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図書室で見たもの
●図書室に浮かぶ白い影
深月明(ふかづき・あきら)が通う学校、蒼緑学園高等部では、もうすぐ始まる学園祭『蒼緑祭』の準備に追われていた。
「明ぁ〜☆ この本、図書室に返してくれる?」
折しもそんな中、帰宅部でちょうど暇だった明に白羽の矢が立ったのはいうまでもなく。
「はいはい。それじゃあ、返してくるね」
友人から預かった本を片手に明はその図書室に向かった。
スピーカーから、いつもの下校時間を告げる音楽が響き渡る。
「すみません、代理で来たんですが‥‥」
いつもは人気のない場所であるが、学校祭準備のために、多くの生徒がまだこの教室にいた。
「あ、ちょっと待って‥‥」
図書委員の生徒がそう言って本のチェックをしようとしたとき。
ふわり。
何かが動いたのに気づいた。白い人のような影のようである。
「え?」
最近妙な能力が付き始めた明。もしや、その所為でまた変な物を見たのかと思っていたが‥‥。
ふわふわ。
今度はその影が二つになった。
「きゃあああ!! 幽霊よ、幽霊っ!!!」
「うわあ、な、なんだよ、あれは!!」
どうやら明だけではないようだ。
「これって‥‥一体!?」
数日後。アトラス編集部のところに一通の投書が届くことになる。
『某O学園の図書室で白い人影が現れたんです。お陰で学校祭の準備が出来ません。何とかして下さい』
●二つの影
誰もいない図書室。そこに白い影がまた浮かび上がった。
『ちょっとやりすぎちゃったかな?』
『でも、僕らのこと、わかってくれたんだから』
『そうだけど‥‥皆、怖がっていたみたいだよ?』
『‥‥そうしないと、僕達、お家に帰れないよ』
『そうだね、そのために‥‥こうやって力を蓄えているんだからね』
『だけどさー、ここのお月様、力弱すぎ。僕らの体を維持するだけでも足りないくらいだよ‥‥』
影は図書室から見える、三日月をそっと見上げた。
●雫と明の秘密の花園?
授業の終えた放課後。誰もいない準備室にて二人の少女はいた。
「あの‥‥迷惑ではありませんでしたか? 明さん」
きょろきょろと辺りを見渡しながら、月杜雫(つきもり・しずく)が訊ねる。左右に顔が振られるたびに高く結い上げられた長い黒髪が揺れていた。
「全然平気ですよ。ここは全く使われていないんです。私の知っている秘密の隠れ家なんですよ」
「秘密の‥‥隠れ家?」
「実はこの部屋、鍵が壊れていて、‥‥その開けるコツっていうのがあるんです。それ、私しか知らないから、ここを開けることはないんです」
そういって明は持っていた安全ピンを見せた。どうやらこの場所は明の秘密の部屋‥‥らしい。
「あ、ああ‥‥だから、この部屋の扉に使用不可って貼ってあったんですね」
「そういうことです。それに‥‥私以外でここに入った人は雫さんが初めてなんですよ。だから、この部屋のことは私と雫さんの秘密にしてくれませんか?」
その言葉に少々驚いたようだったが。
「わかりました」
そっと雫は自分の人差し指を口元へと持っていく。
「明さんと私の秘密です」
くすりと、二人はお互いに笑みを浮かべた。
「本題に入って良いですか?」
その雫の言葉に明は頷く。それを確認してから雫は口を開いた。
「明さんの能力とは、何なんですか?」
「始めは自分の思ったことを相手に伝えるだけの、役立たずな能力だったんです。だけど‥‥最近、木の精さんとかと話せるようになったり、幽霊を見て話せるようになったりと、してるみたい‥‥お父さんの話によると、何だか凄い力を持った人の半身なんだとか言っていたけど‥‥私にもよくは分からないの」
その明の話を神妙に雫は受け止めていた。
凄い力を持った人‥‥木の精は分からないが、幽霊と話が出来るようになったということは自分と同じ力なのかもしれない。
「そうですか‥‥それならば、一緒にいてくれませんか?」
「え?」
「どうやら、明さんは私と同じ力を持っているようです。それは一部なのかもしれませんが。ならば、私の側にいて力の使い方を学んで欲しいのです」
にっこりと有無を言わせない雫の気配に明はたじたじとなったのであった。
●得られる情報とゆかいな仲間達?
「いいえ、そんな噂、今回が初めてですよ。だって、この蒼緑学園高等部は三年前に立てられたばかりで、人が死んだなんてことは一つもありませんよ」
この学園で一番知っていそうな年配の教師を捕まえた降野碕(こうの・さき)は眉を潜めた。あの人影は幽霊ではないのだろうか? しかし、以前に聞いたことがある。人が集まるところに霊は貯まりやすいのだと。それは新しく出来た学校にも当てはまるのではないのだろうか? 教師の話によると既に設立して三年は経っているようなのだから。
「お願いですから、早くお祓いして下さいね」
そう教師から頼まれ、碕は苦笑した。
「ああ、わかった。そうするよ」
次に碕は影を目撃した学生と接触することに成功した。
「もうびっくりよ! あんなの生まれて初めて見た!! こう、ぼやぁ〜って感じで、ちょっと小さい影だったわね。そうそう、5歳くらいの子供みたいな感じ。もうすぐ楽しい学祭だっていうのに、こんなの困るわ。準備も遅れているしね‥‥早く何とかして‥‥」
と、学生はふと碕に不審な視線を送る。
「ふわぁ‥‥‥ああ、すまん。ちょっと寝不足なんでな」
「あの‥‥もしかして、実は悪徳なんとかっていうんじゃ‥‥」
「ちょっといいか?」
それを遮ったのは金髪の青年、真名神慶悟(まながみ・けいご)だ。すらりと高く、モデルのような青年に碕は面食らう。それに比べて碕は多少くたびれた服を着た一般的な二本男児。
「あんたが影を見たと聞いたが、本当だろうか?」
「‥‥そうだけど、あなたもお祓い屋さん?」
学生は二人を見て、不審を募らせる。果たしてこの二人が本当にお祓い屋なんだろうか?
一人は見るからに怪しげな男、その一。一人はモデルになりそうな男、その二。
「あのお、もしかして‥‥不審者サン?」
その学生の何気ない一言。その一言が二人に火を付けた。
「あーのーなぁ〜! コイツはともかく、俺は歴とした渡り鳥なんだよ! 渡り鳥っていっても知らないか? 日本中から寄せられる様々な依頼を俺のような旅人に斡旋する探偵社に雇われている立派な人のことをいうんだ!! ほら、ちゃんと名刺だってあるんだからな!!」
そう言って名刺を差し出す碕。
「渡り鳥だか知らないが‥‥俺はこう見えても陰陽師。言うよりも見せた方が早いな」
そう言って慶悟は一枚の札を取り出し、早口で囁くような言葉を発した。
ボウッ!!
札が勢い良く燃え、消えた。
「すっごーい!! お兄さん、陰陽師なんだぁ!! 格好いいっ!!」
そんな学生を前に碕は一言。
「‥‥‥負けた‥‥」
がっくりと肩を落とすのであった。
「あれ? もしかして、慶悟さん?」
そこに現れたのは明と雫の二人。
「また事件に巻き込まれたと聞いてな。親父さんとは上手く行っているのか?」
「ええ、まあなんとかってところかな? とにかく、今回もよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる明。ふと、碕と目が合った。
「えっと、確か‥‥あなたは先日会った、渡り鳥の‥‥」
明は慶悟の隣にいた碕をみて呟く。
「そう、碕!! 降野碕っ!! うう、知ってる人に会えてよかったぁ〜」
こうして、二人は明達と合流を果たすこととなる。
一方その頃。
「うわぁ〜これが高校の学校祭準備かぁ〜、やっぱ、俺の中学とは全然、違うねっ!!」
きょろきょろと辺りを見渡すのは、ファレル・アーディン。小柄な銀髪の少年である。本当はあの白い影のことを知り、ここへ来たのだが‥‥。
「あら、君、見学しに来たの?」
「はい、そうでーす☆」
にこにこと頷くファレル。真の目的は‥‥祭りの準備を見に行く、だったりする。
「じゃあ、今度の蒼緑祭にも来てよ! サービスしてあげるよ。ほら、招待券渡すから、また来てね☆」
どうやら、目的以上の収穫があったようだ。
「え? 本当っ!? うわあ、ありがとう!! 綺麗なお姉さん」
「こちらこそ☆ 本当にサービスするからねぇ!!」
招待券をそっと自分のポケットにしまう。
と、そのファレルの前を四人のグループが横切った。明達だ。
「あ、明発見っ!! 探したんだよ!!」
ファレル。実は調子のいいやつかもしれない。
こうして、ファレルとも合流し、一行は図書室へと向かったのであった。
●図書室で待っていたものは
図書室は誰もいなかった。どうやら明の話によると、今日はお祓いに来た四人のために貸し切りにしてくれたようだ。心おきなく慶悟は図書館を調べ始めた。
「まさか‥‥あの日記というわけではないだろうな‥‥」
苦笑する。先日、青い日記という未知の力を秘めた日記を巡って、一つの戦いを終えたばかりだった。慶悟と明はそれに参加していた。そして、慶悟はもしやと本を調べていたが。
「どうやら杞憂で終わったようだ」
慶悟は別の所を調べ始めた。
その傍らで雫は明に力の使い方を教えていた。いや、見せていたと言った方がいいか。
「明さんはそこで見ていて下さい」
そう言って雫は集中する。雫の右の瞳だけ、黒から鮮やかな赤い色へと変化したのだ。
「し、雫さん!?」
瞳の色の変化に驚き、明は思わず声をかける。
「ごめんなさい、しばらく静かにしていて貰えませんか? わからなくなりますし‥‥私は大丈夫ですから」
その言葉に明は静かに見守ることにした。ふっと瞳の色が黒へと戻った。
「‥‥どうやら、幽霊の気配はないようですね。念のために出入り口にお札を貼って、それからおびき出しましょう」
こうして次々と進めていく雫の横で。
「ふああああぁ」
碕は今日で17回目のあくびをしていた。
「お兄さん、大丈夫〜?」
ファレルが不思議そうに碕の顔を見上げる。
「あ、ああ‥‥。気にしないでくれ」
ファレルがそれでも、碕のことをじっと見ていたが、そのうち飽きたらしく、図書室を調べている慶悟の所へ行ってしまった。
「明、この先の部屋は使われていないのか?」
慶悟が訊ねたその先には、一つの扉があった。
「ああ、そこは図書準備室ですよ。‥‥こちらも調べてみますか?」
そう言って明はその部屋を開ける。古い本や新しい本が乱雑に置かれており、少々、薄暗いようである。
そこを雫と慶悟が調べてみるが、何も出ないようである。
「ただの幻覚‥‥かもしれませんね」
雫は少し疲れたような声でそう明に告げた。
「でも、あのときは絶対に‥‥」
「誰だっ!?」
明の声を遮るかのように、慶悟の声が響いた。
「どうかしたのっ!?」
どこか楽しそうにファレルがやってくる。その後を疲れ切った碕が追う。
そこには、あの人影があった。そう、先日明達が見た、あの人影である。
しかし、あのとき見た、光の輝きは無く、ふわふわと消えてしまいそうなほど、弱い光となっていた。
「あなたは一体何者なんですかっ!?」
もう一度、力を発動させながら、雫は訊ねる。
『‥‥‥‥』
「何かを言って下さらないと、私も何もすることが出来ません。それでもいいのですか!?」
雫の表情にいつものあの穏やかさが消えている。むしろ威圧するような雰囲気が漂っていた。
「し、雫さん‥‥何だか、影の方も戸惑っているようですよ?」
ファレルの言葉に、雫はやっと、落ち着きを取り戻した。
「す、すみません‥‥。でもこんなの、初めてです‥‥。あの影、本当に幽霊なんですか? 何だか幽霊とは別の‥‥」
人の形をしていた影が突然、小さな丸い球体へと変化した。
『僕たち、幽霊というものじゃないよ。月から来たんだ』
その声は部屋には響かなかった。部屋の中には響かずに、その場にいる全員の頭の中に直接響いているのだ。
「月っ!? もしかして、エイリアン!?」
ビックリしたようにファレルが訊ねる。
『月から来たものをそう呼ぶなら、そうだよ。僕たち、地球がどんなところか遊びに来たんだ』
もう一つの影が点滅しながらそう話し出した。
『僕たち、お父さんとお母さんとはぐれちゃったんだ。だからお家には帰れないの』
そう影は告げる。
『だから、こうして力を貯めて、僕たちのことを見つけてくれる人を捜していたんだ』
その影の言葉に明は頷いた。
「なるほど‥‥。だから、私達の前に現れたのね」
二つの影は頷くように点滅した。
「でも‥‥このままこの図書室にいると‥‥」
「この学校の学生に迷惑がかかるな」
雫と慶悟がそう呟いた。
「じゃあ、こうしましょう。あなた達、ご両親が見つかるまで私の家に来たらどうかしら?」
明がそう提案する。
「って、明!? 相手は仮にも宇宙人なんだぞ!? それに、一緒に住んでいる家族に何て言うんだ!?」
碕が驚き、止めようとするが。
「大丈夫です。うちは私とお父さんしかいませんから。お父さんもこういうのに慣れてみるみたいですし。見つかるまでの間ならきっと許してくれます」
にこりと微笑んで明はそう言う。
「‥‥まあ、そういうことなら、いいんだけどな‥‥」
碕はさらに疲れを溜めたようにふうっと息を吐く。
『いいの? ありがとう。じゃあ、僕たち、この人と一緒に行くよ。それに‥‥ここちょっと騒がしくて、居づらかったんだよね』
どうやら、二つの影達も明の案に賛同しているようだ。
こうして無事に事件が終わろうとしたとき。
「あー。今回の依頼も終わったことだし‥‥俺、そろそろ帰る‥‥」
帰ろうとした碕の体が耐えきれず、とうとうその場で倒れ込んでしまったのだ!
「ちょ、ちょっと、お兄さん大丈夫っ!?」
ファレルと雫、明に慶悟が駆け寄る。
その後、慶悟達の活躍により碕は保健室で数時間眠りこけた後、何とか帰宅することに成功したのは言うまでもない。
「ところで‥‥あの月から来た二人のご両親って何処にいるんでしょうか?」
雫の何気ない言葉。どうやら、この依頼。まだ少し続くようである‥‥。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0389/真名神・慶悟/男/20/陰陽師】
【1026/月杜・雫/女/17/高校生】
【1088/降野・碕/男/19/渡り鳥(なんでも屋)】
【0863/ファレル・アーディン/14/中学生】
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■ ライター通信 ■
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どうも、初めましての方もそうでない方もこんにちは☆ 相原きさ(あいばら・−)といいます。今回は私の依頼に参加していただきありがとうございました☆ 今回の依頼はいかがでしたか? 幽霊ではなくて驚いたことでしょう。ともかく、怪我もなく(寝不足で倒れた方はいましたが/笑)無事に今回の依頼も終了することが出来ました。といってもまだ月人(?)の二人の両親を見つけるという新たな依頼が出ますので、良ければそちらもチェックしていただけると嬉しいです。こちらは10月末あたりを予定しています。次回もまたコメディちっくに行くと思いますので、良ければ楽しみにしていて下さいませ。
今回の依頼は前回の青い日記シリーズとは少し趣を変えての物語でしたが、いかがでしたでしょうか? こちらの新しいシリーズも青い日記シリーズ同様に楽しんでいただけると嬉しいです。
それでは、今回はこの辺で。何かありましたらファンレターなどでお知らせ下さい。また、お会いできるのを楽しみにしていますね!!
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