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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


幸運を呼ぶサイト

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 不思議大好き少女・瀬名雫は、新たな面白い出来事を求めて今日も今日とて自サイトの掲示板をしらみ潰しにチェックしていた。
 が。
 ここ数日、彼女は少々うんざりした気持ちになっていた。思わず小さく溜息が零れる。
 その原因というのが、最近彼女の掲示板を賑わせている話題だった。勿論、不思議な事が大好きな雫にとって、そんな書き込みがあるのはすごく嬉しい。だけど、ここ最近の書き込みは明らかに一つの事を次から次へと書き込んでいるのだ。それも、どれもこれも「嬉しい!」「ラッキー!」「めちゃ、楽しかったよ」「すっごい幸せ〜」などといった喜び満ち溢れた書き込みばかりなのだ。
「そりゃあ、陰湿な書き込みよりはよっぽどいいけどさ〜」
 ここまで過剰にアピールされれば、さすがに辟易してくるものだ。
 ちなみにこれらの書き込みの話題は、あるサイトに関してだ。
 そのサイトには、数多くの占いが存在している。金運・恋愛運・将来の夢・出世の道・友人関係などなどざっとチェックしただけでも相当な数だ。元々、一人の占い師が始めたサイトのようで、ちゃんとその占い師がいる場所も明記してある。新宿のとある雑居ビルの一室だ。
 そして、そのHPの下の方にこう明記されている。

『もし、この占いの結果にご不満がある方は、直接当方へおいで下さい。素晴らしい運気へと導いてあげましょう』

 どうやらその結果が、数々の書き込みになっているみたいだ。
「でも、それってなんか怪しい〜」
 どこぞの新興宗教の勧誘じゃあるまいし、そう簡単に運なんて上がるのだろうか。確かに現実に幸運になった人はいるらしい。だが、彼ら・彼女らのそれからは? 書き込んでいるのは、どれもが一人一回きり。その後の書き込みが一切ないのだ。
 雫の呟きを聞いて、周りにいた人達が彼女の周りに集まってきた。そんな面々に雫はニッコリと笑みを浮かべて振り返る。
 それを見た瞬間、彼らは彼女の続ける言葉をイヤでも理解してしまった−−

1.Wheel of Fortune SIDE:A
 目の前の行き交う雑踏をぼんやりと眺めながら、男は静かに佇んでいた。煌びやかなネオン瞬く繁華街。切れる事なく続く人の群。そこかしこで響く喧騒のBGM。大気ですらどこか汚れた雰囲気を持つ。
 その中にあって、その男はどこか超然とした雰囲気でその場所に立っていた。纏う空気もいっそ清々しい程の爽やかさを持ち、その存在感は明らかに周囲の連中と違うものがあった。
 派手目のワイシャツに紺のスーツ。脱色した金髪が鮮やかに光る。タバコを咥える姿が様になる男の名は、真名神慶悟
 一見、この街に似つかわしい格好の男だが、その筋ではかなり名の知られた陰陽師である。
 その彼が今見つめているのは、かなり老朽化の進んだ雑居ビル。看板も何もついていないどこにでもあるビル。辺りのネオンに挟まれ、そこだけどこか鬱蒼とした雰囲気がある。
 視線を下から上に送るように眺めてから、慶悟はタバコを持ち替えた右手で軽く頭を掻いた。
「どうやら、ここだな」
 呟き、ポケットから一枚の紙を取り出した。プリントアウトされた地図。周辺の建物と照らし合わせ、慶悟は目の前のビルが目的地である事を確認する。
 と、その時点で奇妙な事に気付く。
 行き交う人々の誰もが、そのビルをまるで無視するかのように素通りしているのだ。こんな繁華街のど真ん中、ネオンすらないそのビルは明らかに違和感がある。
 それなのに誰も何も言わない。視線すら向けない。なにやら人払いの力が働いている事は明白だ。
(前にも怪しいサイトの事件はあったが…)
「成る程。どうやら今回も同じらしいな」
 口を衝いて出た言葉。脳裏を過ぎったのは、以前にも関わった事のある件のサイトの事件。結果としてサイト自体は無くなったが、あれで解決したとは慶悟自身思っちゃいない。
 だからこそ、今回の書き込みを見た時点で首を突っ込まずにはいられなかったのだ――

 ――そのHPへアクセスした時、慶悟は少しだけ感嘆した。
 黒系で纏めた落ち着いた仮想空間。占い館の一般的イメージをそのまま再現した作り。簡易的な占いでなく、かなり事細かく指定される本格的な占い。
 が、それはそれ。
 やはり今回も一度試してみない事には、結果が得られないだろう。
 そう思って、再び慶悟はキーボードに指を走らせた。前回と違い、今回はHN(ハンドルネーム)として『K』を名乗り、幾つかのチェック項目を埋めていく。そして、最後に占うべき項目に辿り着いた時、一瞬の逡巡の後、彼はこう書き込んだ。
『最近、暗い事件が多くて沈みがちです。そのせいか不幸だらけのような気がします。どうしたら良いんでしょうか?』
 少し白々しかったか。
 そう思いつつも、全体運と書かれた項目にチェックした。
 元々占いの結果云々はどうでもいい。占い師に会う事が目的なのだから。
「まあ、あまり不穏な内容だと警戒する必要があるがな」
 小さく呟き、マウスを操作して送信ボタンを押した――

『貴方の気は、今非常に乱れた状態です。その結果、些細な出来事でもネガティブに考えてしまいがちで、その相乗効果で不幸と捉えているようですね。しばらくすれば、運気の乱れも収まると出ていますが、もしそれまで待てないとお考えなら、一度当占いの館に来てみては如何でしょうか。貴方の運気の向上をお約束致します』

 直後、送られてきたメールに目を通し、思わず苦笑を禁じえない。案の定、そこに記されていた内容は、占い相手の不安を煽るようなものだった。
 そして、記された住所と地図。それが、今目の前にある古びたビルだ。
「さて、どうするか…」
 迂闊に飛び込めば、以前の時と同じだ。肝心なトコロで相手に逃げられてはどうしようもない。
 とりあえず式神を配置しておくか。そう一人ごちて式符を懐から取り出した。
 その時。
(あれは――)
 慶悟の視界に入ってきた一つの影。少し小柄な高校生と思しき少女が、慶悟の見ている前でなんの躊躇いもなく古ビルへと入っていこうとしている。
 周りの人間が何も見えていないその古ビルに向かっているという事は、HPの占いに惹かれてやって来たのか。
 それとも。
(どうやらお仲間、らしいな)
 その躊躇のない歩き方を見て、慶悟はそう判断する。
 が、彼女がどういう力を持っているにせよ、一人で突っ込むのは少々無茶だ。声をかけるより先に、少女を追って慶悟もビルの中へと入っていた。

2.Cross to Fortune
「おい、お前!」
 呼び止めた声に、南宮寺天音はふと振り向く。そこにはホスト然とした格好の男――真名神慶悟が立っていた。
 如何にもな男の出現に、思わず天音は眉根を顰める。
「なんやねん、あんた」
 警戒心丸出しの少女を相手に、慶悟の方は別段慌てた様子もない。元よりこんな格好の自分が胡散臭く見られるのには慣れていたし、ここで話を拗らせても仕方ないと経験から悟っていたからだ。
 軽く肩を竦め、笑みを浮かべてみせる。
「なんだとはご挨拶だな。あんたもゴーストネットの掲示板を見て来たんだろ?」
「へ? …てことは、あんさんも」
「ま、同業者ってトコだな」
「なんや、それなら目的は同じって事やな。ほな、一緒に行こか」
 途端、天音の顔が笑みへと変わる。別に警戒心が解けたワケじゃない。味方は多いほうがいい。そう考えた彼女の打算がそこにはあった。
 慶悟自身、そんな思惑に気付かないワケもなく。
 同じ様に人手は多い方がいいと思ったからこそ、彼女との同行を了承したのだ。
「了解。俺の名は真名神慶悟。あんたは?」
「うちは南宮寺天音や。よろしゅう」
 そうやって挨拶を交わした二人は、暗黙の了解でビルの奥へと視線を向けた。
 明りの乏しい薄い暗がり。どこまでも続きそうな闇。
「ほな、行きましょっか」
「ああ」
 彼らの足は、躊躇う事無くその闇へと一歩を踏み出した。

3.Luck or Future?
 ――トンネルを抜けると、そこは別世界だった…

 確かそんな一説があったっけな。
 ぼんやりとそんな事を考えながら、慶悟は目の前に広がる暗闇を眺めていた。そう、文字通りどこまでも続く『暗闇』を。
「な、なんやねん、これ?」
 隣でポツリと呟いた天音の声が、闇へと吸い込まれて消える。
 慶悟は素早く身構えて、闇をじっと観察する。この感覚を彼は知っていた。以前体験した経験を思い出す。
 あの時の闇と今ここにある闇は、確かに同一だと感じる。だが、その一方で異質なものだという感覚も持ち合わせていた。
「あんまり離れるんじゃないぞ」
「真名神さん?」
「どうやら、相手は『人』じゃないらしいからな」
 その科白の危険さを感じたのか。
 天音はピタリと寄り添う形で、だが彼の邪魔をしないような体勢をとった。
 それを確認してから、懐から数枚の呪符を取り出す。小さな声で幾つかの呪を紡ぎ、手にした符を静かに振るう。その瞬間、慶悟の周囲に潜んでいた式神が姿を現す。彼を中心にちょうど五芒星の頂点を象るような配置で。
「さて、と」
 既に戦闘準備万端の状態で、彼は闇の、更に奥を凝視する。
「そろそろ出て来たらどうなんだ?」
 何が、と天音が聞き返すより先に、闇に響いてきた微かな笑い声。
 ――クスクスクス…
 そして。
 闇の中、ぼんやりとした光を纏って浮かぶ一台の机。黒い敷布を被せた占い師が使う定番通りのもの。その上に置かれた水晶球がどうやら光を放っているようだ。
 天音は思わず息を飲む。裏家業に慣れているとはいえ、まだ高校生。怪異な存在を相手にはいまだ心の準備が足りないらしい。
「やれやれ。大層な現れ方だな」
 その点、慶悟の方はその道を本職にしてるだけあって、大抵の事には驚かない。
「クスクスクス…本日はようこそ。我が占いの館へ」
 聞こえてきた声の方に視線を向ける。
 と、そこにはさっきまで確かに誰もいなかった筈なのに、髪の長い女性が机の向こう側に座っていた。肘を机の上に乗せ、組んだ両手の上に顎を乗せた姿勢で。
「……なんや。けったいな格好してはるな」
 相手が姿を見せた事でようやく気を取り直したのか、天音が強気な目線で彼女を睨みつける。
「あんた、けったいな客商売してるようやな」
「――どういうことかしら?」
 女は笑みを崩さない。更に天音が何か言おうとしたのを、横から慶悟が視線で遮る。そして皮肉めいた口調でこう口にする。
「占いは大人気のようだな?」
「ええ。おかげさまで。人は皆、幸せになりたいものだから」
「なるほど。…そうやって今まで会いに来た連中を幸せにしたってワケか」
「そうよ」
 クスクス…
 まるで鈴を転がすように涼やかに笑む。
 そんな女の態度に、天音は思わずカチンときた。
「ふん! どうせあんたが『運気』を操っとんのとちゃうか?」
 思わず言い放った言葉がどうやら図星を突いていたようだ。みるみる女の顔色が変わっていくのが見て取れる。
「どうしてそれを――」
「やっぱりやな」
「成る程…そういう事か。それじゃあ今まで来たやって来た連中の将来か、居場所となると…」
「そんなん。とうの昔におらんようになったに違いないて。人の持つ運ちゅうのは、大体決まった量っちゅうのがあるんや」
 「運気」の操作が自在に出来る天音にとっても、強運を得ようとするならその揺り返しである不幸は免れない。人の一生が持つとされる幸運をある一点に集中してしまえば、その反動は大きい筈だ。到底普通の人間が太刀打ち出来るようなものじゃない。
「一時幸運やからって、それがそのまま続くっちゅう保証はどこにもないんや」
「運を使い果たしてしまった人間の待つ未来は――」
 最悪の不幸。すなわち死だ。
「それがどうしたの? 彼らは一時の幸運を求めてここに来た。私は彼らの手助けをした。その後彼らがどうなろうと関係ないわ」
 幾分強気な彼女の言葉。
「それに私はアイツとは違って、本物の幸運を与えてあげたのよ。少しくらい魂を頂いてもいいでしょう?」
「…なんやて?」
「貴方達の運気も最上のものにしてあげましょうか?」
 そう言って女が手を差し出す。
 が、寸前の所で彼女の動きが止まった。
「な、に…ッ」
「――――縛ッ!」
「ァッ!」
「残念だが、そいつはお断りだ。俺の人生はまだまだ長い。これから先、まだやりたい事はたくさんあるからな」
 唱える呪。幾つかの九字の印。そして、式符。
 流れるような動作で繰り出される慶悟の攻撃は、外れる事なく女へヒットした。至極当然のような顔をしていたが、内心では術が返される心配もしていたのだが。
 だが、今の現状に一番驚いているのは、その女の方だった。本来ならば避けられた攻撃。例え捕縛されていようとも、ここまで見事に当たるワケがない。それだけの自信が女にはあったのだ。
 ハッと視線を上げた先。
 見つめる天音の唇がニヤッと笑みを刻む。
「ま、まさか…」
「うちも勘弁や。幸運ぐらい、自分で掴めるやさかいな」
 その科白で女は知る。彼女も自分と同じ力を持っていることを。女が気付かぬうちに天音が自分の運気を操っていたことを。
「今回は前のヤツみたいな手加減は無しだ。人に仇なす人外は――殲滅する」
 炎。雷。
 暗闇を切り裂いて発した五行の奉じ。
「ま、待て――――!」
 言い訳すら聞く耳を持たない。それほど甘い性格ではないのだ。
 慶悟しかり。天音しかり。
「強運は、うちの方が上やったな」
「今回ばかりはツイてなかったな」
 二人の科白が同時に被さる。
 直後、暗闇の中で断末魔の悲鳴が何処へともなく響き渡った。

4.Your Destiny SIDE:A
「んん――ッ!」
 ビルから出たトコロで思い切り伸びをし、凝り固まった筋肉を多少和らげる。照らす陽射しがまだ日中だという事を告げ、軽く舌打ちをした。
 あのビルの中では大分時間が経っていた感覚がしたが、どうやら相手の結界の力のせいらしい。そう考えて振り返った先に――古ビルはなかった。
「なに?」
 立ち並ぶネオン煌めくビル群。人っ子一人入る隙間もない程、ビッシリ密着している。何度か目をパチクリさせてみたが、光景は一向に変わらない。
 ならば。
(あれもヤツの仕業だったって事か)
 まあいいさ。ヤツは確実に死んだ。しばらくは平穏な日々が続くだろう。そう願いたい気持ちも多分に含み、慶悟は胸元から煙草を取り出した。
 あの後、天音とはすぐに別れた。どうやら報告先がもう一件、別口であるらしい。かなり急いでいたので挨拶もそこそこで。
『ほな真名神さん。また、どっかであった時はよろしゅうたのんますわ』
 それだけを言い残して、彼女は去って行った。
 らしいと言えば、らしい一言だ。
「さて。俺も帰るか」
 そうして雑踏の中へ姿を消した。

 ――――――世は事もなし。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0389/真名神・慶悟(まながみ・けいご)/男/20/陰陽師
0576/南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)/女/16/ギャンブラー

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■         ライター通信          ■

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大変お待たせいたしました。
『幸運を呼ぶサイト』にご参加頂き、ありがとうございます。
担当ライターの葉月十一です。
非常に遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
今回の依頼は運勢に関する話でしたが、如何だったでしょうか。
オープニングが少し抽象的過ぎたかな…とも思いましたが、皆様の素晴らしいプレイングのおかげで無事解決(?)する事が出来ました。

真名神慶悟様。二度目のご参加ありがとうございます。
前回に引き続いてのご参加ということで、多少前のお話とリンクさせてみましたが、如何だったでしょうか?
プレイング的にも結構ナイスな切り口で攻めてきてましたので、前回にもましてとても書き易かったです。微妙に相性がいいのでしょうか…?(苦笑)
もし、キャラの言動でこうした方がいい、等の意見がありましたら是非お願いします。

それではまた機会がありましたら、ご一緒していただけると幸いです。