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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


サプライズ・パーティ
□オープニング
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タイトル:ハロウィンパーティのお知らせ 投稿者:占い師

10月31日はハロウィンですね。
ハロウィンパーティを企画しているのですが、いかがでしょう?
新宿駅で夜6時にお待ちしております。

持参品・その他
悪霊避けの仮装(着替える場所あります)
小さな悪霊へのお菓子(キャンディやクッキーなど数があるもの)

パーティの企画
仮装コンテスト
プレゼント抽選会 など

泊まり込み可能な方で興味のある方は是非お越しください。

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「悪霊避け? あ、そっか。ハロウィンって悪霊が来るからそれを避ける為に仮装するんだっけ。じゃあ、小さな悪霊って仮装した子供達?」
 なるほど。
 トリック・オア・トリート(お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ)!
 と言って回るんだからお菓子は必要かもしれない。
「泊まり込みが微妙だけど面白そうだなあ」
 雫はパソコンの前で頬杖をついた。一緒に行ってくれる人によっては雫も行けるだろうか。
「ねえ、ねえ。誰かこのパーティ行かない?」
 雫は後ろを振り返って声をかけてみた。

■ハロウィンイブ
 ハロウィンのパーティの誘いに参加の旨の書き込みをすると九尾桐伯(きゅうび・とうはく)は思案顔になった。
(ハロウィンの仮装というと、やはりモンスターの系統ですかね……)
 モンスターから連想されたのはヴァンパイアだった。となるとマントとタキシードだが、そうなると余りにもお約束過ぎないだろうか? そう思って考えていた九尾の目にある雑誌が写った。
(そういえば、この雑誌にも確かヴァンパイアが出ていましたね)
 パラパラと雑誌をめくるとそのページを開く。そして、しげしげと眺めて一つ頷く。
 これで一つ目の問題は衣装の準備を残すだけだ。となると残る問題は――。
(まあ、明日早めにでて見に行ってみるとしましょうか)
 5時過ぎという時間帯はデパートにとってもかき入れ時である。が、それは地下の食料品売り場の方であり、彼が来ているこのコーナーにはそう客は多くはなかった。
 怖がらせようと言う表情なのだが、愛嬌たっぷりのカボチャの提灯――いわゆるジャック・オ・ランランと言う奴である――やこうもりや布をかぶったようなオバケが所狭しとディスプレイされているそこはハロウィンコーナーである。
 やや場違いな彼を威嚇しようと言うのか、ちょうどいいタイミングでおもちゃの小さな骸骨がしゃかしゃかと骨を鳴らして動き出した。九尾はその愛嬌たっぷりの仕草に思わず笑みをもらす。
(たまにくると楽しいものかもしれませんね)
 物珍しげにあちらこちらと視線をさ迷わせながら菓子コーナーに辿り着く。一番初めに目に付くのはやはりオバケカボチャ達だ。一番目立つ位置には陶器製で蓋を開けるとカボチャプリンが入っているジャック・オ・ランタンが陳列されている。その棚の一番下にあるとある菓子に九尾は目を留めた。
「……これはいいですねえ」
 思わずにやりと人の悪い笑みを浮かべた九尾であった。

□新宿駅とカボチャお化け
 新宿駅は入り口によって続く街の雰囲気が大きく異なる。若者向けのおしゃれな街とオフィスビルの立ち並ぶビジネス街がそれである。
 今回の招待主の占い師が指定したのは、ビジネス街に続く側の入り口だった。
 6時をまだ20分近く先に控えた時間に既に彼女は到着していた。ポニーテールに大きなリボンをした彼女は人待ち顔でぼんやりと家路へ急ぐサラリーマン達を眺めていた。
(ちょっと早く着きすぎちゃったな……)
 葛城雪姫(かつらぎ・ゆき)は荷物を持ち替えてため息をつく。重くはないのだが、かさばるのだ。もう少し時間を潰してから来るべきだったろうか。そう思い始めた頃、後ろから声がかかった。
「雪姫ちゃん、早かったのね」
 振り返って葛城は長い髪で片目を隠した美しい黒髪の彼女の友人を見つけた。
「あ! 巳主神さん、えぇ。楽しみでつい早く来過ぎちゃったんです」
 にこにこと笑う年少の友人の姿を少し頬を緩めて見た巳主神冴那(みすがみ・さえな)は、友人の荷物にホウキがある事に首を傾げた。確か行くのはパーティであって清掃しに行くわけではなかった筈だが。
「雪姫ちゃん、それ、なぁに?」
「あ。今日の仮装用です。やっぱりハロウィンって言ったらこれかなって思って」
「はろうぃんだとホウキなの?」
 ますます腑に落ちなさそうに巳主神は首を傾げる。その巳主神を見つけて声をかけてきた者がいた。緩くウェーブした髪を軽くまとめた、どこか退廃的な雰囲気のする青年である。名を九尾桐伯という。
「巳主神さんじゃないですか。久しぶりですね」
「……あら、久しぶりね」
「パーティに参加されるんでしょう? 楽しい夜になると良いですね」
「そうね」
 振り返って青年と談笑する巳主神を黙って見ていた葛城だったが、彼が今日の同行者だと悟ると少し進み出て頭を下げる。勢いよく下げすぎたのか彼女のポニーテールが、慌てたように追いついて彼女の背を叩く。
「はじめまして。葛城雪姫と申します」
「こちらこそはじめまして。九尾桐伯といいます」
 そこに駆け寄ってきたのは瀬名雫(せな・しずく)である。お馴染みの元気な彼女にそれぞれ手を上げて合図を送る。大きなバックを肩にかけ直して瀬名は笑顔を見せる。
「遅れるかと思っちゃったよー。今日は楽しいハロウィン・パーティになると良いね」
 挨拶を交わし、和やかに談笑し始めた四人に近付いてくる足音がある。九尾はその鋭い聴覚で、そして巳主神はその独特の感覚の鋭さでそれぞれ気がついてそちらに注目する。葛城と瀬名はその様子につられる形で彼に目を留めた。まっすぐに歩いてきたのは金髪の青年である。青いロングコートが目に眩しい。
(外人さんなのね……。あ、どうしよう、私、英語でおしゃべりできない)
「こんばんは。今夜は快く来て頂いてありがとうございます」
 外国の人ばかりだったらどうしようと僅かに不安に思った葛城だったが、今日の招待主の占い師である彼の口から漏れたのは日本語だった。考えてみれば書き込みも日本語だったのだから当然といえば当然である。
「今日はお招きありがとうございます」
 いち早く頭を下げた九尾にそろえて三人の女性も頭を下げる。
「皆さん、お揃いですか?」
「まだ、最後の一人が来ていないわね」
「そろそろ6時ですねえ……」
「あら? あれは……」
 目を丸くして葛城が指差した先を見て九尾と巳主神は目を丸くする。改札を超特急で走り抜けて来たのは小さなカボチャオバケである。黒いマントの下からはレースをふんだんに使った可愛らしいワンピースが覗いている。
「可愛いぃ」
 思わずといった調子で瀬名がぽつりと呟く。同意するように葛城も頷いた。
 どうやら最後の一人であるらしいと見て取って九尾は軽く手を振った。スーツ姿のサラリーマンが闊歩するこの場所でカボチャお化けに声をかけるのに多少の度胸がいるのはまた別の話である。
 気がついてこちらに駆けて来た彼女――ワンピースを着ているから女の子だろう――は、そのままの勢いでこちらに向かってきて、勢いがついたのか止まり損ねた。
「おっと。大丈夫ですか?」
 被り物のカボチャが重そうだと思っていた九尾が素早く手を差し伸べていなければ、きっかり転んでいた事だろう。
 危ないぞ、車は急には止まれない。車に限らず重さのあるものがある程度以上の速度を出していれば止まる時にはそれなりの負荷がかかる――いわゆる慣性の法則というやつである。
「はぁ、はぁ。あ、危うく遅刻ですのー」
「大丈夫、まだ6時前ですよ」
 カボチャの方はといえばよっぽど急いできたのか息を切らしている。ようやく体勢を整えるとスカートの裾をちょっと持ち上げて少し首を傾げて挨拶をする。可愛らしい仕草であった。まあ、首を傾げた後バランスを崩したのはご愛嬌というものだろう。
「わたくし、シュスハ・ロゼですわ。本日はおまねきありがとうですの」
「こんにちは。……頭重そうだけど、大丈夫?」
「だいじょうぶですの! 今日のわたくしはかんぺきなジャック・オ・ランタンなのですわ!」
「なるほど、ハロウィンですからねぇ」
 気合たっぷりに飛び跳ねたロゼに九尾も目を細める。巳主神だけが首を傾げていた。
(外国のはろうぃんのパーティってこんな格好をするものなのかしら……?)

□新宿駅から徒歩十分
 オフィス街を何度も曲がりながらついたその場所はちょっとした邸宅であった。しかし、もう一度その場所に一人で来いと言われると多分全員来る事が出来ないに違いないと思う程、道のりは入り組んでいた。
 庭にはカボチャやカブで作ったランタンが家までの道のりを照らしている。入り口の両脇には赤々とスタンドに乗せられたかがり火が燃え盛っており、窓には様々なお化けの切抜きの紙が窓の内側からの灯りで影絵を作っていた。もう、パーティは始まっているようだった。
「……なんでカブなんですか?」
「ああ、元々はカブだったんですよ。カブが手に入りにくい場所でカボチャを使って作り始めたのが広まったからカボチャなんです」
 首を傾げた葛城に占い師が答える。興味津々と言った様子でロゼと瀬名がカブのランタンを覗き込むとその後ろから突然立ち上がった者がいる。すっぽりと真っ黒なローブを被っていて顔が見えない。
「トリック・オア・トリート!」
「きゃあああ」
 驚いて悲鳴をあげてロゼは後ろにいた葛城に抱きついた。瀬名は一拍置いて笑い始めた。九尾と巳主神はそこに人がいた事は知っていたのでロゼの悲鳴にむしろ驚いていた。
「やあ、けちんぼジャック。あんまり悪い事をしていると今年も地獄へ入れてもらえないよ」
 ぎゅっと抱きついているロゼを宥めている葛城に目をやってジャックは参ったなと頭を掻いた。ロゼの目線の高さまでしゃがみこむとロゼの肩を突付く。謝罪のつもりなのか掌にはヘーゼル・ナッツのクッキーが一つ。ロゼは頭のカボチャをはずしてもらってクッキーを食べて笑顔を取り戻した。可愛らしい幼い顔が金髪と一緒に揺れる。
「び、びっくりしたんですの。あ、雪姫さまごめんなさい」
 赤くなって葛城から離れたロゼを抱き上げてジャックが謝るともう平気と頷いて見せた。
「ジャック、ご婦人方を着替え場所に連れて行ってくれないか? 私は九尾さんをお連れするから」

□トリック・オア・トリート
 九尾はちょっと待ちくたびれていた。女性陣が中々現れない為だ。占い師に頼んでカクテルを作る場所を用意してもらって、そこに陣取ると渡されたコンテスト用の用紙を改めて見直した。
(成程。秘密投票なんですね。自由投票部門は賞の名前まであるんですねえ)
 一時間後までに投票すればいいらしいのでのんびりと九尾はあたりを眺めた。それにしても、暇だ。
「お待たせ〜☆」
 明るい声が九尾の背後からかかる。瀬名の声だと振り向いて九尾は目を丸くした。
「見てくださいなんですの。とってもすてきなんですわー♪」
 駆けて来たジャック・オ・ランタン――ロゼを受け止めながら、葛城に手をひかれてゆっくりと近付いてくる巳主神に目をとられる。もっとも会場のほとんどの人間――いや、お化け達は彼女に注目していたに違いない。
(何年ぶりかしら……もう着る機会はないと思っていたのだけど……)
 しゃなりしゃなりと独特の歩き方をしながら巳主神は感慨にふける。普通に着るつもりだったのだが、まさかここまで本式に着る事になるとは思わなかった。花魁の衣装と聞いて是非ともちゃんと着て見せて欲しいと瀬名、葛城、ロゼの三人にせがまれて、彼女らに協力してもらいながら着つけたその衣装は実に艶やかだ。白い生地に色とりどりの花と花車をあしらった着物に、金糸銀糸を縫いつけた黒い帯が華やかだ。
「これは、素晴らしいですね」
 そう賞賛した九尾はワインレッドに近い赤の幅広い帽子と外套、スーツ。白いシャツにリボンタイ。そして、魔方陣の縫い取られた手袋と独特なデザインの大きな銃を持っている。
「うわあ、九尾さんはアーカードなんだね」
「あーかーど?」
「ヘルシングって漫画に出てくる吸血鬼なんだよ」
 感心したように頷いた葛城はとんがった三角帽子、黒い外套、ホウキと三拍子揃った姿だ。
「葛城さんは魔女なんですね。今夜だとホウキに乗って空を散歩できそうですね」
「そう! 可愛いよねえ! ねえ、私の出来はどう?」
 くるりと回って見せた瀬名の顔は見えない。青黒いローブのフードを深く被っている上、フードの中は黒い布で顔を覆っているのだ。首を傾げた九尾にヒントだというように、よろよろと歩き「ううう……」と泣き声をあげてみせる。
「なるほど。バンシーですか」
「あたりですわ」
 小さなジャック・オ・ランタンが我が意得たりとばかりに頷く。その背後から小さなお化けの集団が近寄ってきていた。
「トリック・オア・トリート!」
 5人の陽気な子供の悪霊達に皆が微笑んだ中一人だけ違う反応を返した者がいる。
 かちゃりと大きな銃を構えて微笑んでいる。目が危ないくらい本気だ。
 小さな悪霊達も震え上がって身を寄せ合っている。瀬名はそれがアーカードの真似だと悟って笑みを浮かべたがそれは黒い布に遮られて見えない。ロゼは余りの迫力に巳主神の着物の裾に隠れた。葛城がおずおずと尋ねる。
「き、九尾さん?」
「……驚きました?」
 ふっといつもの調子で笑うと、まだ怯えている子供達に手招きして袋に菓子を入れてやる。それぞれ思い出して菓子を袋に入れると上機嫌で彼らは食べてもいい? と聞いてきた。頷くと大喜びで袋から早速取り出した。
「うわああ! ミミズ! ミミズだ!」
「あ、おせんべい」
「アーモンドのクッキーだ!」
「キャンディだ……うわああ! 中に目玉が入ってるよぉ!?」
「あ、クッキーだ。アール・アイ・ピーって書いてある」
 大騒ぎである。人の悪い笑みを浮かべて九尾が声をかける。
「大丈夫ですよ。そのミミズはチェリー味ですから」
「うふふっ、血まみれの目玉ですのっ♪」
「墓石クッキーって呼んで欲しいな。R・I・Pは『安らかに眠れ』って意味なのよ」
「……すごいお菓子があるのね……」
 やや呆然とした巳主神に葛城が楽しそうに頷く。
「ハロウィンですから。ほら、お化けに驚かされるだけじゃつまらないじゃないですか?」
 成程。そういうものかと頷いた巳主神の着物の裾にしがみついていたロゼは子供達に一緒に回ろうと言われて大喜びで大人達にお菓子をねだる小さな悪霊になって走り出していた。葛城は瀬名と一緒に女の子達がやっているゲームのコーナーに向かう。
「一杯如何です?」
 取り残された形になった九尾と巳主神だったが、大人達は大人達の楽しみがあると言うわけでシェイカーを示してみせる。巳主神が頷くと、九尾は早速作り始める。ライムの果汁をしぼり、同量のラム酒と少量の砂糖、クラッシュアイスをシェイカーに入れ、シェイカーをよく振って混ぜると冷やしておいたグラスにストレーナーを通して注げば出来上がりである。
「ライム・ダイキリですよ」
「ありがとう」
 さて、ゲームのコーナーに行った葛城であるが、瀬名が紙で作ったお化けを的に向かって投げている横で、バスタブに浮かべられたリンゴを必死に口で取ろうとしていた。
「もうちょっと」
「後少し!」
 そんな声をかけられながらようやく取ると、女の子達がおまじないを教えてくれた。真夜中にリンゴを食べて後ろを振り向かずに鏡を見ると未来の伴侶が映るらしい。
(あとで、試してみようかな)
 どんな人が映るんだろう、そう思うとちょっと胸がときめく葛城だった。

□投票結果とサプライズ・フード
 お化けの子供達のお菓子を求めての練り歩きが一通り終った頃には、投票用紙も回収されて、食事をメインにした立食式のパーティ会場へと場所を移す事になった。司会者役の死神の占い師が投票結果を発表していく。特別賞の発表から発表で、なんだかよくわからない賞がたくさんある。「よくこけていたで賞」や「目に眩しかったで賞」辺りになってくるとかなりこじつけにしか見えない。
「明るいバンシーで場を和ませてくれた瀬名雫さんには『あかるかったで賞』です」
 瀬名が飛び上がって愛想を売る中、拍手が巻き起こる。
「えー次は、ジャック君からの特別賞『よく驚いてくれたで賞』、シュスハ・ロゼさんです」
「わたくしですの! ありがとうですのー♪ って驚いてくれたで賞って喜んで良いものですの?」
 一通り喜んでからロゼは首を傾げた。まあまあと宥めるように頭を撫でた九尾が貰ったのは『お化けを驚かせたで賞』であった。
「優勝の発表の前に、投票部門で接戦し惜しくも敗れてしまった巳主神さんに『オリエンタル・ビューティー賞』を! あ、この賞を作る為に票は操作していませんよ?」
 どっと笑いが起こり、巳主神に拍手が贈られる。
「そして、優勝は……今にも窓から外へ飛んでいけそうな魔女の葛城雪姫さんです!」
 照れくさそうに頬を染めた葛城に大きな拍手が贈られ、ステージの上に引っ張り出される。ケーキの代わりにとフルーツポンチを前に持ってきて最初の一杯をどうぞと促されると、頷いて葛城はかき回し始めた。ふと赤いものが見えた気がして巳主神は目を瞬かせた。
(今のは……まさか?)
 確かめるまでもなく、引っ張りあげたおたまにそれは乗っかっていた。
 赤い、肘から先だけの手。
 固まった葛城の代わりにロゼが盛大な悲鳴をあげた。
「きゃあああああ! 手ですのーーーっ」
 それを合図に手がぷるんとおたまから滑り落ちてフルーツポンチの中に戻っていく。あの、弾み具合は……。
「……あれ、ゼリーでわざわざ作ったんですか?」
「味の方はイチゴ味ですので安心してご賞味ください」
 九尾の呟きを証明するように、司会者のアナウンスがある。気を取り直した葛城が慎重に手以外のフルーツを盛り付け、パーティはスタートしたのだった。
「あれは指ですの! あ! あっちはクモですの、ヘビもいますわ!」
 キッシュやバーベキューや魚介類のフライに混じって変わった料理が鎮座しているのを葛城に抱き上げてもらったロゼは大喜びで眺めた。
 指に見立てたショートブレッドは指のしわや、アーモンドの爪までこだわってある力作だし、同じ指でもチーズとウィンナーのものもある。サラダの真ん中には丸くくりぬいてゆでたカブに焼き目をつけてそれらしく見立てスライスした人参の足がついたクモがいるし、ポタージュの中からひょっこり顔を出したスパゲティのヘビがいる。フルーツポンチの中の腕はいつのまにか指が欠けていた。
 葛城と瀬名が取り皿にもってロゼと巳主神が運ぶ。それを繰り返して人数分の皿を用意する頃には九尾が彼女らの為のカクテルを作り終っていた。器用に螺旋剥きしたレモンの皮をグラスに入れてグレナデンシロップをいれて、さらにジンジャーエールを静かに注ぎ軽くステアしたそのカクテルはシャーリー・テンプルという。往年のハリウッドの子役の名前を冠したカクテルだが、ノンアルコールである。ロゼ用に甘いレモネードを入れたものと、大人二人の為のカシス、オレンジジュース、ソーダの組み合わせの物を造ると全部で三種類のシャーリー・テンプルの出来上がりである。
「では、ハロウィンの夜が楽しくなりますように」
 九尾の音頭の声に女性陣の乾杯の声があがる。

□諸聖人の守る朝
 いくらパーティと言っても夜通し食べるわけにはいかない。お腹が満腹になると、今度は全員でゲームに興じたり、おしゃべりをしたりと夜更かしをする。
 アルミホイルと紙で作ったお化けを的に出来るだけ近い位置に落とすゲームは、意外にも最高得点をあげたのは巳主神であった。「似た遊びをやった事があるのよ」と巳主神はさらりと笑う。花街には扇子を使う似た遊びがあってそれを連想させたらしい。
 バスタブに浮かせたリンゴを口で咥えて取るゲームは経験の差で葛城が優勝した。この後取ったリンゴを食べて振り向かないまま鏡を見るという女の子の占いを葛城とロゼと瀬名が九尾と巳主神に手伝ってもらいながらやった。真っ赤になって黙った辺り何か見えたのかもしれないが誰も何が見えたのかは口にしなかった。
 ラム酒をかけて火をつけた皿の中にある干しブドウを取るゲームは「きれいな『ハシ使い』は『すてきなれでぃ』のたしなみですわ!」というロゼの宣言通り、ロゼの圧勝だった。悔しがって何度も挑戦する瀬名を眺めて「ラム酒がもったいない」と九尾がぽつりと呟いた。
 カップに詰めてひっくり返した小麦粉の上に置いた百円玉を落とさないように小麦粉を取っていくゲームはその九尾の圧勝だった。どうやらバランス感覚が優れているらしい。観戦していた葛城に「ラム酒は駄目で、小麦粉なら良いんですか?」と聞かれて九尾が黙り込んだ直後に回ってきた手番で百円玉を落としたのが唯一の敗退で、以降精神戦は禁止ルールが出来た。ただの素直な疑問だった葛城は申し訳なさそうにしていたという。
 楽しい時間は過ぎるのが早いというが気がつくともう空が白み始めていた。司会者がとうとうマイクを取ってパーティの終了のアナウンスをする。
「我らがお化け諸君。とうとう世があけてきたようです。新しい年の始まり。そして諸聖人の守る朝がやってきました。来年のこの日にまたお会いしましょう。それでは地獄でもお達者で!」
 途端に人数が一気に減った。パーティ会場に残っているのは僅かな人数だ。半分以上の人が消えてしまった事になる。
「……あら? みなさま、どこに消えてしまったんですの?」
「そりゃあ、地獄に帰ったに決まっているじゃないか」
 しばしの沈黙の後、ぽつんと言ったロゼの言葉に答えたのはいつのまにか背後に寄って来ていたジャックだった。
「ああ、いいねえ、地獄に帰れる奴は、俺はまた一年歩き通しだよ」
「あの、……では?」
「消えたのは、本当に悪霊やお化けの類だったって事……?」
「ええ。だから悪霊避けに、悪霊に似た格好をするんですよ」
 近寄ってきた死神姿の占い師が何でもない事のように言う。葛城が恐る恐る問い掛けた。
「じゃあ、仮装をしてなかったら?」
「憑り付かれたり悪戯されたりしますね。まあ、お祭りの夜ですからそんなにひどい事になりませんから安心してください」
 全然安心できない事を笑顔で言って「さあ、人間に戻りましょうか?」と占い師は全員に問い掛けた。
 仮装を解いていつもの格好に戻るといつのまにかジャックも消えていた。占い師に尋ねるとたいした事でもないように「また地獄へ入る道を探しに行ったんですよ」と笑いながら答えた。九尾はどこまで本当だろうと訝しみ、ロゼはまた来年も会えるかしらとのん気に考えた。新宿駅まで送った後に、占い師は全員に紙袋を手渡した。
「ハロウィンの夜をお付き合いいただいたお礼と、仮装コンテストの商品と言う事でジャックと私からです」

■最後の悪戯
 家に帰って九尾は早速紙袋を開けてみた。なかにはクッキーやパンプキンパイ、ジャック・オ・ランタンのパンプキンプリンの詰め合わせと、真っ白な箱が一つ。
「これはなんでしょう?」
 不審に思って開けるとそこには。
 体長は約4センチほどであろうか、丸い頭部と幾重にもしわの寄った胴体、幾本もある足と丸い臀部。
「……三葉虫ですか。中々リアルですねぇ……」
 思わず手にとってしげしげと見る。と、その時、突然足が動き始めた。無心に前に進もうとするかのようなその動きは妙にリアルだ。
 思わず怯んで落としてしまった九尾だったが、落とした事をさらに後悔した。
 何故よりによって黒いんだろう。これではまるで「ご」ではないか。飲食店にあるまじき物を見せられた気分になって黙り込んだ九尾は箱の底に一枚のメモがあるのを見つけた。
「最後の悪戯だよ。驚いてもらえた? ジャック」
 やられた、と思い苦笑した九尾だった。

fin.

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 0332/九尾。桐伯(きゅうび・とうはく)/男性/27/バーテンダー
 0376/巳主神・冴那(みすがみ・さえな)/女性/600/ペットショップオーナー
 0664/葛城・雪姫(かつらぎ・ゆき)/女性/17/高校生
 1112/シュスハ・ロゼ/女性/7/小学生

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■         ライター通信          ■
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 依頼に応えていただいて、ありがとうございました。
 小夜曲と申します。
 今回のお話はいかがでしたでしょうか?
 もしご不満な点などございましたら、どんどんご指導くださいませ。
 今回余りにもパーティだけで長々と書いてしまいちょっと焦っております。
 長いのがお嫌いでしたら、本当に申し訳ありません。
 今回のサプライズパーティですが、色々とハロウィンのいわれなどを使っております。
 意外と詳しく知られていないハロウィンに興味を持っていただければ幸いです。
 九尾さま、二度目のご参加ありがとうございます。
 ヘルシングのアーカードスタイルのヴァンパイア、あんな感じでよろしかったでしょうか?
 九尾さまの危ない表情は必見だったかもなどと不謹慎な事を思っておりました。
 三葉虫ってカブトガニの先祖だそうですが、化石を見てむしろフナ虫かななどと思ってしまい、色もわからない事から「ご」と似せてしまいました。
 でも、ケイオス・シーカーにはきっといませんよね
 各キャラで個別のパートもございます(■が個別パートです)。
 興味がございましたら目を通していただけると光栄です。
 では、今後の九尾さまの活躍を期待しております。
 いずれまたどこかの依頼で再会できると幸いでございます。