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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


こえ

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久し振りの休日。
映画でも観ようと街中を歩いていると、小さな映画館を見つけました。
看板に『かぜのこえ』とあり何と無く興味を覚え、この映画を観ようと
その小さな映画館へと足を向けました。
上映が始まるまでの間、先程購入したパンフレットを開いて見ていると
ふと、ある事に気がつきました。登場人物蘭に名前も何も書いておらず、
空欄のままになっていたのです。書いてあるのは簡単なあらすじのみ。
不思議に思っていると上演開始のブザーが鳴り響き館内の照明が落ち、
映画が始まりました。

暫らくすると、真白いスクリーンの中から誰かの声が聞こえてきました。
その声はとても清んでいて綺麗な声でした。
何と無くその声が自分の横から聞こえてきている様な感じがして、横を
向いてみると…やっぱり誰も居ませんでした。
ほっとしていると背後からいきなり肩を叩かれ驚いて振り向くと、そこ
には見知らぬ人物が立っていました。

「さ、遊びに行こう。」

そして気がつくとその人物に腕を引かれて映画館を出ていました。
混乱しているこちらを無視してどんどん歩いて行き、そしてニッコリと
笑顔を見せました。

「ね、何処に行く?」



****



美貴神・マリヱは自分の手を引いている見知らぬ人物を不思議な思いで
見つめました。
年の頃は、おそらくは12〜13歳くらいの元気そうな男の子。
もう12月だというのに長袖のTシャツ一枚にカーゴパンツという薄着で
見ているこちらが寒くなりそうです。

「ね、早く行こうよ!」

寒くないのかな〜等と思っていると、その少年はもう一度マリヱの腕を
引張りました。最初、幽霊かも…と思ったりもしましたが、少年が掴ん
でいる腕から伝わるその体温が違うと言っています。

「…事情がよく解らないんだけど?」

マリヱはとりあえず少年に話を聞こうとしましたが、少年は同じセリフ
しか返しません。

「それじゃまぁ…映画も途中だったけど、お腹空いたから食事にでも行
こうか?ね?お腹減ってない?」

とりあえず落ち着いて話を聞ける事と食の欲求を満たす為、マリヱは少
年を食事に誘いました。

「うん。行こう!」

元気に返された返事を聞きながらマリヱはそう言えば名前を聞いていな
かったな〜と気がつきました。

「そう言えばあなたの名前は何?あたしは美貴神マリヱ。ファッション
モデルやってるのよ。」

「…僕はヒロだよ、マリヱおねーちゃん。」

少年はニッコリと笑顔を返し、それにつられる様にマリヱも笑顔を見せ
ました。


****


二人はマリヱ行きつけの大衆食堂へ足を運び少し大目の食事を取りまし
た。
マリヱは『味噌鯖定職』をおかわりして食べ、それをヒロはちょっと驚
いた顔で見つめました。その視線に気が付いたマリヱは照れ臭そうに笑
いました。

「やっぱり食事は日本食に限るわよね?それも家庭の味。日本人だし♪」

等と言いながら再びおかわりをしています。その様子を見て少年は不思
議そうにたずねました。

「ねぇ…マリヱおねーちゃんってモデルなんでしょ?」

「そうよ。」

「そんなに食べて大丈夫なの?」

「え?だ、大丈夫よ?モデルって結構運動量あるのよー。それにあたし
太らない体質だから♪」

ニッコリ笑ってマリヱは誤魔化し再び食事に戻りました。
彼女にはヒトには言えないヒミツがあります。それがヒトに知られてし
まうと、退かれるたり畏怖の目でみられる可能性があるからです。
それは目の前にいる少年に対しても同じ事でした。
なんとか誤魔化して食事も終わり、さあ何処へ?という段階になった時
マリヱはニッコリ笑ってこういいました。

「じゃ、次はデザートね♪」

それに驚いたのは少年です。

「え?マリヱおねーちゃんまだ食べるの?」

「そうよ。」

マリヱはニッコリ笑いました。

「おいしい和菓子屋があるの。そこの抹茶とあんみつのセットが最高に
美味しいのよ〜?」

少年は半ば引張られる様に和菓子屋へと向かい、二人で食後のデザート
をしました。



****


二人は食事を終えた後、川辺へと来ていました。土手に座りながら流れ
る雲と河を見つめのんびりとした時間が二人の周りを流れていきました。
川べりの木々はすっかり冬の顔になっていましたが、こうやって太陽の
光を浴びていると何と無くほかほかとした気持ちになれる様です。

「モデルの仕事って海外が多いの。だから日本に帰ってきたらこうやっ
てのんびり過すの。普段ばたばたしてるから…友達にも絶対会うけど…
一日は必ずのんびりとね。」

土手の草を指で撫でながらマリヱは視線を少年に移しました。

「ね、ヒロクンは何処か行きたいところがあるんじゃないの?」

マリヱの突然の言葉に少年は大きな瞳をぱちりと見開き、彼女を見つめ
ました。

「…ねぇあたしでよかったら付き合うわよ?」

少年は暫らく無言でしたが、やがてポツリと呟きました。

「……僕ね、待ってるの。」

「何を?それとも誰を?」

「…おにーちゃん……」

少年はゆっくりと自分の事を話始めました。

「ずっとずっと待ってるの。あのね、二人で映画を見に行ったのに、気
が付いたらおにーちゃん居なくなってたの。ジュース買ってくるって…
戻るまで待ってなさいって。だけど…ずーっと、ずーっと待ってるのに
おにーちゃん戻ってこないの。ずっと待ってたら退屈になっちゃって…
そしたらマリヱおねーちゃんが隣に座ったの!だから、おにーちゃんが
来るまで遊んでもらおーと思ったの。それに…僕一人だと映画館から出
れなかったから…」

少年はしゅんとして膝小僧に顎を乗せ川を眺めています。

「それじゃぁ映画館に戻らないとおにいちゃん、ヒロクンの事捜せない
んじゃない?」

マリヱのその言葉に少年はパッと顔をあげました。

「そうだよ!戻らなきゃ!」

「じゃ、一緒に行こうね。」


****


二人して映画館へと向かい歩いていくと…

「え?」

マリヱは自分の目を疑いました。
そこにあったのは映画館ではなく、小さな『立ち入り禁止』の立て札と
平たく整地されてた空き地だったのです。
唖然としていると、その区画のスミに一人の少年が立っているのが見え
ました。その少年はじっと敷地内を見詰め佇んでいます。
その少年の姿を見つけたヒロは満面の笑みを浮かべて嬉しそうに言いま
した。

「おにーちゃんだ!」

そう言って走り出してヒロは立っていた少年に抱き付きました。突然に
抱きつかれた少年も次の瞬間にはニッコリと笑って嬉しそうです。
マリヱはその光景をみてなんとなく嬉しくなりました。
そして少年は思い出したように振り返り、マリヱへと大きく手を振りま
した。

「マリヱおねーちゃん!ありがとー!」

それは映画館から出してくれて、なのかそれとも付き合ってくれて、と
言う事なのか…おそらく二つともなのか、ヒロは「バイバイ」と手を振
って笑っていました。
何か言葉を返そうとした瞬間、ザッと風が吹きぬけマリヱは言葉を飲み
込みました。
一陣の風が吹きぬけた後…二人の姿は風と共に消えてしまいました。

マリヱはもう一度映画館があった場所を見ました。すると、少年が立っ
ていた場所に白い花束をみつけ、マリヱはせつなく微笑みました。

「…あの子達の『こえ』に呼ばれちゃったのかな?」

彼女の手に握られていた映画のパンフレットは音も無く白い灰となって
風の中へと消えていきました。




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『…月某日午前11時頃、S区S駅付近の映画館で火災が発生しました。
この火災で逃げ遅れた兄弟二人が犠牲となりました。小学生の弟は館内
に発生した煙を吸い死亡。ロビー付近で倒れていた兄の中学生も意識不
明の重体で病院に運び込まれましたがまもなく死亡。この火災での被害
は死亡2名重傷1名軽傷30名。検察や消防では原因究明を急ぐと共に……』


それは今から2ヶ月前に起こったとある映画館での火災事故…



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0442 / 美貴神・マリヱ / 女 / 23 / モデル

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■         ライター通信          ■
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こんにちわ、おかべたかゆきです。
ご依頼ありがとうございました。
締め切りギリで申しわけありません…(汗)
今回文章を『なんちゃって児童文学』風にしてみたのですが…
如何だったでしょうか?一応『ほのぼの』した感じを目指した
つもりです…が、どうも玉砕ぽいっすね。何気に暗いですし…
『日々コレ精進』…頑張ります。