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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


【過・現・来】お化けビルの秘密
『えーここが現場です。ご覧下さい。工事中にも関わらず、動く事の無いショベルカーが置かれています。一体、この場所で何があったのでしょうか?』
テレビからワイドショーのリポーターが滑稽なほど深刻な表情でマイクを握っていた。
草間はそれを見るとも無く見ていた。
「お化けビル。取り壊し現場の不審な事故……ねぇ」
興味無さ気に呟いた怪奇探偵の耳に訪問客を告げるベルが鳴り響いた。

「実は…言い難い事なんですけど……その…」
モゴモゴと口篭る女性―古賀優樹は清潔そうなショートヘアの頭を掻いた。
「言ってくれないとこちらもどうしようもありません。どんな事でも結構ですよ」
草間の言葉にしばし考え、古賀は気まずそうに上目遣いでポツリと言った。
「夢……見たんです」
「は?」
「ですから、夢…見たんです」
言わなければ良かった、という表情で、それでも古賀は続けた。
「今ワイドショーで何度か取上げられてる『お化けビル』知ってますか?」
「あぁ。バブル期の高級マンション街建設だとかの跡地ですね。そこがどうかしましたか?」
「実は、そこの夢を見るんです。……でも、今のお化けビルじゃないんです!」

古賀優樹の見た夢の概略はこうだ。
夢の舞台はお化けビルの建つ土地。
だが、そこには鬱蒼とした林の中でもちろんビルの姿などない。
光も射さない暗い木々の間を四人の足軽らしき者たちが木箱を運び、一人の立派な鎧を纏った武士に従って歩いている。
そして、足軽たちは深い穴を掘り始めた。
そこから先はあやふやで夢から覚めるのだという。

「でも何故、そこがお化けビルの場所だと?」
「夢の中で小さな鳥居が出てくるんですけど、その鳥居がお化けビルの近くにある鳥居と一緒なんです」
「なるほど……」
だが、夢の内容をどこまで信じるか。
しかも、なんら事件性も無いし、おまけに心霊めいた事に関わりたくない草間は渋い顔をした。
それに気付いた古賀も手を振り、笑いながら言った。
「いや、きっとワイドショーの影響ですよ。すみません、変な話聞いて貰って」
その言葉に草間も同意すれば良かった。
それで全ては終わり。
だが、心のどこかで何かが訴えていた。引っ掛かるものがあった。
草間は今、迷っていた。

◆非正式依頼
「あ、別に依頼するつもりもないんです。ただ…でも、なんとなく気になっちゃってここに来たっていうか……」
苦笑交じりにそう捲くし立てた古賀は立ち上がろうとした。
「でも、気になるんでしょう?」
そんな彼女に、相変わらず興信所の家政婦のような仕事をしているシュライン・エマが言った。
「気になるなら調べてすっきりしましょ。ね、武彦さん?」
「俺もその話、首を突っ込ませてもらうぜ」
工藤卓人がにっと明るい笑顔でそう言った。
彼は本職はジュエリーデザイナーだが、不可思議な出来事に興味津々で、しばしば仕事を放り投げては、店の従業員に怒られてたりするのだが、今日も彼はそこにいた。
「事故に夢との関連があるとなれば原因を突き止めれば工事再開ってことになるのかな?」
「さぁ、どうだろうな?そもそも現在何が起きているのか。それ自体はっきりと分かってないだろう?」
と、卓人に静かな口調で霧原鏡二は言った。
そして、ゆっくり古賀の前に腰を下ろす。
「あんたの夢を念写する。…目を瞑って、夢を思い出して…」
そう言って、顔の前に右手をかざして来た鏡二に戸惑いながらも、古賀は言われるままに目を閉じた。
鏡二は持っていたポラロイドのフィルムを机に置き、その上にアメジストの埋め込まれた左手をかざした。
数分後、二枚の写真が出来上がった。
「これがあなたの見た夢ですか?」
草間が尋ねると、古賀は写真に見入りながら何度も頷いた。
写真は多少ブレやぼけてはいるものの、はっきり四人の足軽と位が高いであろう鎧武者の姿を映し出していた。
「これが、例の鳥居ね」
一枚の写真。四人の足軽が地面を掘っている写真の木々の奥に小さな朱色の鳥居が見えていた。
「木箱は結構大きいな……」
卓人はもう一枚の、足軽たちが木箱を運んでいる写真を見ながら呟いた。
木箱の大きさは、成人女性なら入れそうなほど大きく、足軽たちも腰を曲げ、足を踏ん張りながら運んでいる。
「ここまでされたら引き下がれないな……」
そう言って苦笑した草間は古賀を見た。
「正式な依頼じゃないですが、調べてみますよ」
「ほんとですか?」
困惑気味に聞き返す古賀にシュラインは笑みを向け言った。
「何か出てきたら、お知らせします」

◆つわものどもが夢の跡
「馬鹿でかい敷地だな……」
卓人はヘルメットを取り、辺りを見渡しながら言った。
お化けビルのある場所は辺り一帯住宅開発地だったらしく、そこここで鉄骨が剥き出しとなった残骸が哀れな姿で存在していた。
目指すお化けビルの前にはショベルカーが一台、車輪半分土に埋めた形で止まっている。
少々感慨に耽り始めた卓人の後ろに一台の車が止まった。
到着したシュラインと鏡二も一帯の荒涼とした様子に目を見張った。
「まだ、こんな所が残っていたとはな……」
表情は変わらないが、どこか淋しげな口調で言った鏡二は目を細めた。
「おい、あれ」
と言って卓人が二人に指し示したのは先ほどのショベルカー。
そして、その先には小さな色の禿げ掛けた、だが元は朱色であっただろう小さな鳥居があった。
「鳥居……侍に関するこの地域に伝わる話があるわ」
シュラインは短い間に調べられるだけの情報を調べてきていた。
「昔、足軽たちを引き連れた大将が殿様の命令で財宝を埋めにやって来た」
「財宝?……あの木箱か」
「多分ね」
鏡二の言葉に鳥居を見たまま、シュラインは続けた。
「月の光も無い新月の夜、侍たちは無事に埋め終え、大将は足軽たちの労を労い酒を振舞った。足軽たちは喜んだ。大将も嬉しそうにどんどん酒を薦めた」
ひとつ、シュラインは息をついた。
「夜半過ぎ、足軽たちは酒に酔い潰れた。そして……大将は彼等を殺した、と」
山を越えてきた風が吹き抜けた。
「……まじか?何でそんな事を」
「秘密保持の為……」
「かも知れないわね。でも、その話が本当なら…いえ、多分そうでしょう。彼等は自分が死んだ事に気付いていないのかも知れないわ」
切れ長の目を伏せ、シュラインは軽く頭を振った。
「…許せねぇな」
怒りを隠す事無く言った卓人は鳥居に向かって歩き出した。
鏡二はポケットから写真を取り出し、鳥居の方へと向けた。
しばらく見比べていたが、すっと写真を降ろした。
「あのショベルカー……」
「え?」
「奴等の掘った穴の近くだ」
そう言ってシュラインに写真を見せた。

卓人は写真で見た足軽たちが木箱を埋めた場所辺りに来ると、トルコ石をあしらったピアスをそっと触れた。
「ここに誰がどんな思いを残しているのか、教えてくれ」
その言葉に応えるように、ふわりと半透明の小さな女体の精霊たちが辺りを飛び、大地すれすれに走る。
そして、土地に残った念を起こした。
地面から湧き上がるように現れたのは四人の足軽。
『我等の使命は守る事』
『鷹継様に御言い付けられた通りに不審な輩を見つけたならば…』
『木箱を狙う輩を見つけたならば…』
『即刻、打ち首にするべし!』
そう言ったかと思うと、四人は一斉に卓人を見た。
「なっ…?!おい……っ」
古びた槍を持った足軽が卓人に気合の一撃を繰り出し、もう一人の足軽が卓人との間合いを走り詰めながら刀を抜いた。
「工藤!!」
駆け寄る鏡二たちの前には残った二人の足軽が刀を抜いて立ちふさがる。
『即刻立ち去れ!でなければ、その首切り落とすぞ!!』
雄雄しく吼えた足軽に、鏡二は舌打ちをし、卓人を見た。
卓人はなんとか攻撃をかわしてはいるものの、このまま逃げてばかりではどうにもならない事は目に見えていた。
「ちッ……仕方ない。悪く思うなよ!」
腰のベルトに下げていた羽をモチーフとしたトルコ石とシルバーのアクセサリーを取ると、チェーンをゆっくり回し始める。
『そのような物で勝てると思うか?!』
チャキっと刀を構え直す足軽。
次第に速度を増し、インレイフェザーのチェーンアクセサリーで卓人は狙いを付け、足軽に向かい投げた。
足軽に向かい線上に飛ぶフェザーに、一匹の小さな薄碧色した龍が現れ、そしてアクセサリー自体を龍が飲み込み足軽へと突き進む。
『何?!』
虚を付いた足軽の刀を弾き、肩を打ち抜くと、龍は卓人の手の中へ戻った。
「ふッ……やるな。なら!」
ゆっくり、鏡二の周りに風が舞い始める。
『な、なんだ?!』
そして、彼の前で構えていた足軽たちに次第に強い風が吹き付けてきた。
そこだけ小さな竜巻が出来たように、激しく渦を巻く風に堪えきれなくなった足軽たちは吹き飛ばされた。
「……残るはあんただけだな」
槍を構えた足軽に鏡二が一歩、足を踏み出した。
「待って。こんな事をしても何の解決にもならないわ」
「そうだが……」
シュラインは彼等を見、鏡二に言った。
「私に過去の…彼等に何があったのか見せて。出来るでしょう?」
小さく頷き、鏡二は彼女に向かって左手をかざした。

『その方達、大儀であった!』
響く低い男性の声。
その声を発したシュラインは、一歩前に踏み出した。
彼女の特異な才能―声帯模写である。
『その御声は鷹継様!!』
武器を捨て、シュラインの前に平伏する足軽たちに彼女は続ける。
『その方達の働きに我等が殿は大変御満足されておられる』
『勿体無いお言葉で御座います!』
さらに頭を低くする彼等に、シュラインは悲しげに目を細めた。
『褒美に国へ帰る事を許そう。さぁ!愛しい者のところへ行くが良い!』
『本当で…ございますか?』
嬉しさと困惑の入り混じった表情でシュラインを見上げてくる男たちに、シュラインは静かに頷いた。
『あ、有難き…幸せに存じます!!!』
涙を流し、再び深く平伏した四人は静かに消えて行った。
シュラインは、吹く風に揺れた前髪を押さえた。
「成仏、したのか?」
訊ねて来た卓人にシュラインは静かに頷く。
「あいつ等は、あの時の酒席がこれから自分達が木箱を守る為の任に付く前の労いのものだと思っていたな」
「えぇ……」
鏡二の魔力で過去を、あの酒盛りの場を見たシュラインは嬉しそうだった彼等の顔を思い出した。
「だけど、鷹継の狙いは埋めた場所が他に洩れないように、酔った彼等を殺す事だった。それなのに、彼等はあんなに嬉しそうに……」
卓人も鏡二も無言のまま、さっきまで彼等が平伏していた場所を見た。
「彼等は、きっとあんたに感謝してるよ」
ぽつりと言った卓人に、シュラインは薄く笑んだ。
「さて……そこまでして守ったお宝を拝見させてもらうとするか」
左手をかざし、風の精霊を使役して、鏡二は地面の土を払いのけた。
ぽっかりと開いた穴の中に置かれた朽ちかけた木箱から、太陽の光を反射し黄金色に輝くものが見えていた。

◆ワイドショー
『ここが、埋蔵金が見つかった場所です。このように大きな穴が開いておりますが、以前は怪現象の起こっていた場所です。ここでは昔、この地方を治めていた……』
ブラウン管の向こうでマイク片手に大きな身振りでお化けビルの前を歩くリポーターを見ながら、草間は緩んでしまう顔を一生懸命保とうとしていた。
「いや、しかし良くやった!まさか、本当にお宝が出てくるなんてな」
「えぇ、本当に。あの場所、今回ので注目が集まった事で再び開発が始まるそうよ」
シュラインの言葉に卓人は軽く肩を竦めた。
「勿体無いな。東京近郊には珍しい静かな場所だったのに」
「ま、仕方ないだろ。で、お宝はどうした?一体、幾らだろうな〜♪」
うきうきと弾む声で言う草間に、鏡二はヒマ潰しの読書から視線を外さず
「ないよ」
と言った。
「は?…なんでだ?お前達が見つけたんだろ」
「そうなんだけどさ……」
苦笑交じりに頬を掻いた卓人の横から、シュラインも苦笑しながら言う。
「今は警察よ。埋蔵金でも落し物は落し物。届出ないと窃盗の罪に問われる事になるのよ」
「し、しかし…ッ!!」
「ま、六ヶ月もすれば戻ってくるかもな。だが、その前に……」
鏡二がパタンと本を閉じたのを合図に興信所の電話と訪問者を告げるベルが鳴り響く。
「草間さ〜ん!いらっしゃいますか!?○○テレビの者ですが、少しお話を伺いたいんですが……草間さ〜ん!?」
「あ、俺、仕事があったや。じゃな、草間!頑張れよ」
「さて……帰るか」
片手を挙げ、そそくさと出て行く卓人と鏡二。
「お、おい!待てよ…ッ!!」
彼等が開けた扉からカメラマンや記者達が押し寄せ、これからしばらくワイドショーの餌食となるであろう草間を見て、シュラインは小さく手を合わせたのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家
                  +時々草間興信所でバイト】
【0825/工藤卓人/男/26歳/ジュエリーデザイナー】
【1047/霧原鏡二/男/25歳/エンジニア】

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■         ライター通信          ■
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工藤卓人様、霧原鏡二様。
初めまして、壬生ナギサと申します。
シュライン・エマ様。
五回目のご依頼、誠に有難う御座います!

今回のお話、如何でしたでしょうか?
余談ですが、我が国の法律では埋蔵金は遺失物と同様の扱いとなります。
ので六ヵ月後は自分の物〜とお思いでしょうが、それがまた、そうは行かず……(苦笑)
ま、それでも少なくとも見つけた埋蔵金の半分は所有権があるそうです。
一つ、また雑学が増えましたね(笑)

では、ご都合が宜しければまたのご参加お待ちいたしております。