コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


<猫の呪いだにゃんっ>

●オープニング
「ふーん、猫の呪いねぇ」
 三下忠雄が、そう、つまらなそうに呟いた時、
「猫の人形?」
 後ろから聞きなれた声がした。
「あ、編集長」
「面白そうな手紙じゃない」
 碇麗香が、三下が広げていた手紙をつまむ。
「猫の人形に取り憑かれてしまいました、助けてにゃん……にゃん?」
「全編そんな感じですよ。子供の悪戯だろうと思うんですけど」
「う〜ん……でも、記事に出来たら面白そうね。誰か、手の空いてる者はいないかしら?」
 手紙によると、10歳の女の子が、誕生日祝いに猫の人形を買ってもらってから、急に猫語しか話せなくなったらしい。
「語尾ににゃんってつけると、猫語なんでしょうか?」
「……さあ?」

「ふうん、面白いね。ああ、麗香、これ頼まれてた原稿な」
 瀧川・七星(たきがわ・なせ)が、言葉の割にはクールにそう言った。
 七星は背中まである、美しい長い金の髪と青い瞳を持つ、20代半ばぐらいの男性である。今日は、依頼された原稿を渡しにアトラス編集部に来ていたのだが、ここへ来ると度々こんな話に遭遇する。
「何? 猫の呪い・・・・?! 祟る、呪うは化け猫の専売特許にゃ!! それやられちゃったら商売上がったりにゃ! 勝手に取るんじゃないにゃ! ちなみにアタシが猫語なのは化け猫だからで、呪われてる訳じゃないのにゃ。勘違いしないで欲しいのにゃ」
 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)は、麗香に話を聞くと、そう叫んだ。
 珠緒は、さらさらとした銀色の髪に赤い瞳、豊満なボディ、名前の通りの雪のように白い肌を持つ、仄かな色気のある20代前半の女性だった。いや、女性に見えた、が正しいだろう。
 本当は、化け猫である。
 そして、この化け猫の飼い主こそが七星なのであった。今日も、珠緒は七星にくっついて編集部に遊びに来ていたのである。
「タマ……自分で正体をばらすなよ」
 やれやれ……と、七星は苦笑した。
「ハッ! 珠緒姉さんうっかりにゃ〜。と、とにかく、気に入らないにゃ! 行って、ビシッと説教してやらなくちゃなのにゃ」
 一応、珠緒が本当は化け猫であるということは秘密になっている。
 少し付き合いのある者はみんな知っているような気もするが、それも秘密である。
「人間に仇なすなんて、猫の風上にもおけないのにゃ! 悪いヤツは頭からバリバリ喰ってやるのにゃ」
「タマ、矛盾してるぞ」 
「にゃ? 細かいことは気にしちゃダメなのにゃ」
 珠緒が、高く拳を上げる。
「どう? この依頼、引き受けてくれる?」
「うーん、そうだな。猫……まぁまだ猫とはっきり決まったわけじゃないけど、調べてみようか」
「報酬の猫缶を忘れちゃダメなのにゃ!」
 と言うわけで、七星と珠緒はこの事件を調べてみることにした。

●集合−−七星の場合
 麗花によると、他に2人この事件の調査をしてくれる事になったと言う。そこで、さっそく合流することとなった。
 麗花に言われた集合場所の駅前には、4人の人間(?)が集まっていた。
 一人は勿論、七星自身。もう一人というか一匹というかは珠緒。そして、後の二人は共に厳つい体の大男達であった。
「白雪珠緒にゃ。よろしく」
 それにしても大きい。
 こう言ってはなんだが、珠緒は別に背が低いと言うわけではない。わけではないが、この二人を目の前にすると、随分小さく見える。
 七星もそうだ。
 七星は、むしろ背は高い方なのだが、この二人に比べるとひょろひょろに痩せて見える。それほどに、二人の体はごつく、大きかった。
 依頼人は小さな女の子だけど……大丈夫かな。
「巖嶺・顕龍(いわみね・けんりゅう)だ」
 一人が、そう言った。
 顕龍は40過ぎぐらいで、背が高く、がっちりとした体躯をスーツに包み、明らかに何か格闘技をやっているよう見える。茶色がかった髪に、引き締まった顔立ち。冷たい赤い双眸も異彩を放つ。ただ、その割に、紳士然とした雰囲気があるのはなぜだろう。
「俺は瀧川七星。一応、小説家。よろしく」
 七星がそう挨拶すると、もう一人の大男も、ニカッと笑って挨拶を返した。
「珠緒に顕龍、七星か。俺はゴドフリート・アルバレスト。白バイ警官だ。カリフォルニアから交換留学でこっちに来てる。まぁ、仲良くやろうや」
 ゴドフリートは、身長2mを越し、がっちりとした体格をしている。顕龍より一回り以上大きく、まさに巨漢と言うにふさわしい。ブルドックを思わせる容姿で、一見太っているようにも見えるが、実はその総ては引き締まった筋肉である。
「やっぱり何かいい匂いにゃ」
 声に気づいて見ると、珠緒がゴドフリートに鼻を向け、くんくんしている。
 こいつ、食い物の匂いにつられやがった。みっともない!
「こら、タマ。失礼だろ」
 珠緒を叱るが、ゴドフリートはうなずき、
「ああ、これの事かな?」
 大きなポケットからガサゴソと袋を取り出し、その中に腕を突っ込んだ。
「それじゃあ、お近づきのしるしに」
 何個かのシュークリームを珠緒に渡す。
「い、いいのかにゃ?」
 と、珠緒は返事も待たずにシュークリームを受け取り、にこにこと頬張りはじめた。
「これはっ! 生クリーム入りにゃっ!」
「やれやれ……」
 困ったもんだ。
「あんたらも一つどうだ?」
 ゴドフリートが七星と顕龍にも勧める。
「それじゃ一つ……」
 七星はそう言って1つだけ受け取ったが、
「俺はいい」
 顕龍は、けんもほろろに断った。
 なるほど、顕龍にはどこか人を寄せ付けない雰囲気がある。ただものではない……それはまぁ本当はここにいる全員がただものではなかったもしれないが、七星には、特に顕龍の背後に暗いものを感じた。
「それじゃ、行こう」
 七星はそう、珠緒と顕龍、ゴドフリートを見渡して言った。

●素敵な出会い(一部そうでない者もいるけど)
 目的の家は、駅からは少し離れた郊外にあった。家自体は、ごく普通の二階建ての一軒家で、一見した限り怪しいところはどこにもない。
 表札に「湯川」の文字が見える。
「ここで間違いないな」
 七星は、麗花から教えて貰った住所を確認しつつ、辺りを見回した。
 手紙を書いて来たのは女の子。名前は、「ゆかわすず」と書いてあった。
 麗花の話では、既に親には話を通してあるらしい。
「えいっ!」
 珠緒が、勢いよく呼び鈴を押す。
 ピンポーン……
 しばらく、間が空く。
「あれ?」
 誰も出てこない。
 ピンポ、ピンポ、ピンポーン……
 珠緒が、焦れて何度も呼び鈴を押す。
「もしもーし! 返事がないにゃ、おかしいにゃ!」
「タマ、そんなに何度も押したって無駄だろ」
 やれやれ、さてどうしようかと思った時、はじめて応えがあった。
「ハーイ」
 間違いなく、子供の高い声だ。
「おう、なんだ留守かと思ったぞ!」
 ガハハ、とゴドフリートが豪快に笑う。
 ドダダダダダダダダ……ガチャッ
「しつこいにゃんっ」
 現われたすずは、いきなり、玄関正面に立っていた珠緒に飛び蹴りをかました!
「にゃ!」
 不意を突かれて、その蹴りは見事に珠緒の顔面に決まる。
「あれっ……?」
 すずのびっくりした顔が、印象的であった。
 七星のほうがもっとびっくりしていたが。

●こたつ談義
 すずは10歳と聞いていたが、もう少し子供っぽく見える。しかし見たところ、これといって変わった感じはしない。
 それにさっきの行動を見る限り、思ったよりも活発な子らしい。
 いつまでも玄関前にいても仕方ないので、七星達は家の中に入った。応接間……なんてものはなさそうで、居間に通された。
 通常よりやや大きな掘り炬燵に入ると、親は留守であることを告げられた。
 一通り、名前だけ名乗った後に、
「おねぇちゃん、ごめんなさいにゃん」
 すずが、真剣な表情でぺこりと頭を下げた。
「う〜〜それはもういいにゃ」
「お父さんはどこ行ったの?」
 麗花の話では、母親はすでに亡くなっているらしい。
 七星の問いに、すずはもじもじと、
「おねぇちゃんたち、ざっしの人達?」
 と、逆に聞き返して来た。
 顕龍が、口を開く。
「月刊アトラスに手紙を出したのは、お前だな?」
 こくり、とすずがうなずく。
「猫化ねぇ……見た限り、そう深刻でもなさそうだけど」
「それより、さっきの言葉が気になる。なぜ、突然珠緒を蹴ったりしたんだ?」
 顕龍の言葉に、
「だって……」
 一瞬、すずは口ごもり、やがて言った。
「また、あのおじさんだとおもったにゃん」
「あのおじさん?」
 ゴドフリートが、聞きとがめる。
「カメラもったおじさん」
「誰にゃ?」
「で結局、お父さんはどうしたんだ?」
「パパは、お仕事にゃん」
「そういやこの子だって学校があるんじゃないのか?」
「例の、人形はどこにあるんだ?」
 何だか段々と取り留めがつかなくなって来た。
 これは、何とかした方がいいな。
「ちょっと待った! バラバラに色々聞いても効率が悪いし、ここはちゃんと整理してみよう」
 七星の提案に、
「いいだろう」
 顕龍はうなずき、
「いいんじゃないか?」
 ゴドフリートも賛成した。
 もちろん、珠緒が反対する謂れも無い。
「ええとまずはすずちゃん、今日はお父さんはお仕事で留守なんだね?」
 すずが、こくんとうなずく。
「それから、あの手紙を出しのはすずちゃん、君で間違いないね?」
 これにも軽くうなずく。
「じゃあ、まずはすずちゃんから事のいきさつを聞くしかないな」
「親がいないのでは仕方あるまい」
「麗花のやつ、そんな事一言も言わなかったにゃ」
「ざっしの人達がくるって、聞いていたにゃん。ただ、カメラのおじさんが……」
「それも分からん」
 ゴドフリートが、胸ポケットからアメを出して、パクっと口に放り込む。
「カメラのおじさん……?」
「そんな目立つカメラを持ってるとしたら、その男はプロだろう。カメラマンと考えて間違いないな」
「しかし、何の為に……?」
 七星の疑問に、顕龍が冷静に答える。
「今は分からん。置いといて、話の続きを聞こう」
「そうだな。すずちゃん、人形を貰ったいきさつを聞いておこうか」
 するとおもむろに、すずは電話の受話器を手に取り、ピポパポ押しはじめた。
「どうしたにゃ?」
「ざっしの人達が来たら、ここにでんわしてってパパに言われたにゃん」
 そう言って、コードレスホンを七星に渡す。
「……もしもし?」
 電話の向こうから、落ち着いた男性の声が聞こえる。
 七星も、幾分ホッとした。子供相手にいくら聞き込みをしても、埒が明かないなと考えていた所だった。
「もしもし、すずちゃんのお父さんですか? 俺はアトラスから依頼されて来た、瀧川七星って言いますが……」
 喋りながら、受信音をスピーカに変えて、他のみんなにも聞こえるようにする。
 やはり、電話の向こうは父親であった。一通り挨拶を済ませてから、事のいきさつを尋ねる。
「すみません、予定外の仕事が入ってしまって、こんな電話越しで。あれは……一月ほど前でしょうか。すずの誕生日に、デパートで猫の人形を買ったんです。すずがすごくお気に入りで。それからです。変な言葉で話しはじめるようになったのは」
 何でもそれ以来、どうも言動がおかしいという。すずの方もそれを気にしていて、アトラスに自分から手紙を出したのだろうという。
 でも、今はもっと大変な事になっている、とも言う。
「大変な事? 何が起こったんです?」
「それは……」
 説明されるまでもなかった。
 七星にも、一瞬にしてその「大変な事」が何なのか理解出来たからである。
 ふと見ると、すずの頭の上に、珠緒で見慣れたネコ耳がピョコンと立っていた。
「……なるほど。これでは学校へも行けまいな」
 顕龍も納得する。
 七星は最後に父親に、人形を買ったデパートを聞いて、電話を切った。仕事も忙しそうだったので。
 一応、父親の携帯の電話番号もメモっておく。
「おじょうちゃん、猫の人形をおじさんに見せてくれるかな?」
 ゴドフリートが、いつの間にかすっかりすずと打ち解けて、仲良くなっていた。
「うん! 待っててにゃん!」
 すずが、陽気に駆けて行く。

●人形
 すずが持って来た人形は、一見すると何の変哲もないものに見えた。
 アニメか何かになったのか、どことなく見覚えのある、擬人化された猫の人形である。シルクハットをかぶり、ステッキを持っている紳士風の、しかしどう見ても大量生産品だった。
「タマ、何か感じるか?」
 珠緒が、人形とにらめっこしている。
「う〜〜、良く分かんないにゃ」
 人形と、すずを見比べる。
「どっちにしても、もう人形にはいないような気がするにゃ」
 すずのネコ耳は、まだピョコンと出たままである。
「きっとこっちにいるにゃ! こらっ! 大人しくするにゃ! もう逃げられないにゃ! 人を呪うならそれなりに理由があるはずにゃ。珠緒姐さんがキッチリ聞いてあげるから、キリキリ話すのにゃ。話によっては助けてあげるにゃ」
 すずが、困ったような顔をする。
 どうも、当初思ったのとは何かが違うような気がする。
 七星も人形を調べてみたが、取り立てて変な所はなかった。霊感があるわけでもないので、何か憑いていたとしても良く分からない。珠緒がすずの方が怪しいと言うのならば、そうなのかもしれない。
 ゴドフリートが、人形を調べている。しばらくたって、
「確かに何かあるな。でも、これは……?」
 当惑したような顔をする。
 最後に、辛抱強く待っていた顕龍が人形を受け取り、人形を隠すように後ろ向きになって、なにか呟いた。
「……騙らず語れ……ふ、み、…』
 七星にも、微かにしか聞き取れない。
 さて。どうすべきか……?
 出来る事はすべきだろうと思うので、デパートへ行くのは当然として、それ以外の事も調べる必要がある。人形には余り脈がないと見たので、別の角度から探りを入れたい。具体的には、すずの一家……湯川家の情報をもっと知りたい。
「七星、人形を買ったという場所は?」
 ゴドフリートが、そう問いかけて来た。
「さっき聞いといたよ」
「俺は、一度そこへ行ってみよう」
「丁度いい、俺もそうしようと思っていたんだ」
 話し合った結果、デパートへは七星とゴドフリートが行くことになった。珠緒と顕龍は別行動をする事になり、後でまた家へ帰って来る事を約束して七星達は家を出た。

●調査
 珠緒、顕龍と別れてから、七星はゴドフリートと一緒にデパートへと向かった。
 途中、携帯からいつもの情報屋に連絡を入れた。
「……そう、湯川家だ。娘の名前はすず。今すぐに調べてくれ。ああ、分かったよしょうがないな。それから、デパートなんだけど……そう、そこ。分かってるじゃん。金はいつもの口座に振り込んでおくから。何か分かったら、連絡よろしくな」
 プチッと携帯を切る。
 七星は、小説家である。が、一方、その資料集めのために色々と作ったコネ、裏表の情報網は、いつしか巨大なものになっていた。今や、一介の小説家と言うには不自然なほどに。
「どうした?」
 ゴドフリートが、振り返る。
「いや、ちょっとね」
 携帯をポケットに仕舞い、七星は口の端だけでクールに笑った。

 結論から言うと、収穫はなかった。
 デパートに行ってみたのだが、面白い話は聞けなかった。店員も、売り場も、なんてことはない普通の場所と人達で、あの猫の人形と同じ人形も何体も売れ残っていた。
「霊的にも問題はないなぁ……」
 そう言ったゴドフリートは、どうもそういう能力を持っているらしい。
 デパートとは直接関係ないのかもしれない。
「俺は、製造元へも掛け合いたいんだが」
 来歴を調べるつもりだ、とゴドフリートは言った。
「じゃ、ここからは別行動を取ろう」
 あの人形の事はゴドフリートに任せるとして、七星は他のことを調べる事にした。

 ゴドフリートと別れてしばらくして、携帯が鳴った。
「はい。ああ……ふうん。なるほどね。分かった、出来るだけ早くデータにしてメールしてくれ。うん。で、湯川家については……え!? へえ、そいつは初耳だな」
 七星は、しばし考え込んでから、再び携帯に出た。
「じゃあさ、もう一つ調べて欲しいんだけど……」
 大体の事情が飲み込めたので、七星は湯川家に戻る事にした。
「これでまぁ、一安心ってところかな」

●すずとタマと
 七星が湯川家に戻った時、帰っていたのは珠緒だけだった。
「タマ、収穫はどう?」
 珠緒は、すずと何やら遊んでいたらしい。
「それが驚いたにゃ! 謎は全て解けたにゃ!」
 ビシッ、と得意げに人差し指を七星に向ける。
「ふうん。実は俺も、ちょっと分かった事があるんだ」
「何にゃ?」
「やっぱり呪いなんてなかった、って事がね」
「にゃ!? 何で知ってるにゃ!」
 珠緒は心底驚いた顔で、万歳ポーズを取る。
「……って事は、タマもやっと気づいたのか。って言うか、本当はタマが最初に気づかないとなぁ」
 そうすれば解決も早かったんだけど。
「し、仕方ないにゃ! そんな事知らなかったにゃ! まさかミケが母親だなんて」
「あっ、やっぱりそうか」
「ママがどうしたにゃん?」
 すずが、こくん、と首を傾げる。
 七星が調べた結果判ったのは、母親の名前は実華子(みけこ)だと言う事。そしてそれは、その筋では有名な猫又の一族の娘であった事、である。
 つまり、その娘であるすずもおそらく猫又なのだ。だとしたら、耳が出たり尻尾が出たりしてもおかしくはない。
「昔、ミケの噂を聞いた事があったにゃ」
 珠緒が猫達に聞いて分かったのは、生前この辺りの影のボスだったのは何を隠そうミケで、だから当然猫達はすずの事も知っていたという事である。
「ま、とにかく、良かったにゃ。すず、安心するにゃ。お前はあたしの仲間にゃ」
「お姉ちゃんの?」
「そうにゃ。これからは、ミケに代わってあたしが色々と猫の世界の礼儀を教えてあげるにゃ」
「?? すず、猫になっちゃうの?」
 子供には、まだ理解は難しいだろうか。
 その時、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
「誰か帰って来たのかな?」
「パパにゃん! さっき、もうすぐ帰るってでんわがあったにゃん!」
 すずが、こらえきれない様子で廊下を走って行く。
 ピョコンと、ネコ耳と尻尾が飛び出ている。
 ドタタタタ……ガチャッ
「おかえりにゃん!」
 だが、玄関の扉の向こうにいたのは怪しいコート姿の男であった!
「いっただきぃっ!」
 男は構えていたカメラで、ネコ耳姿のすずを撮りまくった!
 フラッシュがまぶしい。
「にゃっ!」
 すずの後を歩いていた珠緒が、思わず目を細め、廊下に伏せ、
「フーッ!」
 と、警戒の唸り声を上げる。
 七星は、対応が遅れた。
 そうだった。カメラマンの男、ってのが居たっけ。
 だが、一瞬の後には、どこからか現れた顕龍が、一撃で男のカメラを叩き落とした!
「何すんだ!」
「黙れ」
 男の背後に来た顕龍が、男をつるし上げる。
 ゴドフリートが、ぬっとその横に現れ、男をじろじろと見る。
「? お前、なんで写真なんか……」
 七星はカメラに走り寄ると、素早くそのフィルムを抜き出した。
「ああーっ! な、何するんだ! そんな事する権利、お前らには……!」
「何か言ったかにゃ?」
 バリバリッ! と珠緒が、いつの間にか飛び出していた両手の爪を交差させ、男の頬を引っ掻く。
「痛っ、バカ、やめろ……ってお前も化け猫か!」
「それがどうしたにゃっ!」
「クソーッ、せっかくのスクープなのに!」
 じたばたともがく。
「ははあ、そういうわけか」
 七星は、やっと合点がいった。
 どうもこの男、すずのネコ耳写真を狙うジャーナリストらしい。
「お前、名前なんて言うにゃ?」
「ぼくは黙秘権を行使する!」
「なんにゃそれ! 頭に来るにゃ! あんまり珠緒姐さん怒らせると、頭からかじっちゃうにゃ!」
「うわーっ、やめろー! この化け猫めー!」
 放って置くと本当に実行しそうだ。
「その男の名は、島崎恭平。28歳。フリーのジャーナリストだ。もっとも、何でもやってるようだがな」
 顕龍が、島崎に代わってすらすらとそう答えた。
「にゃ?」
「いつの間に調べやがった!」
 なおも、島崎が抵抗する。
 確かに。顕龍、侮れないな。
「その男、悪質な写真週刊誌にこのネタを売りつけようとしていたらしい」
 冷酷に、顕龍が島崎を見下ろす。
「……お世話になってる所だったら、やだなぁ」
 七星が、誰にも聞こえないようにボソッと呟く。
「しょうがない男だな」
 ゴドフリートが、やれやれと腕を組む。
「もうフィルムは抜いたから、放しても大丈夫だよ」
 七星の言葉に、顕龍は用心深く言った。
「もう2度と狙わない、と誓え」
「フンッ、そんなのはぼくの自由だね」
 島崎がそっぽを向く。
「お前なぁ、こんな小さな女の子を狙って、恥ずかしくないのか?」
 ゴドフリートが諌めると、
「知る権利の為なら、何だって許されるのさ!」
 と、島崎は開き直った。
「にゃにー! 反省の色が無いにゃ! やっぱり丸噛りにゃ!」
「教育的指導ー!!」
 ゴドフリートが、容赦なく男を鉄拳制裁しようとする。
「ギャーッ!」
 このままでは、リンチが始まってしまう。
「まぁまぁ、待て待てみんな」
「七星、邪魔するにゃ」
「この手の人間には、そういう脅し方は効果がないよ。カメラはまだ使えそうだな……フィルムは、ないかな?」
 七星が、ニヤッと笑った。
「コートの中に予備がある」
「……な、何するんだ?」
 島崎が、引きつった笑みを浮かべる。
「大丈夫、怪我させたりはしないから安心してよ。ただ、人権を無視する人には、無視仕返すだけだよ。さ、タマ、こいつの服を剥ぎとって」
「了解にゃっ!」
「何する気だ……? や、やめろ……うわーっ!!」
 島崎の断末魔の悲鳴が、住宅街に木霊した。

●それから
 あのジャーナリスト……島崎恭平を散々脅してから放り出した頃に、すずの父親は帰宅した。島崎に何をしたのかは、あえて語るまい。
 そこではじめて七星と珠緒は、すずの母親が猫又であった事、すずもその血を受け継いでいる事を明かした。
 父親は、はじめはなかなか信じなかった。というか、妻の実華子が猫又であった事を本当に全く知らなかったようだ。それが混乱のもとだったのだが。
 聞く限り、ミケと言うのはタマと違ってかなり洗練されていたというか……人間に化けるのがうまかったらしい。驚いても猫化したり語尾が変になったりはしなかったと言うし、自分が猫又である事を夫に完全に隠し通していた。いかんせん、それが反対に今回のような事件を招いてしまったわけであるが。
 だがしかし、事件は一応の解決をみた。
 今後、この親子がどうなるかは分からない。ネコ耳の類は訓練すれば自分の意思で出したり消したり出来るらしい。しょっちゅう自分の意志とは関わりなく出しているタマを見ていると、本人の資質次第という気もするが……

 さて、今回の事件はネタになるのか。
 島崎を脅しておいて言うのもなんだが、悪質でないというだけで自分も同じモノ書き、チャンスと閃きがあれば今回の事件もネタにするかもしれない。
 そもそも、これ、アトラスの記事になるの?
 当初の思惑では猫の呪いを解いて大活躍って話を載っけたかったんだけど、こうなるとそういう訳にもいかないし。

 ……まぁいいか。
 追加調査によってやっと判明した事もある。すずは、ハーフ猫又だ。ハーフは、普通成人するまでは人間として育てられるし、能力も発動しないことが多いらしい。道理で、今まで何も起こらなかったはずだ。生まれてからすぐに能力が使えていれば、こんな事件にはならなかっただろうし、おかしいと思ったんだ。
 そして、別れる間際の顕龍の頼みには驚いたね。
 分かってるよタマ、猫缶はちゃんと貰って来たから。
 お前は幸せそうで羨ましいなぁ。

 終わり

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1028/巖嶺・顕龍(いわみね・けんりゅう)/男/43/ショットバーオーナー(元暗殺業)
0234/白雪・珠緒(しらゆき・たまお)/女/523/フリーアルバイター。時々野良(化け)猫
0177/瀧川・七星(たきがわ・なせ)/男/26/小説家
1024/ゴドフリート・アルバレスト/男/34/白バイ警官

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

2度目の参加ありがとうございます、巖嶺顕龍様。
そして白雪珠緒様、瀧川七星様、ゴドフリート・アルバレスト様、はじめまして。

七星はどうしても珠緒と一緒にいる事が多くなってしまうので、珠緒の話と変化を出すのが難しかったです。
口調も、なんかイメージ的に最初は「ですます」調な気がして。もちろん、途中からは慣れて来ましたけど、果たしてこれで合っているのかどうか……
プレイングとしては、家系を調べる、というのが大当たりでしたね。ただ、七星のコネで最初からこれをやっちゃうと話にならなくなるので、後半に回しました。
珠緒とのコンビは、書いててとても楽しかったです。書きやすかったですし。

わたしの話は各キャラクター毎に、同じシーンでも視点を変えているので、よろしかったら他のキャラの話もお読みください。楽しめるのではないかと思います。

それでは、またお会いできたら嬉しいです。
今回はありがとうございました。

ライター 伊那 和弥