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Dream cracker
◆望むモノ、望まれるモノ
「自分の好きな夢が見られる薬？」
雫は机に置かれたシガレットケースを見る。
見た目はどう見てもタバコなのだが、これを一服して眠ると自分が望んだ夢が見られるのだという。
「ふう〜ん、本当に夢が見られるのかしら？」
「見れるどころじゃないんだよね、これが。」
ドリームクラッカーと呼ばれるこの薬を持ち込んだゴーストネットＯＦＦの常連の一人が、自慢そうに言った。
「中毒になっちゃって、夢から戻れなくなる人もいるくらいなんだよ。」
「･･･それって麻薬とかドラッグとかそう言うものじゃないの？」
雫は眉をひそめる。
「成分は･･･詳しいことは知らないけど、普通のタバコらしいよ。やっぱり警察とかが調べたらしいけど、何の違法性も見出せなかったんだって。」
まことしやかな噂が真実味をもって流れるこの世界で、どこまで信じられる言葉なのかはわからないが、とりあえず今のところは違法性がないものであるらしい。
「もう、試してみたの？」
「いや、俺はまだ試してないんだ。なんか、止められなくなっちゃう夢って怖くない？それに何か裏がありそうなそんな気がするしねぇ･･･。」
「でも、見たい夢が見られるなら面白いかもよ？」
雫はストローをくわえたまま意地悪く笑って言った。
「とりあえず、これは雫ちゃんにあげるよ。もし誰か試した人がいたら、その人の話をＢＢＳにでもアップしてくれない？」
雫はシガレットケースを受け取る。タバコは１０本はいっている。
「うーん、これって試してみたいけど、私未成年だもんなぁ･･･。」
「ドリームクラッカーって言えば誰か試すかもよ？結構ネットじゃ話題だからね。」
「そうだね、誰かここに来た人に聞いてみるよ。」
雫はそう言うと、シガレットケースを閉じた。
「とりあえず、ＢＢＳに『ドリームクラッカー体験者募集』って書いておかなきゃね！」
あなたはどんな夢を試してみる？
◆夢のカタチ
「んふふふっ♪」
手にしたタバコをみながら不敵な笑みを浮かべるのは水野 想司。
ふらっと立ち寄ったネットカフェで、雫から話を聞いた想司は早速１本もらったのだ。
雫は日頃から怪しいと思っていたが、更に怪しく笑いつづける想司をおっかなびっくり眺めている。
「想司クン･･･吸ってみるの？」
「ふふふふっ☆甘いな！雫クン！」
想司はおもむろに立ち上がると、テーブルに片足を載せビシッと天井を指差した。
「この僕が夢になんか頼ると思っているのかいっ？」
「じゃあ、なんでそれを･･･」
「アリアリのキュートかつほっぺプクプク感プラス蔑むクールな瞳の魅力と萌えは、現実以外では再現不可能なのさっ！！」
想司は雫の言葉には耳も貸さず、すっかり自分の世界へ行ってしまっている。
「でも僕はそんな素晴らしいラブリー☆ばーにんぐの魅力を、世界中のみんなに広める方法を思いついたのだっ☆」
「はにゃ〜･･･」
雫はそんな想司の様子を見ているしかできない。
クスクスと笑いながら、想司は持っていたバックの中から色々取り出し始める。
お前のバッグは４次元ポケットか！と突っ込みを入れたくなる程次々とでてくる。
そして、呆然と雫が見つめている中、想司は机の上いっぱいになにやら怪しい品を広げた。
「なに･･･これ･･･」
「それは「マンドラゴラ」奇跡の薬草さっ。これは「吸血鬼の牙」それで、あれが「イモリの黒焼き」「こうもりの羽」「かまどの灰」「カルシウム剤」に「美白サプリメント」！」
もう、なんだかすでにわからなくなるほどの品だ。
「これで･･･どうするの？」
「ギルドの秘術を用いて、この魔法煙草をもっと素敵な物に改造するのさっ♪」
煙草を改造するというのかどうかは置いておいて、想司はそう言うとウキウキと煙草の巻紙を剥がし始めた。
「素敵な物･･･ねぇ･･･」
雫は普通に体験を求めるよりトンでもないことになってしまったと後悔したが、それはときすでに遅し、なのであった。
◆夢のスガタ
時間がどのくらいたっただろうか･･･。
想司は時折怪しげな煙など立ち込めさせながら、黙々と怪しげな「改造」をつづけた。
「想司クン･･･けっこうマメだよね。」
雫はコーラのグラスのストローをくわえながらその様子を見ていた。
想司は１４歳という年齢にしてはあどけなく見えたが、その横顔はこうして見ると中々に男らしい。
「こうしてるとかっこいいのに･･･ねぇ･･･」
雫は溜息混じりに言った。
きっと想司にはそんなことは関係ない。彼の頭の中はアリアリことアリスと言う少女のことでいっぱいなのだ。
過去にアリスと言う少女と何度か接触したことがある雫は、その少女のことを思い出す。
「蔑む瞳･･･っていうのは、確かかもね。」
人の命をなんとも思わない、冷酷な少女･･･それが雫のイメージだった。
しかし、想司の瞳には･･･違う風に写っているのだろうか？
「ふふふっ☆待っててね、アリアリ♪」
ニコニコしながら作業を続けている想司を見ている、とそんな考えも頭の中を過ぎる。
「んにゃ〜っ、あの子がそんなにイイかなぁ？」
雫も負けてないつもり･･･だが。
そう思ったとき、雫の前に置かれたモニターがチカチカッと点滅した。
「ん？」
何かノイズでも拾ったのかと、マウスを動かしてみると、メッセンジャーの着信を知らせるアイコンが点灯していた。
「メッセンジャーなんか入れてないのに･･･」
そう思いながらアイコンをクリックすると、メッセージが飛び込んできた。
『そんなにそいつが気になるの？』
「！？」
雫は驚いてあたりを見回す。
店内の誰かがからかいで送ってきたのかと思ったのだ。
しかし、店内には想司以外の人影はなく、店長もカウンターの奥で何か作業をしている。
（どういうこと！？）
雫はもう一度モニターに目を戻す。
すると、メッセージが再び飛び込んできた。
『そいつを振り向かせる方法を教えてあげましょうか？』
メッセージの発信者を見ると【Ａｌｉｃｅ】とある。
（まさか、あのアリス！？）
雫は驚きながらも、キーボードを叩く。
『余計なお世話よ！』
ちょっと強気に返答する。
しかし、アリスのほうは人の話を聞いているやらいないやら。
自分勝手に話を進めてくる。
『上目遣いで「お兄ちゃん」って言ってご覧なさいよ。その一言でそいつは落ちるわよ。』
なんだか、あの少女の高笑いが聞こえてくるようだ。
自信満々にアリスはそうメッセージを送ると、勝手に通信を終了した。
（なんなのっ！別に想司クンのこと思ってないのに！）
雫は勝手なアリスの態度に腹を立てたが、少し気にもなった。
（本当･･･なのかな？）
アリスからの通信があったことにも気づかず、想司は相変わらず黙々と作業を続けている。
その姿はカッコよく･･･ないわけでもない。
（試すくらい･･･いいかな･･･）
そんな姿を見ていて、雫の中に悪戯心が起きたのを責めることができるだろうか？
いや、できまい。
雫は悪戯っぽい笑みを浮かべると、想司の側へと移動したのだった。
◆夢の実現？
「出来たっ☆」
雫がそっと想司の側に近づいた時、想司はおもむろに立ち上がった。
「はにゃ！」
雫は驚いて一歩後さずったが、挫けず声をかける。
「な、何ができたの？」
「これぞ、脅威のギルドの秘術がもたらした奇跡の薬！全ての使途人にあまねく愛を伝えるための神秘のアロマテラピー！名づけて「でんじゃらす☆アロマ」！」
危険な香り･･･とは言うものの、それはこの上なくデンジャラスな代物に見えた。
「でんじゃらす･･･アロマ･･･？」
「そう！この香りを嗅げば、香りを嗅いだ全ての人に、素晴らしい僕とアリアリの愛のメモリーを届ける、素敵な秘密兵器なのさっ☆」
素敵かどうかはわからないが･･･秘密兵器には違いなさそうだった。
雫は本能的に危険を感じ取る。
なんとも言えないあやしーい気配が濃厚に漂う。
「早速、ここに居るみんなにもスペシャルな愛のメモリーをプレゼントするねっ☆」
そう言うと、雫が止める間もなく、想司は持っていた香炉に火を入れた。
するとアロマテラピーとは程遠い、怪しい紫色の煙がシューシューと音を立てて噴出し始めた！
「ちょっと！･･･ごほっ･･･なにこの･･･ゴホッ･･･煙･･･」
雫は煙を吸い込まないように袖で口を覆ったが、その隙間から入り込むような煙に咽込んでしまう。
「あれ〜？おかしいなぁ、予定ではピンクのらぶりーな煙の予定だったのに･･･」
そう言いながら、想司は香炉の蓋を開けた。
すると、更にすごい勢いで煙が噴出し始める。
「んーーーっ！」
両手で口を覆って、雫は悲鳴をあげる。
噴出した煙をもろに吸い込んでしまった想司は、その悲鳴を聞きながら･･･暗い世界へと気絶してしまった。
「想司クン･･･想司クン･･･」
どこか遠くで誰かが想司の名前を呼んでいる。
重いまぶたをゆっくりと開くと、そこには･･･いつも待ち望んでいた少女の姿があった。
「アリアリっ☆来てくれたんだねっ！」
想司は自分の肩を揺すって名を呼んでいたアリスに抱きつく。
「僕はいつもキミを待っていたよっ♪」
「え？え？え？想司クン！？」
想司に抱きつかれたアリスは目を白黒させて慌てている。
その時、後ろからまたアリスの声が響いた。
「こ、これはどうしたんだ？想司クン･･･」
「アリスーーーーっ♪」
煙の薄れた店の置くから、店長がいつもかけているエプロンと同じエプロンをかけたアリスがこちらに歩いてくる。
想司は喜んでそのアリスのほうへ駆け寄ろうとしたら、更に更にアリスの声がする。
「きゃーっ！なに！これ！」
「マスター？火事でもあったの？」
ドアの方を振り返ると、背の高いアリスと少し小太りなアリスが店の中を見て驚いている。
「え？アリアリがこんなに！？」
想司は驚きに目を丸くする。
「ねえ･･･何言ってるの？想司クン･･･」
最初に想司に声をかけていた雫と同じセーラー服を着たアリスが、心配そうに想司のほうを見ている。
「こ、これはもしかして･･･」
そこで想司は気がついた。
「全ての人がアリスになるアロマ！？」
想司が店の外に飛び出すと、道行くアリスたちがいきなりと出だしてきた想司を不思議そうな顔で見ている。
「素晴らしいっ☆世界中全ての人が全てアリスになったんだっ♪」
喜びに声高くそう言うと、想司は再び店の中に戻ってきた。
「とりあえず、雫ちゃんと同じ服のアリアリは僕と一緒に「ラブリー☆ばーにんぐ」のツアーに行くでしょ。それからマスターと同じエプロンのアリアリは写真集の撮影に行こうねっ☆そっちのアリアリは･･･うっ！」
パキャッ！
大勢のアリスにスケジュールの割り当てをしている時、不意に何者かに後ろから襲われた！
「アリアリ･･･バイオレンスも･･･萌え･･･」
天晴れというべきか、薄れ行く意識の中で、雫と同じ服装でフライパンを手に立ち尽くしているアリスに、ぐっと親指を立てたガッツポーズを決めると、そのまま気絶したのだった。
◆夢の中で？
次に想司が目を覚ましたのは、気絶したままの想司に雫が冷たい水をぶっ掛けた時だった。
「うわぁっ！！」
叫びを上げながら想司が飛び起きると、雫が心配そうに想司を見ていた。
どうやら、店の中の長椅子に想司は寝かされていたらしい。
「気がついた？」
「あれ？僕は･･･」
そこまで言って、はっと想司は思い出す。
「あれ？アリスはっ！？世界中の人がアリアリに･･･」
「想司クン･･･夢でも見てたんじゃない？」
雫はクスッと笑うと言った。
「夢･･･？」
そう思うとそんな気もする･･･。
「夢だったらそれはそれで、アリアリの夢だったのでＯＫ〜♪」
基本的に深く考えないのか、考えるベクトルが違うのか、想司はそう言うとにこっと笑って飛び起きた。
「さて、素敵なシチュエーションを思いついたから、家に帰って衣装を用意しなくっちゃ★バイオレンス・ワイルドなアリアリも捨て難い魅力だよねっ♪」
そう言ってカバンをもって立ち上がる。
「あ、待って･･･」
雫は思わず想司を呼び止める。
「なに？雫ちゃん？」
その声に振り向いた想司に、少し躊躇う。
つい思わず声をかけてしまっただけだったのだが･･･
そんな時、ふと先刻の悪戯心が蘇える。
「帰っちゃうの？お兄ちゃん･･･」
少し上目遣いで･･･唇に手を当てて･･･はにかむように言った。
「！？」
想司は一瞬凍りついたように固まったが･･･
「は！真の萌え路線を見失うところだった！！」
「え？」
「ありがとうっ！雫ちゃんっ！」
想司はがしっと雫の手を握ると、礼を言った。
「萌えの基本はラブリー★キュート！危うく道を踏み外すところだったよ！！」
「は、はぁ･･･？」
「じゃあ、僕は真の道を探求するために帰って修行だよっ☆バイバイ！雫ちゃん！」
想司は捲くし立てるようにそれだけ言うと、さっさと店を出て行った。
「･･･」
しばらく呆然と立ち尽くしていた雫だったが、大した反応のなかった想司に腹を立てる。
「もうっ！しらないっ！やっぱり、男の子は普通の子がいいよっ！もう！」
そう言って、ぷいっと横を向いてしまった雫だったが･･･
あの一瞬、雫の言葉に想司がトキめいたかどうかは、神のみぞ知る･･･のであった。
The End ?
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
0424 ／ 水野・想司 ／ 男 ／ １４ ／ 吸血鬼ハンター
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■ ライター通信 ■
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今日は、今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
今回はこんな感じの展開となりましたが･･･如何でしたでしょうか？
想司クンはいい夢が見れたことになるんでしょうか？怪しい再構成が成功であったかどうかは謎ですが、気に入っていただけたら幸いです。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。
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