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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


13枚の楽譜

0.依頼

初老を過ぎた位だろう、その人は付き添いを連れて居た。
「ようこそ、草間興信所へ。どう言ったご用件でしょうか?」
席を勧め、草間は切り出す。
一瞬戸惑っていたが、依頼人は口を開いた。
「取り戻して欲しい物があります。」
「取り戻して欲しい?」
「嫌……正確には、消し去って欲しい物です。」
老人は確固たる目で草間に告げる。
「僕が出来るのは、調査とかそう言った類なのですが……」
「分っています。ですから、調査中の事故として処理して頂きたい。」
草間は溜息を吐いて、老人を見詰めた。真剣な顔で見詰め返す老人。
「……それで、それは何なんです?」
「受けて頂かない限り、物の話しは出来ません。やってくれますか?」
「……分りました……お受けしましょう。」

老人が語る物……それは、13枚からなる楽譜……
ただ、それは世間には知られ無い楽譜だった。呪われた楽譜として一部
の者しか知らない物……13の楽器に一枚ずつの非常に短い物ではある
が、全ての楽器が揃って演奏した時、悲劇が起こったと言う。それが再
び世に出て来た事を知ったのは、孫が通う学校の学園祭での吹奏楽部の
演奏の項目を見た時だったらしい。
そのプログラムを取り出し、草間に渡すと老人は席を立った。
『あれは……演奏されてはならない……演奏されれば必ず誰かが死にま
す……あれは……そう言った物なんです……』
そう言い残して、老人は帰って行った。
一人静寂の中に居た草間だったが……徐に受話器を上げるとどこかに電
話を始めた。
「草間だが……手を貸して欲しい……」

1.私立星宮学園

学園祭を明日に控えた星宮学園は、生徒達が発する活気で満ち溢れている。
昨今、若者達の無気力が囁かれてはいるが、この学園の生徒にはそんな言
葉は当てはまらない。小走りに荷物を持って走っていく女子生徒や、何か
を一生懸命作ろうと金槌を振る男子生徒の姿が彼方此方で見られる様を眺
めながら、守崎 啓斗(もりさき けいと)は廊下を歩いていた。
「ふ〜ん、結構楽しそうな感じじゃん。こりゃ、俺も遊びに来た方が良い
かな?」
そんな事を呟きながらも、視線は油断なく『吹奏楽部』の文字を探そうと
動いていた。そんな啓斗の服は、草間に無理やり頼み込んで手に入れても
らったこの学園の制服に他ならない。だからこそ、こうして廊下を歩いて
居た所で何ら奇異の視線に晒される事無く歩けているのだ。
『この学園の学園祭で行われる吹奏楽部のプログラムにあるこの曲目……
この曲目の楽譜を消し去って来て欲しい。それが、クライアントの意思だ。
俺が行っても良いが、俺では目立ちすぎる。頼まれてくれるか?』
草間の言葉が、啓斗の頭の中で反芻する。そして、その楽譜の謂れも……
胸ポケットからコピーのプログラムを出し、啓斗は吹奏楽部の項目を指で
追っていた。その指が止まる項目……『鬼哭協奏曲』と書かれた下には、
『幻と言われた楽曲ここに再現!』と書かれ奏者の名前も一緒に書かれて
いた。謂れを思い出し、眉根を潜め啓斗は再び吹奏楽の文字を探すべく辺
りに視線を移した。

2.教職員室

「あの楽曲を止めた方が良いですって?」
そんな言葉が、篠宮 夜宵(しのみや やよい)の目前の人物から発せら
れる。人物は吹奏楽の顧問である女教員。その言葉に、お嬢様風の服に身
を包んだ夜宵は静かに頷いて見せた。
「何故?もう学園祭は目前で、今更変更の余地など無いのよ?いきなりや
って来て止めろとはどういう事なのか、ちゃんと説明して貰わない事には
奏者だって納得しないわ。」
その言葉に、夜宵は手に持っていた封筒をその女教員に差し出した。
「この中に、代用となる楽譜が入っています。その楽曲を止める代わりに
こちらを、演奏されれば問題ないと思います。」
「だから!そう言う事じゃないのよ!貴方は何者で、何でその楽曲を止め
なきゃ行けないのか、それが聞きたいの!折角の時間をこうして取ってあ
げているんだからきっちり答えてもらうわ!」
些か語尾を強くしながら、女教員は睨みつける様な視線で夜宵を見詰めて
いる。その視線を、正面から見据えながら夜宵は口を開いた。
「では聞きますが、もし仮に私が話す話しを信じず、楽曲をそのまま演奏
したとします。その後、何かが起こったとして貴女は責任が取れますか?」
真っ直ぐ相手の目を見てたじろぐ事の無い夜宵の視線に、女教員は堪らず
目を逸らす。
「私がこれから話す話しを信じようと信じまいと貴女の勝手ですが、実際
にそれを体験した人からのお話しです。私は、その人から間接的にでは有
りますがその楽譜の回収をお願いされています。どういう判断を下される
かは貴女にお任せします。これから話す話しを良く聞いておいて下さい。」
そう言うと、夜宵は草間から聞いた話しをそのまま女教員に対して話し始
めた。真っ直ぐ相手を見詰めたまま話す夜宵。その話しの内容を、俄かに
は信じられないのか女教員の目は泳いでいる。全ての話しを話し終えた時、
腕組みをし唸る女教員の姿がそこに在った。

3.音楽準備室

誰も居ない事を確認して、シュライン・エマは口元に微かに笑みを見せて
部屋に進入した。校内の見取り図を全部暗記したシュラインにとって、校
内は既に何処でも行き来可能だ。東棟の最上階の端に位置するこの準備室
の場所に来るまでには多少骨は折れたが、来てしまえばこっちの物である。
「さて、どこかしら?取り敢えず、探してみるしかないようね。」
向かい合わせに並んでいる6個の机を一つ一つ探して行くしかない、そう
判断したシュラインは手袋をはめると、早速作業に取り掛かった。
一つ一つそれらしい物が無いか、チェックしていくが何せ音楽の教員室で
ある、楽譜の類は多く存在して居る。幾つかの机を調べるが、13枚と中
途半端な数の楽譜は存在していなかった。
「やっぱり机の中かしら……けど、これは個人で管理する鍵の物だし……」
机の引き出しを開こうとするが、鍵がかかってしまっている為開く気配は
全く無い。諦めて他の棚とかを調べては見る物の、やはりそれらしい物は
見つからなかった。
「ふぅ……仕方が無いわね。ここは諦めて教員室に行くとしましょう。」
手袋を外し、そう呟くと準備室のドアを開け辺りに人が居ない事を確認し
シュラインは素早く何事も無かったかの様に廊下を歩き出す。その時、携
帯が静かに着信を促す振動を発したのを感じ、手早く取り出し電話に応じ
る。
「はい、シュラインです。」
「あっシュラインさん?守崎です。今何処ですか?」
「守崎君ですか?今は、音楽準備室の前ですよ。」
「あっ、そうなんですか。今俺は、吹奏楽の子達と一緒なんですけど、ど
うも楽譜は個人個人で管理してるみたいです。」
「そうなの!?分ったわ、今からそっちに行きます。場所は何処?」
「えっと、視聴覚室だったと思います。」
「直ぐ行くわ。」
それだけ言うと、電話を切りシュラインは視聴覚室へと急いだ。

4.視聴覚室

視聴覚室に到着したシュラインの視界に入ったのは、啓斗と夜宵の他に6名
の学生……そして、顧問であろう女教員だった。啓斗と夜宵を除いては、皆
緊張の面持ちでシュラインの入室を見ている。
「シュラインさん、一応物の謂れは話しています。顧問の先生には篠宮さん
が話したそうです。」
啓斗が状況の説明の為、シュラインに話しかける。その言葉を受けて、シュ
ラインは静かに頷くと顧問の教員の前に歩を進めた。
「申し遅れました、私はシュライン・エマと申します。とある方からの依頼
でこの子達と一緒に問題の楽曲の調査及び回収を請け賜って居ます。協力し
て頂けませんか?」
努めて笑顔を作り優しく語り掛けるシュラインに、多少緊張が解れたのか女
教員は静かに首を縦に振る。
「分りました……私共学校職員としても、何か問題がある事を望んでは居ま
せん。その話しが、本当とは限りませんが……その可能性がある以上危険な
事はしたく有りません。お任せします。」
頭を下げる女教員を、シュライン・啓斗・夜宵はほっとした様な笑顔で見つ
めた。特にシュラインは、協力を拒絶されるのではないかと考えていた為、
この返答に十分な手応えを感じずには居られなかった。
「有難う御座います。それで、問題の楽譜はそれぞれ生徒が所持して居ると
守崎君から連絡頂いたのですが、その生徒達は?」
頭を上げた女教員は、その視線を6名の生徒に向けた。
「この子達もそうです。13枚……それぞれの楽器のパート毎に一枚ずつ持
っています。今日、全員で集まってリハーサルをやる予定だったのですが、
部長でありこの楽曲の担当の一人でもある高沼さんを含め6人が早退をして
まして……」
その言葉に、6名の生徒が口々に訴え始める。
「だから、止めようって言ったのに……」
「だって、これ持ってきた時から部長変だったもん。何か近寄り難いって言
うか……人が変わったみたいだったし……」
それぞれ、吐き出すかの様に訴える生徒達に啓斗はある質問をしてみた。
「あんた達には、何か変な事とか起こらなかったのか?例えば、体の調子が
悪いとか……?」
啓斗の質問にたちまち静まる生徒達……だが、一瞬の沈黙の後一人の生徒が
口を開いた。
「この楽譜を練習してると……時々気持ち悪くなったり、意識が一瞬途切れ
る事が有ったわ……余り気にしてなかったけど……今なら納得出来る……や
っぱりおかしいよ……」
静まり返った部屋の中で、生徒達はすっとその楽譜を差し出す。
「お願いします……これを何とかして下さい……」
差し出された楽譜を一枚一枚回収しながら、夜宵は代わりに用意した楽譜を
手渡す。
「この楽譜の処理はお任せを。プログラムに穴が開かない様、代わりにその
楽曲を演奏して下さい。余り知られていない楽曲ですけど、いい曲ですから。」
微笑みながら語りかける夜宵に、幾分安心したのだろう生徒達も笑みを浮か
べ楽譜を手にした。
「篠宮さん、一枚見せて貰って良い?」
啓斗は、夜宵の傍に行き手を差し出す。そんな啓斗に多少心配の眼差しを向
けながらも、夜宵は一枚の楽譜を啓斗に手渡した。
「!?」
手渡された楽譜を手にした瞬間、眼を大きく見開いたまま啓斗は倒れ込みそ
うになる。その様を見ていたシュラインは慌てて駆け寄り啓斗を抱き止めた。
「守崎君!?大丈夫!?」
「……全てを……消し去る……音の……調べに……導かれよ……」
シュラインの心配する言葉に返って来た啓斗の言葉は、啓斗の声とは程遠い
しわがれた老人の様な声だった。危険を感じたシュラインは、激しく啓斗の
体を揺さぶる。
「守崎君!!しっかりしなさい!!守崎君!!」
ガクガクと揺れる啓斗の頭。だが、その顔は笑みを作り恍惚とした目で中空
を彷徨う。夜宵は、素早く啓斗の手から握られた楽譜をもぎ取った。次の瞬
間、啓斗の体は力なくその場に崩れ落ちる。支えていたシュラインが居なけ
れば、間違いなく顔面から床に倒れ伏しただろう。
「守崎君!!目を覚ましなさい!!」
ピシャピシャと啓斗の頬を叩くシュライン。他の生徒や顧問の教員は今正に
目の前で起こった現象に怯えていた。夜宵はハンカチを濡らすべく、手洗い
に駆け出している。
「ん……シュラインさん……?」
目を覚ました啓斗の顔色は、蒼白に近かった。額には脂汗が滲み、呼吸も何
処か荒い感じがする。夜宵は、濡らしてきたハンカチをそっと額に当て汗を
拭いていた。
「どうしたの守崎君?貴方じゃないみたいだったわ。」
シュラインの言葉に頭を振り、啓斗は答えた。
「憑かれたんです……この楽譜の奴にね……すっげぇ怨念だ……見境が無い
って感じでしたよ……全ての者を憎んでる……早いとこ処理しないと……」
荒い息の下、それだけ言うと啓斗は立ち上がる。多少ふらついてはいる物の
何とか大丈夫そうである。その様子を見て、シュラインと夜宵はほっと胸を
撫で下ろす。だが、そんな安堵も次の瞬間崩れ去ってしまった。
「ちょっと!皆何処に行くの!?」
その言葉の先に視線を向ければ、顧問の教員が生徒達を止めようとして居る
のが視界に入ってくる。
「行かなきゃ……行かなきゃ……」
「何処に行くって言うの!?楽器なんか持って、何処に行くのよ!?」
必死になって止めようとする教員だが、生徒達の目は虚ろで何も写っては居
ない。ただ、しきりに何処かに行こうと教員を押し退け様としていた。
夜宵が逸早く動く。
「闇よ……安息と安寧を司る闇よ……彼の者達に、安らかな眠りを……」
夜宵の周囲から湧き出た闇が、生徒達と教員を包み込む。突然の闇に、教員
は混乱して騒ぎたてたが、何時しかその声も聞こえなくなる。静寂が戻ると
夜宵は闇を消し去った。闇が消えた後には、生徒達と教員が安らかな寝息を
立てて眠っていた。
「ひゅ〜♪すっげぇ〜そんな事出来るんだ〜♪」
夜宵の方を見やりながら、啓斗は素直に感嘆の声を上げる。その言葉に、夜
宵は頬を赤く染めて恥かしそうにもじもじして居た。そんな二人に、シュラ
インは口に人差し指を当てて沈黙を要求する。慌てて、口を手で押さえる二
人。真剣な眼差しで、周囲の音を探っていたシュラインの耳に微かに聞こえ
る音がある。
「捕らえたわ。着いて来て!」
そう言うと、一気に駆け出すシュライン。二人は慌てて後を追い走り出した。

5.西棟屋上

バン!!
屋上のドアを勢い良く開け放つシュライン達の目の前に、7人の生徒の姿が
見て取れる。何処か虚ろげな視線の6人と、瞳を爛々と輝かせ口元に笑みを
浮かべている生徒が一人。もはや薄暗く成っている時分だからこそ、その双
眸はかえって不気味に浮かび上がる。だが、三人の姿を確認した途端その瞳
に狂気が燃え盛る。
「貴様等は誰だ?何故、他の奏者は来ない?」
髪の長い女性特有の面立ちとはかけ離れたしわがれた声。啓斗が、発した声
そのものだとシュラインは理解した。
「他の奏者の方は来ません。皆さん、安らかな眠りの誘いの中に居ます。」
夜宵は凛としてその瞳を正面から見詰め言い放つ。その言葉に、眉根がきり
りと釣りあがって行くのが啓斗の目にははっきりと見えた。
「ふざけおって!!何故、邪魔をする!!貴様等には関係の無い事だ!!早
々に立ち去れ!!」
啓斗は自嘲気味に笑みを浮かべ一歩前に出て言い放つ。
「そうはいかねぇ。こちとら、依頼受けてんだ。てめぇが持ってるその楽譜
の抹消って言うな。」
「何だと……我の傑作を消し去ると……?」
怪訝そうな表情で見詰めるその瞳が、一層狂気の色を増したかと思うと突如
大声で喚き出した。
「ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!!!!!何時もそうだ!!
我の才を認めようとせず、何時も見下し、我は全てを失った!!!我の事を
恐れ、我を蔑み、我を陥れた!!!!妻を殺し、我を殺し、尚我の作品を殺
すと言うのか!!!!どれだけ、我を愚弄すれば気が済むのだ!!!!」
わなわなと震え睨みつける瞳の奥に、憎しみの炎を滾らせる相手を見詰めな
がらシュラインは静かに口を開いた。
「それは、貴方のエゴでしかないわ。貴方の作品がどれほどの物か知らない
けれど、それが本当に傑作だったと想っていたのは、貴方だけだったのよ。
そんな物を、世間が認めると思うの?それこそ、愚かだわ。」
「黙れ!!!黙れ!!!!黙れーーーー!!!!!!貴様等に何が分る!?
貴様等なんぞに分ってたまるか!!!!」
生暖かい風が、辺りの空気を支配して行く。纏わり付くような、雰囲気に気
持ち悪さを覚えたのは、夜宵だけではないのだろう。シュラインや啓斗も、
しかめっ面でその風を受けていた。叫び、喚き続けこちらに注意を払ってい
ない相手を見て、不意に啓斗が夜宵とシュラインの間に移動し、小声で話し
始める。
「篠宮さんに、お願いがあるんだけど、さっきみたいな奴をもっかいやって
欲しいんだ。その隙に、シュラインさんは他の生徒から楽譜を奪って篠宮さ
んに渡して欲しいんです。俺は、あいつから楽譜を奪います。」
その言葉に、シュラインは勿論夜宵も反論する。
「守崎君、さっきみたいな事になったらどうするつもり!?危険すぎるわ。」
「止めて下さい守崎さん。万が一、失敗したら今度は貴方が憑かれますよ。」
二人の言葉に、些か面食らいながらもにこっと笑みを見せて、懐からクナイ
を取り出す。
「大丈夫。俺はこれでも忍者の家系だから。こいつで何とかしてみます。」
クナイを握り直し、真剣な表情で相手を見据える啓斗。腹を括った男の表情
がそこにある。その様を横目で見ながら、二人は溜息を吐いて正面を見据え
る。
「分ったわ、やりましょう。篠宮さん、お願いね。」
「はい。でも、無理はしないように気を付けて下さいね。」
今だ叫び続ける相手を見て、三人は身構える。
「闇よ……冷酷にして無限の闇よ……彼の者達を、縛り付ける鎖となれ……」
夜宵の声が合図となり、啓斗とシュラインは同時に駆け出した。二人の後を
追う闇が一瞬にして二人も飲み込む。
「なっ何だこれは!?」
今更ながらに、迫り来る闇を見て慌てふためく怨霊は、逃げ場無く闇に飲ま
れる。ただ、真っ暗な闇の中……冷たく圧し掛かる様な圧迫感が辺りを支配
していた。
シュラインは逸早く、楽譜を持つ生徒を捉えていた。何せ、記憶力には自信
がある。立っていた配置は全て記憶して居た。息苦しそうに、蹲る生徒達か
らシュラインは素早く楽譜を奪う。
「ごめんなさい。直ぐ終わるからね。」
そう一人一人に声を掛けながら、周囲の音にも気を配り作業をこなして行く。
辺りに響くのは、狼狽し狂った様に叫び続ける声だけだった。
「守崎君、上手くやってればいいけど……」
正直不安が頭をよぎる。憑かれた時の啓斗の様子を思い出すとやはり不安に
成るのは否めない。だが、今の状況では助けに行く事も出来ない。今は、啓
斗を信じる他無かった。
最後の生徒をから、楽譜を奪った時声が変化した事にシュラインは気付き素
早く闇からの脱出を図っていた。
シュラインが生徒達から楽譜を奪って居た頃、啓斗は気配を殺し怨霊が憑依
した女生徒の元に向かっていた。その位置は、覚えているのも有るがひっき
りなしに騒ぎ立てるその声で判別できた。
「ったく……うるせぇな……近所迷惑だっての……」
そうぼやく啓斗の視界に、一つの影が見え始めていた。忍者の家系だからか
どうかは分らないが、啓斗は夜目が優れている。こんな闇の中でさえ朧気だ
が姿を確認できる。その姿が、まず間違いなく怨霊に憑依された女生徒だと
確認出来た。後ろから近づき一気に間合いを詰め、クナイの柄で首筋に一撃
を加える。
「ぐぁ!?」
くぐもった声を上げ、手にしている楽譜から力が抜ける。すかさず、手首に
手刀を加え、楽譜を取り落とさせた。
「すまねぇな。これもあんたの為だ。」
振り向き様、一言だけの詫びを女生徒に入れ、今だ中空を落下する楽譜の中
央にクナイを突き刺しそのまま一気に闇を駆け抜けた。背後で、倒れ込む音
が聞こえたと同時に啓斗は闇から抜け出ていた。
二人が闇から抜け出たのを確認すると同時に、夜宵は闇の効果を中断する。
闇が晴れ、辺りが静寂を取り戻した後には、7人の女生徒の倒れ込む姿が残
るのみだった。
「さて、仕上げと行きますか?」
啓斗の言葉に、シュラインと夜宵は静かに頷き互いが持つ楽譜を一つにまと
め床に置く。その上から、突き刺したままの一枚をクナイと共に啓斗が突き
刺す。
「ぎいいいいいいいいぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
激しい叫びが辺りを劈く様に発せられたかと思うと、楽譜から血が染み出す。
シュラインは、徐に取り出したライターに火を灯すと、そのまま楽譜に火を
点けた。微かに香る、焦げ臭い匂いと共に夜の空に煙が立ち昇って行った。

6.報告

「そうですか……無事、抹消されましたか……良かった……」
草間からの報告を聞いて、老人は心底安心したのか笑顔を見せていた。
「あの楽譜を持ち込んだのは、吹奏楽部の部長だったそうです。父のコレク
ションの中に偶然有った物らしく……興味本位って所でしょうね。」
苦笑いを浮かべながら、草間は老人に語りかけていた。その父に出所を聞い
ても、出所が分らなかった事は老人には伏せて置く事にした。これ以上、変
に話しを広げても意味が無いと思ったからである。
「有難う、草間さん……これで、孫の学園祭に喜んで行けるよ……有難う。」
「礼なら、この三人に言ってやってくれませんか?俺は、何もしちゃいませ
んからね。」
そう言って、後ろに視線をやると笑顔で佇むシュライン・啓斗・夜宵の姿。
老人は席を立つと、深々と三人に向かって礼をする。
「有難う、皆さん。あの悲劇が、また起こらずに済んだ……」
その言葉に、三人はちょっと照れ臭そうに笑顔を見せてお互いの顔を見合う。
「そんなにかしこまらないで下さい。照れてしまいます。」
三人を代表して、シュラインは老人に声を掛けた。老人は、頭を上げると本
当に嬉しそうな顔である提案をする。
「これから、孫の学園祭に行くんですが、皆さんもどうですか?帰りは、孫
と夕食でもと思っていたので皆さんもご招待という事で如何でしょう?」
老人の言葉は、何よりの労いだ。三人は、顔を見合わせ頷くと老人の方を向
き深々と頭を下げる。
「ご馳走になります〜♪」
「ご好意感謝します。」
「有り難くお受けします。」
笑顔の三人を見て、老人は楽しそうに目を細めた。その様子を見て、草間も
また笑顔で頷くのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1005 / 篠宮・夜宵 / 女 / 17 / 高校生

0554 / 守崎・啓斗 / 男 / 17 / 高校生

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家
+時々草間興信所でバイト

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■         ライター通信          ■
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お世話になります!凪 蒼真です!
シュラインさん!二度目の参加、誠に有難う御座います!

学園祭ネタとして考えたこの一本ですが、シリアスムード
満点にしたくて考えたものです。
お楽しみ頂けたなら、幸いなのですが・・・(苦笑)
発注文にサンプルが消えていた事が書かれておりますが、
自分的にはかなり嬉しい飛び込みでした!
シュラインさんのはもう一回絶対書きたいと、切に願って
居りましたので、飛込みが有った時嬉しくて叫んでました
(笑)
相関図等を参照させて頂いて、守崎さんとの連絡のやり取
り等のシーンを勝手に盛り込ませて頂いております。
前回と比べて、些かキャラが生きているかな〜と思って居
ますが如何だったでしょうか?(苦笑)

今回は本当に有難う御座いました!
またのご依頼をお待ちしております♪