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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


蘇れ!懐かしのアイドル喫茶
秋は学園祭、文化祭、運動会など学校行事が目白押しの季節である。
ここ、秀理学園においても学園祭が行われる事になった。
学園祭では各クラス事にそれぞれ催し物をする事になっている。
あるクラスはお化け屋敷。また、あるクラスは自作テレビの放映。
そして、秀理学園二年の山崎匠のクラスは喫茶店をする事が決まっていた。
「でもなぁ。……ただの喫茶店じゃ面白くないよなぁ」
委員長でもある匠は呟いた。
「じゃどうするんだ?」
クラスのヤツに問われ、匠は頭の後ろで腕を組み、天井を仰ぐ。
「…そうだなぁ……アイドル喫茶ってのはどうだろ?」
「アイドル、喫茶??」
なんだそれ、と首を傾げる友達に、匠は何かを得たように頷きながら言う。
「そうさ。山口百恵とか郷ひろみとかチェッカーズとか、昔のアイドルのショーを客に見せるのさ!きっと、当たるぞ!!」
「で、誰がやるんだ?それ」
「誰ってこのクラスでやるに決まってるだろ?」
「俺、昔のアイドルなんてしらね〜もん」
はたっと匠は止まる。
匠はアイドル好きの両親という家庭環境のお陰でかなり、昔の歌謡曲には詳しいが普通の高校生なら知らない方が普通だろう。
「ん〜……!」
匠は腕を組み、頭を悩ます。
「そうだ。アイドルものまね歌謡ショーってして、参加者募集しよう」
うんうん。と一人頷く匠。
学園祭に部外者が参加して良いのか?という疑問は置いておいて、さっそく匠は校外に張り出すビラを作成し始めた。
「そうだ!ゴーストネットの掲示板にもカキコしてみよっと♪」

天気、晴れ。
絶好の学園祭日和に、ここ秀理学園の一階美術室は小さいながら舞台の置かれた喫茶店へと改装されていた。
AM10:25。
あと五分で第一回目のショーが始まろうとしていた。
客入りは上々。
教室内に設けられたテーブルはすでに満員状態でショーの始まりをいまや遅しと待ちわびているお客さんが幕の下りた舞台へと目を向けていた。
「ここですね。兄君の言っていた所は」
日本のごく一般的な校内にはあまり似つかわしくない英国紳士の格好をした男性は、一枚のビラと喫茶店としてその用途を変えられた美術室を見比べた。
ウォレス・グランブラッドは室内へと足を踏み入れ、楽しそうに辺りを見渡した。
「実に楽しみです。更にニッポンへの理解を深める為にも、守崎兄弟の勇姿を一時も逃さずに目に焼き付けなければ!!」
ぐぐっとひとり変な具合に気合を入れている外人さんに好奇の目が向けられている事など気にも止めず、ウォレスは空いている席へと座った。
AM10:30。
教室内の照明が落とされた。
そして、ゆっくりと幕があがり、音楽が流れる。
軽やかなテンポのなんとも懐かしいメロディー。
郷ひろみのナンバーを人に尋ねれば、必ずこの曲が入るだろう……
流れてきた曲は、『男の子 女の子』
そう。君たち女の子♪僕たち男の子♪のフレーズで有名な曲である。
幕の上がった舞台の上には山崎匠の姿。
しかも、アフロのかつらに小さめの皮のパンツルックにこれまたピッチピチに体にフィットしたシャツというスタイルはその昔の郷ひろみの姿。
完璧になりきっている匠はアイドルチックな振り付けも交えつつ『男の子 女の子』を熱唱。
……ある説によれば、このアイドル喫茶を匠が考えたのも、単に郷ひろみのモノマネがしたかっただけという話も……
ま、それは置いておいて。
満足気に歌う匠に、お客の反応は上々。
そんな中、また一人アイドル喫茶へ足を踏み入れた者が一人。
「……あの子の歳で良く知ってたわね、あの歌」
シュライン・エマは舞台の匠を見、苦笑交じりに呟いた。
彼女はたまたま見掛けた学園祭の看板に、興味から見学に来ていたのだが、懐かしい音楽に惹かれここにやって来た、という訳である。
シュラインはざっと照明の落ちた室内を見渡し、空いている席を見つけた。
相席のような形になるが、いくつかの長机にそれぞれ八つほどイスが置かれたような作りなので、さして気にはならない。
舞台に見入るウォレスの向かいにシュラインは腰を下ろした。
「やぁ、皆。今日は来てくれてありがとう。今日は、僕の友達もたくさん駆けつけてくれてるんだ」
満足気に歌い終えた匠は、なりきったまま司会進行を始める。
「僕たちのショー。楽しんで行って下さい。まずはWINKの二人です!」
匠の言葉を合図に、再び幕が上がり、スポットライトが舞台上の二人に当たる。
まさにアイドル衣装とでも言おうか、フリルつきのドレスを身に纏った二人の少女…正確にいうならば少年が後ろ向きで立っていた。
そして、流れてきた音楽。
それは『淋しい熱帯魚』!!
イントロが流れ、曲が始まる。
「♪〜Stop 星屑で髪を飾り〜」
「〜Non−stop 優しい瞳を待つわ プールサイド♪」
WINKの振り付けどうり、一人ずつ振り返ったのは守崎啓斗と北斗の双子。
だが、完璧な女装はどこからどう見ても二人を美少女へと変身させ、観客からは歓声とも嘆息ともとれない声が洩れる。
「あ…ら?あの子たちは、もしかして?」
舞台の二人に見覚えがあるシュラインは眉をよせ考えるが、その横でウォレスが歓声を上げる。
「素晴らしい!ヤマトダマシイの心のみならずヤマトナデシコの心意気まで持っているとは、流石守崎兄弟です!!美しいですよ!ご両人!!」
隣のウォレスのやや興奮気味な声援を聞き、シュラインは自分の推察が正しかった事を知り、苦笑交じりに呟いた。
「……あの二人、ここの学校じゃなかった筈だけど…良いのかしら?」

もちろん、守崎北斗は何故他校の学園祭に参加しなければいけないのかと啓斗に反発した。
いや、本当に嫌だったのは女装の方であるが……
「嫌だ!!ぜってー嫌だ!!!!」
「我慢しろ、北斗」
「出たけりゃ兄貴一人で出りゃいいだろ!中森明菜でも歌ってろ!!」
「何を言っているんだ。八十年代のアイドルといえばWINKしかいないだろ?」
「兎に角、女装なんていーやーだーあぁ!!!」
弟の悲痛な叫びが兄の心を動かした……なんて事はなく、啓斗が何故そうまでして参加したがるのかは不明だが、少々真面目すぎる彼は、八十年代のアイドル=WINK。WINK=双子、と思い込んでいた。
「いいか?こういうのは演技と度胸だ」
ぽん、と北斗の肩に手を置き、懇々と諭すように啓斗は言う。
「少しばかり変でもなりきれば誤魔化せるものなんだ。ほら、無表情無表情。WINKは無表情が売りだったらしいから。だから、な?」
「……な、ってなんだよ」
冷や汗交じりに問い返した北斗にどこから取り出したのか、実に可愛らしいフリルばりばりのドレスを無言で突き出した啓斗に兄思いの世話好きな弟は泣く泣くそれを受け取ったのだった。

(……ウルセー!!大声で名前呼ぶんじゃねーよ!ウォレス!!)
無表情のまま歌い続ける北斗の心の中は、やたらと嬉しそうにこっちに向かい手を振っているウォレスを罵り、早くこの拷問のような時が過ぎる事を祈っていた。
だが、北斗の苦悩はまだまだ終わらないようだ。

パシャッ!

薄暗い室内で一瞬輝く光。
視野の端で北斗はそれがなんだったのか捉え、そして今すぐにでも舞台から飛び降り逃げてしまいたい衝動に駆られるのを必死で堪えていた。
「あなた方の麗しき姿はしっかり記録して置きますからねー!」
使い捨てカメラ片手に北斗と啓斗に向かい自慢気に言うウォレス。
無表情を作っていた北斗の顔がだんだん赤くなっていくのがわかる。
啓斗は相変わらずの無表情のまま歌いつつ、心の中で弟に語りかける。
(北斗。無表情だぞ、無表情)
どこかずれている兄の心中を知る由もない北斗は、怒りに震える体を抑える為にマイクを握りしめた。
(ウォレス……ぜってー許さねー!!覚えてろよ!!!)
そんな二人を気の毒に思いつつ、シュラインは頼んだ珈琲を一口飲んだ。
薄味の苦味の強い珈琲に顔を歪めたのか、守崎兄弟―主に北斗の不運な境遇に顔を歪ませたのか分からないままシュラインはまた舞台へと視線を戻した。

『♪Heart on wave 〜♪Heart on wave 〜♪あーなたは来なーいー♪』
ハモリも双子ならでは、といった感じで曲もラストを迎えつつ、二人のモノマネWINKは無表情で踊り、歌う。
『♪Heart on wave 〜♪Heart on wave 〜♪泳ぎだすけ〜ど〜あなたの理想に〜は〜追いつけなくて〜♪』
そして、最後のイントロが流れ、そして終わると共に大きな拍手とそれよりも一際大きな歓声が上がる。
「Marvelous!!素晴らしいモノマネ、しかと拝見いたしましたよ!」
その横ではシュラインが額を押さえ、気遣わしげな視線を舞台に向けている。
「WINKの二人にもう一度大きな拍手を!」
幕の下りた舞台の中央に出てきた匠の声に、再び拍手が巻き起こる。
それを聞きながら、幕の裏では啓斗がぽんっと北斗の肩に手を置く。
「よく頑張ったぞ、北斗。これで優勝間違いなしだ!」
的外れも良いとこな発言をする兄にがっくりと肩を落とす弟。
「俺、疲れた……」
「そうか?でも、ショーはあと二回あるんだぞ?」
さらりと北斗にとって大きな問題となる発言をする啓斗。
「………は?」
北斗はしばらく固まり、ギギギっと首だけ動かし引き攣った顔を啓斗に向ける。
「ショーは三回やるんだよ。言ってなかったか?」
綺麗に化粧で美少女に変身した真面目顔でさも当然といった感じで頷く啓斗に、北斗の顔が引き攣る。
「いーやーだーあぁ!!かーえーるーぅ!!!」

虚しく響き渡る悲痛な叫びは近くのお化け屋敷から悲鳴に打ち消されたのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0568 / 守崎北斗 / 男 / 17歳 / 高校生】
【0554 / 守崎啓斗 / 男 / 17歳 / 高校生】
【0526 / ウォレス・グランブラッド / 男 / 150歳 / 自称・英会話学校講師】
【0814 / 黄桜川桃子 / 女 / 27歳 / バー経営】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家
                                +時々草間興信所でバイト】
【0662 / 征城大悟 / 男 / 23歳 / 長距離トラック運転手】
【0428 / 鈴代ゆゆ / 女 / 10歳 / 鈴蘭の精】
【0969 / 鬼頭なゆ / 女 / 5歳 / 幼稚園生】

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■         ライター通信          ■
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初めまして。守崎北斗様、守崎啓斗様、ウォレス・グランブラッド様。
ヘタレライターの壬生ナギサと申します。
この度は参加頂き有難う御座います!
そして、三度目の参加有難う御座います。シュライン・エマ様。
今回のお話如何でしたでしょうか?
上手く皆さんの頭の中で曲が流れたでしょうか?(汗)
かなり挑戦的要素が多かったのですが……
まだまだ自分の未熟さを思い知った作品になりました。

ご意見、ご感想などありましたらお気軽に送って下さいませ。
では、ご都合が合いましたらまたよろしくお願い致します。