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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


天使の願い事

◆オープニング
 ある日の事であった。
 その日、白王社・月刊アトラス編集部は、何気ない午後を迎えていた。
 いつものように、いつものごとく。
 特にハプニングはなく、特に良い事もなく。
 毎日と変わらない、そんな日々。
 編集長である碇麗香からすれば、それは望むところであろう。
 いつものように取材が行われ、いつものように記事が作り出され、いつものように日々を過ぎる。
 だが確かに、ふとした瞬間にため息が出る事はあった。
 何かいい事ないのかしら・・・・。
 そんな不毛な考えに取り付かれる事はある。
 何の変哲もない毎日に退屈を覚えて、何か変わった出来事に心惹かれる瞬間は確かにある。
 こう・・・日頃思っている願い事が一気に叶ったらいいのに・・・・。
 あーでもないこーでないとか、あれが欲しいこれが欲しいとか。
 全てがぱーっと一気に叶ったら面白いのになぁ〜。
 そんな止め処もない考えにとりつかれてため息を付いた碇は、それを見た瞬間、思わず動きを止めた。
 なに・・・?あれは。
「ねぇ、一体何事?朝までは普通だった気がしたんだけど・・・・何?あれ」
 見た瞬間の不気味さに、思わず近くを通りかかった編集員に声を掛けた。
「えーっと・・・・お昼前までは普通だった気がしたんですけどねぇ・・・さぁ?」
 編集員もまた、理由が思いつかないのか、首を捻った。
 そこにいたのは三下忠雄、もちろん、アトラスの編集員である。
 だが、そのサンシタ呼ばわりされる彼の評判は押して知るべし。
 泣き虫、怖がり、情けなし。
 三拍子揃えば、彼がサンシタと呼ばれるのも頷けようもの・・・・。
「一体、なんなの・・・?」
 そんな彼が何をしているかといえば・・・・。
「えへ」
 笑っている。
 それも口元はだらしなく伸びている。
「えへへへ。ぐへへへ」
 何か楽しい事があったらしい。
 隠している気らしいが、そのだらしない笑みははっきり言って目立ちまくりであった。
 そんな様子の三下に碇は眉を潜めた。
「気持ち悪いわ・・・・」
 一体、彼に何が起きたのだろうか?
 その時、三下の椅子の下から、何事か紙切れがすべり落ちた。
「何かしら・・・?」
 それは広告のビラであった。

『貴方の願い叶えます!
 どんな願いでもOK!たった一つだけ、貴方の願いを叶えます
 無料見学有り お気軽にお越しください
 ぜひ一度、お試しあれ!』

「何これ・・・・めちゃくちゃ怪しいじゃない・・・」
 いまどき、こんなものに引っかかる人がいるのだろうか?
 そう思った碇だが、すぐに思い当たってガクッと肩を落とした。
 そう、三下忠雄。
 彼こそが・・・彼ならば。
 見よ、その証拠に、彼はだらしなく口元を歪め笑っているではないか。
 一体何を想像して、何を期待しているのだろう・・・?
 そんな三下に、碇は「はぁー」っとため息を付いた。
「情けない・・・・」
 もうその一言に尽きる。
 だが、その時碇は閃いた。
「そう・・・そうよ。面白そうじゃない」
 振り返った碇の目がキラーンっと光った。
「誰か・・・・試しにこれ、行ってみない?」
 そう言って広告のビラをヒラヒラさせる。
「勿論、お金は三下くん持ちよ。体験談、記事にしてくれないかしら?」
 そう言って、碇はにやっと笑ったのだった。


◆広告の正体
「終ったっスー」
 そう言って勢いよく入って来たのは、アトラスにバイトとして通っている湖影・龍之助(こかげ・りゅうのすけ)であった。
 いかにも体育会系ののりで(実際にそうなのだが)爽やかな笑顔を振り撒くその様子は、無邪気で人懐っこいく、誰の目にも好感的に映る。
 予想どおり学校では体育会系の部活に入っている彼だが、運動神経は抜群にいい。
 大会などで活躍する事もしばしば。
 となれば、そんな彼に憧れる女生徒もいることだろう。
 だがそんな彼が今まで思いを寄せたのは、なぜか男性ばかりで・・・・むろん、誰でもいいと言うわけではない。
 その証拠に、本来なら仕事の終了を報告しなければならない編集長・麗香よりも早く目に入ったのは・・・。
「あ、三下さん、何がいい事があったんっスか?」
 その笑顔が愛らしいvv
 途端、爽やかな笑顔を振り撒いていた彼の笑顔が、にへらと歪む。
 こうやって愛しの三下さんに毎日会えるなんて・・・なんてステキなバイトライフなんだ・・・!!
 龍之助は胸に手をあてて、そんな幸せを噛み締めるのだった。
「あら、ご苦労様」
 そんな龍之介を、碇が労った。
 言いながら振り返った碇の手元に、偶然龍之介の視線が落ちる。
「ん?編集長。その広告なんスか?」
 そう言って、龍之介が碇の手元を覗き込んだ。
 えーっと、どんな願いでも叶えます・・・・?
「あぁ、これ?取材しようと思って、人を探しているの所なのよ」
 何気ない、麗香の一言。
 瞬間、龍之助の頭に電流が走った。
「こ、これ!どんな願い事でも叶えてくれるんッスか!???お、俺行って来るッスよ!もちろん、お金は自腹で払うッス!」
 今にも広告・・・もとい、それを持つ麗香の手まで噛み付きかねない勢いで龍之助が叫んだ。
「あ、あら。そう?じゃ頼むわね」
 麗香が勢いに押されてそう言った言葉も、すでに龍之助の耳には届いていない。
 すでに龍之助の頭の中は妄想で一杯であった。
 ぬん!と鼻息も荒く、妄想一杯幸せ一杯の龍之助は、にやけた顔で笑う。
 そんな龍之助に、麗香は気味の悪い顔を向けた。
 また変なのが増えた・・・・・。
 顔にそう書いてある。
「別に何を願ったって構わないけど・・・くれぐれも記事を頼むわよ?」
 さすがに腐っても編集長。
 だが。
「もちろんッスよ!俺と三下さんの愛一杯のデート・・・ばっちしレポートするッス♪」
「いや、だから・・・記事を・・・」
 だから、そうではなくて・・・。
 妄想の世界に入った龍之助は、もはや何も聞いていない。
「三下さん・・・楽しそうですね♪」
 龍之助の横でそう言ったのは、髪を腰まで伸ばした小柄な少女であった。
 真新しいセーラー服がどこか初々しさを感じさせる。
 都内の私立高校に通う志神・みかね(しがみ・みかね)だ。
 にやけた三下を見る目は、微笑ましく、にっこりと笑っている。
 三下の奇行(?)も、みかねにはそう見えるらしかった。
 この二人とはどこか視線が違うのかしら・・・ちらりと思う麗香だった。
「願いが叶うなんて、すごいですよね!あの・・・私も言っていいですか?」
 叶えて欲しい事は山ほどあるが、その中でも一番強い願いがある。
 それが叶うなら・・・・ぜひ行ってみたいのだ。
 もちろん、ちゃんと記事も書くし!
「いいですか?」
「もちろん、いいわよ。良い記事を期待してるわ」
「ありがとうございます♪」
 そんなみかねに麗香は冷や汗をかきつつ答えたのだった。
「面白そうですね。私も行きましょう」
 その時、編集室のドアがかちゃりと開き、声と共に一人の青年が入ってきた。
 歳のころは20歳ばかりか。
 目元の涼やかな、品の良い青年であった。
 神秘的な光を宿す瞳は澄んだ黒で、一族の仕来りとして長く伸ばしている髪を後ろ手に結わいている。
 長身のその身を運ぶ様は堂々としていて自信に満ちていた。
 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)、由緒正しい財閥の御曹司である。
 関西を本拠地とする陰陽師一族の若き跡取りでもある彼は、コンピューター関連にも精通し、家業の手伝いもしている。
「微力ながら、麗香さんのお役に立てるかもしれません」
 皇騎は、にこやかな微笑を麗香に向けた。
 宮小路財閥にとって、いまや欠かすこの出来ぬ役割を担う皇騎にしては、少々過小評価気味の答えだったと言えよう。
「あら、宮小路くんじゃない。もちろん、宮小路くんに行ってもらえれば、私も助かるわ」
 それを判っている麗香もまた、にっこりと笑顔で返した。
 これぐらいの取材、簡単よね?っという訳であろう。
「精一杯がんばらせていただきますよ」
 その笑顔には、微かな火花が散っているような気がして、みかねは首を傾げたのだった・・・・。
 ひらりと、三下の足元からチラシが舞った。


◆私の願い事
 そこはいたって普通のビルだった。
 普通すぎて、そのお店が前からここにあったかと問われれば、記憶が曖昧で判らない。
 都心の街中に佇む一見のビル。
 そのビルの三階に、妖しげな広告のお店はあった。
「天使の願い事・・・・?これって、お店の名前なんでしょうか」
 みかねが掲げられた店の名前らしきものを見て呟いた。
 確かに、店の名前らしくない。
 さして広くないビルの三階であると言うことから、店内はそんなに広くはなかった。
 ガラス張りのドアは、狭い空間を実際よりも広めに見せ、明るい照明が清潔感を与えている。
「天使・・・・天使って言ったら・・・やっぱり、三下さんっスよね♪」
 意味の判らぬ事をいう龍之助。
 店に来る前に三下に用があると残った皇騎と三下を残して、みかねと龍之助はドアをくぐった。
「いらっしゃいませ」
 二人を出迎えたのは、店の制服らしき服に身を包んだ女性である。
 まるでアナウンサーのようにハキハキした言葉で、慣れた接客で二人を奥へ通す。
「どうぞ、こちらへ」
 店の数箇所にあるソファーの一つに二人は通された。
「あ〜・・・・そういえば、用件言ってないッスね」
 店の女性が一端下がったのを確認して、龍之助が小声で囁く。
 確かに、三人は店に入ってから一言も発していない。
 ここに来た以上、目的は一つという事なのだろう。
 目的といえば・・・。
「願い事・・・・ですね」
 どうやって叶えてくれるんだろう?
 ちょっとわくわくしたみかねが小声で返す。
 そこに店員さんが、数枚の書類を持って現れた。
「では、商品をご希望の方は、こちらへご記入お願いします」
 そう言って渡された書類にはこう記されている。

 願い事一つ 5000円

 なんとなく、二人は顔を見合わせた。
「ただいま、当支店のオープニング期間におきまして、格安になっております。お客様、運がいいですよ」
 そう言って、にっこり笑った。
 二人には相場がわからない。
 だが、店員さんは、ほんとうに「運がいい」と思っているらしかった。
 ほんとうに願い事が叶えば5000円など、安い物だろう。
 はて、不確かなこの店に本当に5000円も払う人間がいるのか・・・・?
「えーっと・・・・じゃぁ・・・・」
 出てくる前にお金はアトラスもち・・・もとい、三下もちと話は決まっている。
 みかねはペンを手に取った。
 それを見て、龍之助もペンを手に取る。
「三下さんとデートできるなら・・・・5000円なんて安いもんっスよ・・・!!」
 書く手にも力がこもる。
「では、こちらでよろしいでしょうか?」
 そう言って店員は、二人が書いた書類を掲げて見せた。
 否はないか?
 最終確認というわけだ。
 店員の言葉に、二人な心持ち緊張したように頷いた。
 願い事はした。
 では、この後は・・・・?


◆念願のデート
 それぞれ書類が書き終わり、支払いが済んだ後、店員は書類を片付けるとにっこり笑って言った。
「では、確かに承りました。契約期間は一週間となっております。もうしばらくお待ちください」
 そう言って、ふかぶかと頭を下げる。
 店員が指し示した先には、出口が。
 二人は顔を見合わせた。
 これで・・・・終わり?
 店員は何も言わない。
 しょうがなく、二人はお店を後にした。
「記事・・・後で大丈夫ッスかね・・・?」
 龍之助は後ろを振り返り振り返り、心配そうに呟いた。
 麗香との約束が頭にあったのはもちろんだが、それよりも問題は願い事だ。
 願い事がいつ叶うのか、龍之助は待ち遠しくてしょうがなかった。
 一体いつ、どんな形で願いが叶うのか・・・・?
 それは実際に店に行ってみても不明であった。
 龍之助が書類に示した願い事とは・・・・。
 願い事って言ったら・・・やっぱり、三下さんとラブラブに・・・・!もうこれしかないっスよ!
 龍之助はふふっと笑った。
 やっぱり、ラブラブになったら、あんな事とか、こんな事とか・・・えへへ。
 恋人同士なら、それも当たりまえッスよね〜。
 そのにやけた龍之助の脳裏に何があるのかは、外からは計り知れない。
 だが、そこでふと思い止まったのだった。
 そういう力で三下さんのハートをゲッチューするのもアレッスよね・・・。
 よし!ここは二人っきりでデートを・・・!
 場所指定ありなら、ディスニーシーで!これで決まりッス!!!
 うん!っと男らしく頷いて、書類にそう記述したのだった。
 お店を後にした二人は、その場で解散してそれぞれ帰路に着いていた。
 龍之助は部屋に着くと、かばんをベットの端に投げ捨て、ごろりと寝転ぶ。
 副作用・・・・なにかあったらどうしよう・・・。
 三下さんに会えなくならない程度のものなら別にいいんッスけど・・・まいっか。
 そう能天気に割り切った龍之助は、やけに気だるい眠気にそのまま意識を闇に沈めたのだった。
 翌朝、龍之助は眠い目を擦りながら起き出した。
「ふわ〜・・・・」
 大きな欠伸を一つ。
 学校行かないと・・・・・。
 そう思うも、異常な眠気に今にも瞼が閉じてしまいそうであった。
 なんでこんなに眠いんっスかね・・・・・いつもはもっとちゃんと目が醒めるはずなのに。
 ふたたび「ふぁ〜・・・・」と欠伸をする。
 微かに滲んだ涙を拭いた時、龍之助の手が止まった。
 なぜなら、涙を拭く手の隙間から、三下の姿が見えたからである。
 瞬間、龍之助の胸は一気に高鳴った。
「さささ、三下さんじゃないッスか!どうしたんっスか!?こんな所で・・・・!!」
 こんな時間(朝である)にこんな所に三下が。
 いつもなら、アトラスに出社しているはずではないか。
 もしや夢では!???
 そう思った龍之助は、目を何度も擦ってみるが、やはり三下が目の前にいる真実は変わらない。
「いや・・・・何があったわけじゃないんだけど・・・龍之助くん・・・今度の日曜・・・・開いてるかい?」
「え・・・・?」
 三下の言葉に、龍之助の脈拍が一気に上がった。
 そそそそれって、三下さん・・・どういう意味ッスか!??
 それって・・・それって・・・・。
「よかったら・・・一緒に出かけないかな・・・?」
 気のせいか、微かに恥らうような三下の声。
 ふがーーーー!!
 龍之助の沸点は頂点に達した。
 そんな!そんな!俺が三下さんの誘いを断るはずないじゃないッスかー!!
 龍之助は抱き付く勢いで三下の手を取った。
「もちろん!行くッス!そんな日曜まで待たずに、なんなら今すぐにでもー!!」
 さぁ!っと三下の手をひっぱる。
「え?今かい?(汗)いや・・・ほら。今日も仕事あるしさ」
「だぁいじょうぶッスよ!そんな事!俺達の愛の前には小さい問題ッス!」
「え?」
「さぁ、夢のディズニーシーへいざ行かん!さぁ行きましょう!」
「え?あの・・・(汗)」
 走り出した龍之助は、もう止まらない。
 そんな龍之助に押されるように、三下はあとずさった。
「あの・・・・えと・・・」
「どうしたんっすか!三下さん!」
 三下へ手を伸ばすものの、その手が届く前にするりと肩がすり抜けた。
 なぜだ!三下さん!!俺達は愛し合っているはずじゃー!!!
「あ!三下さん・・・・!!」
 走り去っていく三下。
 まるで、シンデレラが逃げ出すように、三下は振り返りもせず走っていく。
「三下さぁーん!!!」
 追いかけた龍之助が、角を曲がろうとした瞬間。
 バサリッ!
 大きな羽の音だった。
 鳥?
 そう思いながらも、角を曲がりきると、そこには・・・誰もいない。
 長く広い一本道であるにも関わらず、三下は愚か人影一つない。
 一体何事が・・・・?
 龍之助は呆然と立ち尽くした。


◆天使出現
 その日、終業の鐘が鳴ると龍之助は学校を飛び出した。
 もちろん、あのお店に行く為である。
 突然現れ、突然消えた三下。
 最初は三下に逃げられた事にショックであったが、今から考えると何か変だった。
 すべての答えはそこにある。
 そろそろお店に着こうとした時、反対側からみかねが来るのが見えた。
「あ・・・みかねさんじゃないッスか・・・!」
 なんとなくここに集まった理由がわかる気がして、何も言わずに二人頷いた。
 二人はお店に付くと、バッとドアを開け放つ。
 そこにいたのは、見知らぬ人と皇騎であった。


「あの・・あの・・あの・・・!!すいません!失敗しちゃって・・・次こそはちゃんとやりますから・・・!」
 その人は、泣きそうな声で叫んだ。
「あの・・・何の事でしょうか・・・」
 皇騎には何がなんだか判らない。
 その時だった。
「宮小路さん・・・!!」
 明らかに性別の違う二つの声が響いて、表から人が走ってくるのが見えた。
 それはみかねと龍之助であった。
「あの・・・昨日の事なんですけど・・・・・!!」
 走ってきた反動で、息をきらせたみかねが叫ぶ。
 その横ではやはり龍之助が叫んでいた。
「大変ッスよ!三下さんが・・・!!」
 だが、二人とも皇騎の前に居る人物に動きを止めた。
「あの・・・この人、だれッスか・・・?」
 龍之助が指差して言う。
「さぁ・・・・?」
 こっちが知りたい。
 本当にそう思って、皇騎は首を傾げた。
 三人は、今にも泣きそうなその人を見つめた。
 目立つ金髪碧眼もさることながら、一目で常人じゃないと判る背中の羽。
 まるで天使のようではないか・・・・?
 そう思った人は数知れず。
 しかも、おえつらえむきに、白いローブのようなものを纏っている。
 幾重にも重なったローブの奥から出した手を握り締めると、その人は言った。
「すいません・・・!すいません・・・!ほんと・・・ごめんなさい!」
 一体何をあやまっているのか・・・。
 それよりも、今にも泣きそうな青い瞳に、三人は呆然と顔を見合わせたのだった。


◆天使の正体
 目の前のその人は、懇願するように両手を合わせていた。
 澄んだ蒼の瞳は美しく、日本人にはあり得ない陶器人形のように白く透き通った肌。
 あわせた両手も、細く繊細。
 なによりも、毛ぶるような金髪がまるで作り物のように儚くて、どこか人形を思わせた。
 そして、その背には大きな翼。
 純白の翼は、ニセモノではない証拠に、青年の意思で動いているようであった。
 時折パサリと動き、羽を撒き散らす。
 幾重にも纏ったローブは、青年の全身を隠し、身長さえ判らない。
 黙っていれば立派な美形だが、何かずれているような気がする。
「あなたは・・・・・?」
 ただ者ではないと一目で判るその人。
 一体何者なのか?
「失敗?次?」
 三人は顔を見合わせた。
 何を言っているのだろう?
「あの・・・・実は私、見習い天使のアシャと申します」
 今にも泣きそうな顔をしていたかと思うと、にっこり笑ってアシャと名乗ったその青年は言った。
「見習い天使?」
「はい♪」
 アシャは、嬉しそうに頷いた。
「以後お見知りおきを♪」
 ペコッお辞儀をする。
 その様子は、悪びれたところもなく、無邪気で素直であった。
「それで・・・・そのアシャさんが、なんでここにいるッスか?」
 半ばあっけに取られた龍之助は、思わずアシャを指差して言う。
 なんでアシャが?
 というより、なんで天使が?
 凍結した思考の中で、皇騎とみかねも龍之助の問いに激しく同意した。
「えーっと・・・それが・・・」
 その話題になった途端、アシャの元気が無くなった。
 しょぼんと目を落すと、指を指を擦りあわせてすねたように口篭もる。
「それが・・・・・ごにょごにょ」
「それが?」
 皇騎が問い返すと、またもやアシャはうっと口篭もり黙り込んでしまった。
 たが、みんなの視線に、恐る恐る顔をあげる。
「それがですね。実は・・・・私、落ちこぼれ天使で・・・追試なんです・・・」
「え・・・?」
 みんなが耳を疑った。
 追試?
「って・・・追試!???」
 呆気に取られてアシャを見つめる。
「あの・・・追試って言ったら・・・試験ですよね?どんな試験だったんですか・・・?」
 みかねがそろそろ始まるであろう、期末試験を思って問いかけた。
 あれを勉強して、これも。
 赤点なんて取りたくない。
 それはみんな同じだ。
 では、この天使は一体どんなテストで赤点を取ってしまったのだろう・・・?
「えと・・・・その、昇格試験だったんですけど・・・。これに受からないと、一人前の天使になれなくて・・・・!!」
 目の端に涙をためて、アシャは言った。
 天使に昇格試験?
「羽はあっても、一人前じゃないって事ですが・・・」
 皇騎の言葉に、アシャは「そうなんです〜」と頷く。
「天使にも試験なんてあるんっスねー。あれ?って事は・・・あの広告は・・・?」
「広告。はい。そうです・・・私です。人の役に立つ・・・というのか追試の内容で・・・・。願い事をかなえる、というのが一番手っ取り早いかと思って・・・・。」
「じゃ・・・あの願い事は」
 みかねが言うと、アシャは今にも泣きそうな声で叫んだ。
「すいません・・・!!失敗しちゃって・・・!やっぱり・・・私、だめ天使なんだ・・・!」
 泣き出したアシャを尻目に、龍之助とみかねはショックで立ち尽くしていた。
 じゃ、あの願い事は、叶わないのだろうか?
 た、楽しみにしてたのに・・・・。
 こっちが泣きたい気分だよ。
 そう、頭を抱えたのだった。


◆その後
 今回の一件を手早くレポートに纏めると、龍之助は麗香に提出した。
 レポートの提出なら、学校でいくらでもやっている。
 要領よく纏められたレポートに、麗香はにっこり微笑んだ。
「ありがとう。面白い記事になりそうだわ」
 バイト先の編集長である麗香そういわれて、本当は嬉しいはずなのだが、いまいち心は晴れない。
 なぜかといえば、それはやはり、叶えられなかった願い事だろう。
 やっぱり・・・・あの願い事、叶わないッスね・・・。
 俺と三下さんは結ばれない運命なのか!???
 龍之助は叫びたい気持ちで一杯であった。
 その時である。
「だたいまです〜〜」
 へろへろ〜っと帰ったのは三下であった。
「あら、お帰り」
 冷ややかな麗香の声が響く。
「三下さん・・・!一体どうしたんッスか!??」
 慌てたのは龍之助だ。
 三下のあの憔悴(?)の様子、ただ事ではない。
 一目散に駆け寄った。
「三下さん・・・!!」
「あ・・・龍之助くん・・・。いや、大丈夫だよ」
 そう言って微かに微笑を浮かべる三下が、龍之助には堪らなく愛しかった。
 実際には、ボロボロで情けない格好であるのだが、龍之助ビジョンにはそれが痛々しく見えるらしい。
 だ、誰が、俺の三下さんをこんなに!!
 ふつふつと怒り湧き上がってくる龍之助だった。
「はぁ〜・・・疲れた・・・」
 そう言って、三下は椅子に倒れ込む。
 はう!三下さん、大丈夫ッスか!??
 咄嗟に龍之助は、手に持っていたコーヒーを三下に差し出した。
「あ、これ・・・少しは疲れが取れるッスよ」
「ありがとう・・・龍之助くん」
 にっこりと微笑む三下。
「あ・・・どうせなら、一緒に下の売店に行かないかい?すこしゆっくりしたいし・・・」
 もしかして・・・二人っきり!??
「あ、はい。もちろん、行くっすよ!!」
 結局、デートの願い事は叶わなかったけど。
 こうやって、・・・二人でコーヒーが飲めるのなら・・・それでいっか♪
 小さな幸せを噛み締める龍之助だった。
 その横で、ひらりと白い羽が舞う。
「さ、行きましょう♪」
 そう言って、龍之助は三下を促したのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0218/湖影・龍之助/男/17/高校生
 0249/志神・みかね/女/15/学生
 0424/水野・想司 /男/14/吸血鬼ハンター
 0461/宮小路・皇騎/男/20/大学生(財閥御曹司・陰陽師)

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■         ライター通信          ■
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 ども、こんにちは。ライターのしょうです。
 今回、遅くなりまして大変申し訳ありませんでした。
 『天使の願い事』お届けします。

 みかねさんは四回目、想司くん二回目、そして龍之助さん、皇騎さんは始めまして。
 数ある依頼の中から選んでいただき、ありがとうございました。
 今回、結末はこんな感じになっておりますが・・・いかがでしたでしょうか?おちこぼれ天使のアシャは、皆様の役に立てたでしょうか・・・・?
 ちなみにNPCである天使のアシャは、また機会があったら出してやりたいなっと思っておりますので、皆様に呼んで頂ければ喜んで参上してくれると思います。
 ただ、おちこぼれなので、なにをやらかすか判りませんが・・・・(^^;

 ご感想等、ここが違うなどでもOKですので、今後の参考にも気軽にご意見いただければ幸いです。
 では、また別に依頼でお会い出来る事を祈って・・・・。