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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


天使の願い事

◆オープニング
 ある日の事であった。
 その日、白王社・月刊アトラス編集部は、何気ない午後を迎えていた。
 いつものように、いつものごとく。
 特にハプニングはなく、特に良い事もなく。
 毎日と変わらない、そんな日々。
 編集長である碇麗香からすれば、それは望むところであろう。
 いつものように取材が行われ、いつものように記事が作り出され、いつものように日々を過ぎる。
 だが確かに、ふとした瞬間にため息が出る事はあった。
 何かいい事ないのかしら・・・・。
 そんな不毛な考えに取り付かれる事はある。
 何の変哲もない毎日に退屈を覚えて、何か変わった出来事に心惹かれる瞬間は確かにある。
 こう・・・日頃思っている願い事が一気に叶ったらいいのに・・・・。
 あーでもないこーでないとか、あれが欲しいこれが欲しいとか。
 全てがぱーっと一気に叶ったら面白いのになぁ〜。
 そんな止め処もない考えにとりつかれてため息を付いた碇は、それを見た瞬間、思わず動きを止めた。
 なに・・・?あれは。
「ねぇ、一体何事?朝までは普通だった気がしたんだけど・・・・何?あれ」
 見た瞬間の不気味さに、思わず近くを通りかかった編集員に声を掛けた。
「えーっと・・・・お昼前までは普通だった気がしたんですけどねぇ・・・さぁ?」
 編集員もまた、理由が思いつかないのか、首を捻った。
 そこにいたのは三下忠雄、もちろん、アトラスの編集員である。
 だが、そのサンシタ呼ばわりされる彼の評判は押して知るべし。
 泣き虫、怖がり、情けなし。
 三拍子揃えば、彼がサンシタと呼ばれるのも頷けようもの・・・・。
「一体、なんなの・・・?」
 そんな彼が何をしているかといえば・・・・。
「えへ」
 笑っている。
 それも口元はだらしなく伸びている。
「えへへへ。ぐへへへ」
 何か楽しい事があったらしい。
 隠している気らしいが、そのだらしない笑みははっきり言って目立ちまくりであった。
 そんな様子の三下に碇は眉を潜めた。
「気持ち悪いわ・・・・」
 一体、彼に何が起きたのだろうか?
 その時、三下の椅子の下から、何事か紙切れがすべり落ちた。
「何かしら・・・?」
 それは広告のビラであった。

『貴方の願い叶えます!
 どんな願いでもOK!たった一つだけ、貴方の願いを叶えます
 無料見学有り お気軽にお越しください
 ぜひ一度、お試しあれ!』

「何これ・・・・めちゃくちゃ怪しいじゃない・・・」
 いまどき、こんなものに引っかかる人がいるのだろうか?
 そう思った碇だが、すぐに思い当たってガクッと肩を落とした。
 そう、三下忠雄。
 彼こそが・・・彼ならば。
 見よ、その証拠に、彼はだらしなく口元を歪め笑っているではないか。
 一体何を想像して、何を期待しているのだろう・・・?
 そんな三下に、碇は「はぁー」っとため息を付いた。
「情けない・・・・」
 もうその一言に尽きる。
 だが、その時碇は閃いた。
「そう・・・そうよ。面白そうじゃない」
 振り返った碇の目がキラーンっと光った。
「誰か・・・・試しにこれ、行ってみない?」
 そう言って広告のビラをヒラヒラさせる。
「勿論、お金は三下くん持ちよ。体験談、記事にしてくれないかしら?」
 そう言って、碇はにやっと笑ったのだった。


◆広告の正体
「終ったっスー」
 そう言って勢いよく入って来たのは、アトラスにバイトとして通っている湖影・龍之助(こかげ・りゅうのすけ)であった。
 いかにも体育会系ののりで(実際にそうなのだが)爽やかな笑顔を振り撒くその様子は、無邪気で人懐っこいく、誰の目にも好感的に映る。
 予想どおり学校では体育会系の部活に入っている彼だが、運動神経は抜群にいい。
 大会などで活躍する事もしばしば。
 となれば、そんな彼に憧れる女生徒もいることだろう。
 だがそんな彼が今まで思いを寄せたのは、なぜか男性ばかりで・・・・むろん、誰でもいいと言うわけではない。
 その証拠に、本来なら仕事の終了を報告しなければならない編集長・麗香よりも早く目に入ったのは・・・。
「あ、三下さん、何がいい事があったんっスか?」
 その笑顔が愛らしいvv
 途端、爽やかな笑顔を振り撒いていた彼の笑顔が、にへらと歪む。
 こうやって愛しの三下さんに毎日会えるなんて・・・なんてステキなバイトライフなんだ・・・!!
 龍之助は胸に手をあてて、そんな幸せを噛み締めるのだった。
「あら、ご苦労様」
 そんな龍之介を、碇が労った。
 言いながら振り返った碇の手元に、偶然龍之介の視線が落ちる。
「ん?編集長。その広告なんスか?」
 そう言って、龍之介が碇の手元を覗き込んだ。
 えーっと、どんな願いでも叶えます・・・・?
「あぁ、これ?取材しようと思って、人を探しているの所なのよ」
 何気ない、麗香の一言。
 瞬間、龍之助の頭に電流が走った。
「こ、これ!どんな願い事でも叶えてくれるんッスか!???お、俺行って来るッスよ!もちろん、お金は自腹で払うッス!」
 今にも広告・・・もとい、それを持つ麗香の手まで噛み付きかねない勢いで龍之助が叫んだ。
「あ、あら。そう?じゃ頼むわね」
 麗香が勢いに押されてそう言った言葉も、すでに龍之助の耳には届いていない。
 すでに龍之助の頭の中は妄想で一杯であった。
 ぬん!と鼻息も荒く、妄想一杯幸せ一杯の龍之助は、にやけた顔で笑う。
 そんな龍之助に、麗香は気味の悪い顔を向けた。
 また変なのが増えた・・・・・。
 顔にそう書いてある。
「別に何を願ったって構わないけど・・・くれぐれも記事を頼むわよ?」
 さすがに腐っても編集長。
 だが。
「もちろんッスよ!俺と三下さんの愛一杯のデート・・・ばっちしレポートするッス♪」
「いや、だから・・・記事を・・・」
 だから、そうではなくて・・・。
 妄想の世界に入った龍之助は、もはや何も聞いていない。
「三下さん・・・楽しそうですね♪」
 龍之助の横でそう言ったのは、髪を腰まで伸ばした小柄な少女であった。
 真新しいセーラー服がどこか初々しさを感じさせる。
 都内の私立高校に通う志神・みかね(しがみ・みかね)だ。
 にやけた三下を見る目は、微笑ましく、にっこりと笑っている。
 三下の奇行(?)も、みかねにはそう見えるらしかった。
 この二人とはどこか視線が違うのかしら・・・ちらりと思う麗香だった。
「願いが叶うなんて、すごいですよね!あの・・・私も言っていいですか?」
 叶えて欲しい事は山ほどあるが、その中でも一番強い願いがある。
 それが叶うなら・・・・ぜひ行ってみたいのだ。
 もちろん、ちゃんと記事も書くし!
「いいですか?」
「もちろん、いいわよ。良い記事を期待してるわ」
「ありがとうございます♪」
 そんなみかねに麗香は冷や汗をかきつつ答えたのだった。
「面白そうですね。私も行きましょう」
 その時、編集室のドアがかちゃりと開き、声と共に一人の青年が入ってきた。
 歳のころは20歳ばかりか。
 目元の涼やかな、品の良い青年であった。
 神秘的な光を宿す瞳は澄んだ黒で、一族の仕来りとして長く伸ばしている髪を後ろ手に結わいている。
 長身のその身を運ぶ様は堂々としていて自信に満ちていた。
 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)、由緒正しい財閥の御曹司である。
 関西を本拠地とする陰陽師一族の若き跡取りでもある彼は、コンピューター関連にも精通し、家業の手伝いもしている。
「微力ながら、麗香さんのお役に立てるかもしれません」
 皇騎は、にこやかな微笑を麗香に向けた。
 宮小路財閥にとって、いまや欠かすこの出来ぬ役割を担う皇騎にしては、少々過小評価気味の答えだったと言えよう。
「あら、宮小路くんじゃない。もちろん、宮小路くんに行ってもらえれば、私も助かるわ」
 それを判っている麗香もまた、にっこりと笑顔で返した。
 これぐらいの取材、簡単よね?っという訳であろう。
「精一杯がんばらせていただきますよ」
 その笑顔には、微かな火花が散っているような気がして、みかねは首を傾げたのだった・・・・。
 ひらりと、三下の足元からチラシが舞った。


◆三下に聞く
 皇騎は、にやけた三下を前にちょっと考え込んだ。
 このチラシ・・・一体何を目的で作られたのか?
 あの三下の様子、ただ事ではない・・・・と思う。
 皇騎は三下のディスクに近づくと、隣の開いている椅子をぴっぱって来て、三下の隣に座った。
「ちょっとよろしいですか?」
 にっこりと、三下に向かう。
「え??あ、皇騎くん」
 はっと気付いたように、三下は皇騎を見上げた。
 どうやら、今まで回りの事が目に入ってなかったらしい。
「この広告の事なのですが・・・・」
 そう言って、皇騎は広告をひらりと見せてみせた。
「あ、そ、それは!」
 三下は焦って皇騎の腕に飛びつく。
 だが、背の高い皇騎に届くはずもない。
「これ・・・・どこで手に入れたのですか?よろしければ、教えて頂けませんか」
 そう穏やかに言いながら、皇騎は三下を覗き混んだ。
「え?どこって、別に・・・うん、拾ったんですよ!いえ、貰ったんです」
 三下の主張は一転二転する。
「そそそ、そんな!まさか・・・・!願い事を独り占めしようだなんて!そんな事思ってないですよ!!」
 いや・・・論点はそこじゃ・・・・。
 そんな思いで、皇騎はジーっと三下を見つめた。
「・・・そういえば、三下さんの願い事って、なんですか?」
 何気ない問いだったが、間が悪いと言えば悪かったのかもしれない。
「そりゃもちろん!」
 皇騎の問いに、何も考えずに三下は嬉しそうに言う。
「いつもこき使われてる編集長をこき使う事です!」
 ビシッと大きく響いた声に、部屋中が凍りついた―。
「ほうぉ〜?」
 麗香が、にやりと笑う。
 編集室の誰もが、三下の最後を確信した。
 数分後。
「では・・・そろそろ行って来ますね」
 皇騎は編集室のドアを開けた。
 もちろん、例の広告のお店に行く為である。
 みかねと龍之助は一足先にすでに出発している。
「あ・・・待ってくださいいぃぃ〜〜・・・・」
 すまきにされ、麗香の足の下の三下は身動きが取れず、だただだ呻くばかりであった。


◆調べごと
 皇騎は近場のインターネットカフェに入ると、手早くブラウザを立ち上げた。
 あの怪しげな広告のお店。
 あまりにも情報が少なすぎた。
 三下を縛り上げたとて、たいした情報は手に入らなかったのだ。
 ようやく聞けた話によると、どうやらポストに入っていたものらしいが・・・。
 判ったのは、あの広告は新聞屋が朝刊と共に運んだものではなく、誰かが直にポストに投げ入れたらしい・・・と言う事だけだ。
 ちなみに三下が取っている新聞屋『眛朝新聞』に問い合わせてみたところ、問題の広告を配った覚えはないと言う。
 さて、広告主はいかなる目的をもってこれを配ったのか?
 あの広告からはまったくそれが測れない。
 皇騎はパソコンに向かうと、幾つかのサイトを表示させた。
 どれも心霊や不思議な話を扱う大手のサイトばかりだ。
 願い事を叶うなどとくれば、占い好きな女子高生やらが騒ぎ立てようもの。
 幾つかの掲示板を覗く。
 だが、それらしき情報はなかった。
「しょうがない・・・」
 皇騎は苦笑して目を閉じた。
 心を静め、一点に集中させる。
 皇騎は実家の家業に携わるほどのコンピューターのスペシャリストだが、それと同時に優れた陰陽師でもある。
 いつも術を使うのと同じ要領で、心を落ち着け気を高める。
 そして、心で感じるのだ。
 目の前の小さな箱から広がる無限のネットワークを。
 複雑な回路で構成されるその世界を。
 あった・・・!
 そう感じた瞬間、皇騎の意識はネットワークの中へと飛び込んでいた。
 そこは常に流れていた。
 留まる事を知らない、情報の数々。
 まるで光の奔流。
 皇騎は多くの情報に、自らの意識が持っていかれないよう、心にそっと壁を作る。
 ここで意識を持っていかれてしまえば、自分も情報の一つとなって、ネットワークの中へ散ってしまう。
 そうなれば、現実の自分はどうなるのか・・・。
 死にまでは至らなくても、二度と目覚める事は出来ないだろう。
 そんなリスクを犯せるのも、皇騎が優れた術者だからと言えるだろう。
 皇騎は情報の奔流の中で、壁の隙間からそっと意識の手を伸ばした。
 隠れているばかりでは、望む情報は掴めない。
「なんだって・・・?天使・・・・?」
 切れ切れではあるが、飛び込んできた情報は断片的でつかみ所がない。
「天使の・・・試験?」
 一体何の事だろうか?


◆天使の願い事
 皇騎は、みかねと龍之助に遅れる事一日、次の日そこに立っていた。
 横には三下が。
 先日麗香にさんざんいびられていた三下は、がっくりと肩を落しヘロヘロであった。
「いいんだ・・・どうせ。どうせどうせ・・・」
 何か呟いているのが聞こえる。
 まぁ三下の望む願いは、三下には過ぎた願いだった・・・という事であろうか。
 というより、あそこであっさりと言ってしまう辺り、やはり三下というか・・・・。
 皇騎はそんな三下に苦笑しつつ、ビルのエレベーターのボタンを押した。
 そこはいたって普通のビルだった。
 天使と言う言葉など、想像できないぐらい、普通だった。
 普通すぎて、そのお店が前からここにあったかと問われれば、記憶が曖昧で判らない。
 都心の街中に佇む一見のビル。
 そのビルの三階に、妖しげな広告のお店はあった。
 やがてエレベーターが到着し、ドアが開いた。
『天使の願い事』
 ガラス張りのドアに張られている綺麗なテープで書かれている文字。
 これがお店の名前なのだろう。
 まさか、天使とはこれの事なのだろうか?
 このお店が、テストを受けているとでも?
 さして広くないビルの三階であると言うことから、店内はそんなに広くはなかった。
 ガラス張りのドアは、狭い空間を実際よりも広めに見せ、明るい照明が清潔感を与えている。
「ここが・・・広告のお店なんですかねぇ・・・」
 三下が心配そうに呟く。
 コラコラ・・・事の始めはあなたでしょう・・・・。
 皇騎はこめかみに手を当てながら、心の中で突っ込んだ―。
 一歩踏み込むと、自動ドアが開き、二人が中に入る。
 その時だった。
 突然大音量で音楽が鳴り響いた・・・・!!
 重々しく響き渡る曲。
 皇騎と三下は、何事かと辺りを見回した。
 まさか、特別なイベント・・・・?
 そう思ったものの、店内にいる店員たちも訳がわからぬ様子であった。
 皇騎はキョロキョロする三下を尻目に、油断なく構えた。
 ふと、殺気。
 幼い頃より北辰一刀流を学んでいる皇騎だ。
 自覚する前に、反射的に体が動いている。
 避ける皇騎の目の端に光るものが映った。
「うわぁ!(汗)」
 三下らしき声。
 パッと振り返った皇騎が見たものは、床に転がる三下と、光る剣を持つ少女のごとき少年であった。
 その少年、水野・想司は「ふふ」と笑って、光る剣を構えた。


◆潜入取材
 皇騎は、入り口のホールで三下と想司が大騒ぎしているうちに、するりと奥へもぐり組んだ。
 本当なら三下の横で、無料見学と称して取材するつもりだったのだが、今の状況ではそうもいくまい。
 人手のない店内を行くのは忍び込んだようでちょっと気が引けたが、止める者もなくこれ幸いと、皇騎は奥へと進む。
 店内は光源を沢山取り込む設計のせいか、明るく清潔感に溢れている。
 そんな中で、皇騎は広告主を求めて歩き回った。
 だがしばらくして、おかしな事に気付く。
 おかしい。
 おかしいのだ。
 奥から物音一つしない。
 そんな馬鹿な・・・・・誰もいないだと?
 普通の店内であるなら、いくら店の規模は小さくても、数人のスタッフがいるはずだ。
 店内にいたのは、受付に一人・・・・と、あとは?
 まさか、無人だとでも?
 皇騎は気配を探りながら奥へと進む。
 こうなったら、式神にでも探らせるか・・・。
 そう思った瞬間、白い陰が見えたようで、皇騎ははっと振り返った。
 壁の向こうに・・・白い影!
「待て・・・・!」
 手を伸ばすものの、一瞬の差で影は角へと消えて行く。
 皇騎は、影が消えた方向に向かって、走り出した。
 何度目かの角を曲がった時、差が縮みつつある皇騎は、おもいっきり手を伸ばした。
「何者だ・・・!」
 腕を・・・掴んだ!
 そのまま一気に引きずり出す。
「うわぁ〜!!」
 その人が叫んだ。
 出てきたのは、まったくの予想外の人であった。
 そこにいたのは、金髪碧眼、けぶるような巻毛を持った青年だったのである。
 その背には、大きな白い翼が。
 むろん、ニセモノではない。
 あせって羽をばたつかせた青年は、羽を数本散らしていた。
「あなたは・・・一体?」
 予想外の人物に、皇騎は呆然と呟くのだった。
 まさか・・・天使?


◆天使出現
「あの・・あの・・あの・・・!!すいません!失敗しちゃって・・・次こそはちゃんとやりますから・・・!」
 その人は、泣きそうな声で叫んだ。
「あの・・・何の事でしょうか・・・」
 皇騎には何がなんだか判らない。
 その時だった。
「宮小路さん・・・!!」
 明らかに性別の違う二つの声が響いて、表から人が走ってくるのが見えた。
 それはみかねと龍之助であった。
「あの・・・昨日の事なんですけど・・・・・!!」
 走ってきた反動で、息をきらせたみかねが叫ぶ。
 その横ではやはり龍之助が叫んでいた。
「大変ッスよ!三下さんが・・・!!」
 だが、二人とも皇騎の前に居る人物に動きを止めた。
「あの・・・この人、だれッスか・・・?」
 龍之助が指差して言う。
「さぁ・・・・?」
 こっちが知りたい。
 本当にそう思って、皇騎は首を傾げた。
 三人は、今にも泣きそうなその人を見つめた。
 目立つ金髪碧眼もさることながら、一目で常人じゃないと判る背中の羽。
 まるで天使のようではないか・・・・?
 そう思った人は数知れず。
 しかも、おえつらえむきに、白いローブのようなものを纏っている。
 幾重にも重なったローブの奥から出した手を握り締めると、その人は言った。
「すいません・・・!すいません・・・!ほんと・・・ごめんなさい!」
 一体何をあやまっているのか・・・。
 それよりも、今にも泣きそうな青い瞳に、三人は呆然と顔を見合わせたのだった。


◆天使の正体
 目の前のその人は、懇願するように両手を合わせていた。
 澄んだ蒼の瞳は美しく、日本人にはあり得ない陶器人形のように白く透き通った肌。
 あわせた両手も、細く繊細。
 なによりも、毛ぶるような金髪がまるで作り物のように儚くて、どこか人形を思わせた。
 そして、その背には大きな翼。
 純白の翼は、ニセモノではない証拠に、青年の意思で動いているようであった。
 時折パサリと動き、羽を撒き散らす。
 幾重にも纏ったローブは、青年の全身を隠し、身長さえ判らない。
 黙っていれば立派な美形だが、何かずれているような気がする。
「あなたは・・・・・?」
 ただ者ではないと一目で判るその人。
 一体何者なのか?
「失敗?次?」
 三人は顔を見合わせた。
 何を言っているのだろう?
「あの・・・・実は私、見習い天使のアシャと申します」
 今にも泣きそうな顔をしていたかと思うと、にっこり笑ってアシャと名乗ったその青年は言った。
「見習い天使?」
「はい♪」
 アシャは、嬉しそうに頷いた。
「以後お見知りおきを♪」
 ペコッお辞儀をする。
 その様子は、悪びれたところもなく、無邪気で素直であった。
「それで・・・・そのアシャさんが、なんでここにいるッスか?」
 半ばあっけに取られた龍之助は、思わずアシャを指差して言う。
 なんでアシャが?
 というより、なんで天使が?
 凍結した思考の中で、皇騎とみかねも龍之助の問いに激しく同意した。
「えーっと・・・それが・・・」
 その話題になった途端、アシャの元気が無くなった。
 しょぼんと目を落すと、指を指を擦りあわせてすねたように口篭もる。
「それが・・・・・ごにょごにょ」
「それが?」
 皇騎が問い返すと、またもやアシャはうっと口篭もり黙り込んでしまった。
 たが、みんなの視線に、恐る恐る顔をあげる。
「それがですね。実は・・・・私、落ちこぼれ天使で・・・追試なんです・・・」
「え・・・?」
 みんなが耳を疑った。
 追試?
「って・・・追試!???」
 呆気に取られてアシャを見つめる。
「あの・・・追試って言ったら・・・試験ですよね?どんな試験だったんですか・・・?」
 みかねがそろそろ始まるであろう、期末試験を思って問いかけた。
 あれを勉強して、これも。
 赤点なんて取りたくない。
 それはみんな同じだ。
 では、この天使は一体どんなテストで赤点を取ってしまったのだろう・・・?
「えと・・・・その、昇格試験だったんですけど・・・。これに受からないと、一人前の天使になれなくて・・・・!!」
 目の端に涙をためて、アシャは言った。
 天使に昇格試験?
「羽はあっても、一人前じゃないって事ですが・・・」
 皇騎の言葉に、アシャは「そうなんです〜」と頷く。
「天使にも試験なんてあるんっスねー。あれ?って事は・・・あの広告は・・・?」
「広告。はい。そうです・・・私です。人の役に立つ・・・というのか追試の内容で・・・・。願い事をかなえる、というのが一番手っ取り早いかと思って・・・・。」
「じゃ・・・あの願い事は」
 みかねが言うと、アシャは今にも泣きそうな声で叫んだ。
「すいません・・・!!失敗しちゃって・・・!やっぱり・・・私、だめ天使なんだ・・・!」
 泣き出したアシャを尻目に、龍之助とみかねはショックで立ち尽くしていた。
 じゃ、あの願い事は、叶わないのだろうか?
 た、楽しみにしてたのに・・・・。
 こっちが泣きたい気分だよ。
 そう、頭を抱えたのだった。


◆その後
 今回の一件を手早くレポートに纏めると、皇騎は麗香に手渡した。
 すっきりはっきりと整えられたレポートは、詳細でなお判りやすい。
 そんな皇騎のレポートに、麗香はにっこり微笑んだ。
「ありがとう。面白い記事になりそうだわ」
「いえ・・・麗香さんにそう言っていただけると、私もうれしいですよ」
 クスリ・・・と笑って皇騎は言う。
「すこし・・・意外な結末になりましたが」
 背後に見習い天使がいたなどと、誰が予想しただろう・・・・?
 さすがの皇騎もそこまで予想は出来なかった。
「あら、だからこそ面白いんじゃない。いつも同じだったら、つまらないわ」
 麗香はあっさり言う。
「・・・・・・」
 確かに、そうかもしれない。
 なんだか鼻を明かされたみたいで面白くない皇騎だった。
 そういえば・・・・。
 皇騎は今更ながら、願い事を何も考えてなかった事に気付いた。
 麗香さんの鼻を明かして、優越感に浸る・・・なんていうのはどうでしょうね・・・。
 我ながら意地が悪いと、思わず苦笑してしまうが。
 その時だった。
 まるで誰かに教えられたかのように、ふと閃いた。
 まさしく改心の一撃であった。
「そういえば・・・それ、何号のアトラスに乗るんです?来月号なら、早くしないと間に合わないんじゃないですか?」
 何気ない一言だった。
 だが効果覿面。
 麗香は一瞬にして凍りついた。
「そ、そういえば・・・・・!今すぐやらないと間に合わないじゃない!!」
 慌てて原稿をかき集め始めた。
「ちょっと・・・!誰か!!」
 途端、編集室が慌しくなりはじめる。
「では・・・そろそろ私は失礼しましょうか・・・・」
 そんな麗香の様子に、苦笑する皇騎の目の前に、一枚の白い羽が。
 そっと手を伸ばすと、羽は皇騎の手に落ちた。
 鳥にしては大きな羽。
「まさか・・・・」
 浮かんだのは、アシャの背にあった翼だ。
「なかなか粋は事をするじゃないですか・・・」
 慌てる麗香に感じる微かな優越感。
 確かに願いは叶ったといえるだろうか?
 クスリと笑うと、皇騎はそのまま部屋を出たのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0218/湖影・龍之助/男/17/高校生
 0249/志神・みかね/女/15/学生
 0424/水野・想司 /男/14/吸血鬼ハンター
 0461/宮小路・皇騎/男/20/大学生(財閥御曹司・陰陽師)

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■         ライター通信          ■
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 ども、こんにちは。ライターのしょうです。
 今回大変遅くなりまして申し訳ありませんでした。
 『天使の願い事』、お届けしたいと思います。

 みかねさんは四回目、想司くん二回目、そして龍之助さん、皇騎さんは始めまして。
 数ある依頼の中から選んでいただき、ありがとうございました。
 今回、結末はこんな感じになっておりますが・・・いかがでしたでしょうか?おちこぼれ天使のアシャは、皆様の役に立てたでしょうか・・・・?
 ちなみにNPCである天使のアシャは、また機会があったら出してやりたいなっと思っておりますので、皆様に呼んで頂ければ喜んで参上してくれると思います。
 ただ、おちこぼれなので、なにをやらかすか判りませんが・・・・(^^;

 ご感想等、ここが違うなどでもOKですので、今後の参考にも気軽にご意見いただければ幸いです。
 では、また別に依頼でお会い出来る事を祈って・・・・。