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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


秋とお茶会と惚れ薬
<オープニング>
 深夜、雫は真剣な様子でキーを叩いていた。
「出来た、と」
 雫が掲示板に書き込みをするに至った理由は、一日前にさかのぼる。

 通販で雫は小さな電気ポットを手に入れた。
 ただのポットではない。おまじないのポットだ。
 買う前の段階では何のおまじないかが明記されておらず、ただ良い効果があるとだけ記されていた物を、雫が勢いに任せて注文したのだった。
 翌日、雫はそのポットで沸かしたお湯を使い、紅茶を入れた。
 一口飲み、雫は窓を見る。目の前を男性が通りかかった。
 そこで、雫の記憶は途絶え、気付いた時にはその男性に抱きついていた。
 ……惚れ薬の効用があるポットだったのだ。
 ポットと一緒に届いたカタログを読むと、確かに惚れ薬の効用があると書かれている。
 腹を立ててポットを割ろうとしたものの、さすがは雫、ゴーストネット掲示板に書き込むことを思いついた。

 『だんだん寒くなってきたし、ここのカフェを貸切にしてみんなで集まってあったか〜い飲み物でも飲みながらお話しない〜?コーヒーでもココアでも紅茶でもお好きなのを雫直々に入れるよ☆何が飲みたいか教えてね』

「えへへ☆あのポットを使って、みんなを困らせちゃおっと!」
 果たして雫の思惑通りに行くのだろうか?
 最後まで効力に振り回されるのか、途中でからくりに気付くのか、逆に効力を利用するのか、雫も巻き込まれるのか、それは誰にもわからない。

+おまじないポットのカタログより抜粋+
○ポットで沸かしたお湯を使った飲み物を飲むことで効力が発揮されます。
○飲めば飲むほど効力は持続します。
○同性異性関係無く、飲んでから最初に見た人物に反応を示します。
○飲みすぎた場合は、お吐きになるかポットを壊す等対処してください。効力は消えます。
○この商品は、ご自分で使用される以外に、様々な用途に使えるかと……。



「今日は来てくれてありがと☆虎之助さんが一番乗りだよ♪」
「早く来たのは当たり前ですよ、女性を待たせるなんて失礼ですから」
 湖影・虎之助(こかげ・とらのすけ)は、陽だまりのような微笑を浮かべる。
「あは、ありがと☆今日はね、とっても楽しくなるよ」
 雫も虎之助と同じ位微笑んで答える。
「そうですね。あ、お茶会用にお菓子を焼いてきたんですよ」
「わぁ、虎之助さん料理系得意なんだね、ありがと! 虎之助さん入って待ってて☆」
 雫は超のつく程の美形な虎之助を見て、惚れ薬の効果を想像しては面白そうに笑いをかみ殺す。
 虎之助が店内に入ってすぐ、また入り口のドアが開き、あどけない顔をした活発そうな男の子が入ってきた。ファレル・アーディンだ。
「ファレルさん、こんにちは☆」
 さっきからずっと笑顔でいる雫は、大きな声で挨拶した。
「こんにちは。面白そうだから来たよ☆」
 ファレルは、有名洋菓子店のシュークリームを持っている手の方を、少し高く上げてみせる。
「お茶受け良さそうでしょ。ここのシュークリーム俺のオススメ」
 虎之助は、来たのが女性だったら、椅子を引いて席を用意しようとしたが、男だったのでそのまま座る。
 男に優しくするのは、虎之助の美学の範囲外らしい。

「ねぇ、もっと速く歩こうよ〜」
 朧月・桜夜(おぼろづき・さくや)は何歩か歩いては振り向き、瀬水月・隼(せみづき・はやぶさ)を急かした。桜夜が振り向くたび、茶色の髪と白いスカートが風に一瞬舞う。
「お茶会に遅れちゃったら困るでしょー。せっかくアップルタルト作ったのに冷めちゃったら美味しさが半減しちゃうよ」
「いや、別に俺が行きたいと思ってる訳じゃないだろ」
 ――大体、お茶会なんて胡散臭くないか?と続けようとしたが、直前で隼はその言葉を飲み込んだ。
 桜夜がムッとした表情で隼を見たからだ。桜夜は無意識にだろうが、少しだけ頬を膨らましていてなんだか愛らしい。
「この前の買い物だって付き合ってくれるって約束だったのに隼、寝過ごしたよね。今回も遅れるなんて、アタシ嫌なんだからね」
「……わかったよ」
 隼が頷く前に、桜夜は隼の腕を掴み、大股に歩いてカフェへと向かうのだった。
「あ、こんにちは〜今日は来てくれてありがと☆もう二人来てるよ」
 雫は隼と桜夜を満面の笑顔で迎え、桜夜は虎之助にも笑顔で迎え入れられた。
 桜夜は愛らしさのある顔をしているが、身体は男である。とはいえ遺伝子的には女性であるし、少女の格好をしているので、虎之助は桜夜を女性と判断したのだった。
 隼はわざと視線をそらす。虎之助の女性に対する優しさは「女性には優しくするものだから」という考えから来ているものなので、いやらしさは全く無いが、隼的には少々複雑なようだ。
 そしてその人間模様を、ファレルは椅子に座ったまま見ていた。
「複雑っぽいけど、傍から見てる分には楽しいからいっか☆」
 ちなみに当の桜夜は隼の小さな嫉妬には全く気付いていないのだった。

「じゃあ、みんな何が飲みたい〜?」
 雫は、クリスマス近くの子供のように待ちきれない様子だ。
「俺、ココア欲しい」
 早速ファレルがオーダーする。隼が繋げる。
「じゃあ、俺はブラックコーヒーで。桜夜は?」
「ん〜アタシは紅茶がいいなァ。あ、雫ちゃん、この茶葉使ってくれる?オススメなんだァ」
「おっけぇ☆虎之助さんは〜?」
「俺は紅茶がいいですね、ストレートの」
 と言いつつ、虎之助は椅子から立った。
「あ、手伝ってくれるの?」
「勿論ですよ。雫ちゃん一人でやらせる訳にはいかないですよ。えっと、桜夜さんは紅茶ですよね」
「待って。俺らの分も忘れないで下さいよ」
 野郎のことは知らん、とでも言いたげに、そのまま奥へ行こうとする虎之助へ、ファレルが突っ込みでもいれるようなノリで言う。
 あはは、と雫が笑う。
「大丈夫、絶対みんなの分淹れるから☆……あれ?飛び入りのお客さんだね、こんにちは〜」
 みんなが入り口付近を見ると、高校生位の女の子が入って来るところだった。ポニーテールにしている後ろ髪が少し揺れている。
「あー喉渇いたわー何でもいいからお茶一杯淹れてんかー」
 飛び入りで参加して来た南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)は明るい声で注文すると、余っている椅子に座った。
「うん、いいよ、じゃあ桜夜ちゃんと同じの淹れるね」
「美味しいように淹れますね」
 虎之助は笑顔で言うと、雫と一緒にポットのところへ行き、お茶を淹れ始めた。
「随分可愛らしいポットですね、雫さんが選んだのですか?」
 虎之助の言葉に雫がピクリと身体を震わせた。
「えっ!?えーと……うん、まぁ……そんなことより早くお茶淹れようよ。ね、ね」
 雫が急いだため、すぐに五人分の温かい飲み物は持ち寄ったお菓子の隣に並べられた。
 テーブルは円形であり、席の並び順は右周りに雫、天音、桜夜、隼、虎之助、ファレルである。
「じゃあ、とりあえずお茶会の始めに、みんなで飲も〜」
「あ、ねェねェこういう時は、かんぱーいって言おうよォ」
 桜夜が提案する。そうだね、とファレルが賛成した。
「かんぱーい!!」
 雫の声に五人はカップを手にとり、口元へと持っていった。
 ファレルと隼は一口程、虎之助は二口、桜夜は紅茶が美味しくてたまらないらしく、一気に飲み干してしまった。
 そして、それぞれが相手を見ながら話し掛けた。
 桜夜「あーやっぱり美味しいっ。これって茶葉もいいけど、やっぱり淹れてくれた人のお陰でもあるよねェ。ありがと、虎之助さんっ」
 隼「桜夜、お前なぁ……」
 ファレル「甘さも丁度いいよ。雫ちゃんありがと☆」
 虎之助「おいお前のココアを淹れてやったのは俺なんだ、俺に礼を言え」
 次の瞬間、彼らの視線の先にいる人物の後ろで光が見えた。
 この光が、一目ぼれの輝きを表しているのだと当人達が気付くのにそう時間はかからなかった。

「アタシ、虎之助さんの隣に座る〜!!」
 桜夜は立ち上がって椅子を持つと、隼と虎之助の間に自分の席を割り込ませた。
「他の人になんて渡さないも〜ん」
 虎之助の腕を掴んで、しなだれかかる。その様子に、隼は黙っていられなくなった。
「おい桜夜、お前何してんだよ!」
「何よォ、邪魔しないでよ。隼なんかに虎之助さんは渡さないわよ」
「そうじゃないだろ、馬鹿!!」
 惚れ薬の効力も手伝って、隼は桜夜の腕を引っ掴んで虎之助から離そうとした。
「は、な、れ、ろおおおおおおおお!!!!!」
「い、や、だァ、やめてよっ ねェ、虎之助さん、隼のことは無視してアタシが作ってきたアップルタルト食べなァい?」
 虎之助の胸元にひっついている桜夜は、タルトを手に取り「あ〜ん」と言いながら虎之助の口へ持っていった。
 だが、虎之助の視線は、タルトでも桜夜でもなく、別な人物に注がれていた。
 他の女性に対しての気配りを忘れてしまう程、虎之助の胸の鼓動は早くなっていた。
「すみません、桜夜さん」
 そう残すと虎之助は席を立った。桜夜も立ち上がりかけたが、隼につかまってもがいていた。

「なんかさぁ、今日の雫ちゃんっていつもより可愛いよね」
 ファレルは雫を眺めながら言う。変だな、確かにさっきまでは今までと変わらない雫ちゃんに見えていたのに。
 そう思いながらも、ファレルは、ココアが美味しいから多少変なこと位気にしないようにしよう、と心に決めた。
 だが、それでも時々は雫の方を眺めてしまう。
「あぁ〜俺、どうしちゃったんだろ……」
 ファレルがカップを覗き込むようにして、自分に対し不思議がっていると、目の前に人の気配を感じた。
 見上げると、ファレルの前には虎之助が立っていた。
「ファレルさん、もしや貴方は雫ちゃんのことを好いているのですか?」
「……今日は何だか変ですけど……いつもはそんな好いているとかいないとかじゃないですよ」
「それは良かった」
 さっきまで男のことをぞんざいに扱っていたのに何でこんなに丁寧な口調になってるんだ?とファレルは思う。
 しかも、虎之助はあからさまに喜んでいる。ファレルは嫌な予感を感じ、思わず敬語が解ける。
「何であんたが喜ぶんだよ」
「それはやはり、ファレルさんが魅力的なので……」
「大体なんであんたが俺の目の前に立ってるんだよ、元々隣に座ってたんだからそのまま話し掛ければいいじゃないか」
「貴方のお顔をもっと近くで拝見したかったのです」
 虎之助は肩膝を立ててしゃがむと、ファレルの左手を手にとった。
「これ程魅力的な方とお会いしたのは初めてです……」
 台詞以上に、虎之助の表情や声のトーンから情愛が溢れていく様子を察することが出来た。
「はっ 離せよっ!!」
 ファレルは青ざめた顔で虎之助の手を払いのけた。

 雫はホッと身体の力を抜いた。
「ファレル君が私に惚れるのは計算外だったけど、虎之助さんにつかまったし、安心して見られるなぁ♪普段はマトモな四人がこんなになってるんだもん〜」
 と言いかけて、雫は気付いた。一人、足りない。
 天音はどうしたのだろう。
 雫が天音を見ると、天音はカップを覗き込みながら、まだ口をつけていないようだった。
「どうしたの〜天音ちゃん。喉渇いてるんでしょ、飲みなよ〜♪」
「や、そうなんやけど……何か引っかかんねん」
 天音はカップに入った紅茶を更に注意深く覗きながら言う。
 雫はギクリとする。
「気のせいだよ〜ほら、飲みなよ〜」
「ん〜そやね。飲も」
 天音はカップを口に近づけた。
 雫が「よしっ」と思ったその時、
「あ!!」
 天音が大きい声を出してすぐカップをテーブルに戻した。
「な、何?」
「さっきから何や変や思とったけど、上見てぇな、電気が消えかかっとんねん。紅茶飲もうとして、妙に濃く感じとったんやけど、光のせいやな〜」
 雫が上を見上げると、確かに蛍光灯の一つが点滅し始めている。
「あ、じゃあ私が付け替えておくから、天音ちゃん飲んでなよ〜」
「馳走になるわ」
 天音は再び、カップに手を伸ばし――……
「雫ちゃん、これもう冷めとるわ。すんまへんけど、淹れ直してくれへんか?」
「え?…………うん」
 雫はキッチンへと向かった。
 天音に意地でも紅茶を飲んでもらうことを誓いながら。

「ねェ、虎之助〜いつまで待たせるのォ」
 桜夜は惚れ薬の効力が絶頂に達しているのか、虎之助に対して呼び捨てになっている。
 虎之助の背中に抱きつくと、手を前へ回しタルトを虎之助の口に入れた。
「美味しい?でもねェ、タルトなんかよりアタシの方が美味しいんだから☆や〜ん恥ずかしい〜!!」
 桜夜が歓喜のため更に虎之助に抱きつく。
 隼には大変気に食わない光景である。
「何だよ、こんなもん」
 残っているタルトを桜夜から奪い取ると、隼は一気に自分の口に放り込んでしまった。
「何すんのよォっ!!」
 近くで激しい争いが繰り広げられているにも関わらず、当の虎之助は瞳に熱を宿し、ファレルを口説いていた。
 ファレルが桜夜達を横目で見ながら
「タルト美味かったんだろ、俺なんかのところにいないであっち行けばいいと思うけど。あっちはタルト以上に美味しいって言ってるし」
 と言っても
「タルトは確かに美味しかったですし、彼女もとても魅力的ですが、貴方は俺にとって『食べる』という言葉を使うのもおこがましい程の魅力を持っているんです。俺は貴方の傍から離れられない。だからそんなに嫉妬しなくても大丈夫です、安心してください」
 と返してくる。
「待て。俺がいつ嫉妬したんだよ」
「俺が桜夜さんのところへ行ってしまうのを恐れているんでしょう?」
「ノシつけてやりたい位だよ!!」
 ファレル自身も惚れ薬が効いているので、この状況を不思議に思わない。
 ただ状況があまりに自分に対し信じがたいものなので、口が悪くなっているようだった。

「はい☆天音ちゃん、淹れ直したよ〜」
 カップに、これでもかという程紅茶をなみなみと注いで、雫が戻ってきた。
「すまんなぁ。頂きますわ」
 天音はお礼を言う。
「お礼なんていいから、早く飲……」
「あ、あのお菓子美味しそうやなぁ」
「え?!あ……あれは虎之助さんが持ってきたのとファレル君が持ってきてくれたお菓子だよ。食べる?」
「じゃあ、ちょっとだけもらいますわ。雫ちゃんも食べたら?」
 天音と雫はお菓子を少しだけつまんだ。待ってましたとばかりに雫が突っ込む。
「お菓子だけ食べると消化に悪いから、紅茶も飲んだ方がいよ☆」
「そやね。雫ちゃん、気がきくわぁ」
「えへへ……」
「あ、でも、雫ちゃんもお菓子食べたんやから、何か飲まんと」
「へ!?」
「あーそういえば、雫ちゃんの飲み物ないやん。淹れてきた方がいいんちゃう?」
「え……でも」
「あーそや、今思い出したわ。うち、オススメの茶葉持ってきてんねん!!よっしゃ、ここはうちが雫ちゃんに淹れたるわ」
「え!?いいよっそんなのっ」
「何言うてんねん、遠慮せんでええよ。それにしても他のみんな元気やなぁ。何かいいことでもあったんかいな」
 茶葉を持ち天音がキッチンへ行くのを、雫は絶望の目線で眺めていた。

 高い金属音が、隼とファレルの脳裏に響いた。
 惚れ薬の効果が消えたのだ。
「あれ……俺どうしてたんだ?」
 二人は同時に思ったが、目の前にあるのは、桜夜が虎之助にくっついている光景と、その虎之助がファレルに言い寄っている図である。
 効力が切れたので、何か変だと思うのだが、反射的に隼は桜夜を引き離しにかかりファレルは虎之助から逃げた。
「ねェ虎之助、もっと静かなところに行こうよォ〜」
「桜夜、お前がまず言動を慎め」
「ファレル、待ってくれ」
「寄るな寄るなっ」
 騒ぎがどんどん大きくなる中、天音は上機嫌で、テーブルの上に雫の分の紅茶を置いた。
「はい、淹れてきたで。めっちゃ美味しいんやで、飲んでみ」
「え……うん。あ、でも天音ちゃんも一緒に飲もうよ!!」
「そうやね、二人で一緒に飲もうか」
 天音はそう言って、自分のカップに触れたが、すぐに否定した。
「あかん、これ冷めとるわ。うちのは後で淹れ直すから、先に雫ちゃん飲んでくれへんか」
「え……」
 天音はじっと雫を眺め、紅茶を飲むのを待っている。
「じゃ、じゃあちょっとだけ……」
 雫は一口だけ紅茶を飲んだ。
「美味しいやろ?」
「うん……」
「どうしてうつむいとんねん?」
「ちょっと気分が……」
 雫は効力が切れるまで、誰も見ないようにしようとしているのだ。

「もう追ってくるなよっ」
 ファレルがいくら罵声を飛ばしても虎之助は追いかけてくる。鬼ごっこか何かと勘違いしているらしい。
 しかも足なら虎之助の方が速い。
 虎之助はファレルに追いつくと、思い切り強くファレルを抱き締めた。
 その瞬間、虎之助の耳にキーンという音が流れた。
 惚れ薬の効力が消えた虎之助は、自分がファレルに抱きついているとわかった途端に叫んだ。
「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!」
 思わず、ファレルを突き飛ばした。
「何すんだよ、あんたが勝手に惚れたくせに」
「変な言い方するなっ!!気色悪い、誰が野郎なんかに……」
 落ち込んだあまり、虎之助はつまづき、近くにいた雫を突き飛ばす形になってしまった。
 虎之助は慌てて雫を抱き起こした。
「雫ちゃん、大丈夫!?」
「虎之助さ……あ」
 雫の記憶はここで途絶えた。

 結局、雫は冷静さを失い、その間、ファレルと隼は自分らがおかしくなった原因を探っていた。
 天音は事情を知ってか知らずか、周りをふらふらと移動していたが、ふとキッチンに置いてあったカタログを手にとった。
「なんやこれ?」
 そのカタログにはポット以外にもまじないの効果があると言うオーブンやフライパンなどが載っており、どれも怪しい雰囲気を醸しだしていた。
「明らかにこれが原因だよ。ポット以外にもオーブンまであるんだね」
 ファレルが呆れたように言うのと同時に、隼がポットを叩き割った。
 因みに桜夜は未だ惚れ薬が効いているので、隼はポットを割る時も左手で桜夜をつかんでいた。
 虎之助は、雫に「こんなことしちゃ、もう駄目だよ」と諭し、雫は「虎之助さんの言うことなら聞く」ということで承諾し、各々家についた。
 桜夜は隼に引っ張られて帰っていったが、隼は機嫌が悪いらしく「惚れ薬の話は桜夜が元に戻った後で、よーく話しておく」とのことだった。

 その晩、五人の元に雫からメールが来た。

 今日はみんなを騙そうとして、本当にごめんね。反省してます。
 でも、反省してるっていくら口にしても、みんなには伝わらないんじゃないかなって思ったの。
 そこで、来週の日曜日にお菓子パーティーをしようと思います。
 ケーキでもクッキーでも、雫直々に焼いてあげるね☆
 是非是非、来てね!!雫より☆

 明らかに罠だ。

終。
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0689/湖影・虎之助/男/21/大学生(副業にモデル)
 0444/朧月・桜夜/女/16/陰陽師
 0072/瀬水月・隼/男/15/高校生(陰でデジタルジャンク屋)
 0576/南宮寺・天音/女/16/ギャンブラー(高校生)
 0863/ファレル・アーディン/男/14/中学生

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■         ライター通信          ■
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「秋とお茶会と惚れ薬」へのご参加、真にありがとう御座います。佐野麻雪と申します。

皆さまはじめまして。
今回はドタバタとした話なので、色々と人格が崩れてしまった部分が目立ってしまいました。
それでも、皆さまそれぞれに気に入っていただけた個所があったなら非常に嬉しく思います。

南宮寺天音様
偶然が重なり(笑)紅茶を飲まずに終わりましたが、この偶然が重なるシーンは書いていて非常に面白かったです。
自然な感じに仕上がっていると良いのですが……。


感想等ありましたら、お気軽に……。