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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>




< 誰か・・・ >

調査組織名   :ゴーストネットOFF

執筆ライター  :朧月幻尉

------<オープニング>--------------------------------------

 「今すっごいウワサになってんのに知らないのぉ〜!」
 瀬名雫は可愛らしい手で『びしぃっ!』と、指差した。
 「不特定多数のBBSを狙っての『荒し』なのよ。って、云っても荒し なんていつでも不特定多数よね」
 危険なことをネットカフェ内であっさり言ってのける。
 背後では、少々不穏な空気が漂ったが、当の瀬名雫は気が付いていない。
「でもさあ、いくら何でも事件が起きてから、こう日にちが経ってるのにね。犯人見つからないし。段串カマシても足が付くよね」
 ケーキを突付く雫は暢気なものだ。
 「何か変なことも、そのHPで起きてるみたいだし。調べてくれるかなぁ?」


☆オタKINGのオマケ
「さ〜て・・・・・・どうしようか・・・・・・」
 ネットはハッカーに任せ、やることないがレイベル・ラブは外をぶらついていた。
 BBS事件は意味不明の書き込みでパンク寸前になり、管理者があわててデータ―を捨てるというような事件だったらしい。当然、仕事なり学校なりが終わってからブラウザーを立ち上げた管理者のサーバーは陥落(お)ちてしまっていた。襲撃されたBBSにはこれといって特筆すべき共通項があるわけでもなく、ハッカーたちは頭を悩ませていた。それに、攻撃していれば、寸前のIPアドレスぐらいは判りそうなはずだ。
 しかし、それもわからず仕舞いだった。
 天はハッカー達を見捨ててはいなかったのか、『提供者』を与えてくれた。
やることのないレイベルは、ネットで情報を持っているという人物を外で待つという、ありがたくも無い任務に付いていた。11月の寒空の下では、さすがにボンテージと白衣では寒い。それどころか凍えてしまいそうだ。
 夜風にふわりと舞う長い金髪、闇夜に浮かぶ白い肌。
 その美貌を見るものは、今は月しか居ない。
「そう言えばこの前出た判決文ではBBSそのものが不特定多数、とかでインターネットそのものが不健全な害悪それそのものという認識を裁判長が示していたな・・・・・・」
 などと独りごちてみるものの、誰も彼女の話を聞くものもいなかった。
 西洋人というには華奢な体付きと、どことなくオリエンタルな雰囲気がヨーロッパの寒村出身であろうことを物語る。緑碧瞳の美女がこんな路地裏で何を待っているのだろうか。
「しかし、遅いな・・・・・・」
 レイベルは辺りを見回した。
 かさりと音がした。そちらの方向にレイベルは顔を向ける。
「ん?」
「あのう・・・・・・」
 レイベルが振り返ると、黒ぶち眼鏡を掛けたいかにもオタクそうな男達が立っていた。
 どれもこれもが脂っこくねっとりした印象の男達だ。
「やっぱ、メールにあった通り美人だなァ」
「プラハとかの出身かな」
「髪の毛が藍色だったら、『F・S・S』の運命の三姉妹みたいだよ!」
「なんか、俺、感動しちゃてる」
 なんぞと分けの解からぬことを話している。誠に『オタク語』というのは理解しがたい。
 あまり気分の良く無い酩酊感を覚え、レイベルは溜息をついた。
「あなたがたが情報を提供してくれるのか?」
「そうだよ」
 にっこりと男の一人が笑った。不遜な態度からして、こいつがリーダーだろう。にきび面(ずら)を歪めて笑うと、醜悪さが増した。三文小説の人物のようで、なんと芸の無い奴だろうと、レイベルは思った。
「あのBBS事件を追ってるなんて、君は変わった人だねぇ」
「御託はいい」
「サービスしてよ」
「こっちは、つまらん客相手におべんちゃらを使う水商売の女でも何でも無い」
 レイベルは一気に云った。
「俺たち、こんな美人と話す機会なんかめったにないんだしさ・・・・・・話し終わったら、もう会う事もないんだから」
「二度と会いたいともとも思わない。金を払うわけでも無し。それに、支払うのはこっちだ」
「つれないなァ・・・・・・おまけするよ」
「馬鹿を言うな。勝手にまけられて、役に立たん情報を貰ってもこっちが困るだけだ」
「ふぅ〜ん、そお。じゃあ、倍額ね」
「なっ!」
 いきなりの提示にレイベルはたじろいだ。倍額は痛い。これでは必要経費を超えてしまう。
「貧乏医者のレイベル・ラブさん。倍額じゃ・・・・・・辛いだろう?」
「何が言いたい!」
「う〜ん、まあいいや。電柱でティラノサウルス・レックスを殴り殺したり出来る女(ひと)怒らせたら怖いもん・・・・・・なあ?」
 黒眼鏡はせせら笑った。続くように他のオタクも笑う。
 怖いならさっさと喋れ!とレイベルは思った。
「じゃあ、教えてあげるよ。僕が知ってることはちょっとだけだけどね。多分だけど・・・・・・キーワードは『いじめ』だね・・・・・・」
「『いじめ』?」
「そう。調べても人の口から出てくる言葉はそれしか無かったからね。別に特定のいじめ事件に触れてるわけじゃなかったみたいだけど」
 きっと普通の人間じゃないねと云って、オタクは笑った。
「どういう・・・・・・」
「アストラル体か何かでしょ・・・・・・そういう時は」
「そうか!」
 まったく、レイベルは気が付かないでいた。IPが残らないのも、誰も手が出せないのも、これなら納得がいく。しかし、これからどうやればいいのかレイベルにはわからなかった。魔術は出来ても、コンピューターとどう交信すれば犯人を捕捉できるのか思いもつかない。
「でも、どうやって『人間じゃない』と判ったんだ?」
「ここは『東京』だよ。何でも起きるさ、どんな事件だって」
 解かってるクセにといって、笑う。
「じゃあ、オプションで『助っ人』呼んであげたから・・・・・・頑張ってよね。・・・・・・んで、料金は倍ね♪口座は雫ちゃんが知ってるから」
「勝手しといて、いきなり倍額!?」
「助っ人は必要だと思うよ・・・・・・じゃねvv」
といい残してオタク集団は去っていった。

☆我が名は
 オタク達の姿を呆然とレイベルは見送った後、深い溜息をついた。これ以上に借金をどう抱えろと神は云うのだろう。悪魔にさえ自分は嫌われているような気がする。涙も出ない。日本人なら『法律』で保護されるだろうが、自分は日本人ではないし、ましてや普通に『人間』と呼べる歳でもなかった。それでも『不良債権』という名の法律に頼りたいと思うときが何度あっただろうか。
レイベルはまた溜息をついた。
 路地裏の向こうは、相変わらず喧騒に満ちている。この路地だけ時間が無いように感じた。
 頭を悩ませているレイベルの横を黒猫が通り過ぎ、木箱の上にちょんと飛び乗った。
「さて、助っ人とは誰なんだか・・・・・・」
『ナァ〜〜ォ』
「お前はいいな・・・・・・借金が無くって」
 レイベルは黒猫に話し掛けた。感傷的になっていると自分でも思った。
 ほんのちょっととはいえ、また借金が増えてしまった。今日明日の食事もままならないというのに、一体全体、何処からそれ調達すればいいのやら。
 黒猫を眺め、喰えるかな?・・・・・などと、真剣に考えてしまう。
 黒猫はフンと鼻を鳴らした。胡散臭そうにこっちをうかがって・・・・・・いるように、レイベルには見えた。
自分が持った不謹慎な程の食欲を察知したかのような目だ。
 猫が人語を解するというのか。
 まさか、いや・・・でも、それはありえる。
 この街なら。
 おずおずとレイベルは黒猫に話し掛けた。なんと今の自分は情けない姿だろう。
「お前・・・・・・鼻で笑ったか?」
 黒猫はにゃおんと鳴いて答えた。
「??・・・・・・まさか・・・・・・な」
『凄腕の医者も借金王か。それは自業自得と言うものだろう、レイベル・ラブ?』
「は?・・・・・・今、猫が喋った?」
『何を呆けている・・・・・・』
 レイベルは黒猫を見つめた。
 艶やかな毛並みと強い意志を秘めた両眼は、猫というより小型の豹というような感じがする。その猫の口から人語が発せられていた。幻かと思ったが、それが間違いでないということがわかった、その証拠に、黒猫が話すたび喉元がプルッと震えるのだ。
「お前、名前は?」
「私か?我が名は・・・・・・」
 人語を解する黒猫は自分を『シェルフ・ビースト』と名乗った。
「お前は猫だから、ビースト(獣)なのは理解(わ)かるとしても、何故にシェルフ(棚)なんだ?」
 ぶっきらぼうに『あとでわかる』とだけ云うと、シェルフ・ビーストは背を向けた。
「何処に行くんだ?」
「放って置くと被害が増える。私は行くが、レイベル・ラブよ、お前は行かなくていいのか?」
「行くに決まっているだろう」
「そうか・・・・・・」
「何処に行くんだ?」
「ゴーストネット」
「それはサイトの名前だろうに」
「行かないのか?」
 やれやれとレイベルは頭を振った。そんなレイベルに振り向きもせず、シェルフ・ビーストは歩いていく。これから過酷な戦いが待っているとは、レイベルは想像すらしていなかった。

☆ホーンテッドBBS
「あっ、レイベルさん!」
 ネット喫茶に入るやいなや、レイベルは大声で呼ばれた。店の奥で背の低い男が手を振っている。かなり相手は慌てた様子でいるが、何があったというのか。
 狭い店を邪魔にならないように進む。危うくシェルフ・ビーストの尻尾を踏みそうになり、シェルフ・ビーストに思いっきり睨まれた。(と言っても、彼『?』は無言だったし、猫なので本当にそのような表情をしたかどうかは、実のところ分かっちゃいなかったが)
 今か今かとレイベルを待ちつづけた人物は、今回協力をお願いした『洲崎勘十郎』氏だった。この『洲崎勘十郎』氏の名は勿論ハンドルネームだったし、例に漏れずハッカーだったが、アンダーグラウンドな性格ではなく、もっぱらネットを巡回して周るのが性分な『スイーパー』(違反者撤去人)だった。
 とはいえ、彼も『違反者』には変わりはないが、この際そのことには触れないでおこう。レイベルは自分自身にダンマリを決め込む。

 ―いいんだ、金になれば。
 お決まりの決め文句で締めようと思ったが、重要なことに気が付いてしまった。
 ―そうだ、金にならないんだった・・・・・・
 このまま、帰ってしまおうかとも考えた。しかし、テレパシーがあるのか無いのか、シェルフ・ビーストはこちらを窺っていた。
『レイベルよ・・・・・・今、何を考えた?』
「うっ!」
 黒猫はじぃっとこっちを睨む。明らかに軽蔑しているであろうと思われる口調だった。
『おおかた、逃げようなどと思ったのだろう?」
「これは金にならない!」
『料金持ち逃げで追われてもいいのか?』
「・・・・・・・・・・・・わかった・・・・・・」
『往生際の悪い奴だ』
 そう云うと、『洲崎勘十郎』氏へ、音もなく近寄った。
「何だ、レイベルさん今まで猫と遊んでたんですか?」
「誰が遊んでなどいるものか!・・・・・・それで、どうしたんだ?」
「レイベルさん、また被害が出たんですよ」
「撃退すればいいだろうが」
「出来ないんですよ!アタック掛けようにもIPは分からないし・・・・・・」
「それで、今度は何処なんだ?」
 借金決定で今夜の夕飯は無い事にイライラしいたレイベルは、いつも以上にぶっきらぼうに、そして、半ば事件はどうでもいいやと云うようにいった。
「『2、1Chねる』ですよっ!!」
「『2、1Chねる』??」
 レイベルはぽかんと口をあけて、『洲崎』氏の顔を見た。正確には、自分より背の低い『洲崎』氏の禿頭を見たのだが。
「『2、1Chねる』は・・・・・・無謀だろう?」
 あまりの事にレイベルは絶句した。
『2、1Chねる』という、巨大BBSサイトが攻撃されるのは前代未聞だ。
 それがどんなサイトなのか、ネットに詳しくないレイベルだって知っている。
 それに『2、1Chねる』ともなると、熱狂的とも言える利用者が多くて、普通はいくら腕が立って暇なハッカーでも攻撃しようとはと思わない。大体、サーバーが複数台あるサイトを襲うのだって大変だ。一つのサーバーも小さいものもあり、何十〜何百ギガになるのかわからない。下手をすると数千ギガだったりするのだ。
 それを襲うなんて、気概があるどころか狂気の沙汰だ。今日びの最大転送速度だって百メガしかないのというのに。
「『洲崎』さん・・・・・・そいつは」
「云わないで下さい・・・・・・」
『洲崎』氏は頭を抱えていた。
 無理も無い。誰だって狂ってると思うだろう。
「僕、帰ります・・・・・・僕じゃどうにも出来ないや」
「貴方でなくても、そう思うだろうさ」
「おやすみなさい・・・・・・」
 がっくりとうなだれ、「才能無いのかなあ」と呟いて『洲崎』氏は去っていった。
「ご苦労なことだ」
「レイベル」
「ん?・・・・・・何だ、シェルフ・ビースト」
 シェルフ・ビーストはふいと頭を動かし、人間だったら顎を杓うというような仕草をした。
「私がここに来ればいいのか?」
 こっくりと頷く。
 シェルフ・ビーストに背を向け、レイベルはパソコンの前に立った。
「それで・・・・・・私はどうしたらいいんだ?」
 と言いながら、レイベルは後ろを振り返った。
 そこには見知らぬ男が立っていた。
 腰までの長い髪が印象に残る男だ。
「ん?誰だ、あなたは・・・・・・」
「すまんな」
 そう云うなり、男は電光石火のスピードでレイベルの頭を鷲掴みにした。そして、そのままレイベルの顔をパソコンの画面にぶち当てた。
「ぶっ!!」
 思いっきり顔をディスプレイに叩きつけられ、耳元でガツンと額がぶつかる鈍い音が聞こえた
「っ痛う・・・・・・」
 容赦なく叩きつけられたせいか、鼓動の早鳴に比例して前頭葉がズキズキと痛む。
 ふいにジンジンと額が痛む感覚が引き、今起きた事を思い出した。
「一体、何を!・・・・・・・・・・・・えぇっ!?」
 男に文句を言おうと振り返ったレイベルは愕然とした。
 ネット喫茶はそこには無かった。
 薄灰色がかった蒼い空間が広がっているだけだった。
「な・・・・・・何だ・・・・・・・これは」
 手前も奥も無い。いや、横とか縦とか高さとかそんな風に表現できるような次元でもなかった。地面が無い。漠然として掴み所がないくせに、妙に生々しいねっとりした空気が何よりリアルだ。しかし、風が無かった。ということは、何処かに閉じ込められたか?
 にしても、足場に相当するモノがないのに一体どうやって??
 あまり時間が経っていないように感じていたのだが、それも気のせいだったのだろうか。連れて来られたにしても変だなと考えていたところに、シェルフ・ビーストの声が聞こえてきた。
『気が付いたか?』
「何をした!」
『失礼な・・・・・・ネットに詳しくないお前がミッションをこなせるようにしてやったと言うのに』
「どうやってやれと云う!」
『大丈夫だ。お前の能力を最大限酷使出来るようにしてやったからな・・・・・・・自慢の腕力をここで使うこともできる。』
「・・・・・・何者?」
『私はシェルフ・ビースト、【コネクター】だ。ネットに関してだけだがな・・・・・・』
「人間だったのか」
『まぁな・・・・・・精神とデジタル社会を繋げるだけしか出来ないがね。私自身にはそれほど力は無いんだ・・・・・・人の精神と一緒に能力もデジタル化するのが【コネクター】と呼ばれる能力でな』
「・・・・・・で、私はどうしたらいい?」
『これから【2,1Chねる】に転送してやろう』
「転送?」
『そうだ。・・・・・・では時間が無い。・・・・・・行くぞ』
「ちょっ、ま・・・・・・」
『待て』とレイベルが言う前に、シェルフ・ビーストは転送を始めてしまった。
 臓腑を引き千切られるような感覚がレイベルを襲う。ジジッともゴォッともつかぬ轟音がレイベルの悲鳴もかき消した。

 自分自身が旋風になって駆け抜けるような感覚が終わったと思ったら、実に禍禍しい光景がレイベルを犯そうと待ち構えていた。
 今度は殆ど墨色をした空間に転送されてしまった。
 液体状の闇を塗り込めた空間。
 所々、蛍光色の光が奇妙なダンスを踊る。更に濃い色が蛍光色を飲み込み、飲み込まれ、うねうねと斑を作る。飲み込まれた闇を透かして、蛍光色がボウと光り、膨張と収縮を繰り返した。
 嫌なものを見たとレイベルは思った。まるで、それは生きたままの光る直腸の内壁ようだ。蛍光ナマコの腹の中と称すべきか。
 どちらにしろ気持ちのいいものではない。
 たぶん、ここは【2,1Chねる】の内部だろう。
『レイベル・・・・・・居たぞ、奴だ』
「何?」
 ねとりとした液を吐きながら、『それ』はのたくっていた。巨体を震わせるたびに、ブルンと膿色の液が飛び散る。
「ぐっ!・・・・・・何だこれは・・・・・」
「グウゥゥゥゥゥァァァァ!!」
 ガボッと音を立てて、そいつは液を吐き出す。かろうじレイベルは避けた。
「恨ンデヤル!!皆ァ!・・・・・・・ゥヲ前モアイツノ仲間カァ!」
「仲間だと?」
「虐ラレル者ノ気持チ思イ知レ!憎イィィィィィィィィ!!」
「あなたは・・・・・・虐められたのか?」
「グウウ・・・・・・何モシテナカッタノニ!!アルコト無イ事、アイツラハBBSニ書イタ!親ハ信ジテクレナカッタ・・・・・・」
「あなたは」
「ビルから飛ビ降リテモ、何モ変ワラナカッタ。オ願イ、タ・・・・・・助ケ・・・・・テ・・・ココカラ出レナイ」
 ポロリと雫が落ちた。
 それは涙だった。
 また、ぽろぽろと落ち、跳ねる。
 暴れていたのは自分の悪口を書いた人間に復讐しようとネット世界に入り込んだ自殺者の魂だった。彼女はいつしか自我のコンロールを無くし、暴走をはじめたのだ。
「あなたは帰りたいのか?」
「帰リタイ・・・・・・ココハ、辛イ。外ノ世界ヨリモ辛イ・・・・・・」
「わかった・・・・・・シェルフ・ビースト!!」
『何だ?』
「私たちをここから出して欲しい。私の精神をここに連れて来れるなら、コレも外に出せるだろう?」
『・・・・・・了解した』
 ややあって、シェルフ・ビーストは答えるとレイベルの精神内部に旋風を起こした。引き裂かれるような 衝撃が精神を圧迫する。これに慣れる事はないだろうと思われた。ネットに巣食っていた自縛霊は猛り狂ったように叫んでいた。
 レイベルは意識は途切れ途切れになり、保つのも困難を極めた。
 ふと意識が遠のく。
 気が付いた時には、レイベルは床に伏していた。
「っつぅ・・・・・・」
「大丈夫ですか、お客様?」
 心配そうに覗き込んでいるのは、ネット喫茶の名物店員のユーシロー君だ。
 くりくりとした瞳が見つめている。
「あたた・・・・・・」
「貧血ですか?・・・・・・いきなり倒れるからビックリしちゃいましたよ・・・・・・・」
「すまない・・・・・」
 レイベルは辺りを見回した。
 腰まである長髪の男がいない。
「あれ・・・・・・さっきここに髪の長い男がいなかったか?」
「さぁ、僕が見た時には居ませんでしたけど・・・・・・」
 この女(ひと)大丈夫かなといいたげな目でユーシロー君はレイベルを見た。
 ユーシローの後ろでぱさりと音がした。
 黒猫がこちらを窺っている。
 黒猫姿のシェルフ・ビーストはユーシローにその小さな頭を擦り付けた。
「猫ちゃん、ずっと離れなかったんですよ。飼い主思いなんだね・・・・・・ねーっ、猫ちゃん」
『んにゃぁ〜ォ♪』
 飼い主思いなら、何故にこんな仕打ちをするのかとレイベルは疑問に思う。しかし、自分はシェルフ・ビーストの飼い主でも何でも無いので、仕方ないといえば仕方ない。
レイベルはまだ頭痛がする頭を振り、身体を起こした。ふらふらするがずっとここにいるわけにもいかない。料金がかさんでしまう。
 レイベルは立ち上がると、料金を払った。黒猫を伴い外に向かう。

 ドアの向こうは冬真っ盛りの街が一足早いクリスマスカラーに輝いていた。ここのところ、一番の冷え込みを記録した寒空は、レイベルの身も心も凍えさせた。
 ふいに黒猫が声を掛けてきた。
『レイベルよ』
「何だ?」
『・・・・・・行く宛てがあるのか?』
「あるわけが無いだろう・・・・・・しかし、さっきから聞こうと思ってたんだが、あの自縛霊はどうなったんだ?」
『あぁ・・・・・・彼女なら還った』
 にべも無く云う。何の感慨も持ち合わせていないらしい。
「還ったのか・・・・・・・一体、何処に?」
黒猫が振り返り、『決まっているだろう?』と云った。
『私には貧乏医師のために招く自宅があるのだが・・・・・・来るか?』
「猫の自宅というのは」
『生憎と私は人間だ』
 ピシャリと黒猫は言い放った。
『どうだ?』
「って云われてもな・・・・・・」
『3LDKの一戸建て。三食昼寝付だ』
「・・・・・・・・・・・・行く」
『よし・・・・・・ではついて来い』
 というなりトトッと歩いていった。
「人間の姿にならないのか?」
『少々疲れている・・・・・・人間になると煩わしい騒音が多くてな・・・・・・』
「騒音?」
『思念波だ、これがかなり堪える』
「可笑しな奴だ。何故、利益になりもしないのに、私を泊めようとする?」
『さあな・・・・・・しいていえば、避雷針代わりになるということかな。誰か人がいたほうが、私は助かるんだ。』
「思念のせいか?」
『そうだ・・・・・・実をいうと相当参ってるんでね』
「何だ、それを先に言え。付き合ってやろう」
『頼む・・・・・・』
「ほお、珍しい。では頼まれてやろうvv」

 レイベルの顔に笑みが乗る。それを横目で見て、シェルフ・ビーストは心なしか笑ったように見えた。二人は駅のほうへ歩いてゆく。冷たい風が足の熱を攫っていった。
 帰る先が天国であれ、地獄であれ、還るところがあるのはまだいい。
 今夜、確実に帰るれる場所がレイベルにはある。
 この幸運を感謝しながら、レイベルは今宵の仮の宿に向かった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0606   / レイベル・ラブ /女 / 395歳 /  ストリートドクター

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、こんにちはvv
 朧月幻尉(ろうげつ・げんのじょう)です。
 今回の依頼はどうでしたでしょうか?
 私としてはとても楽しく書かせていただきました。お気に召していただければ幸いです。
 このような機会を頂きましたこと、誠に感謝しております。
 新人ライターですが、今後ともよろしくお願いいたします♪
 もしよろしければ、私信などで感想・意見・苦情などをお送りください。 ぜひとも!今後の参考にさせていただきます。

 本日は誠に有り難う御座いました!!