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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


<花咲ける青年>

調査組織名   :草間興信所

執筆ライター  : 朧月幻尉

------<オープニング>--------------------------------------

「はァ?!」
 草間は素っ頓狂な声をあげた。

「それが依頼内容ですか?」
「そ、困ってるのよ、アタシ。もうすぐペンションの開店日だってのに、妖しげな声が聞こえたり、事故が起きたりしてるのよ。これじゃ、店始めたってお客が来なくなっちゃうわ。ねえ、お願い!貴方の貴重な人脈をちょっと貸して欲しいの!!」
「別にそれは構わないんだが・・・・・・」
「本当ォ!」
 女は草間に飛びついた。首根っこを捕まえると、ぶちゅう〜とキスをする。
「うげぇ!」
「まッ、失礼ね!・・・・・・まァ、いいわ。でもね、『いろんなモノが見えるペンション』って、麓の人が云ってるの聞いちゃったのよ。これじゃ、お客来なくなっちゃうかもしれないじゃない!」
 ある意味、繁盛するんじゃないかと草間は思ったが、いわない事にした。
 その噂で来るのは、ミステリー好きの人間か、オカルトにハマった奴だけだろう。そんな中にマトモな客がいるとは、到底思えなかった。
「『ロマンチックな夜♪』をイメージして建てたのよ!高い買い物なんだから、絶対、モトを取ってやる!」
「はァ・・・・・・商売に燃えるのはいいことですね」
 半ば呆れたように草間はいった。
「だからね、オープニングパーティーは華やかにしたいのvv」
「そうですね・・・・・・」
「だ・か・ら」
 女経営者はスタッカートのリズムで云うと、白檀の扇を広げてヒラヒラさせる。

「オープニングを飾る、素敵な男の子が必要なのよ♪ちなみに、チークタイムがあるから二人一組のチケットですからね! を〜っほほほほほほvv」
 哄笑う女の顔を、草間はげんなりと見つめた。


●Let‘s Go♪
 その日、東京は晴天に恵まれた。
 これから旅行に向かう家族連れが横を通り過ぎていく。彼等はそれを横目で眺め、端早に通りすぎた。
 ここは東京駅。 東京の玄関であり、東京の顔でもある。
 例に漏れず東京駅の『銀の鈴』で他のメンバーと待ち合わせた。約束は8時だった。
「時間にぴったり着けますね、戒那さん」
 そういって青年は相方に笑いかけた。彼が発した耳を擽る蠱惑の響きを冷静さを秘めた微笑で受け止めたのは羽柴・戒那(はしば・かいな)だった。
 背が高いせいか、腰まであるウェーブヘアを見ても大抵の女性たちは女だとは信じず、それを気にする彼女でもなかった。今日はブルーグレーのシャツとパンツスタイルいういでたちで、第二ボタンまで開け、薄紫のスカーフを首に垂らしている。開けたシャツからは豊かな胸の谷間が覗いていた。胸がデカイと阿呆に見えがちだか、鉄壁の不動心と大学助教授という高い教養がそれを払拭していた。
「あぁ、そうだな・・・・・・悠也は時間を守ってくれるから助かる」
 悠也と呼ばれた青年はにこりと笑って応えた。
 名は斎・悠也(いつき・ゆうや)といい、開発技術者志望で貯金と情報網構築のために高級クラブでバイトをしている。大学では理工学部を専攻し、現在3年生であった。
 というのは表の顔で、本来は魔女の母が悪魔と契約して出来た人と悪魔のハーフという、色々と人離れした能力を持つ青年だ。白皙の美貌に漆黒の髪、金色の瞳に朱を刷いたような唇が幽玄な雰囲気と妖美を醸し出している。
 当然、戒那は悠也の出生を知っていたが、逆に面白がっているようで、結構互いに遊びに行くのに声を掛け合うほうだった。

 少し歩いたところで、背の高い美男子に声をかけられた。どうやらこちらのことを知っているらしい。ちらりと悠也たちに写真を見せる。そこには何時撮られたのか、自分たちの顔が映っていた。悠也のほうは学校内で、戒那のほうは街中で撮られたらしい。撮ったのは草間だろう。
「草間さんからの依頼でご一緒します」
野郎の悠也には笑いもしないが、女の戒那にはニッコリと微笑んだ。悠也はその顔に見覚えがあった。モデルの『湖影・虎之助』(こかげ・とらのすけ)だった。
 あとは高校生ぐらいの少年で、細身でたおやかな感じのする美少年だ。
「俺は湖影と・・・・・・・」
「知ってます」
やんわりと悠也は言った。
「『湖影・虎之助』さんですね?ご活躍は雑誌などで拝見しています。こちらの方は?」
「あぁ、こいつは神薙・春日 ( かんなぎ・はるか)だ」
「はじめまして、俺、神薙・春日 ( かんなぎ・はるか)です。騙されて来ました」
「やかましい!」
「そうじゃないかぁ!俺は龍之助と来たかったのに、何で虎兄となんだよ!」
「俺は龍の奴とは死んでも来たくなかったんだ!!何が哀しくて野郎とペンションに行かにゃならない。うちの弟はどう見たって男にしか見えん。なら、女顔のお前と行ったほうがマシだ」
 などと口喧嘩をおっぱじめる。
 時間も押していることだからと悠也にたしなめられ、憮然としたまま残りの仲間と合流することにした。
 残りは三人で、春日と同い年の高校生と中学生のコンビ。もう一人は二十六歳だと戒那は聞いていた。高校生は超能力者で、中学生の子と二十六歳の青年のほうがは呪禁官だそうだ。湖影が草間から渡された写真を悠也たちに見せていった。
 呪禁官とは警視庁第99課(魔戦制圧課)の特殊呪術禁令捜査官のことで、違法呪具』や『魔法』『召喚』等を取り締まる。
 自動販売機の前で、顔を見合わせて笑いあうカップルを発見した。戒那が言うには、あれが残りのメンバーのうちの二人だそうだ。
「何だか可愛いもんですね」
「子供って奴だな・・・・・・」
戒那は云った。心なしか笑っているようだった。
「じゃあ、行きましょうかね」
「あぁ・・・・・・」
 そういうと後ろから『お待たせしました』と声をかけた。
他のメンバーのご登場に少年の方があんぐりと口を開けてこちらを見ている。
 少年は工藤・勇太(くどう・ゆうた)、少女のほうが李・如神(りー・るーしぇん)だ。少年のほうは普通の顔立ちだが、少女のほうは極上の姿だった。そうはいないアルビノ(先天性白子)だったのだ。
 長い睫毛は大きなアーモンド形の瞳を縁取っている。しかも瞳は深紅の色。整った鼻梁に小造りな顔。腰まである銀色の長い髪を三つ編みにしていた。
 濃い小豆色のロングコートを羽織り、中には、いわゆる巷でゴスロリ服と言われる服を彼女は着ている。黒いベストとフリル付の白いシャツにシングルのネクタイ、裾が広がり気味のロングズボンと云ういでたちだ。ベレー帽がちょこんとその小さな頭に乗っかっている。
 何がどうしてくっ付いたカップルなのかわからないが、オーナーが喜ぶだろうことは想像できる。しかし、オーナーは男同士でと云っていたが、この子はどうなのだろうか。
 男と行く気が無かった悠也は戒那を呼んだし、指示に従った湖影も【女顔】の神薙・春日を呼んだのだ。普通に少女を呼んだっていうこともありえる。線が細くて分かりにくいが・・・・・・もしかしたら、この少女は少年かもしれないと悠也は思った。
 そっと戒那に耳打ちする。
「戒那さん、あの子・・・・・・」
「あぁ・・・・・・これだ」
と云うと戒那はグッと親指を立てた。
「やっぱり・・・・・・」
「いうなと草間が云っていたのでな・・・・・・内緒だぞ」
「わかりました」
 やはり如神という子は男の子らしい。どこから見ても真っ白なフランス人形にしか見えない子が男の子というのも、この世の七不思議かもしれない。
 考え事中の悠也の隣で勇太と湖影の喧嘩がはじまる。といっても一方的に勇太がプリプリしているだけだが。
 女尊男卑を掲げる虎之助に食って掛かる勇太を悠也は止めた。
「さあ、時間がありませんから新幹線に乗りましょう。先は長いんですから、これからいくらでも話せるでしょう?」
 悠也が云うと、皆は頷いた。
「1,2、3と・・・・・・全部で6人。全員揃いましたね。では・・・・・・」
「待て、悠也。一人足りない」
「え?」
「俺は7人と聞いていたが」
「そうですか?」
「あのね、彼・・・・・塔乃院(とうのいん)さんは先に行ってるって・・・・・・」
 如神がおずおずと云った。
「単独行動ですか・・・・・・仕方ないですね」
 少し悠也は考えたが「まあいいでしょう」といった。今、揃っている必要も無い。
 メンバーは一路、軽井沢へと向かった。


●えぶりばでぃ・かも〜ん!
「いらっしゃぁ〜〜い。ウッワァーォ!なんて素敵な子達なのォ!!」
 ペンションに到着し、瀟洒な造りの階段を皆が見上げていた時、その声はやって来た。ズダダッともドダダダダッともつかぬ地響きが轟く。
 準備に忙しいスタッフの間を縫って、緑の巨大な旋風が目の前で止まる。それはエメラルドグリーンのパンツスタイルでやって来た。
 皆はオーナーを初めて見たが、彼女(?)がオカマだとはっきりわかった。
 それはそうだ。
 ゴッつい顎に彫りの深い顔。ジャイアント馬場に引けを取らない長身ときたら、オカマだと思わないほうがおかしい。
 自分たちの登場にオーナーは、目に涙さえ浮かべていた。
「嬉しいわ・・・・・・よく来たわねvv・・・・・・」
「この度はペンションのオープンパーティに招いて下さって有難う御座います」
 戒那はそういって、オーナーに鮮やかな花束を渡す。ピンクの薔薇と白ユリの花束だ。アクセントに小さな青い花が入っていた。
「アタシ、この組み合わせが好きなのよォ」
 オーナーはニコニコだ。
「だけど、よくわかったわね」
 そこに悠也の必殺のトークが入る。スムーズで嫌味の無いリズムだった。さすがはナンバーワンホストなだけある。
「はい。草間さんのところにお見えになった時に、着ていらしたスーツの配色を伺ったんです。白地に金のウール地だったと・・・・・・シャネルですね?」
 悠也は優雅そのものという感じに笑って云った。背が高くて、スマートで賢そうで、惚れ惚れする姿だ。
戒那はクスリと笑う。湖影も笑ったが、目は笑っていなかった。悠也をライバルと認めたらしい。
「それだけでわかったの?」
「はい」
「最高のプレゼントよ・・・・・・草間ちゃんに感謝しなくっちゃ・・・・・まあ!」
「はじめまして、マダム」
 これまたナイスな微笑で応えたのは、湖影その人だ。横槍入れてくるということはやはり負けないという意思表明だろうか。
 オカマのオーナーには興味なんか無いが、悠也の独壇場になるのが許せないのだろう。
「ンンまぁ、本物?」
「はい・・・・・・マダム」
 相手が男だろうが何だろうが、芸能人根性は負けを認めない。湖影は男としては最高のボディーとルックスとおまけに良く通るバリトンヴォイスで、トリを勤めた。憎くらしいぐらいのアピールだ。
 オーナーは更にご機嫌になった。
「あら?おチビちゃんもいるのね」
 オーナーは隣に立ってる勇太のことは無視して如神に笑いかける。
「こ・・・・・・・こんにちは」
 如神はおずおずと花束を渡した。
 如神のは白い薔薇に赤く丸い花とミントの葉が入ったミニブーケだ。(彼女曰く、赤い花はストロベリーキャンドルと云うんだそうだ)
 如神はオーナーの頬っぺたにキスをした。
「可愛いわね・・・・・・いくつ?」
「13歳」
「そォ・・・・・・いいわぁ、一番輝いてる時期ね」
 ほうとオーナーは溜息をついた。
「あの・・・・・・調査のほうはオープンパーティが始まるまでさせて頂いてもよろしいですか?」
「え・・・・・・えぇ、勿論よ。但し、私の部屋には入っちゃダメよ」
「ありがとうございます」
「お部屋はニ階の隅から4つまでスイートルームになってるから、そこから二番目までの三部屋を使って頂戴ね・・・・・・はい、これが鍵」
「あの・・・・・・もう一人・・・・・・・」
 如神は勇太の影に隠れて言った。
「もう一人って、塔乃院さん?」
「はい」
「彼なら買出しに行ってくれたわ。何だか悪いわぁ、手伝わせちゃって・・・・・・あ、帰って来たみたいね」
 後ろのほうで、カタンと音がした。
 ドアの前にバケットを詰め込んだ麻袋を抱え、黒ずくめの男が立っていた。身長は湖影・虎之助と変わらないぐらい、いや、それ以上にデカかった。2メートル近いのではないだろうか。
 長い長髪が腰まであっても、どことなくひ弱な感じがしないのは身長のせいだけではなさそうだ。
一言でいうと、野獣。そんな感じである。目が笑ってないからわかった。
「マダム、お待たせしましたね」
「悪いわね・・・・・・・買い物行かせちゃって」
「いいえ」
 穏やかそのものってふうに塔乃院は笑った。
「そうそう、この子が塔乃院さんを探してたのよ」
「あぁ・・・・・・如神か。そいつが今回のお前のパートナーか?」
 いわれて、如神はちょっと俯いた。
「この人は・・・・・・同じ職場の・・・呪禁官の塔乃院・影盛(かげもり)さんです」
「警視庁第99課の塔乃院・影盛です。よろしく・・・・・・」
 塔乃院さんはふっと頭を下げた。
 勇太のコートを握り締める如神の手に力が入っている。
 ちょっと勇太は不安になったのか声をかけた。
「どうした?」
「何でも無いの・・・・・・は、早く行こう、勇太。調査しなくっちゃ・・・・・・」
 そう云うと如神は勇太の腕を引っ張る。勇太は慌ててオーナーから鍵を受け取り、引っ張られるまんま、二階に上がってしまった。
調査を早めに仕上げるために、悠也たちは各々の部屋に行き、荷物を置くと調査を始めた。


●犯人の影
 周囲の目を気にし、7人は散策と見せかけて調査を始めた。勇太と如神、斎と羽柴、湖影と神薙の三手に分かれ、風水関係と霊的磁場に異常が無いかを斎さんが調べた。その間、霊の仕業である可能性の高さを考慮して、湖影と神薙グループは周囲の霊が関係していないかどうかを調べることになった。

 コートをクロゼットにしまいながら悠也が云った。
「パーティーもあることですし、手早く済ませましょう」
「風呂にも入りたいしな」
「それは賛成です。冬は意外と汗をかきますしね」
 悠也は千代紙で出来た小さな小箱を取り出すと、蝶型の和紙を掌に乗せた。息吹を吹きかけられた和紙は本物の蝶のように宙に舞う。
 柔らかな秋の陽射しに色とりどりの蝶が結うやたちを包んだ。「ヒメゴト」と言われる術である。
 戒那は満足そうに見つめた。漆黒の髪の美青年が蝶の式神と戯れる姿は自分だけが見ることの出来るもの。実際、他のパートナーが居るなぞ聞いたことが無いし、悠也の性格では余程の人間でないと信用しないだろう。
 自分が有能である分、相手にも自然とそれを要求してくる。無能な人間は彼の魅力に金だけ吸い上げられ、入れ上げて無一文になって路上でのたれ死ぬような人生が待っている。それが魔性の貴公子と虫けらの運命の差というものだ。
 どうやら戒那は有難い事に【その他大勢の虫けら】ではなかったらしく、彼と行動を共に出来る間柄ということらしい。運命の神は憎い演出をしてくれるものだ。この幸運は受けておくべきだろう。
 魔性のハーフである悠也には不本意であろうが、今宵の祝杯は契約と運命の神に捧げるとしよう。
 式神だけに任せておくわけにもいかず、自分たちでもペンションを歩いて周り、風水関係と霊的磁場などを調べた。
 方角は悪くないし、崖っ淵に建ててあるわけでもない。背後の小山は聳え、オーナーのペンションの上には人家などの建物も無かった。龍脈は塞がれてはい無いし、建物の配色も風水的には申し分無い。今は冬で枯れているが、庭の草木は眠っているだけのようだし、鋭気すら感じる。
つまり、【場】としては申し分無かった。無いどころか軽井沢で一、ニを争うであろう磁場だと考えられる。
 オープニングパーティーを完璧なものにしようとオーナーが心配するほどのことはないように悠也には思えた。
「どうだ、悠也」
「文句無い磁場です。完璧ですよ、ここまで来れば・・・・・・」
「心霊関係はどうだ?」
「祝詞をあげる必要もないですね・・・・・・強いていえば神仏の加護があれば鬼に金棒でしょうけど」
「建物や庭の木や土とか事故現場でサイコメトリーしてみるか?」
「そうですね・・・・・・行きましょうか」
「了解」
 そういうやいなや、二人は現場に向かった。
 工事跡は芝生が植えられ、事件があったとは思えない。土に触れても戒那には何も感じなかった。
「どうですか?」
 悠也が覗き込んだ。そうした仕草をすると戒那には彼がまだ子供に見えた。
「なかなか楽しそうに工事してたみたいだな・・・・・・負の気配も無い。そういう人物は関わっていないな」
「え?」
「良くない感情を持った顔が見えないんだ、というより無いな」
「そうなんですか?」
悠也は首を傾げた。先ほど戻ってきた式神たちも何も無かったと伝えてきた。これでは調べようが無い。
「ん?」
「どうしました?」
「ちょっと待て」
そう云うと戒那は枯芝生にうずくまっていた団子虫を抓む。
「この時期におかしくないか、悠也?」
「そうですね・・・・・・あ、まさか!」
「まさかではないと俺は見た」
 戒那は嬉しげな瞳で悠也を見ると、ポケットから瓶を取り出して団子虫をしまった。
「【アニマル・テイラー】だな、これは・・・・・・」
「一体誰が・・・・・・」
「こんなもので監視しようなんて考えるのは一人だけだろう」
「犯人ですか・・・・・・でもこれはそんなに強い魔法じゃないですよね、では犯人は・・・・・・」
「本当に賢いな、悠也は・・・・・・さすがだよ、犯人はすぐ近くにいる」
「誰ですか?」
「・・・・・・この感じだと」
 軽くサイコメトリングをしながら戒那は云った。
「犯人はオーナーだ」
「おーい、ニーチャンたち。ここでなーにやってンだぁ!」
 ふいに現実に引き戻され、野太い声がしたほうに顔を向けた。
 緑の十字がプリントされている黄色いヘルメットを被り、タオルを首に巻いた男がこちらに向かって歩いてきた。
「芝生植えたばっかなンだからよォいじくり回すなや」
「すみません・・・・・・まだ工事終わってないんですか?」
「ははぁ、アンタらお客さんかい?随分、キレーなニーチャンたちだなや。工事なら終わってけどよ、今日は野菜を届けに来たンだわ」
「野菜ですか?」
「そうよ。うちゃぁ、農家だからよ、ってもこの時期じゃ採れて根菜ばっかなんだけどな」
「事故があったと伺いましたが・・・・・・」
「誰がそんなこといったンだぁ?」
ポカンとした表情で工事現場のおっちゃんはいった。
「ありゃ、ショベルカーが倒れたんだよ。事故ってもんでもねェや」
「え・・・・・・でも、変な声を聞いた人もいると・・・・・・」
「ねえよ、そんなん。馬鹿いってねぇで風呂でも入ってゆっくりしろや。おおかた東京から来たんだろう?疲れすぎて【すとれす】ってのになっちまってンじゃぁないのか、ニーチャン?」
 それだけ言うとおっちゃんは「働きすぎってぇのもヤダねぇ〜」と呟きながら行ってしまった。
 取り残された二人はあっけにとられた。他に期待したほど情報も集まらなかったため、他のメンバーと合流することにした。

 仲間の情報に期待したが、やはりこちらも変わらずだった。勇太たちなんぞは警護と散策って感じだったらしい。勇太がサイコキネシスとか物理的な力のほうが強かったので、如神の足を引っ張る形になったからだった。
 再び悠也たち7人が集まったのはパーティーが始まる一時間前。
 さっきの捜査で神薙・春日の気分が悪くなったのが理由で、湖影たちは休憩をしていた。皆の前に姿を現した時も神薙・春日の顔色はすぐれなかった。
「そっちはどうでした?」
 悠也は勇太に尋ねた。それに対して勇太は「別に」とだけ答えた。
「別に?とは・・・・・・責任感の無い返事だね」
 ちょっとムッとし、軽い怒りを含んだ声で悠也はいう。
「す、すみません・・・・・・」
「まあいいでしょう・・・・・・それでは情報交換といきましょうか」
 おもむろに悠也はいった。
「まず、俺たちは使役霊を発見した」
 そう云ったのは湖影だ。
「そうは強くないが・・・・・・どうも・・・・・・」
「どうも?」
 勇太は混ぜっ返した。勇太を無視して湖影は続ける。
「手ごたえが無い」
「抵抗が無いってことですか?」
 悠也は眉をひそめた。
「そうだ」
「じゃあ、何で神薙さんは・・・・・・」
「使役霊が拘束者を吐く前に自滅したんで、春日の『予見』を行なった・・・・・・そうしたらこうだ」
「神薙さん、何を見たんですか?」
 春日はかぶりを振った。
「・・・・・・思い出せない」
「思い出せない?」
「いやだ・・・・・・・思い出したくないんだ!!」
 見えない何かに怯えるような仕草で春日はいった。うつむき、身体を強張らせる。
「思い出したくないほどのもの・・・・・・一体何なんでしょうかね」
 悠也の金の瞳に妖しい光が灯った。
「俺としては不本意ですが、ここは戒那さんに協力してもらいましょう」
「俺は構わないが・・・・・・記憶を拒否するほどのものとは何なんだろうな」
 戒那は腕を組んだ。腰まであるウェーブヘアが揺れる。
「納得いかないことがまだある・・・・・・使用人のことだ」
「使用人?」
「あぁ、おかしいじゃないか・・・・・・何かあったなら普通スタッフたちが逃げ出すだろうに。しかも、工事現場のおっちゃんたちは『変な声』なんか聞いてないって云っていた」
「え・・・・・・あっ!」
「わかったか、少年?」
「つまり、計算の内ということさ」
 今までずっと黙っていた塔乃院が口をきいた。相変わらずの無表情だ。
「建築会社に昨日行って来たが、事故のあったショベルカーに細工痕あった。ちょっとしたものだ、だが工事現場の人間ではわからないものだな・・・・・・ついでに」
「ついでに?」
「ツクモガミが憑いていた」
 ツクモガミは愛着を持って使ってやった物たちが命を得た霊の総称だ。
「本来なら百年は使ってやらないとそうはならない。今度の相手はそういう相手らしいな」
「つまり、霊を作り上げ、変化させると・・・・・・それは違法ですね、塔乃院さん」
 悠也は感慨深そうに云った。
 勇太はこんがらがった頭を整理しようと試みている。
「えぇと、使役霊が拘束者を吐く前に自滅、オマケにそうは強くなくて、使用人も逃げ出さない。工事現場に見えない細工とツクモガミときたら・・・・・・」
「犯人はオーナーだね、勇太」
 見上げて如神が云った。
「まさか・・・・・・」
 それは自分のペンションに火を放つような行為に等しい。自分が稼いだ金で作り上げた夢の御殿をぶち壊すのは無いのではと思えるが、一つ理由が無いわけでもなかった。
「何で、如神はオーナーを犯人だと思うんだ?」
「他に喜ぶ人がいないから」
「え??」
「俺も如神ちゃんの意見に賛成ですね」
 といったのは、悠也だ。
「草間さんに何て依頼してました?オーナーは・・・・・」
「変な声が聞こえて・・・・・・」
「違いますよ、その後です」
「『オープニングを飾る素敵な男の子が必要』だっけ・・・・・・あっ!」
「そうです。少なくともオーナーは喜びますよ、お客もでしょうけどね。オーナーは男にしか興味が無いんですから」
「そうか・・・・・・」
 気がついて、勇太は脱力した。オーナーは『男に来て欲しかった』だけなのだ。
 つまり、信用させるために、事故(重機が倒れただけだが)を起こした。変な声が聞こえると云ったのは、オーナーの口から聞いた事で、使用人は否定してる。勿論、事故は起きてる。でも、ちょっとした細工だったし、オーナーが術者としての能力があるなら、ツクモガミだって使役できるだろう。
「ったく、一体全体何考えてんだ、あのオーナーは!」
「まぁ、詳しい話は後で本人の口から聞くとして、もう時間だから、ホールへ行くか」
 湖影が提案した。
 皆はもその意見には賛成した。
「オーナーをとっちめるのは俺にやらせてもらおう」
 戒那はどこか嬉しそうに言った。さすが、女だてらに大学の助教授やってるわけではない。度胸も知性も一級品だ。心なしかうっとりと悠也は見つめた。
「証拠物件を発見したんだ」
 大学助教授センセイはそういって口角の端を上げた。
「うおっ、やった!」
「でも、このことはどうぞ御内密に・・・・・・・」
「なんでだよ」
「楽しみは後でにしましょう・・・・・・時間も無いですしね」
「ちぇっ!おあずけかよ・・・・・まぁ、いいや、期待してるよセンセイ」
「任せておけ」
 戒那の一言でミーティングは終わった。


●パーティーナイト
 パーティーは大盛況だというべきだろう。湖影の周りには女の子が群がっている。勿論、目当ては一夜の恋人の座だ。長い髪なのにしっかり男に間違えられている戒那は嫌がりもせずに女の子と踊っている。服装は胸元が開いたライトグレーのインナーに黒のパンツスーツだ。さっきまで気分がすぐれなかった神薙・春日も、今は元気そうだ。勇太たちはずっと年少であったせいもあって、お姉さん方の声は掛からずにいた。会場のあっちこっちと皿とフォークを持って移動し、オードブルの皿を如神と一緒に二人で突付き回し、普段はお目にかかることの無いご馳走に舌鼓を打っている。
 悠也はオーナーの趣旨通りに他の女性とも歓談し、ダンスもしてやっていた。サービス業が天職の魔族の青年というのも悪くは無いなと戒那は思う。
 悠也はチェーンアクセサリー付の紅茶色のお洒落なブランドのスーツを着こなしていた。グレイ系のスーツ姿の客が多い中では、その姿は十分に映える。
 モーツァルトの【二台のピアノのためのソナタ ニ長調、K448:第一楽章】が終わると【青き美しきドナウ】が会場を満たした。チークタイムの合図らしい。
 悠也が戒那に礼をした。
 緩やかな所作に気品と繊細さを乗せ、ただ一人のレディーに敬意を払う。そんな悠也を見て戒那は笑った。
「たまにはいいでしょう?」
 囁いた悠也は恋人に心を捧げる愛の信奉者のようだ。
「久々に女パートを踊るな」
 クスクスと小声で悠也に囁く。
 緩やかな音の高低に合わせて踊るワルツが、婦人たちのドレスの裾を花開かせ、会場の空気は一気に華やいだ。
 普段からパンツスタイルの戒那にドレスを着せるならどんな色がいいかと悠也は考えていた。薄紫か深緑の生地に深紅の薔薇のコサージュを付けたドレスがいいかもしれない。でも、なんと云っても戒那に一番似合うのは彼女の誰にも染まらない意思そのものともいえる漆黒だろう。
それは悠也の属す色。二人はそんなところが似ていた。
「ここで踊るとお前は更に目立つな」
「それは貴女もですよ、戒那さん」
「外で踊らないか?」
「何故です?」
そう云った悠也は真顔だった。
「邪魔者が多くて楽しめない」
「なるほど・・・・・・それもそうですね」
 悠也は何気ない仕草であたりを見た。誰もが恍惚とした表情でこちらを見ていた。
 クルリとターンし、悠也はベランダに近づく。程好い所でホールドの体制を解除して、ドアを開け、戒那をベランダにエスコートした。ベランダはそのまま庭に繋がっている。悠也と戒那は庭で踊ることにした。
 真っ白いタイルを敷き詰めた庭は月夜の下で輝いている。ギリシャ風の柱が庭のいたるところに点在していた。今は冬だから枯れているが、植えてあるのは高弁咲きの薔薇の木だ。きっと夏に来たら庭中に咲き乱れ、本当に綺麗な庭園になるだろうと思われた。置いてあるオブジェも品が良い。あのオーナーは意外とセンスがあるのではなかろうか。
「曲が聞こえないのは残念だな、悠也」
「歌ってさしあげますよ」
悠也の答えに、くっくと戒那は笑った。
「では、そうしてもらおうか・・・・・・曲は何にするんだ?まさか【女と男が愛する時】とか?」
「そうですね・・・・・・【Fields of Gold】なんてどうですか?」
「スティングか・・・・・・それでいい」
「では、お言葉に甘えまして・・・・・・」

You`ll remember me when the west wind moves
Upon the fields of barley......

 暖かく切ないメロディーが戒那の耳を擽った。
 昼下がりの陽射しの中で恋人の腕に溶け沈む感覚が沸き起こった悠也の歌声にはそんな魅力があった。幻だとわかっているのに、魂がそれを欲した。金色に輝く草原でまどろむのは戒那なのか。それとも歌詞に出てくる少女なのかわからなくなる。そんな感覚を戒那は楽しんだ。


「オーナーをとっちめるには何時が良いと思う?
 悠也の歌とダンスを堪能した戒那は囁いた。茂みに座り込み、二人は休んでいるが、疲労したためではない。仕事はきっちり片付けてからにしようと思ったからだった。
「明日でも大丈夫な気がしますね」
「そうだな・・・・・・ん?」
「どうしましたか」
「シッ!」
 ガサッという茂みを除ける音が聞こえた。そこに居たのは塔乃院だった。その向こうには勇太と如神が見える。
「ちょっとは出来たようだな・・・・・・如神」
「見てたんですか?」
 表情は良く見えないが、勇太は憮然としているようだ。云った言葉はかなり棘がある。
「ああ・・・・・・」
 あっさりと言った感じで塔乃院がいう。
「何で手助けしてくれないんだよ!」
「助けを期待するなら、この世界に足は突っ込むな」
「う・・・っせーなっ!」
「お前には用は無い」
「何だとォ!」
「・・・・・・来い、如神」
 塔乃院影盛は勇太の存在を完璧に無視して、如神に近づいた。表情に出てはいないが、相当頭にきているらしい。戒那と悠也は顔を見合わせる。二人は塔乃院に危険なものを感じた。
「すっぽかしのお詫びがまだだ・・・・・・先輩にそういう態度を取れと学校で教えられたのか?それとも、宗家のばあさんに、陰陽寮の現生神と謳われた『祥門須磨子』(ひろかど・すまこ)に、そう仕込まれたか?」
「・・・いいえ、違います・・・・・・」
 如神はうな垂れていった。
「何様だってんだ!!」
 勇太が叫ぶ。
「大の大人が身長差が40センチはあるだろう子を、しかも中学になったばっかの子にねちねち言うなんて、ムカツク!!最低だ!俺が・・・・・・」
「勇太・・・・・・」
「俺のためにふったんだから、許してやってくれよ!」
「いいよ、勇太」
「俺が嫌なんだ!」
「だからといってお前は関係無いな、用があるのは如神だ・・・・・・来い」
「・・・・・・はい」
 ぽつりと如神は言った。
「行くなよ!」
「ごめん、勇太・・・・・・先に部屋に帰って・・・・・・」
「だって、俺のために・・・・・・」
「これも勇太のためなの!」
「わっかんねえよ、全然・・・・・・俺が話しつけてやる」
「ダメぇ!!」
 叫んだ如神は真剣そのものだった。
「あの人は危険なの!勇太じゃ敵わないの」
「あいつが何だってんだよ!」
「死ぬより酷いことになるよ・・・・・・だって彼は・・・・・」
「如神、それから先は機密事項だ!!」
 ピシャリと塔乃院が言った。口答えを許さぬと目がいっている。
「はい・・・・・・」
 小さく聞こえるか聞こえないかの声で如神は答えた。
「ケーサツの事情かよ。アイツが何だってんだ」
「いいの・・・・・・約束やぶったの、こっちだモン」
「だからって・・・・・・だからって、あいつンとこ行くのかよ。何があるかわかんないじゃないか!・・・それこそ死ぬより酷いことってのが・・・」
「大丈夫・・・・・・」
「如神!」
 塔乃院の声だ。
「今、行きます」
「待てよ!おい、おいったら!!」
 そっと振り返ると、立ち止まり、また駆け出していく。塔乃院の視線を恐れるかのようだった。
「ったく・・・・・・何がどうなってンだぁ?」
 勇太は頭を振った。
「わっかんねえよ・・・・・・如神」
 勇太は呟くと駆け出していった。

 暫く、誰も居なくなった庭を呆然と悠也たちは見つめていた。
「何でしょうか・・・・・・今のは」
 美しい眉をひそめ悠也はうなった。
「嫉妬に狂ったおっさんの戯言だろう」
「あれは戯言にならないのではないかと・・・・・・」
「そうだな・・・・・・俺もそう思う。如神ちゃんも大変だな・・・・・・嫉妬深い先輩を持って。あいつは明日起き上がれるといいが」
「そう願いますよ、何せ仕事中ですからね」
「持つべきは理解の有る先輩だな・・・・・・さて、こちらも帰ろう。体が冷えたんじゃ明日に響くし・・・・・・」
「賛成ですね・・・・・・帰りましょう」
「ああ・・・・・・」
 そう云うと二人は立ち上がって、部屋へと向かった。


●使役者の結末
 翌日になって、容疑者こと、オーナーの【申し開き審議を開催】(命名:羽柴さん)をすることになった。如神が気分が悪いといったので、午後から始める事にした。

「大丈夫か、如神」
「う、うん・・・・・・気にしないで・・・・・・」
「声、枯れてるみたいだな」
「風邪だよ、きっと」
 如神がそういって笑ったが、どうも気になるらしく、勇太が休めといってきかない。しょちゅう吐く、如神の溜息が気になるらしい。そうこうしてる間にオーナーがニコニコしながら登場した。
 これから吊るし上げをくうってのに呑気だと皆は思ったが、まぁ、オーナーは安心しきってるのだろう。バレてないという思い込みがそうさせているのかとも思える。
「・・・・・・原因はわかったの?」
「ええ・・・・・・」
 戒那は微笑んだ。
「犯人は貴方です」
「そうよ」
 あっさりオーナーは認めた。
「何故ですか?」
「ごめんなさい、アタシ。成功させたかったのよ・・・・・・ちょっと嘘でも云って、綺麗な子借りて、アタシが男の子が好きってのもあるけどね、成功したら万万歳だもの。だから、声が聞こえるとか嘘云ったの」
 オーナーはそういうと肩をすくめた。
「大掛かりなお芝居だって思うでしょうけど・・・・・・」
「それだけじゃないですよね?」
「え?」
「あなた・・・・・・もしかして【アニマル・テイラー】(動物操者)じゃないですか?・・・・・・昨日、これを発見したんです」
 虫の入った瓶を斎さんは見せた。アニマル・テイラーとは動物を自分の一部のように扱える術に長けた人間のことだ。しかし、人間のような複雑な思考を持つ存在は扱えず、使えてもその動物に認識できる範囲しか行動できない。【アニマルテイラー】は警視庁魔導防犯課にその旨を登録せねばならないことになっている。
「それは・・・・・・」
「しかも、霊まで使役出来ますね」
「わ、私が【アニマル・テイラー】なのは認めるわ・・・・・・でもそれしか出来ないわよ!」
「それは嘘です」
「嘘なんかついてないわよ!!」
 オーナーは叫んだ。
「そりゃ、アタシは未登録の【アニマル・テイラー】よ。そんでもって、オカマよ!・・・・・・でもね、そこまでしてアタシが自分のお金無駄にしようと思うわけないじゃないのよう!」
「・・・・・では、あの使役霊は誰が・・・・・・」
「知らないわよ」
「じゃあ、俺と如神が倒した集団霊は?磁場が悪いわけでもないのにそんなのが現れるっていったら、誰かがやったとしか・・・・・・」
「アタシじゃないわ。魔法学校じゃ術なんて殆ど出来ないオチコボレだったんだから・・・・・・そのことは草間ちゃんが証明してくれるわよ」
 皆は黙ってしまった。再度調査をしたものの、証拠になりそうなものは発見できるわけも無く、使役霊と集団霊に対する疑問が残ったが、調べることも出来なかった。草間さんに電話をしたが、やはりオーナーがいう通り、オーナーは筋金入りのオチコボレで有名だったそうだ。就職先のないオーナーは仕方なく新宿のオカマバーで働いていたらしい。
 草間さんは「パーティーが成功したんだったらそれでいい」といってくれたが、悠也たちは釈然としなかった。
 謎を残したまま、依頼は終わった。
 これから先は呪禁官の仕事だそうで、再調査となったがそれは塔乃院が請け負うこととなった。
 電話で草間さんが依頼終了と告げ、悠也たちはフリーになり、それぞれに休暇を楽しみんで東京に帰ることにした。勇太は如神に付き合い、大量の買い物(これがまた凄い量だった)を済ませ、東京行きの新幹線に乗って帰ってきた。

「終わりましたね・・・・・・」
 悠也はいった。
 感情の見えない声は何の感慨も無いという風に聞こえなくも無いが、戒那はそうは思わなかった。
「始まりだろう?」
 戒那は云った。
「俺もそう思いますよ・・・・・・何があるんでしょう?」
「楽しみか?」
「暇よりはいいでしょうね」
「草間くんから依頼があればそういうことにはなるかもしれないが・・・・・・まあ、こっちの選択次第だな」
「そうですね・・・・・・」
 タクシーの窓から東京の夜景を見た。東京タワーが萎れた向日葵のような姿を晒していた。凍った夜風に身を震わせ、朽ち逝く花を思わせるそれはまさに東京そのものだった。

   END
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0164  / 斎・悠也  /  男 / 21 / 大学生・バイトでホスト-
0867 / 神薙・春日 / 男 / 17 / 高校生/予見者
1122  / 工藤・勇太 /  男 / 17 / 超能力高校生
0689 / 湖影・虎之助/ 男 / 21 / クラス 大学生(副業にモデル)
0121 / 羽柴・戒那 /  女 / 35 /  大学助教授
(PC名五十音順)
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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、朧月幻尉(ろうげつ・げんのじょう)と申します。この度は依頼に参加いただきまして有り難うございます。
謎が謎を呼んでいる最後ですが(如神と塔乃院の間に何があった!)、これも一つの東京怪談のあり方かなと思いましたがいかがでしたでしょうか?
 悠也くん、素敵です。戒那さんとの会話は書いていてとても楽しゅうございました。おまけについ歌わせてしまいまして(汗)美声で歌われた【Fields of Gold】は一体どんな声だったのか!!(書いた本人が一番気になります・・・うう[泣])


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 発注を戴き、誠に有り難う御座いました。

P・S: ちなみに、ハーブ入りのブーケをタッジー・マージと言います。如神はこれを渡したのですね(^^)