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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


迷い魂・後編
◆中間報告
「虐待・・・か・・・。」
中間報告を受けた草間は、苦い顔で呟いた。
迷子の幽霊・和弥の身元を探るうちに、幼い子供の痛ましい死に直面した。
そして、その母親は子を失った悲しみからか、我が子の命を奪った者への復讐のために、その身を怨霊に変え、我が子の命を奪った自分の夫を呪わんとしている。
「父親の行方は?」
「目下のところ調査中ですが、すぐにわかると思います。」
「そうか。」
草間はくえていたタバコに火をつけ、ふーっとひと息吐くと目を閉じた。
「依頼人がいるわけじゃない。だが、放っては置けない。事件ならばそれは裁かれなくてはならない・・・だが、どうするべきなんだろうな。」
草間は和弥という子供の顔を思い浮かべる。
何も知らない、あどけない笑顔。
「放っては置けません。」
報告していた人間は怒りをあらわにしている。
その気持ちは草間も一緒だ。
だが、どうするべきなのか・・・
「母親のことも気になるな。合わせて調査するように指示してもらえないか?」
草間はそう言うと、手にしていた中間調査書類を机の上に置いた。

◆怒りの行方
大塚 忍と御崎 月斗は激しい怒りを衝動に、我が子を虐待した父親探しとその罪の立証に全力をあげていた。

「俺は何が何でもあの男を探し出す!」
御崎はそう言って事務所を飛び出した。
何がなんでも絶対に探し出したい御崎は、まず、術を仕掛けるに相応しい場所を探した。
今回は月がキーワードになっている。
上手く行けば、和弥をこの地に保たせている力が何か働いてくれるかもしれない。
月がその恩恵を与えてくれるかもしれない。
「月の良く見える場所・・・」
そう考えて思い出したのはやはりあのマンションだった。
この近隣で一番の高層マンション。あのマンションの屋上以上に月が見える場所はない。
それに、あのマンションには父親の気配も強く残っている。それを利用しない手はない。
「とにかく・・・絶対に許さねぇからなっ!」
爪が自分の手を傷つけてしまいそうなくらい御崎はこぶしを強く握り締めて言った。

目当てのマンションにたどり着いたのは、昼を少し過ぎたくらいだった。
早速エレベーターで最上階まであがると、屋上へ出るためのドアに手をかけた。
ガチャン・・・
その手ごたえは重く、押しても引いてもドアは動かない。
「鍵か!」
御崎は少し考える。管理人に交渉するということも考えたが、御崎のような子供が言ってすんなり話が通るとも思えない。
「ま、緊急措置だよな。」
そう言うと、御崎は一枚の符を取り出し、ドアの中央の貼り付けた。
そして、素早く印を切ると呪を唱えた。
「目の前に立ちふさがりし扉を、汝が力を持ちて開かん!」
その言葉と同時に、鉄製の扉は物凄い力に弾き飛ばされるように開いた。
みれば、扉には何かがぶつかったような大きな窪みが出来ている。
「やりすぎたか・・・?ま、仕方ないよなっ。」
御崎はそのまま屋上に出ると、何もない空間の中央へと足を進めた。

一方、大塚の方は父親の罪を立証するための証拠固めに走り回っていた。
病院、警察に至るまで、とにかく何か情報はないかとがむしゃらに走り回る。
しかし、これといった詳しい情報は得られない。
和弥が運ばれてきたとき、虐待の恐れがあったものの、証拠が不十分だったこともあり通報は何ものかによってもみ消されてしまった。
この辺りに何軒も大型マンションを持つ有力者の息子。
その存在がどす黒く臭う。
大塚はうんざりするような話を聞いて、親子の住んでいたマンションへと足を向けた。
近隣の住人が何か話を知っているかもしれない・・・そう思って聞き込みを開始する。
そこで、思いがけず母親に関する情報を手に入れた。

「入院?」
それはマンションの一階に住んでいる住人の話だった。
「ええ、この間、救急車が来て大騒ぎだったのよ。息子さんに続いてお母さんまででしょう?もしかしたら自殺なんじゃないかって・・・」
話し好きそうな中年の女性は、そのときの様子を良く覚えていた。
「ご主人は階段から落ちたなんて仰ってるけど、最上階の人が階段で降りようなんて考えるかしら?エレベーターがあるのにおかしいじゃない?」
「そうですね・・・でも、確か、お子さんも階段から落ちられたって伺っているんですけど・・・」
「遊んでいてって言うんだけどねぇ・・・それも本当かしら?」
女性は眉をひそめて言う。何か含むところがありそうだ。
「何かおかしなことがあるんですか?」
「いえ、ね。あそこのお子さん、奥さんの連れ子だって話だから、ご主人が乱暴したんじゃないかって・・・私から聞いたって言わないでね。あの奥さん、時々子供を連れて夜中に出かけることがあったのよ。そんなときは必ず和弥ちゃんが怪我をしていて・・・御主人の暴力から逃げてたんじゃないかって、もっぱらのウワサだったの。」
「そうなんですか・・・」
大塚はやっと事件の尻尾を捕まえたような気がした。
「奥さんが入院している病院ってわかりませんか?」
「詳しいことはわからないけど・・・この辺で救急で運ばれるのは中央病院と大学病院の救命センターよ。」
救命センターは和弥が運ばれた病院だ。しかし、そこに母親の姿はなかった。
「ありがとうございます!」
大塚は女性に礼を告げると、表に留めてある車に飛び込んだ。

車に乗ってエンジンをかけようとすると、目の前を見覚えのある人物が飛び出してくる。
「御崎クン!?」
声をかけると人影も振り返る。
「大塚さん!」
御崎は大塚の車に駆け寄ると、助手席の方へと乗り込んだ。
「ちょうど良かった。あのクソオヤジを見つけたんだ。この先の中央病院に居るんだ!」
「なんだって?俺も今そこへ行こうとしてたんだよ。」
大塚はエンジンをかけ、車を走らせながら言った。
「和弥くんの母親がそこに入院してるんだ。」
「え?」
今度は御崎が驚きに眼を見張る。
「生きてたのか。あの母親。」
「ああ。・・・これは俺の推理だけど、あの男に殺されかけたんじゃないかと思う。」
和弥の虐待の通報をもみ消すことは出来たが、その母親は和弥の虐待を見ている。
証人である母親までもあの男は殺そうとしたのではないだろうか?
「最悪だな・・・」
御崎は吐き捨てるように言う。
「だから、母親の意識が戻れば、母親の証言を元に奴を告発することができる。」
そこまで大塚の話を聞いて、御崎はふと思い当たる。
「もしかして、奴が病院に居るのは・・・口封じ?」
最悪の考えだが、考えられない話ではない。
「母親が危ない。急ごう!」
大塚はスピード表示も無視してアクセルを踏み込む。
車は悲鳴をあげるように加速すると、中央病院への道を急いだ。

◆罪の穢れ
男が部屋に入ると、ベッドに寝かされた女性につながる幾つもの機械が静かに動いていた。
窓から差し込む午後の光が、目覚めぬ女性の顔を照らしている。
男はその女性の寝顔を確認すると、女性の命をつないでいる機械に手をのばす。
一つ、また一つ。命を紡ぐスイッチを切ってゆく・・・
「そこまでだ!機械から離れろっ!」
派手な音を立てて、ドアを蹴破るように二人の人影が飛び込んできた。
大塚と御崎だった。
大塚は機械に手をかけたままの男に向けて容赦なくフラッシュを焚く。
「な、何だお前たちはっ!病室に勝手に入ってきやがってっ・・・!」
男・・・佐伯 雅哉はいきなりの登場に動揺を隠せない。
「スイッチを来てやがる!」
「ナースコールだ!」
御崎はベッドの側に駆け寄ると、枕もとのインターフォンのスイッチを押す。すぐに看護婦が応対に出て、病室に向かってくる足音が聞こえた。
「殺人未遂だ。観念しろよ、佐伯!」
大塚がそう言うと、佐伯はにやりと笑った。
「証拠はどこにもないじゃないか。」
「証拠はある!このカメラにお前がスイッチを切ってる写真がな!」
「違うな。俺もスイッチが切れてるのに気がついたんだ。スイッチを入れようとしてたんだ。」
佐伯は余裕の表情で言う。
どこまで図々しい男なのだろうか・・・
「どうしました?」
「あ、看護婦さん!警察を呼んでください!この人たちがいきなり入ってきて、わけのわからないことを言うんです!」
挙句の果てに佐伯はこんななことを部屋にやってきた看護婦に向かって叫んだ。
「なっ・・・!」
これには大塚も御崎も言葉を失う。
どういうことなのか事情が飲み込めない看護婦に、佐伯は更に畳み掛けた。
「早くこいつらをたたき出してください!妻に何かあったらどうするんですか!?」
「は、はいっ、関係のない方は早く病室から出てください!」
そして、呆然としている2人を看護婦は病室から追い出したのだった。

外来の待合室まで追い出された二人は、とりあえず様子を見ることに決めた。
「病室の様子は式に見張らせてる。あの男も手は出せないはずだ。」
御崎はこっそりと式を放つとそう言った。
「しっかし、図々しいにも程があるな。盗人猛々しいとは正しくこのことだっ。」
憤慨甚だしい御崎に対して、大塚はずっと何か考え込んでいる。
「どうしたんだ?」
その様子に気がついた御崎が声をかける。
「・・・あの母親・・・おかしくなかったか?」
「おかしい?」
「ああ・・・意識が戻らないって言うか・・・いや、違うな、中身がないって言う感じだった。」
大塚の言葉を聞いて、御崎も思い当たる。
「あれは、多分魂が抜けてしまってるからだ。」
「魂が抜けてしまっている?」
「そうだ。あの母親の霊体は完全に体から抜け出してしまってる。昔なら死んでいるところだが・・・今は医療技術も進んでるからな、植物状態を保っているんだろう。」
「じゃあ、魂が戻ってくれば、母親はまた生き返るのか?」
大塚は携帯を掴むと、大矢野に連絡を入れた。
確か、大矢野と露樹の2人が怨霊となった母親の行方を探すと言っていたはずだ。

「・・・わかった、何かわかったら連絡してくれ。」
電話を切った大塚が小さくガッツポーズをする。
「母親の魂の居所がつかめそうだ。大矢野さんたちが今、そっちへ向かっている。」
「そうか。」
それを聞いた御崎も安堵の表情を見せる。
「母親さえ意識を取り戻せば、証言が取れる。そうしたら間違いなく、この権を立件できるんだ。」
そう言うと、大塚は目の前を通った看護婦を呼び止めた。
さっき、大塚達を追い出した看護婦だ。
「あなたたち、まだ居たの?いい加減にしないと本当に警察を・・・」
「呼んでください。」
看護婦の言葉を遮るように大塚は言った。
「警察を呼んでください。あの植物人間になってしまった女性のことで話があるんです。」
看護婦は目を丸くしたが、大塚の真剣な様子を見て、うなずくとナースセンターへ戻っていった。

◆真実の行方
看護婦の通報でやってきた警察官は、一通り話を聞くと溜息をついて言った。
「この奥さんが意識を取り戻さないと証言が取れないって言うんじゃ、事件として取り扱うわけにはねぇ・・・」
佐伯は当然しらを切り通した。挙句の果てには言いがかりも甚だしい、名誉毀損で訴えると息巻く有様だ。
「とりあえず、奥さんの意識が戻らないことには話にならない。」
大塚はもう一度大矢野に電話を入れる。
今がチャンスなのだ。これ以上時間がかかっては佐伯が何をするかわからない。
今のチャンスを逃したら、今度は母親の命も危ない。
「母親の証言があれば、あの男を告発できるんだ。母親の魂を体に戻してくれないか!?」
大塚は必死の思いで電話に向かって叫ぶ。電話の向こうでは大矢野と露樹が母親の魂に体に戻るようにと説得をしている。

そんな中、御崎は病室から出て、通路に置かれたベンチに座ると神経を集中し始めた。
母親の魂を肉体へ導くつもりだった。
通路を開けば、元は一つだったものだ、融合に問題はない。
口の中で呪を唱え、印を切ると母親の魂の波動を探す。
あれだけの念の強い魂だ。遠くても見えるはず。
そう思ったとき、手ごたえは不意にやってきた。
チリー・・・ン・・・
涼やかな鈴の音と同時に波動が送り込まれてくる。
御崎はそれを逃すまいと、必死に呼びかける。
そして、それは水が流れるように自然に戻ってきたのだった。

「妻は階段から落ちてこんなになってしまったんだ。息子も俺が殺したって?証拠があるなら出してみろよ!」
佐伯は椅子にふんぞり返るようにして腰かけたまま、つばを吐くように大塚に言った。
大塚はそれ以上何もいえない。
とにかく母親さえ戻ってくれば・・・
そう思ったとき、御崎が部屋に飛び込んできた。
「戻ったぞ!意識が戻る!」
「え!?」
御崎の言葉に慌てて大塚はベッドに駆け寄る。
看護婦も周りに設置された機械に目をやり、そして、眠る女性の顔を覗き込んだ。
「起きて!起きてくれ!」
大塚の声に、硬く閉じられていた瞼が動く。
「!」
瞳はゆっくりと見開かれ、女性は大きく息を吸い込むように何度か口を開いて胸を上下させた。
佐伯はその様子を見て蒼白になって固まっている。
母親は体が思うように動かないのを悟り、目線だけで辺りを見回す。
そして、警察官と自分の夫の姿を確認すると、かすれた声で・・・しかし、しっかりとした口調で言った。
「息子を殺したのは・・・この男です。私も・・・殺されそうになりました。」

◆終幕
「そうか、和弥くん、成仏したのか・・・」
プリントアウトされた書類に目を通しながら、大塚は呟く。
一同は報告書作成の為に草間興信所事務所に集まっていた。
あの後、父親の佐伯は妻の告発により、傷害で一旦逮捕された。
その後に妻の証言や、和弥の入院していた病院での記録などが証拠となり、数や殺害の容疑で再度逮捕されることになったのだ。
虐待に関しては近所の人間の証言などもあり、今度は有耶無耶にもみ消されることなく法の手によって裁かれることになるだろう。
「あんな男、殺しても殺したりん!」
御崎はいまだに怒りがおさまっていない様子だ。
「お母さんの回復の具合は如何なんですか?」
大矢野は大塚に母親の様子を問う。
大塚は今回のことをマスコミでも問題提議してもらうために記事として取り上た。そしてその取材のために度々母親の元を訪れていたのだ。
「大分、良いみたいだよ。裁判までには退院できるだろうって。」
露樹はむっつりと不機嫌に黙り込んだまま3人の会話を聞いていた。
本人は決して口にしなかったが、和弥が居なくなってから少し寂しいのかもしれなかった。
和弥は特に大矢野と露樹に懐いていたので、寂しさもひとしおなのだろう。
「そうですか・・・お母さんも辛いことだと思うけど、和弥くんの分も生きて欲しいです・・・」
大矢野のその言葉に他の三人もうなずく。
みんな同じ気持ちだった。

多分、和弥もお母さんに生きていて欲しかったんだと思う。
その証拠に、和弥は一度も寂しいとは言わなかった。
お母さんが大好きで、お月様とお母さんの思い出を胸に抱いて消えた和弥。

4人はもう二度とこんな悲しい子供が現れないようにと、心の中で深く祈るのだった。

The End.
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0846 / 大矢野・さやか / 女 / 17 / 高校生
0604 / 露樹・故 / 男 / 819 / マジシャン
0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター
0778 / 御崎・月斗 / 男 / 12 / 陰陽師

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■         ライター通信          ■
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今日は、今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
迷い魂の後編をお届けいたします。
和弥くんはお母さんに会って、最後に幸せな思い出を胸に天国へ行くことが出来ました。
でも、今回はちょっと物悲しいラストになってしまいましたが、如何でしたでしょうか?
父親は無事?法によって裁かれます。母親への傷害、自分の息子の虐待による殺害、罪は思ういと思います。それに母親が生きていたので、重要な証言も得ることが出来ましたしね。
月斗クンの怒りは少しでもおさまるでしょうか・・・?
母親は死亡してしまう可能性もあったのですが、皆さんの行動の結果生き残る道を取ることが出来たのだと思います。なんだか、こういう行動がやっぱり東京怪談と言う物語をやっていてよかったなぁと思う瞬間ですね。
これからも頑張ってください。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
前後編お付き合いありがとうございました。