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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


迷い魂・後編
◆中間報告
「虐待・・・か・・・。」
中間報告を受けた草間は、苦い顔で呟いた。
迷子の幽霊・和弥の身元を探るうちに、幼い子供の痛ましい死に直面した。
そして、その母親は子を失った悲しみからか、我が子の命を奪った者への復讐のために、その身を怨霊に変え、我が子の命を奪った自分の夫を呪わんとしている。
「父親の行方は?」
「目下のところ調査中ですが、すぐにわかると思います。」
「そうか。」
草間はくえていたタバコに火をつけ、ふーっとひと息吐くと目を閉じた。
「依頼人がいるわけじゃない。だが、放っては置けない。事件ならばそれは裁かれなくてはならない・・・だが、どうするべきなんだろうな。」
草間は和弥という子供の顔を思い浮かべる。
何も知らない、あどけない笑顔。
「放っては置けません。」
報告していた人間は怒りをあらわにしている。
その気持ちは草間も一緒だ。
だが、どうするべきなのか・・・
「母親のことも気になるな。合わせて調査するように指示してもらえないか?」
草間はそう言うと、手にしていた中間調査書類を机の上に置いた。

◆萌える心の行方
「あの〜・・・こ、これはどういうことなんでしょうかぁ?」
いつもより更に不安げな様子で三下 忠雄は言った。
編集部でいつものように仕事をしていたはずなのに、気がつけば見知らぬ場所で怪しげな人影に囲まれている。
その人影が見知っているだけに、嫌な記憶が駆け巡る。
水野 想司。
謎のカエル軍団と怪しいカレー、そして運命の荒波に弄ばれたような温泉事件・・・
走馬灯のように怪しい記憶が溢れ出してくるようだ。
「怖いことは何もないよっ☆三下クン!」
ニッコリ笑顔で想司はそう言うが、その笑顔こそが三下にとって不幸の象徴のような気がした。
観念したのか、緊張のあまり気を失ったのか、三下の隣りでぐったりとしている草間は、一言も喋らない。その様子が更に三下の不安をかきたてた。
「三下クン、キミは今、世紀の偉業に貢献すると言う素晴らしい体験をしてるんだよ♪」
想司はニコニコしながらキーボードを叩く。
設定はばっちり三下攻めの草間受けで、プロットも400文字にまとめた。
「発注」のボタンをパチっとクリックするだけで、後は素敵な萌え小説腐女子向け編の完成を待つだけだった。
「三下クンも月へ連れて行ってあげるね♪草間くんと2人でハネムーンだよ☆」
「月ですかぁ・・・」
そう言って、三下は草間の隣りに据え置かれた超巨大ロケット花火に気がついた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよっ!月って・・・月ってもしかしてこれで行くんですか?」
涙目で問うと、想司はにっこりと満面の笑みで答えた。
「当ったり〜♪」
「☆×●△■Φ♂ρ煤~◎△□ーーー!!!!!」
三下は声にならない叫びで抗議したが、想司にはまったく届かない。
「ギルド驚異のメカニズム秘密兵器「サターン☆ば〜にんぐ」を体験できるなんて、フツーの人じゃ出来ないことだよっ☆」
普通で良いので許してくださいと半泣きの三下をよそに、想司は発注のボタンをクリックしようとした・・・その時、更なる脅威はやって来た。

◆萌えの戦い
「我輩はゆるさーんっ!!!」
轟音もけたたましく、なんと窓から飛び込んで来たのは、更なる脅威・・・魔王・海塚 要だった。
「うわーーーっ!」
三下だけが慌てふためき絶叫するが、もうすでに馴れっこになっている想司とスリープウォーカーは平然とその様子を見ていた。
「私は非常にご立腹だっ!なんなのだこの事件はっ!」
海塚は他のメンバーが持ち込んだ事件の報告書を手に怒り心頭だ。
「僕だって怒ってるよっ☆」
黒いマントを翻し、草間のデスクの上に降り立った海塚を、モニターに向かったままチラッと横目で見ただけで想司は言った。
「だから、こいつを使って、お仕置きするのさっ♪」
「む。何だそれは。なにやら萌えな気配。」
海塚は想司の向かっているモニターを覗き込む。
「なんとこれは!腐女史向け萌えエネルギー発生装置ではないか!?しかもその後ろに隠されているのは何だっ!?」
そう言うと、想司の手からキーボードとマウスをひったくる。
海塚の鍛えぬかれた野生の萌えセンサーはどんな些細な事も見逃さないのだ。
「な、な、なんとこれは萌えの女神・アリアリとお主の純愛キュートな萌え小説!」
「ふふふっ☆ツインピンナップも発注済さ♪」
「ぬおぉぉぉおおおおっ!なんたることだっ!負けてなるものかっ!」
海塚はキーボードを放り出すと、もう一度机の上に飛び乗った。
そして、足元にあった椅子を思いっきり窓に向かって放り投げると、ブラインドごと窓をぶち破ってしまった。
「修理費・・・」
いつの間に意識を取り戻したのか、その様子を見ていた草間はそう呟くと再び気を失った。もうすでに修理費を考えると泣きたくなるほど、事務所の中はめちゃくちゃである。
三下に至ってはすでに目の前にで繰り広がれれていることが、現実か夢かの区別もつかなそうな有様だ。
「運良く今宵は満月!想司のサテライトウェーブ計画には負けぬ!見よ!これが真の月からの愛のメッセージだっ!」
海塚の声に答えるように、いきなり照明が派手派手しいピンクと赤に切り替わり、情熱的なダンスミュージックが流れ始める。
ケロッピ部隊の準備に抜かりは無いようだ。
「Let's ミュージック!情熱のランバダ!!」
海塚はそう叫ぶと、恍惚の表情でランバダを踊り始める。
日頃のダンス訓練で得た極技!激しく腰をくねらせ、何故か女性パートの方を激しく踊っている!
「僕も負けないよっ☆」
その様子を見て、想司もバッグの中からプロジェクターを取り出すと、PCに接続を始める。それから「サターン☆ばーにんぐ号」をごそごそといじって、その中枢部分にある大きな水晶球にも接続した。
「このスクリーンに映し出された画像を見て萌える三下クンのエネルギーが、この「萌え水晶」に送り込まれてエネルギーチャージはばっちりさっ♪」
「え?え?僕のもええねるぎー?」
想司の言葉に何事かわからぬ顔で、「サターン☆ばーにんぐ号」とプロジェクターを見ていた三下だったが、想司がスイッチを入れて映し出された画像を見て絶叫した!
「☆×●△■Φ♂ρ煤~◎△□ーーー!!!!!」
「ふっふっふっ☆ちゃんと調査済みなのさっ!ギルドの威力を舐めちゃダメだよ♪これこそがボーイズラブも立派な萌えの証明さっ☆」
自信満々で映し出された画像は・・・先月想司と三下たちが旅行?で行った温泉旅行の写真だった。
湯煙の向うに、「仲良く寄り添ってお茶菓子を食べてる三下」とか「仲睦まじく抱き合って凍りついた三下」などに怪しげなCG効果加工がなされた写真だった。
ピンクの湯煙の向うに霞む三下の姿はかなり怪しいものだった。
三下はなにやら弁解めいたことを叫んでいるようだが、海塚が踊り狂っているランバダの音楽に掻き消されて、想司の耳元までは届かない。
そして、三下が喚けば喚くほど「サターン☆ばーにんぐ号」に取り付けられた「萌え水晶」の「萌えゲージ」がぐんぐんと上がって行く。
それと同時に、海塚の踊りも最高潮へと達しようとしていた。
「計画は大成功だよ!」
想司はそう言いながら、「サターン☆ばーにんぐ号」から伸びているベルトで草間と三下の体をつないだ。
「な、何をする気だ?想司っ!?」
「み、水野クン!やめようよ!ダメだよ!」
「さあっ!銀河探偵と銀河編集者の栄誉はキミたちのものだよっ☆」
「いらん!そんな物!」
「うわーーーっ!やめてーーーーっ!」
「我輩の萌えの前に敵はなし!萌えよ!届け愛のメッセージっ!!」
草間と三下の裏声な抗議も虚しく、海塚の叫び声と同時に想司の手に握られたスイッチは無情にも押されてしまった。
「☆×●△■Φ♂ρ煤~◎△□ーーー!!!!!」
「へんしゅーーーちょーーーーっ!!!!」
草間と三下の悲鳴を残して、海塚がぶち破った窓から勢い良く飛び出した「サターン☆ばーにんぐ号」は・・・向かいのビルへと突き刺さったのだった。

◆そして日は昇る
「んもーっ!こんなんじゃ、「ラブリー☆ばーにんぐ」の電撃デビューイベントの前座にならないじゃないかっ!」
想司はスリープウォーカーが回収してきた草間と三下に文句を言う。
2人は完全に気絶してしまって、ぐったりしている。
「まあ、デビューは見れなかったけど、楽しいものを見せてもらったよ。」
スリープウォーカーはそう言うとニコニコしながら想司に、人型に切り抜いた紙を手渡した。
「それに向かってふーって息を吹きかけてくれる?」
想司はスリープウォーカーに言われるままに息を吹きかけた。
「じゃあ、そっちの魔王の人も吹きかけてくれる?」
踊りつかれてぐったりとした海塚も、言われるままに息を吹きかけた。
2人が息を吹きかけたものを受け取ると、今度はスリープウォーカーが軽く何か呟き息を吹きかけた。
「それって何かのおまじない?」
興味深々でその様子を見ていた想司が問う。
「呪詛だよ。」
スリープウォーカーは紙人形に火をつけながら言った。
「キミたちが面白いものを見せてくれたお礼に、僕が今回の事件の犯人に呪いをかけてあげるよ」
「呪いとは物騒な。しかし、どんな呪いなのだ?」
海塚も自分が魔王であることは棚に上げ、そんなことを言いながら興味深げにその様子を見ている。
人形はあっという間に燃え上がり、黒い灰となって床に落ちた。
「これから先、犯人は一生夢を見るのさ。生きている限り一生、何十年も眠ると必ずね。」
スリープウォーカーはそう言うって笑う。
しかし、それがどんな夢なのかは言わずに、立ち上がるとポンポンと服のほこりを払った。
夢の内容を話すことは無くても、どう考えてもスリープウォーカーが見せる夢などがまっとうな夢であるはずが無い。
「さあ、じゃあ、今日はこれでお開きですかね。事務所は僕が片付けましょう。」
そう言って手を叩くと、ぶち破られた窓も、めちゃくちゃになった机も一瞬で元に戻る。
まるで、最初からスリープウォーカーに見せられている手品か何かのようだ。
「では、皆さんはいい夢を。お休みなさい。」
スリープウォーカーは来た時のように、今度は床に大きな穴を作るとそこへ消えた。
「おやすみー☆」
「うむ。おやすみだ。」
想司と海塚も満足顔で事務所を後にした。
残された草間と三下はベルトでつながれたままだったが、明日にでも事務所に来た誰かが何とかするだろう。

こうして、お騒がせな月騒動は幕を閉じたのであった。
しかし、これが始まりの一歩でしかないことは、まだ誰も気がついていない・・・のかもしれない。

The End.

追記
逮捕された佐伯 雅哉は留置所内で酷い悪夢にうなされ、僅か1日で全面自供となった。
その悪夢はいまだ続き、彼は生涯安らぎの睡眠を得ることは出来なくなってしまったのだった。
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0759 / 海塚・要 / 男 / 999 / 魔王
0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター

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■         ライター通信          ■
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今日は。大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。迷い魂後編をお届けします。
怒涛のパワーで押し切った感じですが、如何でしたでしょうか?
想司クンと海塚氏は月へは行けませんでしたが、犯人にお仕置きは立派に果たす結果となりました。草間氏と三下氏の2人も・・・銀河探偵と銀河編集者にはなれなかったようです。
長い話になっても、決して息切れすることなくパワフルに萌えの道を走る想司クンと海塚氏のお2人は、本当に書いていて楽しいです。想司クンは後編で海塚氏乱入で更にパワーアップって言う感じでしたね。これからの萌えの道探求、頑張ってください。
活躍を心より期待しております!

それでは、またどこかでお会いしましょう。
前後編合わせてのお付き合いありがとうございました。