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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


当日の手紙【後編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『当日の手紙』――。
 アイドル歌手・片平レイ(かたひら・れい)がビルの屋上より飛び降りて自殺した。しかし事件の報道から3日後、ゴーストネットの掲示板にはレイの親友で金沢に住む、七尾美波(ななお・みなみ)によるレイの自殺を否定する書き込みが投稿されていた。
 その根拠は事件当日に投函されたと思しき手紙が美波に届いていたからであった。しかも文面には、オフには金沢に帰るので遊ぼうとあったという。これから自殺しようという人間が、果たしてそんな約束をするのだろうか?
 それを受け、数名の男女が事件を調べ始めた。
 ある者は当日のレイの足取りを追い、ある者は現場の検証に向かった。解剖所見を調べ直した者も居れば、レイの部屋を調べた者も居る。レイの出ていた番組を調べに出かけた者たちが居れば、美波に会うために金沢まで出かけた者たちも居る。各人思い思いの方法で、事件を調べていたのだ。
 そんな最中、東京では事件を調べていた者が狙われ、金沢では何者かに命令された男が美波を脅そうとしていた。いずれの事件も未遂に終わったが、裏に何かがあるという疑いは強まっていた。
 果たしてこの事件の真相やいかに?

●モーニングセット、情報付き【1B】
 レイが亡くなって6日が経過した朝のことだ。4人の人間が喫茶『スノーミスト』に集まっていた。
「シュラ姉に電話してきたぞー」
 守崎北斗は携帯電話を手に、自分のテーブルへと戻ってきた。ちなみに北斗の言う『シュラ姉』とは、シュライン・エマのことである。
「これがレイちゃんが、美波ちゃんに送ったお手紙なの?」
 北斗が戻ってきた時、石和夏菜はしげしげと手紙を見つめていた。それに対し、向かいに座っていた崗鞠が小さく頷いた。昨日の朝一番に金沢へ向かい、最終便で羽田に戻ってきた鞠は、美波本人に頼んでこの手紙を借り受けてきたのである。なお、今ここで4人が顔を合わせているのは、美波を仲介とした結果である。
 もっとも金沢では、美波を襲おうとした人間が居たのだが……それは鞠とともに金沢へ向かった水無瀬龍凰が未然に防いでいた。その龍凰、今現在は目の前のハムサンドと格闘をしている最中であった。
「……私の分も食べますか?」
 鞠がそう話しかけると、龍凰は無言で――口一杯にハムサンドが入っていたので、言葉が出せなかったのだ――鞠の前に置かれていたトーストの皿を自分の前へ引っ張っていった。
「一応こっちの状況なんかも伝えておいたけど、向こうは向こうで大変らしい。シュラ姉じゃないけど、車で襲われた人が居るってさ」
 北斗は小さく溜息を吐くと、グレープフルーツジュースに口をつけた。きっとややこしい話になってきたと思っているのだろう。
「北ちゃんは、この事件どう思ってるの?」
 夏菜が北斗の顔を覗き込むように尋ねた。
「俺か? 俺はこの事件は自殺に……」
 北斗がそこまで話した所で、夏菜がポカッと北斗の頭を叩いてきた。
「イテ。殴るなよ夏菜」
 じろりと夏菜を見る北斗。
「絶対他殺なの! だって事故なら、屋上で靴を脱ぐ理由が必要なの。お話しでもお稽古でも『真夜中の屋上で』『靴を脱いで』する必要ある? 自殺だとしても、他にも色々とおかしいことあるんでしょ?」
「まあなあ。当日、19時前にコンビニで食パン買ってるって、シュラ姉も言ってたし……」
「何にしても、自殺じゃねーだろ。裏に何かあったとしても今なら何も分かってねーし、放っときゃ害はねェはずなのに、あの女襲ってんだぜ? キナ臭ェって自分でゲロしてるよーなモンじゃねーか」
 食べるだけ食べて人心地ついたのか、牛乳片手に龍凰が口を挟んだ。
「そういえば、美波ちゃん大丈夫かなあ。一緒にこっちへ来てもらえればよかったのに……」
 残念そうにつぶやく夏菜。それを聞いて北斗が顔をしかめた。
(美波のボディーガードまで無理だって!)
 北斗は内心そう思っていた。負担が増えれば、それだけ大事なことに手が回らなくなるのだから。
「大丈夫だと思います。この手紙をお預かりする際に、きちんとお護りするよう言い含めておきましたから……」
 鞠が静かに言葉を発した。
「誰に?」
 首を傾げて尋ねる夏菜。鞠は無言で笑みを返した。
「てか鞠、お前行動は鈍臭いクセになんでンなフットワーク軽いンだよ! 手紙預かったことも、今のそれも、俺は知らなかったぞ!」
 じろりと鞠を睨み付ける龍凰。
「捜査の基本は足……」
「そういうこと言うんじゃねェよ!」
 鞠の言葉を制する龍凰。そのやり取りを見ていた夏菜と北斗が思わず吹き出した。そこに鳴り響くメールの着信音。夏菜が自分の携帯電話をチェックした。
「あっ、美波ちゃんからだ♪」
 一瞬ぱっと明るくなった夏菜の表情だったが、すぐに落胆の表情へと変わる。
「……レイちゃん、こっちで仲良しの人は居なかったみたい。美波ちゃんは知らないって」
「収録では他の芸能人と和気藹々と喋ってても、友だちは居ないって訳か。あーあ、行き詰まったなあ」
 やれやれといった表情の北斗。が、今度は北斗に電話がかかってきて、北斗は席を立ってテーブルから少し離れていった。
「情報収集に関しては、私たちではこれ以上はどうしようもないかもしれません。普通にレイさんの事務所にお伺いしても、門前払いでしょうし……何か……何か、解決の糸口が見えれば……」
 憂いを帯びた瞳で語る鞠。八方塞がりとはこのことなのだろうか。
「ンにしても、こういうのって苦手だァな。腕力に訴える方向なら得意なんだけどよー。あー暴れてー」
 龍凰がテーブルに突っ伏して、だるそうに言う。そこへ戻ってきた北斗が、龍凰を見下ろしてつぶやいた。
「そんなに暴れたいなら、暴れさせてやるよ」
「何っ! どこだっ、どいつだっ!!」
 がばっと起き上がり、店内をきょろきょろと見回す龍凰。鞠が静かに頭を振り、ここではないと態度で示した。
「シュラ姉から連絡。調べてほしい場所と車があるってさ。向こうを襲った車みたいだけど……案内役1人つけるって言ってたぜ」
「よっしゃあーっ! どうせ嗅ぎ回ってる俺らもヤバいに違いねェ! だったら、先に潰してやらァ!」
 バシバシと左の手のひらに右手の拳を叩き付ける龍凰。臨戦態勢であるようだ。
「え、じゃあ北ちゃん。もしかしたら犯人の一味を捕まえられるかもしれないの?」
 夏菜が期待に満ちた眼差しで北斗を見た。
「そ……そうなりゃいいな」
 言葉を濁す北斗。
(まさか……拳銃出てこないだろうな?)
 北斗は1人そんなことを考えていた。これから他の3人に話すことではあるが、実は……行き先は暴力団の事務所であった。拳銃の1挺や2挺、あってもおかしくはない場所である。

●攻撃は最大の防御なり【2C】
 都内某所の一角にその事務所はあった。『株式会社灰原興産』と看板は掲げているが、そこが真っ当な事務所ではないことは出入りする人間から明らかであった。とどのつまり、ここは会社の皮を被った暴力団事務所である訳だ。事務所の傍らには、何台も黒い車が並んでいた。
 その事務所に向かって歩いてゆく、金髪でスーツ姿の青年の姿があった。真名神慶悟である。慶悟は躊躇なく事務所の前までやってくると、そのまま事務所の扉を開けて中に入っていってしまった。事務所の中には人相の悪い男たちが10数人待っていた。
「おう、何じゃい、お前」
 いかつい顔の男が、慶悟を睨み付けるようにして言った。その隣に居た別の男が、はっと気付いたように叫んだ。
「兄貴! こいつです、こいつ! 命令が出てたのは!」
「そうか、われか。われから出向いてくるなんざ、いい心掛けやんけ。その分、苦しまんようにしたるさかいな」
 下衆な笑みを浮かべる男。それに合わせて他の男たちも一斉に笑い出した。
「おうっ! 誰か表見張ってこい!」
「へいっ!」
 兄貴分の男に命令され、一番若い男が表へ出ようとしたその時――勢いよく扉が開かれた。開いた扉にぶつかり、若い男が床へと倒れる。そこに入ってきたのは龍凰だった。
「馬鹿みてェに素直な動きだよなァ」
 男たちを見回して、ニヤニヤと笑う龍凰。この後の展開が頭の中に浮かんでいるのだろう、何とも嬉しそうである。
「2度と変な気ィ起こさねーよーに来てやったぜェ?」
「じゃかあしい! そいつはこっちの台詞じゃあ! おどれら2人、生きては返さんぞ!!」
 兄貴分の男が、龍凰と慶悟に対し怒鳴った。が、2人とも平然としたものである。それどころか、龍凰はこの状況を楽しんでいる風でもあった。
「2人じゃねえって」
 天井裏からぼそりと声が聞こえた。と同時に、何やら投げ込まれ爆発を起こした!
「か、火事か!? げほげほっ!!」
 たちまち煙に包まれる室内。その機を逃さず、龍凰が大きく踏み込んでいった。
「うりゃぁぁぁっ!!」
 龍凰は左右の拳を同時に突き出し、2人の男の顔面に命中させたのである。当然のことながら、標的となった2人はその場に崩れ落ちた。
「誰か! チャカ持ってこんかい! チャカやチャカ!!」
「それは困るぜ」
 怒鳴る兄貴分の男の背後から声が聞こえた。兄貴分の男は声の主を確かめようとしたが、それより早く首に手刀を叩き込まれて沈んでしまった。
「……ほんとに拳銃持ってやがったか」
 引きつった笑顔でそう言ったのは、北斗だった。ちなみにこの室内の煙の原因となった煙玉を投げ込んだのも、北斗である。
「燃えていいんなら、かかってきなァ!」
 龍凰が挑発的な言葉を叫んでいたその頃――事務所の外では外で、別の行動が行われていた。
「これも違うの」
「……違いますね」
 事務所の外、何台も並べられた車の間を写真片手に夏菜と鞠が歩いていた。写真には黒い車が写っている。どうやら目の前の車と照らし合わせているようだ。
「北ちゃん大丈夫かな……」
 ちらりと事務所の方を見る夏菜。事務所の中はまだまだ騒動が治まりそうになかった。
「大丈夫でしょう。一緒ですもの」
 静かに、しかしきっぱりと鞠が言った。そして照合作業を続ける。
「でも、あのスーツの人、式神って言うんでしょう? 普通の人みたいだよねっ」
 夏菜が感心したように言った。そう、実はこの場に来ている慶悟は、慶悟本人が自らに似せて作り出した式神だったのである。ちなみにテープレコーダーを持たされているので、事務所の中での出来事は、全て録音されていた。また2人が手にしている写真は、その式神が持ってきてくれた物である。
「あ」
 鞠が短くつぶやき足を止める。目の前に、写真の中の車によく似た車があったのだ。
「写真に似てるの! でも……ナンバープレートが違うの」
 夏菜はしげしげと車を見つめた後、残念そうにつぶやいた。しかし鞠はすたすたとナンバープレートのそばに近付くと、身を屈めた。
「ひょっとして……」
 鞠はナンバープレートをコンコンと叩いてみた。すると何ということだろう、ナンバープレートがコトンと落ちて、下から別のナンバープレートが表れたではないか!
「ああっ! 写真のナンバープレートなの!」
 驚き叫ぶ夏菜。鞠は立ち上がると、夏菜に笑みを向けた。
「常套手段ですか。……向こうもそろそろ終わるみたいですよ」
 事務所の方を見る鞠。その瞬間、扉がぶち破られ男が吹っ飛ばされてきた。
「これでラストォォッ!!」
 壊れた扉の中から龍凰の叫び声が聞こえてきた。そして、苦笑いを浮かべて北斗が出てくる。駆け寄ってゆく夏菜。
「北ちゃん、お疲れさまっ♪」
「あっはっはー……ほとんどやることなかったぜ」
 何でもほとんどの敵を龍凰が倒してしまったそうである。もっとも口がきけなくなった者も多いそうだが。
「……これで解決の糸口が見えてきましたね……」
 鞠が静かにつぶやいた。後は男たちから、知っている限りの情報を十分に話させるだけであった。

●あの時刻、あの場所で【3A】
 23時35分――『第3深見ビル』の屋上。真名神慶悟は1人の中年男と対峙していた。サングラスをかけて白い上着を羽織った、カマキリのような細身の男性――『M・Q』プロデューサーの大田原である。
「僕をこんな所に呼び出したのは君か。よりによって片平レイの声で呼び出すなんて……非常識にも程がある」
 忌々し気な表情の大田原。しかし慶悟は表情も変えず、淡々と話した。
「非常識はどっちだか。俺はあんたが何をしたか知っている。順を追って話してやろうか?」
「……ふん。馬鹿馬鹿しいが、聞くだけ聞いてやろう」
「片平レイは自殺じゃない、殺されたんだ。あんたに」
 すっと大田原を指差す慶悟。大田原は何も答えなかった。
「実際に手を下したのは別の人間だが、命令を出したのはあんただ。理由は仕事を与えることと引き換えに、女性タレントに身体の関係を迫っていた所を片平レイに見られたからだ。いや、見られただけではなく、それをネタに脅そうとしてきた。だからあんたは……」
「……何が望みだ」
 慶悟の言葉を制するように、大田原が言った。すると慶悟は指を1本立てた。
「こういう場合は決まっている。とりあえず1000万円出してもらおうか。それからはまた別の話だ」
「分かった。近日中に用意しよう」
「なかなか物わかりがいい人だ」
 そう言って慶悟は大田原に背を向けた。じりじりと慶悟に近付く大田原。だが慶悟はそれに気付くことなく、微動だにしなかった。
 やがて大田原は慶悟の至近距離にやってきた。それでも動かない慶悟。そして――大田原の手が慶悟の首にかけられた。
「……死ね!!」

●追求の手【3B】
 と、その瞬間である。2人に向かって、まばゆいフラッシュが炊かれたのは。
 驚き振り返る大田原。そこには多くの人間が集まっていた。宮小路皇騎、崗鞠、水無瀬龍凰、石和夏菜、シュライン・エマ、レイベル・ラブ、そして大田原のそばに居るはずの真名神慶悟。
「な、何故……!」
 大田原が唖然とした表情を見せた。
「式神は我が影なり。影に惑わされ、全てを吐露したのはあんた自身だ」
 厳しい口調で言い放つ慶悟。大田原のそばに居た慶悟は、実は慶悟の作り出した式神だったのである。
「今の光景、ちゃんと写真に撮らせていただきました……プロデューサーさん」
 カメラを手にしたシュラインが、大田原に言った。レイの声で。シュラインは大田原に電話をかけこの場に呼び寄せ、さらにこの場で式神の声を担当していたのだ。
「よ……寄越せ!」
 大田原がシュラインに向かって駆け出そうとした。しかしすっとレイベルが前に進み出て、足元のコンクリートに拳を叩き付けた。たちまちにひびの入るコンクリート。無言でレイベルが大田原を見ると、大田原は元の位置まで後ずさっていた。
「往生際が悪いの! 証人だっていっぱい居るんだからっ!」
 夏菜がびしっと大田原を指差して言った。すると龍凰が奥から顔中痣だらけの男2人を引っ張ってきた。
「さァて、俺たちに話したこと、もいっぺんここで話してくれねェかァ?」
 ぺちぺちと男たちの頬を叩きながら、龍凰が言った。
「は、話します、話します! あの女を殺したのは俺たちだよ! 買い物帰りのあの女を拉致って頭殴って昏倒させて、ここから落としたんだ!!」
「うちの組長と大田原さんが知り合いで、今までも色々と世話になってんだよぉっ!! だからうちも、色々と……揉み消したりよぉ……」
 情けない声で泣き叫ぶ男2人。ここまでにどういう目に遭ったのか、何となく想像がつくというものだ。
「タイミングがいいもので、ちょうど情報が出回り始めましたよ。『某テレビ局プロデューサーと暴力団の黒い交際』……今の話にぴったりですね」
 静かに話す皇騎。テレビ局関連で情報を集めていた所、タイムリーにこの情報が飛び込んできたのであった。
「まだ証人は居るの!」
 夏菜がそう言うと、今度は鞠が別の男を連れてきた。スーツ姿の情けなさそうな男である。顔には1発殴られた痕があった。そして鞠の肩には1匹の猫がちょこんと乗っかっていた。
「この子が教えてくださいました。彼ら2人に、この方が鍵らしき物を渡していたと」
 昨日は早朝にしか現場に来れなかったので、夜になって現場に来てみた所、鞠はこの猫に出会ったのである。そこで話を聞いてみた所、先述のような情報が手に入り、ビルから出てきた男を捕まえたのだ。ちなみに顔の殴られた痕は、龍凰がやった物である。
「し……仕方なかったんです! 借金があって、それで……管理事務所にあった屋上の鍵の合鍵を作って……。ほ、ほら! 娘を殺すと言われたら、誰だって……!」
 怯えた風に言う男。どうやら管理事務所の人間であるらしい。
「……だからといって、他の方を見殺しにしていいはずがありませんよ」
 鞠はきっぱりと言い切った。もしここでこの男がきっぱりと断っていたのであれば、レイは死なずに済んだのかもしれないのだから。
「そいつ、も1発殴りゃよかったかなァ」
 残念そうに言う龍凰。冗談ではない所がちと怖い。
「ああ、言い忘れていました。これ、分かりますか?」
 皇騎がノートパソコンを大田原に見せた。薄型コンパクトなノートパソコンである。だがそこに何かがついていた――カメラだ。
「今や気軽に映像が送れる時代ですから……この画像、知り合いの警察関係者も見ていることでしょう」
 薄い笑みを浮かべる皇騎。大田原にもう逃げ場はなかった。たった1ケ所を除いて。
「くっ……!」
 走り出す大田原。しかしその方角は扉の方でも、式神の居る方でも、皆の居る方でもない。ただ一方空いていた方角にあったフェンスだ。
 大田原はフェンスに飛びつくと、懸命にそれを越えようとした。7人は全く動くことなく、大田原の行動を見つめていた。
 やがて大田原がフェンスの一番上に達した時、フェンスの向こうから声が聞こえてきた。
「無駄だって」
「何っ?」
 暗闇からの声に驚く大田原。するとフェンスの向こうにある50センチのスペースから、布を取り去って姿を現した少年が居た。守崎北斗である。北斗はずっとここに隠れて待機していたのだ。大田原の自殺を阻止するために。
「自分でケリなんかつけさせねぇよ」
 頭上の大田原を睨み付け、北斗が言い切った。そこに後方から龍凰が駆け出してきて、フェンスの上の大田原を引きずり降ろした。その際に2、3発殴っていたのは……まあ、ご愛嬌ということで。
「北ちゃーん」
 夏菜が向こうでぶんぶんと手を振っていた。北斗はそれに対し、大きく手を上げて応えた。

●大団円?【4】
 こうして当初は自殺として扱われていた片平レイの事件は解決した。8人の集めた証拠を元に再捜査も開始された。
 『M・Q』は大田原が逮捕されたことにより打ち切り。後番組にはやはり葛西ユウ(かさい・ゆう)を起用した音楽バラエティ番組が放送されるという。
 マスコミには大量にネタが転がってくることとなった。今回の事件に対する警察の捜査に対する記事や、大田原と暴力団の関係についての記事、それから大田原が手を出した女性タレントについての記事、エトセトラエトセトラ。
「……表に出しちゃいけないことまで、表に出しちゃったのかしら」
 シュラインが複雑な表情でつぶやいた。事件解決から数日後、8人が喫茶『スノーミスト』に集まっていたのである。
 女性タレントについての記事は、表に出してよかったのか悪かったのか何とも判断がつけにくい。記事が出ることによって、芸能生命がピンチになるかもしれない者も居るのだから。
「悪いことは悪いことなの!」
 きっぱりと言い切る夏菜。これもまた1つの考え方である。
「ゲーノー界に興味ねーから、どーでもいーや」
 そう言うのは龍凰。やはりこれも考え方の1つ。何しろ芸能界とは関係ない世界で生きているのだから。
「聞く所によると、大田原は取り調べで素直に話しているそうだが……」
 慶悟が皆の顔を見回して言った。
「聞いた。やっぱり警察にコネがあったらしい。やけに迅速だったのも、その関係のようだ。まあいい。どうせこの先は、保釈やムショでのでかい顔は許されぬようになるのだから、な」
 レイベルはそう言って、ジャムを塗りたくったトーストを口に運んだ。この口調からすると、何やら行ったようではある。詳しい話は、あえて聞かないことにするが。
「そういや、その手紙どうするんだ?」
 北斗が鞠に尋ねた。手紙とは、金沢で美波から借り受けてきたレイの手紙のことだ。
「返しに行きますよ、もちろん。それが約束なのですから」
 静かに微笑む鞠。
「てェこたァ、やっぱ俺も行く訳だ」
 龍凰が苦笑して、カツサンドを口一杯に頬張った。まあ、自然とそういうことになるだろう。
 事件が解決して比較的穏やかな空気が流れていたが、ただ1人だけ浮かない顔の者が居た。皇騎である。
「どうしたの?」
 シュラインが皇騎の顔を覗き込むように尋ねた。
「いえ、腑に落ちないことが。あの情報、あまりにもタイミングがよすぎて……」
 あの情報とは、大田原と暴力団の関係についての情報のことだ。
「……別の情報に辿り着かせないために、他の情報を流すということは、情報戦の基本ですからね。もしこれが考え過ぎでなければ……」
「別の事実が隠されている……?」
 シュラインの言葉に、皇騎がゆっくりと頷いた。
 さてはて、真実は闇の中――。

【当日の手紙【後編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0445 / 水無瀬・龍凰(みなせ・りゅうおう)
                    / 男 / 15 / 無職 】
【 0446 / 崗・鞠(おか・まり)
                    / 女 / 16 / 無職 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0606 / レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)
           / 女 / 20代? / ストリートドクター 】
【 0921 / 石和・夏菜(いさわ・かな)
                   / 女 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全8場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせしました、あるアイドルの自殺事件にまつわるお話の完結編をお届けします。今回の依頼は成功です、おめでとうございます。ですが……何だか釈然としない終わり方だなと思われていませんか? いくつか謎が置き去りにされているかとも思いますが、それらについてはおいおい分かってゆくことでしょう。
・今回のプレイングなんですが、皆さん際どい所を突いてきていたなと思いました。おかげで高原、今後のプロットを修正するはめに陥りましたから。こういうのは、ある意味嬉しいことですね。
・それから高原から1つ謝っておくことがあります。『ワープロ』についてのことなんですが、これは高原の表記方法が稚拙だったかもしれませんね。本文で書いた『ワープロ』というのはハードとしての『ワープロ』ではなくて、ソフトとしての『ワープロ』のつもりでした。ですので、『プリンタで出力された文字=ワープロ文字』のつもりで書いたのですが、混乱させてしまったみたいですね。申し訳ありませんでした。今回の本文において、ワープロについての記述をのぎなみ外しているのは、そのためです。
・守崎北斗さん、2度目のご参加ありがとうございます。拳銃……ありましたねえ。撃たれはしませんでしたが。シュラインさんと連絡を取ったことで上手く繋がりが出来て、よかったと思います。連絡取ってなかったら、こちらの組は暗礁に乗り上げていた可能性もありましたので。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。