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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


 鏡

------<オープニング>--------------------------------------

都市伝説や怪談を扱う、あるHP。
掲示板には意味不明な依頼分が多数書き込まれ、時折「了」の文字が追加される。
そして今日もまた、一つの書き込みがあった。

依頼者は、ある高校の関係者。
最近学内のトイレで、奇異な行動を取る生徒が現れるらしい。
失神、我を忘れた暴れ方、唸り声を上げて転げ回る……。
教室から離れた場所にあるため、発見者は教職員。
それがせめても救いだが、いつ生徒達の噂に上るとも分からない。
また学外に漏れるのは、何としても避けなければならない。

彼等が奇異な行動を取る理由は分からない。
それを知る術は、ただ一つ。
意識を取り戻した彼等が呟いた、「鏡」の前に立てばいいだろう……。

 病室のベッドで、静かに眠る少女。
 レイベル・ラブはカルテをベッド脇へ戻し、ドアの前で恐縮している高校の職員を振り返った。
「おそらく本人も記憶がないようだが、彼女達のケアは慎重に。学校へは臨床心理士を常駐させて、精神科医とも連携を取るように」
「は、はい」
「事件を隠蔽した結果、彼女達の状況は公になってない。トイレで暴れた事も、こういった病院に入院した事も。それとも、そこまで考慮したのかな」
 鋭く輝く、緑の瞳。
 職員は言葉に詰まり、視線を伏せた。
「まあ、いい。彼女達の資料は」
 すぐに差し出される書類の束。
 レイベルはそれに視線を走らせ、鼻を鳴らした。
「教職員に、同じような症例は」
「わ、私の知る限りでは、聞き及びません」
「この子から聞くのも酷な話だな。結局、その場所へ赴くより他ないか」
 金髪をなびかせ、ドアへ向かうレイベル。
 職員ははじかれたように飛び退き、直立不動の体勢を取った。

「心、か」
「は、はい?」
 無言で流れていく景色を眺めるレイベル。
 職員は喉を鳴らし、ハンドルを強く握り締めた。
「別に、あなた自身を責めてる訳ではない。非があるのは理事会や、校長達だ」
「い、いえ。私も、一応は学校の職員ですから。その責任の一端はあります」
「なる程」
 小さな呟き。
 微かに緩む口元。
 緊張しきっている職員には、分からない程に。

 トイレの前に集う面々。
 それぞれが一応の自己紹介をして、少しの沈黙が訪れる。
「あまり、深刻になる場所でもないよね」
苦笑気味に呟く相生葵(そうじょう あおい)。
 北波大吾(きたらみ だいご)も鼻で笑い、入り口から中の様子を伺った。
「何か、入るのにすごい抵抗があるな」
「僕は平気だよ」
 軽い足取りで中に消える葵。
 その背中から、大吾へと視線を移してくるレイベル・ラブ。
「入らさせて頂きます」
「当然だろう」
 レイベルは低い声で呟き、壁にもたれた。
「ったく。後で、捕まらないだろうな。おい、どうなんだよ」
「無断で入れば不法侵入だけど、許可は得てあるから問題ない。お前が何にも手を付けなければ」
「ここで、何を持って帰れって言うんだ」
 それもそうだと笑う、鋼孝太郎(はがね こうたろう)。
 気まずそうな表情で、大吾はトイレ内を見渡した。
 入り口から見て、右が壁で左にトイレのドアが並んでいる。
「これ、か」
 やはり、入り口から見て右。 
 簡素な洗面台と、その上に備え付けられている四角い鏡。
 特に変わったところもない、少し汚れが目立つ程度の。
「思い出すなー」
 突然詠嘆口調で呟く葵。
 鏡を指で突いていた大吾は、怪訝そうに彼を見つめた。
「何か、知ってるのか」
「ああ、ごめん。この件についてじゃなくて、店に入った頃の話なんだけど。新人はまず、トイレ掃除。雑巾で、拭いて、拭いて、拭いて」
「雑巾?」
「色々拭いたなー」 
 再びの詠嘆。
 視線を床へ落とす大吾。
 汚れ自体はさほどでもないが、雑巾がけしたい場所でもない。
 孝太郎は何の変哲もない鏡に自分の顔を映し、大袈裟に肩をすくめた。
「お前の感慨はいいけどさ。何が原因で、女の子が暴れるんだ」
「僕は、そういう事に疎くてね。あなたは、どう思います」
「推論は幾つでも立てられる。消毒液による神経障害、アンモニアのショック。他の生徒の暴行」
「で、結論は何だよ」
 答えないレイベル。
 大吾は鼻を鳴らし、多少警戒気味に鏡を覗き込んだ。
 そこに映るのは優男と爽やかな感じの男に、金髪をたなびかせる綺麗な女性。 
 後は、口を開けた自分だけ。
「特に、おかしい感じはしないんだけどな。場所は、本当にここなのか?」
「もしかして、ロッカールームだったりして」
「そんな訳……、あるのかな」
 見つめ合う男二人。
 何となく緩む顔。
 だがレイベルの険しい眼差しを受け、すぐに表情を改める。
「そ、それで。誰か、暴れたくなった?」
 首を振る葵。
 レイベルも無言で、それに応える。
「あんたは」
「さあ。鏡に聞いてみたらどうだ」
「ああ、なる程。って言えばいいのかよ」
「無駄でも何でも、やらない事には分からないだろ」
 鏡に向かって尋ねる孝太郎。
 帰ってくるのは沈黙と、周囲からの醒めた視線くらいな物だが。
「分かんない事ばっかりか。しかし、結構ぼろいトイレだな。どこかで、水が漏れてる音もしてるし。蛍光灯も、消えかかってるし」
「元々人の来ない場所だから、直すのも惜しいんだろ。少なくとも、用は足せるしね」
「確かに、不備が目立つな」
 短く呟くレイベル。
 緑の瞳に力がこもり、それとなくトイレ内を視線が滑っていく。
「仕方ないな。鏡を持って帰って、割るとするか」
「器物破損だぞ、それは」
 そう言いつつ、大吾の作業に手を貸す孝太郎。
 葵は鼻で笑い、後ろを振り返った。
「アバウトだね、随分。あなたは、どう思います?」
「私にいちいち意見を求められても。第一、原因が鏡と決まった訳でもない。仮に鏡が原因として、それを割った事で何か起きたらどうする」
 論理的な指摘。
 鏡から手を離す大吾と孝太郎。
 かなり不満げに。
「じゃあ、どうするんだよ。暴れた女の子は、何も覚えてない。発見者の教職員も、何も知らない。俺達も、暴れたくならない。やっぱり、割るしかないだろ」
「鏡が原因とは限らないという意見には、僕も賛成」
「え?」
「たまたまここで倒れていて、鏡と呟いたというだけだろ。それがどこまで本当かも分からないし。大体、ここにこもってるのは楽しくない」
「それは、俺も賛成だ」


 トイレから、階段を隔てた右隣り。
 進路指導課と札の掛かった部屋に収まる三人。
「ええ。確かに、私も一人だけ見つけました。突然奇声が聞こえてきて、声のする方へ行ったら生徒が倒れてました」
 お茶を勧める、スーツ姿の男性。
「休みなのに、出勤ですか」
「進路指導という役柄上、学校の都合で休む訳にも行きませんから。生徒からの連絡もありますし」
「大変なお仕事ですね」
「受験する生徒に比べれば、何でもありません」
 苦笑気味の口調。
 壁際の本棚は参考書で埋め尽くされ、机には大学の募集要項や資料が山積みされている。
「時には、厳しい指導になる事も?」
「一生を決める出来事ですからね。その辺りは、生徒達が一番分かってます」
「なるほど、なるほど」
 一人頷く葵。
 大吾は嫌そうな顔で、参考書の列を睨んでいる。
「私も質問したいんだが」
「どうぞ」
「その暴れたという女の子達は、ここで面談を受けた子かな」
「え、ええ」
 顔を見合わせる、葵と大吾。 
 尋ねたレイベルは瞳に力を込め、目の前にいる男を見据えた。
 緊迫する空気。
 長い沈黙。
「で、こいつをやればいいのか」
 木刀入れを担ぐ大吾。
 小さく声を上げる男。 
 葵は苦笑して、さりげなくマグカップを手に取った。
「そう簡単な問題なら、学校がとっくに処理してるよ」
「そうか?」
「話は終わった」 
 短く言い残し、部屋を出て行くレイベル。
 葵がそれに続き、大吾も渋々といった様子で付いていく。
 額から汗を吹き出し、呆然とする男を置いて。

 一人トイレの中に残る孝太郎。
「現場は確保しないとな」
 万が一を考えてか、一応鏡に背は向けている。 
 時折、振り返りながら。
「わっと、手でも伸びて来るんじゃないのか」
 言ってる自分が信じていない口調。
 のんきな台詞とは裏腹に、表情が徐々に引き締まってくる。
 ジャケットの前を押さえ、手は髪へと触れていく。
「風なんて……、吹いてないよな」
 警戒気味の態度。
 ここを立ち去った方がいいとでも言いたげな。
「これで、逃げ出せる性格ならいいんだが」
 小さな呟き。
 自嘲と、微かな誇りを込めた。


「休まなくていいの?」
「慣れてるよ、雑用は」
 明るさのない笑顔で返す孝太郎。
 葵は肩をすくめ、廊下の壁に背をもたれた。
 しきりに言い合う、大吾とレイベルへ視線を向けながら。 
「だったら、何が原因なんだよ。あいつに怒られて、爆発しただけじゃないのか」
「その可能性もある」
「じゃあ、やっぱり」
「君は、何か嫌な思い出はある?」
 静かな、しかし問い詰めるような口調。
 鋭さを増す、レイベルの瞳。
 大吾は笑う素振りを見せ、ぎこちなく彼女を見つめ返した。
「自分では分かっているのに、人に触れられてしまう。捨てられない、嫌な思い出は」
「何だよ、それ」
「逃げたくても逃げられない状況に置かれた事は?胸が痛いまでに、追いつめられた事は?」
「うるさいな」
 苛立った表情。
 反発気味な視線。
 今にも、手にした木刀入れを使いかねない程の剣呑な佇まい。
「無いならいい」
「あ?」
「大吾君。頬に何か付いてる。ちょっと、見てきたら」
 トイレを指差す葵。 
 大吾は彼にも険しい眼差しを向け、壁を一蹴りしてトイレへと入っていった。

「助かる」
「でも、どうして彼を。僕で、不都合な理由は?」
「暴れた少女達と同じ高校生で、悩みを抱えてる雰囲気だったから」
「僕だって、悩みくらいはありますよ」
 ひどいなと言いたげな、甘い笑顔。
 レイベルは鼻で笑い、この場を離れるよう二人を促した。
「あまり、遠くへ行かない方がいいぞ。冗談抜きで、死人が出てもおかしくない」
 短い、警告にも似た台詞を呟く孝太郎。
 ただし本人も、その理由は分かってない顔である。
「どうして」
「単純に、嫌な感じがするだけだ。そっちのお姉さんが、何か知ってるんじゃないのか。大体、あいつは大丈夫なのか」
「そのくらいの覚悟がないなら、こういう事に首を突っ込まない方がいい」
「俺達も?」
「当然、私もだ」

 
 顔を洗ったのか、濡れた顔を鏡に映す大吾。
 消えない苛立ち。
 どこか、焦点の合わない瞳。
 深くなる呼吸。
 聞き取れない言葉が、口元からこぼれ出す。
 木刀入れを掴む手に力がこもり、指先が一気に白くなる。
 震える足、小刻みに動く腕。
 焦点の合わない瞳が見開かれ、正面を見据える。
 鏡を。
 それとも、その奥にある何かを。

「どうしたっ」
 奇声を聞きつけ、トイレに飛び込む葵。
 その鼻先をかすめる、真剣の切っ先。
「冗談、でもないか」
 振り下ろされる真剣を倒れ込んで避け、左手で蛇口を開く。 
 迸る水。
「頼むよ」
 緩む口元。
 頭上に迫る真剣。
 だがそれは、不可視の障壁で遮られる。
 正確には、蛇口から迸った水で作られた壁によって。
「嘘」
 壁に食い込む刃。
 それは深さを増し、切っ先が床へ倒れた葵の喉元へと向かってくる。
「……室内に嵐の突風を」
「え」
 はげしい唸りと共に叩き付けられる暴風。
 それに流され、強度を弱めていく水の壁。
 葵は素早く立ち上がり、腰をためてその風に耐えた。
「少し手荒に行くけど、後は綺麗な先生に診てもらってくれ。もう一度、お願い」
 蛇口から迸る水が数滴、宙へ舞い上がる。
 長い、針の形となって。
「これで、目を覚まして……」
「二人とも、落ち着いて」
 地震のような衝撃。
 耐えきれずに壁へ手を付く葵。
 大吾も後ろへ仰け反り、水へ足を滑らせて床へと転がった。
 持ち主を守るかのように、その体へと乗る木刀。
 床で打ったのか、小さく唸りながら頭を抑えている。
 すでに風はなく、先程までの異様な迫力もない。
 壁に亀裂を作って二人を制止したレイベルは、風に乱れた髪を抑え小さくため息を付いた。
「水、か」
 握り拳を開く孝太郎。
 針の形状となって、大吾を襲ったはずの。
 人の目では捉えられない程の早さで。
 水の針も、彼の動きも。
「大丈夫か」
「私は問題ない。自分こそ」
「目はいいんだ」
 針に襲われたのは、葵だけはない。
 突風により向きの変わったそれは、数本がレイベルへ向かっても飛んできた。
 そのどれもが、孝太郎の右足一本で宙に散ったが。

「初めから、そうしてくれれば良かったのに」
「男同士の勝負に、女が口を挟むのも無粋だと思って」
「冗談はいいですから、傷を見て下さい」
 甘い笑顔と共に、顔を突き出す葵。
 初太刀がどう動いたのか、左頬に赤い筋が一本付いている。
「染みるけど、我慢して」
 ガーゼに消毒を浸し、傷を洗うレイベル。
 少し顔をしかめつつ、反対側の頬に添えられた手に視線を向ける葵。
 息が掛かるくらいの近い距離。 
 二人だけの空間。
「はい、終わり」
 頬に張られる絆創膏。
 葵は拍子抜けした顔で、大吾の介抱へ向かったレイベルを見つめた。
「あ、あの。これだけですか」
「縫って欲しいの?」  
「それは、もう」
 何かを期待した表情。
 絆創膏で、頬に手を添える。
 では、縫った場合はどうなるかという話である。
 レイベルはジャケットの懐から小さな救急セットを取り出し、針と糸を用意した。
「麻酔がないから、鍼でいい?」
「え」
「チョウセンアサガオもあるんだけど、こっちは失敗すると失明したりするから」
 懐から取り出される小さな茶色の袋。
 冷たい表情と共に。
「あれだ、あれ。口にハンカチ突っ込んで、舌を噛まないようにすればいいだろ。良く、刑事ドラマでやってるみたいに」
 真顔で提案する孝太郎。
 現職の警官である。
「それともライターで鉄を焙って、傷口に……」
「絆創膏って最高ですね」
 頬を抑え、立ち上がった大吾に肩を貸す葵。
 レイベルは救急セットをしまい、彼の手足に軽く触れていった。
「骨折はないし、軽い脳しんとうといったところかな。さっきの水に、毒性は?」
「水質は、水道水のままです」
「そう。とにかく、一度医務室までお願い」
「障害未遂だぜ、おい」
 やはり大吾に肩を貸し、声を出して笑う孝太郎。
 他の者からも、自然に笑い声が漏れる。
 安堵感と、信頼感と共に……。  
   
「催眠術?」
 ベッドの上にあぐらをかき、頭を抑える大吾。
 レイベルは小さく頷き、話を続けた。
「それに似たような物だと思う。あそこにある幾つかの物と、進路指導での話が重なった結果の。キミが体験したように」
「全然覚えてないんだけど」
「結構な話だね」
「全くだ」
 頬の絆創膏に触れる葵。 
 大吾は怪訝そうに、彼を見上げている。
 拳を何度も握り返す孝太郎は、葵の顔を。
「何でもない。さっき彼の動揺を誘ったのは分かりますが、催眠術ってそう簡単に掛かる物ですか」
「規則正しい、トイレタンクの水漏れ。ちらついた照明が映り込む鏡。進路指導で精神的に追い込まれている状態。それも深く、自分の内面へ意識を向けるような」
 訥々と語るレイベル。 
 静かに耳を傾ける三人。
「でも悪いのは教師でもないし、大学でもない。受かるだけの実力がにない自分。そして、それはどこにいる?」
「目の前の鏡に」
 同時に答えた三人に、レイベルは笑顔を浮かべた。
「ただ、普通催眠状態になっても自分を傷付ける事はしない。だから、私の推測が正しいとも言えない」
「お前は、覚えてるか。その時の事」
「いや、何も。いらいらして鏡の前に立って、そこから先の記憶はない」
「人間、嫌な記憶は心の奥へ封じ込めるように出来ている。思い出したくないというレベルではなくて、それを心の奥底に閉じこめてしまう。逆に言えば、そこを突くと精神的な恐慌をきたす場合がある」
 口元を抑える大吾。
 葵も苦笑気味に、頭を掻いている。
「でも、教師や職員はどうにもならなかったんだろ。俺だって一人であそこにいたけど別に、どうという事も」
 嫌そうな顔をする孝太郎。
 レイベルは苦笑気味に首を振り、彼等を見渡した。。
「催眠には何段階ものレベルがあるし、誰もが掛かる訳でもない。それと彼がが何を思い、何を見たかは分からない。分かったのは、あそこがあまりいい場所では無い事」
「じゃあ、どうすればいいんだ」
「水道業者を呼んで、水漏れを直せばいい。後は、蛍光灯を替えて」
「冗談だろ」
 笑う孝太郎。
 それに倣う残りの二人。
 事務的な内容を告げたレイベルは、くすりともせず医務室から出て行った。
 孝太郎はなおも釈然としない様子で、彼女に質問を投げ掛けながら付いていく。
 彼等を見送った葵は、大吾の頭を撫でて優しく微笑んだ。
「大丈夫?」
「え、まあ。あんたこそ」
「そうだね。僕も少し休もうかな」
 頭から頬を滑り、肩へと回る葵の手。
 思わずといった具合に身を震わせる大吾。
「あ、あの」
「添い寝だよ、添い寝。それとも、そういう趣味でも?」
「ば、馬鹿かっ」
「大声出さない。頭が痛くなるよ……。って、遅いか」
 後頭部を押さえる大吾と、彼の肩に手を回しそっと寝かす葵。
 傍目には、誤解されかねない光景。
 つい先程までは、お互いの命すら掛かった戦いをした二人の。
 おかしくも、暖かい……。  
 
 病院のロビー。 
 両親に付き添われ、タクシーに乗り込む少女。
 明るく、自然な笑顔を浮かべ。
「知らない方が幸せな事もある」
 風に乗るささやき。
 冷たく、乾いた。
「仮に知ったとしても、死が訪れるまでの苦しみだ」
 風になびいた髪を抑え、自嘲気味に微笑むレイベル。
 生死を超越し、思い出だけが募っていく彼女の。
「とにかく、壁の補修費を請求されなかっただけましとするか」
 車に乗り込んだレイベルは、目を閉じてシートに深く倒れ込んだ。
「あ、あの。ご自宅まで、お送りしましょうか」
「頼む。あなたは、何か嫌な思い出は……。いや、なんでもない」
「は、はい」
 緩やかに発進する車。
 緊張気味の男性をよそに、レイベルは眠りに付いた。 
 静かに、身動きもせず。
 彼女には訪れない永遠の眠りを、少しでも真似るかのように……。

                                    了
  
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0606/レイベル・ラブ/女/395(外見は20代)/ストリートドクター
1048/北波・大吾/男/15/高校生
1072/相生・葵/男/22/ホスト
1064/鋼・孝太郎/23/警察官

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■         ライター通信          ■
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ご依頼頂き、ありがとうございました。
他の方とは本文が共通で、OPとEDが各キャラ別となっています。
またの機会がありましたら、よろしくお願いします。