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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:黄泉津比良坂 −死反玉<まかるかえしのたま>−(後編)
執筆ライター  :立神勇樹
調査組織名   :草間興信所


■オープニング■

 人もこない樹海の小さなヒノキの社で、一人の女が泣いている。
 涙を流すこともなく、声を上げることもなく。
 うっすらと微笑みすら浮かべながら。
 青く茂る榊を祭った祭壇にある、死反玉を眺めながら。
 今、この玉を焔を剣にてうちて現れる、大いなる闇御津波の流れに乗せ、もとある女神の懐へ返せば荒魂が和魂へと帰り、呪いを許されしもしよう。
 しかし、そうする気は透子には更々なかった。
 ましてや、火神教の「宮」が言う讒言を信じている訳でもなかった。
 ──生き返らないことなど、もうとっくの昔に知っていたのだ。
 ただ、許したくなかったのだ。憎みたかっただけなのだ。
 誰も榊を憎まないから。由良さえも榊を嫌わないから。
 自分が憎まなければ良介があまりにも哀れだ。
 憎まなければ、幸せになってしまえば、自分すら良介がいた事を忘れてしまうだろう。
 それではあまりにも哀れだ。
 だから、榊千尋という人間を憎んだ。憎しみで思い出を刻み込もうとした。
 そうすることでしか、忘れずにいられない。自分は弱い人間なのだから。
 やがてこの樹海に火が灯る。
 山肌を流れ出た溶岩が、闇からあふれ出た血のように、あらゆるものを焦がしながら。 そして自分も死ぬだろう。最後まですべてを忘れずに──。

 音も無く雨が降る。
 漆黒の空間に次々に現れて消えるそれは、真実も虚偽もを貫く銀色の悪意の針のようにも見えた。
 事件の発端であり失踪していたはずの、第二種特殊犯罪調査官・榊千尋が島根の病院からここ、東京の警察病院にヘリで搬送されてからすでに5時間が経過しようとしていた。
 草間武彦は、ほかにするべきことを思いつけないまま、ロビーの端でタバコを吹かしていた。しかし、空箱をきつく握りつぶした左手が、彼の心の中にかつて無いほどの嵐が吹き荒れていることを、ひそやかに告げていた。
「火之迦具土だかなんだか知らないが。一体全体どうなってるってんだ」
 ロビーのソファーでは母親に殺されかけ、父親と慕う男を失おうとしている少女が泣きつかれて眠っていた。
 大人の都合に踊らされ、そして飽きられた人形のように打ち捨てられて。
 通路をひとつ挟んだガラス壁の向こう──集中治療室からは、心臓の動きを示す単調な電子音が、榊千尋という人間の死への階梯をしめすように、無慈悲に、容赦なく鳴り続けていた。
 火之迦具土をあがめる教団――「火神教」と警察が呼び、は富士に眠る火之迦具土を解放し、浄化の炎で日本全土を焼き尽くさなければならない、と狂信している宗教団体があった。
 かつて榊千尋は教団を根絶するための捜査に挑み、部下であり神道の術者である嘉数良介を犠牲にして、すべてを終わらせたはずだった。
 しかし実際は違っていた。
 生き残った「火神教」の者は、嘉数を犬死させたと榊を逆恨みする妻を手ごまに取り、榊を罠にはめ、そして苦痛の果ての死により復讐を果たそうとしていた。
「「火神教」の行方に関しては、警察の榊の部署が全力を尽くして探しているらしいが……行方がわかったとしても」
 やることが多すぎた。
 「火神教」を放置すれば、いずれや日本は大きな損害を受ける。
 また嘉数透子とまゆらの母娘を放置しておく訳にもいくまい。もちろん──榊も。
 雑多な情報の山から核心を探し出そうとしていると、不意に集中治療室の扉が開き、一人の年配の医師があらわれた。
「──脈拍の低下と体温の上昇が著しい強い状態です」
 簡素に言う。
「アイスバーン処置と、投薬で持たせていますがこのまま体温の上昇がとどまらなければ、あさっての明け方には43度を越えるでしょう」
 それがどういうことが、瞬時にはわからなかった。
「体温計の多くは42度ないし43度までの目盛しかありません」
 医師の言葉不足を補うように、ぽつりと誰かがいった。
 それ以上の温度になると、たんぱく質が熱変成を起こすという。
 つまりそれ以上の温度だと酵素が働かなくなる──だから。
 計るまでもなく命が「ない」。
「いまだかつてない症状です。まるで呪いとしか思えません。脈拍が低下しているのに熱だけが上昇するとは。レトロウィルスの方面でも検討して治療中ですが、何分データがない。榊君がどれほど持ちこたえられるかも未知数だが」
 俯きがちに医師がつぶやく。
「家族の方を呼ばれた方がよろしいでしょう」
 ──それは、一日と半分だけ早い、死刑宣告のように聞こえた。


■And then?■

 いつもと同じ夜明けの筈なのに、どこか冷たく感じるのは季節が冬へと変わるつつあるという事なのだろうか。それとも自分のささやかな感傷にすぎないのだろうか。
「女の執念とはすごいものだな」
 やがて昇り来る猩々星――太陽よりもさらに紅く燃える髪をかき混ぜながら、呆れたように黒月焔はつぶやいた。
「いや、復讐か」
 言い直して、ポケットからすっかりくたびれてしまった煙草をだして口にくわえる。
「おそらく、透子は火之迦具土を復活させるためにそれなりの場所にいるだろう。――そう、樹海の祭壇にでもな」
 その手の事は詳しくはないが、力の道筋を追えば自ずとわかる筈だ。
 煙草の煙を吐き、隣に立つ男に視線を向ける。と、武神一樹は口の端を引き締めた。
(饒速日命(ニギハヤヒ)の末裔としてこの事態は捨て置けぬし、このまま誰一人とて救われぬ幕引を座視して見送ることなどできん)
 黄泉津比良坂。この国の防人である者達にとって決して触れては行けない忌み場にして神聖なる場所。
 人に赦されざる領域を侵し、呪われたといえ、自業自得と突き放してしまうには一樹はあまりにもすべての事情を知りすぎていた。
 このまま由良の笑顔を修復することもかなわず、また透子を怨嗟の檻から解き放つ事も出来ず、榊を死なせては、なんの「調停者」だ。
 人と妖の間に立つのが調停者ではあるが、だからといって、人と神の間に、人と人の間に立つのを拒絶する理由にはならないし、理由にしたくもない。
 目の前に見えるすべてを救うのは傲慢に等しい考えかもしれない。
 それでも、救えるかもしれない可能性を捨て切れるわけではないのだ。
 一樹と焔はまったく違った動機で関わっているのだが、一つだけ共通点はあった。
 このままに、喧嘩を売られたまま引き下がるのはしゃくにさわるという事だ。
 火神教などという得体のしれない宗教団体に翻弄され、すごすごと引き下がる程、おとなしくも卑屈にもなれない。
「ったく、いくら名前が神の木とか神の領域と人の領域の境の木って意味合いの「榊」だからって、神の世界に手ェ出すなんて……バッカじゃねえか?」
 一樹の側で、一人の少年が力一杯に道路に転がっていた空き缶を蹴り飛ばす。
 鳥の羽より軽やかで繊細な茶色の髪が、少年の動きにさらりと揺れる。
「っつーかバカだな」
 空き缶が遠くに転がってしまった為か、アスファルトを今度は蹴りながら断言した。
 死の間際に立っている人間に対して、容赦ない言葉ではあるが、不快に感じないのは彼から放たれる気が明るく澄み切ったモノだったからだろう。
 そう、まるでこれから上る朝日のように心地よい活力と明るさに満ちている。
 顔をあげて、鷹科碧は肩越しに病棟を見た。
 見る者を拒絶するような混じりけ無い白さと、デザインセンスの欠片もない四角い建物の群に吐き気がする。
 顔をしかめて、頭を振り手足を伸ばす。
 言動や声はまだ大人になりきれない少年のものだというのに、伸びやかな手足はすでに横に並ぶ武神や大上と変わりない。
 力強さに欠ける感もあるが、それを補ってあまりあるしなやかさが潜んでいる。
「容赦ね−のな」
 頬を指先で書きながら、大上隆之介が朝日を受けて金色に輝く瞳に呆れと好意を絶妙にブレンドして、碧を眺めやった。
 年齢が近いこともあり、また「女の子と付き合うのが好き」という共通点が有るためか、はたまた不謹慎な、と叱りつける程堅苦しくもまじめにもなれない達だからか。
 ともかく大上隆之介は碧に笑顔を見せた。
「しかし、そうだよな。考えていたってしかたない。時間は……あんまり無いしな」
 ちらりと時計を見ていう。正確な残り時間を言わなかったのは、それを知ることによって生み出される閉塞感が嫌だったからに他ならない。
「そーそー」
 病室で真っ青になっていた兄の顔……鷹科碧海の顔を思い出して、碧は舌打ちをする。
(なんであんなツラさせるんだよ。ったく榊のヤツ)
 とりあえずバカをこのまま死なせてしまうわけにもいかない。榊の方の面倒見るのは兄貴――碧海に任せて、自分はアホ教団でも相手しにいくか、と飛び出し近寄りがたい中島文彦と黒木イブのグループを避け、何となく武神一樹、黒月焔と大上隆之介のグループに参加して見たのだが。
「富士への移動は警察を利用、と思っていたのだがな」
 ふくれっつらの碧海を見て、一樹が苦笑してみせた。
(兵力を一点集中するのは兵法の基礎とはいえ、この場合は現実的ではないでしょう)
 と、すべてを指揮する御統綺陽子ににこやかに言われてしまったのだ。
 火神教と嘉数透子。
 この二者は「榊を憎む」という面では利害一致していたが、その他の点では同じとは言い難い。
 確かに透子を火神教に抱き込む為に、「火之迦具土の封印を解けば嘉数良介は自由となり戻ってくる」と言ったが。それは嘘の情報であり、透子も嘘だと知っている。
 ならば、死反玉を手に入れた今となっては火神教にとって透子は「邪魔な存在」でしか無いだろう。
 夫を殺した恨みで、最後の最後で儀式をひっくり返されるとは言い切れない。
 であるならば、一緒に行動しているとは思えない。と御統綺陽子は言ったのだ。
 焔に真っ向から対抗する意見だが、樹海、というキーワードだけは一致していた。
 あるいは、樹海に神殿があり、儀式は火口で行うつもりなのかもしれない。
 いずれにしても、嘉数透子が鍵を握っているのは確かだ。
「当てがある、とはいえ……樹海のどこか、ではな」
 眼鏡のつるを指で押し上げ、眉間にしわを寄せて一樹がうなった。
(大丈夫です。きっと最良のガイドが現れます)
 と言われなければ、体よくやっかい払いされたと思わずには居られない。
「部下が部下なら――上司も――ってヤツだな。風水人形の事件で榊は得体が知れんとおもったが」
 一樹の内心を代弁するように、間髪入れず焔が言い切る。
 榊も得体が知らないところがあるが、それに和をかけて、榊の上司である御統綺陽子はわからない。
 にっこりと笑いながら、コートの下では常に銀のナイフを研いでいる。そういうタイプならまだわかる。
 彼女の場合、にっこりと笑いながらコートの下から鳩を飛ばしてきても、ダイナマイトが姿を現してもおかしくない。そんな笑うに笑えない得体の知れなさがあった。
「きっと最良のガイドが現れますって……チョォいい加減だよな」
 大上が唇をとがらせて吐き捨てる。「チョォ」などという普段なら恥ずかしくて使えない、死語にもひとしいコギャル言葉を言ったのは、この重苦しい空気を何とか払拭したいと思ったからだ。
 病院の駐車場で立ちつくす。
 出勤時間が始まったのか、ちらほらと車が駐車場内に入り込んできていた。
 と、不意に一樹の携帯電話が鳴った。
 懐古趣味の持ち主で、骨董品店を経営しているとはいえ、最新技術のすべてを否定するほど一樹は愚かではない。
 よって、現代の必需品となった携帯電話を持っていたとしても、なんら不思議は無かった。
 不思議だったのは、その携帯電話から流れてきた草壁さくらの声だった。
 とまどい、狼狽え、困り果て、しかしせっぱ詰まっているとは言えない、奇妙な声だった。
「どうした? さくら」
 いつものように一樹が問いかけると、さくらがほんの数秒沈黙したあとで、言葉を続けた。
『榊様の、ご家族の方をお呼びになったほうがいいと――浅田様が』
「家族? 何故俺が榊の家族の事なんかを――」
 と、言いかけて一樹らしくない、ぎゅう、ともくう、とも言えない奇妙な声をだして言葉を詰まらせた。
 榊には親も親戚も居ない。
 唯一人。もっとも近い自分の半身ともいえる双子の弟をのぞいて。
(知らぬ訳ではないが……)
 かつてゴーストネットで起こったある事件で、もう一人の「榊」――を知った。
 が。決して友好的な関係ではない。非友好的と言い切れる訳でもない。
「どう呼べと」
 やっとそれだけを言い切る。さくらもその返答を予測していたのか。『はい』と答えたまま沈黙する。
 と、電話のやりとりからすべての流れを悟ったのか、黒月焔がニヤリ、と唇をゆがめてみせた。
 メガエラが引き起こしたホテルでの騒動。その時共に事件に関わった仲ではあるが。
 今の焔の表情では、武神を援護する気はなさそうだ。
「あれ? 武神さんどうしたんですか?」
 憮然とした表情になってしまった一樹を、下からのぞき込みながら碧が言う。と、立て続けに大上も疑問をあらわにしながら尋ねてきた。
「あんた、変な顔してるけど……まさか榊さんに何かあったのかっ!」
「いや、そうではない。が」
「そうではないが? ん? どうした??」
 面白がる調子で焔が一樹の言葉尻をとらえてあおる。
 忌々しげに舌打ちする。
 何もしらない隆之介と碧にどう事情を説明したらいいのかわからず、言葉を選んでは脳の奥のゴミ箱に捨て去る行為をくりかえす。
 どう呼べと? どう説明しろと??
 予期せぬ事態に狼狽えながら、電話の向こうのさくらと隆之介らに説明しかね、八つ当たり気味に焔を横目でにらんでいると、病院の駐車場には似つかわしくない4WDの車が入ってきて、一樹達の側の駐車スペースに停止した。
「Hi、そこのナイスな顔した野郎さん達。俺と一緒に肉マンでも食わない?」
 ウィンドウが降りるなり、こげ茶色の――榊と同じ色をした髪を肩で切りそろえた男が、場違いな事この上ない井辻屋の肉まんの袋を振りながら声をかけた。
「ティシポ……」
「っと、今はアキだ」
 以外な人物の登場に、焔がその「秘められた名前」を言おうとすると、当の本人はごまかすように早口で言い、丸いサングラスを滑稽なまでにずらす。
 油断ならない濃緑の瞳がじっと一樹と焔を見据えている。
「一時休戦。四の五の言える状況じゃねぇだろ」
 異能力者を狙い、害しつづけるハッカー集団Fuliesの一人。
 ティシポネとして違う事件では敵となる一人。
 榊千暁という名を持つ男が、言って肩をすくめた。
「確かにな、しかし」
 兄に会わなくていいのか、兄の側に居なくていいのか。と尋ねかけた武神の先を制して、アキは他人を、否、自分を含むすべての世界をあざ笑うような表情をして見せた。
「あんた、俺に「警察」病院の中に入れって言うワケ?」
 ドアを開けて降りると、肉まんの袋を碧に押しつける。
「ほうほう。なるほど、確かに「警察」病院の中はマズイだろうな」
 道ばたで出会った中学時代のクラスメートにでも言うように、さらりと焔が肯定する。
 例え、裁判にすることはできない――公判を維持し、刑に当てはめるだけの証拠を残して居ないとはいえ、榊千暁は、ティシポネは立派に犯罪者――ハッカーなのだ。
 下手に動けば「兄」の事件にかこつけて、違法ぎりぎりの事情聴取をおこなわれかねない。
(きっと最良のガイドが現れます、か)
 御統の言葉がそれを正確に表している。警察はすでにアキが現れる事を予測しており、またアキも警察に予測されていることを知っている。
「大した化かし合いだ」
「今更だな。あの榊にあの上司だ。こいつが現れても俺は不思議におもわんがな」
 四半世紀寝かせた、至上の赤ワインのようにねっとりと燃える紅の瞳を細めながら焔が言う。
 興味がひかれれば、焔はどちらでも良いのだ。
 敵であろうと、味方であろうと。
 息がつまるような退屈を蹴り飛ばし、知識と能力のすべてを思うままに使い、限界を試す事ができるのであれば。
 倫理や道徳に背く事に、抵抗はない。
 苦痛に対してしっぽを巻いて逃げる程弱くも、情けなくもないが、目の前に待ち受けている快楽を道徳とか世間体とかいうつまらない理由で拒絶する程愚かではない。という事だ。
「何? コイツ誰? 榊の関係者?」
 本能的に「気にくわないヤツじゃない」と位置づけしてしまったのか、早速袋から肉まんをだしてパクつきながら、碧海が尋ねる。と、間髪入れずアキが答える。
「ていうか、双子の弟」
 アキの言葉に、焔が喉をならす。胸の奥で「ハッカー様のな」と皮肉気な枕詞をつけているのは間違いない。
「似てないな、榊さんの方が弟に見える」
 碧海からピザまんを受け取りながら、大上がいう。昨日から不眠不休だったため空腹で仕方がなかったのだ。
「この際、信じた方が楽なのではないかな。武神の旦那」
 差し出された肉まんを断りながら、焔が言った。断ったのは別に毒が入ってると疑ったワケではない。煙草の後に食べたい代物ではない、というただそれだけの事だ。
「それで? 武神サン。どうする? 信じる?」
 軽口めかせた調子でアキは言っていたが、サングラスの奥の瞳には殺気とも言える刹那の光に満ちていた。
「信じるしか、あるまい」
 端からみればあまりにも馬鹿馬鹿しい成り行きにあきれながら、碧海がもっている紙袋からあんまんを取り出した。
「こと「情報」においては、おまえの方が警察より上手に見えるしな」
「持ち上げても、肉まん以上は何もでないぜ?」
「承知している」
 アキの軽口を素っ気なく返しながら、一樹が助手席のドアに手をかけた。
 ――残り時間はあと36時間。


■社の巫女媛■

 夜が近づいて来たのか、急激に気温が低下してきていた。
 深い木々をすかして入ってくる夕日の光は血の様に赤く、無造作にのびたシダや雑草、枯れた古木が作り出す影はまるで冥府への入り口を指し示している様に見える。
「ったく、歩きにくいったらしょうがねー!」
 勢いよく足を上げながら、茂みを蹴り潰しながら鷹科碧は吐き捨てた。
 道路に車を置いてからすでに一時間以上、道無き道を歩き続けているのだ。
 ぼやきたくなるのもしょうがない。
 男5人が車に押し詰められて、高速道路を数時間。
 うんざりし、やっと外に出られたかと思えば何のことはない、自分の動きを制限するのが機械の無機質な狭さから、植物の有機質な邪魔に変わっただけだ。
 つるのようにのびた名も知らない草や、枯れ葉に沈んだ灌木がつねに足下をとらえ、地面にひきた押してやろうと悪意をむき出しにはびこっていた。
 武神一樹は時折立ち止まり、目を閉じては木々のざわめきに……否、神代の時からこの地を見守り続けた木霊の声に耳を傾けていた。
 さわさわと、葉ずれの音が聞こえる。
 それは風に揺らいでる、というだけではなく、ただならぬ空気に木々がおびえているのだと、一樹は……否、その場の全員が気づいていた。
 ぶるり、と身を震わせて隆之介は己の肩を抱いた。
 何かが、来る。
 深い森の中、不思議と自分が落ち着く場所。
 いつも遊び場にしている新宿よりも歩きにくく、見慣れない、知らない地形だというのに、この森に道満ちている植物の、大地の香気を吸い込めば吸い込む程、手に取るようにすべてがわかった。
 視界の端にある杉の木の根本にうずくまるイタチ。
 シダの影にひっそりと咲く濃紫のスミレ。柔らかく隆之介の足を受け止める苔の種類。
 名前を知らない、しかし不思議と見覚えのある鳥や植物に、隆之介はとまどいながらも、心の奥底でどこか安心しきっていた。
 ……火神教という阿呆の集団にこの森をけがされるなんて絶対に許さない。
 もう二度と森が蹂躙される様を見たくない。
(二度と? なんで俺はこんな言い方をしているんだ……?)
 自分の心の奥底から沸き上がってきた考えに愕然とする。
「知っている、のか」
 一体何を? と、自分に問いかけようとした時、森にはあり得ない電子音がかすかに背後で鳴った。
 つと気をそがれて視線を向けると、最後尾を歩いていたアキが携帯電話を操作しながら、渋面に満ちた表情をしていた。
「ここまでだな」
 吐き捨てるように言うと、手にしていた銀色の杖で地面をとん、と叩いた。
「ここまで? ってどういう事なんだ? アキさん」
「俺が付き合うのはここいらまでだ。ここから先は電波が届かないんでね」
「は? 何ソレ。アキちゃんなんかあったの?」
 きょとん、とした顔つきで茂みに特攻をかけていた碧が、身体についた枯れ葉を払い落としながら振り向いた。
「そうか、なるほどな」
 ニヤリ、と黒月焔がサングラスをずらして、燃える夕日と同じ深紅の瞳で、周囲の森と同じ暗いアキの瞳を見た。
 ……ティシポネという二つ名を持つハッカーがいた。
 そのハッカーは、携帯電話を通じて衛星に命令を送り、機械で計算された完璧な魔法陣を衛星の電磁波で描く事で敵を攻撃するという技能を持っている。
 つまり。
「電波が届かない処では俺は攻撃できないんだ」
 ぽりぽりと、頬を掻いて空を見る。
「何ソレ、使えねー! バケモンは電波の範囲を見て襲ってきてくれるワケじゃないんだぜ?」
 全員が思い、だがあえて口に出さなかった言葉を、碧は堂々と吐き捨てる。若さの特権というヤツだろう。
 碧の言葉に、ぎゅう、ともきゅう、ともつかない声で答えると、アキは「だいたい俺は元々が防御系の魔術師なんだよ」と消え入るような声で言う。
「なるほど。本来なら使えない攻撃系の陣魔法を携帯電話とプログラムという現代の科学によって補っている訳か。これは良いことを聞いたな」
 好奇心に瞳を輝かせながら焔が言う。
 魔術や神道などオカルト全般を取り扱い、あらゆる術をかじった事のある焔にしても、ティシポネの一風かわったやり方は十分に興味がひかれるモノであった。もしアキが持っている携帯電話一つで魔法が敵うというのであれば、是非にでもコレクションにくわえていじり倒したい処だ。何、飽きれば別の好事家に売れば良いだけの話だ。
 もっとも取り扱うにはそれなりの魔術的素養がなければならないのだろうが、自分はその問題をすでにクリアしている。
 くっ、と喉をならして笑うと顔に彫り込まれている龍がゆらりと身体をくねらせた。
 焔の意図に気づいたのか、アキが身体を強ばらせ、半歩だけ後ずさりする。
 まるで猫――否、虎ににらまれたネズミだ。
「っていうか、悪魔召喚プログラムってやつ? 昔のゲームにあったよなー」
 二人の対峙に全く気づいていないのか、脳天気に碧がいう。
「違う」
 憮然とした顔で返す。
「それに後から来る者への道案内も必要だろう」
「後から?」
 隆之介は怪訝に聞き返したが、すぐに浅田幸弘がこっちに来ているのだろう、と見当をつけた。
 と、風が止まった。
 それまでこの馬鹿馬鹿しい会話を完全に意識野から追放して、透子の気配をただひたすらに木霊に尋ねていた一樹がゆっくりと一度うなづいた。
 ――見つけた。
 まるで幣をふる神主のように粛々とした気配を己にまとわせながら、武神がつい、と指を森の奥の一点で指し示す。
 と、アキが突然銀の杖で地面を三度叩き、小さな声で耳慣れない言葉を――神聖エノク語だな、と焔だけがいくつかの単語を聞き取っていたが――を唱えた。
 とたんに杖が銀色の月の光と同じようにほのめき、一条の光となって一樹が指し示す先、透子がいるはずの場所へとのびていく。
 そしてこぼれ落ちた光が地面に落ちて、今まで5人がたどってきた道をうねりながら這い進む。
「新月の樹海は、案内なしじゃ迷うだろ。だから俺はここで座標軸になっててやるよ」
 ポケットから煙草をとりだして、火をつける。
 本来ならば兄を窮地に追いやった女をなぐりつけてもやりたかろう。
 しかしそうしないのは、何の攻撃手段も持たない自分がついていったところで迷惑だ、と認識しているのと、これから先に進む4人を信頼しているからなのだろう。
「だが、俺は気が身近いんだ。煙草を一箱を吸いつぶすまでに来なきゃ……キレて何するかわからんぜ?」
 剣呑とした瞳で一同を見渡す。
 もししくじったら、透子や火神教だけじゃなく焔や一樹達も許さない、と言っていた。
「兄弟して、油断のならない男どもだ」
 呆れたように一樹がいい、眼鏡を押し上げるとたった一言に自分の想いすべてを込めて吐き捨てた。
「杞憂だな」
 背中をむけて、光の向こうへ歩き始める。
 杜の社は……もう、すぐそこにあった。


■火之迦具土■

 銀色の光のリボンをたどる。赤い糸をたどって迷宮をくぐり抜けたギリシア神話の英雄のように。
 光を手放せば二度と戻れない、深い樹海という迷宮から。
 果てに赤い炎が見えた。
 一つ、二つ。――それから三つ。
 進むたびに炎の――社を照らす篝火の数が増えていく。
 まだ真新しい……おそらく周囲の木を切り倒してつくったのであろう、白木の社が視界に現れた。
 もう一歩踏みだそうとして、武神は歩みを止めた。
 女が立っていた。
 触れれば消えそうな、幻のようなぼんやりとした笑顔で。
 だが、その瞳に写る影はどことなく冷たく――まるで泣いているように見えた。
「透子、さん」
 隆之介が喉から絞り出すように言う。
 あの黄泉津比良坂で有った時から変わらない、いや、違う。
 かすかにやつれ、山の寒さで白く冷たく浮き上がる肌。冷たく篝火の炎に揺らぐ瞳。
 それらが互いに共鳴しあい、ひきたてあい、透子を山神のごとく冷酷で人間離れした存在に仕立て上げていた。
「……俺はあんたが羨ましいよ。俺は……俺にはそこまで必死に守りたい記憶がない」
 狼がうなるように、低く、危険な因子を含んだ声で大上は言葉を口にしていた。
「違うな、あった筈なのに忘れちまったんだ。あんたが榊さんを恨むのは有る意味正しいよ。けどな! 由良ちゃんは違うだろ?!」
 怒りが、声となって放たれた。
 それはまるで樹海を者ともせずに駆けめぐる、否、樹海を守護し支配する狼たちの王者のごとき声だった。
 そうだ。透子のこのやり方は違う。
 透子と良介をつなぐ……良介という人間が確かにいた証として由良が存在するのではないか。
「由良ちゃんが居る限り、あんたは良介さんを忘れない……そうじゃないのか?」
 隆之介の言葉に、透子は応えない。
 ただ、磨かれた瑪瑙のように暗く冷たい瞳で見返すだけだ。
「俺はもう……目の前で理不尽に傷つけられたり、道具として利用される存在をみたくない」
 榊がやっていることと、透子がやっていること、どちらもあまり変わらない。
 人形のように無反応なまま、透子はじっと見返している。何の声も届かないのだろうか、といらだちが胸の奥を締め付け、押さえきれない激情が針となって目の奥を、頭の奥をちりちりと突き刺した。
「アンタ……火之迦具土を復活させ、すべてをなくすことで満足なのか? 娘を道具に使ってでも自分が満足していないのはわかっているんだろ」
 死者は戻らない。
 どんな術をつかったところで、戻ったように見えるだけで本当は戻っては居ない。
 ただ、肉の器がうごいてるだけだ。
 東西のあらゆる術を知る焔だからこそ、知っている。
 復活のあらゆる術をもちいても、いつかは終わりが来ることを。
 生きる以上は死ぬことから逃れられないことを。だ。
 当然、巫女であった透子が知らないはずはない。
「死後の世界は生者にのみにあると、知っているのではないか?」
 焔や隆之介より幾分落ち着いた声で、武神一樹が尋ねた。
 否、尋ねたというより諭すという方が正しいだろう。
 遠い異国の地で、神と信じられていた「存在」はある日別の……異端者を排除する狭義な宗教により、悪魔と言われた。
 その時から神は力を失った。
 何故なら、神は「信じられてこそ」の神であり、「信じるものがいるから」こそ力をふるえるのだから。
 そして、死者の世界も然り。
 生きている者が信じなければ、消えるうたかたの幻なのだ。
「貴女が死すれば、「嘉数良介」もよりどころを失い、また無へと帰す。それに嘉数を死なせた事で自分を憎んでいる榊を殺すのは……罰ではなく、救いになるとおもわんか?」
 突如、それまで人形のようだった透子が壊れたおもちゃのように高笑いし始めた。
「榊が、自分を憎んでいる? そんな事、あり得ないわ。彼は「そういう」人ではないもの」
 白い巫女装束の袖が揺れる。
 古めいた管玉や勾玉が連なった手飾がしゃらしゃらと鳴る。
「あれは定められた法を守り、その違法者をとらえる猟犬。目的の為に「し得ねばならぬ事」をなすのに、何のためらいも後悔も見せない。己の力により法が守られるので有れば、その必要とすべき「時」がくれば、千人万人を殺しても、蟻ほどの動揺も後悔もみせない。そういう男」
 否定できなかった。
 確かにそう言う一面はあった。例えばあの東京タワーでの事件。
 何のためらいもなく、少女を……人形として仮の命を与えられていた存在を撃ち殺した。
「まあ、否定はできないな」
 全員の言葉を代弁して、焔がこともなげに吐き捨てた。
 と、一樹と隆之介が非難めいた瞳を向ける。だが、焔は口の端を持ち上げ、顔に彫り込まれた龍とともに透子をあざけりながら唇を再び開いた。
「それにしても、ただ殺した男が、ただ相手の家族の面倒を見てたと思ってるのか? そのあたりの事情をちゃんときいたのか?」
 焔の言葉に、透子がぴくり、と頬を引きつらせた。
「……俺さ、ヤツの事アンタと同じぐらい大っ嫌れーだけど。ま、知らないみたいだから教えとくよ」
 それまで大人の言い合いに口を挟めず、積極的に関わる気にもなれず立っているだけだった碧が肩をすくめた。
「榊のアホ、ああみえても孤児らしいぜ?」
 人一人生きていくのは、どれだけ大変だろう。
 ましてや透子と由良、何も持たない二人が生きていくには東京はどれだけ優しいだろう?
 二人がその厳しさをしらずに済んだのは、良介の……ひいてはその意志をついだ榊のおかげに他ならない。
「アンタは恨んでただけで何もしなかっただけではないのか? 人を犠牲にする時、される時の心、理由をしっかりと考えるんだな。アンタも娘を犠牲にしたんだぜ……犠牲も裏切りも、されてもしても辛いものなんだぜ」
 焔にしては珍しい、どこか憐憫を含んだ、それでいて優しい声で言った。
 とたんに、言葉に押され出もしたように透子がよろめいた。
「何もしらないのに、勝手なことを!」
 透子が叫んだ。
 人形の呪縛が壊れた瞬間だった。
「どうしてなのよ、何故なのよ! 私の処へ戻ってくると言ったのに、どうして榊なんかを信じて死んだのよ。どうして私じゃなくて、榊による死を選んだのよ! どうして榊は馬鹿みたいに良介との約束を守りつづけてるのよ。私は……私は」
 一日一日と、良介を忘れて行く。
 声を、その髪の手触りを、笑いかける時の仕草を。
 ふと気づいたら思い出せない。
 由良の側にいる良介を思い出せない。由良の側にいる榊は簡単に思い出せるのに。
 憎かった、妬ましかった。
 妻である自分よりも、榊の方が良介に近いと認識する度に。
「どうして榊の為なんかに死んだのよ……」
 つい、と涙がこぼれた。

 蔓草に足をとられ、地面に倒れ込む。
 両手がふさがっている為か、受け身を取ることも出来ない。
 普段は身綺麗にしているというのに、今の碧海ときたら、森の奥にすまう土の妖精のように、枯れ葉と土にまみれていた。
 地面に転がったまま、剣を抱きしめる。
 と、目の前に手が差し出される。
 剣を取りに浅間神社へと共に向かってくれた幸弘だった。
 一人ではとてもここまでは来られなかった。
 自分だけではどうしていいかわからなかった。
 幸弘の暖かい手を取りながらたちあがり、顔についた土をはたき落とす。
 胸に抱えた長剣が……十拳剣が重い。
 長くて、すぐに蔓や藪にひっかかり、急く碧海をからかうように先へ進むことを拒絶する。
 それでも、進まない訳にはいかないのだ。
 ――火之迦具土とは、剣の姿を取っているという。
(その剣を身にまといし者を火之迦具土と総称するのじゃ)
 と巫嫗(ふう)は……祖母は言っていた。
 炎を纏いし剣を十拳剣で打ち折れば、火之迦具土は血を……溶岩にもにた炎の血を流すという。
 それこそが闇御津羽であり、大地の狭間を通り、黄泉へと流れる水なのだという。
 十拳剣とは固有名詞ではない。十拳……人間の拳を十個ほど並べた長さを持つ剣である。
 しかし、ただ長ければ良いという訳ではない。
 長い間神剣として奉られていなければならないのだ。
(それならばうちの神社の御神刀でもいけるだろう)
 と、弟の碧は面倒そうに言うかも知れない。
 しかし、京都へまで取りに行くいとまはない。
 ならばと、ゴーストネットへ朝一番に駆け込み、浅田幸弘と必死になって富士山近くの神社を検索して御神刀を奉っている場所を探したのだ。
 そして見つけたのだ……富士山をあがめ、鎮める神社。
 源頼朝、北条義時、足利尊氏、豊臣秀吉、徳川家康などが寄進をおこない、桜の宮と呼ばれる。
 浅間神社。
 ただし総本宮ではない。
 富士山の周囲にある百四十七社。
 その一つ。たった一つだけが十拳剣を奉っていたのだ。
 もちろん、御神刀を簡単に貸してくれる訳がない。しかも高校生と大学生にしか見えない碧海と幸弘である。
 しかし、必死のお願いによって、渋面をつくっていた宮司は話を聞き入れ、最後には微笑みすら見せて貸してくれたのだ。
 とはいえ、樹海はすでに夜であり、どこを歩いているのかわからない。
 ただ、確かなのは、ヘンゼルとグレーテルの童話にあるように、点々と残された白い光の痕跡。
(一体誰が。黒月さんか)
 幸弘がいぶかしみながら光をたどる。
 鷹科碧と武神一樹は神道系の術者だ。黒月はあらゆる術を知るとはいえ、彼の術はどちらかといえば鋭く、炎のように燃えさかる勢いに満ちた者が多い。もちろん親友である隆之介にこんな芸当が出来る筈がない。
 と、光がひときわ明るい場所に、一人の男が立っていた。
 さらりと揺れる黒髪。
 魔法の光にてらされて輝く瞳は新緑石の鮮やかさ。
 それはどこかで見た顔で……。
「千尋、さん?」
 つかれから、ぼんやりとした頭をふりながら尋ねる。
 その人物はとても榊に良く似ていた。
「後少しだ。俺はここから離れられないが。がんばりな」
 そういうと、ぽん、と碧海の頭に手を乗せた。まるで初めで榊千尋と出会った時のように何気なく、そして優しく。
「説明はナシだ。早くいきな、時間がねぇ」
 言葉に押されるように碧海が走り出す。
 その後に幸弘が続く。と、すれ違う瞬間、男は幸弘を見て、大仰な動きで肩をすくめた。
「ご家族の方への連絡、ちゃんと俺は受け取ったからな」
 と。

「だからこそ、なのではないか」
 責めるではない。まして憐憫でもない。
 ただただ諭すように一樹はぽつり、とつぶやいた。
 透子の涙が樹海の地に落ちてにじむ。
「巫女として嘉数良介を祭り守り、彼の為に生きよ」
 神託を告げる預言者のように、その言葉は周囲をふるわせ透子を包み込む。
「祭る……私が、良介を?」
「信じられなければ神は消える。しかし、信じられれば人は神にもなろう」
 事実嘉数良介は神だったに違いない。透子にとって唯一人の絶対の存在意義。
「死反玉、返してくれないか? 榊さんを助けたいのもあるけど……俺はあんたも助けたい。そして由良ちゃんも」
 そして何より自分はこれ以上森を失いたくはない。
 何故か、という理由は隆之介にはわからなった。だが、心のそこからそう思い、言葉にしていた。
 透子が、胸元を押さえた。
 そこにはひときわ暗い闇色の曲玉が下がっていた。
「大人しくそれを渡しな。俺がしかるべき処に戻してやろう」
 焔が手を伸ばす。
 きつく透子の唇がかみしめられる。
「俺さ、想うけどその良介さんって人? 別に榊のアホの為に死んだんじゃないと想うぜ? 火神教をほっとけば、あんたや由良ちゃんも死んだ筈だ、それだけじゃない。もっと多くの人も」
「返した処で……榊さんは……戻らないわ」
 ぽつり、とつぶやく。
「わかっていたのよ。あの人が何を望んでいたのか」
 自分が愛した人と、娘が笑って生きていける世界。それだけを唯ひたすらに望んでいたのだと。
 そこに自分がいなくても、笑っていられるように榊にすべてを託したのだと。
 なのにどうして自分には、何も言わずにいってしまったのだと。それが悔しかっただけなのだ。と。
「透子さん、今度は貴女が良人を殺すのか?」
 武神の視線が透子を捕らえる。
 笑っていた。
 彼女は泣きながら笑っていた。
「返しても、十拳剣が無ければ火之迦具土はうち破れないの」
 どうしたらいいのか、とまどいを隠せずに、それでも笑っていた。
 もう手遅れなのだという諦めと、自分の負けを認めた笑いだった。
 だが、彼女の笑顔はすがすがしかった。
 確かに、榊に対する復讐とねたみへの戦いには負けたのだろう。
 しかし、自分の中にいる本当の自分との戦いに、彼女は勝ったのだ。
「十拳剣――って、今更いわれても」
 そんな剣は無い。取りに戻ってる暇はない。
「十拳剣にて火之迦具土を、燃えさかる剣に化身した神をうち破れば、溶岩のごとき炎の血がながれ、やがて水に変じて黄泉へといたる。その流れに死反玉をのせてすべらかに母神の身元へ返せ」
 信じられない声をきいた。
 碧ははじかれたように後ろを向く。と、そこには月の光のごとき銀色の目を輝かせ、長い包みを胸に抱いた兄の――碧海の姿があった。
「まったく、相変わらず感情のままに猪突猛進なんだな。ま、この場合は」
 それで、正しい。と告げながら碧海の後ろから浅田幸弘が姿を現す。
「幸弘!」
「碧海」
 二人が叫んだ瞬間、透子の後ろ、五十メートルばかり離れた処に立っていた白木の神殿から、あまたの悲鳴が上がった。
「アンタ、火之迦具土は」
 焔が胸元から幾何学的な模様が描かれた紙を取り出し、社へ走りながら聞く。
 と、透子が叫んだ。
 社の中です。と。

「さあ、お次は誰?」
 喉をならしながら、イブが髪を掻き上げる。
 足下には炎の術で焼かれて灰となったコートが落ちている。
 裸身に近い、妖艶この上ない下着姿で、樹海にあるにしてはあまりにも非常識な構図ではあったが、無数の篝火にてらされ、赤い光の揺らめきに白い肌を彩らせたイブの様子は、なぜか不思議とこの状況に似合っていた。
 足下に転がる、ひからびた死体を、ブーツのつま先で蹴りどかす。
 周囲を取り囲む白装束の信徒達は、イブの壮絶なまでの美しさに思考を奪われていた。
 それでも意志力がつよい何人かが手をのばし、彼女に襲いかかろうとする。
 瞬間、夜風になぶられるイブの髪の一筋に指が触れるより早く、銃声が鳴り響き、信徒達の額の真央に穴が空き、次々へと倒れる。
「邪魔しないでちょうだい、暁文」
 食事を邪魔されたのが癇に障ったのか、イブが普段より一オクターブ高い声で叫んだ。
「邪魔してるのは、テメェだろう。俺は俺のやり方でやらせて貰う。食事ができねぇのはテメェがトロいからだ!」
 からかうように返ししな、両手の拳銃をたくみに操り、信徒達を流し目で一別する。
 そして、暁文の視界に捕らえられた順番通りに、銃声が鳴り響き、倒れていく。
「ち、トロいとは随分なお言葉ね。では、好きにやらせていただくわ!」
 手を天にさしのべる。
 とたんに熱されたバターよりも簡単に「黒木イブ」という形が崩れ、ゲル状のどろりとしたモノが地面へと吸い込まれた。
 音のない影のようにしみが地面を動く。
 突然の事態に、呆然としている信徒の中で、ひときわ若くい男の背後でしみがとまった。
 と、先ほどの奇妙な光景を逆回しするようにゲルがイブへと戻る。
 腕を喉と胸にからみつかせ、右足を男の右足に絡める。
 赤い舌で、ちろりと首筋をなめたかと想うと、人型が崩れ、薄い液体の膜となり男の表皮を覆い尽くす。
 驚愕に開かれた口から、水音を盾ながら液体――イブの本性が体内へと入り込み、そしてあらゆる臓器に満ちる精気を吸い尽くす。
 痛み、というよりむしろ悦楽に満ちた表情をうかべ、男の皮膚が劣化し、髪が白くなっていく。
「フフフ、最後にこの世至上の快楽を味わったんだから、幸せな死に方かもしれないわねぇ」
 ぺろり、と再び唇をなめ、次なる獲物を探し液化する。
(敵じゃなくて良かったぜ)
 あれからは、逃れる術はない。
 放たれる炎の術を交わす。
 火球が髪をかすかにかすめて焦がす。
 ひさしぶりだ。ここまで暴れるのは。
 こうでなくては、生きている感じがしない。
 生と死、裏切りとかりそめの協定。ギリギリでしか生きられない流氓の本性がこれ以上ないまでに暁文をかき立てる。
「おらおらおら、人をここまで巻き込んでくれたんだ。覚悟は出来てるよな? 出来てねぇなんて半端な事は言わせねぇぞ」
 社から出てきた――おそらく教団幹部である男に銃口を定めてみせる。
「別開玩笑?(冗談はここまでだぜ?)」

「どけよ! 俺は今ストレスたまってるんだ! 瀕死の榊の変わりに十倍増しで殴るからな!!」
 言われた方に取っては災難以外の何者でもない主張を叫びながら、碧海は手から念動を放ち、碧と、そして後ろに居る碧海にのびてくる信徒の手を身体毎吹き飛ばしてやる。
「水剋火、とは言いますが。俺の場合は正しくありませんね」
 篝火がのび、しなる炎の鞭となって幸弘を襲う。
 しかし、炎は幸弘の顔数十センチ前で急速に弱まり、何故か氷となり、砕けて地に落ちる。
「熱気と冷気を操る俺にとって「相剋」はあり得ない」
 術で敵わないと見てとった男の手刀を避ける。と、側にいた隆之介が男の手首を取り、ひねりをくわえて投げ飛ばす。
 普段にはあり得ない力が身体の中を駆けめぐっているのを隆之介は感じていた。
 森を焼かれるのは我慢ならない、再び教団とか信者とかいう訳の分からないヤツに森を、自分の居場所を破壊される訳にはいかない。
(なんで、俺はここまで森にこだわっているんだ!!)
 心臓の音が、狼の遠吠えのように聞こえた。
 自分のしらない自分の「血」に焦る。それでも攻撃の手を休めない。
「やりすぎだ」
 苛立たしげに吐き捨て、一樹は自分に対して炎の壁を築き、封じ込めようとした男に手をさしのべ、裂帛の声を放つ。
 と、ガラスが砕け散るような音がして周囲の術者もろとも「技」が中和される。
「中島と……もう一人いるな。陽動のつもりだろうが、殺しすぎだ」
 あれでは火神教と変わらない。
「ふむ、あいつはやりだすと徹底するからな。傍らの女も同じ手合いだ」
 乱戦になりつつある中で、取り出した呪符を空に放つ。
「吾以日洗身・以月錬真・仙人輔我・日月佐形・二十八宿・與吾合并・千邪萬穢・逐水而清・急急如律令!」
 と、ミミズともウジ虫ともつかないぷるぷるとしたバケモノが現れる。
 朱色の丹砂で呪が書かれた紙を用いて使役する、中国の呪虫「三巳虫」。
 死をささやき、死を誘う虫である。
 かつての事件で見て以来、おもしろ半分に焔はこの術を取得したのだ。
「新たな術を試すほど大暴れ出来る機会はなかなかないからな、俺の実験台になってもらおうか? 母娘の弱みにつけ込んで使役する薄汚れたお前らには、お似合いのウジ虫だろう?」
 地獄の閻魔より壮絶で人を嘲った笑いを浮かべる。
 虫は信徒を喰らいながら、のたうつようにして祭壇へと向かっていく。
 突如炎が、鮮烈な太陽のような光が輝き、三巳虫を一閃した。
「火之迦具土!」
 碧海が叫び、十拳剣を抱いたまま、焔の前に、殺された三巳虫の呪力――呪い返しのおぞけたつ眩い波動の間にたつ。
「澳津鏡、辺津鏡、八握剣、生玉、足玉、道反玉、死反玉、蛇比礼、蜂比礼、品物比礼、布瑠部由良由良止布瑠部」
 すばやく唱えると、柏手をうつ。
 とたん、透明で精錬に練れた「気」が呪力をつつみ浄化した。
「あお!」
 叫んで碧が崩れ落ちかけた碧海を済んでで抱き支える。
「これ、で、千尋さん、を」
 剣を焔に押しつける。もはや持っていることも出来ない位消耗していたのだ。人一人を易々と殺す呪いを返し、浄化するなど、いくら神道をたしなんでいても、無茶がすぎいていた。
 無言のまま受け取り、剣と化けした火之迦具土――否、剣に乗り移られ、火之迦具土と変容しようとする「宮」へと焔は駆け寄る。
 雨のように降り注ぐ火は、幸弘の氷と、武神の中和で身体に触れるより早く消え去り、道を邪魔する雑魚は暁文の銃と隆之介によって排除されていく。
 そして地に倒れた信徒どもを、歓喜の笑みをうかべながらイブがこの上なくみだらに食べ尽くしていく。
 段を踏みやぶらんばかりの勢いで駆け上がる。
 鞘から引き抜くのももどかしく、体の中の血を、彫り込まれた龍と一体化して火之迦具土に襲いかかる。
 それは一枚の絵に見えた。
 炎を纏う神と、天空を支配する炎吐く龍神の一騎打ちに。
 落雷のような轟音。
 そして、金属が砕ける音。
 はぜるような音がして、火之迦具土と変容しかけ、しかし果たせなかった男は白い光のような炎に包まれ、黒い炭と化す。
 折れた剣が、赤く赤く、溶岩のように熱をもったまま床に転がり、白木を焦がしている。
「これを!」
 透子が武神に死反玉を投げた。
 死反玉は最初からそうなるのが決まっているように、武神の手に落ち、白木の床に広がる、かつては鉄であった溶岩の固まりへと玉を落とす。
 と、透子が戦いのさなかにあって、祈るような声で歌い出した。

 時間が音もなく過ぎていく。
 二度目の朝が来ようとしていた。
 日暮れまでにすべてが終わらなければ、榊は死ぬ。
 たった一日だというのに、何年もここに居たように、シュラインは感じていた。
 時計は針の進みかたが、早いような遅いような気がしていた。
「遅い、ですわね」
 待つのにはなれているさくらも、終末が訪れようとしているのを感じていた。
 待つのはなれている、何年も、何百年も待っていた。見守って、出会い、そして別れていた。
 だけど、帰ってきた。
 いつでも愛するべき人は、愛するべき土地が訪れ、さり、また訪れた。
(だから、一樹さまはきっと帰ってくる)
 ふるえそうになる手を握りしめながら、さくらはうつむいた。
 と、由良の手首に下がっている鈴が鳴りだした。
 玉がなく、決して鳴るはずのない玉が。
「鈴が、なっております」
「まさか、鳴るはずがないのに、また鳴るだなんて」
 シュラインが驚愕のままに口に手をあてる。と、由良が驚いたシュラインの顔を見て笑った。
「お父さんが歌ってる」
「え?」
 あわてて榊を見る。と、由良が一度だけ瞬きして、シュラインの袖を引いた。
 再び金色の鈴がなる。
 ――高天原に神留り坐す 皇親神漏岐 神漏美の命以て 八百萬神等を神集へに集へ賜ひ 神議りに議り賜ひて。
 鈴の音に合わせるように、由良が口ずさむ。
 それは子供が口ずさむにしては、あまりにも難解であったが、間違える事無く由良は歌をたどっていく。
 鈴の音を追うように、合わせるように。
 子供が父親の後を追いかけ、追い越し、戯れるように。
「我が皇御孫命は 豊葦原瑞穂國を 安國と平らけく知ろし食せと 事依さし奉りき」
 さくらが、ゆっくりと目を閉じて先を続ける。
 神道の知識など、まったくないのに、シュラインの脳裏にも歌詞が、歌詞が描く光景がくっきりとうつりだす。
 鈴の音に誘われるように、鈴の音が教えるように。
 口ずさむ。たどる。その歌の高低を。
 此く依さし奉りし四方の國中と 大倭日高見國を安國と定め奉りて 下つ磐根に宮柱太敷き立て。
 と、唇が動いていく。
「かくよさしまつりしよものくになかと おほやまとひだかみのくにをやすくにとさだめまつりて したついはねにみやばしらふとしきたて」
 声が戯れる。
 幼い由良の声と、さくらのふうわりとした声、そしてシュラインの見事なまでに高低を捕らえ、あまたに変わる美しき声――そして、もう一つ、若い男の声が、導くように鈴の音と共にあたりに響いた。

「此く佐須良ひ失ひてば 罪と言ふ罪は在らじと 祓へ給ひ清め給ふ事を 天つ神 國つ神 八百萬神等共に 聞こし食せと白す」
 ――かくさすらひうしなひてば つみといふつみはあらじと はらへたまひきよめたまふことを あまつかみ くにつかみ やほよろづのかみたちともに きこしめせとまをす。
 罪という罪はあらじと、祓い給い清め給う事を、天つ神、国つ神、八百万の存在するすべての神がみと共に、ききかなえたまえと願う。
 透子の声が、碧と碧海の声が、武神の声が、そして全く何もしらない隆之介や幸弘までもが歌っていた。
 炎は静かに岩となり、岩は砕け水となり、床から、地へおち、水となり、そのさらに深い根の国へと吸い込まれていく。
 死反玉を抱いたまま、荒ぶれる黄泉の女神をいさめに降りていく。
 声が響き終わった瞬間、戦いは終わっていた。
 あまりのあっけない結末に、暁文はすべてがどうでも良くなっていた。
 ポケットから取り出した、御統の偽装警察手帳を篝火の中へ投げ捨てる。
 皮が燃える異臭が、何故か心地よい。
 イブもまた、信徒の精気を喰らいすぎて飽きていた。
 活きがいいのはともかく、同じような精気ばかりでは飽きがくると言う者だ。
 すっかり戦闘する気を失った二人を見て、一樹はうなずく。
 自分の力のすべてを手のひらに集中する。
 そしてすべての汚れを払うように、禊ぎの言葉の最後の響きにあわせて、柏手を打った。
 とたんに、それまで狂信的な熱を瞳にうかべていた信徒たちから、何かが消え失せた。
「……え?」
「教義に関する知識と記憶を封印した。もはや宗教そのものが消滅したと行っていいだろう。ただ、問題は」
 ここに居る信徒達が、自分たちは何故ここに居るのだろう、と途方にくれ、今後の生活に支障をきたすだろう、という事だが、人に迷惑をかけたのだ。それぐらいのリスクは負って貰わねばならない。
「武神様」
 つ、と透子が頭を垂れた。
「歌を聞きました」
 そう、聞こえた。
 幼い由良の声、そして武神が愛するさくらの声、シュラインのすべてをしのぐ美しい声。
 そして、透子が、請い願った、立った一人の最後の歌を。
 遠く離れたこの場所で聞いていた。
「神葬を行おうと想う」
 草間達を氏子とし、自ら神主を請け負って、改めて嘉数良介の死を悼もう。
 もちろん巫女は、透子だった

 
■エピローグ■

 奇妙なモノをみた。
(いや、奇妙な人物と行った方がただしいか)
 榊が検査入院の為に使用してる個室の前で立ち止まる。
 そこには肩で切りそろえた茶髪を持つ白衣の男が――ティシポネこと、榊千暁が立っていた。
「『警察』病院にははいらないのではなったのか」
 背後から声をかけると、驚いたように肩をうかせ、ついであわてて振り向き、赤面してみせた。
「きょ、今日から護衛が居なくなったから、よけいなさ、わぎにも巻き込まれないだろうと」
 驚きからつっかえながら、アキが答える。
「ならば逢えば良いではないか。わざわざ医者のコスプレまでして」
「っていうか、俺の仕事着も一応白衣なんだがな」
 呆れながら一樹が言うと、調子を取り戻したのかアキが軽い口調でいう。
 だが。
 一樹がドアノブに手をかけた瞬間、アキが恐ろしいまでの勢いで武神の手首を掴んだ。
「なんだ?」
「悪い、開けないでもらえるか? 顔あわせちまうのはダメなんだ」
 せっぱ詰まった表情に、動きがとまり、ドアノブから手を離す。
「顔あわせたくないなら、何でここに来たっておもってるだろ」
 ドアに手のひらをかざす。
 板から数センチ離したところで浮かす。
 何らかの因縁をもった双子を隔てる、安っぽくて薄い扉。
 それ一枚越しに、もう一人の自分の吐息を感じてるのだと、一樹には理解できた。
「何で来たんだろうな――」
 手を下ろし、一樹に背中を向ける。
「帰るのか?」
 問いかけるが、答えない。まして振り向く事もない。
(おまえが復讐の女神を名乗るのは、もう一人の自分――榊千尋が関連しているのか?)
 喉の奥で、一つの質問がひっかかっていた。
 だが、答えるべき存在は、もう視界にはなかった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0173 / 武神 一樹(たけがみ・かずき)/男/ 30/骨董屋『櫻月堂』店主】
【0134 / 草壁・さくら(くさかべ・−) / 女 / 999 / 骨董屋『櫻月堂』店員】
【0599 / 黒月 焔(くろつき・ほむら)/男/27/バーのマスター】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 /草間興信所事務員&翻訳家&幽霊作家】
【0213 / 張・暁文(チャン・シャオウェン) / 男 / 24 / サラリーマン(自称)】
【0365 / 大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)/ 男 / 300 / 大学生 】
【0454 / 鷹科・碧(たかしな・みどり)/ 男 / 16 /高校生】
【0308 / 鷹科・碧海(たかしな・あおみ)/ 男 / 17 / 高校生】
【0898 / 黒木・イブ(くろき・−)/女/30/高級SM倶楽部の女王様】
【0767 / 浅田・幸弘(あさだ・ゆきひろ)/男/19歳/大学生】

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■         ライター通信          ■
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 前後編というお話に最後までおつきあいくださった方、また波瀾万丈の後編から果敢にも奮闘された方、ありがとうございました。
 おかげさまで何とかNPCは生き延びました。
 今回はとても個性的なプレイングがあり、なかなか楽しんで書かせていただきました。
 良いプレイングなのに、私の実力不足で完全に描写しきれず、申し訳ない限りではありましたが。
 精一杯がんばらせていただきました。
 一本のファイルにまとめると膨大な量になってしまうため、個々別にわけさせていただきました。
 またここではない、別のお話で再会出来るとうれしいです。

 次の榊さん単発事件の予定は未定ですが。
 ひさびさにまったりしたお話を書いてみたいです。
 沖縄か、京都か、長崎か。
 のんびりとした話で行きたいと思っておりますので、機会がありましたら、よろしくお願いします。

 武神一樹様
 前後編への参加ありがとうございました。
 説得のプレイングがとても格好良くて、思わず拝んでしまいました。
 上手く描写できたかどうか、不安ではありますが。
 また他の方のプレイングにより、別のシリーズの人間が引っ張られていますが。
 突っ込めば向こうの解決にも大きく役立つヒントが隠されてます。

 では、再び不可思議な事件でお会いできることを祈りつつ。