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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


だいだらぼっち症候群

【0】訪問者
 事務所のソファーに座ったまま、草間武彦は困惑した表情で頭をかいた。
 どうしてこう次から次へと、不可思議な事件ばかりがこの事務所に舞い込むのか。思わず溜息を零したいのは山々だが、さすがに依頼人を前にしてはそれも出来ない。
 仮にも自分の飯のタネなのだから。
 例えそれがどれだけ不本意な依頼だとしても。
「えっと…それであなたの母親の知り合いが次々と行方不明になっている、という事ですね」
「はい」
 目の前の少女――信楽沙紀【しがらき・さき】と名乗った――は、そう小さく頷いた。歳の頃は16、7ぐらいだろうか。その割には、意外としっかりした雰囲気を持っている。
 そんな事を思いながら、草間は言葉を続けた。
 行方不明。それだけならこの街には吐いて捨てるぐらい起きている。
 だが、次の草間の科白で事件は別の方向に流れていく。
「で、あなたのお母さんは、これは神隠しだって言うんですね?」
「そうです。母が昔住んでいた村――今はもうダムの底なんですけど、その村を守護していた『だいだらぼっち』の仕業だって言うんです」
 少女自身、納得していないのだろう。少し困惑気味に言葉を綴る。
「村を捨てて、都会に出てきた自分達に対して怒っているんだ、と言って母は最近すっかり怯えているんです。現にここ最近、同じ村の出身者が次々と姿を消しているものだから…」
 古くからの言い伝えは、そこに住む人達にとっては何よりも大切なものなのだ。おそらく彼女の母親も、幼い頃からその言い伝えを聞いて育ってきたのだろう。
 草間は、手にしていた煙草を灰皿にクシャリと押し付ける。
「解りました。こちらで手の空いてる人間を何人かで、その失踪事件について調査してみましょう」
「お、お願いします!」
 深々と頭を下げてお礼を言うと、少女は席を立った。
 帰り際、草間が彼女に一つ質問した。
「あぁ、そうだ。沙紀さん、あなたはその村に行った事ありますか?」
少し考えた後。
「随分小さかった頃、村がダムに沈む前に母に連れられて行ったらしいんですけど、私殆ど憶えていないんですよ。それ以降は、行った事ないですね。母も行こうと言わなかったし」
 それだけ答えると、彼女は扉の向こうに姿を消した。
「さてっと、誰に頼もうか」
 受話器を片手に、草間はそう呟いた。

【1−2】山伏の少年
「ひゅぅ〜でっけぇなぁ〜」
 発した声が幾重ものこだまになって耳を打つ。
 眼前に広がるダムの水面を眺めながら、少年は大きく伸びをした。木々に囲まれた山を背景に、自然の息吹を肺いっぱいに吸い込む。
 どれだけ嫌気がさして飛び出したとはいえ、こうして自然の中に戻ってくると気持ちが落ち着くのは、この身体に流れる血のせいだろうか。
 そんなことを考えながら、少年――北波大吾(きたらみ・だいご)は過去の記憶を思い出して少し顔を顰めた。
 彼の生家はとある地方で山伏の家系にあった。その長男として生まれた彼は、幼少の頃より厳しい修練を繰り返し受けていた。その時代錯誤な雰囲気に耐えきれず、弟と一緒に東京へ逃げてきたワケだ。
 故に決して思い出したくない過去なのだが、こうして折に触れて思い返してしまう。身体に染み込んだ記憶というのは、そうそう忘れる事が出来ないのだろう。
「チッ、よけいな事思い出しちまったな」
 思わず悪態が口をついて出る。
 まあいい、今はこの辺の調査をするのが先だ。そう頭を切り換え、大吾は目を閉じて周囲の大気と同調しようと集中した。
 【山伏の霊法】――過去の修行で身に付けた術法。その様々な力のうち、今大吾が使おうとしているのは、気配を感知する力。大気と同化し、様々なものの気配を探る霊法だ。修行半ばだったとはいえ、その血筋故にある程度の力は行使できるのだ。
 この時だけは修行してくれた事に感謝はするけどな。
(さて…人の気配は感じられないな)
 この辺りにあるのは植物や動物ばかりだ。ところどころ無機質な気を感じるが、これはダムに関わる機械類だろう。
(だいだらぼっち、か。山の神様、みたいなモンかな? だとしたら、呼び出してみたいところだが…チト無理か?)
 何度となく呼びかけてみたが、いっこうに返事はない。やはり、今の自分の霊力ではまだ無理だったか。
 断念して、大吾は集中を解いた。
「……ふぅぅ……」
 大きく息を吐く。長い集中は流石に疲れる。体力ならある程度の自信はあるのだが、こういう術に使う気力は実はあまり得意じゃない。
 何度か深呼吸を繰り返し、ある程度の回復を計る。多少気が落ち着いたところで大吾はある決心をした。
「上に何もないって事は…やっぱ、下の方って事か」
 呟いて、彼は水面に視線を投げかける。
 青く澄んだダムの水面。ゆらりと動くさざ波が、まるで何かを誘うかのように見える。
「チッ、仕方ねぇか」
 誰かと来るべきだったな、と思ってもしょうがない。
 草間に急かされるようにダムへと向かわされたのだが、何の手がかりも掴めないでは話にならない。もし誰かと一緒だったなら、その相手の案に従って情報が得られたかもしらない。
(ま、いいや。寒さには慣れてるからな)
 滝に吊されるという過去の荒行を思えば、この程度で死にはしまい。
 いざ決めると行動は早い。大吾は着ている服を素早く脱ぎ捨て、下着――日本古来の伝統たる褌一丁の格好になった。一五歳という成長途中の身体つきだが、しっかりと鍛えられた肉付きをしている。
 軽く身体を動かして準備運動をし、いざダムの淵に立つ。右手にはいつの間にか霊紋刀を持つ。どんな危険があるか解らない場所へ、流石に丸腰で行く気はない。
「さて、と。んじゃ、行くかぁ」
 思い切り空気を吸い込む。
 ドボン、という音とともに、大吾の身体は水の中へと消えた。

【2−2】遭遇2
 思っていたより水は濁っていなかった。おかげで視界もそんなに悪くなく、力を使っている事も手伝って、ダムの中をある程度見渡すことが出来た。
 肌を刺す冷たさを堪えながら、大吾は深く深く潜っていく。
(くぅ〜冷てぇ〜やっぱ無理するんじゃなかったか?)
 思わず弱音を吐きそうになるが、ここは我慢の一念だ。
 胸中で繰り返すも、冷たいものは冷たい。幾ら慣れているとはいえ、流石に無茶だったか。
 そう気持ちが挫けかけた寸前。
 不意に目の前に飛び込んできたものがあった。
 古びた小さな木製の社。ダムに沈んだ当時のままの姿で、大吾にはまるでそこだけ切り取られた空間のように見えた。
 その理由はすぐに分かった。水の中に沈んで七年は経っているのに、その社が殆ど朽ちていないのだ。
(これって…どうなってんだ?)
 不思議に思った大吾は、その社の扉に手を伸ばそうとする。その時、彼は背後から自分を見つめる視線に気付いて、ハッと振り返った。

 ――そこには誰もいない。
 当然だ。ここはダムの底なのだから。自分以外の酔狂な輩がいったいどこにいるというのか。
 当然の常識が頭を過ぎる。
 だが、次の瞬間それは脆くも崩れ去った。己の肩に乗せられた、誰かの手によって。

【3】隠れ里
 ざわざわざわ。
 梢を揺らす風の音が聞こえる。静かな自然の中に響くその音を聞きながら、大吾は不意に懐かしい昔の頃を思い出した。
 ――て、あれ?
(なんで風の音が聞こえてくるんだ?)
 確かダムの中に潜って、それで沈んだ村に辿り着いて……
 そこまで考えて、彼はハッと気付いて慌てて起き上がる。すぐさま辺りを見渡すと、そこは水の中ではなくさっき自分がちょうど飛び込んだ場所だった。
 訳が分からず茫然となった大吾の耳に、唐突に女性の声が届く。
「あら、気が付いたのね。気分はどう?」
「やあ。やっとお目覚めだね。まったく、この季節に寒中水泳なんていったい何を考えているんだい。おまけに濡れた格好のままで倒れるなんて」
「こら葵君、そんな風に言わないの。彼も調査員として、色々調べてくれようとしてたんだから」
「ええ勿論。シュラインさんが言うなら、僕だって何でもしますよ。ほら、彼の身体の水滴だってちゃんと全部消したでしょ」
 突然目の前に現れた二人の男女。
 女性の方はスラッとしたスーツに身を包み、切れ長の眼差しが特徴だ。彼女の方はよく知っている。草間興信所でよく見掛けるシュライン・エマだ。今回のような事件で度々一緒になっているので、大吾とも顔見知りだ。
 男性の方は大吾にとって初めて見る顔だった。甘いマスクに緑に染めた髪、少し派手目のシャツを着こなしたその姿は、どっから見てもホストそのものだった。
「えっと…あんたらいったい…」
 そう口にしかけた途端、ひゅぅと冷たい風が吹き抜けた。
「のわぁ!」
 思わず身震いが走る。
「ほら、早く何か着ないと風邪引くわよ」
 シュラインに指摘されて、ようやく自分がまだ裸のままだと気付いた。
「ほらほら、女性の前でいつまでもそんな格好してるんじゃないよ」
 そう言って、葵は手にしていた大吾の服を投げてよこした。そのぞんざいな態度に幾分憮然となりながらも、さすがに寒さの方が耐えきれず慌てて服を着た。
 その際、褌一丁だった事にシュラインは思わず目を逸らし、大吾自身が赤くなるという顛末があったが。

 着替え終えた所で、依頼人の信楽沙紀の姿に気付く。
 そして、お互いの情報を交換しようとした所でシュラインが聞く。
「そういえば、あの子も一応関係者なのかしら?」
「あの子?」
 彼女が指差した場所に、ポツンと立っている子供の姿があった。じっとダムの方を見つめ、微動だにしない。何故かこの季節にも関わらず、半袖のランニングにゆったりとしたハーフパンツだ。
「へ? 誰だ、あいつ?」
「君の関係者じゃないのか? 倒れてた君の傍でじっと見守っていたよ」
 葵の言葉に、大吾はますます不審な顔になる。その表情を見て取ったシュラインは、どうやら関係ないものと判断した。
 そうなると、また別の調査員として草間が雇ったのだろうか。
 四人の中にそんな疑問が過ぎった時、その子供が唐突に彼らの方へ振り向いた。ニッコリと無邪気な笑みを浮かべて。
「やあ。やっと来てくれたんだね」
 さっきまでダムを見ていた無表情とうって変わり、無邪気に笑う姿はどこまでも子供に見える。が、さっきの雰囲気はどう見ても子供には見えない。
 誰かが声をかけるのを遮るように、その子は言葉を続けた。
「へへ、あんたらが来るの、待ってたんだよ」
 その子供はそう言って近付くと、沙紀の前に立ってスッと手を差しだした。
「あんた、沙紀だろ? 章子の子供の」
「どうしてお母さんの名前…」
「やっぱりそうか。章子の若い頃にそっくりだよ」
 若い頃?
 子供の言葉に疑問符が走る。
「ちょ、ちょっと待って。あなた――」
「ひょっとしてキミ――」
「お前――」
 三人の声が重なる。
『だいだらぼっち(餅)?!』
「ああ、そうだよ」
 声を張り上げた三人とは対照的に、その子供――『だいだらぼっち』は事も無げにそう答えた。当たり前だと言わんばかりに何の躊躇もなく。
 特に隠しているワケではなさそうだ。
 とりあえず気を取り直して、交渉役としてシュラインがまず口火を切った。
「あなたがだいだらぼっちなら――私達を待っていたというのはどういうこと?」
「んと、そのまんまの意味だよ。彼らを引き取ってもらいたくってさ」
 屈託無く話すので思わず聞き流してしまい、その子供が話す『彼ら』というのが誰を指すのか一瞬分からなかった。
「それって……このダムに沈んだ村の人達の事ですか!」
 真っ先に思い出したのは、他でもない依頼人の沙紀だった。
「ああ、そうだよ。勝手について来られちゃってさ。ちょっと困ってたんだよね。別に怒ってないって何度言っても聞いてくれなくてさ、全然帰ってくれないんだよ」
「ちょ、ちょっと待てよ! 失踪したヤツラって、おまえが連れ去ったんじゃねぇのか?」
「えぇ〜違うよ」
 彼の言い分はこうだ。
 村を守護していただいだらぼっちは、ダムに沈んだ後も村人をずっと見守っていた。どこに住んでいたとしても、その場所まで空間を繋げて会いに行くことが出来るのだという。その力を使って時々こっそりと陰から見守っていたのだが、ある時、一人の村人に偶然会ってしまった。何故か彼は、だいだらぼっちを見た後いきなり謝り出したのだ。勿論何度説明しても謝るばかりで、埒があかない。だからそのまま帰ろうとしたのだが――
「そのままついてきちゃったんだよね。隠れ里までさ」
「隠れ里?」
 大吾が問い返したところ、それは次元の挟間に存在する彼が住む所だという。正式な出口は大吾が見たあの社だというが、空間自体はだいだらぼっちの意志一つでどこにでも繋がるらしい。
 その隠れ里を通して、どうやら彼は色んな場所へ行けるようだ。
「それでまあ、その人が結局居着いちゃってさ。で、その人を説得する為に何人か村人達に会ったんだけど――」
「結局、全員が全員、あなたを怖れちゃったというワケね」
 少し力無く呟いてシュラインは嘆息する。迷信深い村人達だったから、おそらく彼が現れた時点で過去の後悔に襲われたのだろう。村をダムに沈めてしまった一種の罪の意識が。
 結局、人の勝手な解釈で伝承というのも変化するのだ。何かがある、という不確定な要素が人を臆病にさせ、村の移転に関する几帳面さや、今回のだいだらぼっち騒動の思いこみに繋がっていたのだ。
「ほらね。僕の言ったとおりだろう、沙紀ちゃん。誰もキミのお母さん達を怒ってなんかいやしないよ」
 何故か得意げに語る葵に、沙紀は僅かばかりの笑みを見せた。
「じゃあさ、失踪した連中ってのは、今どこにいるんだ?」
 大吾が聞けば、子供姿のだいだらぼっちはますます無邪気に笑ってこう答えた。
「隠れ里さ」

【4】約束の行方
 そこは、摩訶不思議な空間だった。
 地面があり、空がある。風が吹き、川が流れる。のどかな田園風景、あるいは素朴な田舎によくある景色。まるで時間の流れから取り残されたような感覚だった。
 あるいはそれは正解だったのかもしれない。
 だいだらぼっちの言葉によれば、この空間には時間がないという。どれだけここにいようと決して時間は流れない。つまり人間は年を取らなくなるのだ。ここに留まり続ける限り、外の世界とはどんどん時間の流れと差がついてしまう。
 だから、急いでいたとも彼は言う。
 そうして四人は、村人達の説得を何度も繰り返した。なんとか全てが終わった頃には、外の世界が既に夕焼けに染まっていた。

「くぅ〜なんとか終わったか〜」
「ホント、説得も楽じゃないわね」
 疲れた声を交わす大吾とシュラインの横で、葵はなにやら沙紀に小声で話しかけていた。どうやら依頼が無事終わった事で、彼女のメルアドを聞いているようだ。
「ね、沙紀ちゃん。いいでしょ」
 笑顔で頼み込む葵。
 少し困った顔をしつつも、彼女の方もまんざらでない様子だ。その仲睦まじい姿を見て、大吾はなんだか面白くなかった。内心では、自分も彼女と仲良くなりたかったのだろう。
 そんな彼らを眺めていたシュラインは、ふと人の気配に気付いて振り返る。
 するとそこには――
「お母さん!」
 誰よりも先に声を上げたのは、彼女の娘。
 シュライン達も驚いて彼女の方を見た。
「お母さん、どうしてここへ?」
「――あなたの後を追いかけたの。本当は怖かったけど…でも、どうしても確かめたい事があって」
 そこまで口にして、彼女の視線は後ろに佇んでいた小さな子供へ向かう。その姿を捕らえた途端、彼女は真っ直ぐに彼を目指した。
 そして。
「――だいちゃん」
「よ、章子。元気だったか?」
「ホントに…だいちゃん、なのね」
 沙紀の母親、章子は感極まったように口元に手を当てる。
「お母さん…?」
 一体どういうことなのか、と彼らを見守る四人。どうやら依頼人の母親が怖れていた理由は、伝承とは違う理由のようだ。
「ごめん…御免なさい。私…約束破っちゃって――」
「なんだ、まだそんな事気にしてたのか。心配すんな、全然おれ、気にしてないって。他の連中もみんな無事に帰ったんだからさ」
 泣き崩れた母親を支える沙紀。慰めの言葉をかけるだいだらぼっち。
 夕暮れが静かに終わりを告げようとしていた。

 章子はぽつりぽつりと語り始めた。

 まだ村がダムに沈む前。村人達は普通に子供姿のだいだらぼっちを受け入れていた。村に住む子供となんら分け隔てなく、また子供達も自然と友達付き合いをしてきたのだ。
 やがて子供は大人に成長する。
 彼女も大人になり、村を出て、やがて都会で結婚した。そしてまだ幼子だった沙紀を連れて一度村へと戻った時に――事件は起きた。
 村人達は過疎化が進む現実に疲れ、開発の為と称したダム建設に賛成していた。勿論、今まで住んできた村を捨てる――ひいては村の守護であるだいだらぼっちを見捨てるなんて、といった恐れもあった。村に住む人達はなんらかの形でだいだらぼっちの本当の姿を見ているから、よけいその恐怖があったのかもしれない。
 だから、ちょうど赤子を連れて帰っていた章子に白羽の矢が立ったのだ。彼女の娘が成長して後、だいだらぼっちの花嫁に差し出す事を。常識で考えればとてもじゃないが受け入れられる話じゃない。
 だが、間の悪い事にちょうどその時期、大雨が降り続いて何度も土砂崩れや洪水が発生していたのだ。その事がよけいにだいだらぼっちのたたりに見えたのかもしれない。彼の姿がその間中、村の何処にも見かけられなかったから。

「結局、村人達はだいちゃんの姿が見えない事でよけいに不安だったんです。ダムの計画がいつだいだらぼっちの怒りを買う事になるのか、と」
「だから村の移転も、あれほど几帳面だったのね」
 章子の言葉にシュラインは納得する。
「でもよぉ、その間におまえはどこにいたんだよ」
 大吾が問えば、だいだらぼっちは少し困った顔でこう答えた。
「何って…ちょっと寝過ごしてたんだよ」
「はぁ? なんだそりゃ?」
「おれだってビックリしたんだぞ。目が覚めてさあ村へ行こうと出たら、いきなり水の中だったしさ。慌ててみんなを探したら、なんかおれの事怖がってるし」
「なんだ。じゃあやっぱり人間達が勝手に怒ってるって思い込んでただけなんだね」
「そうだよ。おれが怒るワケないじゃん。だっておれ、村の人達全員好きなんだぜ。だから村の守護やってるんだから」
 葵の言葉に笑顔で賛同するだいだらぼっち。
 その笑みだけで、章子自身なんだか救われる思いだった。自分の今までの恐怖は全て思いこみだったのだと、本人自身が否定している。ようやく彼女の中でのつっかえが取れた気がする。
「それじゃあ、私達はそろそろ帰りましょうか」
「そうだな。とりあえずこれで事件は解決だな」
「そうそ、上手くいったんだから、絶対メルアド教えてよね、沙紀ちゃん」
 シュライン、大吾、葵が立ち上がると、信楽親子も同じように立ち上がった。
 流石にもう日が暮れる。このままでは、帰りの電車さえなくなりそうだ。
「おう。またいつでも来てくれよな」
 そう言って見送ろうとしただいだらぼっちは、太陽の光を全てその背に背負っていた。


 後日。
 三人は語る。
「マジかよ…つうか、なんであんなでっかく…」
 驚きさめやらぬ大吾。
「ちょっと吃驚したわね、さすがに」
 いまだその事を思い返すと茫然となるシュライン。
「うーん、うーん、あんなに大きくなると色々大変だろうなぁ〜だいだら餅」
 相変わらず間違えて覚えている葵。

 夕日を背にしただいだらぼっちは、まさに山よりも大きくなって彼らを見送っていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号/PC名/性別/年齢/職業
 0086 /シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所でバイト
 1048 /北波・大吾   /男/15/高校生
 1072 /相生・葵    /男/22/ホスト

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■       ライター通信            ■
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御免なさい、葉月十一です。
最初から謝ってしまいました。
またしてもこんなに遅くなってしまい、本当に御免なさい。
色々と諸事情はあったんですが、ホントに言い訳になってしまうので省略します。
ここまで待たせてしまい、本当にどれだけお詫びしたらいいのか。折角この依頼を受けて頂いたのにこの体たらく…次こそは頑張りたいです。

今回の依頼は、一応このような結果になりましたが如何でしょうか。
村人の思い込みという傾向で今回は展開していきました。これも皆さんのプレイングが一致団結したからだと思います(苦笑)

さて、とりあえず今年の依頼はこれが最後になります。
次回は一応年明け早々を考えているので、もし機会がありましたらお付き合い頂けると嬉しいです。
それでは皆様、よいお年を。