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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


Synphony of the music box.

☆オープニング
 草間興信所の草間・零は、興信所の前でうろついている男を見つける。どう見ても、興信所の関係者じゃないことは確かだ。
「……あの、草間興信所に、何か御用でしょうか?」
 微笑ながら、声を掛ける。
「あ……草間興信所の、関係者の方でしょうか?」
「はい、御依頼なら上にどうぞ。 武彦さんを起こしてきますから」
 と言って、零はその男を連れ興信所内に連れて来た。

「無くしたオルゴールを、探し出して欲しいんです」
 彼の名前は、北柳・龍一。年は三十路突入ぎりぎりと言った所。職業はピアニスト、草間も名前を聞いたことがある位だ。
「オルゴール、そんな物を何故探すんです?」
 武彦が、寝ぼけた脳をフル回転させながら、話を聞きだす。
「大事な物なのです。 お金はあまり出せませんけれど……お願いできませんか?」
 でも、少々渋っている武彦に、零が横から口を挟む。
「大事な物、とおっしゃいましたよね? なんでそんなに大事なのでしょうか?」
「……そのオルゴールには、私の新しい曲が収められています。そして……その歌は、私の好きな人の為に奏でた曲なのです」
「告白のときに……曲と一緒に、そのオルゴールをプレゼントしようと思っていたのですが……先日の公演の時に、楽屋に置いていたオルゴールの箱が無くなっていたのです」
 次々と、彼女への思い、そしてどんなにオルゴールが大事なものなのか、を語っていく龍一。
 そして、彼女が彼の音大時代からの友人で、彼のマネージャーをしている事。
 そして……。全てを話し終えた後に。
「……分かりましたわ、お金は問題じゃありませんものね、私達にお任せください」
 にっこりと微笑みながら頷く零。もちろん武彦はまだ了承の返事もしていないし、そういう事が言われると思っていなかったものだから。
「れ……零。俺はまだ、何もいってないぞ……?」
 そういう武彦の耳に囁く。
「だって、かわいそうじゃないですか……私は、そういうのを放っておけないと思います」
 零の優しい心を動かすのに、龍一の言葉は有功だったようだ。
「詳しい状況を、教えてもらえませんか?」
 武彦をよそに、零は龍一に話を深く聞き始めた。

「楽屋では、どのように保管をしていたのかしら? ちゃんと仕舞っておいたの?」
 零が自主的に考えてくれるようになっていて、少しうれしく感じているシュライン・エマは、北柳に対して色々聞き始めた。
「楽屋に置いておいた自分の鞄に仕舞っておきましたよ。何度も家を出る前に確認しましたから……間違いありません」
「そう……そこに仕舞っておいたのを知っているのは、貴方以外に、誰かいたのかしら?」
「いえ……オルゴールの事については、誰にも話していません。取りに行くときに、私のマネージャーの瑠亜を待たせて取りに行きましたが……それ以外には、誰も知っていないと思います」
 そう聞いて、北柳が僅かに嬉しそうな雰囲気が見せていた。
(……本当に、好きなんでしょうね……でも、なんだか素直に応援する気になれないな……)
 シュラインの思った事。同じ音楽大学に進み、そして、片柳はピアニストとなり、そして彼女自身は……そのマネージャーとなっている。
 自分が瑠亜だったら、と考えると、なんとも複雑な気持ちになる。
(……彼女も、音大生だったんでしょ、自分自身で演奏しているわけでも無いし……。何か事情があるのかもしれないけど……目の前で弾いている北柳さんを見て、複雑な気持ちじゃないのかしら)
 そう悩むシュラインを横に、零は笑顔で北柳の手を握って。
「北柳さん、きっと私達がオルゴールを取り戻してあげます、そして、北柳さんの告白を、きっと成功させて見せますね♪」
 と、北柳を励ましているのだった。

☆一幕〜交錯する思い

「至って普通の楽屋よね……そんなに広いわけではないし」
 零と一緒に、北柳が無くしたオルゴールの現場へと到着するシュライン。楽屋をまず見て出た言葉がそれだった。
 コンサートは複数日で開催されていたので、まだこのコンサート会場を使っている。
 対しての零は、楽屋をきょろきょろと見回して……。
「わぁ、楽屋って言っても、変わったところってあまりないんですね……でも、色々あるなぁ……」
 楽屋といっても、大きなホールとかで無ければ、楽屋も大層違ったものはないと思うのだが。
 周りを見回していると、零が机の上に置かれた置物や、装飾品・調度品などに興味を持っているようで、色々な物を触ったりしている。
「零ちゃん、あまり触ったりしたら駄よ?」
「あ、ごめんなさい……ちょっと、面白そうだったから」
 そんな二人のやり取りを見て、くすりと笑う北柳。
「別に大丈夫ですよ、壊さなければね」
 と、言った。
 そして、シュラインが北柳に言う。
「えっと、では聞くけれど、オルゴールはどのようにしまっておいたの?」
「この鞄に入れて置きました。この中にしまって置いたのですが……」
 しまっておいた鞄は、口がチャックで閉められる、いわゆるどこにでもある簡素な鞄。そしてそんな鞄の中に入るオルゴールも、そんなに大きくないのが分かる。
 ふぅん、とシュラインは考えて。
「この場所……って事は、ここに入れる人しか取ることは出来なかった筈よね? ここって、一般の人は入れない筈だし……」
 二人が入るときも、入り口には警備員が居たし、北柳が二人を高校時代の後輩とその娘という扱いに言わなければ、きっと入れなかっただろう。
 それ位に、警備はちゃんとしているホールだった。
「そうですね、だからスタッフの中に犯人は居ると思うのですが……正直、私は信じたくありません。 恨まれる覚えは、私には無いのですが」
 言いようによっては、たいした自信を持っているように見える発言だが……それはあえてシュラインは、この場では気にしなかった。
「無くなった時間はいつごろか分かる? 詳しく時間を聞きたいんだけれど…最後に確認したのは、いつ頃なのかしら?」
「そうですね……公演の始まる頃にあったのは覚えています。そして公演途中の一度の休憩で、箱はあったのは確認していますが、中まで確認していませんでした」
「その公演途中で戻ったときって、いつ頃?」
「えっと……公演が5時から始まって、大体半分ですから……6時30頃になると思います」
「そう……あと、北柳さん、昨日頂いたスタッフのリスト、この方々は、今日来ているのかしら?」
「ええ。 皆自分の持ち場で忙しく動いていると思いますよ。瑠亜はちょっと次の公演の準備の為に、少し遅れて来るそうですが」
「分かりました……。では、スタッフの方々に話を聞いてくるわ。 公演の準備、がんばってくださいね」
「公演、楽しみにしていますね」
 シュラインと零の言葉に「ありがとう」と、北柳は答えた。

 そして、シュラインと零は、スタッフ一人一人に話を聞いていく。
 シュラインは、スタッフの名前で気づいた点。マネージャーと、専属のカメラマンが同じ姓を持つスタッフである事が引っ掛かっていた。
(氷上さんって、姉妹なのかしら? ……どうも、ここが凄く引っ掛かるのよね……)
 スタッフに、無くなった時間に何をしていたか話を聞くも、三田、矢上、大塚、藤田の4名は、オルゴールなんて知らないというばかりか、当日は忙しく、持ち場にずっとかかりきりで戻る時間も無かったと言っている。
 そして、北柳に対してどう思っているか聞いても、みんな揃いも揃って「面白くて、気さくな人ですよ。 ちょっと回りが見えてない事もありますけれど、ね」と。
 しかしこの場に居る最後のスタッフ、カメラマンの氷上瑞穂だけが、他の人と違った対応をした。
「瑞穂さん、北柳さんがオルゴールを昨日無くしたんだけど、何か知らないかしら?」
「え……い、いいえ。 知らないけれど?」
 明らかに動揺する声を出す瑞穂。更に続けて。
「そう、知らないのね? それじゃぁもう一つ、6時半から、公演が終わる頃までに、どこで何をしていたのかしら?」
「え……っと、演奏時の写真を撮るために、あそこにいたわ」
 指差した先は、ステージの反対側にある、PAスペース(音響スペース)を指す。
「誰か証明できる人はいるのかしら?」
「え、ええ。音響の大塚さんに聞いてみれば? わ、私も忙しいから、そろそろ戻るわね」
「そうですか、分かりましたわ。 がんばってくださいね?」
 シュラインは瑞穂を送り出す、そして零に話す。
「……どう見ても、怪しいと思うわね。 零ちゃんもそう思うでしょ?」
「えっと……私もそう思います。でも確か……大塚さんは、一緒に瑞穂さんが居たと言っていたと思いますけれど……」
 確かに、先に聞いた大塚の話の時には、隣に瑞穂が居たと話していたのを思い出す。とすれば……一番怪しいのは一人。
「きっと、瑠亜さんね。オルゴールを取ったのも。 そして姉の瑞穂さんはそれを知ってるんでしょ。気づかれないように振舞っているつもりなのでしょうけど」
 シュラインは楽屋のほうに向かう。
「行きましょう。そろそろ瑠亜さんも来る頃でしょうし……ね」

 そして楽屋に戻ると、北柳と一緒に居る瑠亜の姿。
 傍から二人を見ていても、微かに避けているように見える瑠亜と、それが気づいてないように見える北柳の姿。
 シュラインと零の二人は、さすがに北柳の目の前で話を聞くのはどうかと思い、時期を待っていたが、北柳が瑠亜を好きだから、離れるような時が無かった。
 そして、時が経ち、舞台開演の時間が近づく。零に対して、シュラインは耳打ちをする。
「零ちゃん、私は開演の時間に、瑠亜さんを追いかけるから、貴方は北柳さんと一緒に居てくれる?」
「分かりました、シュラインさんも、気をつけてくださいね?」
「もちろんよ。きっとそんな危険な事は無いでしょうけれどね。じゃ……北柳さんが動いたら、行動開始よ」
 と打ち合わせる。舞台開演5分前のベルが楽屋に鳴り響き、北柳が立つ。
「では……いってらっしゃいませ」
 と、瑠亜は北柳を送り出した。

☆二幕〜裏の顔〜

 北柳が舞台へと出て行った後、シュラインは隠れて瑠亜が出てくるのを待つ。
 数分後、部屋から出てきた瑠亜は、周りを確認した後に、舞台とは逆の方向へと歩いていく。
「あっちは、確か……リハーサル室とかがあるところだったかしら。何でそっちの方に用事があるのかしら?っと、追いかけないと」
 シュラインが彼女の後ろを隠れながら追いかける。瑠亜はそのままリハーサル室へと入っていく。
 リハーサル室の出入り口は一つしかなく、入れば彼女に気付かれる。
「どうしようかしら。 入れば……何か一悶着しそうだし」
 すると、舞台を映し出す映像が上にあるモニターから映し出される。ちょうど今から開演のようだ。
 それと共に、リハーサル室の中から僅かにこぼれるピアノの音。僅かに遅れて奏でられ始める、舞台の北柳の演奏。
「瑠亜さんも弾いているのね……ん?」
 シュラインは気付く。中で演奏している曲と、今北柳の奏でる曲が同じ事を。
 少々の時間、二つの曲の奏でるハーモニーに耳を奪われるシュライン。だが、瑠亜の弾く曲が止まる。
 そして、続けざまに中から聞こえてきた声。
「……何が、プロピアニストよ! 私の曲を全て奪って……自分だけいい顔をして。 同じ音大だからって……何もかも、私から奪い去って!」
 リハーサル室から聞こえる、瑠亜の北柳に対する恨みつらみの言葉。
 話をかいつまむと、北柳の奏でる曲は全て、瑠亜と一緒に音大時代から作ってきていた曲である事。
 彼は音大で、二人で作った曲を発表し、自分だけ有名になり、そして、その後、一緒に作曲した瑠亜をマネージャーとして招き入れて、全てを自分ひとりが作曲したかのように振舞っている事。
 そんな事をされた瑠亜の恨みは大きいが、周りの皆に当り散らせるような事は出来なく、姉の瑞穂に当たっていた事。
「私だけ、なんでこんなにならなきゃいけないのよ……もう、北柳なんて、嫌ぁ!」 
 そして、リハーサル室からは嗚咽が流れてくる。
 シュラインはかける言葉も思いつかないまま、まずは整理していた。
「瑠亜さん、辛いわね……でも、それを言い出せないで、今までずっとやってきていたのね……。やっぱり.、事情があったのね」
 そして、リハーサル室のドアを静かに開ける。泣いていた瑠亜が顔を上げた。
「……瑠亜さん、辛かったのね。私も貴方の立場だったら、きっと貴方のようになっていたかもしれないわ」
 優しい声を掛けられる瑠亜は、泣きじゃくる。そんな瑠亜の頭を、シュラインは優しく撫でた。
 そして、少し瑠亜が落ち着いてきたのを待ってから。
「瑠亜さん、貴方ね? ……北柳さんのオルゴールを取ったのは」
 というシュラインの言葉に、瑠亜は小さく頷いた。

☆終幕〜壊れかけのオルゴール〜

 舞台が終わる。
 シュラインと瑠亜は、楽屋で北柳の帰りを待っていた。手には、北柳のオルゴール。いや、正しくは『オルゴールだったもの』だが。
 オルゴールを取った瑠亜は、そのオルゴールを壊していた。今までの北柳への恨みを込めて。
 既に聞こうとしても、断続的にしか流れないオルゴールの曲のみだった。
 零が北柳に聞いてて何か分からないけど、なんだか凄さが伝わってきたとか、色々な感想を述べながら楽屋へと戻ってくると、瑠亜の手にある、オルゴールの残骸を見る。
「……瑠亜! き、君が取ったのか?」
 北柳の言葉に、瑠亜は答えない。続けて北柳が矢継早に言葉を出す。
「瑠亜……なんて事をしてくれたんだ! せっかく、せっかく私が、君の為に作ってあげたのに!」
 『作ってあげた』という、恩着せがましいその言葉。
 北柳の言葉を遮るように、シュラインの手が、北柳の頬を叩いた。
 ぴしゃり、と音が鳴り響く。零も、北柳も一旦動きが止まる。
「貴方、何を言ってるの? 瑠亜さんから聞いたわ。 このオルゴールに入っている曲も、貴方が奏でていた曲も、全て瑠亜さんと一緒に作った曲だって。彼女、辛かったのよ? 他の誰も話を聞いてくれない。聞いてくれたのは姉の瑞穂さんだけだって」
 シュラインの言葉が、北柳の心を激しく叩く。
「そんな事、許されると思っているの? 貴方もプロの一人なら、これ位分からないのかしら? 瑠亜さんは泣いていたわよ? 彼女を泣かせてるのに気付かないなんて……そんなの駄目よ」
 一通りの事を言ってから、シュラインは瑠亜の肩を押す。
「……瑠亜さん、貴方からも言いたい事、あるでしょ? こういう時は、全て言ったほうが良いわよ? その方が、気が楽になるから」
 瑠亜は、何もしゃべらなかった。
「……いえ、私の言いたい事は、全てシュラインさんが言ってくれましたから。 ……もう、私から言う事はありません。ただ……マネージャーは、今日……この場で、辞めさせて貰います。 ……私、もう貴方と……一緒にやっていく自信がありませんから」
 そう言うと、瑠亜は楽屋を出る。
「……その、北柳さん。 ……上手な演奏をする事も大事ですけれど……人の心を読まないと……駄目ですよ?」
 と、零が小さく北柳を慰めた。

 そしてその後、シュラインと零は、瑠亜を送り出しに外にでる。
「シュラインさん、ありがとうございました。 何か……全部の気持ちを言えたから、すっきりした気がします」
 瑠亜の顔は、晴れ晴れとした感じだ。そんな顔を見て嬉しく思うシュライン。だが、依頼自体は失敗であるから。
「そう、それならいいわ。 ただ……受けた依頼は失敗ね。 武彦さんに報告するのは、気が引けるけど」
「私からも、一緒に言いますから、大丈夫です。 もし駄目とか言われたら……煙草一箱減らしますよ、といっておきますから」
 零の言葉に、くすりと笑う。
 零が段々と生活や感情に慣れてきているんだなと思いながら、会場を後にする2人だった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】

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  ■   ライター通信          ■
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どうも、ご参加いただいた方々、どうもありがとうございます。ライターの燕です。
今回の依頼の中心軸は「恨み・憎しみ」であったので、大変に難しいオープニングでした。
シュライン様には、とても難しい場面でのアクションになってしまい、申し訳ありませんです。

依頼自体は、表面上には失敗という扱いにはなります。しかし、真の意味では成功であったと思います。
今後北柳氏がどうなるかは、ライター当人にも分かりません。落ちぶれるか、復活するかは彼の心によるでしょうし。
ただ一つ、裏切り行為は今後、出来ないでしょう。多分(汗)

次回の依頼は、月刊アトラスに11/25辺りから募集開始予定です。
シナリオ傾向はメインはコメディですが、コメディ:シリアス=8:2程度の予定です。

>シュライン様
いつもご参加いただき、真にありがとうございます。
零と一緒に、最終的には瑠亜側に回りまして、依頼者を叩いてますが……
そこは瑠亜の代わりに気持ちを代弁した表れと思ってくださいませ(汗)