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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・時のない街>


扉を開けて −古びた鍵−
●始まり
「それでは、お先に失礼します」
 そう言って坂田治(さかた・おさむ)は足早に会社を後にした。時計の針は定時の5時30分ちょうど。
「坂田さんって、いっつも時間通りよね……」
「そうそう。残業も全部断ってるでしょ。よくクビにならないね?」
「仕事は出来るからぁ。残業しない方が会社としてはいいでしょ、無駄にお金払わなくて。時間に内に仕事が出来て、余分な給料とらなくて優秀。願ったりかなったりでしょ」
「そっかぁ」
 それ以上会社で彼の事が話題に上る事はなかった。

「よし、そろそろ7時だ……」
 いつも公園にさしかかり、いつものように時計を確認し、全くの同時刻に納得したように呟き、頷く。
「ミケもお腹空かせてるはずだ……」
 呟き、ポケットの鍵を手に持ち替え、しかし歩調はかえずに公園を横切ろうとした瞬間。
「くっ……」
 急に胸が苦しくなって鍵を落とした。
「……くぅ……7時に、7時にドアを開けないと……」
 左手がめり込むそうなくらい胸を押さえつつ、落ちた鍵へと手を伸ばす。
「鍵を……開けないと……」
 閑静な住宅街の小さな公園。誰も気づく者はいなかった……。

「これがその、一晩経つと元の公園に戻ってしまう鍵ですか……」
 警察に届けても、ポケットの中に入れて置いても一晩経つと元の公園へと戻ってしまう、という曰くのついた鍵。
「鍵がピューンッって飛んでいくのかな?」
 梁守圭吾の言葉に、ヒヨリがテーブルの上の鍵をつんつんと指の先でつつく。
 警察に届けても仕方ないから、と知り合いが持ってきた品。
 さて、どうしたものか、と圭吾は店内へと視線を向けた。

●扉を開けて −古びた鍵−
「一晩経つと元の場所へと戻ってしまう鍵、か……」
 体躯のいい褐色の肌がひょいっと鍵をつまみあげた。
「あれ? 工藤さん、今日もお店はさぼりですか?」
「その突っ込みきつすぎ……」
 光彩によって微妙に色をかえる緑の瞳を細ませ、工藤卓人は苦笑する。それを受け、圭吾も瞳をほころばせた。
 ジュエリーデザイナーで、デザイン工房『インフニティ』のオーナーである卓人。しかし不可思議な出来事に興味津々で、仕事放り出す事しばし。従業員に呆れられつつ叱られている。
「鍵てのはどこかを開ける、閉めるためのもので……。んー、公園に戻っちまうってことは、その公園の側のどこかに鍵がかかっている場所があるんじゃないのか? 鍵を開けて欲しくて、元の場所に戻る気がするんだが」
「そうね。そんな感じの未練、ってところしかしら」
 草間興信所のバイトなのだが、最近ヒヨリと仲良くなった為か、時計屋に頻繁に出入りするようになったシュライン・エマは、自分が入れなくていいコーヒーの味を堪能しつつ形のいい脚を組み替えた。
 それに同意するように九尾桐伯は小さく息を吐いて、卓人の手に持たれた鍵を見つめた。時計屋の近くにいい輸入酒店が出来た為か、帰りにここに寄る機会が増えたらしい。
 整った綺麗なカーブを描く眉をひそめつつ、ヒヨリの煎れたコーヒーに口をつける。
「そんな所でしょうね……。その未練を払ってあげる事が出来れば、きっとこの鍵も戻らなくなると思いますよ」
「せやなぁ。どないしても戻らなアカンっちゅう強い想いがこの鍵に宿っとんのやな」
 月刊アトラス編集部の編集長、碇麗香に「ネタが拾えるから」と時計屋に来させられた獅王一葉。気軽に始めたバイトも、今では編集員同然。顎でこき使われている。
「持ち主の念がしみこんでる……とでも言った所か」
 ここを無料喫茶店と勘違いしているのか、最近頻繁に来る真名神慶悟。実際時計屋に来れば、話が相手が来た、とばかりにヒヨリが飲み物を持ってくる。近頃では店番かもしれない、という噂もちらほら……。しかしとかくいい男が店に居る事は良い事で、何を売っているのかわからないこの店に、女性客が増えた事を、彼の名誉の為に追記しておこう。
 そう言った意味では桐伯、一葉も同じかもしれない。
 一葉が女性がある云々はすみっこにほうきで追いやり……。
「鍵に込められている思いを探って見るのが一番か……」
 今ここのメンバーの中で一番まともな外見をしているかもしれない霧原鏡二が、軽く左手に触れながら言う。
 彼の仕事はエンジニア。しかし幼い頃、闇のものに『悪魔の卵』と呼ばれる宝石を左手に植え付けられてから、こういった不可思議な事件に巻き込まれるようになった。
 その上その『悪魔の卵』より魔力を与えられ、その宝石が持つ「乾き」を潤すため、闇の存在を狩らなくてはならない体をなってしまった。
 故に、こう言った事件が頻発するこの『時計屋』の存在を知り、足を向けた。
「ほな、うちにそれ貸したってや」
「あいよ」
 ほい、と卓人は一葉に鍵を渡す。
 その様子を見つつ、鏡二も左手に軽く触れ、魔力が解放される。
「あんたの想い、うちに見せたってや……」
 鍵を握りしめて軽く目をつむる。
「それじゃ私は別の方向から調べてみようかしら」
「公園、からですか?」
「そうね」
 立ち上がったシュラインに、自分も同じ事を考えていた、と桐伯も後につく。
「俺も行くか。何か情報が得られるかもしれないしな」
 店内は禁煙だよ、とヒヨリに言われたせいで、もてあましていた煙草を戻すと、慶悟も腰を上げる。
「そんじゃ、俺の方は独自に精霊さんに頼むとするか」
 卓人は指輪に封じ込められている精霊に命じる。この鍵の記憶を探る為に。
 鏡二、一葉、卓人が探ったのは同じ想いだった。
 見えたのは嬉しそうにベランダの窓の外にちょこん、と座る猫の姿。
 そして窓を開ける男性。ちらりと重なった映像に「坂田治」と書かれた表札。
「また来たな。さぁ、餌だぞ」
 嬉しそうにペット皿に餌を乗せ、差し出す。部屋の中にはペットを飼っているような道具は一つもない所を見ると、近所の野良猫に餌をあげている、と言った所だろう。
「おいしいか? ミケ」
 名を呼んで頭をなでると、ミケ、と呼ばれた猫は小さく鳴いて瞳を満足そうに細めた。
 次に流れた映像は公園。
 そこから坂田の住むマンションが見える。時計の針。午後6時50分をさしている。
 ポケットの中の鍵についている鈴が「ちりん」と微かな音をたてた。
 坂田はそれを握りしめ、取り出す。
 瞬間。
 心臓が差し込むように痛み、小さくうめく。
 鍵を取り落とし、絶え絶えになる息の中で、ベランダで待つ猫の姿が浮かんだ。
「鍵を……開けないと……」
 それが彼の遺言になった。

 一方、圭吾に道を聞いて公園にたどり着いた一行は、近所に聞き込みをするもの、図書館で新聞を調べる者、などで別れた。
 シュラインと桐伯は聞き込み組。
 興信所つとめ、という肩書きを活かし、シュラインは聞き込みを始めた。
「この辺で、何か事件とかなかったですか?」
 公園の近くにあったコンビニ。少し眠そうな男性店員は、一瞬シュラインの胸元へと視線をやってから慌ててそっぽを向き、それから考えるように顎をつまんだ。
「……事件事件……」
「どんな些細な事でもいいんです」
 後ろから桐伯が顔を出し、店員は「ち、男連れか」と小さく呟く。
「そうだなぁ……ああ、1ヶ月くらい前になるけど、公園で死んだ人、いたな」
「死んだ人?」
「ああ。なんでも心臓麻痺だった、って誰か言ってた」
 うろ覚え風に店員は言い、眉根を寄せる。
「それ以上はわからないなぁ。なんせ俺、その日バイト休みだったから」
 そうですか、と瞳を伏せたシュラインに、「ああそうだ」と店員が声をあげた。
「あそこのマンションの向かいに団地あるでしょ? そこの3階の4号室に一人暮らしのばあさんがいるんだけど、すっげ情報魔なんだよ。人んちのぞきしてんじゃねぇか、ってくらい。聞いてみたらある事無い事教えてくれると思うよ」
「ありがと」
 にっこり笑って店を出て行こうとしたシュラインにの背中に、店員の声が追いかける。
「うまく情報収集出来たらデートしてね♪」
「……考えておくわ」
 苦笑しつつ答えた。

「えーっと、新聞新聞……うげ……ちゃんとこれくらい管理しとけよな……」
 図書館に足を向けた慶悟。
 書棚の片隅に追いやられた昔の新聞の束に、思わずため息をととも悪口をもらす。
 ほこりをはたき、むせながら閲覧席に持っていき、バサバサとひろげる。
「それらしき事件は、と……」
 小さな地域の事件欄を端から目を通していく。
「……なんか飲み物でもかってくりゃ良かったな……」
 などとぼやきつつ指先が新聞をなでる。
 そしてようやく1ヶ月前の新聞に目を通し始めた時、それは見つかった。
「公園で心臓麻痺……坂田治……32歳……」
 これか、と慶悟はメモ帳を取り出して走り書きしていった。

「……そうなのよ、その坂田さん、ってお向かいのマンションの人でね……」
 コンビニの店員に聞いた家につき、チャイムを鳴らした。そして中から出てきた「いかにも」という姿格好の老婆は、桐伯を見るなり瞳を輝かせ、家に招き入れてくれた。
 普段は誰も相手にしてくれないのだろう、老婆の話。それを聞きたい、という美青年(シュラインは眼中に無し)が現れれば、年甲斐もなくはしゃぎたくなるだろう。
 いつもより3割り増しのすべる口で、桐伯の質問以上にべらべらと答えてくれる。
「坂田さん?」
 桐伯に質問させた方がいいだろう、という事でシュラインは老婆の出してくれたお茶に口をつけながら、窓から見える向かいのマンションを眺める。
 それにしてもえらい待遇の差だ。桐伯は香り漂うコーヒー。シュラインはでがらしのお茶。そこまではっきりとした対応の差に、不快感よりも笑ってしまう。
(いくつになっても女は女、ってとこね)
「そうそう。本名は坂田治って言うんだけど。歳は32歳でA工業の社員で、出世街道まっしぐら、ってタイプじゃなかったけど、そこそこ業績は良かったみたいよ」
 老婆の口はどこまででも滑る。
「女性関係は真っ白だったわね。一緒に歩いている所なんて見た事ないし、家に女性を連れ込んでる事もなかったね。ああ、そうそう。いやに時間にこだわる人で、朝6時起床してから分刻みできっかり動いていたわ。あんな人の彼女になったら大変だろうね、って常々思っていたのよ」
「……どうしてそこまで知ってるんですか……」
 桐伯のつぶやきは見事に無視される、というか聞かない振り。
「野良猫の世話なんかもやってたね。朝は6時30分。夜は7時きっかりにベランダの窓を開けて餌あげしてたよ。ミケ、とか呼んでたね。でも、今から1ヶ月くらい前に、公園で心臓麻痺を起こしてねぇ……気の毒に……」
 別に目頭は光っていないが、老婆はハンカチでぬぐう。
「……時間、猫の餌やり……」
(揃ったみたいですね、キーワードは)
「その坂田さんの家の部屋番号はわかりますか?」
「ちょうど真向かいの3階の6号室だよ」
「ありがとうございます」
 ギュッと桐伯に手を握られて、老婆は頬を赤くする。
「それじゃ、そろそろ失礼します」
 これ以上つき合ってると、どんな長話につき合わせられるか……と言ったように桐伯は笑顔を崩さず立ち上がる。
「もう帰っちゃうのかい? もう少しいたらいいのに……」
「いえ、あまり女性の部屋に長居するのは失礼ですから」
「……」
 とっておきの笑顔でにっこり。『女性』扱いされた老婆は、満面の笑みを浮かべて送り出してくれた。
「……年上キラー?」
「……違います」
 玄関を出てから少し歩いた先でシュラインに小さな声で言われ、困り顔でため息をついた。

 夕方になるとかなり冷えてくる。
 冬の足音はすぐそこまで来ていた。
 時計屋にいた面々も公園へと足を運び、ヒヨリが持たせてくれたホットココアを先に来ていたメンバーへと渡す。
「ちょうど喉が渇いてたんだ。助かった」
 水筒を受け取り、慶悟は早速冷ましながらコップに注いだココアを飲み干した。
「俺たちがわかった情報はこのくらいだ」
 鍵の記憶を探っていた鏡二が、一葉や卓人が見たものも簡潔に告げる。それに続けて慶悟、シュライン、桐伯も自分たちの知り得た情報を公開した。
「まとめると、鍵の持ち主は坂田治、32歳、男性。そこのマンション306号室に住み、7時ピッタリに野良猫に餌をあげていた、ってとこか?」
 卓人はマンションを見上げる。
 バブル期に建てられたのか、外観は異様に凝っているが卓人にすれば「趣味が悪い」の一言。中までこの調子だったらまともに人が住めるのか? と全然関係無い事を考えてしまう辺り、ジュエリーを扱っている、とはいえデザイナー。
「鍵の持ち主の想いっちゅうのは7時に鍵を開けて部屋に入り、野良猫に餌をやりたい、って事やったんやな」
「そうみたいですね……その想いが果たせれば、きっと鍵はこの公園に戻らなくなるかと」
「そうなんだけど……困った問題が一つあるのよね」
 文字通り困ったようなシュラインの声に、それまで話していた一葉と桐伯は顔を見合わせる。
「どうした?」
 慶悟にせかされるように問われ、シュラインは306号室がある辺りを見上げた。
「今あそこ、他の人が住んでるのよ。両親が売りに出したみたいで」
 先にマンションの管理人に連絡をとっていたシュラインは、306号室の住人へと連絡もとっていたが不在だった。
「それじゃ、この鍵ではもうすでに開かない、って事だな」
「せやな……」
「だったら別の空間を作ればいい」
「「へ?」」
 卓人と一葉が腕組みをして同じように難しい顔で首を傾げた。しかし鏡二から出た言葉に二人とも瞬いた。
「俺の魔力で当時の部屋を作り出す」
「ほえー、そないな事が出来るんかー。すごいなぁ」
「……真名神、手伝え。空間を安定させる」
「あいよ」
 二人はもう一度306号室の住人が不在である事を確認し、部屋の前に立つ。そこで鏡二が左手を押さえるようにして魔力を放つ。
 瞬間、ぐにゃっと扉が歪んだように見えた、がすぐに元に戻る。それに合わせ、慶悟が呪と唱え、空間を固定する。
 残った面々は時間を計り、公園で待機。
「これは……」
 桐伯にもたれていた鍵。それはスッと姿を消し、少し離れた場所へ落ちる。
「……ご本人登場、ってヤツやな」
「困ったわね、術者が二人むこうに行ってしまってるわ」
「心配ご無用♪ 俺も少しは出来んだぜ……ありゃ」
 格好つけて卓人はシュラインにウインク。しかし冷たい目で返され肩をすくめる。
 4人の視線の先では、坂田と思われる男性が、苦しそうに胸を押さえて地面に膝をついていた。
「毎晩あれを繰り返しとるんやな……気の毒に」
「……」
 いつになくまじめな顔で卓人が指輪に触れると、そこから見目麗しい精霊が姿を現し、坂田を包み込む。
「少しの間だけなら、精霊の力でこの場から動く事が出来る。家まで連れて行ってやろう」
「ええ」
 頷いた桐伯の前で、苦しみがなくなった坂田が、辺りをきょろきょろしつつ鍵を拾い上げた。
 そして腕時計を確認しつつ、家路を急ぐ。その家はすでに他人に渡り、坂田の家ではないけれど、慶悟と鏡二の二人が別の空間に坂田の家を用意しているはずだ。
 当初はそれを桐伯が開け、野良猫に餌をあげる予定だったのだが。
 卓人の精霊の力でその場を離れる事が出来、そして痛みが和らいだ坂田は、脇目もふらずに歩いていく。
「うちらもいこか」
 一葉が先陣を切って歩き出す。
 そしてマンションの3階けとたどり着いた。
「お、来た……か……」
 手をあげて4人を迎えた慶悟は、その前に薄く見える坂田を発見し、口を閉じた。
 坂田は鏡二や慶悟の姿が見えていないように、まっすぐにドアに向かい、大事に持っていた鍵でドアを開けた。
 6人も鏡二が作り上げた仮想の部屋の中に足を踏み入れ、坂田の行動を見守る。
 まずはキッチンに立ち、自分のご飯らしき物を作り始める。
 それが終わると、キッチンの作りつけの棚から猫缶を取り出し専用皿に開ける。それを持ち、嬉しそうにベランダへ行き、窓を開けた。
「ほら、ミケ。ご飯だぞ」
「みゃあ」
 窓の外には猫の姿。ちゃんとお座りをして待っていた。そして坂田が置いた皿から餌をほおばる。
 その横で、小さなテーブルに置かれた料理を坂田が食べる。
 それは胸がきゅん、としめつけられるような、暖かく、そして寂しい光景だった。
 皆一様に声を出さなかった。話してはいけないような感じがしていた。
「……ごめんな……もう餌はやれないけど、ちゃんと生きていくんだぞ」
 餌を食べ終わり、坂田を見上げた猫の頭を撫で、語る。
 わかっていた。自分がもうこの世の人物ではない事。でも、最後にちゃんと言いたかった。自分を待っていてくれるから。
「……ありがとう」
 くるりと振り返り、坂田は笑う。
「知っていたのか」
 苦々しく鏡二が呟く。他の者も苦笑した。
「上に逝くなら送ってやる」
「よろしくお願いします」
 ペコ、と頭を下げた坂田の腕に、猫が飛び乗る。
「お前は……そうか、一緒にいくのか……」
「みゃあお」
 坂田の胸に頬をなすりつけ、甘えた声で鳴く。
「お土産です」
 桐伯は持参した猫缶を坂田の足下へと置いた。
「変な言い方もしれへんけど、お達者で」
「今度はこんな妙なデザインのマンションやめとけよ」
 おどけたように卓人が言うと、坂田は微笑む。
「鍵、預かっておくわよ。同じような仲間がいる場所に置いて貰うから」
 玄関の所定の位置だったのだろう、場所に置かれていた鍵を持ち、シュラインはかかげる。
 その間に慶悟が道を示す。
 上へとまっすぐに伸びた光の柱。
「本当に、ありがとうございました……」
 スゥッと吸い込まれるように、坂田と猫は姿を消した。最後に、生前しなかったような柔らかな笑みを残して。
「終わった、か」
 鏡二が左手に触れると、6人はマンションの廊下に立っていた。
「この子……」
 丁度坂田がいた辺りに、真っ白な猫がやすかな顔で永遠の眠りについていた。近寄ってシュラインが触れると、それは死後数日が経過しているようだったが、眠っているようにしか見えなかった。
「この猫もここで坂田氏帰ってくるのを待っていたんですね……」
 戸惑いもなく桐伯はハンカチで猫をくるみ、抱き上げる。
「主人でもない坂田はんをまっとった訳か……」
「ちゃんと両想いだった訳だ。天国で仲良くやってだろうな」
 廊下から見える空を見上げ、卓人が呟く。
 遠くでキラリと、瞬き始めた星がそれに応えた。

●終わり
 猫を埋葬し終えた一行は、一度『時計屋』へと戻った。
「あ、みんなおかえりー☆ 今ココアいれるねー♪」
 ヒヨリのとびきりの笑顔に迎えられ、冷えていた体が暖かくなる。
「そうそう、梁守さん、これ」
「はい? ……あ、はい」
 シュラインに鍵を渡されて一瞬きょとん、とした圭吾だが、すぐに頷いた。
 そしてココアをいれて戻ってきたヒヨリに、一葉があった出来事を話す。
「俺はそろそろ帰る。じゃ、またな」
「あ、待ってよ☆ 今日はみんなでご飯たべよ♪ ……それとも、用事、ある?」
 席を立った鏡二に、ヒヨリが慌てて引き留め、顔を覗き込む。
「……特に急用はないな」
 寂しそうな顔で見上げられ、鏡二は一瞬困ったような顔になるが、瞳をわずかにほころばせた。
「うちらもご馳走になってええの?」
「うん☆」
 一葉に問われてヒヨリは大きく頷く。その反対側で、顔や言葉には出していないが慶悟小さく「ラッキー」と呟く。
 シュラインと桐伯は思わず顔を見合わせたが、にこにこ笑顔のヒヨリを見て同時に息を吐いた。
「それじゃ、俺もいっちょ腕を奮うか!」
「あ、卓ちゃんはお店に電話しておきなよー。かかってきたんだから」
「う……」
「それじゃ圭吾、みんなの分のご飯、よろしくね♪」
 くるっと振り返って、他人顔で立っていた圭吾に指をつきつける。
「え、あ、……はい……」
 困ったような顔で笑いつつ、圭吾は奥の部屋へと消えていった。
 一人でいたくないそんな夜。
 誰かと一緒に食べるご飯が、何よりのご馳走なのかもしれない、と感じた夜だった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家+時々草間興信所でバイト】
【0115/獅王一葉/女/20/大学生/しおう・かずは】
【0332/九尾桐伯/男/27/バーテンダー/きゅうび・とうはく】
【0389/真名神慶悟/男/20/陰陽師/まながみ・けいご】
【0825/工藤卓人/男/26/ジュエリーデザイナー/くどう・たくと】
【1074/霧原鏡二/男/25/エンジニア/きりはら・きょうじ】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、夜来聖です。
 工藤さん、霧原さん、初めましてです☆
 今回の依頼は持ち込まれた品物からのお話でした。
 持ち込んで下さった方には意外な展開になったでしょうか?
 少しでも心に残るような話になればいいのですが……(^_^;
 色々夜来が気になる物が持ち込まれているので、しばらくの間、持ち込み品でやっていきたいと思います。
 なにはともあれ、夜来の依頼にご参加下さりまして、誠にありがとうございました。
 またの機会にお目にかかれる事、楽しみにしています(*^_^*)