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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


妖術の巨塔


■ オープニング

 聞いてください 投稿者:リリィ
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 私、小さい頃から身体が弱くて、入退院ばかりを繰り返してきました。
 それで、今度環境のいい郊外の病院に移ったんですが……その病院が、なにかおかしいんです。
 看護婦さんもみんな優しくて、先生もいいひとばかりなんですけど……なんていうか、みんな完璧すぎるんですよね……
 ミスらしいミスもないし、いつも笑顔だし……いえ、医療に携わる人は、みんなそうだとは思いますけど、なんだか……見ていると怖くなる時があるんです。
 そんな風に思い始めたのは、1週間前に地下にある部屋に迷い込んでからで……
 そこにある物を見てから、ここの人達が、この病院が信じられなくなってしまったんです。
 でも……もしかしたら、全部私の勘違いかもしれません。悪い夢でも見て、それを現実と思い込んでしまっているのかも……
 そう思うくらい、そこにあったものはショックでした。
 ……すみません、なんだかこれじゃわけがわかりませんよね。
 今夜、もう一度、あの部屋に行ってみます。
 そして……そこでもう一度同じ物を見たら、その時はここにはっきり書こうと思います。
 私の見間違いだったとしても、きちんと報告しますので、その時は笑って下さいね。
 もうじき検温の時間なので、これで失礼します。
 それでは。
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 ──それから1週間が過ぎたが、再びこのリリィがゴーストネットに現れる事はなかった。
 気になった雫達有志が書き込み内容や残されたIPアドレス、通信経路等の情報をもとに合法非合法ありとあらゆる手を使って調べた所によると、この問題の病院は横浜市の外れにあるらしい某国立の総合病院だと限定された。
 が、肝心の病院内の情報は、まったく引き出すことができなかったのである。
 ハッキングを試みた、ある手だれのネットワーカーはこう言った。

「冗談だろ、なんで国立病院風情がこんな堅固なセキュリティ組んでんだよ。ペンタゴン並だぜおい」

 ネットを通じての情報収集の道が絶たれとなると、後は直接出向いていくより他ない。
 問題は、誰が行くかだった──


■ 侵入・白き静寂の場所

 そこは、神奈川県横浜市の北の外れに位置する場所だった。
 横浜というと、中華街や山下公園、ベイブリッチなどが有名であり、いかにも都会的な印象を受けるが、そのくらいまで中心から外れると、あたりは田んぼが広がる田園地帯となってくる。
 そんな中、小高い丘の上に、一際大きく白い建物が建てられていた。
 ──国立六道総合病院。
 開院は5年前と比較的新しい病院であったが、最新の設備と経験豊富なスタッフが揃っており、既に近隣では通院者、入院者数の数がトップではないかと噂されている。
 そのあまりの評判の高さから、他県からわざわざ通院、転院して来る者も後を絶たないという事だ。
 ……ここに来れば、治してもらえる。
 ……この病院の先生達は、皆優秀だ。
 訪れた者、入院している者は、一人残らず口を揃えてそう言うのだという。
 まさに完璧な病院と、そのスタッフ達……
 病に蝕まれている者達にとっては、その場所はまさに楽園とも言えるかもしれない。
 が、そこは本当に「完璧」な楽園なのか……
 今、それを確かめるため、この白亜の大病院へと集結する者達がいた。


 病院内は、静けさに包まれていた。
 時間は昼過ぎ──午後に入ってすぐのあたりだ。
 外来患者の受付は通常午前中一杯であり、診察も一段落しているらしい。
 入口を入ってすぐの広い待合室にも、今は人1人いなかった。
 とはいえ……
「……気にいらねえな」
 左右を見渡して最初にそう口にしたのは、小脇に薄くて黒くて四角い物体、ノートパソコンを携えた少年だった。
 瀬水月隼(せみずき・はやぶさ)、それが彼の名だ。実は15歳の高校生である。
「誰もいないわね」
 と、新たな声が言った。
 中性的な容姿を持った、なかなかの美女だ。
 が、落ち着いた物腰と、理知的な瞳の色が、決してそれだけではない事を如実に物語っている。
 彼女の名は、シュライン・エマ。
 翻訳家にして幽霊作家、さらに草間探偵事務所において、時々事務から家事手伝いのバイトまでこなしているという多才な女性だ。
 彼女の言うように、そこには確かに誰の姿も見当たらない。
 待合室だけならまだしも、一般事務や診療代清算の手続きをするであろう事務室の窓口や、各診療室の方にまで人影がなく、通り過ぎる者や、人の声すらしないとなると、これは普通ではありえないだろう。
 そこは今や、人の気配はおろか、物音すら完全に絶えていた。
「……早くも、ただ事ではなくなってきたようですね」
 最後の1人も端正な顔をふと曇らせ、そう口にする。
 細身の身体に整った顔立ちはまるで雑誌の男性モデルを思わせるが、こちらもやはり、ただの色男ではなかった。
 見る者が見れば、彼の纏った気配──内から滲み出るものが相当な力を秘めているとすぐに察する事ができるに違いない。彼自身、普段はそれをあまり表には出さないのだが、既にもう、隠そうとはしていなかった。いつでも”力”を発動できる臨戦体制というわけだ。
 名前は、灰野輝史(かいや・てるふみ)。ドルイド魔術の使い手にして、霊能を用いたボディーガードを生業とする若者である。
「ここに入る前に、建物全体をアストラル視──いわゆる霊視をしてみたんですが……何も見えませんでした」
 じっと廊下の奥を見たまま、輝史が言った。
「……何も?」
「じゃあ、安全だとでもいうのかよ?」
「いえ、むしろその逆です」
「どういうこった?」
「つまり……」
 そこでようやく輝史が2人へと振り返り、言葉を続ける。
「アストラル視というのは、物体の姿を見るわけではなく、そのものの本来持つエネルギーを知覚する事です。生物、非生物を問わず、物体は存在するだけで、必ず何らかのエネルギーを持っている。それが見えないんです。何もね」
「……だから、なんだよ?」
「わかりませんか?」
「……」
 問われて、隼は口をヘの字にし、目を細めた。彼の頭脳が目まぐるしく活動を開始して、輝史の言葉から答えを見つけ出そうとする。
 が、先に言ったのは、シュラインだった。
「ここにあるものが、実はないとか……そういう事?」
「……かもしれません」
 そして、わずかに遅れて、隼もこう言った。
「あるいは、誰かが見えないように隠しているか……だな? アストラル体ってのは、それ自体が記憶を有するものだって話じゃねえか。勝手に見られて、ここで何をやってるのか探られちゃ困る……って寸法か?」
「……その可能性もあります」
 2人の言葉に、輝史は静かに頷いた。
「ですが、いずれにせよまだ推測の域を出ません。詳しくは調べてみないとなんとも言えないですね」
「へっ、なんにせよ面白いじゃねえか。俺にはそっち方面の能力はまるでねえから任せるぜ。こっちはこっちの得意分野で責めることにするからよ」
「得意分野って?」
「こいつだよ」
 シュラインに聞かれて、隼はノートパソコンを軽く叩いてみせた。
「俺も雫に頼まれて、色々当たった口なのさ。この病院のデータは結局引き出せなかったが、それでもわかった事はいくつかある。あのカキコをした奴、リリィってのにも大体の当たりがついてるぜ」
「本当?」
「ああ、なんだったら、今からそいつの病室に行かねーか? どうせ誰もいねえんだ。好きにやらせてもらおうや」
「そうね……」
 と、隼の台詞に考える顔になり、輝史へと目を向ける。
「どう思う?」
「……それがいいかもしれませんね。誰もいないというのはあからさまに怪しいですが、だからと言って、動かなければ何もわかりませんから」
「よっしゃ、決まりだな」
 ニヤリと笑う隼。
「で、どこに行くの?」
「呼吸器科の病棟だ。さっき案内図を見たが、ここの4階らしい。行こうぜ」
 そして、3人はその場を後にした。


 ──暗い廊下に、それよりもさらに黒い影がひとつ立っていた。
 黒のロングコートに同色の旅人帽。高く立てられたコートの襟により、その顔はほとんどうかがい知る事ができない。
 ただ、色濃い影に塗りつぶされた顔の中で、笑いの形に刻まれた口から覗く白い歯のみが際立っている。
 彼の名は、無我司緑(むが・しろく)。自称探偵である。
 今彼がいるのは、六道病院の地下にあたる場所だった。
 長く続いた廊下の先に、両開きのドアがひとつ。他には特に目を引くようなものはない。
 あるのは、重く立ち込める、瘴気のような闇……それだけだ。
 地下であるから、廊下に窓があるわけでもなく、暗いのはあたりまえかもしれない。
 しかし、天井には確かに浩々と蛍光灯の明かりが灯っているのだ。
 それなのに、視界はどんよりと黒く淀んでいる。
 まるで、廊下に充満する”何か”によって、光が邪魔されているかのような奇妙な光景だった。
 ……興味深いですね……
 声に出さず、つぶやく彼。
 ……ここにあるものは、全て中身がない。中身がない故に、どのような物でも入れる事ができる、というわけですか……なるほど……
 じっと扉に顔を向けている司緑は、一体何を見ているというのか……あるいはその扉の内側にある物を既に見破っているのかもしれなかったが……果たしてそうなのかどうかは、誰にもわからないだろう。彼自身にしか。
 ……器に何を満たすのか……誰がそれを成すのか……是非見学してみたいですね……くくく……
 低い笑い声が、わずかに空気を震わせた。
 そして、同時に司緑の姿が忽然と消える。
 足音のみが暗い廊下に何度か響き、やがて奥の扉がかすかに揺れたようにも見えたが……それらは全て定かではなかった。


「ねーねー、お兄さん本当にいいオトコだねー。お兄さんにだったらー、あたし身体の隅々まで診察されてもいーかなー、なーんて。きゃー」
「……はいはい、わかりましたから。とりあえず手を離してくださいね」
「あーん、もーなによなによー、手を繋いじゃダメなのー? なら足絡ませよっか? それならいいよねー?」
「…………あのですね」
「うーん、困った顔もナイスー」
「……」
 などと、病院の裏口を入ったあたりでなにやらアヤシゲな会話を交わす男女が1組。
 男の方は20代の中頃といった感じで、容姿の整った美形であった。白衣を着ており、胸には病院関係者である事を示すプレートも付けているが、これらは全て偽装だ。ついでにメガネもしているが、これも変装用で、度は入っていない。
 彼もまたこの病院に潜入を果たした1人であり、名は城之木伸也(じょうのき・しんや)という。
 一方の女性の方は、10代の半ばといった所であり、なかなかにチャーミングで、おまけに積極的な性格らしかった。実は彼女には肉体的にちょっとした秘密があるのだが……それはここでは触れないでおこう。ややこしくなるだけだ。
 名前は朧月桜夜(おぼろづき・さくや)。無論、やはりこの病院を調査に来た1人である。
 裏口からこっそり入ろうとした所で、偶然同じ事をしようとしていた伸也と出くわし、とりあえず手を繋いでコミュニケーションを深めようとした……という所だった。
「ねーねー、お兄さんもここ調べに来たんだよね? だったら一緒しよしよ。その前にあたしを調べてもいいからさ」
「……そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど、こちらは仕事優先なんでね。だから一緒に行動するのは構わないとしても、あなたを調査するのは遠慮しておきますよ、可愛いお嬢さん」
「うぅ〜ん、いいっ! 仕事に燃える男ってヤツ? いいよ、すっごくいい! あたし惚れそう!」
「それはどうも……」
 身をくねらせて喜びを表現する桜夜に、ややぎこちない笑みを浮かべる伸也。
 そのまま、2人は並んで進む事にした。
「……静かだね」
 歩き始めて、すぐに桜夜がそう言ってくる。
「人っ子1人いないというのは……さすがに妙です。罠かもしれませんね」
「罠? どうしてさ?」
「ゴーストネットが総力を結集してこの病院にネット上からアタックをかけたのに、ほとんどシッポを掴ませなかったような相手ですからね。危険を察知して、誰かが来るのを待ち受けるというのも、充分考えられるでしょう」
「なるほどねー、でもさ、医者とかはともかく、ここには患者さんだってたくさんいるんでしょ? その人達まで全部黙らせるなんて……簡単にはできないよね?」
「ですね」
 と頷いてから、あらためて伸也は思う。
 ……これは、考えていた以上に容易じゃない相手かもしれない、と。
 やがて、2人はエレベーターホールへとやってきた。まるで誰かを迎えるかのように、全てが1階で止まっている。
 それらのうちから関係者以外使用禁止のものを選び、中へと乗り込んだ。ストレッチャーに乗せた患者を運ぶ目的もあり、中は通常のものよりも奥行きがあり、広い。
「地下に行くんだよね?」
「ええ、そうです」
 頷いて、一番下のボタンを押そうとした。
「……む」
 が、何故かそのひとつ上のボタンを”自然と”押しそうになり、途中で手を止める。
「へえ、結界だね」
 簡単に言った桜夜が手を伸ばし、あっさりと一番下──地下4階のボタンを押す。それを見て、伸也は初めて目の前の少女に対して、感心したような視線を向けた。
 結界、と桜夜は言ったが、これは特に人の意識に対して訴えかけてくるタイプのものらしい。
 つまり、この場合は地下4階へのボタンだけに結界を敷き、それがあたかも”ないもののように”思わせてしまう。目には見えているのだが、脳があるという事実を知覚せず、結果として誰も押さない。そういう事だ。
 そして、桜夜はそれを見抜き、いともたやすく破ってみせた。その事だけをとってみても、只者ではありえないだろう。
「どう、少しは見直したかな?」
 伸也を見返して、ニッコリと微笑む桜夜。
「ええ、正直かなり」
「そっか。うん。素直なオトコはあたし好きだよ。ますますポイントアップね。もう少しであたしのハートを撃ち抜けるかも。頑張れー」
「……それは良かった」
 苦笑するしかない伸也だ。
「でさ、お兄さんもかなり強そうだよね。ね、どんな事ができるの?」
「さて。俺はそんなに強くはありませんよ」
「そう? そんな風には思えないけどな……」
「強いのは俺じゃなくて、他の奴なのでね」
「……?」
 伸也の台詞に、桜夜がキョトンとする。
 軽く笑って、伸也の視線がふっと流れた。自分の背後に。
「……あ」
 そこには何もなかったが……同じ空間を見た桜夜が、小さな声を上げた。
 確かに何ひとつ存在しない伸也の背後に、凄まじいまでの鬼気を放つ”なにか”がいる。
 目には見えず、気配だけだったが、間違いない。
「へえ……ねえねえ、紹介してよ」
「機会があればね」
「もう、ケチな事言ってると、ちょっとマイナスだぞ!」
「それは困りましたね」
 ちっとも困っていない声音で、彼は言った。
 エレベーターは、2人を乗せて、静かに降りていく。
 病院の、最下層へ──


■ 病室・眠れる少女

 ドアの脇にあるプレートには、高倉百合(たかくら・ゆり)とあった。4階、呼吸器科病棟の一角にある個室である。
「この病院のデータが引き出せないなら、他の病院を当たればいい。あのカキコには、ここに移ってきたってあったよな。だから、全国の病院からここに転院してきた奴のデータを徹底的に洗い出してみたのさ。ここ以外の病院のデータなんて、いくらでも覗き放題だからな」
「……全国って……」
 簡単に言ってのける隼に、シュラインが目をぱちくりさせた。
「なに、日本中にある病院の数なんてたかが9000ちょいだ。そんなに多い数じゃない。それに、内容からして産婦人科や歯科、耳鼻咽喉科、規模の小さい個人病院なんかは除外できるから、さらに半分以下に絞り込める。あとはハッキングと検索のプログラムを適当に組んで自動化すれば、あっという間にリストが吐き出されてくるさ。割と楽だったぜ」
「……たいしたものね」
「それで、条件に合ったのがこの病室の子というわけですね」
「ああ、そうさ」
 輝史の言葉に頷くと、病室の扉に手をかけ、開いた。
「愛知の豊橋にある病院から3週間前に転院してきたようだな。年は14歳、生まれつき肺に障害があって、喘息も持ってるようだ。こいつ以外でリストに上がってきたのは、みんな中年や老人だったよ。リリィってハンドルも、本名の百合から取ったんだろうさ。まず間違いないはずだ」
 白を基調とした清潔な8畳ほどの空間に、ベッドがひとつ。柔らかな午後の日差しが、カーテン越しに淡く室内を浮かび上がらせている。
 そこに彼女──高倉百合がいた。
 線の細い顔立ちと白い肌は、いかにも病弱な少女といった印象を受ける。
 ベッドに横たわり、かけられたシーツの胸のあたりが、静かに上下していた。
 突然の来訪者にも、閉じられた瞳が開く様子はない。
 壁に繋がれた細い管が、顔の上の酸素マスクへと続いていた。
「……眠っているのかしら?」
「……」
 輝史が側に寄り、額の上に片手をかざす。とたんに眉が寄り、難しい顔つきになった。
「眠っているのではなく、眠らされていますね、これは」
「……え?」
「なんだよ、大丈夫なのか?」
「ええ、薬物的なものではないでしょう。これは精神的……というか、催眠術に似た方法で眠らされていますね。恐らくは術者以外は、目覚めさせる事ができないかと」
「あなたでも、無理なの?」
「……手段がないわけではありませんが……病気の女の子に、あまり手荒な真似はしたくないですね」
「そっか……そうよね」
 輝史の言葉に、シュラインが頷いた。
「なら、こっちを調べてみるか」
 と、隼が目を向けたのは、ベッドの隣に置かれた小さなテーブルだった。上には女の子らしい小物に混じって、1台のノートパソコンが置かれている。
「PHS端末の通信カードか……なるほど。LANの端子もあるな。よし、じゃあクロスケーブルで直結してご挨拶といくか」
 言いながら、自分のノートPCを隣におき、懐から1本のケーブルを取り出すと両者を繋いで準備を始める。
「知ってるか?」
「何をよ?」
「普通、病院では携帯電話の使用を禁止してる。電磁波による医療機器への影響が心配だからな。もし何かあったら、それこそ人の命に関る一大事だ」
「……まあ、そうね」
「だが、それでもやっぱり携帯電話ってのは便利だ。そこでお医者さんは、病院の中では医療用の携帯電話ってのを使ってるのさ」
「へえ、そんなのがあるの?」
「ああ、とはいえ、実際はただのPHSさ。普通の携帯に比べて出力が低いんで、影響を及ぼさないんだな、これが。このPCで使ってるのも、そういう通信カードだ」
「なるほどね、で、それがどうかしたの?」
「いや、別に。勉強になったろ?」
「……なによ、それ」
 じろりと隼を見るシュライン。
 が、別に隼の方は気にした風もなく、2台のマシンを起動させると、両方のタッチパネルに片手を置き、別々に操作していく。
 そのまま色々な画面を出しては2つの液晶を見比べていたが、ふと息をつき……
「……こん畜生、クッキーやネットの履歴を残らず消してやがる。その他のそれっぽいデータにも、後から手を入れた形跡があるな……」
 低く、つぶやいた。
「だめなのか?」
「いや、そんな事はねえ。ただ時間が必要だな。消えたっつっても、一度ハードディスクに刻み込んだ情報がなくなるわけじゃねえから、それなりの設備と手段を使えば、なんぼでもデータを掘り起こして読み取ってみせるぜ。ちょっと待ってな。今からディスクごとコピーして交換してくれる」
 言いながら、今度は懐から2.5インチのハードディスクを取り出してみせる。ニヤリと笑った顔は、非常に楽しそうだ。
「……なんでもいいけど、あんた、いつもそういう物を持ち歩いてるわけ?」
「気にすんな、趣味だ」
「そう……」
 小さく頷いて、シュラインもあとは何も言わなかった。趣味だと言われればそれまでだ。
 そんな事よりも……
「……」
 無言のまま、チラリと輝史が扉に目をやる。
 シュラインも、気付いていた。
 何者かの足音が、次第に近づいてくる。それも複数……大勢だ。
「ん? どうした? なんかあったか?」
 隼のみが気付いていないらしい。
「さあ、お見舞いかしらね。団体さんがお着きのようよ」
「そうか、なら接待は頼むぜ。俺はこいつで忙しい」
 シュラインの言葉の意味を理解した隼がPCへと向き直り、2つのキーボードに片手を乗せて、それぞれ別のタイピングを開始する。手つきは恐ろしいまでの速さであり、器用さだ。
 やがて……足音が迫り、扉がゆっくりと開かれた。
 病室へと入ってきたのは……病院にはふさわしい白衣に身を包んだ看護婦だった。30代後半くらいだろうか。胸のプレートには、富士見とあった。
「こんちには、婦長の富士見です」
 にこやかに笑って、挨拶してくる。
「ええ、こんにちは。なんの御用かしら?」
 シュラインが、言った。
「ほほほ、それはこちらの台詞です。あなた達こそ、ここで何を?」
「お見舞いですよ、彼女のね。もっとも、誰かに眠らされているらしくて、話もできませんけど」
「なるほど、そうですか……」
 輝史の言葉に、笑顔のままで頷く婦長。まったく表情が変わらないのが不気味だった。
「ここでは狭いですね。廊下に出てはくださいませんか?」
「狭い? 話をするのに、広さなんて関係あるのかしら?」
「いいえ、話など致しませんよ」
「では、何を?」
「ふふふ……」
 ニッコリと笑いを深め、富士見婦長はこう言うのだった。
「あなた方を、八つ裂きにするのです」
「……」
「……」
 思わず、シュラインと輝史が顔を見合わせる。驚いた……というより、あっけに取られたという感じだ。
「……おっかねえ病院だな、ここは」
 と、隼も振り返った。
 コピーしたハードディスクを百合のPCにセットし、元々入っていた方は既に自分の懐へと入れてある。
「保険は……利きそうにないわね」
 シュラインが、低くつぶやいた。


■ 地下4階・暴れる美女

 エレベーターが、地下4階に着いた。
 音もなく扉が開くと、伸也が形の良い眉を潜める。
 そこには、1本の通路しかない。
 エレベーターから出ると、真っ直ぐに伸びた通路が続いており、50メートル程行くと突き当たって、そこに両開きの扉が見て取れる。
 ……それだけだ。あとは何もない。
 ただ、黒々とした闇が、通路にわだかまっていた。先に進むにしたがって、わずかづつ濃くなっているようにも見える。
「わっ、わっ、怖いね。怖いねー」
 などと、桜夜はわざとらしく声を上げるが……その響きはまったく緊張しているとは思えない。
「まあ、とりあえず行ってみましょう」
 メガネを中指でちょっとずり上げ、伸也は歩き出した。
「あん、まってよ〜」
 と、すぐに桜夜も続く。
 進むごとに身体にまとわりついてくるような、粘液質の薄闇……
 もちろんそれは単なる錯覚なのだが、そういう感覚を覚えずにはいられない空気が漂っている。
 ……嫌な感じだ。
 伸也は心の中で、つぶやいていた。
 が、特にその一直線の道では何も起きる事はなく、どちらかというと大げさに怖がって身体を摺り寄せてくる桜夜の対処に困りながら、扉の前へとたどり着く。
「さてと……」
 取っ手に手をかけると、ひんやりとした鉄の感触。中から伝わってくるおかしな気配は……ない。
「ドキドキするね〜、ね、ね、触ってみる〜、あたしの胸に」
「……丁重に辞退します」
 振り返りもせずに言って、扉を一気に開いた。
「……ほう」
「わぁ〜」
 数瞬の間を置いて、2種類の感嘆の声が上がる。
 中は……かなり広い空間だ。一般的な学校の体育館ほどもあるだろうか。
 そこに所狭しと並べられているのは、大小さまざまなサイズのカプセルだった。
 いずれも透明の円柱で、正体不明の液体が内部に満たされている。
 小さいものは高さが30センチくらいから。大きいものでは2メートルを越えると思われるものまである。
 問題は……その中身だった。
 小型のものは内臓や目玉、腕等、人の一部と思われるもの。
 大きさが増すごとにつれて、それが動物になり、やがて人に到っている。
 うつむき加減で液体に浮く男女の集団……
 生きているのか死んでいるのかは不明だが、少なくとも気配を発しているようなものはひとつもない。
 そして……中には人の形を留めながら、人とは思えぬ者達も多数見られた。
 緑色とピンクのまだらの肌をしたものや、手がないもの、身体がねじくれているもの、目や鼻の位置がデタラメに配されているもの……
 まるで、適当に人のパーツをくっつけ、色もデタラメに塗ったような狂気の芸術作品が無数にある。
「ひええ……グロてすくぅ〜」
 顔をしかめながらも、近くに寄って顔を近づける桜夜だったが、伸也の方は側に寄る気すら起きない。
 視界を埋め尽くす異様なもの達から発せられる、存在感という名のプレッシャー。
 ……さて、どうするか……
 こんなものを見せられては、さすがにすぐには行動を決められない。
 さらに、ここは一体何なんなのか……それも不明だ。
「きゃー、凄いよお兄さーん。こいつ、脳味噌丸出しー。でもてこっちのは……きゃー、すっごい、すっご〜〜〜い! アレがナニしてこんなに〜〜っ!」
「…………」
 何をするにしても、とりあえず桜夜を黙らせねば、真面目に考える事すら無理かもしれない。
 それを確信して、まずは彼女に向かって何事かを言いかけ……
「……」
 無言のまま、その目が他の方向へと流れる。
「うん? お客さんみたいだね」
 と、桜夜もすぐに気付いたようだ。
 どこかに隠し通路でもあったのだろう。部屋の奥にひとつの気配が現れ、こちらへと近づいてくる。
「……ほう、もうここまで来たのかね。やるものだ」
 そう言いつつ姿を現したのは、50がらみの男だった。背は高く、白衣姿で、がっしりとした体型をしている。態度は落ち着いたもので、侵入者を前にしても堂々としたものだ。
「おじさんはだーれ?」
 一方の桜夜も、まるで動じていないという点では同じだった。にっこり微笑み、小首を傾げて新たな人物に問いかける。
「私は佐藤だ。この病院の院長だよ」
「ほう……」
「わ、じゃあ親玉だ。いきなりラスボス登場ってわけ? まいっちゃうな〜」
 あっさりと告げられた言葉に、伸也は目を細め、桜夜の方は丸くなる。
「……で? 挨拶をしにきたわけじゃないでしょう。俺達をどうするつもりです?」
「そうだな、どうして欲しい?」
「見なかった事にするから帰してくれって言ったら、帰してくれますか?」
「……本気かね?」
「さてね」
「……」
「……」
 じっと視線を交わす伸也と院長。
 ほんの数秒無言の時が流れ、ふと、院長の口元にじわりと笑みが広がった。
「よかろう、好きにしたまえ」
 伸也を見たまま、彼が言う。
「え〜、帰っちゃうの〜」
 桜夜の方はすぐに不平を口にした。
「……」
 が、伸也は無言だ。片足を一歩引き、半身になって身構える。院長の言葉など、最初から信用してはいないのだ。
 そして、それは正しかった。
「ここを生きて出られたら、どこへなりと行くがいい」
 院長の台詞に、ガラスの割れる音が重なる。それも無数。
 続けて、びちゃびちゃと何か重いものが落ちる響きがして、とどめに獣の唸り声のような低い声があちこちから聞こえ始めた。
「わっ! お兄さん! あの気色悪いのが動いてるよっ! すごい! ホラー映画を地で行ってる! なんか感動っ!」
 むしろ嬉しそうに解説をするのは、もちろん桜夜だ。可愛く怖がるとか、そういう気配は微塵もない。
「話し合いの余地もないというわけですか?」
「ふっ、話がしたいのならば、彼らとしたまえ」
「……そうですか、よくわかりました」
 にべもない言葉に、小さく肩をすくめる伸也だった。
 異形のものたちが、しだいに迫ってくる。
 濁った瞳、せり出した犬歯、こちらへと伸ばされた腕……
 どこからどうみても、友好的な雰囲気はカケラもない。
「仕方がない……やりますか」
 つぶやいて、眼鏡を外す。もはや変装も意味がないだろう。
「千鶴、話は聞いていましたね?」
 と、伸也は誰かに言った。
「ああ、もちろん」
 すぐにこたえる声がひとつ。
 彼の背後に、細い姿が忽然と出現していた。それを見て、桜夜が目を剥く。
 千鶴……と呼ばれただけあって、女性の姿だ。黒装束に身を包んだくの一風の外見をしていたが、人ではありえなかった。頭の上に突き出た2本の角がその証拠だ。彼女は伸也が使役する鬼神なのだった。
「こいつらは姿もそうですが、中身も人じゃありませんね。遠慮は無用です」
「ふふ、もとより言われるまでもないわ」
 世にも美しい顔に浮かぶのは、残忍な笑み。
「それじゃ、存分にどうぞ」
「承知!」
 声と共に、千鶴は疾風となって駆けた。
 手にはそれぞれ細身の刀が握られている。
 一振りするたびに、異形の者共は縦に、横にと両断され、血煙を上げて床に倒れた。あまりのスピードに、ほとんどの者は倒れてからようやく悲鳴を上げる。だが、その時は既に遅い。
「ふん、つまらないねえ、雑魚共の相手は」
 低くつぶやきながらも、千鶴は薄く微笑んでいた。
 数秒とかからずに両手に余る程の敵を斬り屠った身体は、返り血に紅く染まっている。
 彼女にとって敵に死を送る事は、無上の喜びであり、快楽なのだ。
「千鶴、その男だけは殺さないで下さいよ。聞きたい事がありますから」
「ああ、わかっているよ、伸也」
 言いながら、さらに数体をただの肉塊へと変える。
 数の差をものともせず、全てを斬り捨てて真っ直ぐに自分へと近づいてくる鬼神の姿に、院長の顔色が変わった。
 さらに──
「ふうん……お兄さんも、面白いコを飼ってるんだね。じゃあ、あたしの方も見せちゃおうかな」
 ニッコリと、桜夜が笑う。
 同時に、ヒラヒラと何かがその場に舞い始めた。
 淡い桃色の小さな薄片……桜の花片だと伸也が見破った瞬間、風と共にそれらの全てが凶器と化した。
「……これは」
 軽い驚きと共に、伸也は見た。
 乱れ飛ぶ花に触れたもの全てが、鋭利な刃物で切りつけられたかのごとき切断面を見せて寸断されていく。
 まさに一瞬。まばたきを数度するかしないかのうちに、何十という人影が一気に五体をバラバラにされ、床へと崩れ落ちていった。
「これがあたしの式神のひとつ、華雪よ。よろしくね」
「式神……という事は陰陽師ですか。なるほど」
 桜夜の言葉に、伸也が頷く。
 どうやら今の花片の一枚一枚が全て意志を持ち、相手を選んで斬りかかっていたらしい。
 強力な存在を使役するという意味では、どうやらこの2人は似た所があるようだ。
「……くっ!」
 あっという間に形勢を逆転された院長が、軽く舌打ちをして背を向けた。
 ──が、
「おっと、どこへ行くおつもりですかな?」
「な!?」
 目の前に、いきなり新たな人物が現れた。
 黒いコートに、黒い旅人帽を目深にかぶった男──司緑である。
「なんだ貴様、一体どこから……」
 問う院長の声には、あきらかに動揺の響きがあった。
「おやおや、驚かせてしまいましたか。しかしいけませんな、このような結構なものを造られた貴方が、私ごときに心を乱されては」
 話しかける司緑の声、態度はいずれも非常に丁寧だ。ただし、口元に浮かべた笑いと得体の知れない雰囲気が、見る者に不安という感情しか与えない。
「……」
 無言の院長の額に、じわりと汗がにじんだ。
「おまえ、一体何者だい?」
 と、そこに今度はほとんどの敵を葬った千鶴がやってきた。
「私ですか?」
「ああ、そうさ」
「そうですねぇ、話すと長くなりますが──」
 司緑の声が、そこで途切れる。
 代わりに、びゅっと鋭い音を立てて、彼の立っていた位置を白刃が通り過ぎた。
「いきなり何をなさるんですか。危ないですねえ」
「むぅっ!!」
 自分の背後に気配が移ったと感じるや、見もしないでそこへと再び刀を振るう。しかし、また空振りだった。
「やめなさい! 千鶴!」
 強い声音に、鬼神の動きが止まる。司緑はというと、いつのまにか院長の隣に立っていた。移動の瞬間は、誰一人目撃していない。
「……伸也、こいつ、普通じゃないよ」
 司緑から目を離さず、千鶴は言った。この黒衣の人物の何かが、彼女のカンに触れているようだ。
「これは異な事を。失礼を承知で言わせて頂ければ、貴女も充分普通ではないようにお見受けできますが」
「……」
 その台詞に、千鶴の目つきが鋭さを増した。それこそ鬼でも逃げ出しそうな表情だったが……司緑の方は意に介した様子もなく、相変わらず薄い笑いを浮かべている。
「落ち着きなさい千鶴。とりあえず刀を引いて」
「……」
 近づいてきた伸也に言われると、無言でそれに従う彼女だ。彼の言葉は絶対らしい。
「すみませんね」
 と、一応司緑にも声をかけた。
「いえ、お気になさらず」
 彼の方は、平然としたままだ。
「ねえ、それよりさ、こっちのおじさんと話した方がいいんじゃないの? 色々知ってそうだし」
 桜夜もやってきて、そう言った。
「まあ、確かにね」
 伸也が頷き、全員の目が同じ人物へと向けられる。
「……」
 院長の顔は、今や完全に色を失っていた。


■ 呼吸器科病棟廊下・怒れる婦長

 廊下に出ると、数十人にも及ぶ看護婦達が立っていた。
 皆無言であり、顔には白衣の天使の名に恥じない、優しげな微笑をたたえている。
 ただ、それぞれ手にはハサミやメス、カッター、モップ等、思い思いの武器を携えていた。
 ほとんどが生活用品というのが、なんとなくリアルさを感じさせる。事務仕事の合間に出てきた……という雰囲気だ。
「……なんだか、随分と手厚い看護をしてくれそうね」
 周りを見渡して、シュラインが言った。
 彼女ももちろんだが、他の2人も慌てたような様子は皆無だ。
「ええ、保証しますよ。当病院のスタッフは優秀ですから」
 と、婦長。
「ああそうかい。けどな、俺は昔から注射も苦手なんだ。遠慮しとくぜ」
「ふふ……」
 隼の言葉に、彼女が低く笑う。
「大丈夫ですよ。痛みなど、すぐに感じなくなります。すぐにね……」
 子供に言い聞かせるような口調……
 それと同時に、白衣の集団が一斉に襲いかかってきた。
「この人達は生身の、普通の人間です。手荒な真似はなるべく避けましょう」
 言いながら、輝史の身体が流れるように動いた。
 彼の指先が看護婦達の額や首筋に触れると、それだけで次々に力を失い、床へとへたり込んでいく。
「……随分器用な事をするな、あんた」
「ただ眠りを与えているだけですよ。後遺症も一切ありません」
「俺はンなことできねーぞ!」
 喚く隼だったが、それでも相手の動きを完全に見切っている。かわしながら、ときおり手刀を首筋に打ち込んだり、拳をみぞおちに当てたりしつつ、確実に数減らしに貢献していた。
 一方のシュラインはというと……
「……」
 一見、何もしていないように見えたが、実はそうではない。
 その証拠に、彼女へと向かった白衣の天使達は、次々にバタバタと倒れている。
 シュラインの特殊能力「声」の賜物だった。
 彼女の声帯は、この世にあるありとあらゆる音をコピーすることができる。
 人の声、大自然の音、人工的なノイズに到るまで、とにかく全てだ。
 今、シュラインはその能力で、人の可聴範囲外にある超音波を放っていた。
 それは、近づく全ての者の脳に振動を与え、瞬時に脳震盪と同じ効果をもたらす。
「……あっちの姉ちゃんもただ事じゃねえな、こりゃ……」
 つぶやきつつ、目の前の看護婦の顎に少々キツめのパンチをおみまいしてしまい、慌てて「おい大丈夫か!?」と倒れた女性の容態を確かめている隼だ。
 情勢は、明らかに3人に分があった。
 が……
 チーン、と、廊下の先でエレバーターの到着する音が響くと、そこからゾロゾロと新たな看護婦が吐き出されてくる。隣の、階段へと通じる通路からも、同様に無数の白衣姿の女性達が流れてきた。
「……キリがねえな、こりゃ」
 目をやって、うんざりした顔になる隼。
 今更だが、ここは病院である事を痛感した。医療従事者など掃いて捨てるほどおり、それらが全て敵かもしれないのだ。
「とりあえず、ここは頭を潰す手だな」
 つぶやいて、一気に婦長へと走った。
「うおおっ!」
「……おっと」
 叫んで突っ込んだが、あっさりかわされる。
 しかし、隼の狙いは彼女自身ではなかったのだ。
 そのまま壁の防火扉へと駆け寄ると、留め金を外して巨大な扉をバタンと閉じてしまう。
 これにより、エレベーターホールからこの場へと通じる道は、完全に鉄の壁によって閉ざされた。
 あとは再び留め金を止めれば、向こうからは開けることができない。
「やりますね」
 看護婦の最後の1人を眠らせた輝史が、隼に目を向け、微笑んだ。隼が無言で片手を上げてそれにこたえる。
「さて、どうするのかしら?」
 シュラインが、婦長に問うた。
「……ふふ、仕方ないですわね」
 彼女の顔からは、微笑みが消えない。それどころか、ますます楽しげに見える。
「なら、私が貴方達の治療を担当させていただく事と致しましょう……」
 そう告げると、ポケットから何かを取り出した。真鍮製の、古めかしい注射器だ。
 さして迷った様子もなく、しかも服の上からそれを無造作に腕へと突き立てると、正体不明の中身を注入していく。
「う……ぐ……ぐぁ……ぁ……」
 初めて、彼女の表情が変化した。
 顔だけでなく、文字通り、彼女は全身が「変化」していく。
 髪の毛がバサバサと抜け落ち、腕が、足が、胴体の筋肉が爆ぜるように盛り上がり、膨らむ。枯れ木が折れるような音を上げて骨格すら変形し、背までもが伸びた。
 口と目が倍以上の大きさになり、肌の色が赤銅色になり、爪が、犬歯が凶悪なまでに鋭く伸び……
「……な、なによこいつ……」
 シュラインが思わず一歩下がり、輝史が身構える。
「……だから注射は嫌いなんだよ……」
 隼の顔も、不快感に歪んでいた。
「グゥァァァァァァァァッ!!」
 反り返り、天井に向かって、それが吼える。
 同時に、3人へと突っ込んできた!
「!」
「…っ!」
「おわっ!!」
 残像を伴って移動する程のスピードは、恐ろしいまでに速い。かわすだけで精一杯だ。
 誰よりも先に反応したのは、輝史だった。
 床のモップを拾い上げ、構えると、目をすっと細める。
 瞬間、モップ全体が不可思議な色を帯び、ぼぉっと淡い光を放った。
 通常の目にはそれだけの変化にしか映らないだろうが、この時、単なる掃除道具は根本からその存在を変えたのだ。
 輝史はアルトラル視によって、物質の持つエネルギーそのものを「視る」ことができる。そしてさらにこちら側に存在する物質をアストラル界へと「送る」事により、それをアストラル体そのものへと変化させて、物のエネルギーに直接ダメージを与える武器を創り出す事が可能なのである。
 ちなみにアストラル界とは、物だけでなく、人を含めた生物の欲求、感情などもひとつのエネルギーとして存在する高次の世界の事であり、幽界とも呼ばれている。多分に観念的であり、すぐ近くにあるとも、たとえようもないほどに遠くにあるとも言えるという……そんな世界である。
「はぁっ!」
 鋭い声と共に、輝史は手にした武器を振るった。
 彼が繰り出すモップは、今やあらゆる物に等しくダメージを与える魔剣と化しているのだ。
 ──しかし、
「!?」
 振り下ろす速度よりも遥かに速く、異形と化した婦長の身体が動いた。
 何の予備動作もなく天井まで飛び上がると同時に、音速にも等しい蹴りが輝史を襲う。
 身を捻ったほんの数センチ先を暴風が駆け抜け、風圧だけで服が浅く切り裂かれた。
 両者の体勢が大きく崩れ、一瞬の隙が生じる。
 そこに、絶妙のタイミングで今度はシュラインの超音波が放たれた。
 さすがに、これは婦長といえども避けきれるものではない。
 真正面から頭に当たり、背後に抜けた……はずだったのだが……
「……ムダ、ダ……」
 元の面影がまるでない醜悪な顔が、にいっと笑いの形を取る。
「そんな……今のは確かに……」
 見開かれる、シュラインの瞳。
「ホネ、ト、キンニクガ、ナミ、デハナイ。ソンナモノハ、キカナイ」
 声帯も大きく変わっているのだろう、獣の唸り声のような声で、彼女は説明してみせた。
「……なるほど」
 小さく頷き、輝史が手にしたモップを床へと放る。
「もう一度、今の音を広範囲でお願いしたいんですが、できますか?」
 シュラインへと振り返り、尋ねた。
「ええ、できるけど……」
「なんだよ、どうするってんだ?」
「まあ、見ていてください」
 そう言うと、シュラインの脇に立つ輝史。
「じゃあ、お願いします」
「了解、いくわよ」
 シュラインが息を吸い込み、そして、耳には聞こえない音波を放った。
 特に避けるでもなく、婦長は笑いを浮かべたまま、じっと立つのみだ。
「これなら……どうですか?」
 輝史の手が上がった。シュラインの口のやや前に。
 放射状に広がる音の波に虹色の光が乗り、あっという間に広がっていく。
 それに婦長の身体がくまなく包まれた時──
「グワァアアァァァァアアァァァ!!!」
 絶叫と共に、彼女は後方へと吹き飛ばされていた。
 受身も取れずに床を転がり、壁に頭から激突して止まる。
「いかに速くとも、全方位に広がる音からは、逃げることはできないでしょうね」
 静かな、輝史の声。
「……なるほどな」
 と、隼も納得した。
 輝史が今やったのは、いわば音の魔剣化だ。
 婦長へと向かう音そのものをアストラルエネルギーへと転化させ、武器としたのである。
 さすがにそれでは、避ける事などできはしない。しかも、それ自体がシュラインの超音波だ。
 美声は必殺の効果を付加され、見事に対象を打ち砕いていた。
 倒れる異形の婦長の身体には、内側から弾けたみたいな傷があちこちに刻まれている。体細胞が崩壊し、吹き飛んだ跡だ。
 とはいえ、輝史も手加減はしてある。死んではいないはずだし、もとよりそこまでするつもりもない。
 が、しかし……
「なによ、この人……」
 彼女を見て、シュラインが眉を潜めた。
 傷口から流れ出しているのは間違いなく血液のはずなのに、色は緑色だ。姿もほぼ人間とは思えない程だが、まさかここまで違ってしまっているとは。
「……さっきの注射のせいか、あるいは……」
 そこまで口にして、輝史は言い淀む。
 ──もともと人ではなかったのかもしれない。
 そんな台詞を、飲み込んでいた。
「まあ、なんにせよ、こいつには色々と説明してもらわねえとな。おいこら、起きやがれ。どうせここは病院だ。そのくらいの怪我なら、すぐに治療できるだろうぜ」
 そう言いつつ、隼が側に寄っていき……
「ウルアアァァアァァア!!」
「おわっ!?」
 ふいに婦長がガバッと起き上がり、慌てて飛びのいた。
 彼女は隼には目もくれず、廊下のさらに奥へと走り出す。
「こん畜生おどかしやがって! 待ちやがれ!!」
 すぐに、3人も後を追った。
 そのまま10メートルも走ったろうか、いきなり婦長が廊下の壁に体当たりすると、その部分の壁が内側へと倒れ、ぽっかりと穴が空いた。
「隠し通路か!」
「逃げるつもりかしら?」
「俺達も行きましょう」
 やや遅れて、一行も新たな入口へと駆け込む。
 そこは通路ではなく、下へと続く鉄製の螺旋階段であった。
 階下は闇に沈み、どうなっているのかわからない。
 ただ、カンカンという婦長の足音だけが響いてくるのみだ。
「どうやら地下への一本道らしいな」
「相手の本拠地への近道って所かしら」
「行ってみれば、それもはっきりするでしょうね」
「おっしゃ、突撃だ!」
 むしろどこか楽しげな隼の声が、暗闇の向こうに吸い込まれていった。


■ 地下炎上・白きを紅きに染めて

「……さて、では話してもらいましょうか。ここで何をしていました? この人間モドキ達はなんです?」
 伸也が院長の前に立ち、言った。
 両隣にはそれぞれ司緑と桜夜が立ち、背後は千鶴が固めている。四方を囲まれては、もう逃げようがないだろう。
「ふっ、それを聞いてどうする? お前達風情に何ができるというのだ?」
 観念して自棄的になったのか、薄笑いと共に院長は口を開く。
「さてね。俺達はある掲示板の書き込みからここにたどり着いただけです。どうするかは、そちらの話を聞いてから、決めさせてもらいますよ」
「……ふん、あの娘か、やはりな」
「……」
 その院長の言葉からすると、やはり既に気付いているらしい。
「お前達が来る原因を作ったその娘だが、長くはないぞ」
「……まさかあなた」
「勘違いをするな、私が手を下したのではない。元々呼吸器系が弱い所に持ってきて、先日の検査でガンが見つかったのだ。手術をしても、恐らくは体力が持たないだろう」
「そうですか……」
「面白いものだな。死期が迫った人間というのは、人間としての特性が次第に薄れていくものらしい。地下への立ち入りを封じている結界も、あの娘には効きが悪かったようだ。まったく、これだから面白い。研究のタネは尽きんよ。この病院に転院してきたのも、あるいは必然なのかもしれん……ふふ」
 院長の浮かべた笑いに、伸也が目つきを鋭くさせた。嫌な笑顔だ。
「ここでは最新の医学にさらなるテクノロジーを組み合わせた研究を行っておる。各臓器の移植から、改造、強化、変質、新たな特性の付加……なんでもできるからな」
「新たなテクノロジー?」
「そうだ」
「なーに、それ?」
 桜夜が聞いた。
「……魔術、妖術、錬金術……そういった歴史の闇に埋もれてきた技術だよ。お嬢さんも、どうやらその手のものを使うようだが」
「どうかな、あたしのはもっとカワユクてゴージャスだもの。こんなエグイのはお断り」
 顔をしかめて、あっさり言う彼女だ。
「そうやって他人を犠牲にしてきたわけですか。立派な病院ですね、ここは」
「……犠牲、だと」
 伸也の言葉に、院長が振り返った。
「貴様に何がわかる……ふざけるな!」
 いきなりの、怒声。
 思わず千鶴が抜刀しかけ、伸也が目で制した。
「この病院を開設して5年、その間ただの1人も死者を出してはおらんのだ。わかるか? ただの1人もだ。設備も、技術も、スタッフすらも一流であり、医療ミスなどは絶対に起きる事もない。他の病院なら見捨てるような患者でも、ここでならば治療が可能だ。ありとあらゆる病気を克服させ、完治させてみせる。臓器がなければ、新たな臓器を作ってやる。治せない病気などこの世にはない! 死者すらも蘇らせてくれよう! ここならばそれすらできる! はははは!!」
「……」
「……あんたがビョーキじゃん」
 哄笑する院長に、さすがの桜夜も気味が悪そうにつぶやいた。
「……確かに、素晴らしいですね」
 と言ったのは、司緑だ。
 全員の視線が、彼へと集まる。
「このように命をもて遊び、病院関係者も全て自分の人形のように変えた。あるいは造ったんでしょうか……まあ、どちらでも構いませんが、とにかくそれにより、貴方は貴方の医学とやらを極めようとしてらっしゃる。その探究心、向学心には恐れ入りますよ。ですが……」
 じっと、司緑が院長を見た。それだけで、波が引くように彼の笑いが消えていく。
「貴方や治してもらった患者さんはいいとして、客観的にそれを許せないという人達も大勢いるでしょう。そういう方々の意見や存在は、一体どうします?」
「……ふ、そういう奴の治療も、得意とする所だ」
「ほう……」
 院長のこたえに、司緑があたりを見回し、そして続けた。
「ここに保管してあるのは、病院関係者や、患者さんがほとんどのようですね。心や身体を作り変え、あるいは心だけを取り去り、新しい別の”もの”を入れ……もしくは身体を新たに作って適当な心のような”もの”を入れ……見事なものです」
「……」
 淡々と語る黒衣の男の言葉に、院長が無言で口元を歪め、笑う。
「…………下衆め」
 千鶴が低い声で、言った。瞳の中で殺意の炎が揺れている。
「神にでもなったつもりですか、貴方は」
 伸也の声も、いやに静かだった。
「ふっ、神など所詮は想像上の存在に過ぎん、だが私はここにいる」
「……なるほど、よくわかりました」
 言いながら、千鶴を見た。何も言わずに、女鬼神が小さく頷く。それで充分だった。
 ……この男を、これ以上放っておいてはいけない。
 今この場で、永遠に黙らせるのが最良の手だろう。
 そう、確信していた。
 千鶴の刀が死の風を乗せて院長へと振り下ろされようとした、まさにその時──
「グゥアアアァアアァァァァアアアァァ!!」
 獣の咆哮と共に、近くの壁が吹き飛んだ。
「……!!」
「な、なにアレ!」
「ほう、これはまた……」
 驚愕と、興味と、シニカルな笑み。突然の出現を、それぞれの反応が迎えた。
 見上げるような巨躯に、張り裂けんばかりの隆々たる筋肉。いや、実際にそれは所々が弾け、緑の血液を噴出させている。凶暴な光を宿す濁った瞳は、何を言っても通じないとしか思えなかった。どこからどう見ても、化け物以外の何者でもない。
「よく来た! こいつらを殺せ!!」
 唯一、それが婦長の変わり果てた姿だと理解した院長が嬉々として叫んだが……
「グガァァッ!!」
 そいつの手が無造作に振られ、次に瞬間にはあっけなく爪が院長の身体を引き裂いていた。
「……が……」
 吐息と共に血を吐き出し、その場に崩れる院長。既に婦長には、考える意思も何も残ってはいないらしい。
「……千鶴」
 伸也の声と同時に、黒装束の女鬼神が飛燕の速度で閃いた。
 鮮やかな薄桃色の花片、桜夜の華雪も優雅に舞う。
「ウガァァァアアァァァァアアアアァアァ!!!」
 魂迸る、絶叫。
 それが尾を引いて消えると、ぼとりと重い音。
 怪物の首が、床へと落ちていた。
 腕が、足が、胴体が続き、いずれも2度と動かなくなる。
 それを見届けてから、伸也は院長へと寄った。
 口とまぶたがのみがわずかに動いていたが、既に虫の息だ。顔は土気色であり、胸から腹にかけて刻まれた傷は深く、出血もおびただしい。いかにここが病院とはいえ、あと数分ともつまい。
「……最後に言いたいことがあれば、聞きましょう」
 伸也が、そう問いかける。
 言葉が届いたのか、やや遅れて、院長の口の片端がほんの少しだけ吊り上がる。微笑んだのだ。
「……」
 嫌なものを感じた。彼は両手を白衣のポケットへと忍ばせている。
 すぐに掴んで、引き出した。
 院長が持っていたのは、何かのリモコンのような小さなスイッチと、金色のオイルライターだ。
 取り上げようとしたが一瞬遅く、彼の指がボタンを押す。
 ──ザァァァァァァ……
 とたんに、天井から降り注いでくる液体。
「やだ! なにコレ!! くっさーい!!」
「……これは」
 伸也の目が細まった。この刺激臭は……ガソリンだ。どうやら天井のスプリンクラーから、この部屋中へと撒き散らされているらしい。一体どうしようというのか……
 結論はひとつであり、そして間違いなかった。
「……し……ね……」
 院長が血と一緒に、小さな言葉を吐き出す。
 同時に、ライターに炎が灯り──床へと落ちた。
「まずい! その穴に入って!!」
 叫んで、駆け出す伸也。
「え? なに? なになになにー!」
 状況は掴めていないらしいが、それでも桜夜の反応も速かった。
 全速力で婦長が出てきた穴に駆け込むと──
「わっ!」
「きゃ!」
「あら」
「おっと」
 そこには上へと続く階段があり、ちょうど下ってきた者達と鉢合わせした。
「あー! 隼じゃない! 久しぶりーっ!」
「……朝から会ってるだろ」
「なに? 随分慌ててるみたいだけど、なにかあったの? というか、この先になにがあるの?」
「いえ、それは……」
 隼の姿を見つけて手を振る桜夜。シュラインの問いかけには伸也がこたえようとしたが……

 ──ドォォン!!

「っ!」
「な、なに? 爆発!?」
「てめえ桜夜! 一体何やらかした!!」
「あたしじゃないわよーぅ!」
 あたりを揺るがす轟音と振動。
 やや遅れて、階段の出口から熱風が吹き込んでくる。その向こうに見えるのは、猛り狂う紅蓮の炎だ。
「まずい!」
「ちょっと! 何があったの!?」
「説明は後でします! とにかく今は避難するのが先ですよ!」
「ったく! 下りたり上ったり忙しいこったぜ!」
「文句たれないの。そーれ、走れ隼ー!」
「お前に言われたくないってんだよ!」
「後できちんと何があったか話してよ!」
「ええ、わかってます」
「消防にも連絡しないといけませんね、これは」
 炎に押されるように、一行は階段を駆け上がっていく。
 最後に一度だけ、チラリと後ろを振り返る伸也。
 あの黒ずくめの人物の姿が見えないのが気になったが……まさか今更火の海の中に戻るわけにもいかないだろう。
 それに、うまく説明はできないが、まず無事だろうという確信めいた思いがあった。
「どうかしましたか?」
 そんな彼に、輝史が声をかけてくる。
「いや、なんでもありませんよ」
 首を振り、こたえた。
「そうですか」
 輝史もそれ以上は何も言わず……あとは真っ直ぐにその場を後にする一行。
 もちろん、全員が無事に脱出したことは言うまでもない。


「……貴方はもうじき死にます。どうですか、自分が滅ぶ感想は?」
 業火が渦巻くその場所に、暗い声が流れる。
 襟を立てた漆黒のコートに、同色の帽子で覆われた顔に浮かんでいるのは……皮肉めいた笑みだ。
 既にあたりは真っ赤な炎にくまなく覆われており、どこにも逃げ場はないように思える。
 しかし彼には、まったく慌てた様子もなかった。
 ……滅ぶ? そんな事はあり得ない。
 と、目の前に倒れ伏した院長がこたえる。
 既に瞳孔は開き、心臓も停止しているのだが……それでも司緑には彼の声が聞こえるのだ。
「ふむ、死すらも恐怖には値しないという事ですか? たいしたものですね」
 ……あたり前だ。私には恐れるものなど何もない。貴様もそれをすぐに知ることとなるだろう。
「それは楽しみですね……くくく……」
 自信に満ち溢れた院長の意志に、司緑もまた楽しげであった。
「では、それが本当かどうか、試して差し上げましょう」
 ……何?
 ひょいと、ふいに司緑が院長の側にしゃがみ込むと、完全に生気の抜けきった顔の上に手を乗せる。
 瞬間──

 ……うあああぁぁああぁぁぁぁあああぁあぁぁぁあああぁあああああぁあぁぁあぁ!!!

 死んだはずの男の目がカッと見開き、声にならない絶叫の意識がほとばしった。
 単なる死相が恐怖の相へと変わり、硬直を始めた身体すらも弓なりに反り返る。
 一体、何を見たというのか……?
「……ひとつ、言っておきましょう」
 司緑の口元が、ニヤリと歪んだ。
「死などよりも、もっと怖いものなど、この世にはたくさんあるのですよ。たくさんね……」
 彼の言葉にこたえる意志は、もう完全に消滅していた。
 死者すらも怯える恐怖……
 それがどんなものなのかはわからないが、院長の顔に刻まれた表情は、あまりにも凄惨だ。
 司緑はじっと、彼を見下ろす。
 やがて、猛火が2人を包み、この場からあらゆるものの気配が完全に……消えた。


■ エピローグ 〜 シュライン & 伸也 〜

 ──翌日。
 ほの暗い店内には、おとなしめのジャズが流れていた。
 ここは、表通りからはやや外れた所にあるバー、LAVI。
 ボックス席は一切なく、カウンターだけという造りの、小さな店だ。
 その端に腰掛け、カンパリオレンジをグラスで傾けながらテレビに目を向けているのは、シュラインだった。
 まだ時間が早いためか、他に客の姿はない。
 TVはちょうど夕方のニュースの時間帯であり、緊急記者会見とやらをやっている。
 例の病院の地下が燃えた事がそれなりに大きく取り上げられ、責任の所在と原因の究明をはっきりさせる……というのが目的らしい。
 もちろんシュライン達が深く関わった事であり、今更そんな事をテレビで見るまでもないのだが、そういうわけにもいかない事情ができてしまっていた。
 それは何かというと……
「……間違いないわね。本物よ」
 14インチの画面にじっと目を凝らして、シュラインがポツリと漏らす。
「俺の目にもそう見えますから、こいつは幻じゃないんでしょう、きっと」
 カウンターの向こうで、白いシャツに蝶ネクタイ姿の伸也も頷いた。彼はここの雇われマスターなのだ。
 問題の画面の中で沈痛な表情を浮かべて事の次第を話しているのは……なんと佐藤院長だった。
 隣には白衣姿の富士見婦長の姿もある。
 2人共怪我などしている様子もなく、もちろん婦長も化物の姿ではない。
「どういう事よ、これ」
「いえ、俺に聞かれても……」
「……そりゃそうだけどさ」
 さらに話を聞いていくと、火事は地下にあるボイラーの異常過熱によるものだとされ、これは人為的というより、ボイラーの構造上の欠陥だったという。メーカー側も素直にそれを認めて、会見場にはその会社の役員までいる。
 幸い初期消火が素早く行われた事により被害も軽微であり、もちろん死者もなし。患者と家族には迷惑をかけてしまって申し訳ないと陳謝すると同時に、他の病院に移りたいと望む者があれば、速やかに手配すると明言していた。
 しかし、この病院は近隣でも評判が抜群であり、世話になった者も多く、信頼があることからそのような事を言い出すものは皆無なのだという。さらにニュースでは、素早い対応と素直に非を認めて対処した病院関係者の事を手放しで褒めており……シュラインは聞いているうちに気分が悪くなって、テレビのスイッチを切ってしまった。
「……じゃあ何よ。あたし達の方が揃って夢でも見たって事? まったく……とんでもないわね、こいつ」
「そうですね、あと、こんなのもありますよ」
「なによ?」
 憤然とする彼女に伸也が差し出したのは、1枚のファックスだった。中央にでかでかと院長の顔がプリントされている。
「またこの顔を見ろっていうの?」
「まあ、そうなりますかね。でも、よく見て下さい、それは昭和30年代の始めに大阪の方で名医と評判になった人物が、雑誌でインタビューを受けた時に撮られた写真だそうです」
「……昭和30年?」
 言われて、じっと目を向けてみる。確かに古ぼけた写真と荒い粒子は、それくらい時代がかった雑誌と説明されればそれっぽく感じられた。が、間違いなくこれはあの院長であり、他の誰でもない。
「隼君が色々調べてるらしくて、送ってくれたんですよ」
「なるほど。でも、これでますますあの佐藤って院長、得体が知れないわね。もしかして不老不死とか……あ、でも、あの地下室で確かに死んだのよね?」
「ええ、その上に焼かれたはずです。それで今日になってピンピンしてるのは、あきらかにイカサマですよ」
「だとすると、クローンとか、あるいは他の技術……なんだろう……」
「さあ、わかりませんね」
 軽く両手を上げる伸也だ。
「なによ、随分とあっさりしてるわね」
「そりゃそうですよ。はっきり言ってこんなのは手に負えません。マスコミも簡単に情報操作されちゃってますからね。おまけに不死身で、医者としての地位も名誉も信頼も得てる。興味本位で手を出しても、かなう相手じゃありません」
「…………まあ、確かにそうかもしれないけど……」
「納得できないのはわかりますよ。でも、我々は相手の事を知ならすぎです。情報が足りない。そんな状態で挑んだって、どうなるものでもないでしょう。今回だって、結局ほとんどわかった事もないですしね」
「……うーん」
 伸也の言葉に、唸るシュラインだった。その通りなので、返す言葉もない。
 やがて、短く息を吐くと、
「よし、わかった」
 と、言う。
「何がですか?」
「今後しばらく保険料を滞納してやるわ」
「……なるほど、それは相手も困るでしょうね」
 苦笑する伸也だった。
 シュラインは一気にグラスを空け、
「おかわり」
 彼をじろりと見て、言った。
「はい、次はなんです?」
「ジントニック。ジン多めでね」
「……かしこまりました」
 うやうやしく礼をすると、シェイカーの音を響かせる。
 その夜は、結構荒れたらしい……


■ エピローグ 〜 輝史 〜

「ごめんなさい、私の勘違いのせいでご迷惑をかけたみたいで……」
「あ、ううん。いいんだよ、気にしないで。それより元気そうでよかった」
「はい、なんだかここに来てから調子がよくて」
「そうなんだ。じゃあ退院もすぐだね」
「だといいんですけどね。ふふ」
 雫の言葉に、微笑を浮かべる少女……百合だ。
 あれから1週間あまりが過ぎ、ようやく今日から一般のお見舞いも来院を許される事になっていた。
 どうしてもここに来てみたいと言い張る雫を誰も止める事ができず、結局輝史が同行して、再びここへとやって来ている。
 無論、それなりの覚悟と準備はしてきた彼ではあったが、あっけないほどにここまで入ることができてしまい、妨害の気配などは微塵もない。
「……」
 無言のまま、病室の中を見回す輝史。
 おかしなものは、何もない。普通の目でも、アストラル視覚でもそれは同じだ。
 ここだけでなく、今は病院自体が”普通”になっていた。看護婦も、医者も、患者も、建物も……全てだ。
 輝史の感覚に、まったく訴えかけてくるものがない。
 ……恐らくは全てを隠蔽したのだろうと、彼は考えていた。
 無論、あの後すぐに警察や消防が地下室に入って火事の現場を実況検分したのだが、病院側の説明にある通り、そこには焼けただれたボイラー設備があっただけで、他には何も発見されなかったそうである。
 それだけの短時間のうちに、全てを作り変えてしまう事が、果たして可能なのか……?
 自分にはできないだろう。だが、相手にはそれができる。
 それを思うと、暗鬱な気分にならざるを得ない輝史だ。
「あの、どうかしたんですか?」
「ああ、いえ、なんでもないですよ」
 ふと、百合に言われて、微笑を浮かべた。
 病気の少女にいらぬ心配をかけるのは本意ではない。彼女は何も知らないのだから。
 ……そう、今の彼女は何も知らなかった。
 あの地下で見たことも、全てを忘れて……というより、熱に浮かされて見た幻だったと確信している。少し話しただけで、それを察する事ができた。
 恐らくは、誰かの手によって記憶を改変させられてしまったのだろう。
 誰がやったのかは、今更言うまでもない。
 それに……彼女自身の事もまた、少々気になった。
 あの時の院長の話では、百合はあと余命いくばくもないとの事だったそうだが、今の彼女の様子を見るに、そんな言葉などまるで嘘のようだ。
 色白で線の細い外見は、幼い頃から入退院を繰り返してきたからだとしても、それ以外は特に弱っているようにも思えない。第一そんな重病であれば、輝史にも一目でわかる。アストラル視覚は、その者の病気に侵されている部位を的確に見抜くことも可能なのだから。
 まさか……と、彼はあるひとつの仮定を頭に描いていた。
 ここの地下では、患者や医師、看護婦をコピーしたり作り変えたりしていたようだ。
 ならば、この少女もまた、既に……
「本当にありがとうございます。あんな変な書き込みをした私の所に来てくれて……とても嬉しいです」
「変じゃないよ。とっても興味を引かれたもん」
「そうですか?」
「うん。だからまた怖い話とかあったら、遠慮なく書いてよね。あ、別に怖い話じゃなくて、楽しい事でもいいけど」
「はい、そうします」
「よーし、これでまた常連さん獲得。やったね」
「……ふふっ」
 楽しそうに語らう少女達の姿に……輝史は何も言えなかった。
 少なくとも、今の自分の考えなどは口にできるものではない。
「失礼します。高倉さん、午後の検温の時間ですよ」
 ふと、ノックの音と共にそんな声がして、入口の扉が開かれた。
 入ってきたのはもちろん白衣を着た看護婦であり……
「……」
 彼女を見て、輝史の目つきが鋭くなる。
 笑みを浮かべてこちらに会釈をするのは、あの富士見婦長であった。
「あ、はい、わかりました」
 なんの警戒心も持たない百合が素直に頷き、
「……じゃあ、私達、そろそろ失礼するね」
 雫の方は、そう言って気遣いを見せる。
「百合ちゃん、また来てもいいかな」
「もちろんです」
「そっか、じゃあ、またね」
「はい、また」
 お互いに手を振る少女2人。
「お大事に」
 輝史も短く告げて、なんとか顔を微笑の形にする。
「お帰りですか?」
 その輝史に、婦長が尋ねてきた。邪気の感じられない、満面の笑顔……
「ええ」
「そうですか、お気をつけて」
「……どうも」
 おかしな素振りを見せたら問答無用で仕掛けるつもりだったが……その必要はなかった。
 看護婦の模範のような人のいい笑みを浮かべたまま、百合へと向かう。
「……」
 輝史は無言で、その後姿を見送った。
 彼女からは、普通の人間と変わりない気配しか感じられない。
 あの時の婦長と姿は同じでも、完全に別人……というか別物なのだろう。
 向こうに危害を加える意志がない以上、こちらも手出しはできない。
 1週間前の痕跡や証拠も完璧に消されている今となっては、下手な事をすれば悪人になるのはこちらである。
 ……根は深そうだが、この病院から得られる情報は、もう何も残ってはいないな……
 それが、彼の判断だった。
「行きましょう」
「う、うん」
 厳しい顔つきの輝史を見て雫が何か言いかけたが、結局何も口にしなかった。
 ……次に何か尻尾を見せたら、その時こそ。
 強く、心に刻む彼だ。

 それから1ヶ月程して、百合は退院する事となった。もちろん、全快してだ。
 雫はまるで自分の事のように喜んだが……輝史は内心複雑だったようである。


■ エピローグ 〜 司緑 〜

 夕暮れの屋上に、黒い影がひとつ。
 何をするでもなく、病院へと詰めかける消防車やパトカーの群れを、ただじっと見下ろしている。
 闇を切り出して作られたかのような漆黒のコートに、同じ色の旅人帽。
 立てられた襟と目深に被った帽子により、その顔はほとんど窺い知る事ができない。
 ただ、口元に浮かんだ皮肉な笑みと、対照的に真っ白な歯のみがチラチラと覗いていた。
 彼の名は、無我司緑。
 あの炎の中からどうやって抜け出し、ここに来たのか……
 無論、彼の身体には焼け焦げや煤の欠片さえ見られなかった。
 ……人は、死ぬ。それは決して逃れられぬ運命という名の定め……人は死を恐れ、苦しみを和らげるために、まじないや宗教、そして医者を頼る……癒され、救済を得るために……
 誰にも聞こえない声が、わずかな風に乗って流れる。
 ……ここを訪れた者は、その望みが叶えられた。充分な代償を払って……
 やがて、大勢の消防、警察関係者が入口へと殺到し、次々と中に消えていった。
 彼らが目撃する事になるのは、ごく普通の火災の現場と、病院の関係者達──それだけだ。
 他のいかなる怪異も、彼らの目には入ることはない。
 もし万が一目撃したとしても、その記憶は消されるか、あるいは本人そのものが”変えられて”しまう。
 そうやって、この病院は妖しげな研究を積み重ねてきたのだ。
 だが、それも今、終りを告げようとしていた。
 病院を包む尋常ならざる気配が、霧が引くように薄れ、消えていこうとしている。
 院長が死に、全ての企みが瓦解したのだろうか。あるいは……
 ……どこか他の地に移るか、あるいはほとぼりが冷めるのを待つか……でしょうね……
 司緑の意識が、そんなつぶやきを漏らした。
 そう、この完璧な病院は、決して滅びる事がないだろう。
 死すら克服する施設なら、人が求めぬはずがない。たとえそれが悪しきものだとしてもだ。
 この世は、善人ばかりではない。
 他人を蹴落とし、喰らってでも生きようとする人間など、掃いて捨てるほどいる。それが現実だ。
 この病院は、まさにそんな望みを叶えるための場所だったと言えるだろう。
 だから、決してなくなる事はないのだ。
 人が人である限り──
 ……ですが、この場所はもう、普通の病院になってしまいましたね。やれやれ……
 冷たい風が、吹いた。
 ……どこかにまた現れるまで、待つことにしましょうか……なに、そう遠い先でもないでしょうからね……くくく……
 かすかな笑い声が、その場に流れる。
 やがて風が通り過ぎた時、そこにはもう、誰も立ってはいなかった。
 夜の帳が静かに舞い降り、夕闇がただの闇へと変化していく。
 静かに、音もなく、そして深く──


■ エピローグ 〜 隼 & 桜夜 〜

「だー! くっそー! わかんねー!!」
 隼の声と共に、プリンター用紙や雑誌の切り抜き、各種資料等が派手に空中へと舞い上がる。
 あれから自宅へと飛んで帰った彼は、すぐに百合のノートパソコンにあったハードディスクの解析を始めると共に、さらにあの病院の事ももう一度最初から徹底的に調べる事にしたのであるが……苦闘数時間の果ての言葉がそれだった。
 細かい説明は省くが、いくらデータをゴミ箱に入れようがフォーマットをしようが、それでハードディスクからデータを消去した事にはならない。無論、普通のパソコンや設備程度では、それらの一見消えているように見えるデータを復活させることはできないのだが、隼の所にはそれらの装備が全て揃っていた。
 で、百合のディスクを1クラスタ逃さず調べたのだが……空振りだったというわけである。現在分かっている以上の情報を得ることはできなかったのだ。
「はーい、隼ちゃーん。落ち着こうねー。ごはんできたよー。今夜は肉じゃがだぞー♪」
 頭をわしわしかきむしっている彼の背後で、そんな明るい声。
 振り返ると、そこにはエプロン姿の同居人──桜夜が立っていた。
「……そこに置いとけ、後で食う」
 それだけを告げると、再び画面へと向き直る隼。
「むー、なんだとー! あたしの料理が食えないってのかこのー!」
「ぐえぇ」
 態度が気に入らなかったらしく、桜夜はつかつかと隼の背後に歩み寄り、いきなりチョークスリーパーで首を絞め上げはじめた。
「こ……この馬鹿。反則だ……反則……」
「まいったかー!」
「……ま、まいった……」
 目を白黒させて、コクコクと頷く。
 それで、めでたく2人揃っての夕食となった。
 あと10秒も返事が遅れていたら、隼の意識は綺麗なお花畑に飛んでいただろう。


「ふーん、結局手がかりはなしなんだ?」
「まあな。しかし、完全になしってわけでもねえさ。あそこで見てきた事を手がかりに、他の手でアプローチする方法だってある。なんにせよ、追っかけられる所までは追っかけるさ」
「ふふ、楽しそうだね、隼」
「そーか?」
 食卓を挟んで、そんな会話を交わす2人。
 桜夜の作った食事を食べながらこれまでの経過を話す隼を、桜夜の方は自分の分に箸も付けずにニコニコと見ている。
 ちなみにこの2人の関係は話すと長くなるので割愛するが、今はとりあえず家主と居候という立場であり、それ以上でもそれ以下でもない……はずだ。
「なんだったら、あたしあの病院で死体洗いのバイトとかして潜り込もうか?」
「あのな……」
 笑顔で死体洗いとか言いだす桜夜に、思わず隼の手が止まる。どうせなら看護婦とか言えばいいのだろうが、それもこの娘らしい。
「おそらくはもうあそこにゃ何も残ってねえだろうな。手がかりを残していくような間抜けとも思えねえし……それにだいいち、お前死体洗いなんてバイト、本当にあるとでも思ってんのか?」
「え? だって良く聞くじゃない。病院の地下にホルマリンのプールがあって、死体を沈めて保管してんの。で、時々浮かんでくるそれを、棒で突っついて沈めるってヤツ」
「……馬鹿な事言ってんじゃねえよ」
 と、顔をしかめる隼だ。
「ホルマリンってのは恐ろしく揮発性の高い液体なんだぜ。プールなんかにしたって、すぐに蒸発しちまって意味がねえさ。それにそんな所に人が近づいたら、あっという間に倒れておしまいだ。それこそそいつが死体になっちまう」
「へえ、そうなの」
「ああそうだ。それにな、通常死体の保管ってのは、日本じゃ病院じゃなく、専門の業者がやってるらしい。方法は、まず血液を抜いて代わりに防腐剤を体内に注入し、その上でホルマリンを染み込ませた布を全身に巻いて保存するって話だ。だから病院で死体洗いのバイトなんてのは、完全なウソッパチさ。まあ、それでも結構広まってる話らしいから、これも現代風の怪談──都市伝説のひとつって言えるかもな」
「さっすが隼、死体の事に詳しいね」
「……おかしな褒め方すんな」
 隼が苦笑する。
「しっかしなんでメシ食いながら死体の話なんかしなきゃならねーんだよ。食欲なくなるっての」
「そう? じゃあデザートでも食べる?」
「なにかあるのか?」
「うふふ……」
 尋ねられると、桜夜はニッコリと微笑み、
「ア・タ・シ・よん♪」
 と、隼にウインクする。
「いらん。冷蔵庫にでも入れとけ」
 返事は、マッハで返された。
「……なによそれ」
「で、腐りかけたら言え。捨てるから」
「ふうん……隼ったら面白い事言ってくれるじゃない……」
 腕まくりしながら、桜夜がゆらりと立ち上がる。顔は笑顔だったが、額に血管が浮かんでいた。
 ……これはさすがにやばいか。
 隼もすぐに逃げようと思ったが……
「たっぷりおしおきだー!」
「わーーっ!」
 食卓を飛び越えた桜夜に襲いかかられ、そのまま床へと押し倒されるのだった。

 以降も隼は独自に色々な方面からあの病院の事を追ったのだが、結局追い詰める事はできなかったらしい。
 パソコンを使っての調査、整理中などに背後から桜夜にちょっかいをかけられる事は何度となくあったが……もちろんそれはその結果とはなんの関係もない……はずだ。


■ END ■


◇ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◇

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

※上から応募順です。

【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26 / 翻訳家&幽霊作家】

【1092 / 城之木・伸也 / 男性 / 26 / 自営業】

【0441 / 無我・司録 / 男性 / 50 / 自称探偵】

【0996 / 灰野・輝史 / 男性 / 23 / 霊能ボディガード】

【0444 / 朧月・桜夜 / 女性 / 16 / 陰陽師】

【0072 / 瀬水月・隼 / 男性 / 15 / 高校生】


◇ ライター通信 ◇

 どうもです。ライターのU.Cです。今回は少々自己のスケジュール調整に失敗しまして、締め切りギリギリとなりました。ギリギリなのに、また調子に乗って3万字オーバーとか書いてる大たわけな私がいけないわけなのですが……はっはっは、と、ここはもう笑ってごまかす事にします。それしかもはやございません。いやはや、ニントモカントモ……

 シュライン様、またのご参加ありがとうございます。今回は真面目に戦っておりますので、読む方も書く方も安心です。凛々しい姿を描かせて頂きましたので、どうかお収め下さいませ。

 伸也様、はじめまして。鬼神の千鶴さんという名前を見たとき、真っ先に「貴方を殺します」とか言わせそうになり、なんとか踏みとどまりました。危なかったです。いえ、ネタをご存知でなければ良いのですが……(汗

 司緑様、またのご参加ありがとうございます。今回も正体不明で妖しく描かせて頂きました。ある意味人間に対しては無敵ですよね。相手が機械とかですと苦労しそうではありますが、それでもダメージを受けるような方法を思いつかないので、やはり無敵かもしれません。なんにせよ、おかげさまで一層物語が妖しくなりました。ありがとうございます。

 輝史様、またのご参加ありがとうございます。今回は必殺合体魔剣(?)をやらせて頂きました。いえ、目には見えないものを魔剣化したら面白いなとは、設定を始めて拝見させて頂いた時から、思っていたりしたのです。今回はついにそれを描いてみました。気に入って頂ければ幸いです。

 桜夜様、はじめまして。隼様とのカップル(?)参加という事で、ありがとうございます。設定に「言動が下品」というのがありましたので、ちょっとがんばってみました。がんばりすぎるとOMC本部より殺し屋が派遣されてしまうので、その辺ドキドキです。

 隼様、はじめまして。パソコン技能、及び格闘技能アリとの事で、そこの所を中心に描かせて頂きました。しかし実際桜夜様との間はどういう風になっているのでしょう……そちらの方は、私自身も今後の展開を期待して見守らせて頂きたいと思います、はい。

 最後に、参加して頂いた皆様、並びに読んで頂いた皆様には深く御礼申し上げます。ありがとうございました。
 なお、この物語は、全ての参加者様の文章が全て同じ内容となっております。その点ご了承下さいませ。

 ご縁がありましたら、また次の機会にお会い致しましょう。
 それでは、その時まで。

2002/Nov by U.C