【3A】
 23時35分――『第3深見ビル』の屋上。真名神慶悟は1人の中年男と対峙していた。サングラスをかけて白い上着を羽織った、カマキリのような細身の男性――『M・Q』プロデューサーの大田原である。
「僕をこんな所に呼び出したのは君か。よりによって片平レイの声で呼び出すなんて……非常識にも程がある」
 忌々し気な表情の大田原。しかし慶悟は表情も変えず、淡々と話した。
「非常識はどっちだか。俺はあんたが何をしたか知っている。順を追って話してやろうか?」
「……ふん。馬鹿馬鹿しいが、聞くだけ聞いてやろう」
「片平レイは自殺じゃない、殺されたんだ。あんたに」
 すっと大田原を指差す慶悟。大田原は何も答えなかった。
「実際に手を下したのは別の人間だが、命令を出したのはあんただ。理由は仕事を与えることと引き換えに、女性タレントに身体の関係を迫っていた所を片平レイに見られたからだ。いや、見られただけではなく、それをネタに脅そうとしてきた。だからあんたは……」
「……何が望みだ」
 慶悟の言葉を制するように、大田原が言った。すると慶悟は指を1本立てた。
「こういう場合は決まっている。とりあえず1000万円出してもらおうか。それからはまた別の話だ」
「分かった。近日中に用意しよう」
「なかなか物わかりがいい人だ」
 そう言って慶悟は大田原に背を向けた。じりじりと慶悟に近付く大田原。だが慶悟はそれに気付くことなく、微動だにしなかった。
 やがて大田原は慶悟の至近距離にやってきた。それでも動かない慶悟。そして――大田原の手が慶悟の首にかけられた。
「……死ね!!」

●追求の手【3B】
 と、その瞬間である。2人に向かって、まばゆいフラッシュが炊かれたのは。
 驚き振り返る大田原。そこには多くの人間が集まっていた。宮小路皇騎、崗鞠、水無瀬龍凰、石和夏菜、シュライン・エマ、レイベル・ラブ、そして大田原のそばに居るはずの真名神慶悟。
「な、何故……!」
 大田原が唖然とした表情を見せた。
「式神は我が影なり。影に惑わされ、全てを吐露したのはあんた自身だ」
 厳しい口調で言い放つ慶悟。大田原のそばに居た慶悟は、実は慶悟の作り出した式神だったのである。
「今の光景、ちゃんと写真に撮らせていただきました……プロデューサーさん」
 カメラを手にしたシュラインが、大田原に言った。レイの声で。シュラインは大田原に電話をかけこの場に呼び寄せ、さらにこの場で式神の声を担当していたのだ。
「よ……寄越せ!」
 大田原がシュラインに向かって駆け出そうとした。しかしすっとレイベルが前に進み出て、足元のコンクリートに拳を叩き付けた。たちまちにひびの入るコンクリート。無言でレイベルが大田原を見ると、大田原は元の位置まで後ずさっていた。
「往生際が悪いの! 証人だっていっぱい居るんだからっ!」
 夏菜がびしっと大田原を指差して言った。すると龍凰が奥から顔中痣だらけの男2人を引っ張ってきた。
「さァて、俺たちに話したこと、もいっぺんここで話してくれねェかァ?」
 ぺちぺちと男たちの頬を叩きながら、龍凰が言った。
「は、話します、話します! あの女を殺したのは俺たちだよ! 買い物帰りのあの女を拉致って頭殴って昏倒させて、ここから落としたんだ!!」
「うちの組長と大田原さんが知り合いで、今までも色々と世話になってんだよぉっ!! だからうちも、色々と……揉み消したりよぉ……」
 情けない声で泣き叫ぶ男2人。ここまでにどういう目に遭ったのか、何となく想像がつくというものだ。
「タイミングがいいもので、ちょうど情報が出回り始めましたよ。『某テレビ局プロデューサーと暴力団の黒い交際』……今の話にぴったりですね」
 静かに話す皇騎。テレビ局関連で情報を集めていた所、タイムリーにこの情報が飛び込んできたのであった。
「まだ証人は居るの!」
 夏菜がそう言うと、今度は鞠が別の男を連れてきた。スーツ姿の情けなさそうな男である。顔には1発殴られた痕があった。そして鞠の肩には1匹の猫がちょこんと乗っかっていた。
「この子が教えてくださいました。彼ら2人に、この方が鍵らしき物を渡していたと」
 昨日は早朝にしか現場に来れなかったので、夜になって現場に来てみた所、鞠はこの猫に出会ったのである。そこで話を聞いてみた所、先述のような情報が手に入り、ビルから出てきた男を捕まえたのだ。ちなみに顔の殴られた痕は、龍凰がやった物である。
「し……仕方なかったんです! 借金があって、それで……管理事務所にあった屋上の鍵の合鍵を作って……。ほ、ほら! 娘を殺すと言われたら、誰だって……!」
 怯えた風に言う男。どうやら管理事務所の人間であるらしい。
「……だからといって、他の方を見殺しにしていいはずがありませんよ」
 鞠はきっぱりと言い切った。もしここでこの男がきっぱりと断っていたのであれば、レイは死なずに済んだのかもしれないのだから。
「そいつ、も1発殴りゃよかったかなァ」
 残念そうに言う龍凰。冗談ではない所がちと怖い。
「ああ、言い忘れていました。これ、分かりますか?」
 皇騎がノートパソコンを大田原に見せた。薄型コンパクトなノートパソコンである。だがそこに何かがついていた――カメラだ。
「今や気軽に映像が送れる時代ですから……この画像、知り合いの警察関係者も見ていることでしょう」
 薄い笑みを浮かべる皇騎。大田原にもう逃げ場はなかった。たった1ケ所を除いて。
「くっ……!」
 走り出す大田原。しかしその方角は扉の方でも、式神の居る方でも、皆の居る方でもない。ただ一方空いていた方角にあったフェンスだ。
 大田原はフェンスに飛びつくと、懸命にそれを越えようとした。7人は全く動くことなく、大田原の行動を見つめていた。
 やがて大田原がフェンスの一番上に達した時、フェンスの向こうから声が聞こえてきた。
「無駄だって」
「何っ?」
 暗闇からの声に驚く大田原。するとフェンスの向こうにある50センチのスペースから、布を取り去って姿を現した少年が居た。守崎北斗である。北斗はずっとここに隠れて待機していたのだ。大田原の自殺を阻止するために。
「自分でケリなんかつけさせねぇよ」
 頭上の大田原を睨み付け、北斗が言い切った。そこに後方から龍凰が駆け出してきて、フェンスの上の大田原を引きずり降ろした。その際に2、3発殴っていたのは……まあ、ご愛嬌ということで。
「北ちゃーん」
 夏菜が向こうでぶんぶんと手を振っていた。北斗はそれに対し、大きく手を上げて応えた。

●大団円?【4】
 こうして当初は自殺として扱われていた片平レイの事件は解決した。8人の集めた証拠を元に再捜査も開始された。
 『M・Q』は大田原が逮捕されたことにより打ち切り。後番組にはやはり葛西ユウ(かさい・ゆう)を起用した音楽バラエティ番組が放送されるという。
 マスコミには大量にネタが転がってくることとなった。今回の事件に対する警察の捜査に対する記事や、大田原と暴力団の関係についての記事、それから大田原が手を出した女性タレントについての記事、エトセトラエトセトラ。
「……表に出しちゃいけないことまで、表に出しちゃったのかしら」
 シュラインが複雑な表情でつぶやいた。事件解決から数日後、8人が喫茶『スノーミスト』に集まっていたのである。
 女性タレントについての記事は、表に出してよかったのか悪かったのか何とも判断がつけにくい。記事が出ることによって、芸能生命がピンチになるかもしれない者も居るのだから。
「悪いことは悪いことなの!」
 きっぱりと言い切る夏菜。これもまた1つの考え方である。
「ゲーノー界に興味ねーから、どーでもいーや」
 そう言うのは龍凰。やはりこれも考え方の1つ。何しろ芸能界とは関係ない世界で生きているのだから。
「聞く所によると、大田原は取り調べで素直に話しているそうだが……」
 慶悟が皆の顔を見回して言った。
「聞いた。やっぱり警察にコネがあったらしい。やけに迅速だったのも、その関係のようだ。まあいい。どうせこの先は、保釈やムショでのでかい顔は許されぬようになるのだから、な」
 レイベルはそう言って、ジャムを塗りたくったトーストを口に運んだ。この口調からすると、何やら行ったようではある。詳しい話は、あえて聞かないことにするが。
「そういや、その手紙どうするんだ?」
 北斗が鞠に尋ねた。手紙とは、金沢で美波から借り受けてきたレイの手紙のことだ。
「返しに行きますよ、もちろん。それが約束なのですから」
 静かに微笑む鞠。
「てェこたァ、やっぱ俺も行く訳だ」
 龍凰が苦笑して、カツサンドを口一杯に頬張った。まあ、自然とそういうことになるだろう。
 事件が解決して比較的穏やかな空気が流れていたが、ただ1人だけ浮かない顔の者が居た。皇騎である。
「どうしたの?」
 シュラインが皇騎の顔を覗き込むように尋ねた。
「いえ、腑に落ちないことが。あの情報、あまりにもタイミングがよすぎて……」
 あの情報とは、大田原と暴力団の関係についての情報のことだ。
「……別の情報に辿り着かせないために、他の情報を流すということは、情報戦の基本ですからね。もしこれが考え過ぎでなければ……」
「別の事実が隠されている……?」
 シュラインの言葉に、皇騎がゆっくりと頷いた。
 さてはて、真実は闇の中――。

【当日の手紙【後編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0445 / 水無瀬・龍凰(みなせ・りゅうおう)
                    / 男 / 15 / 無職 】
【 0446 / 崗・鞠(おか・まり)
                    / 女 / 16 / 無職 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0606 / レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)
           / 女 / 20代? / ストリートドクター 】
【 0921 / 石和・夏菜(いさわ・かな)
                   / 女 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全8場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせしました、あるアイドルの自殺事件にまつわるお話の完結編をお届けします。今回の依頼は成功です、おめでとうございます。ですが……何だか釈然としない終わり方だなと思われていませんか? いくつか謎が置き去りにされているかとも思いますが、それらについてはおいおい分かってゆくことでしょう。
・今回のプレイングなんですが、皆さん際どい所を突いてきていたなと思いました。おかげで高原、今後のプロットを修正するはめに陥りましたから。こういうのは、ある意味嬉しいことですね。
・それから高原から1つ謝っておくことがあります。『ワープロ』についてのことなんですが、これは高原の表記方法が稚拙だったかもしれませんね。本文で書いた『ワープロ』というのはハードとしての『ワープロ』ではなくて、ソフトとしての『ワープロ』のつもりでした。ですので、『プリンタで出力された文字=ワープロ文字』のつもりで書いたのですが、混乱させてしまったみたいですね。申し訳ありませんでした。今回の本文において、ワープロについての記述をのぎなみ外しているのは、そのためです。
・宮小路皇騎さん、14度目のご参加ありがとうございます。ナンバープレート等を調べる時、どこまでコネ等を使っていいかちと悩みました。その結果、本文のようになっています。とりあえずNシステムまでは使わなかったみたいです、今回。画像解析については大正解だったと思いますよ。あと本文ラストについてなんですが……今回は相手が1歩抜き出ていたということで。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。