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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


学園祭の夜
◆ワナ
学園祭を前にした夜。
前夜祭も終わり、学生たちは残りの作業を片付けてしまおうと、暗くなってもまだ校内には人が残っている。

「いい匂いがするなぁ・・・」
事故防止の為に立ち入り禁止になっている屋上のフェンスの上に座っている男は、風に髪をなびかせながら眼下で作業に勤しんでいる学生たちを眺めて呟いた。
明日からは楽しい学園祭。
学生たちの期待感と高揚感が空気に溶け込んで、生気の溢れた匂いに満ちている。
こういうイベントが楽しみなのは学生たちばかりではない。
人間が浮かれ、気持ちが高ぶる「祭り」こそ、良い「餌場」と狙う「モノ」も少なくはないのだ。
しかも、学園祭というのは「祭り」でありながら、神仏の影が一切ない魔物たちには格好の餌場だった。
「明日からの学園祭が楽しみだよ。」
男はそう言うと、くっくっと喉の奥で笑いながら、夜の闇の中へとその姿を溶かして行った。

「・・・学園の学園祭で、人が死ぬ?」
雫のBBSに不吉な噂が書きこまれたのは、学園祭を明日に控えた深夜だった。
深夜とは言えネットワーカーの活動時間中。
その不吉な書き込みは、たちまち噂となって広がったようだ。
「でも、人が死ぬだけじゃ、何もわからないじゃない。」
雫は何かほかに情報はないかと、情報を求める書き込みをした。
すると、集まったのは・・・
・現れるのは吸血鬼らしい・・・
・暗がりに気をつけろ!
・犠牲者が出れば、そいつらはゾンビになって襲ってくるだろう
などといった情報だった。
「このまま放っては置けないよね・・・」
雫はモニターを眺めながら呟いたが、吸血鬼が来るから学園祭を中止してくださいとは言えない。
それに、たくさんの人間で押しかけても、先生に追い出されるか、学園祭をパニックに陥れてしまうだけだ。
しばらく考えて、雫はBBSに書き込みをした。

「学園祭を吸血鬼から救って!
 ただし、1人で学園に潜入できる人!
 学園祭と学校を守って!!」

◆ウワサ
雫の掲示板を見て学園に取材を申し込んだ大塚 忍は、学園祭の実行委員から渡されたプレスの腕章をつけて、早速学園の中を探索しはじめた。

掲示板の書き込みにあるよなオドロオドロシイ気配はまったくなく、浮かれた学生たちが模擬店を開いている教室を行ったり来たりしている。
「べつに、どうということは無い感じだなぁ・・・」
大塚はカメラで適当に写真を取りながら呟く。
あんな噂がネットで出回るほどなのだから、学園内でも少しそれらしき噂があっても言いと思うのに・・・それがまったく無いのだ。
念のためにと数人の学生たちにもインタビューしてみるが、学園の七不思議のような怪談話は知っていても、学園祭で人が死ぬなどという噂は出てこなかった。
「・・・益々怪しいってことか。」
人が死ぬ。
大塚には、その噂は用意された餌のような気がしていた。
何ものかが、何かを誘き出すための餌。
そう考えた時に、大塚にはその餌を用意した人物が思い浮かんだ。
(こんなことをするのは奴しかいない。)
確信めいた何かが大塚の中にある。それは経験から来るジャーナリストの勘のようなものだったかもしれない。
(今度こそ・・・奴に迫ってみせる。)
大塚はそう決めていた。
幾度となく接触し、そのたびに苦汁を飲まされてきた存在。
そしてそれは、ルポライターとしての大塚がなんとしてもその言葉を記事にしたいと考えている人物だった。
(スリープウォーカー・・・)
その名前を思い出すだけで、大塚は気持ちが締め付けられるような思いがするのだった。

◆ヒメイ
「最近の学校って奴は・・・無駄に広いな・・・」
大塚は校舎の中を巡っているうちに、人気のない別の校舎の方へ移って来てしまったようだった。
学園祭では公開されていない場所なのか、人の気配はまったく無い。
入り組んだ渡り廊下と同じような風景の繰り返しで、まるで迷路に迷い込んでしまったようだ。
「第一美術室・・・あっちは第三視聴覚教室・・・」
教室の入り口に取り付けられたプレートを頼りに廊下を進んでゆくが・・・
「わからん。」
どうやら道に迷ったようだ。
窓の外を見ると、日が陰り始め、中庭と思われる地面を薄紅く染めている。
次第に校舎の中の空気が変わり始めているのも感じる。
夜の気配が濃密に、風のように入り込んできている。
「少し・・・ヤバイか?」
大塚がそう感じたのは本能のようなものだった。
何となく・・・嫌な感じが足元から這い上がってくるようだ。
大塚はカメラバッグにカメラを収め、その代わりに銀のペーパーナイフとペットボトルに入った聖水を取り出した。
ここへ来る途中、孤児院を営む教会から貰ってきたのだ。無垢な幼子たちの神への祈りがこめられている。
そして、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けようとしたとき、悲鳴は聞こえた。

「どうしたっ!」
大塚が悲鳴の聞こえた方に駆けつけると、2階から3階へ上る階段の中段・・・踊り場のところに倒れている少女を見つけた。
「大丈夫か?」
階段を駆け上って、倒れている少女を抱き起こすと、気を失っているのかぐったりとして動かない。
大塚に一歩遅れて3階から学生が降りてくる。
「どうしましたか?・・・あれ?大塚さん?」
学生は大塚の顔を見ると驚きに目を丸くした。
「は?・・・あの?俺?」
見覚えの無い学生の言葉に、大塚は訳もわからない。
「あ、私です。司です。」
学生は大塚も知っている人物の名を名乗る。
「司さん?」
「はい。」
「なんで・・・あ、憑依してるのか。」
大塚はやっと事情を飲み込み納得する。
その様子を確認してから、司は大塚が抱えている少女の顔を見るようにしゃがみ込む。
そして、少女の長い髪を掻き分けて、首筋を確認した。
「吸血痕はないですね。」
身体もまだ温かく、脈を確認すると脈拍はしっかりしていた。
「貧血とか・・・何かかな?」
大塚は保健室か何処かへ連れて行ったほうがいいのかと思案する。
「そうですね・・・側に気配も・・・」
ないですし・・・そう言いかけて、司は口をつぐんだ。
モゾリ・・・と何かが動く気配・・・
「後ろ!」
司の背後を指して、大塚が叫ぶ!
司の背後には、大きな姿身の鏡がかけられている。
「!」
その鏡には四人の人影が映っている。
司と、大塚と、少女と・・・そしてもう一人、紅の髪の男が。
「ナイト!」
大塚と司にはその人物に見覚えがある。
吸血鬼を食らう吸血鬼・・・ナイトと名乗る男だった。
男は鏡の中から溶け出すように、指先からゆっくりと姿を現す。
そして、口元に白い犬歯を見せるように笑うと、言った。
「残念でした。」
「?」
一瞬、2人は何が起こったのかわからなかった。
鏡から現れた男が、電光石火の素早さで大塚の腕から少女を攫うと、階下へと階段を飛び降りたのだ。
「僕は人間の血も吸えるんだよ。」
そう言うと、ナイトは少女の喉元に牙をつきたてる!
「!」
少女はビクンッと身体を硬直させたが、すぐにぐったりとその力を失った。
牙を立てられた喉からは一筋の紅い滴りが床に落ちる。
「お前っ!!」
大塚がその様を見て、手に持っていた聖水の入ったペットボトルをナイトに向かって投げつける!
「野蛮ですね。」
ナイトは少女を抱えたまま、信じられないような素早さでビンを避けると、そのまま廊下の向うへと走り去った。

◆ヴァンパイア
ナイトの後を追いかけた司と大塚だったが、入り組んだ通路でまかれてしまった。
「どっちだ!?」
二手に分かれた通路を前に、二人は迷う。
「二手に分かれましょう。私はこっちへ行きます!」
「OK。じゃあ、俺はこっちへ行く。何かあったら大声で呼んでくれ。」
「わかりました。」
司と大塚は二手に分かれて、再び走り出した。

「くそっ!何処いったんだ!」
大塚は同じような教室の立ち並ぶ一角で、迷路に迷い込んだような錯覚を感じながら走りつづけた。
「大体!なんだよっ!結局奴も他の吸血鬼どもと一緒じゃないか!」
大塚は激しく毒づく。
ナイトは、どこか他の連中とは違うと感じていた自分に呆れる。
結局は奴も血に飢えた人間の仇なのか。
「俺はそんなに信用が無いのかね?」
くっくっ・・・と喉の奥で笑うような声がいきなり通路に響き渡る。
「ナイト!何処に居るんだ!姿を見せろ!」
「穏やかじゃないな。お嬢さん。」
ナイトは大塚の足元、大塚の影の中からふわっと姿を現した。
「そんなに俺は信じられないか?」
「信じるも何も!お前は俺の目の前で人間を襲ったじゃないか!」
大塚はナイトの胸倉を掴む。
「あの女の子を何処へやったんだ!」
「だーかーら、それは俺じゃないっつーの。」
そう言うと、ナイトは大塚の目に手を当てる。
「んっ・・・!」
なにかチクっとした感覚が目にする。
「何をした!」
「あんたの目を少し見えるようにしてやったんだよ。」
にやりと笑う。
「どちらの俺が本物か見極めてもらおうじゃないか?」
「?」
訳もわからず睨みつける大塚を、ナイトは抱きかかえると、廊下の外・・・窓の外へと飛び出した!

◆ホンモノ
扉の外へ出ると、そこは隣りに続く建物の屋上だった。
すっかり日は落ち、暗闇が空を染めている。
そして、その暗闇の下に彼は居た。
「コレを返してあげるよ。」
そう言うと、ナイトは抱えていた少女を無造作に投げ出した。
どさっとコンクリートの地面におちるが、それは見た目ほどの重さも感じさせなかった。
「非処女の血は、喉の渇きすら癒えやしない。」
なにか不味いものでも口に含んでしまったような、そんな苦々しさで言った。
「殺しましたね・・・」
司は自分でもわかるほど、冷たい声で言った。
「だから?僕の食事は人間なんだ。人間を食べて何が悪い?」
ナイトは悪びれた様子も無く、地面に転がった少女の死体を爪先で小突く。
「死者への冒涜は許せません。」
司はナイトに向けて静かに印を切る。
和系の術である司の術が、吸血鬼にどれほど効くかは疑問だが、それでも、魔物を捕らえるには違いない。
そして、その術が完成しようとした瞬間、別の男の声が響いた。
「食い物は大事にしろと教わらなかったのか?」
「!?」
声の主は、階下からフェンスを越える、超人的なジャンプで屋上へ姿を現した。
それは、司の前に立っている男と同じ顔を持つ・・・ナイトだった。
腕には見覚えのある人物を抱きかかえている。
「大塚さん!」
「司さん!そいつは偽者だ!」
大塚は男の腕から降りると司に言った。
「ちっ!」
新たな人影・・・本物のナイトの登場に、不利を悟った偽者はその場を離れんと身を翻す!
「逃がしません!結呪!」
司は完成した術を偽者に向かって放つ。
術は鋭い光の刃となって、偽者をその場に縫いとめた。
「くそっ!」
偽者はそこから離れんと更にもがく、するとどうしたことか、おぼろげに姿が変わってくる。
「俺の名前をかたるのは千年早いな。」
ナイトは悠然と縫いとめられた偽者の傍らに立つと、指先でその顎を捕らえ上向かせる。
「幽霊さん、ご協力感謝するぜ。」
そう言って、司と大塚の方に軽くウインクしてみせると、ナイトは躊躇いもなく偽者の喉に牙をつきたてた。

◆エサ
「やはり、ニセモノでしたか。」
ナイトの指先から砂のように崩れて散った偽者の姿を見て、司は呟いた。
「あんたはどうしてわかった?」
「人間の血で潤うのなら、今までのような面倒な手段は取らないだろうと思っただけです。」
司はさらりと答えた。実際にそれ以上の確信は無かった。
「まぁ、吸血鬼という浅ましい生き物としては、俺もコイツも同じだけどな。」
ナイトは完全に風に散ってしまったニセモノの居た場所を振り返ると言った。
「ニセモノは何故、あなたの姿を真似たのですか?」
司は疑問に思っていたことを聞いてみた。
それだけが、心に引っかかっていたのだ。
「コイツはあんたの中を読んだんだ。」
「中を読んだ?」
「そうだ、あんたの中に吸血鬼というと俺を連想するものがあったんだろう?吸血鬼って言うのは、そう言う部分を巧みに読み取って、人間の心の中へ入るんだ。」
「・・・人間を食らうために・・・」
「そうだ。」
よくできました。と言わんばかりの仕草でナイトは肩をすくめる。
「そして、あんたは吸血鬼を食らうために人間をえさに誘き出すのか?」
二人の話を聞いていて、どこか納得しきれない大塚が言葉をぶつける。
「お嬢ちゃん、餌が無くて魚が釣れるほど、俺は器用じゃないんでね。」
そう言うと、ナイトは月の輝き始めた空を仰ぐ。
「できるだけ餌を死なせないようにしてるんだぜ、これでもな。」
月を仰いだナイトの身体が、ザワザワと音を立て蠢きだす。
「待て!ナイト!」
「まぁ、また会えるさ。あんたが人間である限り。」
司と大塚の目の前で、ナイトの体は崩れるように先端から無数の蝙蝠となって空に舞い上がり始める。
「あんたたちが吸血鬼になった時は敵だけどな。」
「ナイト!」
大塚はもっと話を聞きだそうと呼び止めるが、ナイトはそれには答えずに完全に蝙蝠となると暗闇の空へと消えていった。
心の中にいくつかの謎を残したまま、ナイトはこうして姿を消してしまい、夜の学園は静けさを取り戻したのであった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター
0790 / 司・幽屍 / 男 / 50 / 幽霊

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
ナイトのインタビューまでは取れませんでしたが、今回はこんな感じの展開となりました。
なんだか、話をしてもはぐらかされそうな男なのですが、とりあえず、今のところは敵ではない・・・というところのようです。今後もお会いすることがあるかと思いますが、そのときはまたよろしくお願いいたします、
それでは、またどこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。