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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


電脳世界、異変あり
●オープニング【0】
 天川高校『情報研究会』――誰かしら外部の人間が訪れることの多いこの部室だが、この日はまた少し状況が違っていた。会長の鏡綾女が顔をしかめているのである。
「……お酒臭いよぉ」
 綾女がそう訴えた相手は顔の紅い中年男性、冬美原情報大学の教授である坂上史朗であった。
「わはは、大丈夫だとも! この坂上史朗、酒は飲んでも飲まれはせん! 昨日もたった2升飲んだだけだ!」
 笑って言い放つ坂上。その息はとても酒臭かった。さすが大学で『酒飲み教授』とあだ名されているだけのことはある。
 ところで何故坂上がここを訪れているかといえば、綾女の姉である鏡巴に紹介されてやってきたのだった。何でも極秘に頼みたいことがあるということで。
 冬美原情報大学が開発に協力したネットワークRPGの発表が延期されたことは記憶に新しい。しかし、その理由については全く表に出てきていなかった。だが坂上の語る所によると、とんでもない問題が発生したというのだ。
「うちの大学で開発協力していたネットワークRPGはいわゆる仮想現実、バーチャルリアリティを組み合わせたシステムで、プレイヤーは自らのままゲーム世界へ入り込むという物だ。ゲーム世界ではプレイヤー当人のデータが、数値として表されている。これにデータを付加することにより、ゲーム世界では魔法が使えたりするという訳だ。問題があったのはその最終テストの段階なんだよ」
 真面目な表情で語り出す坂上。綾女は黙って坂上の話を聞いていた。
「最終テストはこの冬美原をデータ化してゲーム世界として使用していた。その上でうちの学生にテストしてもらったんだが……全員が昏倒状態に陥ってしまった」
 ……全員が昏倒状態とは穏やかではない話だ。システムに欠陥があったのではないか?
「プログラムはもちろん見直したとも。だがバグらしき箇所は見当たらない。アルゴリズムは当然として、論理式のチェックも念入りに行った。それなのにだ」
 けれども何がしかの原因がなければ、全員昏倒などという事態は起こらないはずである。
「1つ気になることはある。昏倒した学生の1人が、うわ言でこう言っていた。『熊が出た。神薙南神社の近くに熊が出た』と。これは僕の想像なんだが、ゲーム世界にバグが実体化しているんじゃないかと思う。そこでだ。我と思わん者にゲーム世界へ入ってもらい、そのバグらしき物を退治してもらいたいんだ」
 そう語る坂上の表情は真剣そのものだった。
 ゲーム世界に入るって……あの、本気なんですか?
「大丈夫だとも、データを付加すれば、ゲーム世界ではほぼどんな能力も使えるぞ」
 いや、そういうことじゃなくってですね、教授。

●酒談義は結構【1】
「酒なくて、何が我が人生かな……っと。こりゃ、結構なもんを頂いたもんだ。さっそく今夜の晩酌にさせてもらおう」
 坂上はラベルに『鬼殺し』とある一升瓶を愛おしそうに抱えながら、ほくほく顔でそう言った。午後2時過ぎ、冬美原情報大学内の特別研究室でのことである。
「手土産に『鬼殺し』を持参しましたが……お口に合うでしょうか」
 そう言ったのはミュージシャンの宝生ミナミであった。坂上が酒好きと聞いて、ミナミとしては珍しく手土産を持参でここへやってきたのだ。
「合うとも合うとも。どこのどのような酒であれ、美味しく飲もうとするのが酒飲みというものだよ、君。わっはっはー!」
 豪快に笑う坂上。これは、筋金入りの酒飲みのようだ。
「そうそう、僕が去年スコットランドへ行った時の話だが、そこで飲んだモルトがまた……」
「酒談義は後でええから、詳しい話してくれへん? うちらかて、暇人ちゃうんやから」
 そのまま酒談義へ流れ込もうとした坂上に対し、すかさず突っ込みを入れる者が居た。呆れ顔の高校生ギャンブラー・南宮寺天音だ。
「おおっと、すまんすまん。いい酒を前にするとこうだから我ながら困る」
 笑いがなら坂上は一升瓶を残念そうに机の上に置くと、その場に居る一同に向き直って顔を見回した。
 ここに居るのは坂上を含めて8名だった。坂上、ミナミ、天音以外に研究室に集っていたのは、エミリア学院の非常勤講師・宮小路皇騎、陰陽師・真名神慶悟、以前に1度坂上と飲んだことのある青年・卯月智哉、エンジニア・霧原鏡二、そして何でも探偵屋・依神隼瀬である。
「普段はここでネットワークRPGの研究開発を行っているんだが、どうかね」
 一同に尋ねるように坂上が言った。広い研究室には大小様々なサイズのコンピュータが所狭しと並んでおり、さらにはSF映画に出てくる冷凍睡眠装置のごとき大きさのカプセルが何台も並んでいた。
 慶悟がカプセルをじっと見つめ、口を開いて話し始めた。
「陰陽とは……光と影の交錯……融和。電脳とて光と影の交錯に支配され、そこに刻まれたプログラムは人の手によりし言霊が連なったものに等しいと観る。さすれば電脳とて我が道何ら支障なし」
「確かに」
 皇騎が大きく頷いた。しかし慶悟はそこまで話してから一旦小さな溜息を吐き、さらに言葉を続けた。
「……とはいえ機械はサッパリだ。怪しげなカプセルも気が引けるが……仕方ない」
 いかに有能な陰陽師といえども、得手不得手な領域というのは存在するようだ。
「ゲーム世界に入ってバグ退治などという危険な役目を回して、心苦しいとは思うがね」
 坂上が申し訳なさそうに言った。
「要するにバグ退治ってのは、実体化したのを倒せば良いんだよな? ってことは、つまりゲーム内で日本猟友会になって、ハンティングに精出せってこと?」
 隼瀬が的確なんだか的外れなんだか、よく分からない質問を投げかけた。ただ坂上が頷いた所によると、大きく的外れという訳ではなかったようである。
「そうゆーたら、冬美原をデータ化っていったいどんなデータ入れたんや?」
 室内をきょろきょろと見回し、天音が尋ねた。確かに、一口にデータ化といってもどこまで実世界のデータを収集し、ゲーム世界に反映させたのかまだ分からない。
「それは様々だが、まずは地図だ。つまりどこにどのような道や建物があるかという位置データだ。それから各建物固有のデータだね。各々広さや高さが異なるのだから。そして画像データか。住宅は別にして、公共施設等については外見が大きく異なるとあれだからね。もっともあくまでテストデータだから、簡素化出来る部分は簡素化しているんだが」
「つまりそれは、ゲーム世界内では住宅が『誰某の家』ではなく、単なる『家』として存在していることもあるということだろうか?」
 鏡二が坂上に尋ねた。
「平たく言えばそうだね。そもそもそうしなければ、データ量が莫大になってしまう。ただでさえ巨大なデータであるというのに、だ」
 苦笑する坂上。鏡二も坂上が言わんとすることは理解出来た。
「何や難しいけど……神薙神社とかは、あるってことやろ?」
 一部理解し難い部分もあったが、天音が坂上に確認した。
「うむ、あるとも」
 坂上はきっぱりと答えた。

●調査の方向性【2】
「何か嫌な予感」
 ここまでずっと黙っていた智哉がぼそっとつぶやいた。皆の視線が智哉に集中する。
「もしかして数値に置き換えられない、何て言うのかな? 本でいう、行間にあたる所に潜む物が本当に居て、それがゲームの世界にも現れている……ってことはないかな?」
「……何者かが関与してるんかもな」
 同意するような天音のつぶやき。天音も何やら思う所があるらしい。
「原因が現実の冬美原にも少なからずある、ということはありませんか? ゲーム世界に入るのは、それからでも遅くないのでは……」
 ミナミが坂上にそう提案した。
「今からかね?」
「そちらはあたしにさせてもらえませんか?」
 現実世界での調査を志願するミナミ。
「ならば、並行して行うことにしよう。そっちで何かあったら、すぐに知らせてくれたまえ」
「はい、ありがとうございます」
 ミナミは何故か安堵したような溜息を吐いた。
「僕もこっちへ残って調べてこようかな?」
 何気なくつぶやく智哉。どうやら智哉も現実世界へ残るつもりのようだ。
「でも変だよな」
 隼瀬が不思議そうにつぶやいた。
「何がだね?」
「普通研究室って、助手やら学生やらが出入りしてるもんだよな? ここに来てから、誰にも会ってないけどな」
 隼瀬の言うように、一同がここへ集まってから誰1人としてやってはこなかった。
「助手は今日は出張だね。学生……まあ、僕ん所のゼミ生だが、先に言ったように全員昏倒したんだ」
「そら誰も来んわな」
 苦笑する天音。ゼミ生が全滅してしまったら、そりゃこちらへお鉢が回ってくる訳である。
「ああ、その昏倒した学生たちのことですが、先に病院へ回ってデータを借りてきました」
 皇騎が分厚く大きな封筒から、昏倒状態にある学生たちの健康状態の記録データの写しを取り出した。
「奇妙だったろう?」
「ええ」
 神妙な表情になる坂上。皇騎もやはり神妙な表情で答えた。
「どう奇妙だと?」
 鏡二が怪訝そうに尋ねた。
「体温・脈拍・心拍数、その他諸々のデータはほぼ異常なし。ただ脳波に乱れが見られるのと、一向に意識を回復しないことだけです」
 皇騎が淡々と答えた。
「一応、医師が言うには強い精神的ショックを受けたのじゃないかということなんだが……」
「何かに取り込まれている可能性もあるでしょう」
 坂上の言葉に対し、きっぱりと答える皇騎。
「何にしろ、実体化したバグを退治すれば解決するんだろう? ここであれこれ議論してるよりは、早く中に入って退治した方が有意義だと思うんだけどさぁ」
 そう言って隼瀬が小さく欠伸をした。
「おお、それもそうだ。さっそく準備に取りかかるとしよう……突っ込みを入れてくれる青年が1人2人居ると、便利なものだ」
 感心したような坂上。隼瀬が一瞬坂上を見たが、何も言わずまた欠伸をした。
「……あんな、あの人女性やで」
「を?」
 ぼそっと突っ込みを入れた天音の言葉に、坂上が目を丸くした。

●準備作業【3】
 長々とした話し合いも終わり、実際にゲーム世界へ入るための準備作業が始まった。
 皇騎と鏡二は坂上とともに、プログラムデータに新たなルーチンを組み込んだり、問題発生時前後の管理用ログデータの把握に努めていた。
「煙草が欲しいな……」
「ついでにパートナーとして優秀な猟犬がいると最高なんだけどなぁ。秋田犬とかさぁ」
 慶悟や隼瀬がそんな要望を出す度に、皇騎と鏡二、そして坂上は何かしらデータをいじくっていた。
「なるほど、キャラの各パラメータの上限は2バイトで……」
「待て。そこを触ると、ここの判定条件が変わってくるはずだ」
「ここのオーダーは、こっちのアルゴリズムを使うと低減出来ると僕は思うね」
 3人の会話は、コンピュータ知識皆無の人間が聞くとまるで呪文のようである。
「ああもうっ! 数値化する前のデータでこんなにあるんかいな……」
 3人が作業している隣では、天音が収集された冬美原のデータ内容の把握に努めていた。地図や主要な建物の写真など、データの内容は様々である。ただ問題はあれである、どこまでデータが使用されているかは、実際にゲーム世界に入ってみなければ分からないのだが……。
「それじゃあ、あたしたちも行ってきます」
「ここは冬美原だし……気を付けてね」
 そう言い残し、ミナミと智哉が研究室を出ていった。こちらはこちらで調査を開始するのだ。
 結局準備には1時間強を要し、終わったのは午後4時を回っていた。

●縁【8A】
 現実世界へ居残ったミナミは、その足で神薙南神社へと向かい、その近辺で探索と聞き込み調査を行うことにした。神薙南神社へ着くとすでに時刻は午後5時を回っており、夕焼け空が広がっていた。
(グリズリーと対面せずに済んでよかった……)
 そんなことを思いながら、聞き込みを開始するミナミ。実は――ミナミが現実世界の調査を申し出た理由には、別の理由が隠されていた。ゲーム世界に入ることを怖がっていたのだ。
 熊と聞いてグリズリーを連想してしまったせいだろうか、ミナミはそれだけは避けたいと考えたようである。もっとも、現実世界の異変がゲーム世界に影響を及ぼしたのではないかと考えたことも事実であるのだが。ゆえに、一概に怖がっただけではないということを本人の名誉のために付け加えておく。
 ミナミは神薙南神社を訪れる者を中心に、聞き込みを行った。尋ねる内容は『この辺りで近頃妙なことはなかったか』ということだ。しかし聞き込みは芳しくなく、たいした情報も得られぬまま虚しく時間だけが過ぎ去ってゆく。時折、周辺を散策していた智哉と擦れ違ったが。
(あたしの見込み違いだったのかな)
 30分以上経過し、不安になるミナミ。だが神薙南神社の前に戻ってきたその時、ミナミに驚いたように話しかける1組のカップルが居た。
「あっれー? あんた、海開きの日に鈴浦海岸で歌ってた人じゃないの?」
「あっ、ほんとだよ! あの人よ、あの人!」
 話しかけてきたカップルに、ミナミも何となく見覚えがあった。少し思案した後に、ようやく思い出すことが出来た。
「焼きとうもろこしの……?」
 確かこのカップルの男性の方から、焼きとうもろこしを受け取った記憶があった。
「そうそう、焼きとうもろこし!」
 嬉しそうな笑顔を見せる男性。
「いい歌だったよねー。どこのライブハウスでやってるの? 今度行くから教えてよ」
 女性の方も積極的に話しかけてくる。ミナミにとって嬉しい反応であったが、それはそれ。ミナミはカップルにも同じ質問を投げかけた。
「妙なこと? んー、妙っていうかなー。先月だったかな、この近くにある今は誰も住んでないボロアパートから3人連れの男が出てきたんだよ。身なりもきちっとしてたから最初は不動産屋かと思ったんだけど、あれは違うね」
 男性が苦笑した。
「それはどうして?」
「だって3人とも外国人だったのよ。最初は中国語喋ってたみたいだけど、あたしたちに気付いたらすぐにロシア語に変えたもの」
 ミナミが尋ねると、女性がきっぱりと答えた。
「こいつ、趣味で大学の語学の講義選んだんで、どっちも習ったから語感は分かるんだ。喋ってること分かんないけど」
 聞いてもいないのに喋る男性。すぐさま女性が肘鉄を喰らわせた。
「……そのアパートってどこ?」
 ミナミはカップルからアパートの正確な位置を聞き出すと、礼を言ってそこへ向かった。

●アパートにて【9A】
 カップルからアパートの正確な位置を教えてもらったミナミは、2分ほどでアパートの前に到着していた。入口にはロープが張られ、『管理地』という看板もつけられていた。
 ミナミはロープを乗り越えると、アパートの庭へと侵入した。アパートはカップルが言っていたようにボロく、外に階段のある2階建てであった。
 ミナミは1階から順番に、各部屋を探索することにした。手前の部屋から回っていったが、1階は全て鍵がかかっていた。裏に回って窓から部屋の中を覗き込んでみるが、見える範囲に異常は見当たらなかった。
 そこでミナミは2階に上がり、1階同様に部屋を手前から回っていった。2階もまた全ての部屋に鍵がかかっていたかと思われたが――。
「……開いてる?」
 2階の一番奥の部屋のみ、何故か鍵がかかっていなかったのだ。ミナミは意を決し、扉を開けて部屋の中へと入っていった。何があってもいいように、ここは土足のままで。
 ミナミはそのまま窓のある奥の部屋へ向かった。ふすまを開けたミナミの視界に、奇妙な光景が飛び込んできた。
「…………?」
 複雑な表情を浮かべるミナミ。奥の部屋には何故かノートパソコン、携帯電話、そして黒の可愛らしいテディベアがちょこんと置かれていたのだ。
 いや、それだけなら別にいいのかもしれない。問題は、それらが揃って怪し気な魔法陣が描かれた布の上に置かれていたということだ。
「これは何……?」
 近付こうとしてミナミが奥の部屋に足を踏み入れたその時、突然テディベアが襲いかかってきた。牙を剥き出しにして、喉元を狙うようにして――。
「危ない!」
 咄嗟に避けるミナミ。間一髪でテディベアをかわすことが出来た。いくら外見が可愛らしくとも、ぬいぐるみであっても、喉元を噛み切られてしまったのでは間違いなく殺されてしまう。それに加え、ヴォーカリストにとって喉は何よりも大切な物であった。
 テディベアは執拗にミナミを襲ってくる。ミナミも防戦一方ではなく何度も手で攻撃を試みたのだが、相手はぬいぐるみ。柔らかくて手ではダメージが与えられないのだ。
 このまま長期戦に突入するかと思われた時、ガチャンと音を立てて窓ガラスが割れ、何故かイバラが室内へと伸びて入ってきた。そのイバラは見事にテディベアの頭を真横に貫いた。
 すかさずミナミはテディベアに攻撃を行った。ブーツの底がテディベアに刺さるように。
 それは見事に効を奏し、テディベアはミナミのブーツの底に顔を貫かれ、そのまま壁へと飛ばされていった。
 ぴくりとも動かなくなるテディベア。ミナミが割れた窓の外を見ると、何故か木の上に居た智哉がこちらへ手を振っている所であった。

●事件解決【10A】
 夜7時、研究室に再び8人が集っていた。8人の視線の先には、携帯電話とノートパソコン、頭部がぼろぼろになったテディベア、それから布に描かれた魔法陣があった。
「で、これがどこにあったって?」
 天音がミナミに尋ねた。
「神薙南神社近くの、今は誰も住んでいないアパートの1室に」
 ミナミはそう言って、正確な住所を地図で示した。これらの物品は、ミナミと智哉がそのアパートから回収してきた品々であった。
「そこって、最初に熊が出現した所じゃないのか?」
 ふと気付いて、隼瀬が言った。それを受けて、坂上が管理用ログを確認する。
「うむ、データとしては相当するようだ」
「想像するに、何者かがその魔法陣を用いて、ゲーム世界に熊を送り込んだ……ということか?」
 慶悟が自らの推論を述べる。だが自分で言っていても何かすっきりしないようである。
「ゲーム世界に居たヒトが神社の境内で戦ってた頃、こっちの神社でも風もないのに木々が揺れたんだよ。だから相互で影響が及んでいたんじゃないかなあ」
 智哉が興味深気に言った。時間を突き合わせてみると、見事に一致していた。
「きっと、そのテディベアがバグの本体だったんじゃないですか?」
 ミナミがテディベアを指差して言った。前後の状況から判断するに、その可能性は非常に高い。
「そして本体を倒したことにより、ゲーム世界でのバグも取り除くことが出来た……と、いうことですね」
 納得したように頷く皇騎。
「ついでに言わせてもらえれば、クラッキングも疑った方がいい。携帯にもノートパソコンにも何らデータは残ってはいなかったが」
 鏡二は頭を掻きながら言った。先程少し調べてみたが、こんな事件を起こした犯人に繋がるデータどころか、何のデータも入っていなかったのだ。
「そういう報告は僕の所に入っていないんだが……」
「上には上が、闇の奥には闇が居ますから」
「アクセスログをも改竄したんだろう」
 坂上のつぶやきに対し、皇騎と鏡二がほぼ同時に答えた。
「ああ、分かった。明日からさっそく学内システムの見直しを行おう。何にしても、これで研究開発の方も続けられる。感謝するよ」
 坂上が一同に対して深々と頭を下げた。
「……さて、と。君たち、お腹は空いていないかね。今日のお礼だ、夕食を奢らせてくれないかな。飲める者は、今夜はとことん飲もうじゃないか。問題解決のお祝いだ」
 そう言って坂上は、ニヤッと笑った。

【電脳世界、異変あり 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0493 / 依神・隼瀬(えがみ・はやせ)
                / 女 / 21 / C.D.S. 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 20? / 古木の精 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0800 / 宝生・ミナミ(ほうじょう・みなみ)
               / 女 / 23 / ミュージシャン 】
【 1074 / 霧原・鏡二(きりはら・きょうじ)
                 / 男 / 25 / エンジニア 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全22場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせしました、電脳世界でのバグ退治についての物語をお届けします。タイトルには電脳世界とありますが、現実世界との両面で物語は動くこととなりました。実は現実世界で動く方が皆無だった場合、今回の物語は次回へ続けるつもりでした。が、そういう事態は見事に回避されました。
・もちろん電脳世界で動かれる方も重要ですので、優劣があるということはありません。皆さん各々がいいプレイングを出されていたと思いますよ。ありがとうございます。
・本文の翌日、昏倒した学生たちは全員意識を回復しました。2、3日経過を見てから退院出来るとのことです。またネットワークRPGの研究開発の方も再開されました。もっとも何者が妨害したのかは分からないままですが……今回の目的はバグ退治でしたから、そこまで気にする必要もないかもしれませんね、今は。
・宝生ミナミさん、2度目のご参加ありがとうございます。ファンレターありがとうございました、多謝。今回のプレイング、大正解でしたよ。その通り、原因は現実世界に存在していました。ただ、結局は熊に襲われてしまいましたが……可愛い熊さんでしたけれども。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。