 |
学園祭の怪
◆オープニング
その日、月刊アトラス編集者、三下忠雄はたいそう機嫌が良かった。
歩く足取りは軽く、いつもは重いと嘆く機材の重さも気にならない。
足元の石につっかかり、こけようと・・・気にならない。
それほど機嫌がよかった。
なにせ今回の取材は、幽霊とはなんの関係もない『学園祭』なのである。
お化けも妖怪も、幽霊も、なーんにも関係ないのだ。
怖いものが超がつくほど苦手な三下は、突然舞い降りた幸運に歓喜していた。
編集長が学園祭の取材と言った時は、空耳かと思ったけど・・・・。
あぁ・・・神様は、僕をお見捨てにならなかったんだ。
三下は、じーんと胸に手を置いて天を仰いだ。
いや、僕の日頃の行いがいいのか？
にやにや。
とまぁ、そんなことを考えつつ。
駅から歩くこと数分。
そろそろ目的地、Ｈ高校が見え始めてきていた。
「えーっと、じゃ、どこから回ろうかな」
門の前から中を覗き込むと、すでにかなりの人だかりであった。
三下は、かばんの中から学園祭のパンフレットを取り出し、目の前に広げた。
淡い色の紙が太陽に反射して眩しかったが、三下は出し物の欄を目で追う。
「ん〜。『屋台（校舎前）』、『食堂（一階調理室）』、『プリクラ（3年C組教室）』、『模擬試合（剣道場）』、『演劇・北の国から（体育館）』、『実習作品展示（各実習棟）』、『休憩室（柔道場）』・・・・あたりかな？？？」
どこを回ろうか？
うーん、と三下は、学校の門の前で考え込んだのだった。
その頃、アトラス編集長の碇・麗香は、編集室で三下と同じパンフレットを眺めていた。
パンフレットのタイトルは、『XX年度 Ｈ高校学園祭』とある。
三下が取材に向かったＨ高校の文化祭のパンフレットであった。
この学校は古い高校で、五つほどの学科に分かれていた。
校舎も古く、生徒数も多い。
と、そこまでは普通の学校なのだが、なにせ「出る」という話の多い学校なのである。
どこの学校でも七不思議というものはつきものだか、この学校は特に多い。
そんな学校の学園祭なのだ。
何が起きてもおかしくないのではないか？
そんなわけで三下を取材に向かわせたのだが、何も知らない三下はるんるん気分だ。
「三下君・・・・一体どんなネタを拾ってくるのかしら・・・楽しみね」
碇はそう言うと、くすっと、笑った。
◆11:30 校舎前
その日、空は抜けるように蒼かった。
空には雲一つなく、どこまでも広がる蒼はあくまで鮮やか。
限りなく続くその蒼に、思わず大きく伸びをしたい気分になる。
学園祭の一般入場は10：00から開始されており、すでに30分を過ぎた時点で、校門前は多くの人で溢れていた。
「うーん。いいお天気だね☆」
無邪気に呟いたのは、少女と見まごう繊細な顔立ちの少年、水野想司（みずの・そうじ）である。
吸血鬼ハンターであり、ギルドの切り札である最強の少年は、どこまで無邪気に純粋だった。
一部常識がずれている、という意見もあるが、今の時点ではそれは置いておこう。
その様子を、通りかかった人がぎょっとした目で通り過ぎて行く。
もちろん、想司はそんな一目など気にしていない。
通行人を驚かせる原因は、想司が抱える大きな荷物にあった。
背中に背負うナップザックは、下手すれば、想司が背負われているような感を覚える代物で、しかも重そうに膨らんでいる。
それほど大きな荷物を背負っている事にも驚きだが、それ以前に少女のような外見のこの少年のどこにこれほどの力があるのか。
通行人の驚きは無理なからぬ事であった。
「じゃ、はりきって行こうか☆」
そう楽しそうに宣言した少年は、ゆっくりと学校の奥へと消えて行く。
一体何をはりきるというのだろう？
行き交う人は、訳がわからずに首を傾げたのだった。
◆11：50 中央廊下
普段は授業が始まるとしんと静まる学校も、この日ばかりは祭りの賑わいを見せている。
だがそんな中でも、校舎の裏手に当たる廊下では、やはり静かだった。
シンとして、物音一つしない廊下。
その中を、剣道部員である田中賢治は剣道場へ向かう為に、校舎から体育館側へと続く中央廊下を歩いていた。
剣道場は、二階にある体育館の下に、柔道場と並ぶ形で有り、校舎から剣道場に向かうには、中央廊下は避けて通れぬ道なのである。
賢治は、ふと気配を感じて立ち止まった。
まるで一気に髪の毛が逆立ったような錯覚を覚える。
一瞬のうちに高まる緊張感。
何かが、いる。
それも只者じゃない、何かが。
この気配は尋常じゃない。
剣道を始めて数年になる賢治である。
経験を積んだものだけが、判るその緊張感。
ピーンと空気は張り詰め、痛いぐらいの緊張感が賢治を包んだ。
その時である。
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
まるで重い甲冑を引きずるような、そんな音が響いた。
遠くから、ガシャン、ガシャン、ガシャン・・・・。
賢治は、その音に身を固くして構えた。
一体何者！？？
やがて、ゆっくりとその全貌が見え始め。
黒い甲冑を纏うその人は、賢治には構わず、ゆっくりと歩いて行く。
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
そして、去って行った。
「・・・・・・・」
賢治は、呆然とそれを見送ったのだった。
◆12:00 剣道場
剣道場は軽いざわめきに満ちていた。
それでも審判が合図した途端に、静寂が満ちる。
次の試合が始まろうとしていた。
だがその時、突然道場に音楽が響き渡った！
重々しく響き渡るは、どこかで聞いた事のある曲。
「これって・・・スターウォーズの曲じゃないか？？」
そう、ダースベーターのBGMだった。
「一体、なにが起きたんだ？？？」
道場内の人々は訳がわからず顔を見合わせた。
とゆうより、どこから音楽が聞こえて来るのか、まったく判らない。
剣道場に音楽設備などなかったはずなのだが・・・。
かなりの音響で響き渡る音楽の中、一人の剣士が道場中央に進み出た。
それは、全身黒い甲冑を纏った剣士であった。
黒光りする鎧に、黒いマント。
それこそ、スターウォーズに登場するベイダー卿だった。
BGMはこの御仁の仕業である事は、もやは一目瞭然である―。
その正体は一切が謎だった。
一体どこの誰なのか。
黒い鉄仮面を被ったその顔は判らない。
ただ甲冑を纏ってなおそんなに大柄ではないところ見ると、中に入っているのは小柄な人なのかもしれない。
ベイダー卿は、道場中央まで来ると、まるで挑戦するかのように竹刀を掲げた。
かかってこい、という意味らしい。
真実はどうであれ、剣道部員田中賢治はそう取った。
竹刀を掲げ、胸を張って立つその男（？）は、まるで自分は強いんだぞーっと言っているようで、癪に障ったのだ。
こちとら、長年剣道を学んだ身だ。
そう簡単に負けてたまるものか！
先ほど中央廊下で見かけたのはこの人だというのは判っていたが、それでもなお、気合満々でベイダー卿の前に進み出た。
だが、次の瞬間、場内は呆気に取られた。
一瞬にして終ってしまったのだ。
試合が。
恐るべき使い手であった。
それを見て、剣道部員は一同いろめきだった。
剣道部員の沽券にかけてもこれは勝たなければ・・・！！
三下が再び剣道場を覗き混んだのは、そんな時であった。
一度は剣道場に立ち寄ったものの、カメラを忘れて再度戻った三下である。
その間に状況が変わってしまった事に、三下はまったく気付いてない。
「あ、試合、やってるんだ！」
何も知らない三下は、剣道場の中に入ると、物珍しさに近寄って行った。
中央に一人、黒い甲冑の剣士が。
その剣士に挑戦する剣道部員。
「へ〜面白いなー。模擬試合って、こうゆう風にやるもんなんだ？」
能天気に三下は言う。
いや、はっきり言って違う。
激しく勘違いした三下だが、悲しいかな、ツッコミを入れる人はいない。
しかし幸か不幸か、まったく別の場所から違うツッコミが入った。
ホケホケと入ってきた三下を目にしたベイダー卿は・・・。
「そこにいるのは三下さんじゃないか☆」
「へ？」
ベイダー卿はそう言うと、ガバっと仮面を取り去った。
そこから現れたのは、少女と見まごう程の繊細な顔立ち。
だが危険度ナンバーワンの吸血鬼ハンター、水野想司であった。
「あれ？水野くん？なんでここに・・・？」
「・・・三下さん！」
想司は、一気に三下に駆け寄るとその手を取った。
「僕は感激だよっっ☆スパシーボだよ☆・・・ついに、ついに！凡百の市井の生活を捨てて、修羅道に生きる決意を固めてくれたんだねっっ☆だって・・・剣を片手に僕の前に立ちふさがる行為が何を意味するのか、三下さん程の修羅が知らないはずがないのだからっ！」
潜在能力が覚醒されたら、自分と同等の修羅と化すであろう漢三下。
そんな三下さんが、その意味が判らないはずがない！
「さぁ、ご近所最強の称号を賭けて勝負だよ！（はあと）」
「へ？へ？あ、あの。僕、剣なんて・・・持ってないんですけど・・・・？」
戸惑う三下をよそに、想司は短い棒のようなものを取り出した。
それは剣の柄ほどの長さで、まるでライト・セーバーの柄のようだと、剣道部員田中賢治は思った―。
次の瞬間、ブォンという微かな音と共に、光の刃が現れる。
まさに、ライト・セーバーであった。
フォースを持つジェダイのみが扱える剣をなぜこの男が！！
というツッコミは置いておいて。
もはや、殺る気・・・いや、やる気満々の想司は、嬉々として三下ににじり寄った。
「え？え？え？え？？？（汗）」
じりっ、じりっ、と迫りくる想司。
三下はそんな想司に押されるようにあとずさる。
「そそそそそそ、想司君・・・まままま、まさか・・・その剣・・・。それって、それって、偽者だよね・・・・？」
「もちろんだよ☆」
三下の言葉に、にっこり笑った想司は、あっさりと返事をした。
ほっ。そうだよね、まさか、想司くんとはいえ、本物の剣を人に向けるはずが・・・・。
「もちろん、れっきとした本物さ♪切れ味最高！僕の最高の得物だよ☆」
一気に、サーっと三下の血の気が引いた。
「そそそそそそ、想司君・・・・！？？」
じりっと、あとずさる。
そんな三下を前に、にっこり笑った想司は、ライト・セーバーを目にもとまらぬ速さで振り上げた。
「うぎゃーーー！！」
ブォンっと振り下ろされた剣を、間一髪で避ける。
サッ切られた髪の毛が、目の前で数本ひらりと舞った。
あと一瞬でも遅かったら・・・・。
それを横目に、だらりと三下の額に冷や汗が流れる。
「ひぃ〜〜〜」
「僕の剣を避けるなんて・・・さすが三下さん☆さすがだよ☆それでこそ僕の好敵手♪」
好敵手と書いてライバルと読む―。
確かに読み方は間違ってはいないのだが・・・・・。
いや違う、断じて違う！何かが違う！
三下は叫びたい気持ちで一杯であった。
「さぁ、行くよ。三下さん☆」
ギルドの切り札である少年は、そのとんでもない剣を振り上げた。
ブォン！
「〜〜〜〜〜〜〜！！」
情けない悲鳴が、道場に響いた。
「助けて〜！！」
その後三下がどうなったかは、神のみぞ知る、である。
◆出来上がった記事は・・・？
「水野くん！！」
森里しのぶは、腰に手を当てて想司を怒鳴りつけた。
「あれほど人様に迷惑かけちゃダメっているでしょ！！」
「迷惑？まさか☆僕がそんなことするわけないじゃないか☆」
「じゃ、これはなんなのよ！！！」
しのぶが手にしていたのは、月刊アトラスであった。
月刊アトラス ●号 巻頭！「Ｈ高校学園祭、ダースベーダー現る！？？」
「三下君・・・あなたが記事になってどうするよぉーーー！！！」
そして今日も編集室には碇の声が響き渡る。
ライト・セーバーを構えるダースベーダーが狙いを定めているのは、三下であり、取材に行った身が、反対に記事のネタになるという・・・・。
「一体、なんのために取材に行ったの！？？」
「あの・・・えと」
結局三下は、碇の問いに答える事が出来なかった。
「編集長ぉ〜〜〜」
怒り沸騰の碇をどうする事も出来なくて、三下はがくっと肩を落す。
「三下さん。次こそは王者決定戦だよ☆」
ふふ、と想司はライト・セーバーを片手に笑う。
「違うでしょ！」
スパーン！
今日も容赦のないしのぶ嬢のハリセンが飛んだ。
「あはは☆よし！再戦に向けて特訓んだ☆」
「ちがぁぁーーーう！！」
スパーン！
水野想司とは、どこまでも無邪気に危険な男なのであった。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
0424／水野・想司／男／14／吸血鬼ハンター
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
ども、こんにちは。ライターのしょうです。
このたびは、私の依頼に参加していただきありがとうございました。
みかねさんは三度目、マリヱさんは二度目、想司くん、亮一さん、美桜さんははじめてのご参加、ほんとありがとうございます。
遅くなりましたが、「学園祭の怪」こうしてご無事にお届け出来てよかったです（＾＾；
今回まったく別行動をしている方は個別になっておりますので、興味がありましたら他の方の分を覗いてただけると、また違った話が見えると思います。
水野・想司さん
大変面白くプレイング拝見させていただきました。
なによりも、「最強の称号なのに、なぜご近所なんだぁーーー！」と突っ込みたい気持ちで一杯でした（笑）
水野さんの願うようなギャグに仕上がったかは謎ですが、精一杯書かせていただきましたので、楽しんで頂ければと思います（汗）
ご感想等、ここが違うなどでもOKですので、気軽にご意見いただければ幸いです。
まだまだ修行中の身ですが、これからもがんばっていきたいと思いますので、また見かけたら声を掛けてやってください（笑）
では、お疲れ様でした。
|
|
 |
