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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『誰か』へのメッセージ

<オープニング>

『死にたい』と。
いつしか思うようになっていた。

『死にたい』
けれど『生きたい』とも思う。

ねえ。
「生きる」とは、なんだろうか?

……そのような書き込みが、ある日掲示板に書き込まれた。
ハンドルネームは「咲哉」
それとメールアドレスが記載されている。

ぐらぐらと「生死」の境を彷徨う心。

もし誰か、この人物の自殺を止めようと思うのならば。
どうか助けてあげて欲しい。


<何故?>

室内に散らばる紙。
色々な言葉が書きなぐられているそれは、大雑把に破かれていた。
その上に広がる手足はすんなりとしていて細い。
長く広がる茶色い髪も女性と見まがうかのようである。
ただ、瞳だけがそれらを裏切るかのように強い光を帯びていて
外見で見た人物らには痛い思いをさせてきたのだろうと思うことが出来る。

少年の名は「月見原・轍哉」
つい最近、東京へ越してきたばかりの少年である。

床に散らばる紙は別に大した意味も無くやった。
苛ついているのではない。
かといって静かにしているのも面倒。
暴れたいのに暴れられない衝動を紙にぶつけたに過ぎない。

どうして、苛つくのだろう。
何故暴れたいと思うのだろう。
何故?

(理由がわかりゃ苦労、せぇへんけどな)

苦笑まじりに心の中で呟く。

そんな時にネットで見つけた一つの書き込み。

少年か少女か、老人か、それとも……いいや、そんな事はどうでもいい。
一番に重要なのは自分がそれに興味を持ったか、ということだ。

そうして轍哉はキーボードを叩く。
慎重に言葉を選びながら。

『咲哉』へ。
……「生きる」ってな、それだけですげぇエネルギー使うことやし、
誰かて何かしらの「生きる意味」にしがみついてヒィヒイ言ぅて生きとるのが現状やと思う。
そやから、しがみつけるモンが無くなった時、ふっと「……もう死のうか……」思うんは、
別に変な事や無い、思うな。 
……それでももし、まだ「生きたい」思う気持ちあるんやったら、「死ねない理由」探したらどうやろ。
それ探しとる事自体も、充分「死ねない理由」にぁなるしな。 
……私事やけど、俺も両親死んで、自分も一緒に死にかけて……そん時の親の死んだ顔、
ずっと頭にあるんや。あれ思い出す度、「少なくとも自分で死ぬわけにぁいかんなぁ……」って思うわ。
……ま、別にこンな陰気な理由やのぅても、誰かの為、好きな何かの為、
自分の目的の為……何かしら「死ねない理由」見つけた奴ぁ、そンだけで幸せやろな。
咲哉が何か「理由」探せる事、祈っとるで。 
……『轍哉』


<理由も無く>

新宿。
歌舞伎町内にある一つのクレジット会社に「深奈・南美」は勤めている。
毎日は、単調に過ぎていく。

時折、自分の容姿が男性めいていることからホストに勧誘されたことや
女性からナンパされたりと面白いことも時にはあるけれど、
仕事をこなせば労働時間は過ぎるし何かで時間を費やせば一日が終わる。
そういう毎日だ。

動じもせず怒りもしない、彼女が見つけた一つの書き込み。

…なんだろうか、これは。
わざわざ、止めて欲しいのか?
死にたいなら死ねばいい。
どうしてこのように書かなければいけないのだろう?
誰か止めてくれると信じているのなら大した甘えん坊だ。

だから、だろうか?
南美は休憩時間に入った途端、この人物にメールを送るべくキーを叩く。
何処と無く醒めた視点で。

『……理由も無く死にたいとか思うなよ』

彼女が書いたメールは言外にそう、伝えているようでもあった。

死にたいなら死ねば良い。少なくとも俺は止めはしない。
生きたいなら生きれば良い。止めはしない。俺はこうしろなどと言うつもりも無い。
生きたければ生き、死にたければ死ねば良い。こんなところに書き込みなどして、
まるで私を止めてくださいと言わんばかりだな。
そんなことをしてお前の中に何が残る?そんなことをしてお前のためになるか?
所詮、生きるか死ぬかも自分で決められん様なやつが。
だが、お前は決めているんだ、無意識のうちに。お前は生きることを選んでる。
死にたいと思っている時間はお前は生きてるんだ、少なくとも。
本気で死にたいと思ったら、もう心の準備は出来ている筈だ。迷っているうちはお前はまだ生きてる。
生きてるうちに迷っておけ、後悔は年をとってからでいい。生きることは迷うことだ。
最後に、お前の生を繋ぎ止める言葉が見つかると良いな。



<目指すものがあるのなら>

何処にでも闇が潜むように、そして魔を祓う者が今まで居たように。
「真名神・慶悟」は陰陽師として、ここ東京で働いていた。
髪を金色に染めていて、パッと見はとてもじゃないが陰陽師には見えない。
だがそれでも、彼の術師としての能力は高かったし依頼をしてくる人も後をたたなかったりする。

そんなこんなで日々を過ごしていた彼が、少しばかり休憩、とネットを
彷徨っているときに見つけた一つの書き込み。

「死にたい、か」

だが―――死んでどうなる?
迷うのならば戻るべきだ、今居る場所がたとえ嫌なものでも醜くても。

そうして彼も言葉を打ち込んでいく。
少しばかり、クサいかもしれないが色々とどう伝えたものか考えながら。

人は生きる事が楽しくなくなった時、辛い事があった時に兎角…生きる事の意味を考える。
だが実際の所…生まれながらにして意味を抱き、宿命を負ったものなどそう居やしない。
大抵の者はそんな事は意識せず日々を重ね苦痛や享楽を得、知識や経験を帯び、
それを雑多に繰返し生きていく。何があったかは敢えて訊かないが、俺はこう考える。
何の為に生きているかは、自分がその瞬間に達した時でなければ決して気付く事はない。
だから、その瞬間を得る為に生きる、とな。その瞬間は一時だけじゃない。
幾らでも、どこにでもあり、きっかけは様々だ。お前がこうして問うた事にさえ意味はある。
ここで皆にかけられた言葉や、皆の気持ちを先ずは考えてみる事だ。
月並みな上、クサくて恐縮だが、足許にあるどんなちっぽけなものでも何でもいい。
手の届く範囲でも構わない。
様々なものに触れ、自分の為の何かを見つけられればその意味は自ずと…解る


<全て探すものなれば>

都内某所にあるインターネット・カフェ。
どういうわけなのか今日は学校へ行く気分にもならずに「鈴木・八咫郎」はここに来ていた。
…まあ大概妙なものに出くわすときは学校へ行きたくなくなる―――いつもではないが―――のだが。

(さて、今日はどんな事に遭遇しますかな?)

楽しそうに笑いながら―――と言ってもミラーシェードをつけているため
本当に楽しそうに笑ってるかは定かではないけれど、八咫郎はゴーストネットでの書き込みを探し始めた。

「………ふむ」

一つの書き込みを八咫郎はじっと見つめた。
ハンドルネームと、メールアドレス。
…メールアドレスがあると言うことは、何か言葉を送って貰いたいと言う事なのだろうか。

…ここ最近はネットでメールアドレスを公表するのは色々と
危険なことも多くあると言うのに。

それとも…その事を知らないのだろうか。
どちらにせよ、この人物に興味を持った八咫郎は今まで誰もがキーを叩きメールを送ったように
同じように言葉を選び始めた。
全て自分で探すものなればこそ、悩みもあるのだと考えながら。


『咲哉』殿へ
……生きる意味、なるモノをネット上で問うておられましたが……いやはや、
難しい質問ですな。正直、あたしも「探し中」なモノでね……咲哉殿に対する答えにはならんのですが……。しかし、「意味」を探そうとしておられるだけ、咲哉殿は良い人とお見受けしますな。
ほれ、周りに居ませんかな?ただ生きてるだけ……生きた屍みたいな人が。
「生きる意味」は各自で見つけるモノでしょうし、その中身も百人居れば百通り
あるようなモノですからな……。
(あたしなんざ、「自分なりの意味」は見つけたつもりでも、ソレに向かって
生きていくのに邪魔が多すぎてねぇ……いやはや……)
それでも、咲哉殿が死ぬ前に、生きる自分なりの意味を見つけられる事を、
現実世界のあれこれに追いまわされているあたしとしては、願わずには居られませんな。
……『八咫郎』


<機械の向こう>

………眠い。

『咲哉』は、そう思いながら布団から起き上がった。

学校……何日、行ってなかったろう?
いいや確か昨日行った筈だ。
昨日、行って確か…自分の机の上に花が飾られていたっけ。

「死体が今頃学校へやってきた」

そんな台詞を誰かから―――確か先生だったような気もするけれど
クラスメイトだったかもしれない、定かではないが―――言われて「死体なら、僕が誰を殴ったとしても
痛くは無いだろう?」と殴り返して家へ戻ってきた…筈だ。

全てがつまらない。
学校へ行くこともこうして息をしていることも時に止まってしまえとさえ
思うほどのことがある。
なのに、生きている。
死んでしまいたいと思うのに、生きている。
意味など無い。
与えられるものを食べて眠り、無意識の呼吸を繰り返す日々。
吸っては吐き、吐いては吸って。

そんな中で唯一の救いだったのがインターネットだ。
泣き言めいたことを書いてしまったが、どのようなものが返ってくるのか知りたくて書き込んだ。
その答えがたとえ「馬鹿」だろうが「死にたきゃ死ね」であろうが
自分以外の誰かが、この電子機械の前に居る―――その証明だとすら思えた。

そうして、咲哉はメールをチェックする。
震える手で、いつものように「何か」に対して救いを求めながら。


<届くモノ、謳うコトバ>

『届いたか?』

メールを咲哉に送った4人は場所を異にしながら、ふと思う。

生きていくことは、何かを求めながら選び取っていくことだ。
死なないように理由を求めて足掻く事だ、と轍哉は思う。
日々、何かに苛立つことがあったとしても足掻いて足掻いて得られる理由なら、それで良い。

『誰も居らんとしても決して一人じゃないから』

空を見上げる。
青く晴れ渡った―――東京にしてはこの空の色なら青い方だろう―――に
一羽の鳥の姿も雲もなくただ陽が差している。
空は、何処にでも繋がっている。

そして南美は言葉をかけて欲しがっていた人物に対しただ考える。
全て自分のような人物ばかりでない事に。
あの時はふと弱さばかりが目に付いて居たけれど、確かに見ていると世界には弱い人が溢れている。
だからこそ言葉を欲するのだと送った後で―――気付いた。

『弱さは悪いことじゃない、だが弱いだけでは始まらない』

悩むことも悔やむことも後だ。
出来うることしか人は出来ないのだから。

緩やかに風が吹いた。
無風だった筈の空間から、まるで空気を動かすかのように風が入る。

全て、この瞬間にさえ答えがあると慶悟は考える。
無数にばらまかれた色々なキーワード。
考え迷う時間にすら全てに答えがあると。
会いに行くことも出来ないし話を聞くことも無理。
書き込まれた言葉の返信を待つばかりだが何度も彼は見えない人物に向かって祈る。

『迷っても構わない、その分だけ答えを誤るな』と。

そして、風は地に舞った。
一片の紅葉が、まるで行く手を案内するかのようにひらり、ひらりと舞い続ける。

自然の時として不思議な光景に八咫郎は微笑んだ。
探している途中、見つけているのに動けない彼にしたら自然のあるがままの
動きは何よりも羨ましいものである。

『あるがままに、全てを受け入れられる場所』

生まれてきたからには必ずそのような場所が一つはある筈だと思う―――いや、思いたい。
だからこそ、見つけるのに苦労して人は何かを目指してる…んじゃ無いかと思う。

(とはいえ、中々これが難しいものだと解っちゃ居るんですがね)

だから、戦うのだ。
目に見える武装ではない、心の内部の武装によって人は足掻く。


それぞれの想いは謳う。
時に何かを動かす力にも、なりえながら。


<問いに対する答え>

(…………………)

沈黙。
黙っていると聞こえるのは、パソコンが出す駆動音だけ。
それに時折自分の息が混じる。

確かに自分は此処に居る。

そうして、何処の誰とも知らぬ自分のためにこの向こうからメールをくれた人たちも
きっと、何処かに居る。
今まで、そう思っていたが本当に自分はそれを信じていただろうか?
頭では理解していた、けれど頭のみでの理解ではなかったか?

『見つけりゃいい』
『死にたいなら好きにしろ、俺は止めん』
『こうしている間にも生きてるということだ』
『お優しいのでしょうな』

色々な言葉たち。
人によって違い、またこれこそがきっと自分以外の人が居るのだという無言の回答に他ならない。

死にたいと思っていたけれど。
生きていて。
いつもそれこそが本当に不思議だった。
何故死ねないのかと。
迷うことなど何も無い筈なのに。
傍には、いつも自分を切り裂くことが出来るように研がれた刃物だってあったのに。

だが―――そうかと思う。

こうして、生きているのは死ねないのは、何よりも自分の中で死ねない物があるからだと。
ただ、気付いていなかっただけ。

逃げ場所を「死」に求めていただけ。

そのままでは、きっと変わることすら出来ない。
自分を『死人』だとどうでもいいような目で見るような彼らとまるで変わりが無くなる。
同じ、ではないのだ。
誰も彼もが。

息をついた。
何度も何度も、貰ったメールを読み返して漸く『咲哉』は掲示板へと書き込む。

短く、一言。


『ありがとう』―――と。


<日々、是日常>

(………お)

後日、4人はネットにて『咲哉』の短い書き込みを見つけた。
ありがとう。
言葉は短いけれど何より雄弁なその言葉に皆一様に微笑う。

違う生活、違う時間をそれぞれ懸命に生きている。
同じ「東京」と言う場所で。

轍哉は今日も、中学へかったるいと思いながらも行き、また
八咫郎も高校生活―――いや、彼の場合学生であると言うことすら
一つの探索かもしれないが―――を謳歌する。

そして慶悟と南美は今日も仕事や修練に余念無く取り組む。
これが日々をきちんと過ごせる事だと知っているから。

本当に通常の、普通ともいえる日々。

だが本当は。
『普通』に過ごすことが一番何よりも難しい。

だから。

迷ったって悩んだって大丈夫。

自分が自分に負けたりしなけりゃそれで充分。

それは姿無き『誰か』への―――声無き言葉。
『誰か』へのメッセージ。





―End―

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 20 / 陰陽師】
【0892 / 月見原・轍哉 / 男 / 14 / 中学生/重力使い】
【1011 / 鈴木・八咫郎 / 男 / 17 / 高校生】
【1121 / 深奈・南美 / 女 / 25 / 金融業者】
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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちは♪
へっぽこライター秋月奏です。

今回は依頼「誰かへのメッセージ」に参加してくださり有難うございました!
実験と言うか、何と言うか…な感じですがこういう風に人の心の
迷いを解決していく話があっては良いかと思いましてこのように
なりましたが如何でしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

今回、皆様初めての参加の方ですね。
秋月は、基本的に書くのが怖くない幽霊だったり妙な陰陽師のNPCが
いたりとか、こういう系統の話を書いていますが何かがお気に召して
頂ければ本当に嬉しいのですが。(汗)

真名神さんのプレイングは、本当に優しくってパソコンの向こうに居る
誰かに対しての応援と言う感じで心にしみました。
優しいと言うことは、強さをも兼ね備えるのかもしれないと考えたりして。
参加、本当に有難うございました(^^)

では、また何処かで会えることを祈って。