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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


カメリア・ランプ sideA

 「このランプについて、調べていただきたいのです」
篠原椿、と名乗った30代半ばの上品な女性は、テーブルの上に一枚の写真を置いて言った。
 そこに写っているのは、アンティークらしい、小さなスタンドだった。色硝子で造られたランプシェードは、椿の模様になっている。
 それは、5年前に死んだ彼女の夫が、新婚当時、彼女の誕生日のプレゼントとして贈ってくれたものだという。彼女の名前にちなんでのことだろう。
 だが、夫の死後、見るのが辛くて椿はずっとそれを仕舞い込んであったのだと言う。が、最近になってやっとそれを取り出して使い始めたところが、毎晩、夢を見るというのだ。
 夢の中で、彼女は見覚えのない、古い洋館にいた。そこで彼女は一人の青年と語り明かし、ランプの灯が消えると夢から覚める。
 そう、夢の中にも、このランプが登場するのだ。ただし、夢に出て来るのは、本物の油を使用するものだった。
「あの夢は、もしかしたら、このランプのせいかもしれないと思うのです。ですから、ランプのことを調べていただきたくて……。もし、あの青年がランプに何か想いを残しているのだとしたら、それをかなえて、供養してあげたいとも思うのです」
椿は、草間にそう告げて、よろしくお願いしますと頭を下げて、帰って行った。






 川原志摩は、目の前に置かれた、くだんのランプを黙って見やった。
 長身の豊満な体に、その体の線をくっきりと見せる黒いワンピースをまとった彼女は、25、6歳というところだろう。豊かな黒髪に、青い瞳と白い肌。日本人離れしたその姿は、あでやかな容姿と共に、彼女を妖艶な大輪の花のようにも見せている。
 彼女が、その依頼に関わったのは、ほんの偶然だった。
 バー「ケイオスシーカー」でピアノの生演奏をしている彼女は、その日、店が休みとあって、友人であるシュライン・エマの顔を見に、草間興信所を訪れていた。
 翻訳家であるシュラインは、草間興信所でバイトもしているのだ。自分の家よりも、ここの事務所にいる方が多いかもしれない。志摩もそれを知っていて訪ねて来たのだった。
 だが、生憎、その日彼女はいなかった。なんでも、依頼の調査に出かけているという。
「シュラインのしてるバイトって、事務じゃなかったのかい?」
志摩がわざと訊いてやると、草間は困ったような顔で、こめかみを掻く。
「変わった事件や依頼だけは、引き受けるんだよ、あいつ」
「ふうん」
志摩は、信じていない顔で、肩をすくめた。
 そこへ、当のシュラインが帰って来た。調査がうまく行かなかったのか、何やらしょんぼりとした様子だ。だが、志摩の顔を見るなり、ふいに元気になった。そして、今自分が調べている依頼について話し始めたのだ。
 それが、篠原椿が持ち込んだ、アンティーク風のランプについての依頼だった。椿からも話を聞き、ランプについても調べてみたものの、このままでは、調査のためにイギリスまで行かなければならないかもしれないという。
 だが、志摩のサイコメトリー能力を使えば、ランプについてだけでなく、なぜ椿がそんな夢を見るのかも、簡単に探ることができるだろう。
 協力を求められて、志摩はうなずいた。
「ふうん。たしかに、それならあたしの能力で、当人に聞けば一番早いね。わかった。なんなら、今からでも一緒に行こうか」
立ち上がった彼女に、シュラインは破顔した。
 篠原椿の家は、東京郊外の閑静な住宅街の中にあった。外観も内装もシックで、どこか19世紀のヨーロッパの建物を思わせる。それもそのはずで、彼女の死んだ夫というのは、ヨーロッパのアンティークを中心とした輸入雑貨の会社を経営していたのだという。そして、この家は、その夫が内装や設計を自分で考えたものなのだ。
 会社といっても、さほど大きなものではないのだと、椿は言っていた。現在は、夫の共同経営者だった友人夫婦が引き継いでおり、椿自身も役員に名をつらね、経理の担当として働いているらしい。
 だがそれにしても、彼女の住まいは、志摩の目から見ても、かなり金の掛かったものであることは明白だ。郊外とはいえ東京に、30代で一戸建て住宅を自分で建てることのできる人間など、この不況の時代にそう多くはない。よほど会社が儲かっているのか、それとも、もともと資産家の息子なのか。あるいは、椿の方が資産家の令嬢ということもあり得る。
 ともあれ、志摩とシュラインは広々としたサンルーム風のリビングに通され、問題のランプを見せられた。草間興信所で見せられた写真の通り、色硝子で椿の模様をしつらえたシェードを持つ、アンティーク風のものだ。
 志摩は、そのランプにそっと触れた。
 途端、一瞬にして彼女の脳裏に幾つもの映像が展開された。映像は、ランプに残る所有者たちの思念の切れ端のようなもの。いわば、ランプの記憶だった。同時に、その映像に付随する感情が彼女の意識に流れ込んで来る。
 ランプは、所有者たちから大事にされていたようだ。そこに残るのは、どれも暖かな優しい記憶ばかりだった。
 だが、ふいに。何かが彼女の意識を捕えた。
(なんだい? これは?)
それは、激しい無念の想いだった。その中には、悔しさと悲しさと、失った者に対する愛惜の想いが強く入り混じり、複雑な感情を織り上げている。
(これが、夢の原因?)
そう思った途端、何かが、彼女の意識を体の隅へ押しのけるような、奇妙な感触があった。
「志摩?」
シュラインが、自分を呼んでいるのが聞こえる。
「志摩!」
怪訝そうだった声が、切迫したものに変わる。だが、彼女は答えられなかった。彼女の肉体は、その意識のコントロール化になかったからだ。
「あなたは、誰ですか?」
自分の口が勝手に動いて、シュラインにそう問うているのを、彼女はどこか遠くから眺めているかのように聞いていた。
「志摩……!」
シュラインが驚きの声を上げる。その横で、椿も目を見張っていた。
 彼女の体を支配している何者かは、椿を見つけるなり、立ち上がり、男のように大股に、その傍へと歩み寄った。
「椿さん、また会えましたね」
口が勝手に動いて、そんな言葉を紡ぎ出す。
「あなたは……」
椿が困惑したように、こちらを見やっている。
「お忘れですか? 私です。エリオット・サー・アスキンスです」
名乗ると、椿は更に目を見張った。
「私の夢に現れていた、あの人……ですか?」
「ええ。思い出してくれたんですね」
うなずく志摩の中に、喜びの感情が広がる。
 ここに至って、志摩にも自分がこのエリオットなる青年に体を乗っ取られてしまったのだと、はっきりわかった。そして、エリオットが何者なのかといえば、おそらくあの無念の想いの主だろう。
 思念そのものは、ランプを取り戻すのが目的だが、なぜ自分の体を乗っ取ったのかは、判然としなかった。どうすれば離れてくれるのかもわからない以上、このまま様子を見るしかない。
 シュラインも、事態を飲み込み、同じ結論に達したようだ。椿に、このまま話すように告げている。
 椿は、上品なだけではなく、聡明な女性でもあったようだ。この異常な事態にも恐慌をきたすことなく、おちついた様子で志摩の体を乗っ取ったエリオットに向き直り、改めて最初から事情を話し始めた。夫から贈られたランプのこと、そのランプを使うたびに見た夢のこと、そして、草間興信所へランプについて調べてくれるよう依頼に行ったことなどを。
 志摩は、エリオットの意思で、椿の隣に腰を降ろし、黙って話を聞いていた。だが、心の中では、どうして一度夢で話したことまで彼女が話しているのか、怪訝に思っている。むろん、志摩当人の思考ではない。それは、エリオットのものだ。
 椿が、そんな彼女に、穏やかに問いかけた。
「今度は、あなたのことを聞かせて下さいな」
「ああ……そうですね。私は、コンウォールに小さな領地を持っていて、伯爵の爵位を持っています」
志摩の口を勝手に使って、エリオットはぽつぽつと自分のことを話し始めた。

 エリオットは19世紀半ばのイギリスに生きた、青年貴族だった。
 彼の妻は日本人で、奇しくも、その名は椿といった。彼の父親が随分と日本びいきで、幼いエリオットを伴って何度か日本を訪れていたらしい。エリオットの妻は、そんな父親の日本の友人の娘だった。
 彼の父は貿易の事業で成功した人物で、若くして父が死んだ後、彼はその事業を継いだ。
 父の事業を引き継ぎ、伯爵家の当主となったエリオットの妻が日本人であることは、他の一族の強い反感をかっていた。だが、当人たちはとても幸せだったので、あまり気にしてはいなかったのだという。だが、22歳の若さで、彼の妻は世を去った。
 子供がなかったせいもあって、一族の者たちは、エリオットに新しい妻を迎えるよう何かと働きかけたが、彼の方はそれどころではない。妻の死を嘆くあまり、彼女の部屋に固く鍵をかけ、妻との思い出からも遠ざかろうとした。父から受け継いだ事業に没頭し、楽しみ事の多くからも、目をつぶり、耳をふさいだ。
 そんなくらしが10年も続いたころ、彼は無理がたたって体を壊した。危篤状態に陥った彼を尻目に、一族の者たちは、財産の分配を画策し始めた。
 中でも、事業に失敗して金策に奔走していた彼の従兄の一人、コンラッドは、貪欲に彼の遺産を狙っていた。そしてある日、彼の屋敷からごっそりと亡き妻の遺品の数々を盗み出し、それらを売り払って金に替えてしまったのだ。
「――幸い、私は持ち直し、その後、医者も驚くほどに回復しました。遺産を狙っていた親族たちも、さぞ驚いたことでしょうね」
エリオットは言って、自嘲するように低く笑った。
「私が持ち直したことを知って、コンラッドは手にした金を持って、姿をくらましてしまいました。一族の他の者たちも、口ではコンラッドを罵っていましたが、誰も、本気で私に同情している者はいませんでした。妻は、ただ日本人だというだけで、一族からは嫌われていましたから……その妻の遺品が売り払われたことは、彼らには、彼女自身の死と同じくらいに腹の癒える話だったんでしょう」
「まあ……なんてひどいことを……」
 黙って話を聞いていた椿が、痛ましげに眉をひそめて呟く。夫の死をやっと受け入れられるようになった彼女にとって、それは人事ではないのだろう。
 実際、それがどれほどひどい状態だったかを、志摩は、エリオットが過去を話す間、意識レベルで追体験させられていた。
 人間が、自分の記憶を他人に話すという行為の裏には、これほどまざまざと、己の記憶を意識の底から蘇らせる作業があるのかと、彼女自身、驚かずにはいられなかった。
 突然、若くして妻を失ってしまった痛み。その現実を受け入れることのできない苦しみ。その上に、一族の者たちの心ない言葉や仕打ちは、現実の刃そのものと化して、エリオットの心を切り刻み、刺し貫いていた。仕事に没頭することは、それらの攻撃から身を守る、楯や鎧のようなものだった。だが、重い楯や鎧は、体を疲弊させる。その結果、力尽きた彼の上に、またもや襲う、刃の数々。
 次々と襲い来る記憶の痛みに、志摩の意識はのたうち、解放を求めて叫んだ。
 普段のサイコメトリーにも、それなりに苦痛は伴うが、これは、その比ではない。だが、エリオットは、彼女に体を返すつもりはないようだった。
「それで、その売り払われてしまった遺品は、その後どうなりましたの?」
椿の問いに、エリオットは、志摩の口を使って答えていた。
「人を雇って根気よく探させ、一つ一つ買い戻しました。たとえ盗まれたものだとしても、それを買った人に罪はありませんからね。ただ……私が妻の誕生日に作らせたランプだけが、結局行方がわからず、取り戻すことができなかった。それが、このランプです」
志摩の視界に、あのランプが入って来る。同時に、強い無念の想いが胸に広がった。
(やはり、ランプを取り戻せなかったことが、全ての焦点なのかい?)
志摩は、それに気付いて呟く。
 「このランプが……?」
椿も、視線をランプへと巡らせた。
「ええ。……妻の名前である『椿』にちなんで、私が作らせました。妻は、それをとても喜んで、大事にしていました。もしも、このランプが人間のように話すことができたら、私と妻が、どれほど幸せだったかを、あなたにも話して聞かせたでしょうね」
うなずいて言うエリオットの悲しみと喜びの入り混じった記憶が、再び志摩を襲う。だが、そうやって彼の意識を半ば共有している彼女にとっても、次の彼の言葉は意外なものだった。
 彼は、真っ直ぐに椿を見やって言った。
「あなたは、妻に似ている。最初にあなたと夢で出会った時、私は幸せだったころの夢を見ているのだと思いました。でも、二度目に夢であなたに会って、似ているけれども妻ではないとわかった。それでも、私はあなたに会えるのがうれしかった。あなたは、とても聡明で、優しくて、すさんでいた私の心を癒してくれた。……椿、もしよければ、これからも私の傍にいてくれませんか? 私の妻として」
そして、椿の方へと手をさしのべた。
 椿は、一瞬目を見張った。
 それを見ながら、志摩は思った。エリオットは、自分がただの思念にすぎないことも、他人の体を乗っ取って話していることも、自覚していないのだ。
 シュラインも、そのことに気づいたのだろう。何か言おうと口を開きかけた。だが、それより早く、椿が静かにかぶりをふって、口を開いた。
「いいえ、それはできません。……私は、あなたの時代の人間ではありません。私は、1967年生まれで、今は、2002年です。これが、どういうことか、おわかりですか?」
告げられた言葉に、エリオットは激しい驚愕に襲われていた。それは、嵐のように、志摩の意識をも揺さぶる。
「1967年生まれ? 2002年ですって?」
彼は、呆然と呟いた。それを、椿は悲しげに見やってうなずく。
「嘘ではありませんわ。それに……私は今でも亡くなった夫を愛しています。あなたが、奥様をずっと愛していたように。だから、たとえあなたと私が同じ時代の人間だったとしても、私は、あなたの気持ちには応えられません」
「なんということだ……」
志摩の口を借りて、低いうめきが漏れる。彼女の意識を揺さぶり続ける嵐は、一向に止む気配はない。むろん、エリオットが、必死にそれを抑え込もうとしているのは、彼女にも痛いほどわかる。
 やっと、乱れる心を抑えることに成功したエリオットは、訊いた。
「椿さん、一つだけ教えて下さい。それでは、私は……あなたから見て過去の人間である私は、なんなのですか? 私は生きていて、ただ夢で、時間を超えてあなたと会っていただけなのですか? それとも、私はすでに死んでいて、幽霊になって時間を超え、あなたに会っていたのですか?」
だが、椿がこの問いに答えられるはずもない。彼女は、尋ねるような視線をシュラインに向けた。それに気付いて、エリオットもそちらをふり返る。
 だが、シュラインにもそれは、答えられないだろう。この場にいる人間たちの中で、事態を正しく理解しているのは、志摩だけだ。彼女は、なんとかして、肉体の支配権を取り戻そうともがいた。エリオット自身も答えを欲していたためなのか、やっと少しだけ自由がきくようになった。もっとも、その行為は、まるで重い鉄球を持ち上げようとしているかのように、苦しいものではあったが。それでも、彼女は言った。
「たぶん……そのどちらでもあるんだろうよ……」
「志摩? 志摩なの?」
シュラインが気づいて声を上げた。志摩が、かすかにうなずく。そして、再び必死に口を動かして言った。
「エリオットは……死んではいない……。ただ、夢を見て、その夢の中で、椿さんと会っているだけさ。だが、二人を夢で引き合わせたのは、エリオットの想いだと思うよ……」
「どういうこと?」
シュラインが問い返す。だが、椿には、彼女の言わんとしていることが、わかったようだ。一瞬、ハッとした後、悲しげに目を伏せる。
 志摩は、苦しげに言葉を続けた。
「今は、2002年だよ。エリオットの時代からは、100年以上も未来だ。当然、エリオットは死んでるだろう? ……このランプに残っていたのは、持ち主だったエリオットの妻の思念と、エリオット自身の彼女への愛情……でも、一番強かったのは、エリオットの無念の想いだった。たぶん、死ぬ瞬間まで、ランプを取り戻せなかったことを悔やんでいたんだと思うよ。……その想いが、椿さんを引き寄せたんだ。名前が同じだったことや、愛する者を失ったっていう、環境のせいもあったかもしれないけどね……」
話し終えて、彼女は苦しげに身をよじる。エリオットの思念は、まだ彼女から離れるつもりはないようだ。再び、彼女の肉体はエリオットに支配された。
「つまり、私は、彼女にとっては、ただの夢の人物であり、同時に幽霊でもあるということか……」
呟いたその顔に、泣き笑いのような表情が浮かぶ。だが、彼は唇を噛みしめ、うなずいた。
「よくわかった」
視線を、椿の方へ戻して、彼は微笑みかける。
「すまない、椿……あなたを困らせてしまって。事情がわかったからには、私はおとなしく消えるよ。また夢で会いたいけれども……」
言いかけて、だが彼はすぐにかぶりをふった。
「いや、よそう。そうやって未練がましく夢で会い続けていれば、いつかは本当に、私はあなたを手に入れるために、悪霊となってしまうかもしれない。だから、もう会わないことにするよ。でも……最後にせめて、あなたを抱きしめさせてくれないか」
乞われて椿はうなずいた。本来は志摩のものである白く柔らかな腕が、そっと椿の背に回され、優しく彼女を抱きしめる。志摩の意識にも、彼のものだろう愛しさとせつなさが一杯に広がる。ややあって、彼女の体を離すと、エリオットは微笑みかけた。
「では椿、私と妻の分も、このランプを大事にしておくれ。そして、できたら、あなたが永遠の眠りにつく時に、このランプも一緒に連れて行ってくれないか。そしたら、天国で、あなたや妻と共に、このランプの明かりを楽しみながら、思い出話ができるだろう?」
「ええ……きっと、そうします。約束しますわ」
椿は、優しい笑みを浮かべてうなずいた。
 その約束の言葉にエリオットは満足したようだった。志摩の体はふいに解放され、彼女の意識は、押し込められていた隅から、解き放たれた。だが、消耗は激しかった。彼女は、ぐったりとソファに身を預ける。
「志摩?」
シュラインが心配そうに声をかけて来た。彼女は、声に出して答えるのも億劫で、それでも大丈夫だという合図に、閉じていた目を開けて見せる。
 だが、そんな二人のやり取りにさえ気づかないように、椿はただ、テーブルの上のランプを見詰めていた。

 数日後の夜。
 志摩の勤めるバー、「ケイオスシーカー」に飲みに来たシュラインが、昼間、椿が事後報告がてら、礼を言いに草間興信所を訪れたと語った。
「あの夢、もう見ないそうよ」
「そっか。じゃあ、あれで本当にエリオットも納得したんだね」
シュラインの言葉に、志摩はうなずく。
 二人は、カウンターの隅で、隣合って座っていた。客はまだ、そう多くない。
 吐息をついて、彼女は付け加えた。
「あんな大変な思いをしたんだ。納得してもらわなきゃ、困るけどね」
「そうよね。でも、もう大丈夫よ。椿さんは、最後まで約束を守るだろうし」
言って、シュラインは小さく笑う。
「武彦さんは、信じてないみたいだったけど。彼女が約束を守るってこと」
「草間らしいと言えば、らしいけど……今回は、あたしもシュラインに賛成だね。あの人なら、大丈夫だろうさ」
志摩も笑って言うと、グラスの中身を飲み干し、立ち上がった。
「何かリクエストある?」
「そうね……ちょっとロマンチックに『Fly Me To The Moon』なんていいかも」
「OK」
うなずいて、志摩はピアノに向かう。
 やがて、店内にはやわらかく澄んだ、ピアノの音色が流れ始めた――。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0417/川原志摩/女性/25歳/ピアニスト&調理師】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】

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■         ライター通信          ■
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こんにちわ、織人文です。
依頼に参加いただき、ありがとうございます。
当初の予定では、各人別個の作品となるはずでしたが、一部、どうしても収集がつかず、
シュライン・エマさまと川原志摩さまにはコンビで、解決に当たっていただくことになりました。
どうも、こちらの不手際で申し訳ありません。

今回の依頼は、怪談「牡丹燈篭」を元ネタとしております。
これからも、不定期ですが、怪談や都市伝説、お伽話などを元ネタとした依頼を
お送りするつもりでおります。
なお、タイトルでもおわかりかもしれませんが、もう一本、椿のランプで依頼を用意しております。
依頼アップは、現在参加者募集中の「時空図書館」締め切り後の予定です。
今回の依頼と多少連動する予定ではありますので、よろしければ、またのご参加をお願いします。
もちろん、今回の依頼に参加されていない方でもOKです。
それでは、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

●川原志摩さま
はじめまして。ご参加いただき、ありがとうございます。
今回は、こちらの不手際でまとまりがつかず、お友達ということで、シュラインさまと
コンビを組んで解決に当たっていただきました。
いかがだったでしょうか?
これに懲りずに、また参加いただければ、うれしいです。
その時には、どうぞよろしくお願いします。