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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


列車の中の少女【前編】
●オープニング【0】
「ねえ、ちょっとこれ読んでもらえる? 読者から送られてきた手紙なんだけど」
 月刊アトラスの編集長・碇麗香はそう言って、封を切った封筒を手渡してきた。
 まずは差出人の確認。封筒の裏には『松苗雄一』(まつなえ・ゆういち)という名前と、都内の住所が記されていた。続いて手紙を取り出し、目を通してみる。
 手紙の内容は、ここ2週間ほど黒いワンピースの少女に付きまとわれているというものであった。単なるストーカーなら警察へ行けばいい話なのだが、アトラスに相談の手紙を出してくることからして、事情が異なるらしい。
 付きまとわれているのは、大学の通学に使う列車の中だけなのだという。それも決まって自分の前の席に座っていると。そして列車を降りると、いつの間にか姿を消しているのだという。その間、少女はただ雄一をじっと見つめているだけで。
 雄一自身も何度か話しかけようとしたのだが、何故かそれも出来なくて、結局少女について何も分かっていないそうだ。
「列車の中でしか会えない少女……調べてみても面白いんじゃない?」
 さらりと言い放つ麗香。
 調べろと言われれば調べますが……どうして列車の中だけなんだろうか?

●相談者来訪【1】
「あの〜……月刊アトラスの編集部はここで合ってますか?」
 麗香から話を聞いた翌日、編集部を純朴そうな青年が訪れた。件の相談者、雄一である。調査することにはなったものの、手紙に書かれてあることだけでは埒が明かないという結論に達し、詳しい話を聞くべく麗香が呼び出したのだ。
「合ってるわよ。あなたがあの手紙の主ね?」
「あ、はい。松苗ですけど……」
 雄一は麗香に促され、来客用のソファに腰掛けた。テーブルを挟んだ真向かいに麗香が座り、その左右に神崎美桜と天薙撫子の2人が座った。
 麗香たち3人の背後には、真名神慶悟と都築亮一の2人が立ったまま雄一に視線を向けている。そしてテーブルの左右、雄一から見て左側の席には朧月桜夜が、右側の席には戸隠ソネ子が腰掛けた。
 雄一にとっては女性5人に囲まれる形になり、照れたのか雄一の頬に薄ら朱が差した。
「何から話せばいいんでしょうか?」
 きょろきょろと周囲を見回して、雄一が尋ねた。麗香が後は任せたといった様子で、左右や背後に視線を向けた。
「あの……最初に確認しておきたいのですけれど。2週間ほど前からとのことですが、いつからどのように少女の存在に気付いたのでしょうか?」
 撫子が質問を投げかけた。
「その2週間前から急になんです。何か視線を感じるなと思ったら、目の前の座席にその娘が居て。近付いてくる訳でもなく、ただこっちを見つめてるだけで……。手紙にも書いたように、僕の方から話しかけてみようとも思ったんですけど、いざとなると何故かそういう気にならなくって」
 そこまで一気に話してから、雄一が小さく溜息を吐いた。
「こういうのって、一番怖くありませんか? 話しかけられたり、襲われたりした方がまだ対処出来るんでしょうけれど……決まっていつも、隣の車両からやってきては僕の目の前の座席に座るだけなんです。駅で待ち伏せしてもない、自宅近くをうろうろしてることもない……」
「その時分以降で、何か妙なことが起こったことはなかったでしょうか? 通学の途中で何か事件・事故のようなことに遭ってしまったということは……」
 続けて尋ねる撫子。だが雄一は小さく首を横に振った。
「ないです。無言電話や差出人不明の手紙もありませんし、その娘以外のことはいたって平穏なんです。あ、でも、突然休講があったりしたのは困ったですけど、これは関係ないですよね」
 休講は関係ないだろうが、雄一の話が事実であれば少女の行動は列車の中に限定されていることになる。それも黙って見つめているだけで。
「あなたに付きまとっている少女の特徴を教えてもらえますか。どんな些細なことでも構いませんので、覚えている限りのことを」
 亮一が穏やかな口調で雄一に尋ねた。そこにすかさず桜夜が付け加える。
「そうそう、その子どんな子なの? アタシよりも可愛いかなァ?」
 桜夜がくすりと微笑みかけると、雄一は少し照れたような困ったような表情を浮かべた。何と答えていいのか迷っているのかもしれない。そんな雄一を桜夜は面白そうに見つめていた。
「えっと……背丈や体格なんかは、あなたと同じくらいだったかな、と……」
 結局先程の質問をはぐらかしたまま、桜夜を指差して雄一が答えた。一斉に皆の視線が桜夜に集まる。
「へ、アタシと?」
 桜夜と同じくらいということは、少女の背丈は高く体格は細身のようだ。
「肌は色白で……雪みたいって言うのかな、あれだと。瞳は深い黒で、そう表情は見せなかった気がします。それから……服はいつも同じで、黒いワンピース。胸の所に大きなリボンがある他は、本当にシンプルなあれで。髪は肩の辺りで切り揃えた黒髪で……さらさらなんじゃないかと思います」
 思い返しながら少女の外見を説明する雄一。完璧とは言えないが、少女のイメージをつかむ助けにはなる。
「他にはありませんか」
 説明が一段落した所で、亮一が念を押すかのように言った。すると雄一が思い出したようにこう言った。
「あっ。そういえば、希に懐中時計みたいなのを取り出して見ていたような気も……」
「よく見てるわね」
 麗香が不意に口を挟んだ。
「三下くんより優れてるかも、観察力」
 この場に三下が居たら泣いて抗議していたことだろうが、現在は取材中なのであいにく編集部には居なかった。
「では、その少女に会う時間帯はどうでしょう」
 やはり穏やかな口調のまま、亮一は次なる質問を雄一に投げかけた。だが雄一は一瞬言葉に詰まった。そんな雄一を美桜がじっと見つめている。
「時間帯って言われても……何て答えたらいいんですか? 乗る度にいつもなんですよ? 毎日決まった時間の列車に乗ってる訳じゃないのに……」
「どういうこと?」
 反射的に桜夜が尋ね返した。
「だから、乗ったらいつも居るんです。その娘が」
「それは……通学に使う列車を変えたりしてもでしょうか?」
 撫子がそう確認すると、雄一はこくんと頷いた。
「わざと1本遅らせてみたりもしたんですけど、それでもなんです。大学に行くには、その線使う以外に方法もないですし。車の免許があれば、それで通学出来ますけど……それもないですから、僕」
「……それだと確かにうちに相談するような話だわね。皆もここまで聞いて気付いたでしょう?」
 麗香は苦笑しつつ、皆の反応を窺った。と、ここまで黙っていた慶悟が口を開いた。
「……どこから乗っているのか、分からないな」
 言われてみればそうだ。少女はどこから列車に乗っているのだろうか。
「その子が列車に乗る所って、本当に見てないのォ?」
 怪訝そうな表情を浮かべ桜夜が言った。雄一の思い違いということもあるかもしれないからだ。しかし雄一はきっぱりと答えた。
「見てません。乗る所も、降りる所も全く」
 それから雄一には細々としたことを聞いてみたが、特に有益となる情報は含まれていなかった。
 その後、翌日から調査に入ることを確認し、雄一が帰ろうとして腰を浮かしたその時だ。美桜が最後の質問を口にした。
「……本当にその少女に心当たりはないんですか?」
「僕の記憶にある限りでは全くないです」
 雄一はまっすぐと美桜の目を見て答えた。そしてそのまま編集部を出ていった。
「実際に会ってみてどうだった?」
 雄一が去った後で麗香が皆に尋ねた。印象やその他諸々のことが聞きたいのだろう。
「……私には、松苗さんが嘘を言っているようには思えませんでした」
 自分なりに雄一から感じ取ったことを口にする美桜。
「少なくとも、霊に憑かれているといったことはないようだがな」
 煙草に火をつけながら慶悟が言った。その言葉に同感とばかり亮一や撫子、そして桜夜が頷く。
「実際にこの目で見て確かめないといけないでしょうね」
「同感。一度ご対面してみなくちゃね」
 亮一と桜夜が口々に言った。何はともあれ、その光景を見てみないことには始まらない。
「オンナノコ……謎ばかりのオンナノコ……」
 腕の中に抱えていたぬいぐるみをぎゅうっと抱き締めながら、ソネ子がくすりと笑みを浮かべた――。

●通学路【2A】
「いつもこの道を使われているのですか?」
 さらに翌日の昼過ぎ、撫子は雄一とともに駅への道を歩いていた。いわゆる通学路という奴だ。
「そうです。入学してここに越してきてから半年以上この道を歩いてます」
 撫子と言葉を交わしつつ歩いてゆく雄一。雄一の住むアパートは駅より徒歩10分強の場所にあった。
 アパートから駅までの道のりは大半が住宅街だったが、途中で大きめの道路を横断する必要があった。ちょうどそこは大きく曲がったカーブの先、見通しは別段悪くはない。もちろん横断歩道はあるが、そこに信号機は設置されていなかった。
「この道路、事故が多いんですよね」
 苦笑いを浮かべて雄一が言った。そしてすっとガードレールを指差す。何故か雄一の指差した部分だけが真新しかった。
「先月もそこで車がぶつかったらしくて。この間、ようやく新しくなったんですよ」
「負傷者は居なかったのですか?」
 事故と聞き、すかさず尋ねる撫子。
「居なかったそうです。エアバッグつけてたみたいで。まだ死亡者だけは出てないらしいですけど……道路の設計ミスですよね、きっと」
 そう言い、雄一は車が来ていないことを確かめてから横断歩道を渡った。撫子は念のために周囲を霊視してみたが、何らかの霊が居るということもなく、妙な空気が流れているということもなかった。
(駅までの道のりも問題ないようですね。大学のある駅までの間でも特に問題は起きていないみたいですし……)
 思案しつつ雄一の後を歩いてゆく撫子。実は昨日の内に雄一の利用する路線について調べてみたのだが、これといった情報が得られなかったのである。
 雄一の利用する区間のみならず、路線全体で大きな事故や事件は起こっていなかった。まあホームから転落するという事故は年に数件程度起こっているのだが、いずれも事前に列車が停止したり、列車が来る前にホームへ戻ったりして、負傷者すら出てはいなかったのだ。
 当然実際に列車に乗ってみたり、聞き込みも行ってみたが、それでも問題が浮かび上がってこない。
(原因はいったいどこにあるんでしょう)
 そうこうしているうちに、雄一と撫子は外装工事の行われている5階建てのビルの前を通って駅前に辿り着いた。

●少女を前に【3E】
 到着してすぐ、6人は分散して列車に乗り込んだ。そして各々異なった場所へと向かう。
(結界ですね)
 撫子は車内の空気からそのことを感じ取っていた。誰が結界を張ったのか、それは先程のホームで交わされた会話で自明である。
 乗客のまばらな車内、雄一は撫子とともに車両の中程の座席に腰掛けた。撫子は雄一の右隣、開いた扉に近い方へと座っている。
 その雄一から少し間隔を空けて左側に座っているのが桜夜だった。桜夜は窓の外の景色を見たりして、素知らぬ振りをしていた。
 そのうちに列車は動き出す。慶悟は車両の一番右端の座席に腰掛け、こちらの様子を見守っている。そして亮一と美桜は雄一と同じく車両の中程、開いた方とは反対側の扉の前に立ち、各々が少女の出現を待ち構えていた。
 列車が動き出してすぐ、慶悟の居る方とは反対の車両に通じる扉が開き、1人の乗客がやってきた。
 やってきたのは、胸元に大きなリボンのついた黒いワンピースに身を包んだ少女だった。各種特徴は雄一の話と全て一致している。
 少女はすたすたと通路を歩き……そして、雄一の向かいの座席に腰を下ろした。雄一の様子はというと、不安そうな表情でゆっくりと周囲を見回している。少女が、件の少女であることはもはや間違いなかった。
「大丈夫ですから」
 雄一に対し、小声で穏やかに言葉をかける撫子。そして雄一の不安な心を落ち着かせるかのように、そっと雄一の右腕に触れた。
「あ……はい」
 同じく小声で答える雄一。その間に、美桜が扉のそばを離れて、少女の右隣へと腰掛けていた。
「……こんにちは」
 美桜が少女に優しく話しかけた。けれども少女がそれに応える様子はなく、時折天井に視線を向ける以外はじっと雄一のことを見つめていた。
 何度となく少女に話しかける美桜。同じ車両に居た乗客たちは美桜に対して怪訝な表情を浮かべ、そそくさと隣の車両へ移っていった。
 そのうち、撫子は奇妙なことに気が付いた。少女は雄一のことをまさしく『見つめている』だけだったのだ。
 普通、行動には何らかの感情が伴ってしかるべきである。だが少女にはそれがまるで感じられない。少なくとも不穏な意志は持っていないようだが。
 奇妙なことはもう1つある。少女からは生者であることも、死者であることも全く感じられなかったのだ。果たしてそのような存在などあり得るのだろうか?
 結局少女が美桜に対して口を開くことないまま、列車は雄一の降りる駅へと到着する。
 少女は到着寸前にすっと立ち上がり、最初にやってきた車両の方へと移動してゆく。美桜は座席から立ち上がって亮一の方へ戻っていった。
「亮一兄さん……」
 上目遣いで亮一を見上げ、何か言おうとする美桜。だが亮一はそんな美桜の肩にそっと手を置いて、ゆっくりと首を横に振った。美桜を労うかのように。
 到着して扉が開くと、雄一が撫子とともに列車を降りた。慶悟はほぼ同時に別の扉から降りていた。そして少し遅れて列車を降りる亮一と美桜。桜夜は座席に腰掛けたまま降りようとしなかった。
「本当に見ていただけでしたね」
「でしょう?」
 撫子は雄一と言葉を交わしながら、一足先に改札へ向かっていた。雄一の話に嘘偽りはなかったのだ。
(守護霊でもなさそうですし……)
 思案する撫子。先程感じ取った感覚から考えれば、少女が霊である可能性は極めて低い。
 しかしよくよく考えてみれば、少女から感じた感覚は撫子が全く知らない物ではなかったようにも思う。もっともそれが分からないから困るのだが。
 改札を抜け駅の外へ出る撫子と雄一。駅の目の前に大学の正門はあった。
「ここまでで結構ですから。じゃあ講義受けてきますね」
 撫子にこっと笑いかけ、正門へ向かう雄一。
「お気を付けて……」
 撫子はすっと右手を上げて、大学構内へ入ってゆく雄一の姿を見送った。

●帰宅【4】
 雄一が大学構内に入ってから約10分後。何故か雄一が駅に引き返してきた。
 話を聞いてみると、受けるはずだった講義が突然休講になっていて、今日は他に講義がないから帰ることにしたのだということだった。いわゆる無駄足という奴だ。
 ホームへ戻り列車を待つこと約5分。急行列車がホームへ滑り込んできた。行きと同様に分散して同じ車両に乗り込むと、列車はすぐに動き出した。
 そして――再びやってきたのだ、あの少女が。行きと同様、隣の車両よりやってきて、雄一の真向かいの席へ腰掛ける少女。やはりじっと雄一のことを見つめたままで。
 誰の目にもこの状況が普通でないことは明白だった。

●不安を取り除くために【5C】
 ガラガラの車両の中程、撫子は行き同様に雄一の右隣に座っていた。向かいには少女を挟み込むようにして美桜と桜夜が座っている。ちょうど桜夜が撫子の向かいである。
 撫子から見て右斜め前には扉のそばに立っている亮一と慶悟の姿があった。2人とも、神妙な表情で何やら話しているようだった。
「どうして突然休講になったことまで知ってるんだろう……」
 不安げな表情を浮かべ、雄一が撫子に小声で話しかけてきた。
「それは分かりませんが……危害を加えてくるようなことは決してありませんから。ええ、全く……」
 少しでも雄一の不安を取り除くべく、撫子は呪文のように同じ言葉を繰り返し口にしていた。相手が何もしてこない以上、出来ることは限られているのだから。
 美桜と桜夜はしきりに少女に話しかけていたが、やはり少女は何の反応も示さない。頑なであった。
 やがて列車は降りる駅に到着する。行き同様何の成果もなく終わるかと思われたその時だった。少女の口が僅かに動き、何か言葉を発したようなのだ。残念ながら撫子には聞こえなかったけれども。
 そして少女は到着寸前で隣の車両へ移動していった。それを見届けてから、撫子は雄一とともに列車を降りた。

●少女の正体【6】
 ホームに降り立つと、美桜と桜夜の2人が話があるからと他の皆を呼び止めた。ひとまず雄一には改札を出た所で待っていてもらうことにして、先に行ってもらった。
 列車が動き出し、他の乗客もホームから姿を消した。ふと気付くと、いつの間にかソネ子も合流を果たしていた。
「揃ったようですね」
 6人の後方より、穏やかな声が聞こえてきた。振り返るとそこには少女の姿が。先程までは影も形もなかったのに、だ。
「言われた通りにしたけど、それで何を伝えてくれる訳?」
 桜夜が少女を睨みつけるようにして言った。どうやら美桜と桜夜が皆を呼び止めたのは、少女の指示による物だったようだ。
 亮一が1歩前に進み出て少女に尋ねた。
「お話を聞く前に、率直にお尋ねします。……あなたはいったい何者なのですか。生者でも死者でもない、深い無の精神を持ち得る存在。これではまるで……」
「……死神、といえば納得しますか?」
 亮一の言葉を最後まで待つことなく、少女が質問に答えた。その場に衝撃が走った。
「シニガミ……」
 ソネ子がそうつぶやいて1歩後ずさった。
「よりにもよって、か。とにかく話を聞かせてもらう必要がある」
 深く息を吐き出す慶悟。今は戦う意志がないが話次第ではどうなるか分からない、と暗に少女へ伝えていた。
「仕事中の私の姿は対象となる者以外には見えないはずですが……あなたがたは何らかの霊力を持ち合わせているようですね」
 静かに語る少女。それを聞いて、撫子がはっとした。
「待ってください! 今『対象となる者』とおっしゃいましたが、まさか……」
「ええ。お察しの通り、対象者はあの青年……松苗雄一です。彼は明日中に何らかの事故により死亡する予定となっています。もっとも私が手を下す訳ではなく、その予定を決めたのも私ではありませんが」
「あ……明日っ? 明日に雄くんが……?」
 急転直下な展開に面食らう桜夜。いや桜夜のみならず、皆が困惑していたのだが。
「しかし予定は未定、決定にあらず。死亡しない可能性も残されています……私が対象者の前に姿を予め見せるのは、そのためです。少なくとも、他の死神ではこうはいかないでしょう」
「つまり、死亡を防ぐことも可能だということか……」
 その慶悟の言葉に、少女はこくりと頷いた。
「ただし私は時の女神に通ずる死神。時の流れは多少の揺らぎであれば自己修復します。その際に必要であらば、他の生命をも巻き添えにして……あなたがたに十分な覚悟はお有りですか?」
 少女が笑みを浮かべた。それはまるで氷のごとき微笑みであった。
「……健闘を祈ります」
 そして少女は6人に背を向けて――忽然と姿を消した。
「あの……このこと松苗さんには……?」
 美桜が困ったような、悲しいような表情を浮かべて皆に尋ねた。当初少女から聞いた話は雄一にも伝えようかとも考えていたが、今の話はおいそれと伝えられるような内容ではなかった。
「……どうすればいいのでしょうか」
 撫子がぽつりとつぶやいた。本当にどうすればいいのだろうか……。

【列車の中の少女【前編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0413 / 神崎・美桜(かんざき・みお)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0444 / 朧月・桜夜(おぼろづき・さくや)
                   / 女 / 16 / 陰陽師 】
【 0622 / 都築・亮一(つづき・りょういち)
                   / 男 / 24 / 退魔師 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせしました、高原担当依頼では恐らく過去もっとも難しいと思われるお話をお届けします。オープニングからはまず予測出来なかった展開かと思いますが……いかがでしょうか?
・今回は不思議と近しい能力をお持ちの方々が揃った気がします。……内容が内容ですから、自然とそうなるのでしょうか。
・さて、少女も言っていましたが、予定は未定であり決定ではありません。十分に雄一の事故死を防ぐことは可能です。ですが、上手く事を運ばないと予定は決定となり、最悪の場合には……です。後はこの話を雄一に伝えるか否かの問題もありますね。どうされるか、皆さんに委ねます。じっくりお考えください。
・あ、何故列車の中だけだったのか……その答えは後編で。推理は前編の内容のみでも十分可能ですよ。
・天薙撫子さん、6度目のご参加ありがとうございます。プレイングを全体的に考慮した結果、本文のような展開となりました。通学の途中を気にしたり、路線について調べてみたのもよかったと思いましたので。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。