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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


刀に宿りし想い
〜 発端 〜

「まずは、この刀を見て下さい」
そう言うと、依頼主の笠原利明(かさはら・としあき)は一振りの刀を草間に差し出した。
草間は少しの間その刀を眺めていたが、特に刀に詳しいわけでもない彼にはあまり多くのことは分からなかった。
「それで、この刀がどうかしたのか?」
そう言って草間が刀を返すと、利明は小さく頷いてこう答えた。
「十月十日にこの刀を持っていると、死にます」

彼の話では、この刀はもともとある刀匠が親友のために打ちはじめた物だったのだが、その親友は刀が完成する前に命を落としたため、そのことを嘆いた刀匠の魂が怨念となってこの刀に宿り、毎年十月十日に持ち主の魂を「戦場」に送り込んでいるらしい、ということだった。

話が終わるのを待って、草間は「やれやれ」といった様子で口を開いた。
「なるほど。自分の刀で親友を救う、って望みを、せめて自分の記憶の中でだけでも果たしたい、ってトコか」
「ええ、それで、ぜひ何とかしてそれを叶えてやりたいと思うんです」
真剣な顔で頷く利明。
それを見て、草間はこう尋ねた。
「危険なことだってのはわかってるようだな。
 なぜ、そこまでしようと思ったんだ?」
「理由は二つあります。
 一つは、この刀がひょんなことから私の叔父の所有になってしまったこと。
 そして、もう一つは、宗十郎がどうしても何とかしたいと言うんですよ」
そう答えた利明の背後に、自分の首を小脇に抱えた落武者の霊が現れ、草間に向かって深々と一礼した。





「と、言うわけなんだが、一つ手伝ってくれないか?」
草間の説明を聞いて、忌引弔爾(きびき・ちょうじ)は首を傾げた。
いきなり「戦場」だの「救出」だのと言われても、どうもピンとこない。
それに、危険なのはともかく、どうにも面倒くさそうだ。
(よくわからねぇし、悪いけど俺はパスさせてもらうか)
弔爾はそう考えたが、彼が口を開くより早く、彼の持っていた意志を持つ妖刀・弔丸が先に言葉を発した。
『……戦場に身を置いた者とはそうそう遭う事は出来ぬ。しかも主を想う殊勝な刀まで居ると聞く。これを期に少しはお主も在りようを学べ。行くぞ、弔爾』
「んぁ? 行くぞって何処へだ?」
突然のことに、弔爾が反射的に尋ね返すと、弔丸は彼に言い聞かせるように答えた。
『……戦場じゃ』

「じゃ、引き受けてくれるんだな」
二人(?)のやりとりを聞いていた草間が、満足そうに弔爾、というより弔丸に声をかける。
『無論、お引き受けいたす』
弔丸が勝手にそう答えるのを聞きながら、弔爾は頭を抱えて、心の中でこう叫んだ。
(ったく、俺を無視して勝手に話を進めるなよ!)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 十月五日 〜

利明が草間興信所に依頼を持ち込んでから数日後。
それぞれの事情で今回の依頼に協力することになった三人の人物が、草間興信所にやってきていた。

「よぉ、来たぜ。あんまし気はすすまねぇけどよ」
いかにも投げやりな様子でそう言ったのは忌引弔爾である。
彼自身はこの依頼には全然乗り気でなかったのだが、彼が取り憑かれている意志を持つ妖刀・弔丸が勝手に依頼を引き受けられたあげく、無理矢理身体を乗っ取られてここまで来させられていた。

「事情はどうあれ、一旦引き受けたからにはグチグチ言うんじゃないよ」
そう言って苦笑したのは龍堂玲於奈(りゅうどう・れおな)。
「鉄枷のレオン」という通り名を持つ彼女は、「草間が強いヤツを捜している」ということを噂で聞きつけて、自分から協力を申し出ていた。

そして、そんな二人のやりとりを一歩引いたところで眺めているのが葛城雪姫(かつらぎ・ゆき)。
彼女は以前に今回の依頼主である利明の依頼を引き受けたことがある縁で、また、彼女を守護している鎧武者の霊の意思もあって、この件に協力することになっていた。

「あぁ、来たか。もう他の三人は奥にいるぜ」
草間にそう言われて三人が奥へ向かうと、そこにはすでに草間から協力を要請された三人と依頼主の利明、そして宗十郎の姿があった。





「!!」
その宗十郎の姿を見て、玲於奈は一瞬硬直した。
無理もない。
自分では認めていないが、彼女は幽霊が大嫌いなのである。

引きつった表情のまま、その場でくるりと回れ右をする玲於奈。
「ん? どうかしたのか?」
草間がわざとらしくそう尋ねると、玲於奈は彼の顔をジト目で見ながら言った。
「あそこにいるあの鎧を着たやつ、ひょっとすると幽霊かい?」
「ああ。ひょっとしなくても幽霊だ。生きている人間の首があんな風に外れるはずがないだろう」
何を当たり前のことを、というように答える草間。
「どうして最初に言ってくれないのさ」
玲於奈は責めるような口調でそう言ったが、草間は全く動じない。
「言ったら多分断られただろうからな」

と、その様子を見ていた朧月桜夜(おぼろづき・さくや)が、苦笑しながら宗十郎にこう言った。
「宗ちゃん、なんか嫌われてるみたいねェ?」
「このような姿では、それもまたやむを得ぬこと」
宗十郎は平静を装ってそう答えたが、その顔に一瞬寂しそうな表情が浮かんだのが玲於奈にははっきりと分かった。

「……わかったよ」
少しの静寂の後、おもむろに玲於奈が口を開いた。
「仕方がない、フルコースバイキングで手を打とうじゃないか」
「そういうことなら、俺じゃなくて依頼人に言ってくれ」
そう答えながら、目で利明の方を指す草間。
しかし玲於奈はそれには応じず、人の悪い笑みを浮かべてこう言った。
「いや、武彦におごってもらうよ。こういう意地の悪いことをした罰だ」
玲於奈の予想外の反撃に慌てる草間。
そこに、宮小路皇騎(みやこうじ・こうき)が追い打ちとなる一言を放った。
「まぁ、自業自得ですね」
他の面々も、皆口にこそ出さないものの、草間の味方をしてくれそうな様子はない。
それに気づいて、草間はついに観念した。
「わかったわかった、この一件が片づいたらおごってやるよ」
諦めたようにそう言う草間。
するとその時、水城司(みなしろ・つかさ)がとどめの一言を発した。
「ちょっとした出来心が、結構高くついたみたいですね、草間さん」
それを聞いて、その場にいた草間を除く全員は、顔を見合わせて笑った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 十月九日 〜

次に六人全員が集まったのは、問題の日の前日である十月九日の夕方だった。
あれからたびたびその時に集まれるメンバーによる協議を繰り返した結果、「刀が『戦場』に魂を送り込もうとするであろう十月十日の未明に、それにあわせて全員で『戦場』に赴く」ということになったからである。

最初に、皇騎が今までに調べたことを報告した。
「この『刀の呪い』によって亡くなったと思われる被害者は全部で五名。いずれも外傷はなく、死因は心臓発作と言うことになっています」
それを聞いて、雪姫が疑問を口にする。
「五名ということは、それ以前には事件は起こっていないんですか?」
「ええ。最初の被害者はこの刀を少なくとも十年近くに渡って所持しているはずですが、その間に彼の家族ないし親戚の誰かがこのようにして変死したという痕跡はありません」
「では、その五年前に何かがあったのかも知れないな。この刀に宿った怨念を目覚めさせるような何かが」
司がそう言うと、皇騎は小さく頷いた。
「その時の所有者と接点があり、かつあまりいい関係でなかったと目されている人物が、六年前から五年前までの間に行方不明になっており、未だに発見されていません」
「その行方不明になったヤツが、あの刀で斬られたかも知れねぇ、ってことか?」
その弔爾の言葉に、再び小さく頷く皇騎。
それを見て、司は小さくため息を付いた。
「人の血に触れることで、過去の戦場の記憶が蘇ったか」

その後、魂が「戦場」へ行っている間に身体の方にもしものことがないように、部屋に結界を張ったりといった準備をしていると、時間はあっという間に過ぎていき、そしていよいよ午前十二時を迎えた。

――この刀を、成久、村上成久に――

そんな言葉が、脳裏に響いた様な気がした。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 「戦場」 〜

気が付くと、一同は「戦場」にいた。

そこは、実に奇妙な場所であった。
なるほど、確かにぱっと見ただけでは町から少し離れた街道沿いの森――もちろん、江戸時代の――のように見える。
しかし、そのところどころにネオンが煌々と輝いているビルやら、日本ではほとんど見られないような熱帯の植物がジャングルのように茂っているところやらがあり、全体としてみるとひどく調和の欠けた空間になってしまっていた。

「なんだよ、こりゃ! メチャクチャじゃねぇか!」
弔爾が思わず声を荒げる。
その様子を横目で見ながら、司が宗十郎にこう尋ねた。
「ここは、あの刀匠の記憶に基づいて再現された戦場のはずではなかったのか?」
「ふむ。多少の違いなら記憶違いで片づけられるかも知れぬが、これはあまりに異様」
そう答えたきり、宗十郎も黙り込んでしまう。

その状況を打破したのは、玲於奈のこの一言だった。
「ジャングルがあろうと、ビルがあろうと、やるべきことが変わるわけじゃないだろ?
 それに、こんなところで考えてたってしょうがないじゃないか」
確かに、そう言われてみればその通りである。
さらに、その言葉に合わせるかのように、問題の刀を持った利明がある一方を指して叫んだ。
「こっちです。この刀が、そう言っているような気がするんです」
それを受けて、一同は彼が指し示した方に向かって進み始めた。






そして、それから数分ほど歩いた頃。
森と、ビルと、ジャングルの隙間の開けた場所に、六人の人影が見えた。
月明かりとネオンの光に照らされたそれらの顔のうち、皇騎は五つまでに見覚えがあった。
「あれは……間違いありません。真ん中の侍を除く五人は、この『呪い』の被害者です」
皇騎がそう言うと、宗十郎がそれを聞いて納得したようにこう言った。
「恐らく、この奇妙な場所の原因は、あの者達でござろうな」
「どういうことだよ?」
尋ねる弔爾に、宗十郎はこう説明する。
「恐らく、今までの犠牲者の魂は、この刀の中に囚われたままなのでござろう。
 故に、それらの魂の持つ『戦場』の記憶が皆混ざり合ってしまったのでは」
それを聞いて、司がジャングルの方を見ながら言った。
「なるほど。ではあのジャングルは、第二次大戦の頃の?」
「確かに、高齢の被害者の中には、第二次大戦の際に従軍していた方もいらっしゃいましたね」
皇騎が、司の説を裏付ける証拠を出す。
すると、今度は玲於奈がビルの方を見上げて不思議そうに言った。
「じゃ、あのビルはなんなんだい?」
言われてみると、確かにこのビルと戦場を結びつけるのは難しい。
しかし、どうやら弔爾にとってはそれも簡単なことだったようだ。
「現代の日本人は戦場なんか経験しねぇのがほとんどだからな。
 おおかた、盛り場でケンカしたくらいが精一杯のヤツもいたんだろ」
相変わらず投げやりな感じで弔爾がそう言うと、他の全員が「なるほど」という顔をした。

と、その時。
突然、桜夜がすっとんきょうな声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!
 それじゃ、まさかとは思うけど……」
桜夜がそこまで言ったとき、その言葉を遮るようにして一発の銃弾が彼女の目の前を横切った。
「マジかよ!? 撃ってきやがった!!」
ジャングルの方を指しながら、弔爾が叫ぶ。
「どうやら、ごちゃ混ぜになっているのは『戦場』のイメージだけじゃなく、敵の内容もそうみたいですね」
素早くそう分析する皇騎。
その隣で、司が一つため息をついた。
「やれやれ、上は正規の訓練を受けた兵隊から下はチンピラまで選り取りみどり、か」





恐らく敵の中でもっとも厄介であろうと思われる銃を持った兵士に立ち向かうことを選択したのは、弔丸の呪いで死ななくなっている弔爾と、なぜか銃に関する知識も所持している司であった。

とはいえ、相手が銃ではさすがの司も余り前に出て戦うわけにはいかない。
あくまで「魂」の世界のことであるから、おそらくは護法をうまく使えば銃弾でも防げるとは思うものの、確信がないため無理は出来なかった。

一方、弔爾は弔丸に身体を支配させることによって得られる人間離れした運動能力と、ジャングルという地形を生かしつつ、うまく木の陰から木の陰へと移動しながら徐々に敵に近づいていった。
しかし、さすがに銃を持った敵の懐に飛び込むとなると、速さに絶対の自信があっても難しい。
もちろん、撃たれても死にはしないだろうし、そもそも死ぬことなどさほどのこととは思っていなかったが、それでも撃たれて無駄に痛い思いをしたあげく、仲間の足を引っ張るなどということはできれば避けたかった。

結果、弔爾がある程度敵に近づき、敵が皆数発の弾を無駄にした辺りで、戦いは膠着状態に陥った。
相手に一瞬の隙があれば、それをついてヒット&アウェイで一人ずつ倒していく自信が弔爾にはあった。
しかし、その隙がいつできるのかがわからないため、彼は仕掛けることが出来ずにいた。

と、その時。
先ほどからずっと敵を観察していた司が、弔爾に向かって叫んだ。
「あの型式の半自動ライフルは、八発撃ち終えた後に再装填に伴う隙が出来る、そこを狙え!」
(本当だろうな?)
弔爾は一瞬そう思ったが、司の言葉を疑ってしまうと、頼るものが何もなくなってしまう。
「っきしょぉ、やってやろうじゃねぇか!」
弔爾は半ばヤケ気味にそう叫ぶと、思い切って木陰から飛び出した。

敵兵が、一斉にライフルを発射する。
その弾丸をかわして別の木陰に飛び込み、頃合いを見計らって再び飛び出す。
それを繰り返しながら、弔爾は先頭にいる敵の撃った弾の数を数えていた。

そして、ついに先頭の敵が八発目を放ったとき。
弔爾はそれを避けながら相手に向かって突進し、相手の身体を他の兵士からの射撃を防ぐ盾にしながら、弔丸を振るって相手を斬り捨てると、素早く次の「八発撃ち尽くしてしまった兵士」に向かおうとした。

と、その時。
突然、広場の中央の方からまばゆい光が放たれ、全てを包み込んでいった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 そして、真相 〜

光が消えたとき、そこにはもう敵も、かつての犠牲者の霊も、そして彼らに由来していたビルやジャングルも消え失せており、その代わりに成久の他にもう一人、顔立ちなどがどことなく成久に似た感じの男の姿があった。

一同が見守る中、男は成久の方へ歩み寄ると、心配そうに尋ねた。
「成久……刀は、刀は届いたか?」
「この通りでござる」
そう答えて、刀を見せる成久。
男はその成久の顔と刀を見比べて、さらに確認した。
「では、間に合ったのだな」
「はい。おかげで命拾いいたしました」
成久が感謝の言葉を述べると、男はようやっと笑顔を見せた。
「そうか。こんな私でも、お前のために、村上の家のために、少しでも役に立てたのだな」
そう言った男の目から、一筋の涙がこぼれる。
すると、成久はそんな男の両肩に手をおいて、力強くこう言いきった。
「何をおっしゃいます。兄上の存在は、いつだって私の心の支えでした」





後日、皇騎が調べたところによると、問題の刀鍛冶の名は不成といい、本名は村上成親。
村上家の次男であったが、何らかの理由で村上家を勘当され、その後更正して刀鍛冶に弟子入りするも、流行病で早逝した、とのことであった。

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〜 その後 〜

事件解決の翌日。
彼自身も予想していたとおり、弔爾は激しい筋肉痛に悩まされていた。

弔丸が彼の身体を操っている間、彼の身体は本来の限界を超えた反射神経と運動能力を発揮する。
その代償として、翌日筋肉痛という形で反動が来るのは、彼にしてみればいつものことであった。

だが、よく考えてみれば、今回戦ったのはあくまで彼の「魂」であり、肉体の方は何一つしていないはずである。
それなのに、一体どうしていつも以上の筋肉痛に悩まされなければならないのだろう……?

弔爾がそんなことを考えていると、弔丸がたまりかねたように一喝した。
『ただ単に痛い様な気がするだけではないのか? これだから貴様は……』

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0845/忌引・弔爾/男性/25/無職
0664/葛城・雪姫/女性/17/高校生
0461/宮小路・皇騎/男性/20/大学生(財閥御曹司・陰陽師)
0922/水城・司/男性/23/トラブル・コンサルタント
0669/龍堂・玲於奈/女性/26/探偵
0444/朧月・桜夜/女性/16/陰陽師

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■         ライター通信          ■
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撓場秀武です。
この度は私の依頼に参加下さいまして誠にありがとうございました。
今回も早く早くと思いながらも結局はすべり込み納品といういつものパターンになってしまいました。

・このノベルの構成について
このノベルは全部で六つのパートで構成されており、ほとんどのパートについて複数パターンがございますので、もしよろしければ他の方の分のノベルにも目を通していただければ幸いです。

・個別通信(忌引弔爾様)
はじめまして、撓場秀武です。
さて、弔爾様と妖刀・弔丸の関係など、こんな感じでよろしかったでしょうか?
もし何かありましたら、遠慮なくお知らせいただけると幸いです。