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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


「行け逝け草間!?」

「お前、これどういう意味か調べてきてくれ。」
突然呼び出されて何かと思えば、草間は自分に妙な物を突き付けて来た。
それは葉書きサイズというか寧ろ葉書きで、色は白。
宛名側には丁寧な字で「草間興信所」様宛と書かれている。
だが送り主の住所や名前などの情報は一切ない。
裏側には、筆と墨汁であつらえた見事な達筆。

その書面はこうだ。

「一週間後迎えに逝く。」

これだけ。

ちらりと草間を見やると既にシケモクをふかしつつ別の書類に手をつけていた。
何処となく態度がそわついている。
なるほど、自分がやりたくないから押し付けるために自分を呼んだと。
更には何か気になる事を隠している模様。
「何かこれ以外に情報はないんですか?」
溜息混じりに草間に問う。
「・・・最近妙な視線を感じる。」
崩れ落ちそうな山の灰皿にシケモクを突っ込み、苦虫を噛んだような表情を草間は浮かべた。
そして頭を掻きつつ、自分を見やって決めの一言。

「頼む。」

・・・葉書き一枚とたった一つの情報だけですかい。

―――――



「そうやって、面倒な事はすぐ人に押し付けるのね。」

「・・・全くです。」


草間のデスクの前でシュラインとステラ、
二人の美女は冷たい視線を草間に向けながら同時に相槌を打った。

最初に電話で呼ばれたのはシュラインだった。
只たまたまその時、シュラインが仕事の都合でステラと共にいたものだから、
草間は丁度良いとと言わんばかりにステラも呼びつけたのだ。

本当ならば今日は二人とも別の用事があったにも関わらず、
「急用だから」と呼ばれて来て見れば草間の妙な調査依頼とこの態度。

二人とも溜息の一つもつきたくなるだろう。


シュラインは渡された葉書きをひらひらと指で摘み横目で見やった。
草間は今度は手近にあった新聞に顔を埋めて答えない。

微妙な沈黙が3人の間を流れる。

草間の手に持っていた煙草の灰が無駄に延び、ごそっと落ちた。

「ぅあっちぃ!」

まんまとズボンの上に落下したようで、ばさばさと慌てて新聞でズボンの上を払う草間。
その行動に、再びシュラインとステラは顔を見合わせた。

どうも、おかしい気がする。


「・・・まぁ、兎に角調べてみましょ。何か解ったら連絡しますから。」

ここでこうしていても始まらない。
半ば観念したかのようにシュラインが言った。

「ご機嫌よう、草間様。」

「あぁ!ま、待ってくれ。まだ言っていない事があった。」

二人が事務所を後にしようと振り返ったと同時、
それまで新聞を振り回していた草間が焦ったように呼び止めた。

「まだ何か?」

ステラの深い漆黒の瞳が草間を捕らえる。
草間はばつが悪そうに再び頭を掻いた。

「あぁ〜・・・差出人が解っても、別に連れてこなくて良いぞ。」

「どういう事?」

シュラインが首を捻る。

「言ったままだ。差出人が判明しても此処に連れてこなくていい。
 ついでに、一週間後にも迎えになんて来ないよう説得してくれ。」

「私達が、ですか?」

「そうだ。あぁっと!俺は次の仕事の時間だ!」

草間はわざとらしく時計を見やった後、
ソファに引っ掛けてあったコートを手に取り、そそくさと事務所の出入り口へと向って行く。

そして、

「じゃ、頼んだぞ。くれぐれも来ないように言ってくれ。」

まるでこれ以上追求されたくないかのように一言残して、
風の如く事務所を飛び出して行ってしまった。



取り残された二人は暫し只呆然と草間の消えた扉を見つめ。



「・・・行きましょうか。」

「・・・そうですね・・・。」


―――――


ステラは一度自分の店に戻り、文献を当たって見るという。

一度別れて、何か解ったら連絡するという事で落ち着いた。

シュラインは葉書きをもち、その足で目的地へと足を運んだ。
目指すは郵便局だ。
葉書きに押されている消印が解れば、大方差出人には近づけるだろう。

消印は『黄泉町』。

意外と早く終わるかもしれない、と気楽に考えながらシュラインは歩を進めた。


だが。



「・・・何ですって?」

郵便局内は、金曜の昼時ともあって混雑していた。
たった一枚の消印を調べるのに小一時間も待たされた事も相俟ってか、
シュラインの語尾は微妙に苛立っていた。

「もう一度言ってちょうだい。」

気圧された郵便局員の男が肩を竦めた。

「ですから・・・こんな消印の郵便局は国内には存在しません。」

「そんな筈はないじゃない。現にこうして送られてきているのよ?」

「そ、そんな事言われても・・・。」

気の弱い男なのかはたまた新人なのか、局員は既にシュラインにかなり圧され半べそ状態だ。

「・・・はぁ・・・。もういいわ。」

大きく一つ溜息をついて、シュラインは局員から葉書きを返して貰うとそのまま郵便局を後にした。

意外と甘く見ていたようだ。
消印が解れば簡単に目星がつくと思っていたのだが。

もう一度葉書きの表面をしっかりと見直す。
消印は間違いなく「黄泉町」と押されているのが読み取れる。
勿論日付の方も・・・。

瞬間、シュラインは目を疑った。

「どうして気付かなかったのかしら・・・。」

消印には、日付が記されていなかった。
元々うっすらとしかインクがついていない消印。すっかり見落としていた。

「これじゃ調べようがないじゃない、全く・・・。」

すっかり頭を抱えてしまったその時、かばんの中で携帯が震えた。
液晶を見る。ステラからだ。

通話ボタンを押し、耳に携帯を持っていったと同時、
何時もの沈着なステラの声が聴こえた。


「消印の黄泉町の場所、解りました。」


―――――


その頃、草間興信所では相も変わらずシケモクをふかす草間の姿があった。
零がデスクの上の荷物を崩れないように整理しつつ、
隙間と言える部分にお茶を置きながら草間に問い掛ける。

「さっき飛び出していったばかりなのにすぐ戻ってきて、お仕事の方は平気なんですか?」

「あぁ。まぁな。」

ぼうっと天井に昇りゆく紫煙を見つめながら答える草間。
草間の態度に、零は首を傾げるばかり。

「いない間にお掃除しよう思ったのに・・・変な草間さん。」

ゆるりとした金曜の昼下がり。
草間の咥えた煙草の薄く舞い上がる白い煙は音も無く消え、
またも灰だけが無駄に延びていた。


―――――


都心の喧騒を一本離れた裏路地にステラの店、古本屋「極光」はある。
何処となく神秘的な門構えの入り口に醸し出される洋風テイストの雰囲気。

そして、人々を避けるかのような静かな面持ち。

その店でシュラインとステラは顔を突き合わせて一冊の和書を見つめていた。

「黄泉町。その名からも推測出来ますように、
 死者が此方の世界と向うの世界を行き来するのに使用している場所のようです。」

「簡単に言えば、アチラさんの仮住まいを示す住所だったってことね。」

・・・結局、草間からの依頼は何時でもこうだ。
必ず幽霊とか、死者とかが絡んできている。今回も特別例外ではなかったと言うだけ。
郵便局で調べて足がつかないのも、正確な日付が入らない事も納得できる事だ。

ステラは淡々と続ける。

「草間様は何か恨みを買うような事でもされたのでしょうか。」


一週間後迎えに逝く。
逝く、とはやはりアチラの世界へご招待という事なのだろうか。
あの文面からはどう考えてもそのように捕らえる事が出来てしまう。

「流石に、彼をホイホイと殺される訳にはいかないわね。」

気持ちを入れ替えるかのように一つ息をつき、シュラインはすっくと席を立った。

「彼の言っていた視線について調べるわ。」

頷くステラ。同時にステラの隣で静かに佇んでいた彼女の使い魔・オーロラも立ち上がる。


「一刻も早く差出人を見つけなくちゃ。」


―――――



「・・・って、折角、気合入れなおしたばっかりなのに・・・。」


草間興信所から一つ角を曲がったところにある公園で、
シュラインはがっくり肩を落とした。

公園には、シュラインにステラ、それにオーロラと、もう一つ人影があった。
二人とは別の人影にはオーロラが未だ警戒心を解く事無く張り付いている。
人影はおろおろとするばかりだ。

隣で拍子抜けしたシュラインを横目に、ステラはまじまじと人影を見つめる。

「まさかこんなに簡単に差出人である貴方様を捕まえる事が出来るとは思いませんでした・・・。」



事と次第はこうだ。

一刻も早く差出人を見つけて、草間に危害を加えるような存在であれば
何かしら対処をしなくてはいけない、と「極光」で気持ちを切り替えたシュラインとステラ。
早速草間興信所の近くまで赴き、草間の存在を視界で確認できる位置にまで来た時。
ふと視線を感じたシュラインが其方の方へ目をやると、何かが電柱の影から此方を見ている。

どう見ても、自分達を電柱の影から盗み見ているように見える。

暫し3人と物影の人物との間に微妙な空気が流れた後、突如逃げ出した人物を
ステラの指示であっという間にオーロラが今いる公園まで追い詰め捕らえたという訳で。


「全く、今日は踏んだり蹴ったりだわ。」

この依頼を受けてから何度目か解らない溜息をシュラインがつく。
夕焼けが綺麗に映える公園にいたからかもしれない。
そんなシュラインが何処となく、何時もより可愛らしく見えたステラが小さく笑った。

「さて、それじゃ早速聞かせて貰いましょうか?貴方が武彦さんにこんな葉書きを出した訳。」

ひらりと草間から受け取った葉書きを人物に見せる。
人物は俯き加減で自分が宛てた葉書きをちらりと見やり、そして小さな唇をゆっくりと開いた。


「・・・じ・・・実は・・・。」



―――――



依頼を受けてから4日後。
外は秋を思わせる空に紅葉の漂う風が気持ちが良い。

「・・・どういうつもりだ。」

事務所の窓から見える景色は心落ち着かせる物であると言うのに、
草間の現在の心中は決して穏やかではなかった。

「どういうつもりかって?」

零が淹れてくれたお茶を飲みながら草間にオウム返しをするシュライン。

「おいしい。」

シュラインの斜め後ろで零がにこっと嬉しそうに微笑む。
そこはかとなく朗らかな空気が其処に流れた。

「決まってるだろう、なんで依頼した次の日から二人が交代で俺の事務所に来て居座ってるんだ。」

「それこそ決まってるじゃない、依頼の調査のためよ。」

間髪いれずシュラインが答える。
だがしかしどうも草間は気に食わない。

昨日も昨日でステラがやってきて、何をする訳でもなく一日自分の傍に張り付いた挙句、

「あと4日ですね・・・。」

などと抜かして帰って行った。
この行動の何処に依頼調査の意図があるのか、草間にはちっともわからない。

それに草間には一つ重要なことがあった。
差出人にちゃんと二人が説得してくれてたかどうか、だ。
それが気になって仕方が無い。

「おい、差出人は解ったのか?ちゃんと説得してくれたか?俺はまだ迎えはいらないぞ。」

あれやこれやと口を出す草間を尻目に、シュラインはすらすらと何かを記している。

「あれ、エマさん何を書かれているんですか?」

零がひょいと後ろから覗き込んだが、すかさずシュラインはそれを閉じた。

「ひ・み・つ。」

にっこりと笑い、今日はこれで帰るわと言いそそくさと帰り支度を始めるシュライン。
そして。

「武彦さん。あと3日ね。」

そういってシュラインは草間興信所を後にした。

零がシュラインの飲み干したティーカップを手際よく片付ける横で、
取り残されたようにポツンと佇むしかない草間。


「・・・あ、あと3日後に本当に『あの子』が来る・・・?」

意味深な発言をポツリと呟いた草間は、
なんとなく、否、直感的に一週間後が恐怖でならなくなってきていた。


―――――


草間興信所を出て、シュラインはすぐにステラに電話をかけた。

「思った通りだったわよ。」

楽しそうに電話口に向って話すシュライン。
彼女の耳は、自分が興信所を出た後の、あの草間の意味深な一言を確実に聞き取っていた。

「やはりそうでしたか。」

ステラも心無しか声が楽しそうに聴こえる。

「あと3日後の武彦さんが見物ね。」

シュラインは想像を膨らませながら、心底楽しそうに微笑むのだった。


―――――


そして。


「今日で一週間ね。武彦さん。」


シュラインが零れんばかりの笑顔で開口一番、草間に言った。
草間はそわそわと落ち着かない様子で突然後ろを振り返ったり、
小さな物音一つ一つに敏感に反応している。

「どうかなさいまして?草間様。」

ステラも今日は何処となく機嫌が良さそうに見える。

「い、いや。何でもない。」

シートに深く腰をかけ直した草間はちらりと目の前の二人を見て言った。

「あぁ〜・・・さ、差出人は勿論見つけて説得してくれたんだよな?」

にへらとぎこちなく笑う草間。
対照的にシュラインの笑顔は何処となく悪戯を帯びていた。

「勿論。説得はしたわよ。」

「ほ、本当か!!」

ばんっ、と机に手をついて身を乗り出す物だから、
その衝撃で不安定に積まれていた書類の束がいくつか床へと落下したが、草間は全く気にしていない。
心底シュラインの発言を聞いてほっとしているようだ。

「そうか、そうか。よかった、差出人は今日は来ないんだな。よかった。」

そうぶつぶつと何度も自分に言い聞かせ安堵感を増幅させている草間。


だが、その次の瞬間。


「武彦さまぁーーーーーーー!!!!」


突如興信所の扉が勢いよく、よすぎて扉の蝶番が外れるほどに開き、
甲高い少女の声と共に物凄いスピードで草間に向って何かが激突した。

「どわぁぁあぁ!!!」

激突の衝撃で草間は後ろへと吹っ飛ばされるように倒れこんだ。
先ほどの書類の束が落下した比ではない。
興信所内の粗方の小物や書類は一気に雪崩を起こして草間と物体に流れ込んでいく。
シュラインとステラの周りは埃が舞い散り、一瞬視界が鈍った。

除々に草間と物体が現れる。

草間に激突した物体は、袴を来た昔の大和撫子のような少女だった。
可愛らしいいでたちに、純日本風の顔。艶やかに延びた黒髪が草間の頬を撫ぜる。

「み・・・みのり・・・ちゃん。」

草間は未だ自分の上に乗る少女に向って蛙を押し潰したような声で名を呼んだ。

「またお会い出来て嬉しいですわ武彦さま!」

起き上がろうともせず、みのりと呼ばれた少女はぎゅう、と草間に抱きつく。
草間は自分の体から血の気が引くのを感じた。
それと同時に、どういうことだと言わんばかりにシュラインとステラを睨む。

「いい忘れたけど、説得はしたけど来ないとは一言も言ってないわよ。ねぇステラ?」

「えぇ、シュラインの言う通りです。」

にやにやと自分を見下ろすシュラインと何時もの冷静なステラが追い討ちをかけた。


「ひ・・・卑怯だ・・・。」


そして、草間は今更になって強烈に押し倒された衝撃が襲い。

「あぁ!武彦さま!?武彦さまぁーーー!!」

遠くでみのりが自分を激しく揺さぶる感覚を覚えながら、草間は意識を失った。



―――――


「・・・じ・・・実は・・・。」

依頼を受けた金曜日の夕方。
公園でみのりを捕まえたシュラインとステラは彼女の口から今回の葉書きの意外な真相を聞いた。

唐堂みのりは、華族の末裔一家に生まれた。
家柄も由緒正しき名門、次期は跡取となるべき存在のみのり。
作法と言う作法を仕込まれ、華道から茶道・書道・舞踊。兎に角全てを仕込まれた。

「だからこんなに達筆だったのね。」

そういうシュラインに、みのりは小さく頷いた。

だがしかし、みのりは幼い頃から体が弱かった。
10を数える頃になっても一向によくならず、家から一歩も出た事がなかったと言う。

何時までたっても良くならない体。窮屈な家。自分も表へ出て遊びたい。
そういう事ばかりを考えていたある日、みのりは自分の体から抜け出す事に成功した。

「生霊」という存在になることを覚えた。

これで沢山遊べる。そう思って飛び出したはいいものの、今度は誰も気付いてくれない。
結局一人ぼっちで、途方にくれていた時。

『独りでつまらないなら、俺が遊んでやろう。』

公園の隅っこで小さくなっていたみのりに、仕事帰りだった草間が声をかけた。
誰も気付いてくれなかった自分に気付いてくれた草間。
たくさん遊んで、空が赤くなってきて。
また一週間もしたら遊んでやるよ、と一言残して草間はその場を去ったと言う。

「素敵でしたわ、武彦さま・・・。」

うっとりとその時を思い出すみのり。

「・・・あの草間様からは想像がつきませんが。」

ステラがすかさずつっこんだ。
シュラインに至っては腹を抱えて笑っていた。

「そ、それでこの葉書きを出したのね。」

指で目頭を抑えながらシュラインが葉書きをみのりに渡すとみのりは小さく頷いた。

「私、もっと武彦さまのことが知りたくて何時も見ていましたの。」

でも、緊張して中々近づけなくて・・・とみのりはもじもじしている。
ステラがふと気になった事をみのりに聞いた。

「草間様はその間、みのり様には気付かれなかったのですか?」

「いいえ、何度も目があったのですけど、武彦さま気付かれないのか顔を背けてしまって。」


二人ともピン、と来た。

若しかしたら草間はこの子供と関わりたくないのではないか。
そうだとしたら、差出人を連れてこなくていいと言ったのにも頷ける。
あのそわそわとした態度も、草間には恐らくこの子供が差出人だと検討がついていたのだ。
だがそれを自分で確かめたくなかったからこうして私達に頼んだ・・・。

全てが一本に繋がった気がした。
同時に、結局面倒ごとを自分達に押し付ける草間に対し微弱な怒りを覚える。

「あの、お二人ともどうかなさいまして?」

みのりがおろおろと問い掛ける。
その時、シュラインががしっとみのりの肩をつかんだ。

「みのりちゃん、一週間後に絶対武彦さんに会わせてあげるからね。」

「ご心配なさらずとも、私達がみのり様のために草間氏観察日記をつけて差し上げます。」

シュラインとステラ。二人の心は一つになった。

嫌がるのならば、とことん嫌がって頂きましょう。
二人は草間に差出人発見と説得についての報告をせず、
毎日草間に一週間後だというプレッシャーをかけてやろうと、この時心に決めたのだった。


―――――


ふと目が覚めると、其処は自分の事務所のソファの上だった。
ぼーっと天井を暫らく見つめた。一体何が起きたのだったろうか?

・・・

「そうだ!み、みのりちゃんは・・・!!」

がばっと起き上がり辺りを見渡してみるが、どうやらそれらしき人影がない。
ついでに言えばシュラインとステラも見当たらない。

「・・・?」

「あ、起きたんですね草間さん。」

零がほうきとちりとりを手にして勝手口から出てきた。
そういえばあれだけ雪崩が起きたにも関わらず随分と綺麗になっている。
それだけ気を失っていたということか。

「机の上にお二方からのお手紙が置いてありますよ。」

そういった零は、未だソファの上で状況を理解できない草間に手紙を渡してやった。
がさがさとその手紙を広げてみる。


『武彦さんへ。

  最初から差出人が解っていたにも関わらず私達に手間をかけさせた仕返しです。
  今度からは自分の不始末は自分で始末してちょうだいな。

                             エマ。』

『草間様。

  みのり様については、私が責任を持って体へと戻しておきました。
  彼女は時期元気になりますよ。その時は気を失ったりせずお相手して差し上げて下さい。
  
                         ステラ・ミラ。』


『武彦さまへ。

  次に会う時は、私、もっと女らしくなって出直してきますわ。
  絶対に待っていらしてね!

                            みのり。』


「・・・冗談じゃないぞ・・・。」

頭痛がしてきた頭を抑える草間に零がきょとんとしている。

「草間さん、なんでそんなにみのりちゃんに会うのが怖かったんですか?」

「なんでも何も・・・見たろ?」

心底困った表情を浮かべて零の方を見やる草間。

「あの子、実はとんでもない馬鹿力なんだよ。あれじゃ俺の体がいくつあっても足りん。」

「まぁ!ふふ、そうですね。確かにみのりちゃん元気でしたもんね。」

零が、みのりが飛び込んできた時に壊した扉を見て笑った。
草間も、それを見て、ほんの少し苦笑いを浮かべた。


「何にしても、みのりちゃんもそうだが、あの二人には更にお手上げだよ。」


手にした手紙をもう一度読み返し、草間はそれをポケットに突っ込んだ。

窓の外は既にオレンジに染まっている。

眩しいくらいの夕焼けの光を浴びながら、草間は手短にあった煙草を一本つけた。


薄く昇る紫煙と、小さな音を立てながら燃える灰を見つめながら草間は小さく微笑んだ。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
1057/ステラ・ミラ/女性/999歳/古本屋の店主




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初めましてコンニチハ!采樹と申します。
此度は発注本当にありがとうございました!
ちょっとした此方の都合で納品がぎりぎりになってしまい申し訳ないです(汗)
しかも色々と書き足りない部分も多く、あまり完成度が高いとはいえませんが
こんなものでも楽しんでいただけるならば幸いと頑張りました。
一応、所々(別行動の所とか)は視点が変えてあります。
どうぞこれからもこんな私ですがよろしくご贔屓に☆