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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


星と闇と口裂け女の夜

 錦糸町。
 東京にある華やかな繁華街の一つである。
 この街に最近、「口裂け女」が出るという噂があるという。
 
「どう?」
 魅惑的な意思の強い瞳に、至近距離で見つめられ、三下はごくりと喉を鳴らす。
「…ど、どうって…取材してこいってことじゃ…」
「そうよ?」
 碇麗香は、ふぅと溜息をつく。
 
 錦糸町で最近起こっている殺人事件。
 喉をかききられたり、心臓を刺されたり、それは「鎌のような刃物によって切りつけられた死者」だった。
 そして犯人は黒いドレスを着た長い髪の女であるという。

「錦糸町には、錦糸公園という広い公園があるの。そこでの目撃情報が多いみたいね、そして死体もそこで二体発見されているわ」
「確か、錦糸町の口裂け女は外国人という話を聞いたような、三下さん英語は大丈夫?」
 近くのデスクの記者が軽口を叩くように口を出してきた。
 三下はぶんぶんと首を横に振る。
「大丈夫よ。たどたどしい日本語を話すって話もあるから。「シャチョサン…ワタシキレイ?」というそうよ」
 麗香が微笑む。
「危険が伴うからくれぐれも気をつけて行くのよ…」
「いつになく…優しげな碇編集長も怖いです〜〜〜〜」
「あん? 何か言った?」
 ぎろりと見下ろされ、「うきゃぁ」と騒ぎながらも、ちょっぴりほっとする三下だった。

■ 
「むー」
 巫・聖羅は、自宅のアパートで、ベッドに寝転びながら、貯金通帳とにらめっこしたまま難しい顔をしていた。
 柔らかそうな薄い茶色のふわふわの髪に、猫を思わせるような印象的な大きな瞳。その端正なパーツどれ一つとっても、美少女には間違いない彼女は、現在、金銭問題で頭を抱えているのだった。
「ガス代でしょ、電気代、・・・水道代はともかく・・・んーっと、問題なのは家賃だわ」
 勢いよく起き上がると、溜息をつく。
 彼女はまだ17歳。女子高生でもある。
 しかし、親元から離れ、仕送り無しでの一人暮らしを敢行している彼女には、もう一つの裏の顔がある。
 ちらりと恨めしそうに聖羅に睨みつけられた電話が、呼ばれたかのように勢いよくなり始めた。
「もしかして、お仕事!?」
 クールな彼女には珍しく、機嫌よく受話器を持ち上げ応対すると、それはまさしく月刊アトラスの編集長からの依頼の電話であった。
「こないだ何かいい仕事があったら教えて、って言ってたから思い出したの」
「グッドタイミングよ」
 聖羅は麗香の声に頷く。
「報酬は弾むけど、少し危険な依頼だわ。大丈夫かしら?」
「そうなの?」
 財布の都合的にはますますOKだ。
 しかし、麗香の口から「口裂け女」の名が出ると、聖羅の表情は少し曇った。
「ほんとにヤバそうね‥‥」
「どうする?」
「いいわ、任せて。三下さんと取材をすればいいのね。これから錦糸町の駅に向かうわ」
「ああ、待って。これから言う人と待ち合わせをしてもらってもいいかしら? 三下はもう取材に先に出てるから」
 麗香は告げると、と「深奈・南美」(みな・みなみ)という女性の名を聖羅に告げた。

■■
 深奈・南美は、錦糸町の駅前に立っていた。
 鮮やかな紫のスーツを身につけ、金のブレスレット型の腕時計を覗き見る。すらりとしたモデルのような均整のとれた体系、髪は短くカットされ、形よい耳には金のイヤリングがゆれている。
 何か声が聞こえた気がして、ふと振り返ると、近所の女子高生達が彼女を見ながら何か騒いでいる。
 嫌な気分で耳を澄ますと、「ホストかな〜?」と「バンドの人かも〜?」と言っているようだ。
『…正解は美人OLでした♪』
 心の中でそっと呟く。
(本当は怖い取立て屋のお姉さんなのよ〜。人を指差して騒ぐのはやめなさい〜)
 さらに心の中で彼女達にお説教をしていると、駅の方からツインテールの猫のような瞳の少女が辺りを見回しながら歩いてくるのが見えた。
「あの子ね‥‥」
 南美は寄りかかっていた時計塔から身を起こすと、彼女に向けて手をかざした。
 少女はそれに気づくと、ふわりと微笑み、駆け寄ってくる。
「あなたが、巫・聖羅さんね。麗香から聞いてるわ」
「こちらこそ。よろしく」
 二人は視線を合わせると、早速、錦糸公園の方に向かって歩き出した。

■■■
「えと、すみません。月刊アトラスという雑誌の者なのですが、取材を少しさせていただけませんでしょうか?」
「悪いが、兄ちゃん。営業中だからな、またな」
 バタン。
「営業中って、そちらの営業は確か夕方5時からだと‥‥」
 しーん。
 ドアの前で立ち尽くし、御子柴・荘(みこしば・しょう)は、小さく息をついた。時計はまだ16時を指している。
 人の良さそうな優しい顔立ちの21歳の青年である。何でも屋を営むという彼は、やはり事情を知ってそうな者に話を聞くのが一番。と、外国人女性が多く勤めるお店を中心に話を聞きに回ったのだが、軒並み取材拒否されていた。
「やっぱり正攻法ではどこも取材に応じてくれないみたいですね‥‥」
「そうだね〜‥‥」
 彼の横には、へとへとに疲れた三下がいる。
「どうしたものでしょうね」
 荘は形良い顎に手の平を当て、そっと宙を見つめる。
「‥‥そうだ。三下さん、公園に行きましょう」
「公園って‥‥錦糸公園?」
「そうです」
 荘は三下を引っ張るように錦糸公園の方向に向かって歩き出した。

 錦糸公園はJR錦糸町の駅から歩いて15分程。駅前の賑わいからすると、かなり静かな場所にある。
 ジョギングコースの林に囲まれた広大な公園で、事件の影響もあってか、あまり人気はない。
 荘は三下を伴って、公園を見回るように歩くと、何かを見つけて走り出した。
「な、な、な、どうしたのっ?」
「取材ですよ、三下さん」
 荘が見つけたのは、ホームレスの男性だった。
 公園のベンチの上に、ぼろ布を纏いながら座り込んでいる男性に、荘は近づいて声をかけた。
「こんにちわ。すみません、少しお話宜しいでしょうか?」
 男性はぎろりと視線だけ彼に向けて、溜息をつく。
「なんだ」
「この公園で最近起こってる事件について調べてるんです。‥‥何かご存知ないですか?」
「‥‥知らん」
 ふい、と男性は顔を背ける。 
 荘は微笑して、手に提げていた袋から、焼酎の小瓶を取り出した。駅からここに向かう途中にあるコンビニエンスストアで購入してきたものだ。
「宜しければいかがですか? 夜は寒いでしょうし、温まりますよ?」
「ん‥‥」
 男は焼酎に目を向け、ふと奪うようにそれを取り上げた。そしてそれを大切そうに、自分の紙袋にしまうと小さな声でぼそぼそと呟いた。
「‥‥町でも話を聞いたのか?」
「ええ。でも、取材拒否されてしまいました」
「だろうな‥‥」
「何かご存知なのですか?」
「殺された連中は、みんなこの町に住むヤクザだよ。外国の女ばっかり雇う店を経営してる連中さ」
「‥‥そうなんですか」
 荘はメモを取る三下を振り向きながら頷いた。
「外国の女にひどいことばかりしているから、バチが当たったのさ」
 男性はへへっと歯を見せて笑った。
「ひどいことですか‥‥。やはり、口裂け女は外国人の女性で間違いないのですね」
「見たことは無いが、そうじゃないのか。この町で姿を消す女はたくさんいるよ‥‥。こんな歌知ってるか?」
「歌?」
 男性はしわがれた声で、かぼそく歌い上げた。

「この町で消えた女を知ってるか
 王芙蓉に金春海。海を越えてやってきた。
 家族思いの孝行娘。稼いだお金はみんな故郷へ送ってた。
 笑顔の可愛いあの娘たち。
 今は海の底に眠る娘たち」

「中国から来た女性たちが、こっそり歌い継いでる歌だ。消えた娘はその二人だけじゃないだろう。あんたたちもあまり知り過ぎないほうがいい。日本人だからって何をされるかわからない‥‥からな」
「肝に銘じておきます」
 荘は男性に丁寧にお辞儀をし、三下と共に彼と別れた。
 何かざわざわという不吉な胸騒ぎが、彼の中に渦巻いていた。

■夜の公園 20:00
 再び彼らが公園に集合したのは、すっかり暗くなってからだった。
 南美と聖羅は、公園を一度訪れ、下見を済ませた後、口裂け女の目撃者などを求めて、公園の付近の人々に話を聞いていた。
「最近だと、あまり夜にこの公園を行く人はいないそうよ。でも、目撃した人は多いみたい‥‥」
 言いながら南美は、狙われている被害者が、やのつく職業の者ばかりと聞いて、表情をやや強張らせていた。
 彼女はもちろんその職業の者ではないが、闇金融の世界にも足を踏み入れている者として、なんとも複雑な気分である。
「赤いドレスを着けて、長い鎌を持って、追いかけられたって人もいるみたい」
 聖羅はその様子を気にしながら、必死にメモを取る三下に告げる。
「長い鎌…ですか」
 ふーむ、と息をついて、荘が聞き入る。
「口裂け女さんが出るまでにはまだ時間があるかな。事件が起こってる時間は、22時以降が多いみたいですし」
「そうね」
 南美は答えて、スーツのポケットから折り畳みの携帯電話を取り上げた。携帯電話を開き、その液晶の画面を眺めて、ふと何かに気づいたように見入った。
「‥・・あら、でも、反応が出てるみたいだわ」
「どうかしましたか?」
 荘が尋ねると、南美は微笑み、自分の携帯電話を荘に見せた。
 普通の携帯電話に見える。
「ん、これが何か?」
「ここよ」
 南美は、マニキュアに彩られた指で、液晶画面の上の方を指差した。電波状況を示すアンテナが1本ついている。
「これは霊波を調べる携帯電話なの。・・・・ちょっと調べてみましょう」
 そういうと、南美は携帯電話を見つめながら、公園の中央に向かって歩き出した。
「私も行くわ」
 聖羅が面白そうに言い、彼女の後を追っていく。
「・・・・??」
 まだ理解できていない荘と三下も、二人の後を追いかけることにした。

 携帯をかざしながら、南美は公園の中央に行き、そして西の方を眺めた。
 液晶のアンテナが1から2に変わる。
「近いわね」
「・・・・いそう?」
「まだわからないけど」
 聖羅に答えて、南美は西に向かって歩き始める。
 2本のアンテナは消えていない。3本目のアンテナまでが点灯を始めた。
「この近くに・・・・いるわね」
 ごくりと喉を鳴らし、南美は呟く。聖羅は辺りを警戒するように目を配った。それらしき影はまだいない。
 荘と三下も、その後ろからただならぬ雰囲気を察したのか、表情を硬くしている。
「どこかしら・・・・」
 聖羅が呟いた、その瞬間。
 元気の良いメロディが突然響きわたった。「エリーゼのために」だ。
「・・・・!!」
 南美は、自分の手の平の中の携帯電話を見つめた。着メロに選んでいた曲だった。
 そして恐る恐る電話に出る。
「・・・・もしもし?」
『・・・・ワタシ、キレイ?』
 ひんやりとした声が、彼女の耳元で響いた。
「わあああああっっ」
 叫んだのは三下だった。携帯電話を耳にあてる南美の真後ろに、赤いドレスのマスクをかけた女が長い鎌を構えて、彼女に今にも襲いかからんとしていたのである。
「危ないっっ」
 荘は叫び、構えの姿勢をとりつつ、彼女を後ろに庇おうと前に出た。だが。
 南美の指が動いた。親指と人差し指で銃の形を作る。瞬間、ドンと大きな音が響いた。
 同時に口裂け女が仰向けに倒れる。
「えっ」
 荘が振り返ると、南美は、指銃の先を天に向けて、くすりと微笑んだ。彼女の二つ目の能力、「指の銃まから衝動波を発生させる」を行使したのである。
「やりますね」
 荘が目を細めた。南美はウインクを彼に返し、そして口裂け女に両手で銃の形を作り、その銃口を向けながら告げた。
「甘く見ないでね」
「・・・・ま、待ってください」
 荘は慌てて、南美の銃を止めた。
「少し話を聞いてみたいです」
 荘は、南美に言うと、倒れている口裂け女に近づいた。
 口裂け女はマスクを抑えながら、ゆっくりと立ち上がる。そして、南美をじろりと睨んだ。
「な、なによっ。わたしは違うわよっ」
 怒鳴る南美の前に出て、荘は口裂け女に優しく笑いかけた。
「外国の方ですよね? どうしてこんなことされるのです?」
「・・・・ワタシ・・・・キレイ、デスカ?」
 口裂け女は小さくぽつり呟いた。
「ワタシ・・・・キレイ、デスカ? キレイ、デスカ?」
「お願い、教えて?」 
 今まで黙って見守っていた聖羅が、荘の横に出た。
「私のこと信じて。ね、あなたのことを知りたい」
 聖羅の能力は、「反魂屋」である。死者は彼女の領域だ。彼女は霊に言い聞かせるように、ゆっくりと告げる。
「・・・・」
 口裂け女は聖羅を見つめた。そして哀しそうにその瞳に涙を浮かべて、呟いた。
「クニノ・・・・ヒトハミンナ‥‥ソウイッテクレマシタ‥‥キレイ、キレイッテ‥‥。ダカラニホンニコレタ‥‥ウレシカッタ、トテモ」

 彼女の意識が流れこむように、彼らの意識に届いた。
 それは彼女の過去の景色。まだ故郷の国にいたとき。彼女は村の希望の星だった。
 可愛らしく美しく、歌もダンスも村一番。周りの人は皆、彼女を愛していた。愛にあふれた場所で、彼女は育ち、彼女を愛してくれた人を助けたくて、日本にやってきた。
 けれど、夢に希望に満ち溢れた彼女が降り立った東京の街は、けして彼女に優しくなかった。
 
「モウ‥‥カエリタイ‥‥カエリタイ‥‥ニホンキライ‥‥デモ‥‥パスポート、ナイ‥‥」
「帰れるわ」
 聖羅は彼女に告げた。
「魂は自由。どこにだって行ける。パスポートなんていらない」
「‥‥」
 驚いたように女は聖羅を見つめ返した。そして、またぽつりと繰り返す。
「ワタシ、キレイデスカ‥‥コレデモ、キレイトイッテクレマスカ‥‥」
 彼女は自分のマスクに手をかけた。はらりとその白いマスクがはがれていく。
 そこには、裂けた口ではなく、赤黒く腫れ上がった、痛々しい顔があった。鼻は折れ、皮膚は裂け、赤黒い瘤と青い痣で溢れている。
「!!!」
うきゃー、と叫び、三下が倒れたのが物音でわかる。
 だが、聖羅は表情を背けるわけにはいかなかった。
「大丈夫、故郷に帰れば傷も治る。‥‥国に戻って、そして、幸せに生まれ変わるのよ。あなたの故郷の人は、みんなあなたに感謝してる」
「‥‥カエレル」
 女の目元から、ぽろぽろと涙が溢れた。
「帰れますよ、大丈夫」
 荘も後押しするように、彼女に告げる。その横で南美も黙って頷く。
 女は三人を見回し、小さく頭を下げた。
「アリガト‥‥ゴザイマス・・・」
 彼女はそう呟くと、その場から空気に溶け込むように消えていく。最後に優しく微笑んでいるように見えたのは、気のせいだろうか。

「終わったのかな・・・・」
 ポケットに手を突っ込み、荘は微笑んだ。
 人を何人も殺した凶悪な口裂け女にしては、結構呆気ない解決だったかもしれない。
 そう思い、きびすを返した彼の耳に、再び鳴り出す「エリーゼのために」の音楽が届いた。
 南美は、一瞬穏やかになっていた表情を再び緊張に変え、受話器を耳に当てる。
「ワタシモ・・・・カエリタイ」 
「えっ?」
 ザッザッザッ。と三人の背後で土を踏む音が聞こえた。
 三人は恐る恐る振り返る。そこには、赤いドレスのマスクの女たちがずらりと横一列に並び、こちらに向かって同じ動作で歩いてきていた。
「な、なんだぁ」
 荘は叫ぶ。
 彼女達は、手に手に長い鎌を持っている。そして合唱するように口々に叫んだ。
「ワタシ、キレイ? ワタシ、キレイ? ワタシ、キレイ?」
「な、なんなのよ、もうっっ」
 南美は叫び、指の銃を彼女達に向けた。
「ひとりずつカウンセラーなんてやってらんないわよ? みんなまとめて成仏しちゃいなさいっ」
 叫びながら、銃を放つ。荘も隣で仕方ありませんね、と頷く。
「多分、皆さん全部が霊というわけではないかと思います。これは思念だ。この町にとりついている、帰ることのできない女性達の思念なのでしょう」
 彼はすぅっと息をすった。彼の体を取り巻く空気の色が変わる。
 優しい好青年の彼の本職は、錬気士なのだ。彼は体に高めた気を一気に女たちに向かって、放った。
 南美の銃と荘の気の効果で、女たちは一気に後退する。吹き飛ばされてゆき、数も若干減っているようだ。
「もう一度!」
 二人はさらに攻撃を続けた。
 しかし、数が多い。しかもどんどん増えているようである。
「・・・・私に任せて!! 」
 聖羅が叫んだ。
「召還!!」
 彼女の細い腕が天に向かって伸びる。
 すると、宙に黒い渦巻きが現れ、そこから黒いマントを羽織った骸のような存在が表れる。
 それはまさしく、死神のような姿をしていた。死神は口裂け女達の上空をゆっくりと旋回すると、両手を広げた。それが両手を広げると、女達は突然大きな悲鳴を上げた。
 骸の下の黒いマントがはためく。
 女達の体が、次々とそのマントの下に吸い込まれていくように、空に浮かび上がり、マントの下に消える。
 ほんの十数分の間に、死神は全ての女性を飲み込み尽くした。
 全ていなくなったことを確認して、聖羅はくすりと微笑み、再び手の平を天に向ける。
「戻って」
 死神は再び宙に現れた黒い渦巻きの中へと、姿を消した。
 そして、公園はようやく静寂に包まれたのだった。

■エピローグ
「かんぱーい♪」
 三人は仕事を無事に終え、錦糸町駅の近くの洋風レストランで食事をとっていた。
「お疲れさまだったわね。聖羅ちゃん、最後のすごかったわ」
 南美が白ワインを揺らして微笑む。聖羅は、自分だけがオレンジジュースということにちょっぴり不満を感じていたが、それでも微笑みで頷いた。
「そんなことないですよ。それにしても解決してよかったです」
「これで三下さんがちゃんとした記事を書いてくれれば、僕らの取材費も安泰なんですけどね」
 荘は一人先に戻った、三下のことを思い出して、苦笑する。
 重要なところで気絶していたような気がするが、まあ大体のことは伝えてはある。
「それはちょっと不安ね」
 南美は笑い、それから窓の外に広がるネオン街を見つめた。
「もう、現れないといいわね」
「根こそぎ退治したから大丈夫」
 聖羅が頷く。
「そうね。あの死神さんは凄かったわ」
 南美は聖羅に頷いた。
 荘も南美と同じように外の灯りを見つめながら、ひとりごちるように呟く。
「家族もいない、遠い遠い国に一人でやってきて、みんな立派ですよね・・・・」

 ワタシキレイデスカ?
 
 彼女の問いが、三人の頭にこだました。
 
 アナタハキレイデスカ?
 
 外見という意味だけではなくて。自分らしく、自分はこの都会の町東京で生きているだろうか。
「今度生まれ変わったら、きっと幸せになって欲しいわね」
 南美は呟き、ワイングラスを揺らすと、一気に飲み干した。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1085 御子柴・荘 男性 21 錬気士
1087 巫・聖羅 女性 17 高校生兼『反魂屋(死人使い)』
1121 深奈・南美 女性 25 金融業者
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■         ライター通信          ■
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 お待たせいたしました。
 「星と闇と口裂け女の夜」をお届けします。
 なんだか色々な意味で危険なお話になってしまいました。うーん、大丈夫かな?
 鈴猫は昔、錦糸町の隣の亀戸という町に長いこと住んでおりまして、お話に出てくる錦糸公園には毎日出かけて、ウォーキングを楽しんでいたりしたので、ちょっぴり懐かしみながら書いてたりしました。
あの頃には大江戸線は開通してなかったので、今の錦糸町駅はどんな感じに変わってるのでしょうね。
 お話の中に出てくる歌がありますが、その頃、そのようなニュアンスの歌を雑誌か何かで目にしたことがありまして、もちろん出てくる人名等は全て架空であります。
 
 すっかり冬の気候になってしまいましたね。
 鈴猫も、どてら&こたつ猫と化している毎日です。皆様お風邪など召されぬよう、ご健康には留意してくださいね。
 それではまた別の依頼でお会いしましょう。ありがとうございました。
                                     鈴猫拝