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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


<花咲ける青年>

調査組織名   :草間興信所

執筆ライター  : 朧月幻尉

------<オープニング>--------------------------------------

「はァ?!」
 草間は素っ頓狂な声をあげた。

「それが依頼内容ですか?」
「そ、困ってるのよ、アタシ。もうすぐペンションの開店日だってのに、妖しげな声が聞こえたり、事故が起きたりしてるのよ。これじゃ、店始めたってお客が来なくなっちゃうわ。ねえ、お願い!貴方の貴重な人脈をちょっと貸して欲しいの!!」
「別にそれは構わないんだが・・・・・・」
「本当ォ!」
 女は草間に飛びついた。首根っこを捕まえると、ぶちゅう〜とキスをする。
「うげぇ!」
「まッ、失礼ね!・・・・・・まァ、いいわ。でもね、『いろんなモノが見えるペンション』って、麓の人が云ってるの聞いちゃったのよ。これじゃ、お客来なくなっちゃうかもしれないじゃない!」
 ある意味、繁盛するんじゃないかと草間は思ったが、いわない事にした。
 その噂で来るのは、ミステリー好きの人間か、オカルトにハマった奴だけだろう。そんな中にマトモな客がいるとは、到底思えなかった。
「『ロマンチックな夜♪』をイメージして建てたのよ!高い買い物なんだから、絶対、モトを取ってやる!」
「はァ・・・・・・商売に燃えるのはいいことですね」
 半ば呆れたように草間はいった。
「だからね、オープニングパーティーは華やかにしたいのvv」
「そうですね・・・・・・」
「だ・か・ら」
 女経営者はスタッカートのリズムで云うと、白檀の扇を広げてヒラヒラさせる。

「オープニングを飾る、素敵な男の子が必要なのよ♪ちなみに、チークタイムがあるから二人一組のチケットですからね! を〜っほほほほほほvv」
 哄笑う女の顔を、草間はげんなりと見つめた。


●Let‘s Go♪
 その日、東京は晴天に恵まれた。
 一緒に現地へ向かう仲間を待ちながら、「雲ひとつ無いというわけじゃないケド、晴れた冬の空ってのもいいなv」と、俺は思った。
 これから旅行に向かう家族連れが横を通り過ぎていく。俺はそれを眺めた。

 俺、工藤勇太。17歳。親元から離れ、東京で一人暮らしてる。理由は俺の力のせいだ。カッコいいのかどうなのか、俺は超能力者だった。よく子供って、超能力者になりたいっていうけど、俺はお勧めしないね。苦労ばっかだし、普通が一番幸せかもしれない。まあ、俺は俺が好きだし、自分は自分だからあんまりそのことは気にしてない。ってか、気にしてたらやってけないって。だから、今のままで十分かもしれない・・・・・・ってことにしておこう。
 都内で一人暮らしをすると、当然、生活費は足りなくなる。(物価高けえんだよ!馬鹿総理大臣物価下げろ!!)まぁ、ぶっちゃけた話、こづかい稼ぎのために参加したのが依頼に対する動機ってやつかな?
別段、すっごく欲しいモンがあるってわけじゃないし、生活苦ってわけでもない。ただ、後で金に困るのもなんだし、将来のこと(っても、なりたいモンは無い)考えると、貯金は必要かなぁ〜と思ったりしただけだ。後で欲しいモンが出るかもしれないし。美形の男子が条件(俺でいいの??)ってのが気にはなるけど。まぁ、そんなわけで依頼を受けることにした。
 そんで、ここは東京駅。
 東京の玄関であり、東京の顔でもある。(周知の事実か・・・・・・)
 例に漏れず、東京駅の『銀の鈴』で待ち合わせだった。時間はまだあった。約束は8時だからだ。
 まあ、東京人にとっては旅行への入り口というか、スキー天国の窓口というか、俺的にはそう考えてる。時間には余裕があったが、朝の五時頃に目が覚めてしまい、早く出て来たのだ。しかも、昨夜は一時になっても寝付けず、結局、寝たのはそれから三十分後だった。
 旅行前に寝付けなくなるなんて、自分はまだ子供なんだなあと実感した。17歳になったのにと思ってみても、すぐに大人になれるわけでもないらしい。それがちょっと俺には悔しかった。でも、それは仕方ない。現実ってモンだ。
「あ〜、やっぱ早すぎたなあ。・・・・・・仕方ない、コーヒーブレイクでもすっか」
 意気揚揚とボストンバックを降ろし、チャックを開けた。何だか、コーヒーブレイクなんてつまらない事がすっごく楽しく感じられるから、旅行ってのは不思議だ。半ばウキウキしながら財布を取り出す。小銭を出すと、自動販売機につっこんだ。コーヒーのロング缶を選んでボタンを押すとガコンッと音を立て缶が落ちてきた。缶の温もりを手のひらで楽しみながら、おもむろにプルタブを引いた。
 ゴクリ。
 あぁ、うめぇ〜〜〜♪などと思いながら飲み干す。
 これで仲間になる奴が良い奴だったら最高だな。早く来ないかなと考えていたところで声を掛けられた。
「あのう・・・・・・」
「ん?」
「草間さんのトコの人ですか?」
 そういって声を掛けてきたのは・・・・・・美少女だった。
 いきなり俺の顔は火照った。賭け値無しの、文句無しの美少女だ。俺の心臓はギャロップを始める。今まで異性に興味が無かったと言えば嘘になる。だけど、決して気が多いほうじゃない。決して!!
 だけど、そんな『色恋沙汰は苦手だ』っていう、俺的ジョーシキもぶっ飛んだ。それだけ彼女は魅力的だったんだ。
 長い睫毛は大きなアーモンド形の瞳を縁取っている。しかも瞳は深紅の色。整った鼻梁に小造りな顔。腰まである銀色の長い髪を三つ編みにしていた。
――すげぇ、本当にいるんだアルビノ(先天性白子)って。
「はじめまして、李・如神(ルーシェン)です♪」
――うわあぁ〜〜、可愛い声だ。しかも、唇が可愛いっ!うう・・・・・・今回はいい旅になりそうだぁ。
 その子は濃い小豆色のロングコートを羽織っていた。中には、いわゆる巷でゴスロリ服と言われる服を彼女は着ていた。黒いベストとフリル付の白いシャツにシングルのネクタイ、裾が広がり気味のロングズボンと云ういでたちだ。ベレー帽がちょこんとその小さな頭に乗っかっている。
――うわー、赤くなるな自分!今、俺は耳まで赤いに違いない!!・・・・・・・
「あのう・・・・・・」
「・・・・・・はっ・・・あ、ごめん」
「いいえ、草間さんの依頼を・・・・・・・」
「そうそう、俺だよ。他の人はまだだけどね。寝付けなかったんで、早く来たんだ」
「そっかぁ〜、よかった♪」
「あ、あんた・・・・・・じゃなかった!き、君一人?」
 こんな可愛い子に『あんた』なんて云っちゃいけないよな。俺は慌てて言い直した。
「うん。実は・・・・・・相手居たんだけど」
「え?」
「人数余っちゃうから、一人で行ってもらったの」
「人数が余る?すっぽかしたのか?」
「うん。だって、彼、陰陽師だから人型に相手してもらえるし、あなたは そーゆーのは出来ないって、草間さんが言ったから・・・・・・」
「え・・・・・・それって俺のため?」
「うん。だって、あの人一人でも仕事は出来るし」
「悪いじゃん、相手に・・・・・・」
「うーん、チケット余っちゃうしねvv・・・・・・大丈夫、大丈夫♪」
 そう云って彼女は笑った。
 俺の頬が心なしか緩む。俺は「神様、この幸運を有り難う!」なんてことを心の中で叫んだ。
 随分小さい子だったから、歳を聞くとなんと13歳っていうんで、何か俺は納得した。彼女のちょっと子供っぽい喋り方も、そのせいだったんだと実感。(俺は13歳の女の子に赤くなったのかぁ!?)
 俺と4つ違いか・・・・・・
 ん?ってーと、その歳で何らかの能力があるとかそーゆーことになるな。いや、能力に年齢は関係ないか。俺だってガキん時からそうだったし。じゃあ、この子は何が出来るんだろ?
「ねぇ、貴方は何が出来るの?」
 聞いてきたのは彼女のほうだった。
「え・・・・・・」
 つきんと胸の奥が痛む。
 昔、同級生たちに何度も質問された内容と同じセリフ。
『ねぇ、勇太は何が出来るの?』
 それを俺の頭がはじき出したとたんに、記憶の歯止めが効かなくなる。
『工藤君はチョーノーリョクシャなんでしょ?』
『えー、何でもわかっちゃうの?怖ーい!』
『勇太が友達ってゆーのやめようぜ』
 それが強大な力と知ったとたん、友好は疑心へ、好奇は恐れへと変わった。そして、知人たちは勝手気ままな傍観者へと変じ、離れていった。
――皆・・・・・・勝手だ・・・・・・
 押し込めたはずの感情が吹き上がる。
 あぁ、そうか。俺にとって結構重い問題だったんだ・・・・・・超能力。ホントの気持は自分には隠せないんだな。
 ずっと抱えてるこの思いは、意外にも深く俺の心を穿っていたらしい。小さな鉛を飲み込んだようなこの気持が表情(かお)に出ていたのか、彼女は心配そうに見つめていた。
「どうした?」
 俺は笑った。とてもぎこちなく。
「いけなかったかなぁ・・・・・・訊いちゃって」
「そんなこと無いさ・・・・・・俺は超能力があるんだ。色々出来るんだぜ!」
「すごぉ〜〜〜い♪」
 俺は胸を張った。
 それは嘘じゃない、本当だ。結構強い力で、サイコキネシスやテレポート、テレパシーなんかも出来て、応用まで利くスグレものの能力だ。本当は少しぐらい誉めてもいいのかもしれない。一度だって、人を傷つけることに使ったことなんか無いんだから。
「君はどうなんだい?」
「え?」
「なんか出来るんだろ?草間さんに呼ばれたんだから」
「んとね・・・・・如神ね・・・・・・呪禁官なの」
「えぇっ!?呪禁官?国家公務員じゃんか」
「そうみたい」
 こんな稼業を請け負う俺だ。東京に裏の裏のまたその裏の世界があるぐらい知っている。その中でも警視庁第99課(魔戦制圧課)の特殊呪術禁令捜査官は有名だった。『違法呪具』や『魔法』『召喚』等を取り締まるのが 特殊呪術禁令捜査官、通称、呪禁官の任務だ。
 こんな子がその一人だなんて、俄かには信じられない。
 この子には呪禁官であることが当たり前になっているのか、どういうことかわからないのか、上司の文句をいい始めた。
「・・・・・・でもね、レポートとか多くって、学校に行くのも大変なの・・・・・・あーあ、部長は関係ないだろ!って云って、宿題させてくれないんだモン」
 ぷぅ〜っと如神はふくれた。
 そんな横顔を見ていると、可笑しくって、俺は何だか楽になった。
「いいじゃないか、今日から二泊三日は軽井沢のペンションで過ごすんだし。ご馳走だって山ほどあるさ」
「それだけが救いかもね♪」
 顔を見合わせて二人で笑いあった。
 すると後ろから『お待たせしました』って声が聞こえた。他のメンバーのご登場らしい。俺はそいつらを見て、あんぐりと口を開けてしまった。 そりゃそうさ!誰も彼もが選りすぐりの美形だったんだから!!
 その中には見慣れた長身の男がいた。俺は何処かで見た覚えがあると思って、記憶を辿った。その男はにこやかに笑う。いい意味での営業スマイルだ。何故かってーとそいつは俺に向かって「野郎は死ね」とはっきり云ったからだ。なんかそれでも腹が立たないのは何でなんだろう?あぁ、そうか。それがコイツの能力ってわけね。わかったわかった・・・・・・
 と思ったとたんにコイツが誰だか思い出した。見たことがあると思ったのは間違いじゃなかった。それもそのはず、ニッコリ笑って女尊男卑言い渡すコイツはモデルの『湖影・虎之助』(こかげ・とらのすけ)だった。食料を仕入れにいそいそとコンビニに通う俺にとっては、日常の一部ともいえたかもしれない。週刊のテレビ雑誌や、週刊誌に出てれば否が応でも覚えてしまう。
 あとは俺と同い年ぐらいの奴で、名前は神薙春日(かんなぎ・はるか)。こいつもまた・・・・・・美人だ。っても、勿論、男。湖影・虎之助のお相手と知って、俺はたまげた。あの湖影・虎之助がホ○??それは・・・・・・初耳だ。
 なんぞと思っていたら、湖影・虎之助がこっちを睨んだ。
「いいたいことがあるなら云え」
「湖影・虎之助さん、プライベートに首は突っ込めないっしょ?」
「何を考えてる?・・・・・・俺はノーマルだ。春日は依頼のために来てもらっただけだ」
「え、でも・・・・・・男の二人組みでの依頼じゃ・・・・・・」
「馬鹿。それを言ったら、こっちのお嬢さんとお姉さんはどうなるんだ?」
 というなり、如神ともう一人、腰まである赤毛のウェーブヘアのお兄さんを指した。
「私は女だ」
 きっぱりとその人はいった。
「男に間違えられるのには慣れてるからな、気にしてないよ。俺は羽柴・戒那(はしば・かいな)。・・・・・・よろしく」
 折り目正しく羽柴さんはいった。
「し・・・・・・失礼しました」
「いやいや」
「こっちは俺の連れで・・・・・・」
「斎・悠也と申します。えっと、あなたは?」
「俺は工藤・勇太です。この子は・・・」
「あのねー、俺ねー、李・如神だよッ♪」
「お、俺!?女の子がそんなこといっちゃ・・・・・・」
「え〜っ、だってこのお姉さんも使ってるよぉ」
「・・・・・・・・・・・・」
「だめなの??」
 じっと俺を子犬みたいな見上げる。あぁ、ちくしょう。なんでこんなに可愛いんだ!怒れないじゃないかぁ(泣)
「・・・・・・・・・・・・いいよ、わかった」
 俺は諦めた。彼女には敵わない。
「さあ、時間がありませんから新幹線に乗りましょう。先は長いんですから、これからいくらでも話せるでしょう?」
斎さんが云った。
「1,2、3と・・・・・・全部で6人。全員揃いましたね。では・・・・・・」
「待て、悠也。一人足りない」
「え?」
「俺は7人と聞いていたが」
「そうですか?」
「あのね、彼・・・・・塔乃院(とうのいん)さんは先に行ってるって・・・・・・」
 如神がおずおずと云った。
「単独行動ですか・・・・・・仕方ないですね」
 少し斎さんは考えたが「まあいいでしょう」といった。今、揃っている必要が無いといえば、まぁそうだし。俺にゃ関係ない。
 俺たちは一路、軽井沢へと向かった。これから何が待ち受けているのかはわかんないけど、楽しめることだけは確かだった。


●えぶりばでぃ・かも〜ん!
「いらっしゃぁ〜〜い。ウッワァーォ!なんて素敵な子達なのォ!!」
 ペンションに到着し、瀟洒な造りの階段を俺たちが見上げていた時、その声はやって来た。ズダダッともドダダダダッともつかぬ地響きが轟く。
 準備に忙しいスタッフの間を縫って、緑の巨大な旋風が目の前で止まる。 それはエメラルドグリーンのパンツスタイルでやって来た。
 俺はオーナーを初めて見たが、彼女(?)がオカマだとはっきりわかった。
 そりゃそうだ。ゴッツイ顎に彫りの深い顔。ジャイアント馬場に引けを取らない長身ときたら、オカマだと思わないほうがおかしい。
 俺たちの登場にオーナーは、目に涙さえ浮かべていた。
「嬉しいわ・・・・・・よく来たわねvv・・・・・・」
「この度はペンションのオープンパーティに招いて下さって有難う御座います」
 羽柴さんはそういって、オーナーに鮮やかな花束を渡す。ピンクの薔薇と白ユリの花束だ。アクセントに小さな青い花が入っていた。
「アタシ、この組み合わせが好きなのよォ」
 オーナーはニコニコだ。
「だけど、よくわかったわね」
 そこに斎さんの必殺のトークが入る。スムーズで嫌味の無いリズムだ。
「はい。草間さんのところにお見えになった時に、着ていらしたスーツの配色を伺ったんです。白地に金のウール地だったと・・・・・・シャネルですね?」
 斎さんは優雅そのものって感じに笑って云った。背が高くて、スマートで賢そうで、羨ましい限りです。ホント。
「それだけでわかったの?」
「はい」
「最高のプレゼントよ・・・・・・草間ちゃんに感謝しなくっちゃ・・・・・まあ!」
「はじめまして、マダム」
 これまたナイスな微笑で応えたのは、モデルの『湖影・虎之助』、その人だ。おーおー、アンタはメインディッシュってわけね。いい根性してるよ。
「ンンまぁ、本物?」
「はい・・・・・・マダム」
 男としては最高のボディーとルックス。おまけに良く通るバリトンヴォイスで、とりを勤めるのはミスターモデルマン。いいね。憎いよ、このォ。
 オーナーは更にご機嫌になった。
「あら?おチビちゃんもいるのね」
 オーナーは如神に笑いかけた。
――おい、隣に立ってる俺のことは無視かよ。
「こ・・・・・・・こんにちは」
 如神はおずおずと花束を渡した。
 如神のは白い薔薇に赤く丸い花とミントの葉が入ったミニブーケだ。(彼女曰く、赤い花はストロベリーキャンドルと云うんだと)
 如神はオーナーの頬っぺたにキスをした。
 おッげーぇ!そんなモンにキスなんかしなくていい!!穢れるだろうが。
「可愛いわね・・・・・・いくつ?」
「13歳」
「そォ・・・・・・いいわぁ、一番輝いてる時期ね」
 ほうとオーナーは溜息をついた。
「あの・・・・・・調査のほうはオープンパーティが始まるまでさせて頂いてもよろしいですか?」
「え・・・・・・えぇ、勿論よ。但し、私の部屋には入っちゃダメよ」
「ありがとうございます」
「お部屋はニ階の隅から4つまでスイートルームになってるから、そこから二番目までの三部屋を使って頂戴ね・・・・・・はい、これが鍵」
「あの・・・・・・もう一人・・・・・・・」
 如神は俺の影に隠れて言った。
「もう一人って、塔乃院さん?」
「はい」
「彼なら買出しに行ってくれたわ。何だか悪いわぁ、手伝わせちゃって・・・・・・あ、帰って来たみたいね」
 後ろのほうで、カタンと音がした。
 ドアの前にバケットを詰め込んだ麻袋を抱え、黒ずくめの男が立っていた。身長は湖影・虎之助と変わらないぐらい、いや、それ以上にデカイ。2メートル近いんじゃないだろうか。
 長い長髪が腰まであっても、どことなくひ弱な感じがしないのは身長のせいだけではなさそうだ。
一言でいうと、野獣。そんな感じ。目が笑ってないからわかる。何考えてんだか知りたいけど、ここで心を読むわけにはいかない。
「マダム、お待たせしましたね」
「悪いわね・・・・・・・買い物行かせちゃって」
「いいえ」
 穏やかそのものってふうにそいつは笑った。
「そうそう、この子が塔乃院さんを探してたのよ」
「あぁ・・・・・・如神か。そいつが今回のお前のパートナーか?」
 いわれて、如神は俯いた。
 あぁ、そうか。如神は俺のためにこいつをふったのか。如神、俺に気ィ使ってんのかな?
「この人は・・・・・・同じ職場の・・・呪禁官の塔乃院・影盛(かげもり)さんです」
「警視庁第99課の塔乃院・影盛です。よろしく・・・・・・」
 塔乃院さんはふっと頭を下げた。
 俺のコートを握り締める如神の手に力が入っている。
 ちょっと俺は不安になって声をかけた。
「どうした?」
「何でも無いの・・・・・・は、早く行こう、勇太。調査しなくっちゃ・・・・・・」
 そう云うと如神は俺の腕を引っ張った。俺は慌ててオーナーから鍵を受け取る。引っ張られるまんま、二階へと向かう。去り際、いぶかしむオーナーに「職務に対して真面目なんですよ」と説明している塔乃院の声が届いた。
 フォロー入れるなんて意外だ。
 色付のサングラスの向こうに、何処か獰猛さを感じたのは俺だけだったのだろうか。


●犯人の影
 周囲の目を気にし、俺たち7人は散策と見せかけて調査を始めた。俺と如神、斎さんと羽柴さん、湖影さんと神薙さんの三手に分かれ、風水関係と霊的磁場に異常が無いかを斎さんが調べた。その間、霊の仕業である可能性の高さを考慮して、湖影さんと神薙さんグループは周囲の霊が関係していないかどうかを調べることになった。
 俺たちはというと、警護と散策って感じだ。何でかって言うと、俺がサイコキネシスとか物理的な力のほうが強かったんで、如神の足を引っ張る形になったからだ。
「はぁ〜〜あ、俺やることないじゃんか」
「そんなことないよ・・・・・・力の使われ方が違うんだもん、しょうがないよぉ・・・・・・でもね、物理攻撃になったら、敵わないと思うよ。そうなったら守ってね♪」
「おう!」
「えへへ♪」
 まったく・・・・・・おだてやがってぇ、こいつめ。
「じゃ、護符を貼っとこうね」
 そういうなり如神は10センチ×20センチ四方の紙を取り出した。図形と漢字がビッチリ書かれた紙だ。それを目立たない所に貼ってゆく。
「へぇ、意外と簡単なんだな」
「うん・・・書いちゃった後はね」
「じゃ、書くのが大変なのか?」
「うん、そうだよ。時間がいっぱいある時に書き溜めしとくんだけどね。一日に10枚が限度かな」
「惜しげも無く貼っちゃっていいのか?」
 何だか勿体無く感じて俺はいった。
「何かあったら大変だもん」
「そっか・・・・・・」
 勿体無いなんてこと思った俺が浅はかでした。
「そうだよな、如神は公務員だもんな」
「保険は出ないけどね」
「マジ!?」
「うん、出ない」
 そんな大事なことを如神はあっさり言った。普通、年金も保険も出るだろうに。
「どうしてなんだ?」
「お仕事がお仕事だから。危険が多いでしょ?」
「だろうな・・・・・・」
「怪我で済むのって、殆ど無いの」
「あぁ・・・・・・」
「怪我する前に死んじゃうし」
「怪我する前に・・・・・・・・・・・・・・って、怪我で済むことが殆ど無いだってぇ??」
 俺はあっけにとられた。怪我で済まないから保険は出ない?ってーと、それは警視庁第99課に配属されたら【最後】ってことか??
「人間じゃない人っていうのもいるし」
「人間じゃない人・・・・・・」
 あぁ、何だか言葉が出ない。人間じゃない人ってのは【人】じゃないだろう、【人】は人間のことなんだから。あーうー・・・・・・
 立ち上がらなくなったパソコンのOSみたいっていうのか、HDDっていうのか、回らない頭ン中がぎゅるぎゅるいってる。
 だめだ、考えるのはよそう。
 俺は如神にくっ付いて、神札を貼ったり、掃除をしたりした。(穢れは魔を呼ぶんだと。俺んち掃除しなくっちゃなぁ)
 そうこうしてる間に湖影×神薙ペアが戻ってきた。何だか難しい顔してるけどなんかあったんだろうか。
「どお、収穫ありました?」
「あったにはあったんだが・・・・・・・使役霊がな・・・」
「使役霊?」
「いや、気にするな」
 スマイリーな表情に落ちた、不安の影。俺はそれを見逃さなかった
かの湖影さんが不景気な顔をなさってるぞぉ♪ふっふっふ・・・なんて不謹慎な笑いをぐぅっと堪えつつ、俺は訊いた。
「パーティーまで休憩しましょう」
「何で?捜査は??」
「ちょっと考えるべきことがありそうだ」
「は?」
「そういうことだ・・・・・・少年」
 馬鹿にされたのか、相手はただそう云っただけだったのか、俺が訊く間もなかった。湖影・虎之助と神薙・春日は部屋に帰っていった。

 再び俺たち7人が集まったのはパーティーが始まる一時間前だった。
 さっきの捜査で神薙・春日の気分が悪くなったのが理由で、湖影さんたちは休憩していたらしい。俺の前に姿を現した時も神薙・春日の顔色はすぐれなかった。
「そっちはどうでした?」
 出し抜けに斎さんは訊いてきた。それに対して俺は「別に」とだけ答えた。だって、何の収穫も無かったんだからしょうがない。
「別に?とは・・・・・・責任感の無い返事だね」
 ちょっとムッとした感じのか、軽い怒りを含んだ声。しまった、言い方を考えるべきだった。
「す、すみません・・・・・・」
「まあいいでしょう・・・・・・それでは情報交換といきましょうか」
 おもむろに彼はいった。
「まず、俺たちは使役霊を発見した」
 そう云ったのは湖影さんだ。
「そうは強くないが・・・・・・どうも・・・・・・」
「どうも?」
 俺は混ぜっ返した。俺を無視して湖影さんは続ける。
「手ごたえが無い」
 つまり、アンタが強過ぎて相手にならんてことかい?
「抵抗が無いってことですか?」
 斎さんは眉をひそめた。
「そうだ」
「じゃあ、何で神薙さんは・・・・・・」
「使役霊が拘束者を吐く前に自滅したんで、春日の『予見』を行なった・・・・・・そうしたらこうだ」
「神薙さん、何を見たんですか?」
 春日はかぶりを振った。
「・・・・・・思い出せない」
「思い出せない?」
「いやだ・・・・・・・思い出したくないんだ!!」
「思い出したくないほどのもの・・・・・・一体何なんでしょうかね」
 斎さんの金の瞳に妖しい光が灯った。
「俺としては不本意ですが、ここは戒那さんに協力してもらいましょう」
「俺は構わないが・・・・・・記憶を拒否するほどのものとは何なんだろうな」
 羽柴さんは腕を組んだ。腰まであるウェーブヘアが揺れる。
「納得いかないことがまだある・・・・・・使用人のことだ」
「使用人?」
「あぁ、おかしいじゃないか・・・・・・逃げ出さないなんて工事現場のおっちゃんたちは『変な声』なんか聞いてないって云っていたしな」
「え・・・・・・あっ!」
「わかったか、少年?」
「つまり、計算の内ということさ」
 今までずっと黙っていた塔乃院さんが口をきいた。相変わらずの無表情が俺の神経を逆撫でる。
「建築会社に昨日行って来たが、事故のあったショベルカーに細工痕あった。ちょっとしたものだ、だが工事現場の人間ではわからないものだ・・・・・・・ついでに」
「ついでに?」
「ツクモガミが憑いていた」
 ツクモガミは愛着を持って使ってやった物たちが命を得た霊の総称だ。
「本来なら百年は使ってやらないとそうはならない。今度の相手はそういう相手らしいな」
「つまり、霊を作り上げ、変化させると・・・・・・それは違法ですね、塔乃院さん」
 斎さんは感慨深そうに云った。依頼遂行というよりは、奴さんの手の内のほうが気になるみたいだった。
 俺はこんがらがった頭を整理しようと試みる。
「えぇと、使役霊が拘束者を吐く前に自滅、オマケにそうは強くなくて、使用人も逃げ出さない。工事現場に見えない細工とツクモガミときたら・・・・・・」
「犯人はオーナーだね、勇太」
 見上げて如神が云った。
「まさか・・・・・・」
 それは自分のペンションに火を放つような行為に等しい。自分が稼いだ金で作り上げた夢の御殿をぶち壊すのはないんじゃないかと思う。それに、俺たち(俺は無視されたが)を歓待したオーナーの目に嘘は無かったはずだ。本当に喜んでたし。
「何で、如神はオーナーを犯人だと思うんだ?」
「他に喜ぶ人がいないから」
「え??」
「俺も如神ちゃんの意見に賛成ですね」
 といったのは、斎さん。
「草間さんに何て依頼してました?オーナーは・・・・・」
「変な声が聞こえて・・・・・・」
「違いますよ、その後です」
「『オープニングを飾る素敵な男の子が必要』だっけ・・・・・・あっ!」
「そうです。少なくともオーナーは喜びますよ、お客もでしょうけどね。 オーナーは男にしか興味が無いんですから」
「そうか・・・・・・」
 気がついて、俺は脱力してしまった。そうか、『男に来て欲しかった』んだ!
 つまり、信用させるために、事故を起こした。変な声が聞こえると云ったのは、オーナーの口から聞いた事で、使用人は否定してる。勿論、事故は起きてる。でも、ちょっとした細工だったし、オーナーが術者としての能力があるなら、ツクモガミだって使役できるだろう。
「ったく、一体全体何考えてんだ、あのオーナーは!」
「まぁ、詳しい話は後で本人の口から聞くとして、もう時間だから、ホールへ行くか」
 湖影さんが提案した。
 俺もその意見には賛成だ。昼も喰わずに調査してたら腹が減って腹が減ってしょうがない。
「オーナーをとっちめるのは俺にやらせてもらおう」
 羽柴さんはどこか嬉しそうに言った。さすが、女だてらに大学の助教授やってるわけじゃない。度胸も知性も一級品だ。俺にそんな推理も智慧も無いから、ここは一つセンセイにお任せして、のんびりさせて貰おう。
「証拠物件を発見したんだ」
 大学助教授センセイはそういって口角の端を上げた。
「うおっ、やった!」
「でも、このことはどうぞ御内密に・・・・・・・」
「なんでだよ」
「楽しみは後でにしましょう・・・・・・時間も無いですしね」
「ちぇっ!おあずけかよ・・・・・まぁ、いいや、期待してるよセンセイ」
「任せとけ」
 ミーティングは終わった。

 パーティーの立食に期待しつつ、俺たちはホールへと向かう。
 今夜だけのパートナーは大きな襟の裾がスワローテイルになってる白いシャツを着(袖は末広がりになってる!)、白地のフレアーキュロットとブラックのニーソックスを履いていた。
 俺はというと・・・・・・蒼いタートルネックのセーターに黒い綿パンツという出で立ちだ。金はかかってないけど、俺には似合ってると思う。いいよ、正直言ってみっともないと思ってますよ。如神が隣で可愛いカッコしてるからな。まあ、いいや。仕事で来たんだし、我慢我慢。
俺たちは手を繋いで、笑いあってから、ホールの扉を開けた。


●パーティーナイト
パーティーは大盛況だったというべきだろう。湖影さんの周りには女の子が群がっている。勿論、目当ては一夜の恋人の座だ。長い髪なのにしっかり男に間違えられている羽柴・戒那さんは嫌がりもせずに女の子と踊っている。さっきまで気分がすぐれなかった神薙・春日も、今は元気そうだ。俺たちはずっと年少であったせいもあって、お姉さん方の声は掛からずにいた。かえって俺としてはありがたい。周りは年上ばっかで落ち着かないのに、ダンスを踊れなんて云われたら堪らない。体育は得意だけど、ダンスに関しては自慢じゃないが全然ダメだった。
 だから、会場のあっちこっちと皿とフォークを持って移動した。オードブルの皿を如神と一緒に二人で突付き回し、普段はお目にかかることの無いご馳走に舌鼓を打った。
「次はデザートかな」
「うーん、アイスと杏仁豆腐とチョコのケーキがあるよ」
「おー、チョコケーキかいいなぁ」
「フランボワーズのムースとバニラのソースのセットになってるよ♪」
「う〜ん、悩むな・・・・・・如神はどっちを喰う?」
「チョコケーキ!」
「よし!やっぱ、俺はアジアンでいこう」といって、俺は近くにあったカクテルサーバーから杏仁豆腐を取った。一口啜ってみると、冷やされてヒンヤリとしたシロップが舌を滑ってゆく。
「う・・・・・・美味い」
「勇太ぁ、チョコケーキ貰ってきた♪」
「んじゃ、外で食うかな」
「うん」
 俺たちはガーデンテラスの方へ出た。
 真っ白いタイルを敷き詰めた庭は月夜の下で輝いていた。ギリシャ風の柱が庭のいたるところに点在している。今は冬だから枯れているが、植えてあるのは高弁咲きの薔薇の木だ。きっと夏に来たら庭中に咲き乱れ、本当に綺麗な庭園になるだろうと思う。あっちこっちに置いてあるオブジェも品が良くって、きっと高いんだろう。
 あのオーナーは意外とセンスがあるんじゃんないだろうか。
「わ〜ぁ。ここ、綺麗だね、勇太♪」
「そうだな、センスあるよな・・・・・・きっと、オーナーは綺麗なものに対して理想が高いんだろうな」
「??・・・・・・どうしてそう思うの?」
「だってさ、まぁ、犯人かもしれないんだけどさ。何だか・・・・・・・」
「何だか?」
 俺たちが来た時のオーナーの表情が脳裏に浮かんだ。
 心底、嬉しそうだった。自分の理想のミューズならぬ男神ともいえる人物たちが自分の城にやって来たんだから。きっと、オーナーは生まれながらの美の信奉者なだけだったんだ。自分に無いものを求め過ぎただけなんだ。
「オーナーは理想の自分になりたかったんだと思うよ。理想の自分になって、思うまま生きて、恋をして、友人を作って・・・・・・何だか、俺にはそう思える」
「うん・・・・・・わかる」
「わかる?」
「うん。だってパーティー前にお腹へって、こっそりキッチンへ行ったの。そしたら、オーナーが『アタシが作ったおやつなのよ。貴方とお相手さんにね♪』って、クッキーくれたの・・・・・・悪い人じゃないと思うんだけどな。本当に春日をビックリさせたものを見せたのはオーナーなのかなあ?」
「そうだな」
「ね?」
 そう云うと如神はチョコケーキを一口食べた。
「む!・・・ングッ・・・・・・・ゲホゲホッ!!」
「どうした?」
「・・・・・・これ、コニャックが入ってる・・・・・・」
「酒?何だ、そんなことか」
 そう言いつつ、杏仁豆腐のお代わりを貰いに行こうと立ち上がった俺が見たものは・・・・・・

 黒くうねる暗黒の人型だった。
 背にゾクリと戦慄が走る。
「何だ・・・・・・」
「集団霊?・・・・・・今まで何もいなかったのに」
 いきなりそれは襲ってきた。すかさず俺は避ける。間一髪だ。
「喰らえ!!」
 俺は思いっきり念を叩きつけた。プルリと身を捩らせただけで、何の打撃を与えられない。
「勇太、こっち!」
 如神は叫ぶと俺の腕を掴んで裏庭のほうへ走ろうとする
「何でだよ!」
「ここじゃ、お客さんに気付かれちゃうよ」
「わかった」
 俺たちは手に手を取って走った。運良くあいつらは俺たちを敵と思ってくれたのか、こっちの陽動に乗ってくれた。
「如神、札は?」
「ごめん、殆ど無いよ!」
「何だって!」
「お昼にペンションに貼っちゃったから・・・・・」
「何ィ!!」
「大丈夫だから」
 ポケットから如神は小瓶を取り出し、中身を奴等にぶっかけた。
「オン・アミリティ・ウン・ハッタ・・・・・・帰命したてまつる。甘露尊よ、祓いたまえ、清めたまえ」
 ジュッと音を立てて、液体が蒸発した。苦悶の表情を浮かべ、奴等はのたうち回る。如神はそのまま小石を拾い、残りの神符に包んだ。
「勇太、これを思いっきり念で叩きつけて!!」
「わかった!・・・・・・・うおおおおぉぉぉッ!!!」
 俺は渾身の力を込めてその符を叩き込んだ。やっと来た出番だ。しくじる気なんて更々無い。頼まれたって、手加減なんかするもんか!符が霊に捻り込んでいく様を思い描き、ありったけの念をぶつけた。小石にかかる重力を千倍ぐらいにしてやる!
「ナウマク・サンマンダ・バザラダン・センダ・マカロシャダ・ソハタヤ・ウン・タラタ・カン・マン」
 それに向かって如神が詠唱する。
 神符が光の矢となって集団霊を貫いた。
「遍満する金剛部諸尊に礼したてまつる。暴悪なる大忿怒尊よ。破砕したまえ。忿怒したまえ。害障を破摧したまえッ!!!」
 ゴォッ!と吹き上げられた炎は奴等を飲み込んだ。
「一切調伏!!」
 叫びと怒りに打ち震えながら、段々と霊は小さくなり・・・・・・そして消えた。

「やったな、如神」
「違うよ、勇太だよ。勇太がやったんだよ」
「馬鹿いうなよ」
「だって本当だもん。自分でやるとね・・・・・・念が弱くて、御不動様をなかなか呼べないの」
「またまたぁ♪」
 俺は握手を求めた。二人一緒でだけど、役に立って本当によかった。
 気が抜けたのか如神はその場にへたりこんだ。頑張ったんだモンな、普通そうなるさ。まだ小さいのに健闘したと思うよ。
 如神を支え、立ち上がろうとしたその時、背後からガサッという茂みを除ける音が聞こえた。塔乃院だった。
「ちょっとは出来たようだな・・・・・・如神」
「見てたんですか?」
 俺は憮然として訊いた。
「ああ・・・・・・」
「何で手助けしてくれないんだよ!」
「助けを期待するなら、この世界に足は突っ込むな」
「う・・・っせーなっ!」
「お前には用は無い」
「何だとォ!」
「・・・・・・来い、如神」
 塔乃院影盛は俺の存在なんて完っ璧に無視して、如神に近づいた。表情に出てはいないが、なんか相当頭にきているらしい。俺はコイツに危険なものを感じた。
「すっぽかしのお詫びがまだだ・・・・・・先輩にそういう態度を取れと学校で教えられたのか?それとも、宗家のばあさんに、陰陽寮の現生神と謳われた『祥門須磨子』(ひろかど・すまこ)に、そう仕込まれたか?」
「・・・いいえ、違います・・・・・・」
 如神はうな垂れていった。
「何様だってんだ!!」
 俺は叫んでいた。だってそうだろ?大の大人が身長差が40センチはあるだろう子を、しかも中学になったばっかの子にねちねち言うなんて、ムカツク!!最低だ!
「俺が・・・・・・」
「勇太・・・・・・」
「俺のためにふったんだから、許してやってくれよ!」
「いいよ、勇太」
「俺が嫌なんだ!」
「だからといってお前は関係無いな、用があるのは如神だ・・・・・・来い」
「・・・・・・はい」
 ぽつりと如神は言った。
「行くなよ!」
「ごめん、勇太・・・・・・先に部屋に帰って・・・・・・」
「だって、俺のために・・・・・・」
「これも勇太のためなの!」
「わっかんねえよ、全然・・・・・・俺が話しつけてやる」
「ダメぇ!!」
 叫んだ如神は真剣そのものだった。
「あの人は危険なの!勇太じゃ敵わないの」
「あいつが何だってんだよ!」
「死ぬより酷いことになるよ・・・・・・だって彼は・・・・・」
「如神、それから先は機密事項だ!!」
 ピシャリと塔乃院が言った。口答えを許さぬと目がいっている。
「はい・・・・・・」
 小さく聞こえるか聞こえないかの声で如神は答えた。
「ケーサツの事情かよ。アイツが何だってんだ」
「いいの・・・・・・約束やぶったの、こっちだモン」
「だからって・・・・・・だからって、あいつンとこ行くのかよ。何があるかわかんないじゃないか!・・・それこそ死ぬより酷いことってのが・・・」
「大丈夫・・・・・・」
「如神!」
 塔乃院の声だ。
「今、行きます」
「待てよ!おい、おいったら!!」
 そっと振り返ると、立ち止まり、また駆け出していく。塔乃院の視線を恐れるかのようだった。
「ったく・・・・・・何がどうなってンだぁ?」
 俺は頭を振った。
「わっかんねえよ・・・・・・如神」
 俺は呟くしかなかった。


●使役者の結末
 翌日になって、容疑者こと、オーナーの【申し開き審議を開催】(命名:羽柴さん)をすることにした。如神が気分が悪いといったので、午後から始める事にした。

「大丈夫か、如神」
「う、うん・・・・・・気にしないで・・・・・・」
「声、枯れてるみたいだな」
「風邪だよ、きっと」
 如神がそういって笑ったが、どうも気になる。元気が無いし、さっきから溜息ばっかついてる。そうこうしてる間にオーナーがニコニコしながら登場した。
 これから吊るし上げをくうってのに呑気だなと思ったが、まぁ、オーナーは安心しきってるんだろう。バレてないという思い込みがそうさせているのかなとも思う。
「・・・・・・原因はわかったの?」
 悪びれもせずに言う。
 我等が助教授センセイは「ええ・・・・・・」と答えた。
「犯人は貴方です」
「そうよ」
あっさり0-ナーは認めた。
「何故ですか?」
「ごめんなさい、アタシ。成功させたかったのよ・・・・・・ちょっと嘘でも云って、綺麗な子借りて、アタシが男の子が好きってのもあるけどね、成功したら万万歳だもの。だから、声が聞こえるとか嘘云ったの」
 オーナーはそういうと肩をすくめた。
「大掛かりなお芝居だって思うでしょうけど・・・・・・」
「それだけじゃないですよね?」
「え?」
「あなた・・・・・・もしかして【アニマル・テイラー】(動物操者)じゃないですか?・・・・・・昨日、これを発見したんです」
 虫の入った瓶を斎さんは見せた。アニマル・テイラーとは動物を自分の一部のように扱える術に長けた人間のことだ。しかし、人間のような複雑な思考を持つ存在は扱えず、使えてもその動物に認識できる範囲しか行動できない。【アニマルテイラー】は警視庁魔導防犯課にその旨を登録せねばならないことになっている。
「それは・・・・・・」
「しかも、霊まで使役出来ますね」
「わ、私が【アニマル・テイラー】なのは認めるわ・・・・・・でもそれしか出来ないわよ!」
「それは嘘です」
「嘘なんかついてないわよぅ!!」
 オーナーは叫んだ。
「そりゃ、アタシは未登録の【アニマル・テイラー】よ。そんでもって、オカマよ!・・・・・・でもね、そこまでしてアタシが自分のお金無駄にしようと思うわけないじゃないのようッ!」
「・・・・・では、あの使役霊は誰が・・・・・・」
「知らないわよ」
「じゃあ、俺と如神が倒した集団霊は?磁場が悪いわけでもないのにそんなのが現れるっていったら、誰かがやったとしか・・・・・・」
「アタシじゃないわ。魔法学校じゃ術なんて殆ど出来ないオチコボレだったんだから・・・・・・そのことは草間ちゃんが証明してくれるわよ」
 皆は黙ってしまった。再度調査をしたものの、証拠になりそうなものは発見できるわけも無く、使役霊と集団霊に対する疑問が残ったが、調べることも出来なかった。草間さんに電話をしたが、やはりオーナーがいう通り、オーナーは筋金入りのオチコボレで有名だったそうだ。就職先のないオーナーは仕方なく新宿のオカマバーで働いていたらしい。
 草間さんは「パーティーが成功したんだったらそれでいい」といってくれたが、俺は気になってしょうがなかった。気になるといえば如神のことも気になった。顔色が悪いのにやたらはしゃぎまくってるからだ。
「勇太、勇太!」
「何だよ、寝てたほうがいいんじゃないか?」
「いいの!心配しないでいいよ。今度いつ、お休み貰えるかわからないから遊びたいの・・・・・・お買い物しようよ!」
「買い物〜?」
「うん!すっごく美味しいジャム屋さんあるんだよ。あぁ、そうだ!パンも買っていこう!!」
 ・・・とこんな調子なんだ。心配するなってのが無理だよな。

 電話で草間さんが依頼終了と告げ、俺たちはフリーになったんでそれぞれに休暇を楽しみ、東京に帰ることにした。俺は如神に付き合い、大量の買い物(すげえ買うんだ、これが!)を済ませ、東京行きの新幹線に乗って帰ってきた。
 別れ際、如神は住所と携帯電話の番号を書いたメモを俺に渡した。
 「また遊ぼう」って言った如神は幾分元気に見える。俺もノートの切れっ端に殴り書きをして渡す。それから名残惜しくなって、終電まで喫茶店で話し込んだ。結局、昨日の夜のことは話してくれなかった。いつか話してくれればいいなと思ったがグッと堪えて他愛も無い世間話に花を咲かせ、別れた。
 東京駅から意気揚揚と出発した俺は、今度はセンチメンタルな気分になって帰ってきた。いつもと変わらないネオンサインが夜に華を咲かせ、テールランプが東京の血管であるかのように流れている。人気の無い歩道橋を渡って、俺は家路についた。
 事後処理や使役霊たちのことは草間さんが片を付けてくれるだろう。何だか役に立てなかったような、立てたような、すっごく楽しかったような・・・・・切ないような
 むしゃくしゃしてるわけじゃない。満たされているわけでもない。無いものを渇望したいわけでもない。

 哀しいわけじゃない・・・・・・でも

 俺をこんな気持にさせる街、東京。
 この街の中で、俺は自分自身の凍てついてしまった【心】という時計を見つけ出せるだろうか?

 いつしか俺は声をあげて泣いていた。

   END
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0164  / 斎・悠也  /  男 / 21 / 大学生・バイトでホスト-
0867 / 神薙・春日 / 男 / 17 / 高校生/予見者
1122  / 工藤・勇太 /  男 / 17 / 超能力高校生
0689 / 湖影・虎之助/ 男 / 21 / クラス 大学生(副業にモデル)
0121 / 羽柴・戒那 /  女 / 35 /  大学助教授
(PC名五十音順)
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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、朧月幻尉(ろうげつ・げんのじょう)と申します。この度は依頼に参加いただきまして有り難うございます。今回は勇太の持つ活き活きとした表情を書きたかったもので、普段はあまりやらない形式で書かせていただきました。(本当はもっと短いのです)
 勇太に大変好感を持ちまして、最もらしく書きたいと切望して書きました。謎が謎を呼んでいる最後ですが(如神と塔乃院の間に何があった!)、これも一つの東京怪談のあり方かなと思いましたがいかがでしたでしょうか?

 私信にて感想等をいただけますと、今後の参考にもなりますので、宜しかったらフォームにてメールをお願い致します。
 発注を戴き、誠に有り難う御座いました。

P・S: ちなみに、ハーブ入りのブーケをタッジー・マージと言います。如神はこれを渡したのですね(^^)